平 成 25 年 度 人 獣 共 通 感 染 症 調 査 報 告 書 名 古 屋 市 内 の 飼 育 猫 のトキソプラズマ 感 染 症 調 査 - 血 清 抗 体 価 検 査 と 糞 便 PCR 検 査 を 用 いた 名 古 屋 市 内 の 飼 育 猫 の 感 染 状 況 の 推 察 - 1 はじめに 平 成 17 年 6 月 に 改 正 された 動 物 の 愛 護 及 び 管 理 に 関 する 法 律 ( 昭 和 48 年 法 律 第 105 号 ) ( 以 下 動 物 愛 護 管 理 法 )において 動 物 の 所 有 者 の 責 務 として 動 物 に 起 因 する 感 染 性 の 疾 病 について 正 しい 知 識 を 持 ち その 予 防 のために 必 要 な 注 意 を 払 うよう 努 める こと が 追 加 された これは 動 物 が 飼 養 保 管 されるあらゆる 局 面 で 人 と 動 物 の 共 通 感 染 症 ( 以 下 人 獣 共 通 感 染 症 とする)の 予 防 処 置 が 積 極 的 に 取 り 組 まれる 必 要 があること から 新 たに 追 加 されたものである 7 近 年 社 会 生 活 の 多 様 化 に 伴 って 家 畜 以 外 に 伴 侶 動 物 (ペット)や 動 物 園 における 展 示 動 物 など 種 々の 動 物 がヒトの 生 活 圏 内 において 飼 育 されている これらの 動 物 における 人 獣 共 通 感 染 症 としては 小 鳥 のオウム 病 犬 のレプトスピラ 症 猫 のトキソプラズマ 症 犬 と 猫 のパスツレラ 症 皮 膚 糸 状 菌 症 や 回 虫 症 等 がある 今 回 は 名 古 屋 市 内 で 飼 育 されて いる 猫 を 対 象 にトキソプラズマ 症 を 調 査 した トキソプラズマ 症 はトキソプラズマ ゴンディ(Toxoplasma gondii)による 人 獣 共 通 感 染 症 である トキソプラズマ 原 虫 は 人 を 含 む 多 くの 動 物 に 感 染 し 猫 科 動 物 を 終 宿 主 とする 特 徴 をもち その 発 育 段 階 でオーシスト シスト タキゾイトなどの 形 態 をとる 5,6,7 人 でのトキソプラズマ 症 は 不 顕 性 感 染 例 も 多 いが 妊 娠 中 感 染 による 胎 盤 感 染 に 起 因 す る 流 死 産 および 新 生 児 の 知 能 障 害 脈 絡 網 膜 炎 による 視 覚 障 害 の 場 合 もある また 日 和 見 感 染 として HIV 患 者 では 重 篤 な 脳 炎 を 発 症 することが 知 られている 5,6,7 猫 でのトキソプラズマ 症 は 幼 猫 で 発 熱 食 欲 不 振 嘔 吐 呼 吸 困 難 咳 などの 症 状 を 示 すが 多 くの 場 合 無 症 状 で 経 過 する 5 1969 年 に 感 染 猫 の 糞 便 中 にオーシストが 発 見 され 1 猫 が 終 宿 主 であることが 判 明 し 感 染 経 路 に 関 する 知 識 の 普 及 衛 生 設 備 の 改 善 の 結 果 1980 年 代 後 半 から 猫 における 本 疾 患 の 感 染 率 は 徐 々に 減 少 した 6 本 邦 における 近 年 の 調 査 によると 猫 の 約 5%が 感 染 歴 を 有 し(1994~1999 年 の 調 査 ) 0~1%がオーシストを 排 出 しているとされる (1970~1990 年 の 調 査 )と 報 告 されてきた 7 2007 2008 年 に 抗 体 価 を 用 いた 東 京 都 の 地 域 猫 の 調 査 で 陽 性 率 は 10.9% 13.1%であった 8 名 古 屋 市 においても 1988 年 1997 年 の 調 査 で 陽 性 率 はそれぞれ 8.9%と 3.1%であった 10 今 回 の 調 査 では 過 去 の 感 染 の 有 無 を 示 すトキソプラズマの 血 清 抗 体 価 と 現 時 点 での 感 染 の 有 無 を 示 す 糞 便 PCR 検 査 を 同 時 に 行 った また 猫 の 飼 育 状 況 を 含 めた 質 問 調 査 も 併 せて 実 施 した 若 干 の 知 見 が 得 られたのでそれを 報 告 する 2 材 料 と 方 法 (1) 調 査 対 象 名 古 屋 市 内 (16 区 )の 飼 育 猫 128 頭 ( 雄 62 雌 66) 各 区 につき 8 頭 77 ヶ 月 齢 以 下 の 猫
