子どもの将来から見る「赤ちゃんポスト」



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(5) 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しの 実 施 状 況 について 概 要 の 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しにおいては 俸 給 表 の 水 準 の 平 均 2の 引 き 下 げ 及 び 地 域 手 当 の 支 給 割 合 の 見 直 し 等 に 取 り 組 むとされている

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(4) 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しの 実 施 状 況 について 概 要 国 の 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しにおいては 俸 給 表 の 水 準 の 平 均 2の 引 下 げ 及 び 地 域 手 当 の 支 給 割 合 の 見 直 し 等 に 取 り 組 むとされている.

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Transcription:

主 要 記 事 の 要 旨 子 どもの 将 来 から 見 る 赤 ちゃんポスト ドイツの 現 状 と 比 較 して 落 美 都 里 1 熊 本 の 慈 恵 病 院 において 設 置 運 営 されている 赤 ちゃんポスト は 2006( 平 成 18) 年 11 月 の 計 画 発 表 時 から 各 方 面 で 論 争 を 惹 き 起 こした 賛 否 両 論 の 意 見 は 倫 理 的 な 観 点 からのものが 多 く 赤 ちゃんポスト の 運 用 が 始 まった 現 在 でも 議 論 は 終 息 していな い 本 稿 では 2007( 平 成 19) 年 10 月 に 当 該 取 組 みについて 先 行 するドイツ 連 邦 共 和 国 において 行 った 赤 ちゃんポスト の 実 情 に 関 する 調 査 (ハンブルク 州 及 び 連 邦 )の 結 果 を 踏 まえ 日 独 両 国 の 赤 ちゃんポスト の 現 状 を 比 較 しつつ 主 に 子 どもの 福 祉 の 観 点 か ら 我 が 国 の 赤 ちゃんポスト のあり 方 を 考 える 2 我 が 国 の 赤 ちゃんポスト で 保 護 された 子 どもは 報 道 では 現 在 児 童 福 祉 施 設 で 養 育 されているとされる 家 庭 に 恵 まれない 子 どもの 急 増 に 伴 い それらの 子 どもに 家 庭 に 代 わる 環 境 を 与 える 社 会 的 養 護 の 意 義 は 認 識 されてきており 里 親 制 度 は 近 年 改 革 が 図 られ たが 現 在 のところ 赤 ちゃんポスト で 保 護 された 子 どもが 里 子 になった 例 はない また 特 に 新 生 児 や 乳 児 を 保 護 対 象 とする 赤 ちゃんポスト で 保 護 された 子 どもの 場 合 には 特 別 養 子 縁 組 制 度 の 活 用 による 養 育 が 望 ましい 場 合 が 少 なくないと 考 えられる し かし 実 親 の 同 意 要 件 や 養 子 縁 組 斡 旋 体 制 の 未 整 備 のため その 実 現 は 容 易 ではない 3 一 方 ドイツでは 赤 ちゃんポスト に 預 けられた 子 どもは 実 親 が 引 き 取 る 場 合 を 除 き 専 門 部 局 である 養 子 縁 組 斡 旋 機 関 の 活 動 によって ほぼ 全 てに 養 子 縁 組 が 成 立 して おり 子 どもの 福 祉 の 観 点 からみて 我 が 国 に 比 べて 受 入 れ 体 制 が 充 実 しているといえ る しかし ドイツ 最 初 の 赤 ちゃんポスト があるハンブルク 州 政 府 では 当 初 見 込 ん だようには 新 生 児 の 遺 棄 や 殺 害 事 件 の 数 が 減 らなかったことを 理 由 に 現 在 は 赤 ちゃん ポスト を 推 奨 せず 妊 婦 や 母 親 に 対 する 相 談 体 制 等 の 支 援 充 実 を 図 る 施 策 を 行 っている 4 我 が 国 と 同 様 ドイツにも 赤 ちゃんポスト に 関 する 連 邦 法 は 存 在 せず 現 実 が 先 行 している 状 態 である そのため 現 行 連 邦 法 制 との 緊 張 関 係 が 問 題 視 されている 数 次 に わたって 連 邦 議 会 に 法 案 提 出 の 動 きがあったものの 成 立 に 至 らず 2007 年 11 月 に 出 された ドイツ 連 邦 政 府 からの 回 答 書 の 中 でも 赤 ちゃんポスト の 法 整 備 に 対 して 積 極 的 な 姿 勢 は 示 されていない 5 ドイツの 赤 ちゃんポスト には 移 民 問 題 の 深 刻 化 や 匿 名 出 産 制 度 の 存 在 自 己 の 出 自 を 知 る 権 利 への 配 慮 といった 背 景 がある これに 対 し 我 が 国 では 妊 婦 母 親 の 相 談 窓 口 の 不 足 周 知 不 足 といった 問 題 点 を 指 摘 でき ドイツとは 議 論 の 前 提 が 異 なってい る 我 が 国 においても これらの 問 題 点 を 改 善 する 方 向 で 施 策 を 行 い 赤 ちゃんポスト が 使 われなくても 済 むようにするとともに 預 けられた 場 合 にはその 子 どものために 養 子 縁 組 が 早 期 に 成 立 するよう 斡 旋 制 度 を 確 立 させることが 急 務 となる 3

レファレンス 平 成 20 年 6 月 号 子 どもの 将 来 から 見 る 赤 ちゃんポスト ドイツの 現 状 と 比 較 して 前 行 政 法 務 課 落 美 都 里 目 次 はじめに 赤 ちゃんポスト の 衝 撃 Ⅰ 我 が 国 における 赤 ちゃんポスト 1 設 置 までの 経 緯 2 設 置 後 の 展 開 3 赤 ちゃんポスト で 保 護 された 子 どもの 養 育 環 境 とその 問 題 点 Ⅱ ハンブルク 州 の 赤 ちゃんポスト の 現 状 1 設 置 までの 経 緯 2 赤 ちゃんポスト の 構 造 3 赤 ちゃんポスト に 対 する 賛 否 両 論 4 設 置 後 の 動 向 5 その 後 の 養 育 環 境 Ⅲ ドイツ 連 邦 共 和 国 の 赤 ちゃんポスト の 現 状 1 統 計 データ 2 赤 ちゃんポスト と 現 行 連 邦 法 制 との 緊 張 関 係 3 連 邦 法 制 定 への 動 き 4 現 連 邦 政 府 の 赤 ちゃんポスト に 対 する 姿 勢 Ⅳ 我 が 国 の 赤 ちゃんポスト の 特 徴 ドイツと 比 較 して 1 社 会 的 背 景 の 違 い ドイツにおける 移 民 問 題 の 深 刻 化 2 子 どもの 受 入 れ 体 制 の 不 備 3 匿 名 出 産 制 度 の 有 無 4 妊 婦 母 親 の 相 談 窓 口 の 不 足 周 知 不 足 5 自 己 の 出 自 を 知 る 権 利 への 配 慮 6 赤 ちゃんポスト の 名 称 の 問 題 おわりに 我 が 国 に 赤 ちゃんポスト は 必 要 か 国 立 国 会 図 書 館 調 査 及 び 立 法 考 査 局 53

はじめに 赤 ちゃんポスト の 衝 撃 2006( 平 成 18) 年 11 月 熊 本 市 のカトリック 系 医 療 施 設 である 慈 恵 病 院 が 発 表 した 赤 ちゃ んポスト (1) の 設 置 計 画 は 各 方 面 で 論 争 を 惹 き 起 こした 生 まれた 子 どもの 命 が 助 かること を 最 優 先 すべきか 設 置 が 安 易 な 育 児 放 棄 につ ながらないか 等 賛 否 両 論 の 意 見 は 倫 理 的 な 観 点 からのものが 多 く 赤 ちゃんポスト の 運 用 が 始 まった 現 在 でも 議 論 は 終 息 していな い また 子 どもを 赤 ちゃんポスト に 預 け ることの 是 非 についての 議 論 は 盛 んだが 預 け られた 子 どものその 後 の 養 育 環 境 等 我 が 国 で は 別 に 解 決 すべき 課 題 も 多 い 筆 者 は 2007( 平 成 19) 年 10 月 に 当 該 取 組 みについて 先 行 するドイツ 連 邦 共 和 国 において ハンブルク 州 及 び 連 邦 の 赤 ちゃんポスト の 実 情 について 調 査 を 行 い 関 係 者 から 話 を 伺 う 機 会 を 得 た (2) 本 稿 は この 調 査 の 結 果 を 踏 ま え 赤 ちゃんポスト に 預 けられた 子 どもの 福 祉 の 観 点 から 我 が 国 の 赤 ちゃんポスト のあり 方 を 考 えることを 目 的 とする なお 本 稿 では 育 児 が 不 可 能 又 はその 意 思 がない 親 等 が 主 に 新 生 児 の 子 どもを 匿 名 で 遺 棄 することができ かつ その 子 どもの 安 全 を 確 保 するための 特 別 の 設 備 等 を 備 えた 場 所 を 赤 ちゃんポスト と 定 義 し 本 文 では 便 宜 的 に 日 本 とドイツとを 問 わず 当 該 の 場 所 を 一 律 に 赤 ちゃんポスト と 記 述 することとす る Ⅰ 我 が 国 における 赤 ちゃんポスト 1 設 置 までの 経 緯 我 が 国 で 赤 ちゃんポスト が 設 置 された のは 慈 恵 病 院 が 最 初 ではない 1970 年 代 から 1980 年 代 にも コインロッカーへの 乳 児 の 置 き 去 りや 親 子 心 中 が 社 会 問 題 となった 時 期 があっ た (3) 1986( 昭 和 61) 年 群 馬 県 大 胡 町 ( 現 前 橋 市 )で 先 駆 けとなる 天 使 の 宿 が 設 置 され 6 年 間 に 約 10 人 の 子 どもが 預 けられた (4) 慈 恵 病 院 の 赤 ちゃんポスト は 蓮 田 太 二 理 事 長 らが2004( 平 成 16) 年 にドイツの 赤 ちゃ んポスト を 視 察 し 日 本 にもその 設 置 を 計 画 したことに 始 まる (5) 2006( 平 成 18) 年 11 月 の 計 画 発 表 後 慈 恵 病 院 は 医 療 法 ( 昭 和 23 年 法 律 第 205 号 ) 第 7 条 第 2 項 の 規 定 に 基 づく 施 設 変 更 (6) を 翌 月 熊 本 市 に 申 請 した 熊 本 市 は 厚 生 労 働 省 と 複 数 回 協 議 するなどしたが 赤 ちゃん ポスト という 施 設 の 設 置 自 体 の 是 非 はともか く 当 該 施 設 変 更 届 が 医 療 法 上 の 構 造 設 備 基 準 を 満 たしており 子 どもの 生 命 身 体 への 危 険 が 生 じないような 措 置 が 講 じられていることか ら 結 局 は 厚 生 労 働 省 も2007( 平 成 19) 年 3 月 当 該 施 設 変 更 は 医 療 法 上 違 法 ではないと 回 答 熊 本 市 も 同 年 4 月 に 設 置 を 許 可 した ただし 文 書 で 回 答 することによってその 設 置 を 厚 生 労 働 省 として 一 般 的 に 認 めたという 誤 解 を 与 え るおそれ (7) があるため 口 頭 での 回 答 となっ ⑴ 慈 恵 病 院 での 名 称 は こうのとりのゆりかご 慈 恵 病 院 HP http://jikei-hp.or.jp/yurikago/index.html ( 以 下 インターネット 情 報 は 全 て last access 2008.5.22). ⑵ 慈 恵 病 院 の 計 画 発 表 前 にミュンヘンの 赤 ちゃんポスト を 視 察 した 報 告 書 として 平 成 17 年 度 重 要 事 項 調 査 議 員 団 ( 第 三 班 ) 報 告 書 がある 参 議 院 HP http://www.sangiin.go.jp/japanese/koryu/juyo.htm ⑶ 1973 年 から1974 年 にかけて 嬰 児 の 死 体 が 駅 のコインロッカーで 発 見 される 事 件 が 相 次 いだ 失 われたのか 親 子 の 愛 朝 日 新 聞 1973.5.7,p.23 等 ⑷ 赤 ちゃんポスト 20 年 前 群 馬 にも 毎 日 新 聞 2007.5.8. ⑸ 慈 恵 病 院 が 赤 ちゃんポスト を 設 置 するに 至 った 背 景 について 蓮 田 太 二 赤 ちゃんポスト 設 置 の 決 意 Voice 2007.7,pp.114-119. ⑹ 我 が 国 の 現 行 法 では 赤 ちゃんポスト の 設 置 自 体 が 想 定 されていないため 赤 ちゃんポスト の 設 置 は 行 政 の 許 認 可 事 項 ではない ただし 本 件 では 病 院 設 備 の 一 部 を 赤 ちゃんポスト に 改 修 する 計 画 だったた め 医 療 法 上 の 施 設 変 更 届 を 要 した 本 文 及 び 表 内 の 設 置 許 可 とは 当 該 施 設 変 更 届 の 許 可 をいう 54

