厚 生 労 働 大 臣 塩 崎 恭 久 殿 2016( 平 成 27) 年 2 月 1 日 資 産 申 告 書 に 関 する 保 護 課 長 通 知 の 撤 回 等 を 求 める 要 望 書 生 活 保 護 問 題 対 策 全 国 会 議 代 表 幹 事 尾 藤 廣 喜 第 1 要 望 の 趣 旨 1 生 活 保 護 利 用 者 に 対 して 最 低 年 1 回 の 資 産 申 告 を 行 わせるよう 求 める 平 成 27 年 3 月 31 日 付 厚 生 労 働 省 社 会 援 護 局 長 保 護 課 長 通 知 ( 社 援 保 発 0331 第 1 号 ) は, 生 活 保 護 法 28 条 1 項,60 条 及 び61 条 の 趣 旨 に 反 するので 撤 回 されたい 2 上 記 通 知 を 撤 回 しないのであれば, 通 知 の 運 用 にあたって 以 下 の 諸 点 に 留 意 し, 生 活 保 護 利 用 者 に 対 しても 十 分 な 周 知 説 明 を 行 うよう 実 施 機 関 に 周 知 さ れたい (1) 上 記 通 知 が 求 める 定 期 的 な 資 産 申 告 は 生 活 保 護 利 用 者 の 義 務 ではなく,あ くまでも 被 保 護 者 の 自 発 的 協 力 を 求 める 範 囲 で 許 容 されるものであり,ま してや, 保 護 の 停 廃 止 を 前 提 とする 生 活 保 護 法 27 条 に 基 づく 指 導 指 示 の 対 象 となり 得 ないこと (2) 保 護 費 のやり 繰 りによって 生 じた 預 貯 金 等 については, 1 その 使 用 目 的 が 生 活 保 護 の 趣 旨 目 的 に 反 しない 場 合 には 保 有 が 容 認 さ れること, 2 使 用 目 的 はある 程 度 抽 象 的 でも 良 いこと, 3 使 用 目 的 が 生 活 保 護 の 趣 旨 目 的 に 反 することの 立 証 責 任 が 実 施 機 関 の 側 にあること, 4 目 的 がない 場 合 でも 生 活 基 盤 の 回 復 に 向 けた 助 言 指 導 が 必 要 であるこ と 第 2 要 望 の 理 由 1 はじめに 厚 生 労 働 省 社 会 援 護 局 保 護 課 長 は, 平 成 27 年 3 月 31 日, 実 施 要 領 の 取 扱 いを 変 更 する 通 知 ( 社 援 保 発 0331 第 1 号 以 下, 本 件 通 知 という )を 発 した そこでは, 被 保 護 者 の 現 金, 預 金, 動 産, 不 動 産 等 の 資 産 に 関 する 申 告 の 時 期 及 び 回 数 については, 少 なくとも12 箇 月 ごとに 行 わせること とされ,これ までは 保 護 申 請 時 のみに 要 求 していた 資 産 申 告 について, 今 後 は 最 低 年 1 回 資 産 申 告 を 求 めることとされている
これを 踏 まえ, 各 地 で, 生 活 保 護 利 用 中 の 者 に 対 し, 資 産 申 告 書 の 提 出 や 通 帳 の 提 示 等 を 求 める 運 用 が 始 まっているが, 単 に 任 意 の 協 力 を 求 めるにとどま らず, 事 実 上 これを 強 制 する 扱 いが 横 行 しているため, 生 活 保 護 利 用 者 の 中 に 不 安 と 動 揺 が 広 まっている 2 会 計 検 査 院 の 指 摘 は 金 銭 管 理 能 力 の 不 十 分 な 被 保 護 者 に 対 するものである 本 件 通 知 発 出 の 契 機 となった 会 計 検 査 院 の 指 摘 は, 金 銭 の 管 理 を 委 ねてい る 救 護 施 設 入 所 者 及 び 金 銭 の 管 理 を 委 ねているグループホーム 等 入 居 者 の 手 持 金 に 関 するものである 