(2) 検 査 採 取 期 間 平 成 25 年 9 月 1 日 ~10 月 30 日 まで (3) 検 査 材 料 冷 蔵 保 存 された 血 清 0.1 ml および 糞 便 1 g (4) 検 査 委 託 先 株 式 会 社 モノリス (5) 検 査 方 法 ア 抗 体 検 査 抗 体 検 査 はラテックス 凝 集 反 応 測 定 キット トキソチェック-MT 栄 研 ( 栄 研 化 学 日 本 )を 用 い マイクロタイター 法 により 実 施 した U 字 形 マイクロタイター 用 トレイの1~5 穴 に 緩 衝 液 栄 研 を 25 ul ずつ 分 注 した 予 め 8 倍 に 調 整 した 被 検 血 清 を 25 ul とり2 倍 希 釈 系 列 で1~5 穴 まで 希 釈 を 行 った ラテックス 乳 液 栄 研 をよく 振 とうし 1~5 穴 まで 25 ul ずつ 滴 下 した その 後 トレイの 側 面 を 軽 くたたきよく 振 とう 混 和 し 室 温 にて 一 夜 (18 時 間 以 上 ) 静 置 したのち 判 定 をおこなった 判 定 は 表 1 に 示 す 凝 集 判 定 基 準 に 基 づき 凝 集 像 をよみとった 抗 体 価 は 判 定 基 準 の1 以 上 を 示 した 最 終 希 釈 倍 数 値 をもってあらわした 判 定 は 抗 体 価 64 倍 以 上 を 陽 性 32 倍 以 下 を 陰 性 とした 表 1 トキソチェック-MT 栄 研 凝 集 判 定 基 準 沈 降 したラテックス 凝 集 像 の 周 囲 がめくりあがり 周 囲 が 不 規 則 な 3 像 を 示 す 2 沈 降 したラテックスが 大 きく 全 体 に 広 がっている 像 を 示 す 1 沈 降 したラテックスが 中 程 度 広 がっている 像 を 示 す 0.5 陰 性 対 象 が 示 す 像 より 大 きめな 像 を 示 す 0 小 さくくっきりとした 円 形 の 沈 降 像 を 示 す イ 遺 伝 子 検 査 (PCR 検 査 ) 遺 伝 子 検 査 は Harold Salant らの 方 法 2 を 改 変 して 実 施 した (ア)DNA 抽 出 最 小 1 g の 糞 便 に 等 量 の Sheather s 溶 液 (グルコース 106 g DDW100 ml Liquid phenol 0.8 ml; 比 重 1.27)を 添 加 し vortex mixer にて 攪 拌 混 合 し 1,000 x g にて 15 分 間 遠 心 分 離 した 上 清 を 5 倍 量 の DDW に 添 加 し 2,000 x g にて 15 分 間 遠 心 分 離 した ペレットに QIAamp DNA Stool Mini Kit (Qiagen)の ASL buffer 200 ul を 加 え 完 全 にペレットが 溶 けるまで vortex を し 95 で 5 分 処 理 し 細 胞 を 溶 解 させた 15 秒 間 の vortex を 行 った ASL buffer を 更 に 1,200 ul 添 加 し 再 度 vortex を 行 い 95 で 5 分 処 理 した 後 15 秒 間 の vortex を 行 った この 後 の DNA 抽 出 については 以 下 の2 点 の 変 更 を 除 いてはキットのプロトコ
