255 特 集 オープンソースの 大 きな 流 れ 自 動 車 部 品 開 発 における 大 規 模 流 体 計 算 への 取 り 組 み * 株 式 会 社 デンソー 技 術 管 理 部 CAE 開 発 設 計 促 進 室 野 村 悦 治 ( 原 稿 執 筆 時 (2012/2 月 )) 株 式 会 社 デンソー 技 術 管 理 部 CAE 開 発 設 計 促 進 室 今 川 洋 造 Open Work of Large-Scale Computational Fluid Dynamics for Development of Automobile Components Etsuji NOMURA, Engineering Admin. Div., CAE Design Promotion Div., DENSO CORPORATION Yozo IMAGAWA, Engineering Admin. Div., CAE Design Promotion Div., DENSO CORPORATION 1 はじめに CAE 分 野 における 最 近 のトピックスとして, 日 本 のスーパーコンピュータ 京 が 世 界 一 に 返 り 咲 いたことがあげられるが,かようにハードウェアの 性 能 向 上 は 止 まることなく, 企 業 実 務 においても 大 規 模 (といっても 100 コア 級 の) 計 算 に 対 する 課 題 はハードウェア 費 用 面 でほとんど 障 害 にならないレ ベルになってきた. 現 実 に 特 定 のアプリケーション に 関 わってソフトウェアベンダーのサポートを 得 た 上 での 活 用 事 例 1) も 散 見 されるようになってきてい るが,とくにソフトウェアのライセンス 費 用 を 含 め ると 莫 大 なコストがかかってしまうのが 難 点 であり, 普 通 の 技 術 者 が 一 般 的 な 研 究 予 算 の 範 囲 内 で 取 り 組 むことは 困 難 であった. 一 方,メジャーな 公 開 情 報 として 日 本 機 械 学 会 誌 でトピックス 紹 介 2) されたのを 皮 切 りに,オープン ソース CAE に 対 する 認 識 も 広 まり, 上 述 のライセン ス 費 用 面 での 課 題 が 解 消 されるのではないかという 期 待 も 高 まってきている. 2 本 寄 稿 の 目 的 筆 者 らは ここ8 年 ほどオープン CAE を 企 業 内 実 務 で 活 用 できるべく, 国 内 外 のオープン CAE に 関 わる 公 開 情 報 とオープンコミュニティでの 活 動 を 通 してこれらの 活 用 技 術 を 研 鑽 し, 社 内 外 にて 展 開 してきた 3,4). 個 人 的 な 事 情 になるが,2011 年 度 は 筆 者 が 企 業 人 としての 最 終 年 度 になることもあり,これまでに 習 * 448-8661 愛 知 県 刈 谷 市 昭 和 町 1-1 E-mail: etsuji_nomura@denso.co.jp ( 原 稿 執 筆 時 (2012/2 月 )) 得 した 活 用 ノウハウの 集 大 成 として, 実 用 的 な 大 規 模 計 算 に 向 けて 本 格 的 に 取 り 組 むこととした. 一 方, 年 初 にこの 取 り 組 みを 公 開 の 場 で 公 言 した ところ, 社 外 の 専 門 家 諸 氏 からの 推 薦 もあって,い くつかの 発 表 の 機 会 5,6) を 与 えていただけることと なった.オープン CAE の 普 及 には,ソースコード の 公 開 性 だけでなく, 活 用 ノウハウも 公 開 されるこ とが 必 要 と 考 え 取 り 組 んできた 立 場 として, 格 好 の 機 会 を 得 ることが 出 来 たと 捉 え 発 表 の 都 度, 開 発 途 上 中 の 最 新 成 果 として 断 片 的 ながらの 情 報 は 公 開 してきたつもりではあった. しかし その 場 の 聴 講 者 だけを 対 象 とした 筆 者 の プレゼン 能 力 の 問 題 もあって,オープンコミュニテ ィへの 貢 献 という 意 味 で 充 分 な 仕 事 が 出 来 たとは 言 い 難 かった.その 一 方,これら 発 表 機 会 をマイルス トーンとして 取 り 組 むことにより,わずか1 年 間 と いう 開 発 期 間 で,ゴールはいまだ 見 えたとは 言 えな い 状 況 であるが, 一 企 業 人 が 自 己 責 任 自 助 努 力 の 活 動 によってここまでやれたという 達 成 感 も 得 られ た. 但 し, 本 稿 で 出 来 た/ 出 来 なかった とあるのは, あくまで 私 見 である 点 はお 断 りしておかなければな らない. 著 者 の 無 知 に 起 因 して, 本 来 なら 実 現 可 能 な 点 を 見 落 としているなり, 使 い 方 を 間 違 えている などの 可 能 性 は 充 分 あり 得 る. それでもこの1 年 間 で,これまでの 人 生 で 経 験 し た 総 計 算 量 に 匹 敵 するほどの 大 量 の 計 算 を 実 施 して, これだけの 成 果 を 多 いとみるか 少 ないと 見 るか, 疑 問 の 向 きもあろうが,この 仕 事 の 面 白 さ を 読 者 に 伝 えることが 出 来 れば, 後 に 続 く 人 材 の 出 現 も 期