換 言 すれば, 金 銭 管 理 能 力 が 不 十 分 で,かつ, 施 設 等 に 入 所 しているため 累 積 金 費 消 の 必 要 性 が 類 型 的 に 乏 しい 被 保 護 者 の 手 持 金 に 関 するものである このような 場 合 であっても, 後 述 する 東 京 都 のような 丁 寧 なケースワークが 求 められるところであるが,かかる 会 計 検 査 院 の 指 摘 を 一 般 の 保 護 利 用 世 帯 ( 金 銭 管 理 能 力 があり, 後 述 するような 累 積 金 費 消 の 必 要 性 があるのが 通 常 である) の 保 護 費 の 累 積 金 にまで 拡 大 することは 明 らかな 過 剰 反 応 である 3 本 件 通 知 は 生 活 保 護 法 の 趣 旨 に 反 する 生 活 保 護 法 61 条 は, 被 保 護 者 は, 収 入, 支 出 その 他 生 計 の 状 況 について 変 動 があったとき( 略 )は,すみやかに, 保 護 の 実 施 機 関 又 は 福 祉 事 務 所 長 にそ の 旨 を 届 け 出 なければならない と 規 定 している これは, 生 計 の 状 況 に 変 動 があった 場 合 に 限 り 届 け 出 義 務 を 課 すもので,こうした 変 動 がないにもかかわ らず 機 械 的 定 期 的 な 届 け 出 義 務 を 課 すものではない また, 同 法 28 条 1 項 は, 保 護 の 実 施 機 関 は, 保 護 の 決 定 若 しくは 実 施 ( 略 ) のため 必 要 があると 認 めるときは, 要 保 護 者 の 資 産 および 収 入 の 状 況 ( 略 ), 当 該 要 保 護 者 に 対 して, 報 告 を 求 め( 略 )ることができる と 規 定 している これは, 具 体 的 な 必 要 性 が 認 められる 場 合 に 限 り 調 査 権 限 を 認 めるもので,か かる 必 要 性 が 認 められない 場 合 に 一 般 的 抽 象 的 な 調 査 権 限 を 認 めるものではな い しかるに, 本 件 通 知 が 生 活 保 護 利 用 者 の 任 意 の 協 力 を 求 めるものではなく 義 務 を 課 すものであるとすれば, 生 計 の 状 況 に 変 動 がない 被 保 護 者 に 対 して 機 械 的 定 期 的 に 届 け 出 義 務 を 課 し, 具 体 的 必 要 性 が 認 められない 場 合 に 一 般 的 抽 象 的 に 調 査 をする 点 において, 生 活 保 護 法 61 条 及 び 同 法 28 条 1 項 の 趣 旨 に 反 し 違 法 であると 解 される ところで, 厚 生 労 働 省 は, 本 件 通 知 について, 平 成 26 年 7 月 に 施 行 された 改 正 法 の 第 60 条 において, 生 活 保 護 受 給 者 の 適 切 な 家 計 管 理 を 促 す 観 点 から, 生 活 保 護 受 給 者 が 主 体 的 に 生 計 の 状 況 を 適 切 に 把 握 する 責 務 を 法 律 上 に 具 体 的 に
規 定 し, 福 祉 事 務 所 が 必 要 に 応 じて 円 滑 に 支 援 することを 可 能 としたことを 踏 まえ, 生 活 保 護 受 給 者 から 少 なくとも 年 に1 回 の 資 産 申 告 を 求 め, 福 祉 事 務 所 が 預 貯 金 等 の 資 産 の 状 況 を 適 切 に 把 握 することについて, 実 施 要 領 等 の 改 正 を 行 う ものと 説 明 している( 平 成 27 年 3 月 全 国 生 活 保 護 主 管 課 長 会 議 資 料 3(2)イ (イ)43 頁 ) しかしながら, 同 条 の 改 正 案 の 審 議 にあたり, 桝 