CO2の 吸 収 率 からみた 日 本 の 山 林 の 現 状 青 木 一 郎 Ⅰ 森 林 に 関 する 京 都 議 定 書 の 内 容 1. 平 成 9 年 (1997 年 )に 京 都 で 気 候 変 動 枠 条 約 第 3 回 締 結 国 会 議 (COP 3)が 開 催 され 京 都 議 定 書 が 全 会 一 致 で 採 択 された 京 都 議 定 書 は 平 成 20 年 (2008 年 )から 平 成 24 年 (2012 年 )までの5 年 間 における 温 室 効 果 ガス 排 出 量 の 各 年 の 平 均 を 原 則 として 基 準 年 である 平 成 2 年 (199 0 年 )の 水 準 と 比 較 して 先 進 国 全 体 で 少 なくとも5% 我 が 国 については6% 削 減 することを 定 めている その 中 で 森 林 による 二 酸 化 炭 素 の 吸 収 量 を 温 室 効 果 ガス 削 減 目 標 の 達 成 手 段 として 参 入 できるものとしている ただし 平 成 2 年 (1990 年 ) 以 降 新 たに 造 成 された 森 林 ( 新 規 植 林, 再 植 林 ) 及 び 適 切 な 森 林 経 営 が 行 われたも 森 林 による 吸 収 量 に 限 られている 我 が 国 においては 既 に 多 くの 森 林 が 造 成 されており 新 たに 造 成 される 森 林 は 限 られていることから 森 林 経 営 が 行 われている 森 林 の 吸 収 量 で 1,300 万 炭 素 トンを 確 保 することが 必 要 である 2. 我 が 国 における 地 球 温 暖 化 防 止 対 策 の 推 進 この 計 画 は 我 が 国 の6% 削 減 の 達 成 に 向 け 1,300 万 炭 素 トン(4,767 二 酸 化 炭 素 トン 基 準 年 総 排 出 量 比 約 3.8%) 程 度 の 森 林 による 吸 収 量 で 確 保 するこ とを 目 標 としており 森 林 吸 収 源 は 我 が 国 の 温 暖 化 対 策 において 特 に 重 要 なも のとして 位 置 づけられている この 地 球 温 暖 化 防 止 森 林 吸 収 源 10カ 年 計 画 の 主 な 内 容 を 見 ると 1 健 全 な 森 林 の 整 備 2 保 安 林 等 の 適 切 な 管 理 保 全 等 の 推 進 3 木 材 及 び 木 質 バイオマス 利 用 の 推 進 4 国 民 参 加 の 森 林 づくり 等 の 推 進 5 吸 収 量 の 報 告 検 証 体 制 の 強 化 などがある 3. 森 林 吸 収 源 対 策 の 加 速 化 の 必 要 性 我 が 国 の 森 林 の 面 積 2,500 万 ha で このうち 約 40%が 人 の 手 により 造 成 維 持 されている 育 成 林 であることから 適 切 な 植 栽 間 伐 等 の 森 林 整 備 を 行 う ことにより 森 林 経 営 の 対 象 となる 森 林 を 増 加 させていくことが 重 要 である 1
しかしながら 林 野 庁 において, 最 新 データ 等 に 基 づき 現 状 程 度 の 水 準 で 森 林 整 備 等 が 推 移 した 場 合 について 試 算 したところ 森 林 吸 収 量 の 目 標 である 1, 300 万 炭 素 トンを 確 保 するためには110 万 炭 素 トンが 不 足 している この 不 足 分 を 確 保 するためには 平 成 19 年 度 から 平 成 24 年 度 までに 毎 年 20 万 ha の 追 加 的 な 整 備 が 必 要 となっており 対 策 の 加 速 化 が 急 がれる 状 況 にある 4. 