子 どもの 将 来 から 見 る 赤 ちゃんポスト 表 1 我 が 国 の 赤 ちゃんポスト 設 置 までの 経 緯 ( 発 言 は 主 要 なもの) 昭 和 61 年 群 馬 県 で 天 使 の 宿 設 置 ( 平 成 4 年 閉 鎖 ) 平 成 16 年 平 成 18 年 11 月 熊 本 の 慈 恵 病 院 ドイツで 赤 ちゃんポストを 視 察 慈 恵 病 院 が 赤 ちゃんポスト (こうのとりのゆりかご) 設 置 計 画 を 発 表 12 月 15 日 熊 本 市 に 設 置 計 画 を 申 請 12 月 18 日 熊 本 市 と 厚 生 労 働 省 が 協 議 平 成 19 年 2 月 22 日 熊 本 市 と 厚 生 労 働 省 が 協 議 厚 生 労 働 省 は 明 らかに 現 行 法 に 違 反 しているとは 言 い 切 れない との 見 解 を 示 す 2 月 23 日 安 倍 首 相 柳 澤 厚 労 相 高 市 少 子 化 男 女 共 同 参 画 担 当 相 (いずれも 当 時 )が 相 次 いで 赤 ちゃんポスト に 懸 念 を 示 す 発 言 (8) 3 月 12 日 長 勢 法 相 ( 当 時 )が ポストに 赤 ちゃんを 預 けた 保 護 者 に 保 護 責 任 者 遺 棄 罪 の 適 用 は 難 しいと 答 弁 3 月 20 日 厚 生 労 働 省 が 熊 本 市 に 口 頭 で 施 設 変 更 は 医 療 法 上 違 法 ではないと 回 答 (9) 4 月 5 日 熊 本 市 が 設 置 許 可 (10) 厚 生 労 働 省 による 通 知 5 月 1 日 赤 ちゃんポスト 完 成 5 月 10 日 赤 ちゃんポスト 運 用 開 始 ( 出 典 ) 各 種 新 聞 報 道 等 を 参 照 し 筆 者 作 成 た 慈 恵 病 院 は この 設 置 許 可 を 受 けて 赤 ちゃんポスト の 設 備 工 事 を 行 い 同 年 5 月 10 日 赤 ちゃんポスト の 運 営 がスタートした ( 表 1 参 照 ) 2 設 置 後 の 展 開 運 用 開 始 日 の5 月 10 日 に 本 来 新 生 児 を 対 象 とする 赤 ちゃんポスト では 想 定 されていな い3 歳 児 が 預 けられ 保 護 責 任 者 遺 棄 罪 成 立 の 可 否 を 熊 本 県 警 が 捜 査 した また 既 に 自 我 が 芽 生 えた3 歳 児 を 預 けに 来 た 父 親 の 道 義 的 倫 理 的 な 責 任 等 が 大 きな 議 論 を 呼 んだ 熊 本 市 が2008( 平 成 20) 年 5 月 20 日 に 公 表 し た 赤 ちゃんポスト の 運 用 結 果 によれば 運 用 開 始 日 の1 人 目 以 後 2008( 平 成 20) 年 3 月 末 までに 計 17 人 の 子 どもが 赤 ちゃんポスト で 保 護 されている( 表 2 参 照 ) (11) 赤 ちゃんポスト の 運 営 の 事 後 評 価 につい ては 明 らかな 違 法 性 が 生 じていないかを 検 証 する 短 期 的 な 検 証 (12) を 熊 本 市 が 子 どもの 遺 棄 を 助 長 していないかなどを 検 証 する 中 期 的 な 検 証 (13) を 熊 本 県 が それぞれ 事 務 局 とな ⑺ 第 166 回 国 会 参 議 院 予 算 委 員 会 会 議 録 第 8 号 ( 平 成 19 年 3 月 12 日 ),p.17( 柳 澤 厚 労 相 発 言 ). ⑻ 同 上,p.18.( 長 勢 法 相 発 言 ). ⑼ 幸 山 政 史 熊 本 市 長 は 病 院 への 留 意 事 項 として 1. 子 供 の 安 全 確 保 2. 相 談 機 能 強 化 3. 公 的 相 談 機 関 との 連 携 を 挙 げた 2007 年 4 月 5 日 市 長 記 者 会 見 (こうのとりのゆりかご) 熊 本 市 HP http://www.city. kumamoto.kumamoto.jp/content/web/shicho/kiji_list.asp?ls=58&pg=4&disp=1&sort=2007 ⑽ 出 産 や 育 児 に 悩 みを 持 つ 保 護 者 に 対 する 相 談 窓 口 の 周 知 等 について ( 平 成 19 年 4 月 5 日 雇 児 総 発 第 0405001 号 ) 本 通 知 は 冒 頭 で 保 護 者 が 子 どもを 置 き 去 りにする 行 為 は 本 来 あってはならない 行 為 である と 述 べ ている ⑾ こうのとりのゆりかご の 利 用 状 況 について 熊 本 市 HP http://www.city.kumamoto.kumamoto.jp/ content/web/asp/kiji_detail.asp?nw=1&id=5460&ls=6 従 来 病 院 側 や 熊 本 市 は 個 人 が 特 定 され 得 る 危 険 性 にかんがみ 預 けられた 人 数 や 状 況 については 1 年 に1 回 人 数 と 性 別 のみを 公 表 するとしていたが 多 く の 人 々による 社 会 的 検 証 の 必 要 性 を 考 慮 し 可 能 な 限 り 公 表 することが 望 ましいとの 専 門 部 会 の 基 本 的 考 え 方 を 受 け 保 護 された 子 どもの 推 定 年 齢 虐 待 の 疑 いの 有 無 身 元 が 判 明 した 場 合 の 父 母 などの 住 居 地 等 16 項 目 の 情 報 が 公 表 された なお 2007 年 8 月 8 日 に 預 けられた 子 どもは 両 親 が 病 院 側 との 相 談 の 後 約 10 日 後 に 思 い 直 して 引 き 取 りに 来 たとされる 一 度 障 害 の 子 置 いたが やはり 苦 しくても 見 捨 てられない 毎 日 新 聞 2007.9.12. 55

表 2 慈 恵 病 院 の 赤 ちゃんポスト で 保 護 された 子 どもの 数 ( 平 成 20 年 3 月 末 現 在 ) 平 成 19 年 5 月 1 人 6 月 2 人 7 月 1 人 8 月 3 人 9 月 1 人 12 月 3 人 平 成 20 年 1 月 1 人 3 月 4 人 時 期 不 明 1 人 合 計 17 人 ( 出 典 ) 各 種 新 聞 報 道 等 を 参 照 し 筆 者 作 成 り 連 携 して 行 うことが 決 定 している これまで 発 表 された 短 期 的 な 検 証 は い ずれも 運 用 状 況 に 刑 事 法 上 の 明 らかな 違 法 性 を 認 めないとして 子 どもの 救 済 事 例 について 一 定 の 評 価 を 与 えている 中 期 的 な 検 証 につ いては 2007( 平 成 19) 年 11 月 に 第 1 回 の 検 証 が 行 われており 2008( 平 成 20) 年 夏 に 中 間 報 告 がまとめられる 予 定 である 3 赤 ちゃんポスト で 保 護 された 子 どもの 養 育 環 境 とその 問 題 点 ⑴ 施 設 養 育 赤 ちゃんポスト の 役 割 は あくまでも 子 どもを 安 全 に 受 け 入 れるまでであり 子 どもが その 後 も 慈 恵 病 院 で 育 てられるわけではない 子 どものその 後 の 養 育 環 境 が 問 題 となる 現 行 法 上 両 親 が 不 明 の 棄 児 の 場 合 には 発 見 者 又 は 棄 児 発 見 の 申 告 を 受 けた 警 察 官 は 24 時 間 以 内 に 市 町 村 長 にその 旨 を 申 し 出 なけれ ばならず( 戸 籍 法 ( 昭 和 22 年 法 律 第 224 号 ) 第 57 条 第 1 項 ) 市 町 村 長 は 申 出 があった 際 は そ の 子 の 名 前 を 付 け 本 籍 を 定 める( 同 条 第 2 項 ) 同 時 に 発 見 者 は 児 童 福 祉 法 ( 昭 和 22 年 法 律 第 164 号 ) 上 の 要 保 護 児 童 として これ を 児 童 相 談 所 ( 以 下 児 相 という )に 通 告 す る 義 務 を 負 う( 児 童 福 祉 法 第 25 条 ) 児 相 は 通 常 乳 幼 児 を 対 象 とする 乳 児 院 等 児 童 福 祉 施 設 への 入 所 措 置 を 決 める (14) 一 方 仮 に 親 などが 後 から 名 乗 り 出 たもの の 子 どもを 引 き 取 らなかった 場 合 には 児 相 がその 子 どもの 状 況 や 家 庭 環 境 を 考 慮 した 上 その 必 要 性 を 認 めれば 児 童 福 祉 施 設 への 入 所 措 置 を 取 ることになる 現 在 赤 ちゃんポスト で 保 護 された 子 ども は 報 道 によれば 親 元 に 帰 った1 人 を 除 き 乳 児 院 等 の 児 童 福 祉 施 設 で 養 育 されている 乳 児 院 で 養 育 された 子 どもの61.2% 児 童 養 護 施 設 で 養 育 された 子 どもの56.5%は 自 立 まで 施 設 で 養 育 されるとされる (15) 我 が 国 の 児 童 養 護 施 設 の 約 7 割 は 1つの 大 きな 建 物 で 全 員 が 生 活 する 大 舎 制 である (16) これは 要 保 護 児 ⑿ 熊 本 市 の 要 保 護 児 童 対 策 地 域 協 議 会 の 中 に 学 識 者 からなる こうのとりのゆりかご 専 門 部 会 を 置 き 3ヶ 月 に1 回 検 証 された 第 1 回 検 証 結 果 の 概 要 は 特 集 赤 ちゃんポスト に 初 の 検 証 結 果 学 識 者 の 専 門 部 会 が 違 法 性 なし 妊 娠 相 談 件 数 急 増 熊 本 市 厚 生 福 祉 2007.11.16,pp.2-4.を 運 用 開 始 から 平 成 20 年 3 月 末 まで の 検 証 については こうのとりのゆりかご の 運 営 状 況 に 関 する 短 期 的 検 証 (1 年 間 ) 熊 本 市 HP http:// www.city.kumamoto.kumamoto.jp/content/web/upload/file/bun_23110_21senmonbukaihoukoku1nenkan.pdf を 参 照 ⒀ こうのとりのゆりかご 中 期 的 検 証 会 議 が 初 会 合 来 夏 中 間 報 告 へ 読 売 新 聞 ( 西 部 朝 刊 )2007.12.1. 熊 本 県 は 社 会 的 な 背 景 や 制 度 的 な 課 題 を 検 討 した 上 で 運 用 開 始 後 おおむね2 年 で 検 証 を 取 りまとめ 国 に 報 告 し 現 行 制 度 の 見 直 しや 法 改 正 につなげたい 意 向 であるという ⒁ 児 童 福 祉 施 設 とは 児 童 及 び 妊 産 婦 の 福 祉 を 図 るため 児 童 福 祉 法 に 基 づいて 国 又 は 都 道 府 県 が 設 置 するよう 定 められている 施 設 の 総 称 乳 児 院 ( 児 童 福 祉 法 第 37 条 )は 通 常 2 歳 未 満 の 子 どもが 児 童 養 護 施 設 ( 児 童 福 祉 法 第 41 条 )は2 歳 以 上 18 歳 未 満 の 子 どもが 入 所 する 平 成 16 年 の 児 童 福 祉 法 改 正 により, 年 齢 要 件 を 見 直 し 乳 児 院 に 小 学 校 就 学 前 までの 子 どもを 児 童 養 護 施 設 に 乳 児 を 入 所 させることができるようになった ⒂ 乳 児 院 児 については 現 在 の 乳 児 院 での 養 育 と 児 童 養 護 施 設 での 養 育 の 合 計 厚 生 労 働 省 Ⅲ 家 族 との 関 係 2 児 童 の 今 後 の 見 通 し 児 童 養 護 施 設 入 所 児 童 等 調 査 ( 平 成 15 年 2 月 1 日 現 在 ) http://www.mhlw. go.jp/houdou/2004/07/h0722-2.html 56