屋 厚 生 労 働 副 大 臣 ( 当 時 )は, あくまでも 受 給 者 が 主 体 的 に 取 り 組 んでいくことが 重 要 で あって,この 責 務 を 果 たさないことをもって 保 護 の 停 廃 止 を 行 うというような ことは 考 えておりませんし,あってはならないと 思 っております 議 員 御 懸 念 のようなことがないよう,こうした 法 改 正 の 趣 旨 について, 周 知 徹 底 を 図 って まいりたいと 思 います と 明 確 に 答 弁 している( 平 成 25 年 5 月 31 日 衆 議 院 厚 生 労 働 委 員 会 における 中 根 康 浩 議 員 に 対 する 答 弁 ) これを 踏 まえ, 厚 生 労 働 省 も, 健 康 管 理 や 金 銭 管 理 は,あくまで 受 給 者 が 主 体 的 に 取 り 組 んでいくことが 重 要 であるため, 本 規 定 に 定 める 生 活 上 の 義 務 を 果 たさないことだけをもって, 保 護 の 停 廃 止 を 行 うことは 想 定 していないことに 十 分 ご 留 意 いただくようお 願 いする と 実 施 機 関 に 対 し 特 段 の 留 意 を 求 めていたのである( 平 成 26 年 3 月 3 日 全 国 生 活 保 護 主 管 課 長 会 議 資 料 33ページ,3(4)) したがって, 改 正 法 60 条 が, 本 件 課 長 通 知 が 求 める 資 産 申 告 を 生 活 保 護 利 用 者 に 義 務 付 ける 根 拠 になり 得 ないことは 明 らかである 以 上 から, 本 件 課 長 通 知 は,あくまで 生 活 保 護 利 用 者 の 自 発 的 協 力 を 求 める 範 囲 で 許 容 されるものであり, 同 通 知 を 根 拠 として 資 産 申 告 書 の 画 一 的 提 出 等 を 事 実 上 強 制 する 運 用 が 行 われれば, 生 活 保 護 法 28 条 1 項,60 条 及 び61 条 に 違 反 し 違 法 であることとなる 本 件 課 長 通 知 は, 実 施 機 関 がかかる 違 法 な 運 用 を 行 う 契 機 となり, 現 場 に 無 用 の 混 乱 を 発 生 させるものであるから 撤 回 されるべき である 少 なくとも, 生 活 保 護 利 用 者 に 対 して 自 発 的 協 力 を 求 めることが 許 さ れるにとどまり, 資 産 申 告 書 の 提 出 を 義 務 付 けるものでないことについて 周 知 徹 底 するべきである 3 資 産 申 告 書 不 提 出 の 者 に 対 して 指 導 指 示 違 反 の 停 廃 止 を 行 うことは 許 され ない 本 件 通 知 に 基 づいて 資 産 申 告 書 の 提 出 等 を 求 められたにもかかわらず, 協 力 しない 生 活 保 護 利 用 者 がいた 場 合, 指 導 指 示 違 反 により 保 護 の 停 廃 止 を 行 うこ とは 許 されない その 意 味 において, 生 活 保 護 利 用 者 は 本 件 通 知 に 基 づく 資 産 申 告 書 の 提 出 に 従 う 法 的 義 務 があるわけではない なぜなら, 生 活 保 護 法 62 条 3 項 による 保 護 の 停 廃 止 の 前 提 となる 同 法 27 条 に 基 づく 指 導 指 示 は, 被 保 護 者 の 自 由 を 尊 重 し, 必 要 の 最 少 限 度 に 止 めなければ ならない とされているところ( 同 条 2 項 ), 上 記 のとおり, 具 体 的 必 要 性 が 認