ルに 従 った プロテアーゼ K 処 理 を 60 にて 10 分 間 に 替 わって 1 時 間 実 施 した また 溶 出 工 程 を 1 回 目 50 ul にて 一 晩 2 回 目 を 50 ul にて 室 温 10 分 間 により 最 終 容 量 100 ul とした (イ)Toxoplasma gondii PCR Polymerase chain reaction は T. gondii 特 異 的 プライマーTOX4(5 -CGC TGC AGG GAG GAA GAC GAA AGT TG-3 )と TOX5(5 -CGC TGC AGA CAC AGT GCA TCT GGA TT-3 )を 使 用 した 2,3,4 このプライマーは 529bp の 繰 り 返 し 配 列 の 5, 3 末 端 を 認 識 する 4 PCR mixture には SYBER SELECT MASTER MIX(ライフテクノロジー 日 本 )を 使 用 し プライマーをそ れぞれ 0.2 mm を 加 え これに 抽 出 DNA 溶 液 を 添 加 した リアルタイム PCR には Rotor-Gene Q (QIAGEN)を 使 用 し initial denaturation として 94 7 分 反 応 後 に 95 1 分 60 1 分 72 1 分 を 35 cycle 実 施 し final incubation 72 10 分 の real time 解 析 の 後 に 72 から 95 まで 1 /min で 溶 解 曲 線 分 析 にて 評 価 した (6) 調 査 対 象 の 環 境 調 査 調 査 対 象 となる 猫 について 以 下 の 項 目 の 調 査 を 実 施 した 1 飼 育 動 物 1 品 種 2 性 別 オス メス 3 避 妊 去 勢 実 施 未 実 施 4 年 齢 歳 月 齢 ヶ 月 5 体 重 Kg 6 栄 養 状 態 (BCS スコア 1~5) 7 便 の 状 態 硬 い 普 通 軟 便 下 痢 8 便 の 異 常 が 認 められた 場 合 の 糞 便 検 査 結 果 寄 生 虫 血 球 その 他 不 明 9 寄 生 虫 が 認 められた 場 合 虫 体 名 10 既 往 歴 11 ウイルス 感 染 FeLV FIV FIP 無 不 明 12 一 ヶ 月 以 内 の 抗 生 剤 使 用 の 有 無 有 無 不 明 2 飼 育 状 況 1 飼 育 場 所 完 全 室 内 飼 育 室 内 屋 外 を 出 入 り 完 全 屋 外 飼 育 屋 外 ( 野 良 猫 ) 2 食 餌 内 容 ドライフード 缶 詰 人 の 食 事 その 他 3 食 餌 の 場 所 室 内 室 内 屋 外 屋 外 屋 外 ( 野 良 猫 )
4 トイレの 場 所 室 内 室 内 屋 外 屋 外 屋 外 ( 野 良 猫 ) 5 他 の 猫 の 飼 育 状 況 飼 育 場 所 完 全 室 内 飼 育 ( ) 頭 室 内 屋 外 を 出 入 り ( ) 頭 完 全 屋 外 飼 育 ( ) 頭 6 他 の 動 物 の 飼 育 状 況 動 物 種 ( ) 飼 育 場 所 完 全 室 内 飼 育 ( ) 頭 室 内 屋 外 を 出 入 り ( ) 頭 完 全 屋 外 飼 育 ( ) 頭 3 飼 育 者 の 住 居 1 住 居 区 ( 名 古 屋 市 区 ) 2 住 居 ( 一 戸 建 マンション アハ ート その 他 ) 4 飼 育 者 と 飼 育 動 物 との 関 係 (これまで 経 験 のあるものを 回 答 ) 1 飼 育 動 物 に 咬 まれる 有 (その 後 の 対 応 : 何 もしない 水 洗 い 消 毒 病 院 の 受 診 その 他 ) 無 2 飼 育 動 物 に 引 っかかれる 有 (その 後 の 対 応 : 何 もしない 水 洗 い 消 毒 病 院 の 受 診 その 他 ) 無 3 飼 育 動 物 と 同 じ 箸 やスプーンを 使 って 食 事 をする キスをする 有 (その 後 の 対 応 : 何 もしない 手 洗 い うがい 消 毒 その 他 ) 無 4 飼 育 動 物 と 同 じ 寝 具 で 眠 る 有 (その 後 の 対 応 : 何 もしない 手 洗 い うがい 消 毒 その 他 ) 無 (7) 統 計 処 理 カイ 二 乗 検 定 を 用 い P<0.05 を 有 意 水 準 とした 3 結 果 (1)トキソプラズマ 抗 体 価 陽 性 を 示 した 猫 は 128 頭 中 8 頭 (6.3%) 確 認 された 抗 体 価 は 512 倍 が 1 頭 256 倍 が 2 頭 128 倍 が 1 頭 64 倍 が 4 頭 であった その 所 在 は 南 区 1 頭 昭 和 区 1 頭 中 区 2 頭 北 区 1 頭 東 区 2 頭 緑 区 1 頭 であった 8 頭 の 月 齢 の 中