子 どもの 将 来 から 見 る 赤 ちゃんポスト 童 にできるだけ 早 期 に 家 庭 的 な 環 境 を 整 えると いう 児 童 福 祉 上 の 要 請 にそぐわないものであ る このような 問 題 点 に 対 応 するため 2000( 平 成 12) 年 に 地 域 社 会 の 民 間 住 宅 等 を 活 用 して 少 人 数 の 要 保 護 児 童 が 生 活 する 地 域 小 規 模 児 童 養 護 施 設 (グループホーム)を 導 入 する (17) 等 政 府 も 小 規 模 施 設 での 養 育 への 施 策 を 推 進 して いるところである (18) ⑵ 里 親 里 子 我 が 国 における 里 親 は 児 童 福 祉 法 第 6 条 の 3により 保 護 者 のない 児 童 又 は 保 護 者 に 監 護 させることが 不 適 当 であると 認 められる 児 童 ( 以 下 要 保 護 児 童 という )を 養 育 することを 希 望 する 者 であつて 都 道 府 県 知 事 が 適 当 と 認 めるものをいう と 定 義 されている (19) 里 親 制 度 は 児 童 福 祉 事 業 の 一 環 であり 里 親 と 里 子 (20) の 間 には 一 切 の 法 律 上 の 権 利 義 務 関 係 が 発 生 しない 点 里 親 委 託 は18 歳 で 終 了 する 点 等 が 養 子 縁 組 制 度 と 異 なる 点 である 里 親 制 度 は 施 設 養 護 と 並 んで 家 庭 に 恵 ま れない 子 どもにそれに 代 わる 環 境 を 与 える 社 会 的 養 護 の 体 系 を 支 える 重 要 な 制 度 である 社 会 的 養 護 が 必 要 な 児 童 の 増 加 を 背 景 にして 特 に 乳 幼 児 期 においては できるだけ 早 期 に 家 庭 的 な 環 境 の 中 で 養 育 されることが 必 要 とされ ている (21) ことから 里 親 制 度 の 活 用 が 図 られ た 2002( 平 成 14) 年 に 従 来 の 養 育 里 親 短 期 里 親 に 加 え 児 童 虐 待 を 受 けた 子 どもを 専 門 的 にケアする 専 門 里 親 3 親 等 内 の 子 どもを 養 育 する 親 族 里 親 の2つの 類 型 が 新 たに 加 えら れ 里 親 の 最 低 基 準 の 設 定 里 親 への 支 援 体 制 の 強 化 などの 改 革 (22) が 行 われている 里 親 委 託 の 斡 旋 に 関 する 業 務 を 行 うのは 各 地 の 児 相 である (23) 赤 ちゃんポスト で 保 護 された 子 どもも 里 子 として 里 親 に 委 託 されれ ば 18 歳 まで 里 親 家 庭 の 元 で 養 育 される 可 能 性 がある しかし 児 相 には 里 親 委 託 に 関 わる 専 任 の 職 員 が 慢 性 的 に 不 足 しているほか 職 員 の 異 動 が 多 く 里 親 とのパートナーシップを 作 る 上 で 大 きな 障 害 となっており 実 務 経 験 の 蓄 積 や 里 親 委 託 の 技 術 理 論 の 習 得 も 困 難 である との 問 題 点 が 指 摘 されている (24) ⑶ 養 子 縁 組 ⅰ 制 度 面 我 が 国 の 民 法 上 養 子 縁 組 制 度 は2 種 類 存 在 する 目 的 等 の 定 めがない 普 通 養 子 縁 組 制 度 ( 民 法 第 792 条 から 第 817 条 まで)と 子 の 福 祉 の 観 点 から 昭 和 63 年 に 新 たに 導 入 された 特 別 ⒃ 雇 用 均 等 児 童 家 庭 局 家 庭 福 祉 課 今 後 目 指 すべき 児 童 の 社 会 的 養 護 体 制 に 関 する 構 想 検 討 会 中 間 とりまとめ について p.11( 第 28 回 社 会 保 障 審 議 会 児 童 部 会 資 料 ( 平 成 19 年 8 月 21 日 開 催 ) 資 料 3-2). ⒄ 地 域 小 規 模 児 童 養 護 施 設 の 設 置 運 営 について ( 平 成 12 年 5 月 1 日 児 発 第 489 号 ) ⒅ また 第 169 回 国 会 では 小 規 模 住 宅 型 児 童 養 育 事 業 の 創 設 里 親 制 度 の 見 直 し 等 を 内 容 とする 児 童 福 祉 法 等 の 一 部 を 改 正 する 法 律 案 ( 閣 法 第 60 号 )が 提 出 されている ⒆ 里 親 に 関 する 定 義 規 定 は 平 成 17(2005) 年 の 児 童 福 祉 法 改 正 により 新 たに 設 けられた ⒇ 児 童 福 祉 法 及 び 関 係 省 令 上 里 子 という 用 語 は 使 われていない 正 しくは 里 親 家 庭 に 委 託 されている 要 保 護 児 童 であるが 長 すぎて 不 便 なので 現 場 では 里 子 と 通 称 している 湯 沢 雍 彦 編 著 里 親 入 門 ミネ ルヴァ 書 房,2005, p.2. 3 歳 頃 までの 大 人 とのかかわり 方 特 に 最 初 の1 年 は 大 人 への 信 頼 を 学 ぶ 最 も 大 切 な 時 期 であり この 時 期 に 接 する 愛 情 が 欠 如 すると 子 どもが 愛 着 障 害 となるおそれがある その 原 因 として 泣 いても 放 置 されたり 複 数 の 大 人 がいつも 違 った 対 応 をしたりすることにより 感 情 を 司 る 脳 神 経 回 路 が 強 化 されず 人 間 関 係 に 無 関 心 になり 良 心 や 社 会 性 が 育 ちにくくなることが 挙 げられる 厚 生 労 働 省 雇 用 均 等 児 童 家 庭 局 家 庭 福 祉 課 監 修 子 どもを 健 やかに 養 育 するために 里 親 として 子 どもと 生 活 をするあなたへ 日 本 児 童 福 祉 協 会,2003,p.69. 里 親 の 認 定 等 に 関 する 省 令 ( 平 成 14 年 厚 生 労 働 省 令 第 115 号 ) 及 び 里 親 が 行 う 養 育 に 関 する 最 低 基 準 ( 平 成 14 年 厚 生 労 働 省 令 第 116 号 )の 制 定 児 童 福 祉 法 第 27 条 第 1 項 第 3 号 第 32 条 第 1 項 里 親 の 認 定 等 に 関 する 省 令 第 3 条 菊 池 緑 日 本 で 里 親 制 度 が 利 用 されない 理 由 とは 国 際 比 較 研 究 を 通 して 言 えること 子 どもの 虐 待 とネ グレクト 9 巻 2 号,2007.8,pp.147-155. 57

表 3 我 が 国 の 普 通 養 子 縁 組 と 特 別 養 子 縁 組 の 異 同 ( )は 民 法 の 条 文 縁 組 の 方 式 普 通 養 子 養 子 縁 組 契 約 (ただし 未 成 年 者 を 養 子 とする 場 合 には 原 則 として 家 庭 裁 判 所 の 許 可 が 必 要 第 798 条 ) 特 別 養 子 家 庭 裁 判 所 の 審 判 により 成 立 ( 第 817 条 の 2 ) 縁 組 の 要 件 単 身 者 の 縁 組 可 能 夫 婦 共 同 縁 組 に 限 る( 第 817 条 の3) 養 親 の 年 齢 成 年 以 上 ( 第 792 条 ) ただし 養 子 より 年 長 でなけ ればならない( 第 793 条 ) 少 なくとも 夫 婦 の 一 方 が25 歳 以 上 ( 第 817 条 の 4 ) 養 子 の 年 齢 特 になし 原 則 として6 歳 未 満 ( 第 817 条 の 5 ) 実 親 の 同 意 養 子 となる 者 が15 歳 未 満 であるときは 法 定 代 理 人 が 縁 組 を 代 諾 する( 第 797 条 第 1 項 ) 原 則 として 必 要 ( 第 817 条 の 6 ) 試 験 養 育 期 間 不 要 6 ヶ 月 以 上 ( 第 817 条 の 8 ) 実 父 母 及 びその 親 族 との 法 律 関 係 存 続 終 了 ( 第 817 条 の 9 ) 戸 籍 上 の 記 載 実 父 母 と 養 父 母 の 氏 名 続 柄 記 載 は 養 子 養 女 身 分 事 項 に 縁 組 の 事 実 を 記 載 養 父 母 の 氏 名 のみ 続 柄 記 載 は 長 男 長 女 一 見 しただけでは 養 子 縁 組 の 事 実 は 分 からない 離 縁 当 事 者 の 協 議 によりいつでも 可 ( 第 811 条 以 下 ) 養 子 の 利 益 のため 特 に 必 要 な 場 合 に 限 り 家 庭 裁 判 所 の 審 判 で 行 う 養 親 からの 離 縁 不 可 ( 第 817 条 の10) ( 出 典 ) 横 田 和 子 特 別 養 子 縁 組 制 度 をご 存 知 ですか? 周 産 期 治 療 35 巻 10 号, 2006.10, pp.1415-1418 等 を 参 照 して 筆 者 作 成 養 子 縁 組 制 度 ( 同 法 第 817 条 の2から 第 872 条 の11 まで)である いずれも 養 親 と 養 子 との 間 に 法 律 上 の 親 子 関 係 を 発 生 させ また 離 縁 がな されない 限 りこの 関 係 は 一 生 続 く 普 通 養 子 縁 組 と 特 別 養 子 縁 組 の 要 件 手 続 等 の 異 同 は 表 3 のとおりである 特 別 養 子 縁 組 は 父 母 による 養 子 となる 者 の 監 護 が 著 しく 困 難 又 は 不 適 当 であることその 他 特 別 の 事 情 がある 場 合 において 子 の 利 益 の ため 特 に 必 要 があると 認 めるとき ( 民 法 第 817 条 の7)に 限 り 認 められる 赤 ちゃんポスト で 保 護 された 子 どもの 場 合 は 同 条 の 要 保 護 要 件 を 満 たすことから 特 別 養 子 縁 組 制 度 の 利 用 が 可 能 である ただし 特 別 養 子 縁 組 の 成 立 に は 原 則 実 親 の 同 意 が 必 要 となるため 赤 ちゃ んポスト で 保 護 され 実 親 の 身 元 が 不 明 のまま の 子 どもの 場 合 には 父 母 がその 意 思 を 表 示 することができない 場 合 又 は 父 母 による 虐 待 悪 意 の 遺 棄 その 他 養 子 となる 者 の 利 益 を 著 しく 害 する 事 由 ( 第 817 条 の6ただし 書 )ありと 家 庭 裁 判 所 が 判 断 することが 必 要 となる ⅱ 運 用 面 特 に 我 が 国 の 養 子 縁 組 斡 旋 制 度 に ついて 子 どもに 恒 久 的 な 家 庭 環 境 を 提 供 するという 見 地 からは 養 子 縁 組 特 に 乳 幼 児 段 階 での 特 別 養 子 縁 組 の 成 立 が 子 の 福 祉 に 適 合 的 であ る そのためには 家 庭 での 養 育 を 必 要 とする 子 どもと 子 どもの 養 育 を 希 望 する 者 とを 結 び 付 けるシステムが 必 要 であるが 我 が 国 の 養 子 縁 組 斡 旋 制 度 は 決 して 十 分 に 機 能 していない 我 が 国 の 養 子 縁 組 斡 旋 制 度 の 問 題 点 は 以 下 の とおりである (25) 我 が 国 の 養 子 縁 組 斡 旋 制 度 は 大 別 して 児 相 によるものと 民 間 事 業 者 によるものと がある 児 相 による 養 子 縁 組 斡 旋 業 務 は 要 保 護 児 童 の 福 祉 を 保 障 する 責 任 を 負 う 国 及 び 地 方 公 共 団 体 ( 児 童 福 祉 法 第 2 条 )が 行 う 行 政 措 置 であるが 里 親 委 託 の 斡 旋 と 中 川 良 延 第 二 部 1 章 日 本 の 養 子 縁 組 斡 旋 制 度 の 概 要 湯 沢 雍 彦 編 要 保 護 児 童 養 子 斡 旋 の 国 際 比 較 日 本 加 除 出 版,2007,pp.25-31. 58

子 どもの 将 来 から 見 る 赤 ちゃんポスト 同 様 の 専 門 職 員 不 足 専 門 性 の 蓄 積 不 足 の 問 題 を 抱 えている また 児 相 による 養 子 縁 組 斡 旋 は 児 相 が 子 どもの 障 害 の 有 無 や 発 達 の 程 度 等 を 観 察 した 後 個 人 の 家 庭 に 託 置 ( 里 親 委 託 )し 一 定 期 間 を 置 いて 養 親 希 望 者 から 養 子 縁 組 の 申 立 てがなされることから 養 親 との 信 頼 関 係 形 成 が 困 難 になり 易 い 比 較 的 年 長 の 児 童 が 斡 旋 される 傾 向 にあるという 指 摘 も ある (26) さらに 特 別 養 子 縁 組 について は 子 どもに 実 親 との 法 的 な 親 子 関 係 断 絶 という 重 大 な 効 果 をもたらすこともあり 斡 旋 業 務 に 積 極 的 な 児 相 と 慎 重 な 児 相 が 存 在 し 取 組 みに 差 異 があるという 指 摘 もあ る (27) 一 方 民 間 事 業 者 による 養 子 縁 組 斡 旋 業 務 は 1987( 昭 和 62) 年 の 厚 生 省 の 通 知 (28) に より 第 2 種 社 会 福 祉 事 業 ( 社 会 福 祉 法 ( 昭 和 26 年 法 律 第 45 号 ) 第 2 条 第 3 項 第 2 号 )に 該 当 するとして 事 業 者 の 届 出 制 ( 同 法 第 64 条 第 1 項 )となっている 民 間 事 業 者 は 最 初 の 届 出 時 に 一 定 の 事 項 について 都 道 府 県 知 事 に 報 告 義 務 を 負 い それ 以 後 も 届 出 事 項 の 変 更 があった 場 合 はその 旨 を 届 け 出 なければならないとされるほか 事 業 報 告 書 や 収 支 決 算 書 の 提 出 義 務 も 課 されてい る そして 適 正 な 斡 旋 が 行 われていない 疑 いがある 場 合 には 都 道 府 県 知 事 は 当 該 事 業 者 への 立 入 り 調 査 権 を 有 する ただ し 民 間 の 養 子 縁 組 斡 旋 事 業 者 に 対 する 実 態 調 査 (29) によれば 現 在 斡 旋 事 業 を 行 っ ている23 団 体 個 人 のうち 届 出 を 行 って いるのは8 事 業 者 届 出 を 行 わず 活 動 して いるのは15 事 業 者 であって 届 出 制 による 事 業 適 正 の 確 保 が 図 られているとは 言 い 難 い (30) 民 間 事 業 者 による 養 子 縁 組 斡 旋 業 務 の 場 合 特 に 問 題 となるのは 斡 旋 費 用 受 取 り の 問 題 である 営 利 を 目 的 とした 養 子 縁 組 斡 旋 は 禁 止 されている( 児 童 福 祉 法 第 34 条 第 1 項 第 8 号 )が 昭 和 62 年 の 通 知 でも 交 通 通 信 等 に 要 する 実 費 又 はそれ 以 下 の 額 を 徴 収 することは 差 し 支 えない とされて いることから 斡 旋 費 用 名 目 で 高 額 の 金 銭 を 要 求 する 民 間 事 業 者 の 存 在 が 指 摘 された ほか 民 間 事 業 者 を 監 督 指 導 する 自 治 体 担 当 者 の 間 でも 混 乱 があった そのため 厚 生 労 働 省 は 2006( 平 成 18) 年 通 知 に より 民 間 の 養 子 縁 組 斡 旋 事 業 者 を 対 象 とす るガイドラインを 策 定 し 徴 収 可 能 な 額 の 判 断 基 準 を 明 確 化 している (31) Ⅱ ハンブルク 州 の 赤 ちゃんポスト の 現 状 慈 恵 病 院 の 赤 ちゃんポスト は ドイツの ハンブルク 州 (32) の 事 例 を 参 考 にして 設 置 され たと 言 われている では 先 行 するハンブルク 鈴 木 博 人 第 2 章 日 本 の 養 子 縁 組 斡 旋 をめぐる 課 題 養 子 と 里 親 を 考 える 会 養 子 と 里 親 日 本 外 国 の 未 成 年 養 子 制 度 と 斡 旋 問 題 日 本 加 除 出 版,2001,pp.33-56. 特 別 養 子 縁 組 に 積 極 的 な 児 相 の 例 として 愛 知 県 の 児 相 が 挙 げられる 養 子 縁 組 里 親 委 託 を 積 極 活 用 早 く 家 庭 の 中 へ 東 京 新 聞 2007.4.2. 養 子 縁 組 あっせん 事 業 の 指 導 について ( 昭 和 62 年 10 月 31 日 児 発 902 号 ) 詳 細 は 菊 池 緑 湯 沢 雍 彦 第 二 部 2 章 民 間 の 養 子 縁 組 斡 旋 事 業 に 関 する 調 査 研 究 と 考 察 湯 沢 雍 彦 編 要 保 護 児 童 養 子 斡 旋 の 国 際 比 較 日 本 加 除 出 版,2007,pp.33-85. 届 出 を 行 わない 事 業 者 は 主 に 斡 旋 行 為 を 反 復 継 続 して 行 っていないことをその 理 由 とする 現 行 届 出 制 の 問 題 点 の 指 摘 及 び 民 間 事 業 者 を 指 導 監 督 する 都 道 府 県 等 の 自 治 体 の 担 当 者 の 立 場 から 許 認 可 制 採 用 に 賛 成 する 意 見 について 中 川 良 延 第 二 部 3 章 監 督 機 関 に 対 する 調 査 の 結 果 湯 沢 雍 彦 編 要 保 護 児 童 養 子 斡 旋 の 国 際 比 較 日 本 加 除 出 版,2007,pp.87-95. 養 子 縁 組 あっせん 事 業 を 行 う 者 が 養 子 の 養 育 を 希 望 する 者 から 受 け 取 る 金 品 に 係 る 指 導 等 について ( 平 成 18 年 8 月 28 日 雇 児 福 発 第 0828001 号 ) 59