められないにもかかわらず 機 械 的 に 年 1 回 の 資 産 申 告 を 求 める 本 件 通 知 に 基 づ く 指 導 指 示 は, 生 活 保 護 法 61 条 及 び28 条 1 項 の 趣 旨 に 反 し 必 要 の 最 少 限 度 の ものとは 言 えないからである ましてや, 先 にも 述 べたとおり, 生 活 保 護 利 用 者 の 自 発 的 努 力 を 求 めるに 過 ぎない 改 正 法 60 条 が 法 27 条 に 基 づく 指 導 指 示 の 根 拠 となり 得 ないことは,より 一 層 明 らかである 実 施 機 関 の 側 がどうしても 年 1 回 預 貯 金 の 状 況 を 確 認 する 必 要 があると 考 えるのであれば, 協 力 を 得 られない 生 活 保 護 利 用 者 については, 生 活 保 護 法 29 条 に 基 づいて 金 融 機 関 等 に 対 する 調 査 を 実 施 すれば 良 い 話 であって, 生 活 保 護 利 用 者 からの 資 産 申 告 書 等 の 提 出 に 固 執 する 必 要 はない また, 仮 に 指 導 指 示 が 有 効 であるとしても, 指 示 違 反 の 程 度 と 課 される 制 裁 の 重 さは 比 例 均 衡 している 必 要 があり, 軽 微 な 指 示 違 反 に 対 して 保 護 の 停 廃 止 という 重 大 な 制 裁 を 課 すことは 許 されないこと( 比 例 原 則 )からすれば, 具 体 的 必 要 性 が 認 められないのに 単 に 資 産 申 告 書 等 を 提 出 しないという 軽 微 な 指 示 違 反 を 理 由 に 保 護 の 停 廃 止 という 重 大 な 不 利 益 処 分 を 課 すことは 比 例 原 則 に 反 し 許 されない 前 述 のとおり, 生 活 保 護 法 29 条 に 基 づく 金 融 機 関 等 に 対 する 調 査 の 結 果, 未 申 告 の 収 入 ( 不 正 受 給 )が 発 覚 したとすれば, 当 該 不 正 受 給 に 対 して 厳 正 に 対 処 すれば 良 いのであって, 法 的 義 務 ではない 年 1 回 の 資 産 申 告 書 等 の 不 提 出 に 対 する 制 裁 等 を 科 す 必 要 はない 厚 生 労 働 省 は,かかる 法 的 解 釈 についても, 実 施 機 関 に 対 して 十 分 に 周 知 す るべきである 4 保 護 費 の 累 積 金 の 収 入 認 定 は 原 則 として 許 されない 本 件 通 知 に 基 づいて 資 産 申 告 書 の 提 出 等 が 行 われた 場 合, 保 護 費 をやりくり した 貯 蓄 の 存 在 が 明 らかになることが 予 想 される かかる 預 貯 金 の 存 在 が 判 明 することで 保 護 を 打 ち 切 られるのではないかとの 不 安 を 抱 く 生 活 保 護 利 用 者 も 少 なくない しかし, 現 行 生 活 保 護 制 度 上, 資 産 の 保 有 は 認 めるが 購 入 費 用 までは 支 給 さ れない 耐 久 消 費 財 (テレビ 冷 蔵 庫 洗 濯 機 等 )などについては, 保 護 費 のや り 繰 りをした 累 積 預 貯 金 で 購 入 することが 当 然 の 前 提 とされている また 子 ど もの 進 学, 就 学 費 用 で 高 校 等 就 学 費 等 の 保 護 費 で 賄 えない 費 用 や 大 学 入 学 にか かる 費 用,さらに 高 齢 者 の 葬 儀 費 用 で 葬 祭 扶 助 では 不 足 する 額 や 墓 石 等 も 同 様 である 不 意 の 入 院 等 に 必 要 な 雑 費 等 の 備 えも 必 要 である 生 活 保 護 制 度 自 体 がこのような 保 護 費 累 積 金 を 当 然 の 前 提 としている 以 上, 累 積 金 があることがわかっても,このような 経 費 のための 費 用 として 保 有 を 容 認 することが 基 本 的 な 姿 勢 とされなければならない このような 観 点 から, 最 高 裁 判 決 を 含 めた 裁 判 例 ( 1, 2)や 厚 生 労 働 省