256 待 できるとして,この 1 年 間 の 活 動 を 時 系 列 的 に 振 り 返 って,ややドキュメンタリー 風 に 取 りまとめて みたものである. 3 計 算 対 象 と 計 算 の 目 的 当 社 の 主 力 製 品 として, 自 動 車 用 の 回 転 送 風 機 器 (エアコンの 送 風 機 やラジエータの 冷 却 ファンな ど)がある.これら 機 器 から 発 生 する 流 体 騒 音 ( 広 帯 域 騒 音 を 含 む)を 計 算 で 予 測 する 技 術 はおよそ 確 立 できている 7) とされているが, 現 実 の 製 品 問 題 へ 適 用 するには,1 億 メッシュ 級 の 計 算 規 模 が 必 要 と されており, 費 用 効 果 (とくに 商 用 ソフトウェアの ライセンス 費 用 )の 面 で,これまで 当 社 での 実 用 は 困 難 であった.よって,この 分 野 を 対 象 として 取 り 組 むこととした. なお, 簡 単 な 形 状 モデルに 対 し, 要 素 分 割 を 細 分 化 しただけの 大 規 模 計 算 ができることは 確 認 できて いたが, 実 務 的 な 課 題 としては, 現 実 の 製 品 CAD データを 用 いて, 安 定 な 計 算 が 出 来 て, 有 意 な 結 果 が 得 られるかどうかが 問 題 である. また, 最 終 的 な 利 用 者 としては, 解 析 が 専 門 では ないが, 解 析 経 験 は 有 る 開 発 設 計 者 を 想 定 してお り, 特 にメッシュ 作 成 において, 特 別 なスキルがな くてもモデル 作 成 が 出 来 ることを 前 提 として 取 り 組 んでいる. 筆 者 らはこれまで, 回 転 流 れ 場 の LES 計 算 が 可 能 なオープン 系 ソルバーの 代 表 例 として, 図 2 に 示 す 2 つのソフトについて 実 用 可 能 性 を 調 査 してき た. 図 中 にこれらの 代 表 的 な 特 徴 を 対 比 してあるが, 実 用 性 の 観 点 からはソルバーの 機 能 性 能 だけでな く,プリ ポストを 含 めた 使 い 勝 手 という 観 点 が 欠 かせない. 図 2 代 表 的 なオープンソース 系 ソルバー 巷 間 よく 言 われるのは オープン 系 はプリポスト が 弱 い という 指 摘 であり, 本 研 究 の 立 場 において も 特 にメッシュ 作 成 において 必 ずしもオープン 系 に 固 執 するものでなかったが,すべてオープン 系 の ソフトで 解 析 システムを 構 築 する 為 に 必 要 な 解 析 フ ローはほぼ 構 築 出 来 ていた( 図 3). 4 使 用 した 計 算 環 境 事 前 検 討 により,100 コア 級 の 計 算 規 模 が 必 要 と, 若 干 の 余 裕 もみて, 図 1に 示 す PC クラスターを 用 意 した. 計 算 ノードの 総 コア 数 168, 総 メモリ 336 GB である. 図 3 オープン CAE による 解 析 フロー 6 FrontFlow/Blue(FFB)の 活 用 5 事 前 調 査 図 1 計 算 環 境 FFB は, 文 部 科 学 省 IT プログラムの 戦 略 的 基 盤 ソフトウェアの 開 発 プロジェクトとして 2002 年 度 からスタートし,2003 年 にソフトウェアが 公 開 さ れて 以 来,ほぼ 半 年 に1 度 のペースでヴァージョン アップが 図 られ, 現 在 は イノベーション 基 盤 シミ ュレーションソフトウェアの 研 究 開 発 プロジェク ト 8) に 引 き 継 がれている. 筆 者 は 2004 年 から, 当 該 プロジェクトの 産 業 応 用 WG(ワーキング グルー プ)に 参 画 して, 利 用 技 術 を 習 得 し, 社 内 での 実 用