森 林 による 炭 素 吸 収 と 循 環 ア 森 林 は 樹 木 と 土 壌 の 両 方 によって 大 量 の 炭 素 を 吸 収 し 貯 蔵 している 開 発 行 為 や 大 規 模 な 皆 伐 によって 森 林 が 消 失 すると 樹 木 だけでなく 土 壌 中 の 炭 素 が 大 気 中 に 放 出 され 二 酸 化 炭 素 等 が 増 大 する イ 土 壌 中 の 炭 素 量 は 長 期 的 に 変 化 が 少 なく 特 に100 年 程 度 の 短 期 間 で はほとんど 変 化 がないとされている 森 林 の 保 全 は 安 定 的 な 炭 素 貯 蔵 庫 とし て 土 壌 の 保 全 にもつながる ウ 日 本 国 内 の 人 工 林 と 天 然 林 の 炭 素 吸 収 量 を 比 較 すると 人 工 林 が 天 然 林 の 2 倍 程 度 となっている 杉 やヒノキ 等 針 葉 樹 の 人 工 林 の 炭 素 吸 収 量 が 高 いため とされている Ⅱ 世 界 の 山 林 について FAO( 国 連 食 糧 農 業 機 関 )2001 年 に 発 表 した 最 新 データによると 世 界 の 森 林 面 積 は 約 38 億 6900 万 ha 陸 地 面 積 のほぼ 3 割 を 森 林 が 覆 っている 森 林 面 積 の 4 割 以 上 は 熱 帯 林 で 農 業 開 発 や 無 秩 序 に 行 われる 焼 き 畑 農 地 や 牧 場 への 転 用 過 放 牧 薪 炭 材 の 過 剰 伐 採 と 先 進 国 による 木 材 の 輸 入 増 など が 原 因 で 毎 年 約 1,000 万 ha のスピードで 減 少 している また ヨーロッパで は 大 気 汚 染 などの 影 響 による 森 林 被 害 が 拡 大 している このような 森 林 の 減 少 の 結 果 森 林 の 保 水 機 能 が 失 われたりして 洪 水 や 干 ばつなどの 災 害 が 起 こりやすくなったり 砂 漠 化 が 進 行 したり さらに 二 酸 化 炭 素 が 吸 収 されなくなって 地 球 の 温 暖 化 を 加 速 する 一 因 となっていると 指 摘 されている その 他 熱 帯 林 の 減 少 によって 野 生 生 物 の 絶 滅 といった 生 態 系 へ の 悪 影 響 が 懸 念 されている 特 に 熱 帯 地 域 の 天 然 林 ( 熱 帯 林 )については 1990 年 から 2000 年 までの 10 年 間 で 平 均 1,420 万 ha が 減 少 したと 推 測 されているが これは 日 本 の 本 州 の 3 分 の 2 に 相 当 する 熱 帯 林 の 面 積 が 毎 年 消 失 したことになる Ⅲ 日 本 の 山 林 について 1. 日 本 の 森 林 面 積 林 野 庁 の 業 務 資 料 によると 日 本 の 森 林 面 積 は 日 本 の 国 土 約 3,800ha の 約 7 2
割 を 占 めているといわれ その 総 面 積 は 約 2,500 万 ha で 人 工 林 は 約 1,000 万 ha 天 然 林 は 1,338 万 ha となっている 人 工 林 の 樹 種 をみると 針 葉 樹 が 大 半 を 占 め 杉 が 57.6% 檜 が 20.5% カラマツ9.15%でこの 3 樹 種 で 全 体 の9 割 近 くを 占 めている 一 方 天 然 林 の 樹 種 は 広 葉 樹 が 全 体 の 72%を 占 めており ブナ ナラ 等 を 始 めてする 多 様 な 樹 種 構 成 となっている 2. 