州 の 赤 ちゃんポスト (33) は いかなる 経 緯 で 導 入 され 現 在 どのように 展 開 しているのだろ うか ハンブルク 州 における 赤 ちゃんポスト の 実 態 について 見 ていきたい なお 以 下 の 記 述 の 典 拠 となった 聞 取 り 調 査 は 平 成 19 年 10 月 に 筆 者 がハンブルク 州 及 び 連 邦 の 関 係 機 関 を 訪 問 した 時 に 実 施 したものであ る 1 設 置 までの 経 緯 ドイツの 赤 ちゃんポスト の 設 置 は 1999 年 ハンブルク 州 の 登 録 社 団 (e.v.) (34) シュテル ニ パルク(SterniPark (35) )が 始 めた 捨 てら た 場 所 すなわち 貧 困 層 や 失 業 者 や 監 獄 帰 りの 人 が 多 く 赤 ちゃんを 育 てられない 人 が 多 い 場 所 である ことを 挙 げている (38) 2 赤 ちゃんポスト の 構 造 シュテルニ パルクの 設 置 した 赤 ちゃんポ スト は ドイツにおける 先 駆 けであるため その 後 各 地 で 設 置 された 赤 ちゃんポスト も 設 備 の 構 造 はおおむね 類 似 している そこで シュテルニ パルクの 赤 ちゃんポスト の 構 造 を 紹 介 する 赤 ちゃんポスト の 中 には 適 温 に 保 温 され たベッドがあり 赤 ちゃんが 置 かれるとアラー れた 赤 ちゃん プロジェクト (Projekt Findelbaby)に 端 を 発 する このプロジェクトは 1) 妊 娠 や 出 産 相 談 の 無 料 コールライン 2) 赤 ちゃんポスト の 設 置 3) 匿 名 出 産 制 度 (36) などの 出 産 支 援 及 び 出 産 後 の 母 子 を 保 護 する 支 援 施 設 の 運 営 を 柱 とする (37) 同 年 ハンブルクでは 赤 ちゃんが 遺 棄 され 死 亡 後 に 発 見 されるという 事 件 が 多 数 発 生 した ハンブ ルクの 冬 は 寒 く その 多 くが 凍 死 していたこと から 暖 かく 安 全 な 場 所 で 赤 ちゃんを 保 護 する ことができる 設 備 として 赤 ちゃんポスト が 考 案 され 2000 年 4 月 に ハンブルクのアルト ナ 区 で 運 営 が 開 始 された この 地 区 を 選 んだ 理 由 として シュテルニ パルク 側 は 設 置 する 必 要 性 があると 判 断 し [ 写 真 1 赤 ちゃんポスト 外 観 ] 正 式 名 称 は 自 由 ハンザ 都 市 ハンブルク ハンブルクは 一 市 で 連 邦 のラントを 構 成 する 都 市 州 であり 中 世 自 由 都 市 以 来 の 伝 統 を 有 する 人 口 は 約 170 万 人 (2005) 7つの 行 政 区 に 分 かれる ドイツでの 名 称 は 設 置 している 機 関 独 自 の 呼 び 方 等 もあるが 通 称 は Babyklappe. 赤 ん 坊 を 示 す Baby と 蓋 や 開 閉 する 扉 を 表 すドイツ 語 の Klappe との 造 語 であると 言 われている 春 田 嘉 彦 ドイツのベビー クラッペ(Babyklappe) その 現 状 と 賛 否 論 争 ケース 研 究 285 号,2005.3,pp.198-204. eingetragener Vereinの 略 ドイツの 民 間 非 営 利 団 体 の 一 形 態 シュテルニ パルクは 保 育 所 や 母 子 支 援 施 設 を 運 営 する 社 会 福 祉 団 体 である 現 在 本 文 に 述 べたアルトナ 区 以 外 に ハンブルク 郊 外 のヴィルヘルムスブルクにも 赤 ちゃんポスト を 設 置 し 2007 年 9 月 さらにデン マークに 近 いドイツ 北 部 の 都 市 フレンスブルクにも 3 箇 所 目 を 開 設 している 匿 名 出 産 制 度 とは 母 親 が 全 く 身 元 を 明 かさずに 病 院 に 入 院 し 出 産 後 子 どもを 病 院 に 預 けて 立 ち 去 ることを 認 める 制 度 のことである 詳 しくはシュテルニ パルクHP http://www.sternipark.de/findelbaby/index.asp 参 照 聞 取 り 調 査 における 赤 ちゃんポスト 担 当 スタッフFr.Yasemin Degukのコメントによる 訪 問 先 SterniPark e.v.(kinderhaus) Goethestrasse 25-27, 22767 Hamburg, 訪 問 日 2007 年 10 月 8 日 60

子 どもの 将 来 から 見 る 赤 ちゃんポスト ベッドのみを 映 しているので 匿 名 性 が 確 保 さ れている ベッドと 扉 の 間 にはカーテンもあ り 職 員 が 駆 け 付 けても 立 ち 去 る 親 の 顔 が 見 えないようになっている 3 赤 ちゃんポスト に 対 する 賛 否 両 論 ハンブルク 州 での 赤 ちゃんポスト 設 置 に 関 して 世 論 は 割 れたとのことである 主 な 賛 否 の 意 見 は 表 4 のとおりである [ 写 真 2 赤 ちゃんポスト 内 部 ] ムが 鳴 って 職 員 が 駆 け 付 ける 一 度 蓋 を 開 けて 赤 ちゃんを 置 いたら 連 れ 去 り 等 を 防 ぐため 二 度 とその 蓋 は 開 かない ただ 親 が 思 い 直 す ことを 想 定 して 母 親 向 けに 手 紙 が 常 備 されて おり それを 持 っていくことができる 手 紙 の 表 紙 には 置 いていく 子 どもの 足 型 か 手 形 を 押 せるようなスペースがあり それ 用 のスタンプ 台 が 扉 に 取 り 付 けられている 足 型 や 手 形 と 子 どもを 照 合 することで その 後 思 い 直 して 親 が 引 き 取 りに 訪 れた 場 合 の 動 かぬ 証 拠 となる 監 視 カメラが 設 置 されているが 子 どもの 4 設 置 後 の 動 向 ⑴ 統 計 データ ハンブルク 州 では シュテルニ パルクが 運 営 する2 箇 所 の 他 2003 年 小 児 科 を 併 設 する 医 療 施 設 が 運 営 する 赤 ちゃんポスト が 新 た に3 箇 所 開 設 された (40) 赤 ちゃんポスト で 保 護 された 子 どもの 数 の 統 計 は 表 5 のと おりである (41) 参 考 までに ハンブルク 州 の 匿 名 出 産 (42) の 統 計 を 併 記 する 自 宅 等 で 秘 密 裏 に 出 産 し そ の 後 に 生 まれた 子 どもを 預 けに 来 るのが 赤 ちゃんポスト であるのに 対 し 匿 名 出 産 は 医 表 4 赤 ちゃんポスト に 対 する 主 な 賛 否 の 意 見 賛 成 意 見 反 対 意 見 困 難 な 状 態 にある 母 親 による 新 生 児 の 遺 棄 や 殺 害 を 防 止 する 妊 娠 を 隠 したい 女 性 ( 特 に10 代 の 若 い 母 親 不 法 滞 在 の 外 国 人 性 的 又 は 身 体 的 暴 力 の 被 害 者 )の 助 けになる 困 難 な 状 態 にある 母 親 は 通 常 赤 ちゃんポストを 使 うことができないので 結 果 的 に 嬰 児 殺 を 防 ぐことができな い(たとえ 赤 ちゃんポストの 制 度 を 事 前 に 知 っていたとしても 出 産 時 に 正 常 な 判 断 をできるとは 思 えない 知 っ ていて 窓 から 子 どもを 投 げ 捨 てた 例 もあった) ハンブルクに 5 つも 赤 ちゃんポスト があるのに 過 去 数 年 間 にわたって 嬰 児 殺 の 事 件 は 続 いている 赤 ちゃんポスト は 捨 て 子 を 助 長 している もし 赤 ちゃんポスト がなければ 母 親 はカウンセリングや 少 年 局 (Jugendamt (39) )のサポートを 受 けたり 通 常 の 手 続 で 里 子 や 養 子 に 出 したりする 法 的 な 可 能 性 を 持 っていた 匿 名 性 により 預 けられた 子 どもが 自 分 の 出 自 を 知 る 手 段 を 断 たれてしまう ( 出 典 ) 聞 取 り 調 査 を 基 に 筆 者 作 成 郡 あるいは 郡 に 属 さない 大 都 市 である 地 方 自 治 体 が 少 年 援 助 の 任 務 を 行 わせるために 設 置 する 専 門 行 政 機 関 高 橋 由 紀 子 第 三 部 3 章 ドイツの 養 子 縁 組 斡 旋 制 度 現 実 の 問 題 に 追 いつこうとする 法 の 努 力 湯 沢 雍 彦 編 要 保 護 児 童 養 子 斡 旋 の 国 際 比 較 日 本 加 除 出 版,2007,p.174. この 赤 ちゃんポスト に 預 けられた 子 どもは 必 要 に 応 じて 医 療 措 置 が 受 けられる ただし 2000 年 から2002 年 までは ドイツ 全 土 で 赤 ちゃんポストの 数 自 体 が 非 常 に 少 なかったため 他 州 の 人 がシュテルニ パルクの2つの 赤 ちゃんポストに 赤 ちゃんを 預 けに 来 た 可 能 性 があるとのこと 聞 取 り 調 査 にお けるハンブルク 州 政 府 家 族 政 策 局 担 当 官 Fr. Brigitte Hullmannのコメントによる 訪 問 先 Behörde für Soziales, Familie,Gesundheit u. Verbraucherschutz Hamburger Str. 37,22083,Hamburg, 訪 問 日 2007 年 10 月 9 日 ハンブルク 州 では 産 科 に 対 応 可 能 なすべての 病 院 で 匿 名 出 産 が 可 能 である 61