央 値 は 21 ヶ 月 (1.5~77 ヶ 月 ) 体 重 の 中 央 値 は 3.5Kg(0.74~8.5Kg)であった( 表 2) 表 2 トキソプラズマ 抗 体 陽 性 猫 8 例 区 東 東 北 中 中 南 緑 昭 和 症 例 No 7 8 4 2 7 3 4 5 抗 体 価 ( 倍 ) 256 64 64 64 512 64 256 128 PCR 検 査 陰 性 陰 性 陰 性 陰 性 陰 性 陰 性 陰 性 陰 性 品 種 雑 種 雑 種 雑 種 雑 種 雑 種 雑 種 雑 種 雑 種 性 別 オス オス メス メス オス メス メス オス 避 妊 去 勢 済 み 済 み 済 み 済 み 済 み 済 み 済 み 済 み 月 齢 ( 月 ) 24 58 12 26 56 38 42 42 体 重 (Kg) 4.7 7.2 3.7 3 7.2 3.3 3.6 5.4 (2)PCR 検 査 全 ての 猫 が 陰 性 であった (3) 調 査 票 の 集 計 結 果 ア 品 種 雑 種 116 頭 純 血 種 12 頭 (アメリカンカール 1 頭 アメリカンショートヘア 1 頭 シンガプーラ 1 頭 スコティッシュホールド1 頭 ソマリ 1 頭 チンチラ 1 頭 ベンガル 1 頭 マンチカン 2 頭 メインクーン 1 頭 ラグドール 1 頭 ロシアンブ ルー1 頭 )であった 抗 体 価 陽 性 は 雑 種 が 8 頭 (7%) 純 血 種 (0%)であったが 品 種 間 において 有 意 差 は 認 めなかった イ 性 別 雄 63 頭 雌 65 頭 であった 抗 体 価 陽 性 は 雄 が 4 頭 (6.3%) 雌 が 4 頭 (6.2%) であったが 有 意 差 は 認 めなかった ウ 避 妊 去 勢 実 施 89 頭 未 実 施 39 頭 であった 抗 体 価 陽 性 は 実 施 が 8 頭 (9%) 未 実 施 が 0 頭 (0%)であったが 有 意 差 は 認 めなかった エ ボディーコンディションスコア(BCS) スコア 2 が 11 頭 スコア 2.5 が 2 頭 スコア 3 が 87 頭 スコア 3.5 が 1 頭 スコア 4 が 25 頭 スコア 5 が2 頭 であった 抗 体 価 陽 性 はスコア 3 が 4 頭 (4.8%) スコア 4 が 3 頭 (12%) スコア 5 が 1 頭 (50%)であったが 有 意 差 は 認 めなかっ た オ 便 の 状 態 硬 い 20 頭 普 通 103 頭 軟 便 5 頭 であった 抗 体 価 陽 性 は 硬 い 2 頭 (10%) 普 通 5 頭 (5.8%)であったが 有 意 差 は 認 めなかった カ その 他 の 内 部 寄 生 虫 の 有 無 有 11 頭 (コクシジウム 条 虫 回 虫 毛 細 線 虫 ) 無 117 頭 であった 抗 体 価 陽 性 は 有 0 頭 (0%) 無 8 頭 (6.8%)で 有 意 差 は 認 めなかった
キ 既 往 歴 の 有 無 有 9 頭 ( 猫 伝 染 性 鼻 気 管 炎 ウイルス 感 染 症 猫 カリシウイルス 感 染 症 胃 炎 糖 尿 病 食 道 炎 猫 泌 尿 器 症 候 群 ノミ 感 染 症 ) 無 119 頭 であった 抗 体 価 陽 性 は 有 1 頭 (11%) 無 7 頭 (5.9%)で 有 意 差 は 認 めなかった ケ ウイルス 感 染 の 有 無 有 4 頭 ( 猫 後 天 性 免 疫 不 全 症 候 群 ウイルス) 無 124 頭 であった 抗 体 価 陽 性 は 有 2 頭 (50%) 無 6 頭 (4.8%)で 有 意 差 は 認 めなかった コ 一 ヶ 月 以 内 の 抗 生 剤 の 使 用 使 用 有 で 抗 体 価 陽 性 が 1 頭 認 められた サ 飼 育 場 所 完 全 室 内 飼 育 は 96 頭 その 他 32 頭 ( 室 内 外 飼 育 22 頭 室 外 飼 