257 展 開 を 図 ってきた 9) が, 本 研 究 の 目 的 に 対 しては, いまだ 開 発 途 上 で 以 下 の 状 況 である. (1) FFB は 当 初,メッシュとして 全 六 面 体 または 全 四 面 体 の 単 一 要 素 モデルしか 取 り 扱 えなかった.そ の 当 時 において, 全 四 面 体 メッシュの 自 動 作 成 に 成 功 し, 数 100 万 要 素 での 計 算 は 実 施 済 みであった. しかし 全 四 面 体 によるメッシュ 分 割 では 境 界 層 の 分 解 能 に 難 があり, 為 にファンの 全 圧 性 能 など 流 体 騒 音 以 前 の 精 度 面 で 問 題 があった. (2) FFB もヴァージョン 6.1('2010/6) 以 降,マルチ 要 素 (レイヤーメッシュ) 対 応 版 がリリースされた. そこで,netgen 10), engrid 11) というオープン 系 のメ ッシュ 作 成 ツールを 駆 使 して, 全 四 面 体 と 境 界 層 は プリズム 要 素 からなる 自 動 メッシュ 作 成 方 法 を 確 立 した. なお 本 例 のように, 複 数 のオープン 系 のツールを 使 用 して 解 析 する 場 合 に,それぞれのツールをどう やってインストールするか,またインタフェースは どうするかなど, 個 別 の 利 用 環 境 に 応 じたカスタマ イズが 必 要 で, 一 般 的 な 利 用 者 はツールの 活 用 以 前 の 段 階 で 躓 いてしまう.そこでこれら 必 要 なツール と 簡 単 な GUI で 起 動 できるランチャーを,OS(オ ペレーティングシステム)を 含 めてオールインワン パッケージにしたシステムをマシンメージで 作 成 し, これを 利 用 してもらうことにしている. このうち 主 に CAE の 教 育 用 途 には DEXCS と 称 して, 共 同 研 究 先 の 岐 阜 高 専 にて 一 般 公 開 してい る 12) が,ここではこれらをベースに 本 用 途 にカスタ マイズしたパッケージのプロトタイプ 版 も 作 成 した ( 図 4). ータを 使 った 計 算 では,FFB の 計 算 がどうしても 発 散 してしまうという 問 題 に 直 面 することとなった. 原 因 はメッシュ 品 質 (アスペクト 比 が 悪 いなど) にあると 推 察 されたが,メッシュツール 側 での 対 応 が 困 難 であったのと, 後 述 する OpenFOAM におい ては 安 定 して 計 算 できたという 点 もあって,これ 以 上 のメッシュ 品 質 改 善 は 実 施 していない. (3) 一 方, 大 規 模 メッシュ 作 成 には 上 記 自 動 メッシ ュ 作 成 ツールの 並 列 計 算 が 必 要 でありながら 実 施 方 法 がわからないという 問 題 もあった.FFB にはリフ ァイナー 機 能 と 称 して, 計 算 サーバー 上 で 細 分 割 で きる 機 能 を 有 していたので,この 機 能 に 期 待 してい た.しかし,この 機 能 が 単 領 域 問 題 では 正 しく 動 作 したものの, 本 計 算 のような 回 転 領 域 をオーバーセ ット 計 算 する 事 例 において 不 具 合 が 生 じるという, 新 たな 問 題 も 発 生 した. 以 上 のような 状 況 で 現 時 点,FFB の 実 用 化 検 討 は ペンディング 状 態 であるが, 理 研 の VCAD 13) とのチ ューニングも 併 せて 機 能 強 化 を 計 画 しているという アナウンスもあり, 今 後 の 進 化 には 期 待 している. 7 OpenFOAM の 活 用 OpenFOAM 14) は, 英 国 の Nabla 社 が 開 発 販 売 し ていた 商 用 コード FOAM ( Field Operation and Manipulation )を,2004 年 12 月 にオープンソース ソフトウェアとして 公 開 したもので,2011 年 12 月 にはこれを 引 き 継 いだ OpenCFD 社 が SGI 社 に 買 収 されたものの,GPL として 開 発 継 続 がアナウンス されたことで 記 憶 に 新 しい. (1) 本 研 究 の 着 手 (2011 年 初 ) 時 点, 当 時 OpenCFD 社 がリリースしていた 本 家 版 (Ver.1.7)では, 局 所 的 にメッシュを 回 転 して 計 算 する 機 能 は 有 していなか ったが,FOAM の 創 始 者 の 一 人 である H.Jasak 氏 が 主 宰 するエクステンド 版 (Ver.1.6-ext) 15) において, GGI(General Grid Interface) 機 能 を 使 ってメッシュを 回 転 して 計 算 することが 可 能 であるとされていた. 図 4 DEXCS FFB ランチャー(プロトタイプ) しかし,ランチャーにサンプル 添 付 した 簡 単 な 形 状 データでの 計 算 は 出 来 ても, 実 際 の 製 品 CAD デ (2) OpenFOAM には 独 自 のメッシュ 作 成 ツールとし て snappyhexmesh があり, 作 成 原 理 の 概 要 を 図 5 に 示 しておいたが, 当 社 の 実 際 の 製 品 CAD データ を 使 ったメッシュ 作 成 において,すでにいくつかの 実 績 16) があった.