表 5 ハンブルク 州 の 赤 ちゃんポスト で 保 護 され た 子 ども 及 び 匿 名 出 産 で 生 まれた 子 どもの 数 年 次 赤 ちゃんポスト 匿 名 出 産 (43) 2000 年 7 人 ( 不 明 ) 2001 年 7 人 ( 不 明 ) 2002 年 4 人 ( 不 明 ) 2003 年 1 人 2 人 2004 年 2 人 4 人 2005 年 3 人 7 人 2006 年 6 人 3 人 2007 年 ( 1 月 - 6 月 ) 2 人 2 人 計 32 人 18 人 ( 出 典 ) 聞 取 り 調 査 を 基 に 筆 者 作 成 療 施 設 において 出 産 できるため 母 子 の 健 康 が 確 保 される 点 で 注 目 すべき 制 度 である る また このプログラムの 一 環 として 設 置 され た3 箇 所 の 赤 ちゃんポスト にも 州 政 府 は 初 年 度 (2003 年 )の 導 入 コストのみ 援 助 した( 毎 年 の 運 営 費 は 援 助 していない) 赤 ちゃんポスト に 子 どもを 預 ける 場 合 に は 母 親 が 自 分 ひとりで 秘 密 に 出 産 しなければ ならず 母 子 の 安 全 が 図 れないため 州 政 府 は 現 在 では 赤 ちゃんポスト を 推 奨 していない 赤 ちゃんポスト や 匿 名 出 産 はあくまで 最 終 手 段 としての 利 用 に 留 めようとしている ただ し 赤 ちゃんポスト と 匿 名 出 産 の 啓 発 用 パ ンフレットは 妊 婦 用 と 専 門 家 ( 医 師 やカウン セラー 等 ) 用 の2 種 類 を 作 成 し 病 院 やカウン セラー 等 のもとに 設 置 している 赤 ちゃんポスト に 関 しては 現 在 連 邦 法 の 中 には 何 ら 規 定 が 存 在 しない( 後 述 Ⅲ3 参 ⑵ 州 政 府 の 対 応 ハンブルク 州 政 府 は 当 初 赤 ちゃんポス ト の 設 置 を 歓 迎 し シュテルニ パルクの 赤 ちゃんポスト の 運 営 費 を 最 初 の2 年 間 (2000 年 及 び2001 年 ) 財 政 的 に 援 助 していた しかし 数 年 運 営 しても 新 生 児 の 遺 棄 や 殺 害 が 当 初 見 込 んだようには 減 少 しなかったこと から その 後 州 政 府 は 方 針 を 転 換 し 2003 年 か ら 望 まない 妊 娠 により 困 難 な 状 況 にある 母 親 を 助 け 新 生 児 を 加 害 から 守 るプログラムを 実 行 することとした その 内 容 は 妊 婦 に 対 する 24 時 間 の 電 話 相 談 ホットライン (44) 少 年 局 に よる 妊 婦 や 出 産 後 の 母 親 に 対 するカウンセリン グ 小 さい 子 どもを 持 つ 母 親 の 希 望 に 基 づく 限 り 受 けられる 母 子 収 容 施 設 でのケア 母 親 が 同 意 する 限 りにおいての 子 どもの 施 設 への 一 時 収 容 里 親 委 託 養 子 縁 組 の 手 配 等 となってい 照 ) 州 政 府 は 設 置 運 営 機 関 に 対 して 子 ど もが 預 けられたら 身 分 登 録 所 に 登 録 するこ と (45) 健 康 チェック 終 了 後 直 ちに 少 年 局 に 引 き 渡 すことを 内 容 とするガイドラインを 定 めて いるが このガイドラインには 当 該 機 関 に 対 す る 強 制 力 はなく (46) 子 どもは 当 該 機 関 におい て 養 育 されることが 多 い( 後 述 Ⅱ5⑴ 及 びⅢ2⑴ 参 照 ) 5 その 後 の 養 育 環 境 ⑴ 養 子 縁 組 まで ドイツの 憲 法 に 当 たるドイツ 連 邦 共 和 国 基 本 法 (Grundgesetz. 以 下 基 本 法 という )は 第 6 条 第 3 項 で 子 どもは 親 権 者 に 故 障 があ る 場 合 又 は 子 どもがその 他 の 理 由 から 放 置 さ れるおそれのある 場 合 には 法 律 の 根 拠 に 基 づ いてのみ 親 権 者 の 意 思 に 反 して これを 家 族 妊 婦 が 出 産 前 に 匿 名 出 産 の 意 思 表 示 をした 場 合 に 限 られ 単 に 出 産 した 母 親 が 名 前 も 名 乗 らずに 姿 を 消 した ようなケースは 含 まない 2003 年 開 始 最 初 無 料 だったが いたずら 電 話 が 多 かったため 現 在 は6セント( 約 10 円 )/ 件 年 300-400 件 の 電 話 相 談 を 受 ける 生 まれた 子 どもを 登 録 しないのは 身 分 登 録 法 第 16 条 違 反 となる 後 述 Ⅲ2 参 照 強 制 力 のない 単 なる 勧 告 (recommendation)のようなものとのことである 前 掲 注 の 聞 取 り 調 査 による 62

子 どもの 将 来 から 見 る 赤 ちゃんポスト から 引 き 離 すことが 許 される (47) と 規 定 して いる ハンブルク 州 の 赤 ちゃんポスト で 保 護 さ れた 子 どもは 健 康 状 態 のチェックのため 医 師 の 診 察 を 受 けた 後 保 護 された 機 関 で8 週 間 育 てられる (48) その 間 に 生 みの 親 は 子 ども が 保 護 された 機 関 に 電 話 を 掛 けたり 機 関 のス タッフに 子 どもを 捨 てた 事 情 を 聞 いてもらった りするうちに 思 い 直 して 子 どもを 引 き 取 るこ とが 可 能 である 8 週 間 後 子 どもは 少 年 局 に 引 き 取 られ そこで 正 式 な 名 前 が 付 けられる 8 週 間 を 過 ぎると 子 どもの 養 子 縁 組 が 可 能 になる ドイツでは (49) 1976 年 の 西 ドイツ 改 正 養 子 法 (50) により 子 の 福 祉 のための 養 子 縁 組 制 度 が 確 立 しており その 根 拠 規 定 は 改 正 を 経 つつも 現 行 ドイツ 民 法 典 ( 以 下 BGB という )に 受 け 継 がれている この 8 週 間 という 期 間 は 養 子 縁 組 の 際 に 必 要 な 実 親 の 同 意 が 生 後 8 週 間 まではなし 得 ない(BGB 第 1747 条 第 3 項 )ことに 由 来 する 子 どもの 福 祉 の 見 地 から できる 限 り 早 期 に 養 子 縁 組 をすべきこ とと 子 どもとの 法 的 な 親 子 関 係 を 断 絶 させる 実 親 に 対 して 熟 慮 期 間 を 与 えるべきこととの 均 衡 から 定 められた 期 間 である ドイツの 養 子 縁 組 制 度 の 概 要 は 表 6 のと おりであるが 実 父 母 及 びその 親 族 との 親 族 関 係 が 終 了 する 点 裁 判 所 の 宣 言 による 点 未 成 年 養 子 が 原 則 である 点 等 日 本 の 特 別 養 子 縁 組 制 度 に 類 似 している ちなみに シュテルニ パルクが 運 営 してい る 赤 ちゃんポスト で 保 護 された29 人 (アル トナとヴィルヘルムスブルクの2 箇 所 の 合 計 )のそ の 後 の 養 育 環 境 については 21 人 に 養 子 縁 組 が 成 立 し 7 人 が 生 みの 親 の 元 に 帰 った 残 る1 人 は 障 害 のある 子 どもであったが 現 在 はフレ ンスブルク 近 郊 でシュテルニ パルクが 運 営 し ている 支 援 施 設 において 実 母 と 生 活 していると のことであった (51) 表 6 ドイツの 養 子 縁 組 制 度 縁 組 の 方 式 養 親 となる 者 の 申 立 に 基 づく 後 見 裁 判 所 の 言 渡 (BGB 第 1752 条 第 1 項 ) 縁 組 の 要 件 原 則 として 夫 婦 共 同 縁 組 (BGB 第 1741 条 第 2 項 2 文 ) 養 親 の 年 齢 夫 婦 共 同 縁 組 の 場 合 には 原 則 として25 歳 以 上 (BGB 第 1743 条 第 1 項 ) ただし 配 偶 者 の 一 方 が25 歳 ならば 他 方 は21 歳 以 上 でも 縁 組 可 能 (BGB 第 1743 条 第 3 項 ) 養 子 の 年 齢 原 則 として 未 成 年 者 (18 歳 未 満 )に 限 る( 成 年 養 子 はBGB 第 1767 条 以 下 に 別 途 規 定 ) 実 親 の 同 意 必 要 (BGB 第 1747 条 第 1 項 第 2 項 ) ただし 養 子 となる 者 が 生 後 8 週 間 に 達 するまではこれをする ことができない( 同 条 第 3 項 ) 試 験 養 育 期 間 相 当 期 間 必 要 (BGB 第 1744 条 ) 実 父 母 及 びその 親 族 との 法 律 関 係 離 縁 終 了 (BGB 第 1755 条 第 1 項 ) 養 子 の 利 益 のため 特 に 必 要 な 場 合 に 限 り(BGB 第 1763 条 第 1 項 ) 後 見 裁 判 所 が 職 権 で 行 う 養 親 か らの 離 縁 不 可 ( 出 典 ) 高 橋 由 紀 子 第 5 章 ドイツの 未 成 年 養 子 制 度 養 子 と 里 親 を 考 える 会 編, 湯 沢 雍 彦 監 修 養 子 と 里 親 日 本 外 国 の 未 成 年 養 子 制 度 と 斡 旋 問 題 日 本 加 除 出 版, 2001, pp.235-260. 等 を 参 照 し 筆 者 作 成 条 文 の 日 本 語 訳 は 高 田 敏 初 宿 正 典 ドイツ 憲 法 集 第 5 版 信 山 社,2007,p.215.を 典 拠 とした シュテルニ パルクの 場 合 には 8 週 間 の 間 は 最 初 に 子 どもを 見 つけたスタッフが 仮 の 名 付 け 親 になるとい う また 生 みの 親 が 名 前 を 残 していった 場 合 などは その 名 前 で 呼 ぶ 一 方 公 立 病 院 で 匿 名 出 産 にて 生 まれ た 子 どもには ただちに 名 前 がつけられる 養 子 縁 組 制 度 及 び 養 子 斡 旋 制 度 については ハンブルク 州 のみならずドイツ 全 土 で 共 通 であるが 便 宜 的 にこ こで 解 説 した 1976 年 養 子 法 について 佐 藤 義 彦 西 ドイツの 新 養 子 法 ( 一 二 ) ジュリスト 636 号,1977.4.15,pp.83-91; 637 号,1977.5.1,pp.137-148. 前 掲 注 の 聞 取 り 調 査 による 63

が 児 童 の 福 祉 を 保 護 するために 国 家 が 行 う 重 ⑵ 養 子 縁 組 斡 旋 制 度 ドイツには 赤 ちゃんポスト で 保 護 され た 子 どもに 限 らず 養 子 縁 組 を 斡 旋 する 制 度 が 整 備 されている ドイツでは 既 に1939 年 に 養 子 縁 組 の 斡 旋 に 関 する 法 律 が 制 定 されていたが 1976 年 の 養 子 法 の 抜 本 改 正 に 伴 い 全 面 的 に 改 め られ 養 子 縁 組 斡 旋 法 (Adoptionsvermittlungsgesetz. 以 下 斡 旋 法 という )が 制 定 された その 後 数 次 の 改 正 を 経 て 現 在 に 至 っている また 斡 旋 法 やBGBに 規 定 のない 分 野 につ いても 各 州 の 州 少 年 局 の 合 同 作 業 部 会 が 作 成 する 全 国 統 一 の 斡 旋 基 準 勧 告 (52) が 養 子 縁 組 斡 旋 における 実 務 上 の 諸 手 続 を 詳 細 に 定 めてい る 以 下 ドイツにおける 養 子 縁 組 斡 旋 制 度 の 概 要 (53) を 紹 介 する (54) 斡 旋 法 による 斡 旋 とは 18 歳 以 下 の 子 と 養 子 を 迎 えたいと 願 う 者 とを 引 き 合 わせるこ と である( 斡 旋 法 第 1 条 ) 養 子 の 斡 旋 は 各 郡 の 少 年 局 と その 上 位 機 関 である 州 少 年 局 の 任 務 である( 斡 旋 法 第 2 条 第 1 項 ) ただし 少 年 局 及 び 州 少 年 局 が 養 子 斡 旋 業 務 を 行 うには 専 門 部 局 である 養 子 縁 組 斡 旋 機 関 ( 以 下 斡 旋 機 関 という )を 設 置 して いなければならない または 州 政 府 から 斡 旋 機 関 として 認 可 され た 民 間 機 関 (55) が 斡 旋 業 務 を 取 り 扱 うことがで きる このことは ドイツでは 養 子 斡 旋 業 務 要 かつ 専 門 的 な 給 付 と 位 置 づけられている (56) ことを 意 味 している 私 的 斡 旋 は 原 則 として 禁 止 され 養 子 縁 組 希 望 者 若 しくは 子 と3 親 等 内 の 血 族 若 しくは 姻 族 関 係 にある 場 合 ( 斡 旋 法 第 5 条 第 2 項 第 1 号 ) 又 は 斡 旋 機 関 若 しくは 少 年 局 に 斡 旋 後 遅 滞 なく 通 知 した 場 合 ( 同 条 同 項 第 2 号 )に 限 り 例 外 的 に 許 される 少 年 局 の 斡 旋 機 関 は 養 子 となる 子 と 養 子 縁 組 希 望 者 とのマッチング 養 子 縁 組 希 望 者 に 対 しての 調 査 (57) 養 子 縁 組 を 希 望 する 実 親 への 情 報 提 供 養 子 縁 組 に 必 要 な 実 親 の 同 意 の 確 保 等 養 子 縁 組 に 至 るまでの 様 々なプロセスに 関 与 する また 実 親 の 同 意 が 効 力 を 生 じると 少 年 局 が 子 どもの 後 見 人 となり(BGB 第 1751 条 第 1 項 ) 子 どもを 養 子 縁 組 希 望 者 に 引 き 渡 す 試 験 養 育 期 間 (BGB 第 1744 条 ) 中 にも 助 言 と 支 援 を 行 う 養 子 縁 組 成 立 後 も 斡 旋 機 関 は 必 要 に 応 じて 養 親 や 養 子 に 対 して 助 言 と 支 援 を 行 うほか 養 子 縁 組 の 斡 旋 記 録 を 保 管 し 出 自 を 知 る 子 ども の 権 利 に 配 慮 して 子 ども 又 はその 法 定 代 理 人 の 記 録 閲 覧 を 認 める( 斡 旋 法 第 9b 条 ) 州 少 年 局 に 置 かれる 斡 旋 機 関 は 特 に 中 央 養 子 縁 組 機 関 と 呼 ばれ 少 年 局 や 民 間 の 斡 旋 機 関 に 対 し 専 門 的 な 助 言 と 支 援 を 行 うほか 養 子 縁 組 の 斡 旋 が 困 難 な 子 ども (58) に 対 しては 自 ら 斡 旋 業 務 を 行 う 等 の 連 携 を 行 っている Bundesarbeitsgemeinschaft der Landesjugendämter Empfehlungen zur Adoptionsvermittlung 最 新 版 は 第 5 版 (2006). 高 橋 前 掲 注 ; 同 諸 外 国 の 養 子 縁 組 斡 旋 制 度 とその 実 態 ドイツの 養 子 縁 組 斡 旋 事 業 の 制 度 と 実 態 新 し い 家 族 50 号,2007,pp.49-56. 国 際 養 子 縁 組 制 度 にも 1993 年 に 成 立 した 国 際 養 子 縁 組 に 関 する 子 の 保 護 及 び 協 力 に 関 するハーグ 条 約 と の 関 係 等 様 々な 問 題 があるが 本 稿 では 赤 ちゃんポスト で 保 護 された 子 どもの 将 来 を 考 える 見 地 から 国 内 養 子 縁 組 制 度 のみを 取 り 上 げ 国 際 養 子 縁 組 制 度 には 立 ち 入 らない 現 在 認 可 された 民 間 斡 旋 機 関 はドイツ 全 体 で14 箇 所 あるが 全 て 国 際 養 子 縁 組 を 取 り 扱 う 団 体 である( 逆 に 国 内 養 子 縁 組 の 斡 旋 はすべて 公 的 機 関 が 行 っている) 聞 取 り 調 査 におけるハンブルク 州 中 央 養 子 縁 組 機 関 ( 州 政 府 外 局 ) 担 当 者 Fr. Gisela Rustのコメントによる 注 と 同 一 日 時 の 調 査 による 高 橋 前 掲 注,p.172. ホームスタディといい 斡 旋 機 関 が 養 親 候 補 者 の 自 宅 等 に 立 ち 入 り 養 子 縁 組 への 環 境 が 整 っているかを 調 べ る 年 長 児 や 知 的 身 体 的 精 神 的 障 害 を 持 つ 子 ども 前 掲 注,p.176. 64