育 2 頭 野 良 猫 ( 地 域 猫 )8 頭 )であった 抗 体 価 陽 性 は 完 全 室 内 飼 育 が 4 頭 (4.2%) その 他 が 4 頭 (12.5%)であったが 有 意 差 は 認 めなかった シ 食 事 内 容 ドライフードのみは 86 頭 その 他 42 頭 ( 缶 詰 のみは 3 頭 ドライフードと 缶 詰 は 26 頭 ドライフードと 人 間 食 は 3 頭 ドライフードと 缶 詰 と 人 間 食 は 10 頭 )であ った 抗 体 価 陽 性 はドライフードのみは 3 頭 (3.5%) その 他 は 5 頭 (12%)であった が 有 意 差 は 認 めなかった ス 食 事 場 所 完 全 室 内 111 頭 その 他 17 頭 ( 室 内 外 9 頭 屋 外 8 頭 )であった 抗 体 価 陽 性 は 完 全 室 内 が 6 頭 (5.4%) その 他 2 頭 (11.8%)で 有 意 差 は 認 めなかった セ トイレの 場 所 室 内 107 頭 その 他 21 頭 ( 室 内 外 9 頭 屋 外 12 頭 であった 抗 体 価 陽 性 は 室 内 が 6 頭 (5.6%) その 他 2 頭 (9.5%)で 有 意 差 は 認 めなかった ソ 他 の 猫 の 飼 育 の 有 無 有 83 頭 無 45 頭 であった 抗 体 価 陽 性 は 有 6 頭 (7.2%) 無 2 頭 (4.4%)で 有 意 差 は 認 めなかった タ 猫 以 外 の 飼 育 動 物 の 有 無 有 29 頭 ( 犬 羊 豚 亀 インコ) 無 99 頭 であった 抗 体 価 陽 性 は 有 1 頭 (3.4%) 無 7 頭 (7.1%)で 有 意 差 は 認 めなかった チ 飼 い 主 の 住 居 一 戸 建 て 79 頭 集 合 住 宅 49 頭 であった 抗 体 価 陽 性 は 一 戸 建 て 3 頭 (3.8%) 集 合 住 宅 5 頭 (10.2%)で 有 意 差 は 認 めなかった ツ 飼 育 動 物 に 咬 まれた 経 験 有 り 35 例 無 い 83 例 未 回 答 10 例 であった テ 飼 育 動 物 に 引 っかかれた 経 験 有 り 48 例 無 い 71 例 未 回 答 9 例 であった ト 飼 育 動 物 と 同 じ 箸 やスプーンを 使 って 食 事 をする キスをする 有 り 6 例 無 い 113 例 未 回 答 9 例 であった
ナ 飼 育 動 物 と 同 じ 寝 具 で 眠 る 有 り 45 例 無 い 74 例 未 回 答 9 例 であった 4 考 察 トキソプラズマ 症 は 虫 体 を 経 口 的 に 摂 取 することで 感 染 が 成 立 する 人 への 感 染 の 多 くは 食 肉 に 潜 伏 している 虫 体 や 猫 の 糞 便 中 に 排 出 されたオーシストの 経 口 摂 取 によるも のである トキソプラズマに 感 染 している 猫 の 中 でオーシストを 排 泄 している 個 体 は1% 以 下 と 言 われている 5 感 染 源 として 食 肉 と 猫 とどちらが 重 要 であるかについては 様 々な 意 見 があるが 習 慣 上 肉 食 をしない 人 にもトキソプラズマ 症 が 認 められており 猫 から の 感 染 も 一 定 の 意 味 を 持 つことは 確 かである 9 近 年 では 種 々の 野 生 動 物 における 感 染 が 報 告 されるようになり イルカなどの 海 生 哺 乳 類 の 陽 性 例 などからも 広 域 の 環 境 が 汚 染 されていることも 考 慮 しなければならない 6 今 回 の 調 査 では 128 頭 中 8 頭 (6.3%)の 抗 体 陽 性 猫 の 平 均 月 齢 は 37.3 ヶ 月 であった 抗 体 陽 性 猫 は 8 頭 全 て 雑 種 で 避 妊 去 勢 済 みであった 雌 雄 各 4 頭 BCS は 3 以 上 で 便 の 状 態 は 普 通 より 固 めで 軟 便 等 は 認 められなかった 他 の 内 部 寄 生 虫 は 無 く 胃 炎 様 症 状 の 既 往 歴 が 1 頭 のみ FIV 感 染 