258 図 5 snappyhexmesh の 動 作 原 理 概 要 図 7 改 良 した 回 転 領 域 メッシュ 以 上 のような 状 況 で,ペンディングした FFB に 代 えて,OpenFOAM-1.6-ext の GGI 機 能 について, 2011 年 央 から 検 討 を 開 始 することとした. 7.1 snappyhexmesh の 課 題 と 対 応 策 snappyhexmesh によるメッシュ 作 成 では,メッシ ュを 形 状 データに 適 合 させる 段 階 で,メッシュ 品 質 とのトレードオフ 関 係 により, 必 ずしも 厳 密 な 形 状 適 合 が 行 われるものではないという 性 質 がある. メッシュが 静 止 している 通 常 の 計 算 において 本 質 的 な 問 題 とならない 場 合 も 多 いが, 図 6のように, 回 転 領 域 のメッシュを 静 止 領 域 に 対 して 相 対 的 に 回 転 させるという,いわゆるスライディングメッシュ 計 算 の 場 合 に 問 題 になる.つまり 回 転 領 域 と 静 止 領 域 の 境 界 面 が 滑 らかな 平 面 / 曲 面 として 定 義 できてい ないと, 領 域 間 のデータ 補 間 が 立 ち 行 かなくなって しまう. う 点 であった. 図 7は 回 転 領 域 と 合 致 するよう 基 礎 メッシュを 作 成 し, 内 部 にファン 形 状 の STL データを 配 置 して snappyhexmesh を 実 行 した 際 の 回 転 領 域 メッシュ 外 観 図 である. 回 転 領 域 内 部 のメッシュはファン 形 状 に 適 合 して 細 分 化 されているが, 境 界 面 が 図 5で 見 たような 凸 凹 になるなどの 不 具 合 を 生 じていないこ とが 見 てとれよう. な お, この 基 礎 メッシュを 作 成 するに は,blockMeshDict とよばれる 格 子 点 情 報 を 所 定 の 定 義 に 則 って 記 述 したテキストファイルを 用 意 してお く 必 要 があった.しかしこの 作 成 は 一 般 ユーザーの 手 に 負 えそうな 仕 事 でなかった.そこで 図 8や 図 9に 示 すように 解 析 領 域 と 回 転 領 域 を 定 義 するのに 必 要 な 主 要 寸 法 と 分 割 数 さえ 入 力 すれば,このファイル を 自 動 作 成 するマクロスクリプトも 自 作 した.ただ 自 作 といっても 類 似 のスクリプトファイルがチュー トリアルケースとして 存 在 していたので,これを 改 変 したものである. 図 6 snappyhexmesh の 課 題 そこで snappyhexmesh の 作 成 原 理 に 立 ち 返 ること とした.すなわち 形 状 適 合 の 前 段 階 で 基 礎 メッシュ を 作 成 しておく 必 要 があったが,これには OpenFOAM に 付 属 の blockmesh という 六 面 体 の 構 造 格 子 作 成 ツ ールで 作 成 する 方 法 が 標 準 手 順 となっていただけで, 六 面 体 は 必 ずしも 直 交 している 必 要 はなさそうとい 図 8 基 礎 メッシュの 自 動 作 成 イメージ 図 (ラジエータファンの 場 合 )
259 図 9 基 礎 メッシュの 自 動 作 成 イメージ 図 (シロッコファンの 場 合 ) 図 11 メッシュ 作 成 例 blockmesh というツールは,その 名 前 の 通 りメッ シュをブロックごとに 作 成 できるので, 容 易 に 回 転 領 域 と 静 止 領 域 を 分 割 でき,それぞれの 領 域 ごとに snappyhexmesh を 実 行 し, 形 状 データに 適 合 したメ ッシュを 作 成 できる. 最 終 的 にこれら 領 域 ごとのメ ッシュを 合 体 (mergemesh)し,ggi 機 能 を 使 ったス ライディングメッシュ 計 算 が 可 能 になる. 図 12 OpenFOAM の 並 列 性 能 ( 一 般 的 な 計 算 の 場 合 の 例 ) 図 10 snappyhexmesh によるスライディング メッシュ 作 成 のイメージ 図 図 11 には 実 際 に 作 成 したメッシュの 一 部 分 で あるが 詳 細 部 を 表 示 しておいた. 7.2 大 規 模 定 常 計 算 の 並 列 性 能 本 題 である GGI 機 能 を 使 ったスライディングメ ッシュ 計 算 の 性 能 を 見 る 前 に,OpenFOAM の 一 般 的 な 並 列 計 算 性 能 を 概 観 しておく. 