子 どもの 将 来 から 見 る 赤 ちゃんポスト これらの 多 岐 にわたる 専 門 的 な 活 動 のため 斡 旋 機 関 には 少 なくとも2 名 のフルタイム 専 門 職 又 はこれに 相 当 するパートタイム 専 門 職 の 設 置 (59) が 法 律 上 義 務 付 けられている( 斡 旋 法 第 3 条 ) Ⅲ ドイツ 連 邦 共 和 国 の 赤 ちゃんポス ト の 現 状 1 統 計 データ 2007 年 5 月 23 日 付 でドイツ 自 由 民 主 党 ( 以 下 FDP という )から 連 邦 議 会 に 提 出 されてい た 匿 名 出 産 と 赤 ちゃんポスト の 経 験 の 評 価 に 関 する 大 質 問 書 (60) ( 以 下 質 問 書 と い う ) に 対 して 2007 年 11 月 15 日 ドイツ 連 邦 政 府 からの 回 答 書 (61) ( 以 下 回 答 書 という ) が 出 された この 回 答 書 は 赤 ちゃんポスト や 匿 名 出 産 に 対 する 現 時 点 での 連 邦 政 府 の 姿 勢 ( 後 述 Ⅲ4)を 示 す 資 料 として 重 要 であるが 加 え て 回 答 書 を 作 成 する 際 に 連 邦 を 構 成 す る16 州 から 実 際 のデータを 収 集 したことによ り (62) 当 該 問 題 に 関 するドイツの 最 新 (2007 年 7 月 現 在 (63) )の 統 計 データを 提 示 しており ド イツにおける 赤 ちゃんポスト の 実 情 を 理 解 する 上 で 貴 重 である 回 答 書 に 基 づき こ れまでに 把 握 されている 各 州 の 赤 ちゃんポス ト の 数 (64) 赤 ちゃんポスト で 保 護 された 子 どもの 総 数 (65) そして 参 考 値 として 匿 名 出 産 で 出 産 された 子 どもの 総 数 (66) について 表 7 に 示 す ただし 統 計 データについて は 事 案 の 性 質 上 暗 数 が 多 いことには 留 意 す る 必 要 がある (67) 2 赤 ちゃんポスト と 現 行 連 邦 法 制 との 緊 張 関 係 ⑴ 身 分 登 録 法 上 の 問 題 赤 ちゃんポスト で 子 どもを 保 護 する 行 為 については その 状 況 によっては ドイツの 現 行 法 制 と 抵 触 する (68) 場 合 がある まず 身 分 登 録 法 (Personenstandsgesetz) 上 出 生 の 届 出 は 子 どもの 出 生 から1 週 間 以 内 に 行 わなければならない( 第 16 条 ) 捨 て 子 の 場 合 は 行 政 官 庁 により 氏 名 が 付 けられ 推 定 出 生 日 時 を 出 生 登 録 簿 に 記 載 することと 定 められ ている( 同 法 第 25 条 ) しかし 実 際 は 母 親 が 翻 意 して 完 全 な 身 分 登 録 法 上 の 情 報 を 届 け 出 て 適 法 な 出 生 登 録 を 成 す 可 能 性 も 考 慮 に 入 れて 養 子 縁 組 手 続 が 可 能 になる 生 後 8 週 間 経 過 時 までは 赤 ちゃんポ スト で 保 護 された 子 どもの 出 生 登 録 を 行 わな いことが 各 州 の 運 用 上 広 く 行 われている (69) これは 身 分 登 録 法 の 脱 法 行 為 に 当 たる 前 掲 注 の 聞 取 り 調 査 による Drucksache 16/5489 http://dip21.bundestag.de/dip21/btd/16/054/1605489.pdf. 大 質 問 書 (Grosse Anfrage)とは 連 邦 議 事 規 則 第 100 条 から 第 103 条 までに 規 定 されている 質 問 制 度 である 1つの 会 派 又 は5% 以 上 の 議 員 の 要 求 があったときは 審 議 が 実 施 されなければならない 野 口 暢 子 ドイツ 連 邦 議 会 の 質 問 制 度 立 法 と 調 査 276 号,2008.1,p.100. Drucksache 16/7220 http://dip21.bundestag.de/dip21/btd/16/072/1607220.pdf ただし 回 答 項 目 によっては 州 に 該 当 の 統 計 がない 等 の 理 由 で 不 明 な 場 合 がある 回 答 書 s.2. 回 答 書 回 答 37(s.26-28) 参 照 回 答 書 回 答 40(s.29) 参 照 回 答 書 回 答 30(s.22-23) 参 照 ドイツ 連 邦 議 会 学 術 総 局 健 康 家 族 高 齢 者 女 性 青 少 年 担 当 部 門 スタッフFr. Alexandra zu Bentheimのコメ ントによる 訪 問 先 Deutscher Bundestag Platz der Republik 1,11011,Berlin, 訪 問 日 2007 年 10 月 11 日 床 谷 文 雄 匿 名 出 産 とBabyklappen 生 への 権 利 と 出 自 を 知 る 権 利 阪 大 法 学 53 巻 3 4 号,2003.11, pp.804-805. 回 答 書 回 答 27(s.20-21). 65

表 7 ドイツ 各 州 における 赤 ちゃんポスト と 匿 名 出 産 の 統 計 データ 赤 ちゃんポスト 数 赤 ちゃんポスト で 保 護 さ れた 子 どもの 数 匿 名 出 産 で 出 産 された 子 ども の 数 バーデン=ヴュルテンベルク 4 22 2 バイエルン 13 不 明 不 明 ベルリン 4(2006 年 に 1 箇 所 閉 鎖 ) 30 13 ブランデンブルク 1 2 不 明 ブレーメン 1 1 不 明 ハンブルク 5 25 18 ヘッセン 3 8 不 明 メクレンブルク=フォアポンメルン 2 1 1 ニーダーザクセン 4 9 不 明 ノルトライン=ヴェストファーレン 21 不 明 不 明 ラインラント=プファルツ 7 13 1 ザールラント 1 1 5 ザクセン 3 14 10 ザクセン=アンハルト 3 1 17 シュレスヴィヒ=ホルシュタイン 2 8 不 明 テューリンゲン 2 6 27 ドイツ 全 体 76 143 94 ( 出 典 ) 回 答 書 の 各 項 目 を 参 照 して 筆 者 作 成 だけで 養 子 縁 組 の 成 立 を 認 めてしまうことにな ⑵ 養 子 法 上 の 問 題 ドイツの 養 子 法 制 は 実 父 母 の 親 族 との 法 律 関 係 が 終 了 する 完 全 養 子 縁 組 制 度 を 採 ることも あって 1) 実 親 の 養 子 縁 組 に 対 する 同 意 は 後 見 裁 判 所 に 対 して 表 示 しなければならない (BGB 第 1750 条 第 1 項 ) 2) 生 後 8 週 間 以 内 の 同 意 及 び 養 親 となる 者 が 決 まっていない 時 点 で の 白 紙 同 意 はできない(BGB 第 1747 条 第 2 項 ) 3)いったん 同 意 すれば 同 意 を 撤 回 できない (BGB 第 1750 条 第 2 項 ) 等 実 親 の 同 意 を 重 視 す る 諸 規 定 を 整 備 している 仮 に 赤 ちゃんポスト や 匿 名 出 産 を 認 める ならば 赤 ちゃんポスト に 子 どもを 預 け 又 は 匿 名 で 子 どもを 出 産 した 母 親 の 養 子 縁 組 に 対 する 黙 示 の 同 意 は 観 念 できるにしても それ る これは 実 親 の 同 意 を 重 視 するドイツ 養 子 法 制 と 抵 触 するおそれがある ⑶ 刑 法 上 の 問 題 ドイツでも 赤 ちゃんポスト に 子 どもを 預 けることは 身 分 偽 証 の 罪 (70) (ドイツ 刑 法 第 169 条 ) 扶 養 義 務 違 反 の 罪 ( 同 法 第 170 条 ) 保 護 義 務 違 反 の 罪 ( 同 法 第 171 条 )に 該 当 するとい う 主 張 がある しかしながら この 点 について は 身 分 を 積 極 的 に 偽 っているわけではない し 子 を 安 全 な 形 で 他 人 に 託 することができる 仕 組 みになっているから 保 護 義 務 違 反 等 には 該 当 しないであろう と 言 われている (71) 出 産 した 女 性 が 子 の 母 親 であると 規 定 するBGB 第 1591 条 に 反 し 身 分 登 録 法 上 刑 法 上 又 は 社 会 法 上 では 母 が 不 明 な 子 として 取 扱 い それを 法 的 に 承 認 しようとするため 前 掲 注,p.809. 参 照 前 掲 注,p.805. 66

子 どもの 将 来 から 見 る 赤 ちゃんポスト ある 母 を 救 済 するため 認 可 を 受 けた 妊 娠 相 談 ⑷ 自 己 の 出 自 を 知 る 権 利 の 問 題 基 本 法 は 人 間 の 尊 厳 ( 第 1 条 第 1 項 ) 人 格 の 自 由 な 発 展 ( 第 2 条 第 1 項 )の 保 障 を 規 定 し ている 1980 年 代 後 半 以 降 連 邦 憲 法 裁 判 所 は これらの 権 利 保 障 規 定 を 根 拠 として 子 ど もが 自 己 の 出 自 を 知 る 権 利 を 基 本 法 上 の 保 護 を 受 けるべき 人 格 権 であると 基 礎 付 けてい る (72) この 自 己 の 出 自 を 知 る 権 利 の 具 体 的 な 範 囲 としては 国 家 行 為 法 律 による 情 報 入 手 可 能 性 に 対 する 妨 害 を 排 除 しうるものという 点 までは 承 認 されている (73) とされる しかし 赤 ちゃんポスト や 匿 名 出 産 を 制 度 化 することは 母 親 の 身 元 を 隠 すことを 国 家 が 積 極 的 に 承 認 することから 子 どもが 自 己 の 出 自 を 知 る 権 利 を 侵 害 することになるため 基 本 法 との 抵 触 が 問 題 となる 3 連 邦 法 制 定 への 動 き 赤 ちゃんポスト の 設 置 が 広 がるにつれ 先 行 する 現 実 と 2に 挙 げた 現 行 法 制 との 様 々 な 緊 張 関 係 が 問 題 視 されるようになった その ため 赤 ちゃんポスト 及 び 匿 名 出 産 制 度 を 合 法 化 するための 法 案 が 連 邦 議 会 及 び 連 邦 参 議 院 に 数 次 にわたって 提 出 された (74) 最 初 に 身 分 登 録 法 改 正 法 案 が2000 年 10 月 に 連 邦 議 会 に 提 出 されたが (75) これは 苦 境 に 所 に 相 談 させるとともに 出 生 登 録 の 期 間 を10 週 間 に 延 長 する 内 容 であった しかし 単 に 期 間 を 延 長 するだけで 母 の 匿 名 性 を 継 続 的 に 保 障 するものではないため 根 本 的 な 解 決 にならな いと 批 判 された 続 いて 2002 年 4 月 に 匿 名 出 産 に 係 る 法 整 備 のための 法 律 案 (76) が 提 出 された この 法 案 は 身 分 登 録 法 やBGBの 改 正 を 柱 とするもの である 特 に 身 分 登 録 法 第 17 条 が 子 どもの 出 生 を 知 った 関 係 者 に 出 生 届 出 義 務 を 課 してい る (77) ために 母 親 が 他 者 に 援 助 を 求 められ ず 人 道 的 医 学 的 に 不 十 分 な 状 態 で 出 産 を 行 う 事 態 を 招 いていたことから 匿 名 での 出 産 を 望 む 母 親 に 出 生 の 届 出 義 務 を 免 除 することを 要 諦 としていた (78) この 法 案 は 連 邦 議 会 を 構 成 する 全 会 派 にわたる 超 党 派 議 員 団 によって 提 出 された 点 が 特 徴 的 であったが 捨 て 子 の 正 当 化 であるという 批 判 に 加 え 捨 てられた 子 ども から 出 自 を 知 る 可 能 性 を 奪 うとの 批 判 が 強 く (79) 第 14 議 会 期 の 終 了 とともに 廃 案 となっ た (80) その 後 会 期 終 了 による 廃 案 を 避 ける 目 的 で 連 邦 参 議 院 に 同 様 の 法 案 が2 度 提 出 された が (81) いずれも 成 立 せずに 終 わっている 連 邦 法 がこれまで 成 立 していない 原 因 は 基 本 法 上 の 自 己 の 出 自 を 知 る 権 利 との 抵 触 が 最 も 春 名 麻 季 自 己 の 出 生 をめぐる 憲 法 上 の 利 益 について ドイツの 出 自 を 知 る 権 利 を 中 心 に 六 甲 台 論 集 49 巻 3 号,2003.3,pp.19-42. 同 上,p.40. 各 法 案 の 背 景 や 内 容 の 詳 細 は 前 掲 注,pp.806-811. 参 照 Entwurf eines Gesetzes zur Änderung des Personenstandsgesetzes auf BT-Drucksache14/4425. キリスト 教 民 主 社 会 同 盟 (CDU/CSU) 会 派 のイニシアティブによって 提 出 された Entwurf eines Gesetzes zur Regelung anonymer Geburten auf BT-Drucksache14/8856. 主 眼 は 匿 名 出 産 の 合 法 化 にあるが 赤 ちゃんポスト 設 置 に 伴 う 法 整 備 についても 触 れている 出 生 の 届 出 義 務 者 は 父 助 産 師 医 師 出 生 の 事 実 を 知 る 他 の 者 母 である 前 掲 注,p.816 注. 渡 辺 斉 志 出 自 を 知 る 権 利 と 匿 名 出 産 外 国 の 立 法 2003.4.14( 事 務 用 資 料 ). 同 上 このときは 選 挙 が 近 かったため 立 場 が 異 なる 会 派 間 の 調 整 を 行 った 上 で 十 分 に 議 論 する 時 間 がなかった 選 挙 後 この 案 は 委 員 会 に 差 し 戻 され その 後 第 15 議 会 期 には 継 続 しなかった FDP 所 属 連 邦 議 会 議 員 Fr. Ina Lenkeのコメントによる 訪 問 先 Deutscher Bundestag Platz der Republik 1,11011,Berlin, 訪 問 日 2007 年 10 月 12 日 Entwurf eines Gesetzes zur Regelung der anonymen Geburt auf BR-Drucksachen 506/02 und 684/04. 67