が 2 頭 認 められた( 表 2 表 3-1) 比 較 的 最 近 の 感 染 が 疑 われる 抗 体 価 の 高 い 512 倍 や 256 倍 の 個 体 も 含 めて この 8 頭 の 猫 は 明 確 な 臨 床 症 状 を 示 していなかったことから トキソプラズマの 感 染 を 臨 床 症 状 から 推 察 するこ とは 極 めて 困 難 であると 考 えられた また 環 境 調 査 票 から 完 全 室 内 飼 育 は 4 頭 (4.2%) でその 他 は 4 頭 (12.5%)であった 食 事 はドライフードのみが 3 頭 (3.5%)でドライフー ドとその 他 は 5 頭 確 認 された 食 事 場 所 は 室 内 が 6 頭 (5.4%)で 屋 外 が 2 頭 (11.8%)で トイレの 場 所 は 室 内 が 6 頭 (5.6%)その 他 は 2 頭 (9.5%)であった( 表 3-2) 完 全 室 内 飼 育 の 猫 と 比 べて 外 出 歴 のある 猫 の 抗 体 価 の 陽 性 率 は 高 い 傾 向 にあったが 有 意 差 を 認 めなかった 昨 今 の 住 宅 事 情 や 室 内 飼 育 環 境 から 完 全 室 内 飼 育 の 猫 においては 当 然 感 染 する 機 会 が 少 ないことが 予 想 された 感 染 症 を 予 防 する 観 点 から 飼 育 猫 の 外 出 歴 はなく すべきである しかしながら 完 全 室 内 飼 育 の 猫 においても 抗 体 価 陽 性 を 認 めるケースも 少 なからず 存 在 することから 飼 育 環 境 からトキソプラズマ 感 染 を 推 測 することは 困 難 と 考 えられた 臨 床 獣 医 師 が 診 療 の 中 で 猫 のトキソプラズマ 症 の 検 査 を 行 う 目 的 は 猫 の 非 特 異 的 症 状 に 対 する 類 症 鑑 別 の 一 つとして 実 施 される 場 合 と 飼 い 主 及 びその 家 族 が 公 衆 衛 生 的 側 面 から 飼 育 猫 が 排 泄 するかもしれないオーシスト 排 泄 状 況 を 調 べるために 検 査 を 希 望 され る 場 合 がある 人 のトキソプラズマ 症 検 査 には IgM 抗 体 価 を 検 査 する 技 術 が 確 立 されて おり 感 染 時 期 をある 程 度 推 測 することが 可 能 となっているが 猫 で 一 般 的 に 実 施 される 検 査 は IgG 抗 体 価 の 測 定 だけである 単 回 の IgG 検 査 では 過 去 の 全 身 感 染 を 示 している に 過 ぎず 現 症 の 有 無 や 今 後 の 感 染 の 可 能 性 を 明 確 に 判 断 することはできない そこで 現 在 は 1~2 週 間 後 の 再 測 定 を 行 うことで 猫 の 排 泄 するオーシストが 人 への 感 染 源 となり うる 可 能 性 を 推 察 するペア 血 清 検 査 法 が 最 も 信 頼 できる 方 法 として 行 われている 決 められた 期 間 に 複 数 回 来 院 が 必 要 な 抗 体 価 のペア 血 清 検 査 では 症 例 数 を 確 保 するこ とに 困 難 が 予 想 された 今 回 の 調 査 では 現 時 点 での 感 染 の 有 無 を 調 べるために 糞 便 の PCR 検 査 を 血 清 抗 体 価 検 査 と 同 時 に 行 うことで 飼 育 猫 の 人 への 感 染 源 となりうる 可 能
性 を 推 察 した オーシスト 排 泄 は 仔 猫 に 多 くみられる 傾 向 があるため 1 今 回 の 調 査 では 1.5~77 ヶ 月 までの 若 齢 の 猫 を 調 査 対 象 とした しかし 抗 体 価 陽 性 の 猫 を 含 めて 全 頭 の PCR 検 査 結 果 が 陰 性 であった 通 常 猫 がオーシストを 排 泄 する 期 間 はトキソプラズ マ 感 染 後 2 日 目 から 約 10 日 間 と 言 われている 2 今 回 の PCR 検 査 と 同 じプライマーを 使 用 したトキソプラズマ 感 染 試 験 では 