図 12は OpenFOAM に 付 属 の 標 準 ソルバーの 一 つ である MRFSimpleFoam といって,マルチフレーム 定 常 計 算 を 実 施 した 際 の 性 能 をとりまとめたもので ある.メッシュは 図 10に 示 すうちの 全 体 を 同 時 に 一 体 で 作 成 する 方 法 で, 回 転 領 域 と 静 止 領 域 が 連 続 メ ッシュになっているものを 使 用 している. 回 転 領 域 とはいっても 実 際 にメッシュを 回 転 させるでなくコ リオリ 力 を 付 加 する 計 算 である. 連 続 メッシュであ れば 本 家 版 の OpenFOAM-1.7.x で 動 作 するので,この 性 能 を 基 準 と 考 えることにした. この 計 算 は 基 本 的 に 定 常 計 算 であり, 図 中 右 上 に 示 した 残 差 が 十 分 小 さくなるまでイタレーションを 繰 り 返 すことになる. 計 算 性 能 として, 実 用 観 点 か らはこれが 十 分 小 さくなる( 収 束 する)までの 計 算 時 間 で 評 価 すべきではあるが,メッシュの 規 模 や 品 質 に 応 じて 収 束 状 況 が 異 なるので,ソルバーの 基 本 的 な 計 算 能 力 という 面 で 実 用 計 算 時 間 は 指 標 に 出 来 ない. 専 門 的 にはプロファイラーを 使 って 評 価 する 方 法 もあると 聞 いているが, 筆 者 の 専 門 外 であった
260 ので,ここでは 上 述 のイタレーション1 回 に 要 する 計 算 時 間,またはその 逆 数 ( 速 度 )で 評 価 している. 図 中, 左 下 が,メッシュのセル( 要 素 ) 数 に 対 する 計 算 時 間 をプロットしたもので, 並 列 計 算 の 際 のコア 数 をパラメタにとっている.コア 数 が 一 定 であれば, 計 算 時 間 はほぼセル 数 に 比 例 している. 一 方, 右 下 の 図 は 同 一 のセル 数 の 計 算 にてコア 数 を 変 化 させることにより 計 算 速 度 がどう 変 化 する かをみたものであり,500 万 セル 以 上 の 計 算 であれば 100 コア 程 度 の 並 列 計 算 までほぼリニアに 計 算 速 度 が 上 昇 していることが 見 てとれる. 7.3 GGI ソルバーの 課 題 次 にスライディング 計 算 を 含 まない GGI ソルバ ーの 性 能 を 調 べてみた. 図 8における 連 続 メッシュ で 作 成 した 場 合 と, 不 連 続 メッシュで 作 成 した 場 合 のマルチフレーム 計 算 の 速 度 を 比 較 した. 不 連 続 メッシュでの 計 算 において, 連 続 メッシュ に 比 べて 明 らかに 計 算 速 度 の 低 下 が 見 られた.この 理 由 として 図 中 右 上 にあるように 回 転 境 界 面 間 の 補 間 計 算 をグローバル 計 算 に 依 存 しているかの 説 明 は あった.しかしここまでの 性 能 の 違 いになるとは 合 点 できなかったが, 現 実 として 受 け 止 めざるを 得 な かった. なおこの 比 較 データ 中 には, 連 続 メッシュで 作 成 した 場 合 とそうでない 場 合 のメッシュ 数 が 異 なる 点 と,OpenFOAM のヴァージョン 間 の 違 いも 存 在 する. ここに 詳 細 は 掲 載 していないが,この 速 度 差 傾 向 を 覆 すものではなかった. って,いよいよスライディングメッシュ 計 算 に 取 り 組 むこととした. 7.4 計 算 実 施 例 先 行 している 公 知 実 施 例 の 情 報 などから, 目 標 と すべきメッシュ 規 模 は 数 千 万 セルと 見 込 んでおり, 当 該 規 模 での 計 算 実 施 例 の 概 要 を 図 14 に 示 してお く.いまだ 計 算 精 度 を 検 証 できるレベルまで 至 って はいないが, 非 定 常 計 算 を 準 定 常 状 態 まで 安 定 して 計 算 できるようにはなってきており, 全 四 面 体 要 素 で 計 算 した 際 に 見 られた 全 圧 性 能 に 関 する 精 度 不 良 についても, 物 体 表 面 境 界 にレイヤーメッシュを 付 加 することで 解 消 できる 目 処 がついてきた. 図 14 具 体 的 な 計 算 実 施 例 非 定 常 LES 計 算 は 出 来 るようになったが, 計 算 精 度 には,メッシュ 品 質 や 計 算 スキームの 影 響 が 重 大 であろうことは 言 うまでもない. 