日 本 の 森 林 の 所 有 形 態 日 本 の 森 林 面 積 の 約 6 割 は 個 人 や 企 業 などが 所 有 している 私 有 林 で 人 工 林 ではさらにこの 比 率 が 高 くなっている 民 有 林 の 所 有 形 態 をみると 2000 年 度 の 概 数 で 林 家 所 有 が 約 47% 会 社 所 有 が 約 13% 社 寺 所 有 が1% 共 同 所 有 が 4.5% 各 種 団 体 組 合 所 有 が 約 3% 慣 行 共 有 が 約 9% 市 町 村 所 有 が 約 9% その 他 都 道 府 県 地 方 公 共 団 体 地 方 公 共 団 体 の 組 合 等 非 常 に 多 く の 所 有 形 態 である しかし 個 々の 所 有 面 積 をみると 欧 米 に 比 べその 規 模 は 極 めて 小 さいといえる 3. 民 有 林 の 造 林 民 有 林 で1 年 間 に 造 林 が 行 われた 面 積 は 1965 年 度 ( 昭 和 40 年 ) 以 降 減 少 の 一 途 を 辿 っている 1965 年 度 には 約 28 万 ha の 造 林 が 行 われたが 2000 年 度 ( 平 成 12 年 )の 実 績 は 約 3 万 ha に 止 まっている 4. 民 有 林 の 保 育 下 刈 り 除 伐 間 伐 などの 保 育 が 行 われている 面 積 も 造 林 面 積 の 減 少 に 伴 って 減 少 している 下 刈 りについては 1986( 昭 和 61 年 ) 年 には 52 万 ha で 実 施 されたが 1966 ( 平 成 8) 年 の 実 施 面 積 は 27 万 ha に 落 ち 込 んでおり 10 年 間 で 半 減 したこと になる 5. 民 有 林 の 間 伐 間 伐 実 施 面 積 は 1993( 平 成 5)~1997( 平 成 9) 年 の 5 年 間 で 年 平 均 約 21 万 ha 実 施 されている 健 全 な 森 林 を 維 持 するために 間 伐 の 重 要 性 が 指 摘 されて いるが 実 施 面 積 は 伸 び 悩 んでいる 間 伐 が 進 んでいない 理 由 ア 森 林 所 有 者 が 間 伐 を 実 施 していない 最 大 の 理 由 は 作 業 経 費 が 負 担 になる こと( 経 済 的 理 由 )で 木 材 価 格 が 低 迷 しているため 間 伐 材 を 売 却 しても 伐 採 作 業 や 林 内 から 搬 出 運 搬 の 経 費 等 が 賄 える 収 入 が 得 られない 3
イ 間 伐 材 は 一 般 的 に 太 さや 強 度 の 点 で 主 伐 材 に 比 べて 使 い 途 に 制 限 がある ため 引 き 取 り 手 が 少 なく 売 買 価 格 も 安 い 売 れない 間 伐 材 は 林 内 に 伐 り 捨 てられたままの 状 態 になっている 森 林 資 源 を 有 効 に 利 用 する 上 でも 間 伐 材 の 用 途 拡 大 が 緊 急 の 課 題 である ウ 間 伐 材 は 森 林 で 曲 ったり 生 育 の 悪 いものを 間 引 くために 行 われるため 成 木 の 間 を 引 き 下 ろすため 非 常 に 労 力 を 必 要 とする 作 業 である 6. 日 本 の 山 林 と 王 子 製 紙 等 が 行 っている 外 国 の 山 林 の 相 違 点 ア 日 本 の 山 林 日 本 の 地 勢 は 山 が 深 く 人 工 林 といわれる 森 林 として 使 用 利 用 されてい る 面 積 は 森 林 面 積 の40% 程 度 である 人 工 林 の 樹 種 を 見 ると 杉 檜 カ ラマツの 3 種 で 9 割 を 占 めており これらの 樹 種 の 生 育 年 齢 を 見 ると 植 林 後 60 年 から 80 年 といわれている 戦 後 昭 和 20 年 代 に 植 樹 された 植 林 は 主 に 国 有 林 が 多 いが これから 伐 採 期 に 入 るが この 当 時 に 植 栽 された 山 林 は 山 の 奥 深 いところに 植 栽 されたものが 多 く 現 