大 きいとする 分 析 もある (82) 4 現 連 邦 政 府 の 赤 ちゃんポスト に 対 する 姿 勢 ドイツの 現 連 邦 政 府 は 保 守 勢 力 のキリスト 教 民 主 社 会 同 盟 (CDU/CSU)と 中 道 左 派 の 社 会 民 主 党 (SPD)による 大 連 立 内 閣 であるが 連 立 協 定 では 匿 名 出 産 の 経 験 を 評 価 するこ と そして 必 要 な 限 りにおいて 法 整 備 を 行 うこと が 申 し 合 わされている (83) 連 邦 政 府 は 回 答 書 作 成 の 際 匿 名 出 産 及 び 赤 ちゃんポスト と 連 邦 現 行 法 制 との 緊 張 関 係 を 詳 細 に 分 析 した (84) しかしながら 連 邦 政 府 は 匿 名 出 産 や 赤 ちゃんポスト に ついては 政 府 内 において 結 論 がまだ 完 全 にまと まっていないことを 理 由 に 積 極 的 な 法 整 備 の 必 要 性 には 言 及 しなかった (85) この 回 答 書 は 一 方 で 匿 名 出 産 及 び 赤 ちゃんポスト を 禁 止 する 方 針 を 打 ち 出 したわ けでもないため 今 回 の 質 問 書 提 出 の 中 心 メンバーであるイナ レンケ 連 邦 議 会 議 員 (FDP 所 属 )は 連 邦 政 府 は 違 法 な 実 態 を 黙 認 して いるだけ であるとして 批 判 している (86) Ⅳ 我 が 国 の 赤 ちゃんポスト の 特 徴 ドイツと 比 較 して これまでみてきたドイツの 状 況 を 踏 まえ 以 下 では 我 が 国 における 議 論 に 際 して 留 意 すべ き 点 を 述 べる 1 社 会 的 背 景 の 違 い ドイツにおける 移 民 問 題 の 深 刻 化 ドイツの 赤 ちゃんポスト が2000 年 以 降 急 速 に 普 及 した 背 景 として 移 民 の 問 題 がある ドイツは 欧 州 屈 指 の 移 民 大 国 であり 2005 年 末 時 点 の 連 邦 内 務 省 の 統 計 によれば 移 民 及 びそ の 子 孫 は 計 1,533 万 人 総 人 口 の18.8%に 当 た る (87) ま た 移 民 系 住 民 の 出 生 率 は 高 く 2005 年 時 点 の 連 邦 政 府 の 調 査 では 2~25 歳 の 人 口 の27.2% 約 600 万 人 が 移 民 系 住 民 で 占 め られている 6 歳 以 下 に 限 れば 全 体 の 約 3 分 の 1になる (88) 回 答 書 によれば ハンブルク 州 の 調 査 で は 移 民 系 住 民 が 不 法 滞 在 者 で 無 保 険 状 態 で あったり 外 国 人 法 上 の 強 制 退 去 措 置 を 恐 れた りして 匿 名 出 産 制 度 や 赤 ちゃんポスト を 利 用 してしまうことが 指 摘 されている (89) 赤 ちゃんポスト の 場 合 には 母 親 の 身 元 特 定 を 困 難 にする 高 い 匿 名 性 のため 預 けられ たのが 移 民 系 住 民 の 子 どもであると 特 定 するこ とはできない とはいえ 例 えばベルリンのカ トリック 系 医 療 施 設 聖 ヨゼフ 病 院 の 赤 ちゃん ポスト のように 移 民 系 住 民 の 母 親 を 想 定 し た 取 組 みを 行 っている 実 例 もみられる (90) この 点 我 が 国 の 赤 ちゃんポスト の 議 論 においては 移 民 に 関 する 論 点 は 現 時 点 では 出 てきていない ただし 将 来 的 に 我 が 国 が 少 子 高 齢 化 の 進 展 に 伴 う 人 口 減 少 に 直 面 し これま で 以 上 に 多 様 な 分 野 で 外 国 人 労 働 者 特 にいわ ゆる 単 純 労 働 者 を 受 け 入 れることになれば (91) 前 掲 注 の 聞 取 り 調 査 による 質 問 書 s.1, 回 答 書 s.1. 回 答 書 回 答 15 (s.12-13). 回 答 書 政 府 序 文 (s.1-2), 回 答 16(s.14). Bundesregierung gegen anonyme Geburten,Der Tagespiegel,3 Dez 2007. 河 野 健 一 ドイツは 内 なるイスラムと 共 生 できるか ベルリンからの 報 告 県 立 長 崎 シーボルト 大 学 国 際 情 報 学 部 紀 要 8 号,2007,p.83. 同 上, p.90. 回 答 書 回 答 13(s.11). ポストを 必 要 とする 母 親 の 多 くは 低 所 得 者 であり 未 婚 で 妊 娠 することが 死 刑 宣 告 と 同 じ 意 味 になることもあ る ポスト 内 にはロシア 語 ポーランド 語 トルコ 語 でも 気 が 変 われば 赤 ちゃんを 取 り 戻 すことができると 書 い た 手 紙 を 入 れているという 欧 州 で 広 がる 命 のポスト 熊 本 日 日 新 聞 2007.3.9. 68

子 どもの 将 来 から 見 る 赤 ちゃんポスト ドイツと 同 様 の 議 論 が 起 こる 可 能 性 もある 2 子 どもの 受 入 れ 体 制 の 不 備 ドイツでは Ⅱ5で 述 べたように 赤 ちゃ んポスト に 預 けられた 子 どもについては 少 年 局 等 の 公 的 機 関 及 び 民 間 の 認 可 事 業 者 による 養 子 縁 組 斡 旋 によって 可 能 な 限 り 養 子 縁 組 が 成 立 するような 体 制 が 整 えられている 斡 旋 を 行 うに 際 して 専 門 部 局 である 養 子 縁 組 斡 旋 機 関 の 設 置 が 不 可 欠 であり 専 門 スタッフの 常 駐 が 斡 旋 法 上 義 務 付 けられている 等 養 子 縁 組 斡 旋 を 担 当 する 組 織 人 員 の 基 盤 も 強 固 である 一 方 我 が 国 では Ⅰ3で 問 題 点 を 整 理 した ように 赤 ちゃんポスト に 預 けられた 子 ど もの 受 入 れ 体 制 が 整 っていない 赤 ちゃんポ スト で 保 護 された 子 どもの 将 来 の 見 地 から は できるだけ 家 庭 的 な 環 境 下 で 養 育 される 制 度 が 理 想 的 であるが 里 親 委 託 最 終 的 な 養 子 縁 組 成 立 とも 現 時 点 では 困 難 な 状 況 にある そのため 子 どもは 結 果 的 に 児 童 福 祉 施 設 で 養 育 される 3 匿 名 出 産 制 度 の 有 無 ドイツでは 赤 ちゃんポスト は 通 常 匿 名 出 産 制 度 と 対 比 して 議 論 される そして 赤 ちゃんポスト では 望 まない 妊 娠 をした 母 親 の 出 産 時 における 母 体 の 安 全 が 確 保 できな いことから 医 師 の 専 門 的 な 助 力 が 見 込 める 匿 名 出 産 制 度 のほうがより 優 先 順 位 が 高 いとする 意 見 もある (92) 実 際 産 科 に 対 応 可 能 な 全 て の 公 的 病 院 で 匿 名 出 産 が 可 能 であるハンブルク 州 のように 匿 名 出 産 の 制 度 基 盤 が 整 っていれ ば 母 親 には 少 なくとも 採 るべき 手 段 の 選 択 肢 が 提 示 される この 点 我 が 国 では 慈 恵 病 院 の 赤 ちゃん ポスト が 存 在 するのみで 匿 名 出 産 は 不 可 能 であり ドイツにおける 議 論 と 前 提 が 異 なると 思 われる 4 妊 婦 母 親 の 相 談 窓 口 の 不 足 周 知 不 足 ドイツ 特 にハンブルク 州 の 取 組 みでは 現 在 赤 ちゃんポスト や 匿 名 出 産 はあくまで 最 終 手 段 としての 利 用 に 留 め 妊 婦 や 小 さな 子 どもを 持 つ 母 親 の 相 談 窓 口 等 を 支 援 することと している これにより 結 果 的 に 望 まない 妊 娠 をした 母 親 が 出 産 後 も 母 子 共 に 暮 らせるように すること 又 は 事 情 により 実 母 が 養 育 不 可 能 な 場 合 でも 匿 名 でない 通 常 の 手 続 で 養 子 縁 組 を 成 立 させることを 期 待 している( 前 述 Ⅱ4 ⑵) また シュテルニ パルクも 24 時 間 のコール ラインを 運 営 しており 若 年 層 の 妊 娠 について は 高 校 における 出 張 授 業 でコールラインの 周 知 を 行 っている (93) 等 赤 ちゃんポスト に 子 ど もを 預 けようとする 前 に まずこれらの 窓 口 に 相 談 することを 期 待 している 我 が 国 の 慈 恵 病 院 の 赤 ちゃんポスト でも 運 営 者 の 意 思 としては 決 して 赤 ちゃんポス ト に 子 どもを 預 けることを 推 奨 しているわけ ではなく まず 相 談 を との 立 場 を 堅 持 してい る (94) 従 来 からある 熊 本 県 の 窓 口 に 加 え (95) 慈 恵 病 院 は 2002( 平 成 14) 年 から 妊 娠 出 産 に 関 する24 時 間 の 無 料 電 話 相 談 窓 口 を 運 営 して いるが (96) 赤 ちゃんポスト の 設 置 にあわ せ 2007( 平 成 19) 年 5 月 から 熊 本 市 でも 同 様 のホットラインを 設 けており (97) 妊 婦 や 母 親 に 赤 ちゃんポスト の 利 用 をできるだけ 思 い 我 が 国 の 外 国 人 の 受 入 れに 係 る 主 要 課 題 について 寺 倉 憲 一 4 出 入 国 管 理 制 度 をめぐる 当 面 の 主 要 課 題 総 合 調 査 人 口 減 少 社 会 の 外 国 人 問 題 国 立 国 会 図 書 館 調 査 及 び 立 法 考 査 局,2008,pp.77-92. 前 掲 注 の 聞 取 り 調 査 による 前 掲 注 の 聞 取 り 調 査 による 前 掲 注 ⑸ 参 照 妊 娠 とこころの 電 話 相 談 096-381-4340 http://www.pref.kumamoto.jp/health/kenkou/html/pub/ default_097.html SOS 赤 ちゃんとお 母 さんの 相 談 窓 口 0120-783-449 http://jikei-hp.or.jp/yurikago/3-1.html 69