本 題 である 騒 音 解 析 の 精 度 検 証 にはファンが 数 回 転 する 以 上 の 計 算 時 間 が 必 要 であるとされており,このまま 検 証 したと しても 膨 大 な 時 間 がかかってしまう. 特 にメッシュ 品 質 の 影 響 は 大 きく, 図 に 示 した2 つの 実 施 例 の 比 較 においても,ほぼ 同 等 のセル 数 な がら, 計 算 時 間 に 数 倍 の 隔 たりがある 点 が 読 み 取 れ よう. 図 13 オープン CAE による 解 析 フロー 以 上 見 てきたように,GGI ソルバーの 性 能 は 必 ず しも 十 分 満 足 できるものとは 言 い 難 かったが,それ でも 並 列 度 応 分 のスケーラビリティはありそうだっ たのと, 本 例 とは 異 なるケースで 性 能 が 出 たという データもあり, 開 発 途 上 技 術 であるという 期 待 もあ 7.5 メッシュ 作 成 ツールとメッシュ 品 質 すでに 述 べたように,メッシュ 作 成 方 法 としては 必 ずしもオープン 系 のツールを 使 用 することにとら われるものではなく, 当 社 では 商 用 ソフトである STAR-CCM+の 利 用 者 も 多 いので,このソフトを 使 って 作 成 したメッシュについても 検 討 した. 表 1 中,7 つのケースのうち, 左 側 4 つのケース が STAR-CCM+で 作 成 したもので,ツールに 習 熟 し た 解 析 専 任 者 が,マルチフレーム 定 常 計 算 用 に 作 成 したメッシュを 拝 借 したものである.OpenFOAM には,STAR-CCM+ で 作 成 したメッシュを OpenFOAM 用 のメッシュに 変 換 するツールも 付 属
261 しているので,これを 用 いて 変 換 した. 右 側 から 3 列 目 (casea)と 2 列 目 (caseb)が 本 稿 の snappyhexmesh によるもので, 図 14 の 実 施 例 に 対 応 している. 表 中 下 段 3 行 にて,OpenFOAM-1.6ext で 利 用 可 能 な 3 つのソルバーでの 計 算 安 定 性 を 評 価 した. の 作 成 時 間 などを 掲 載 した. 表 2 ポスト 処 理 に 必 要 とした 時 間 の 一 例 表 1 メッシュ 作 成 ツールの 違 い MRFSimpleFoam はすでに 述 べたマルチフレーム 定 常 計 算 ソルバーであり,メッシュを 回 転 させる 計 算 ではない. 本 計 算 に 関 しては,いずれのメッシュ においても 計 算 は 可 能 であった.しかし 残 りの2つ のソルバーは,メッシュをスライディングさせる 計 算 であり, 計 算 安 定 性 に 顕 著 な 違 いが 見 られた. 特 に STAR-CCM+で 作 成 したメッシュにおいて, 計 算 できないという 状 況 が 多 発 した. OpenFOAM には 独 自 のメッシュ 品 質 をチェック するツール(checkMesh)が 付 属 しており,このツ ールによる 解 析 結 果 を 表 中 の 中 段 に 転 記 しておいた. これによれば,STAR -CCM+で 作 成 したメッシュ 品 質 が 悪 いと 結 論 せざるを 得 なかった. 但 しもちろん この 結 論 は,OpenFOAM で 計 算 するという 限 定 事 象 であって,STAR-CCM+を 使 って 計 算 する 際 には, 内 部 的 に 何 らかの 補 正 があって, 安 定 した 計 算 が 出 来 るであろうことは 推 察 された. また, 図 14の2つの 計 算 事 例 の 計 算 時 間 の 違 いに ついては, 本 表 のメッシュ 品 質 ( 最 大 アスペクト 比, スキュー 面 不 良 など)の 違 いが 手 がかりになりそう な 感 触 も 得 られている. 7.6 ポスト 処 理 における 課 題 現 時 点 まだ 精 度 検 証 のステップに 至 っていないが, 当 初 の 目 論 見 通 りに 進 んでいないのには,もう 一 つ の 理 由 が 存 在 した. 並 列 計 算 の 計 算 サーバーごとに 分 散 して 計 算 したデータを 再 結 合 するのに 要 する 時 間 と, 計 算 結 果 の 可 視 化 の 問 題 である. 