通 達 ( 3)も, 保 護 費 を 原 資 とした 預 貯 金 は, 預 貯 金 の 目 的 が 生 活 保 護 費 支 給 の 目 的 や 趣 旨 に 反 するものでない 限 り, 収 入 認 定 せず 保 有 を 認 めるべきとして いる そして, 秋 田 地 裁 判 決 ( 1)は, 保 有 目 的 が 抽 象 的 であっても 保 護 の 趣 旨 目 的 に 反 しなければ 保 有 が 容 認 される 旨 判 示 しており, 近 時, なんとなく 貯 めてきた との 回 答 を 踏 まえて 預 貯 金 を 収 入 認 定 して 保 護 廃 止 した 事 案 ( 4) や, 累 積 金 の 使 途 が 不 明 であることのみをもって 生 活 保 護 の 趣 旨 目 的 に 反 する として 収 入 認 定 を 行 った 事 案 ( 5)について 処 分 の 取 り 消 しを 命 じる 裁 決 も 言 い 渡 されている また, 東 京 都 運 用 事 例 集 問 8-34は, 一 定 額 を 超 える 預 貯 金 等 の 保 有 が 判 明 し た 場 合 には,まずは 預 貯 金 の 目 的 等 を 確 認 し, 保 有 を 容 認 できない 資 産 性 の あるものの 購 入 ( 略 )や 一 般 低 所 得 者 との 均 衡 を 失 するような 消 費 ( 略 )に 充 てる 目 的 であれば, 法 の 趣 旨 を 説 明 し 目 的 を 変 更 するよう 指 導 助 言 すること とし, 特 に 目 的 等 がなく 単 に 累 積 したものである 場 合 でも, 直 ちにこれ を 収 入 認 定 することは 適 当 でなく,まず, 最 低 限 度 の 生 活 に 欠 ける 部 分 を 補 い, 生 活 基 盤 を 回 復 させるために 使 うよう 指 導 助 言 する 必 要 に 応 じては, 自 立 更 生 計 画 書 等 の 作 成 を 通 じて 累 積 金 の 費 消 目 的 を 定 めながら,より 安 定 した 自 立 の 助 長 を 促 すことが 望 ましい として, 事 案 に 応 じた 適 切 なケースワークを 求 めている( 6) したがって, 資 産 申 告 書 等 の 提 出 を 求 めるに 先 立 ち, 保 護 費 の 累 積 金 につい ては, 預 貯 金 の 目 的 が 生 活 保 護 の 趣 旨 目 的 に 反 しない 限 り 収 入 認 定 されないこ と, 当 該 目 的 はある 程 度 抽 象 的 なものでも 良 いこと 及 び 目 的 がない 場 合 でも 生 活 基 盤 の 回 復 に 向 けた 助 言 指 導 が 必 要 であることを 実 施 機 関 及 び 生 活 保 護 利 用 者 に 対 して 周 知 徹 底 すべきである 以 上 1 秋 田 地 裁 平 成 5 年 4 月 23 日 判 決 は, 生 活 保 護 費 で 蓄 えた 約 81 万 円 の 預 貯 金 のうち 約 27 万 円 を 収 入 認 定 して 保 護 費 を 減 額 する 処 分 と, 残 額 についてはその 使 途 を 弔 慰 の 用 途 に 限 定 する 指 導 指 示 をしたケースについて, 収 入 認 定 を 受 けた 収 入 と 支 給 された 保 護 費 は, 国 が 憲 法, 生 活 保 護 法 に 基 づき, 健 康 で 文 化 的 な 最 低 限 度 の 生 活 を 維 持 するために 被 保 護 者 に 保 有 を 許 したものであって,こうしたものを 源 資 とする 預 貯 金 は, 被 保 護 者 が 最 低 限 度 の 生 活 を 下 回 る 生 活 をすることにより 蓄 えたものということになるから, 本 来, 被 保 護 者 の 現 在 の 生 活 を, 生 活 保 護 法 により 保 障 される 最 低 限 度 の 生 活 水 準 にまで 回 復 させるため にこそ 使 用 されるべきものである したがって,このような 預 貯 金 は, 収 入 認 定 してその 分 保 護 費 を 減 額 することに 本 来 的 になじまない 性 質 のものといえる 更 に, 現 実 の 生 活 の