2~24 日 後 まで 糞 便 PCR 検 査 で 遺 伝 子 を 検 出 可 能 であった 2 この 結 果 から 抗 体 価 陽 性 の 8 症 例 は 過 去 の 感 染 でオーシストの 排 泄 は 終 了 又 は 体 内 でシストを 形 成 して 検 査 時 点 でのオーシストの 排 泄 の 可 能 性 は 低 いと 考 えられ た 血 清 抗 体 価 が 陰 性 の 場 合 で 抗 体 価 が 未 だ 上 昇 していないと 仮 定 した 場 合 でも PCR 検 査 で 陰 性 を 確 認 しているので 検 査 時 点 では 人 への 感 染 源 の 可 能 性 は 低 いと 考 えられた 糞 便 中 のオーシストは 排 泄 後 24~72 時 間 経 過 してはじめて 感 染 能 力 を 獲 得 するため これ 以 前 の 未 熟 なオーシストを 摂 取 しても 人 への 感 染 は 成 立 しない したがって トキ ソプラズマ 症 に 対 する 対 策 としては 猫 の 糞 便 を 長 期 間 放 置 しないことが 重 要 と 考 えられ る また 飼 育 猫 にトキソプラズマ 感 染 が 起 こらないようにする 努 力 も 必 要 となる 例 えば 潜 伏 虫 体 による 感 染 を 避 けるために 猫 がネズミや 未 加 熱 の 肉 を 食 べないような 工 夫 が 有 効 である 9 しかし 今 回 の 調 査 では 完 全 室 内 飼 育 でドライフードだけの 食 事 の 猫 におい ても 感 染 が 認 められた これは 自 宅 内 に 他 の 感 染 ルートが 存 在 するのか 現 在 の 飼 主 に 飼 育 される 以 前 の 抗 体 が 持 続 しているのかは 不 明 であった PCR 検 査 の 結 果 により 現 時 点 でのオーシスト 排 泄 が 否 定 されたことから 今 後 のオ ーシストの 大 量 排 泄 の 可 能 性 は 低 いと 考 えられるが 抗 体 価 陽 性 を 示 した 個 体 は 過 去 に オーシストの 排 出 を 経 験 していると 推 測 される そのため 今 回 の 調 査 結 果 から 抗 体 陽 性 率 は 高 くないものの 猫 を 飼 育 することによって 人 への 感 染 の 機 会 は 少 ないながら 存 在 する しかし 適 切 に 飼 育 管 理 され 正 確 な 情 報 を 持 っていれば 猫 から 人 への 感 染 につ いて 不 必 要 に 恐 れる 必 要 は 無 いことから 猫 の 飼 主 への 周 知 啓 発 を 徹 底 することが トキ ソプラズマの 感 染 予 防 には 重 要 であると 考 えられた 表 3-1 調 査 対 象 の 環 境 調 査 結 果 ( 飼 育 動 物 )とトキソプラズマ 血 清 抗 体 価 判 定 の 関 係 調 査 項 目 選 択 肢 総 数 ( 頭 ) 抗 体 価 陽 性 ( 頭 ) 陰 性 ( 頭 ) 陽 性 率 (%) 性 別 品 種 月 齢 避 妊 去 勢 オス 63 4 59 6.3 メス 65 4 61 6.2 雑 種 115 8 107 7.0 純 血 種 13 0 13 0 0~12 52 1 51 1.9 13~24 23 1 22 4.3 25~36 20 1 19 5.0 37~48 18 3 15 16.7 49~60 10 2 8 20.0 61~72 1 0 1 0 73~84 1 0 1 0 未 実 施 39 0 39 0 済 み 89 8 81 9.0