表 2に, 図 14で 示 した 2 つの 計 算 事 例 において, それぞれ 計 算 時 間 と 上 記 再 結 合 時 間, 可 視 化 用 動 画 計 算 結 果 をデータファイルとして 残 す1 出 力 ステ ップあたりのデータ 量 の 問 題 は 当 然 予 測 できていた 問 題 として, 再 結 合 に 要 する 時 間 は 想 定 外 であった. これは GGI 機 能 を 使 用 しない, 連 続 メッシュを 対 象 とした 通 常 の OpenFOAM による 並 列 計 算 を 実 施 した 場 合 の 時 間 に 比 べてもはるかに 過 大 であり, GGI 計 算 に 固 有 の 問 題 と 考 えられた. また 計 算 結 果 を 可 視 化 する 際 に ParaView 17) を 使 用 しているが,ParaView には OpenFOAM の 並 列 計 算 結 果 を 直 接 読 み 込 む 機 能 がある. 通 常 の OpenFOAM の 計 算 では 計 算 結 果 を 再 結 合 する 必 要 ないが,この GGI 計 算 用 に 並 列 分 割 したデータに は 対 応 していないという 事 情 があった. 計 算 に 要 し た 時 間 と 同 等,あるいはそれ 以 上 の 時 間 をかけて, 計 算 結 果 を 再 結 合 しないと 可 視 化 による 確 認 も 出 来 ないという 状 況 であった. 以 上 が 昨 年 までの 状 況 であり,ここまでの 本 稿 も 昨 年 12 月 のオープン CAE シンポジウム 2011 にて 経 過 報 告 した 内 容 6) をまとめ 直 したものである. 本 稿 中 で 引 用 した 資 料 もほとんど 同 一 であり, 本 稿 で 縮 小 して 読 み 辛 くなってしまったチャートは, 原 資 料 をオープン CAE 学 会 18) にて 公 開 しているので, 興 味 のある 方 はそちらの 資 料 を 参 照 いただきたい. 7.7 新 たな 展 開 昨 年 12 月 のオープン CAE シンポジウム 2011 にお けるトピックスの 一 つとして, 本 稿 中 でも 記 した OpenFOAM の 開 発 元 であった OpenCFD 社 が SGI 社 に 買 収 された 点 があげられた.そのシンポジウムが 終 わった 数 週 後, 従 来 の 1 年 に 1 回 程 度 であったヴ ァージョンアップサイクルが 短 縮 され, 早 くも 新 ヴ ァージョン(2.1.0)がリリースされることとなった. すでに 記 したが,それまで OpenFOAM の 本 家 版 には 本 稿 で 扱 った GGI 機 能 がなく,スライディン グメッシュ 計 算 は 言 うまでもなく,いわゆる 不 連 続 メッシュ 問 題 は 取 り 扱 うことができなかった.ここ に 昨 年 末 の 新 ヴァージョンでは,それまでの 沈 黙 を 破 って 新 たに AMI(Arbitrary Mesh Interface)と 称 し
262 て GGI と 同 等 機 能 がリリースされたのである. 本 稿 の 中 で 述 べてきたのは,エクステンド 版 の GGI 機 能 において, 基 本 機 能 としては 問 題 なさそう であったものの 計 算 性 能 面 で 通 常 の OpenFOAM 計 算 に 比 べ 見 劣 りする 点 であった.よって,この 新 ヴァージョンの AMI 機 能 を 試 さない 手 はないのが 当 然 であった. 本 稿 執 筆 時 点 (2012 年 2 月 )において,まだ 充 分 な 調 査 は 終 えておらず, 定 量 的 に 裏 打 ちされたデー タを 公 表 できるまでになっていないが,これまでに 判 った 事 を, 定 性 的 ながら 以 下 私 見 として 記 してお く. (1) OpenFOAM-1.6-ext 用 に 作 成 したメッシュを 使 っ て, 面 情 報 など AMI 用 にパラメタ 変 更 すれば OpenFOAM-2.1.x の AMI ソルバーにて 計 算 は 可 能 で あった( 構 築 したメッシュ 作 成 技 術 はそのまま 転 用 できたということ). (2) OpenFOAM -1.6-ext において 安 定 して 計 算 できて いたケースであれば,OpenFOAM -2.1.x においても 同 様 に 計 算 できそう. 但 し 現 時 点 で 確 認 できてい るのは 非 定 常 RANS 計 算 のみ. (3) OpenFOAM -1.6-ext において 課 題 とされていた 計 算 速 度 や 並 列 性 能 のスケーラビリティ, 並 列 関 連 処 理 速 度 は 大 幅 に 改 善 されており, 連 続 メッシュで 計 算 した 際 の 性 能 と 比 べて 遜 色 ない. (4) ParaView による 並 列 計 算 結 果 の 直 接 可 視 化 も 可 能 であった. 8 おわりに FFB から 始 めて,OpenFOAM-1.6-ext の GGI ソル バー, 最 後 には 誕 生 したばかりの OpenFOAM-2.1 の AMI ソルバーと 目 まぐるしい 1 年 であった.GGI が 良 いのか AMI なのか, 未 だ 結 論 には 至 っていない. 