需 要 は 時 により 差 があり,ある 時 期 において 普 段 よりも 多 くの 出 費 が 予 想 されることは 十 分 あり 得 ることであり,そのことは 被 保 護 世 帯 も 同 様 であるから, 保 護 費 や 収 入 認 定 を 受 けた 収 入 のうち 一 部 を 預 貯 金 の 形 で 保 有 し 将 来 の 出 費 に 備 えるということもある 程 度 是 認 せざるを 得 ないことである とし, 生 活 保 護 費 のみ,あるいは, 収 入 認 定 された 収 入 と 生 活 保 護 費 のみが 源 資 となった 預 貯 金 については, 預 貯 金 の 目 的 が, 健 康 で 文 化 的 な 最 低 限 度 の 生 活 の 保 障, 自 立 更 生 という 生 活 保 護 費 の 支 給 の 目 的 ないし 趣 旨 に 反 するような ものでないと 認 められ,かつ, 国 民 一 般 の 感 情 からして 保 有 させることに 違 和 感 を 覚 える 程 度 の 高 額 な 預 貯 金 でない 限 りは,これを, 収 入 認 定 せず, 被 保 護 者 に 保 有 させることが 相 当 で,このような 預 貯 金 は 法 4 条,8 条 でいう 活 用 すべき 資 産, 金 銭 等 には 該 当 しないと いうべきである なお, 被 告 は, 具 体 的 な 耐 久 消 費 財 の 購 入 等 預 貯 金 の 目 的 が 相 当 具 体 的 で,かつ,それが 生 活 保 護 法 の 趣 旨 に 反 しない 預 貯 金 である 場 合 以 外 は 保 有 は 許 されず, 将 来 の 不 時 の 出 費 に 備 えるという 程 度 では 足 りないと 主 張 するが, 生 活 保 護 費 と 収 入 認 定 を 受 けた 収 入 で 形 成 された 預 貯 金 については, 前 記 のような 源 資 の 性 格 からして 目 的 がそ こまで 具 体 的 でなくとも, 生 活 保 護 法 の 目 的 ないし 趣 旨 に 反 しないものであれば,これを 保 有 させるべきである と 判 示 している 2 最 高 裁 平 成 16 年 3 月 16 日 判 決 (いわゆる 中 嶋 学 資 保 険 訴 訟 )も, 生 活 保 護 法 による 保 護 を 受 けている 者 が 同 法 の 趣 旨 目 的 にかなった 目 的 と 態 様 で 保 護 金 品 又 はその 者 の 金 銭 若 しくは 物 品 を 原 資 としてした 貯 蓄 等 は, 同 法 4 条 1 項 にいう 資 産 又 は 同 法 ( 略 )8 条 1 項 にいう 金 銭 又 は 物 品 に 当 たらない として, 上 記 秋 田 地 裁 の 判 断 を 追 認 した 3 実 施 要 領 問 答 第 3の18 ( 預 貯 金 の) 使 用 目 的 が 生 活 保 護 の 趣 旨 目 的 に 反 しないと 認 められる 場 合 については, 活 用 すべき 資 産 にはあたらない 4 平 成 27 年 2 月 10 日 石 川 県 知 事 裁 決 は, 保 護 費 の 累 積 金 による 預 貯 金 約 150 万 円 について なんとなく 貯 めてきた との 回 答 を 踏 まえて 収 入 認 定 し 保 護 廃 