体 重 (Kg) BCS 便 の 状 態 他 の 寄 生 虫 既 往 歴 ウイルス 感 染 0~1.0 1 0 1 0 1.1~2.0 12 0 12 0 2.1~3.0 37 1 36 2.7 3.1~4.0 31 3 28 9.7 4.1~5.0 23 1 22 4.4 5.1~6.0 18 1 17 5.6 6.1~7.0 3 0 3 0 7.1~8.0 3 2 1 67.0 8.1~9.0 1 0 1 0 1 0 0 0 0 2 11 0 11 0 2.5 2 0 2 0 3 87 4 83 4.8 3.5 1 0 1 0 4 25 3 22 12.0 5 2 1 1 50.0 硬 い 20 2 18 10.0 普 通 103 6 97 5.8 軟 便 5 0 5 0 有 11 0 11 0 無 117 8 109 68.0 有 9 1 8 11.0 無 119 7 112 59.0 有 4 2 2 50.0 無 124 6 118 4.8 表 3-2 調 査 対 象 の 環 境 調 査 結 果 ( 飼 育 状 況 )とトキソプラズマ 血 清 抗 体 価 判 定 の 関 係 調 査 項 目 飼 育 場 所 食 事 内 容 食 事 場 所 トイレの 場 所 住 宅 他 の 飼 育 猫 猫 以 外 の 飼 育 動 物 選 択 肢 総 数 ( 頭 ) 抗 体 価 陽 性 ( 頭 ) 陰 性 ( 頭 ) 陽 性 率 (%) 完 全 室 内 96 4 92 4.2 その 他 32 4 28 12.5 ドライフード 86 3 83 4.0 その 他 42 5 37 12.0 完 全 室 内 111 6 105 5.0 その 他 17 2 15 12.0 完 全 室 内 107 6 101 6.0 その 他 21 2 19 10.0 一 戸 建 て 79 3 76 3.8 集 合 住 宅 49 5 44 10.2 有 83 6 77 7.2 無 45 2 43 4.4 有 29 1 28 3.4 無 99 7 92 7.1
5 参 考 文 献 1. DUBEY JP, 1970.The Toxoplasma Gondii Oocyst from cat feces. J. Exp. Med. Oct 1; 132(4):636-62. 2. Harold Salant, Dan T. Spira, and Joseph Hamburger, 2010. A comparative analysis of coprologic diagnostic methods for detection of Toxoplama gondii in cats. Am. J. Trop. Med. Hyg., 82(5): 865-870. 3. Hermann DC, Maksimov A, Pantchev N, Vrhovec MG, Conraths FJ, and Schares G, 2011. Comparison of different commercial DNA extraction kits to detect Toxoplasma gondii oocysts in cat faeces. Berl Munch Tierarztl Wochenschr., Nov-Dec;124(11-12): 497-502. 4. Homan WL, Vercammen M, De Braekeleer J, Verschueren H, 2000. Identification of a 200- to 300-fold repetitive 529 bp DNA fragment in Toxoplasma gondii, and its use for diagnostic and quantitative PCR. Int J Parasitol 30: 69 75. 5. 今 泉 清 獣 医 公 衆 衛 生 学 学 窓 社 平 成 3 年 6. 小 俣 吉 孝 トキソプラズマ 症 : 原 虫 病 シリーズ 3 Small Animal Clinic (147):10-17, 2007 7. 環 境 省 人 と 動 物 の 共 通 感 染 症 に 関 するガイドライン 平 成 19 年 3 月 8. 佐 伯 英 治 ズーノーシスとしてのトキソプラズマに 関 する 最 近 の 情 報 平 成 25 年 10 月 9. 高 島 康 弘 猫 からヒトへのトキソプラズマ 感 染 を 防 ぐために 飼 い 主 に 説 明 すべきこと J-VET 2010.4 10. 名 古 屋 市 名 古 屋 市 獣 医 師 会 飼 猫 のトキソプラズマ 抗 体 保 有 率 調 査 平 成 9 年 度 人 畜 共 通 感 染 症 委 託 調 査 事 業 平 成 10 年 3 月