総 じて, 計 算 速 度 面 では AMI が 格 段 に 優 れ, 計 算 安 定 性 の 面 でやや 劣 るという 印 象 を 抱 いているが 計 算 スキームのパラメタなど,もう 少 し 詳 細 な 調 査 が 必 要 である.FFB も 次 期 ヴァージョンへの 期 待 は あり,いまだ 捨 て 難 い.しかし 一 企 業 人 として 小 職 に 残 された 時 間 はあと 少 ししかない. 大 規 模 クラスタ 計 算,といっても 100 コア 級 の 計 算 であり 京 スパコンには 及 ぶべくもないが,こ ういう 計 算 をやろうと 思 ったら 企 業 を 離 れた 個 人 の 立 場 では 成 し 得 なかったであろう. 一 方, 今 やマルチコア CPU を 搭 載 したパソコン が 当 たり 前 の 時 代 となり, 計 算 機 リソースはクラウ ドサービスとして 提 供 される 時 代 になりつつある. 科 学 技 術 計 算 用 のハイパフォーマンスクラウドサー ビスが 安 価 に 利 用 できるとなれば, 企 業 内 の 閉 じた 環 境 での CAE 活 用 は 時 代 遅 れになるかもしれない. 今 後 は 企 業 人 という 立 場 を 離 れることになるが,こ の 仕 事 は 引 き 続 きやっていくことになるんだろうと いう 予 感 を 抱 きながら, 残 された 企 業 人 としての 時 間 に 取 り 組 んでいる. 引 用 文 献 1) F.Perot, et al.: HVAC Bloweraeroacoustics predictions based on the Lattice Boltzmann Method, ASME-JSME-KSME Joint Fluids Eng. Conf., AJK2011-23018 (2011) 2) 若 嶋 : 海 外 で 進 む CFD 関 連 フリーソフトウェア 開 発, 日 本 機 械 学 会 誌 Vol. 111 No.1081 (2008) 3) 野 村 : デンソーのオープン CAE 活 用, 第 24 回 計 算 力 学 講 演 会 (CMD2011)F304 (2011) 4) 柴 田, 野 村 : 書 籍 はじめてのオープン CAE ISBN-13:978-4777515820 ( 工 学 社, 2011) 5) 野 村 : オープン CAE を 活 用 した 大 規 模 高 速 演 算 及 び 大 規 模 モデルの 取 扱, 日 本 機 械 学 会 年 次 大 会 ワークショップ W05200 (2011) 6) 野 村 : オープン CAE を 活 用 した 大 規 模 高 速 演 算 及 び 大 規 模 モデルの 取 扱,オープン CAE シンポジ ウム 2011 (2011) 7) 高 山, 加 藤 : プロペラファンから 発 生 する 空 力 騒 音 に 関 する 研 究, 生 産 研 究,Vol.63,No.1 (2011) 61-64 8) イ ノベーション 基 盤 シ ミ ュ レ ーション ソ フ ト ウ ェ ア の 研 究 開 発, http://www.ciss.iis.u-tokyo.ac.jp/riss/ 9) 若 原 他 : 簡 易 HVACから 発 生 する 流 体 騒 音 の 予 測, 数 値 流 体 力 学 シンポジウム 講 演 論 文 集 L3941B (2006) 10) Netgen, http://www.hpfem.jku.at/netgen/ 11) engrid, http://engits.eu/en/engrid 12) DEXCS, http://dexcs.gifu-nct.ac.jp 13) VCAD, http://vcad-hpsv.riken.jp/ 14) OpenFOAM, http://www.openfoam.com/ 15) The OpenFOAM Extend Project, http://extend-project.de/ 16) 鈴 木 他 :OpenFOAM を 用 いた HVAC シミュレータ, 自 動 車 技 術 会 学 術 講 演 会 前 刷 集 No.150-11 (2011) 17) ParaView, http://www.paraview.org/ 18) オープン CAE 学 会, http://www.opencae.jp/