止 した 事 案 について, 事 後 的 に 生 涯 独 り 身 であることから, 将 来 の 入 院 費 用 や 介 護 施 設 入 所 のための 保 証 金, 階 段 の 上 り 下 りが 困 難 になった 時 の 転 居 費 用 等 のためのものである との 説 明 がなされてい ることから, 累 積 預 貯 金 の 使 途 目 的 について 新 たに 説 明 を 行 っていることについては( 略 ), 前 審 査 請 求 に 係 る 裁 決 後 に 判 明 した 事 実 により, 処 分 内 容 を 検 討 することは 可 能 であると 認 められ, 処 分 庁 は, 新 たな 証 言 である 前 記 の 事 実 を 踏 まえ,あらためて 累 積 預 貯 金 の 使 用 目 的 を 聴 取 した 上 で 処 分 を 決 定 すべきであった として 保 護 廃 止 処 分 を 取 り 消 した この 裁 決 を 受 け, 処 分 庁 は 累 積 金 認 定 による 保 護 廃 止 期 間 の 保 護 費 130 万 6,989 円 を 支 給 し た 5 平 成 27 年 12 月 7 日 高 知 県 知 事 裁 決 は, 転 入 移 管 前 に 消 費 した 保 護 費 の 累 積 金 の 使 途 を 確 認 し, 使 途 不 明 金 約 6 万 円 について 使 用 目 的 が 生 活 保 護 の 趣 旨 目 的 に 反 するものとして 収 入 認 定 した 事 案 について, 使 途 不 明 であることのみを 以 て, 生 活 保 護 の 趣 旨 目 的 に 反 す るとして( 略 ) 収 入 認 定 を 行 っている のは, 生 活 保 護 の 趣 旨 目 的 に 反 するとする 合 理 的 な 根 拠 が 示 されていないことから, 原 処 分 には 法 第 56 条 に 規 定 する 正 当 な 理 由 があると
は 認 められない として, 原 処 分 を 取 り 消 し, 使 用 目 的 が 生 活 保 護 の 趣 旨 目 的 に 反 す ること の 立 証 責 任 が 実 施 機 関 側 にあることを 明 らかにした 6 東 京 都 運 用 事 例 集 問 8-34は, 生 活 基 盤 の 回 復 に 向 けた 指 導 助 言 が 必 要 な 理 由 として, 保 護 費 を 繰 越 しして 一 定 額 を 超 える 預 貯 金 を 保 有 するに 至 った 経 緯 には, 単 に 節 約 を 図 っただけでなく, 食 事 や 衣 料 品 等 の 生 活 必 需 品 を 極 度 に 切 りつめた 生 活 をしてきた 結 果 当 該 被 保 護 世 帯 はどこかに 最 低 限 度 の 生 活 に 欠 けるところが 生 じている 可 能 性 が 推 測 され る と 説 明 している なお, 同 問 答 は, 保 有 を 容 認 する 範 囲 を 超 えた 額 の 基 準 ( 目 安 ) について, 一 律 に 定 めることは 困 難 である 世 帯 の 状 況 を 把 握 したうえで, 慎 重 に 見 極 める 必 要 がある としつつも, 目 安 としては, 累 積 金 のすべてが 目 的 のない 状 態 であっ た 場 合, 保 護 の 停 廃 止 の 期 間 の 考 え 方 を 用 いれば, 当 該 世 帯 の 基 準 生 活 費 の 概 ね6 月 分 相 当 の 額 に 達 した 場 合 と 考 えられる としている 点 も 参 考 になる < 本 件 に 関 する 連 絡 先 > 530-0047 大 阪 市 北 区 西 天 満 3-14-16 西 天 満 パークビル 3 号 館 7 階 あかり 法 律 事 務 所 06-6363-3310 FAX 06-6363-3320 事 務 局 長 弁 護 士 小 久 保 哲 郎