在 では 伐 採 運 搬 等 に 多 大 な 費 用 がかかるため 利 用 できないところがある 民 有 林 は 所 有 面 積 が 狭 く 樹 種 が 多 様 で これも 山 から 林 道 までの 間 に 他 の 民 有 地 を 通 らなければならな いなど 地 理 的 条 件 と 労 働 力 不 足 で 森 林 の 有 効 利 用 が 出 来 ないでいる 間 伐 や 枝 おろし 等 で 切 られた 木 々は 山 中 に 放 置 されている * 日 本 の 山 林 は 山 が 急 峻 である * 森 林 への 道 路 がない あっても 狭 い * 森 林 から 製 材 所 等 が 遠 い * 生 産 地 と 需 要 地 とが 離 れている * 労 働 力 がない * 計 画 的 な 育 林 保 安 が 出 来 ない * 外 国 産 の 木 材 の 輸 入 で 国 産 材 が 売 れない イ 王 子 製 紙 等 が 行 っている 外 国 での 植 林 王 子 製 紙 では オーストラリアやニュージーランド 等 で 広 い 平 坦 な 土 地 を 年 次 的 に 計 画 的 に 植 林 育 林 伐 採 等 を 行 っており 製 紙 用 材 では 5 年 か ら 15 年 程 度 で 伐 採 している 樹 種 は ユーカリやアカシアが 一 般 的 である 伐 採 された 丸 太 は まず 製 材 用 材 ( 太 くてまっすぐな 丸 太 ) 製 材 用 材 には 使 えないパルプ 材 ( 細 いか 曲 がっている 丸 太 )に 分 けられ それぞれの 用 材 に 加 工 されている この 際 に 出 る 樹 皮 やおがくずは 工 場 で 使 用 するボイラーの 燃 料 として 活 用 している 育 林 等 は 当 地 の 組 合 に 委 託 管 理 が 行 われている 区 画 の 周 囲 には 広 い 道 路 があり 管 理 が 十 分 に 行 われている 上 非 常 に 温 4
暖 であることから 生 育 が 早 い 等 日 本 とは 格 段 の 条 件 が 異 なっている Ⅳ 終 りに 京 都 議 定 書 の 実 質 的 運 用 を 行 う 時 期 を 前 に 森 林 による 日 本 の CO2 の 削 減 量 は 全 体 量 6%のその 約 6 割 5 分 に 当 たる 3.8%となっているが 日 本 の 山 林 の 現 状 からみてどのようになっているかについて 検 討 してみた 日 本 の 人 工 林 の 面 積 そこで 行 われている 育 林 枝 打 ち 間 伐 等 の 保 林 等 の 実 態 を 見 ると 森 林 による 吸 収 量 を 維 持 することはかなり 難 しい 状 況 と 考 えら れる 林 野 庁 から 出 さ 環 境 カウンセラー れている 森 林 林 業 白 書 によると 健 全 な 森 林 を 育 てる 力 強 い 林 業 木 材 産 業 を 目 指 してとあるが 美 しい 日 本 の 国 土 を 守 りながら CO2 の 吸 収 を 十 分 行 うことができる 山 林 とは 何 かを 考 えな がら 我 々は 進 んで 行 かなければならない < 参 考 資 料 > 林 野 庁 の 関 係 者 日 本 森 林 組 合 連 合 会 王 子 製 紙 KK 北 越 製 紙 KK 栃 木 県 の 森 林 組 合 関 係 者 東 洋 パルプ KK 間 伐 材 から 作 るパルプ 製 造 凸 版 印 刷 KK 岡 山 広 島 の 山 林 八 王 子 の 山 林 林 野 庁 平 成 19 年 度 版 新 林 林 業 白 書 日 本 林 業 調 査 会 すぐわかる 森 と 木 のデータブック 2002 王 子 製 紙 グループ 企 業 行 動 報 告 書 2007 日 本 製 紙 グループ サステナビリティ レポート 2006 5