留 まらせるための 各 種 取 組 みが 行 われてい る (98) 熊 本 市 の 発 表 によれば 熊 本 県 熊 本 市 慈 恵 病 院 の3 機 関 が2007( 平 成 19) 年 4 月 から2008 ( 平 成 20) 年 3 月 末 までに 受 けた 妊 娠 出 産 に 関 する 相 談 件 数 は 合 計 1,486 件 にのぼり (99) 赤 ちゃんポスト をめぐる 一 連 の 報 道 により 全 国 から 相 談 が 寄 せられている 相 談 が 相 次 ぐ 原 因 として 妊 娠 出 産 の 悩 み の 受 け 皿 となる 機 関 や 施 設 の 機 能 が 全 国 的 に 十 分 整 っておらず 身 近 でないことが 背 景 にあ る (100) 各 地 の 児 相 や 市 町 村 の 児 童 家 庭 相 談 窓 口 厚 生 労 働 省 が 行 っている 女 性 健 康 支 援 セ ンター 事 業 ( 全 国 31 箇 所 ) 妊 娠 について 悩 ん でいる 者 に 対 する 相 談 援 助 事 業 ( 全 国 4 箇 所 ) 思 春 期 相 談 クリニック 事 業 ( 全 国 29 箇 所 )の 各 種 事 業 さらに 各 都 道 府 県 が 独 自 に 取 り 組 ん でいる 相 談 事 業 そのほか 民 間 でも 独 自 の 相 (101) 談 が 可 能 な 団 体 等 への 相 談 等 選 択 肢 はあ るが いずれの 事 業 も 知 名 度 が 低 いことが 多 い 熊 本 市 の 設 置 許 可 と 同 日 に 出 された 厚 生 労 働 省 通 知 (102) により 改 めて 従 来 の 相 談 窓 口 が 見 直 され 相 談 段 階 による 解 決 件 数 が 増 えるこ とが 期 待 される また 全 国 的 に 相 談 体 制 を 充 実 させ 支 援 のあり 方 を 考 える 必 要 もある (103) 5 自 己 の 出 自 を 知 る 権 利 への 配 慮 Ⅲ2⑷で 触 れたように ドイツでは 子 ども が 自 己 の 出 自 を 知 る 権 利 は 基 本 法 上 の 人 格 権 として 保 障 されることが 判 例 上 確 立 している この 権 利 は 赤 ちゃんポスト に 制 度 的 に 内 在 する 匿 名 性 と 鋭 く 対 立 するため 匿 名 出 産 や 赤 ちゃんポスト の 議 論 に 際 して 強 い 批 判 の 根 拠 となり 連 邦 法 整 備 の 動 きが 頓 挫 する 原 因 ともなっている この 点 我 が 国 の 赤 ちゃんポスト の 議 論 においては 自 己 の 出 自 を 知 る 権 利 について は 積 極 派 消 極 派 のどちらからも 論 点 とされ ていない 印 象 を 受 ける 我 が 国 でも 養 子 縁 組 の 局 面 では 養 子 が 自 己 の 出 自 を 知 る 権 利 が 既 に 観 念 されており (104) 主 に 非 配 偶 者 で 行 われる 生 殖 補 助 医 療 の 局 面 でも 同 様 である (105) 今 後 は この 観 点 からも 赤 ちゃんポスト の 議 論 を 深 める 必 要 があると 思 われる 6 赤 ちゃんポスト の 名 称 の 問 題 最 後 に 本 質 的 な 問 題 ではないが 我 が 国 の 赤 ちゃんポスト をめぐっては 名 称 の 問 題 が 議 論 の 混 迷 を 深 める 原 因 となったように 思 わ れる 妊 娠 に 関 する 悩 み 相 談 電 話 096-353-7830 http://www.city.kumamoto.kumamoto.jp/content/web/asp/ kiji_detail.asp?ls=18&id=4279&pg=1&sort=0 慈 恵 病 院 への 相 談 の 中 には 匿 名 での 相 談 が 後 に 実 名 化 され 実 父 母 の 同 意 を 得 て 特 別 養 子 縁 組 が 成 立 した ケースが8 件 あったことが 熊 本 市 の 第 1 回 短 期 的 検 証 で 報 告 されている 前 掲 注 ⑿ 厚 生 福 祉,p.4. 妊 娠 に 関 する 悩 み 相 談 状 況 熊 本 市 HP http://www.city.kumamoto.kumamoto.jp/content/web/upload/ file/bun_23123_21ninshinnayamisoudanjyoukyou.pdf (100) 赤 ちゃんポスト 半 年 薄 れる 抵 抗 感 進 まぬ 情 報 開 示 読 売 新 聞 2007.11.28. (101) 一 例 として NPO 法 人 円 ブリオ 基 金 センターの 妊 娠 SOSほっとライン がある 出 産 費 用 の 援 助 等 妊 婦 に 対 する 経 済 的 支 援 も 行 っている http://homepage2.nifty.com/embryo/ (102) 前 掲 注 ⑽. (103) 置 き 去 りの 命 救 いたい 読 売 新 聞 2007.12.19. (104) ただし 我 が 国 では 養 子 である 旨 の 告 知 後 実 親 と 実 際 に 交 流 するオープン アドプションはまだ 少 数 である ことから 養 子 であることを 伝 える 真 実 告 知 の 段 階 でまだ 課 題 を 抱 えているとする 評 価 もある 森 和 子 養 子 の 出 自 を 知 る 権 利 の 保 障 についての 一 考 察 オーストラリア ニュージーランドにおける 実 践 から 文 教 学 院 大 学 人 間 学 部 研 究 紀 要 8 巻 1 号,2006.12,pp.21-51. (105) 厚 生 科 学 審 議 会 先 端 医 療 技 術 評 価 部 会 生 殖 補 助 医 療 技 術 に 関 する 専 門 委 員 会 精 子 卵 子 胚 の 提 供 等 による 生 殖 補 助 医 療 のあり 方 についての 報 告 書 (2000 年 12 月 28 日 )Ⅲ 本 論 2⑵⑵ 参 照 http://www1.mhlw.go.jp/ shingi/s0012/s1228-1_18.html 70

子 どもの 将 来 から 見 る 赤 ちゃんポスト ドイツ 語 のBabyklappeが 日 本 語 で 赤 ちゃ んポスト と 翻 訳 された 経 緯 は 不 明 であり こ の 呼 称 が 定 着 した 時 期 も 明 らかではない (106) しかし 設 置 許 可 の 議 論 の 際 当 時 の 安 倍 首 相 が ポストという 名 前 に 大 変 抵 抗 を 感 じ る (107) と 述 べた 発 言 等 この 名 称 が あたかも 郵 便 ポストに 手 紙 を 投 げ 入 れるように 子 どもを 預 け 入 れるイメージを 生 じさせたため 感 情 的 な 議 論 となり 安 易 な 子 捨 てを 助 長 するとの 批 判 を 誘 発 した 一 因 となっているようにも 考 えら れる ただし この 点 は ドイツ 語 のBabyklappe も Klappeがごみ 箱 の 蓋 を 連 想 させる 単 語 で あるため 不 快 だと 感 じる 人 もいる しかし シュテルニ パルクによれば 美 しく 言 いつ くろったところで ポストに 子 供 を 捨 てる のは 事 実 美 化 するのはよくないと 考 え (108) そのままの 呼 称 を 使 用 しているようである おわりに 我 が 国 に 赤 ちゃんポスト は 必 要 か 赤 ちゃんポスト で 保 護 されることで 子 どもはその 生 命 を 救 われた たとえ 捨 て 子 や 育 児 放 棄 を 助 長 したとしても 命 を 救 ったのだか ら 何 の 問 題 もない という 賛 成 意 見 に 対 して 反 論 するのは 容 易 ではない (109) 確 かに 慈 恵 病 院 の 赤 ちゃんポスト が 既 に17 人 の 子 ど もの 命 を 救 っているのは 事 実 である しかし ドイツと 我 が 国 では 移 民 問 題 や 匿 名 出 産 制 度 の 有 無 自 己 の 出 自 を 知 る 権 利 への 着 目 等 議 論 の 前 提 が 異 なっている また ドイツでも 2000 年 からの 継 続 的 な 取 組 みの 中 で 既 に 様 々な 議 論 がなされてきてい る 現 在 では 赤 ちゃんポスト は 望 まな い 妊 娠 をして 困 難 な 状 況 にある 母 親 に 対 する 最 終 手 段 として 位 置 付 けられており むしろカウ ンセリングや 母 子 支 援 施 設 の 充 実 等 他 の 支 援 策 を 充 実 させる 方 向 に 向 かっている 我 が 国 で も 母 親 等 に 対 する 妊 娠 出 産 に 関 する 相 談 体 制 充 実 はもちろんのこと 望 まない 妊 娠 をさせ (110) ないという 意 味 で 主 に 若 年 層 への 性 教 育 や 緊 急 避 妊 法 による 避 妊 等 (111) 赤 ちゃんポス ト 以 外 にも 検 討 対 象 となる 手 段 が 考 えられる のではないだろうか 加 えて 我 が 国 には 赤 ちゃんポスト で 保 護 された 子 どもが 里 親 委 託 や 最 終 的 な 養 子 縁 組 に 至 るシステムが 十 分 に 整 っていない 子 どもの 視 点 から 大 人 になるまでの 長 期 ビジョ ンに 立 って 子 どもたちや 里 親 委 託 養 子 縁 組 を 支 援 する 専 門 家 や 社 会 システムが 必 要 であ る (112) 仮 に 公 的 機 関 として 児 童 相 談 所 が 従 来 どおり 里 親 委 託 養 子 縁 組 の 斡 旋 に 関 与 するのなら (106) 新 聞 データベース 日 経 テレコン を 検 索 すると 赤 ちゃんポスト という 呼 称 の 新 聞 記 事 上 最 も 古 い 用 例 は 世 界 の 社 会 保 障 ドイツ 増 える 捨 て 子 箱 に 賛 否 読 売 新 聞 2003.7.5であり この 記 事 には 郵 便 ポス トのような との 形 容 も 見 られる ただし この 記 事 では 捨 て 子 箱 の 名 称 を 主 に 用 いている おおむね 2005 年 以 前 の 資 料 では 捨 て 子 ボックス ベビークラッペ 子 箱 等 資 料 により 異 なる 名 称 が 使 用 されて いる 慈 恵 病 院 も 現 在 は こうのとりのゆりかご の 呼 称 を 統 一 的 に 使 用 しているが 2004 年 のドイツ 視 察 の 情 報 を 中 心 に 紹 介 した2006 年 3 月 作 成 のビデオ 赤 ちゃんポスト ドイツと 日 本 の 取 り 組 み には 赤 ちゃんポスト の 名 称 を 用 いている (107) 赤 ちゃんポスト 首 相 は 慎 重 姿 勢 朝 日 新 聞 2007.2.24. (108) 800 年 続 く 模 索 欧 州 の 赤 ちゃんポスト 朝 日 新 聞 2007.8.20. (109) 吉 田 省 吾 潮 市 民 講 座 赤 ちゃんポスト 潮 2007.11,pp.259-263. (110) 堀 内 比 佐 子 学 校 における 性 教 育 の 現 状 と 課 題 周 産 期 医 学 37 巻 8 号,2007.8,pp.997-999. (111) 緊 急 避 妊 薬 は 我 が 国 では 未 だ 承 認 されていない アメリカやイギリス フランスなどの 諸 外 国 においては 思 春 期 の 若 者 の 人 工 妊 娠 中 絶 対 策 として またリプロダクティブ ヘルス/ライツの 観 点 から 積 極 的 に 承 認 さ れ さらには 一 般 用 医 薬 品 化 されている 梅 澤 彩 男 女 共 同 参 画 社 会 における 少 子 化 と 性 的 自 己 決 定 日 本 にお ける 性 的 健 康 と 自 己 決 定 の 保 障 を 目 指 して 社 会 とマネジメント 5 巻 1 号,2007.9,pp.11-27. (112) 元 愛 知 県 児 童 福 祉 司 矢 満 田 篤 二 氏 の 発 言 前 掲 注. 71

ば 児 童 相 談 所 の 体 制 強 化 も 必 要 となるであろ う また 民 間 の 養 子 縁 組 斡 旋 事 業 者 の 関 与 も 含 めて 信 頼 できる 養 子 縁 組 斡 旋 制 度 を 早 期 に 構 築 していかなければならない 慈 恵 病 院 の 赤 ちゃんポスト の 設 置 及 び 運 営 は 有 意 義 な 取 組 みであり 子 どもの 命 を 救 い 世 論 を 喚 起 し 厚 生 労 働 省 を 動 かした 次 は これを 機 に 困 難 な 状 況 にある 母 親 に 対 す る 他 の 支 援 策 の 充 実 を 図 り 赤 ちゃんポスト が 使 われなくても 済 むようにすること 子 ども が 赤 ちゃんポスト に 預 けられた 場 合 には 実 親 等 の 引 き 取 り (113) がない 限 り その 子 ども の 将 来 のため 養 子 縁 組 が 早 期 に 成 立 するような 斡 旋 制 度 を 確 立 させることが 急 務 となろう ( (おち みどり) 本 稿 は 筆 者 が 行 政 法 務 課 在 職 中 に 執 筆 したものである ) (113) 現 在 判 明 している 限 り 実 親 が 子 どもを 引 き 取 った 唯 一 の 事 例 ( 注 ⑾ 参 照 )は 赤 ちゃんポストが 緊 急 避 難 的 な 役 割 を 果 たし 結 果 的 に 両 親 に 冷 静 に 考 える 時 間 を 与 えた 理 想 的 な 使 われ 方 と 評 価 する 声 が 病 院 関 係 者 の 間 にある 反 面 特 に 子 どもに 障 害 があったことから 安 易 に 子 どもを 捨 てるという 選 択 肢 を 与 えているとの 批 判 も 根 強 い えっ! 赤 ちゃんポスト に 障 害 児 が 預 けられていた 週 刊 ポスト 2008.4.25,pp.39-41. 72