起 立 性 調 節 障 害 の 何 が 問 題 か さて,common disease ともいえる 起 立 性 調 節 障 害 であるが,その 何 が 問 題 か. 私 のクリニックには, 日 本 全 国 から 起 立 性 調 節 障 害 の 子 供 がやってくる. 多 くの 子 供 たちは,すでに



Similar documents
 

一 方 でも 自 分 から 医 師 に 症 状 の 変 化 について 伝 えている 割 合 は シーズン 前 では 満 足 な と 同 じ %でしたが シーズン 開 始 直 後 から 高 くなり シーズン 後 半 では の 31%を 上 回 り 42%となっています (グラフ 3) ギャップ 3:

Microsoft Word - H27報告書

Microsoft Word - 諮問第82号答申(決裁後)

Microsoft PowerPoint - 390

17 外 国 人 看 護 師 候 補 者 就 労 研 修 支 援 18 看 護 職 員 の 就 労 環 境 改 善 運 動 推 進 特 別 20 歯 科 医 療 安 全 管 理 体 制 推 進 特 別 21 在 宅 歯 科 医 療 連 携 室 整 備 22 地 域 災 害 拠 点 病

Microsoft PowerPoint _GP向けGL_final

母 子 医 療 対 策 費 462 (313,289) 国 4,479 1 不 妊 治 療 助 成 事 業 8,600 不 妊 治 療 費 用 の 一 部 を 助 成 し 経 済 的 負 担 の 軽 減 を 図 る 230, ,608 不 妊 治 療 費 の 増 加 による 増 額 分

大学病院治験受託手順書

2 積 極 的 な 接 種 勧 奨 の 差 し 控 え 国 は 平 成 25 年 4 月 から 定 期 接 種 化 したが ワクチン 接 種 との 関 連 を 否 定 できない 持 続 的 な 痛 みなどの 症 状 が 接 種 後 に 見 られたことから 平 成 25 年 6 月 定 期 接 種 と

Microsoft Word - 3大疾病保障特約付団体信用生命保険の概要_村上.docx

各論_1章〜7章.indd

< F2D F97CC8EFB8F BE8DD78F9192CA926D>

Microsoft Word - 公表用答申422号.doc

Microsoft Word - 20年度(行個)答申第2号.doc

市 の 人 口 密 度 は 5,000 人 を 超 え 図 4 人 口 密 度 ( 単 位 : 人 /k m2) に 次 いで 高 くなっている 0 5,000 10,000 15,000 首 都 圏 に 立 地 する 政 令 指 定 都 市 では 都 内 に 通 勤 通 学 する 人 口 が 多

頸 がん 予 防 措 置 の 実 施 の 推 進 のために 講 ずる 具 体 的 な 施 策 等 について 定 めることにより 子 宮 頸 がんの 確 実 な 予 防 を 図 ることを 目 的 とする ( 定 義 ) 第 二 条 この 法 律 において 子 宮 頸 がん 予 防 措 置 とは 子 宮

(Microsoft Word _10\214\216\222\262\215\270\203\212\203\212\201[\203X_\215\305\217I\215e.doc)

tokutei2-7.xls

Microsoft Word - 目次.doc

05_現状把握指標一覧(H28.1.1時点)【 確定版】

第 7 条 職 員 の 給 与 に 関 する 規 程 ( 以 下 給 与 規 程 という ) 第 21 条 第 1 項 に 規 定 す るそれぞれの 基 準 日 に 育 児 休 業 している 職 員 のうち 基 準 日 以 前 6 月 以 内 の 期 間 にお いて 在 職 した 期 間 がある 職

技 能 労 務 職 公 務 員 民 間 参 考 区 分 平 均 年 齢 職 員 数 平 均 給 与 月 額 平 均 給 与 月 額 平 均 給 料 月 額 (A) ( 国 ベース) 平 均 年 齢 平 均 給 与 月 額 対 応 する 民 間 の 類 似 職 種 東 庄 町 51.3 歳 18 77

(5) 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しの 実 施 状 況 概 要 国 の 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しにおいては 俸 給 表 の 水 準 の 平 均 2の 引 下 げ 及 び 地 域 手 当 の 支 給 割 合 の 見 直 し 等 に 取 り 組 むとされている 総 合 的

(1) 団 体 への 問 い 合 わせ 件 数 平 成 20 年 8 月 から 平 成 20 年 11 月 までの 間 に 団 体 への 所 謂 家 出 行 方 不 明 者 に 関 する 捜 索 支 援 への 問 い 合 わせ 総 数 は 26 件 であり 月 平 均 :6.5 人 である 8 月


(2) 特 別 障 害 給 付 金 国 民 年 金 に 任 意 加 入 していなかったことにより 障 害 基 礎 年 金 等 を 受 給 していない 障 がい 者 の 方 に 対 し 福 祉 的 措 置 として 給 付 金 の 支 給 を 行 う 制 度 です 支 給 対 象 者 平 成 3 年 3


<4D F736F F D B3817A8E9096E291E D86939A905C>

セルフメディケーション推進のための一般用医薬品等に関する所得控除制度の創設(個別要望事項:HP掲載用)

を 行 わなければならない 適 正 な 運 用 方 針 を 厳 格 に 運 用 することによっては じめて 人 がみだりにその 容 ぼう 等 を 撮 影 されない 自 由 や 権 利 の 保 護 と 犯 罪 発 生 の 抑 止 という 防 犯 カメラの 設 置 目 的 との 調 和 が 実 現 され

住 民 監 査 請 求 に 係 る 監 査 結 果 第 1 請 求 の 受 付 1 請 求 の 受 付 日 平 成 25 年 10 月 15 日 2 請 求 人 ( 省 略 ) 3 請 求 の 趣 旨 ( 原 文 のまま 掲 載 ) 請 求 の 要 旨 阿 波 町 大 道 北 54 番 地 1 と

目次

1.H26年エイズ発生動向年報ー概要

Microsoft Word - 19年度(行情)答申第076号.doc

Microsoft PowerPoint - 報告書(概要).ppt

<96DA8E9F81698D8791CC A2E786C73>

経 常 収 支 差 引 額 の 状 況 平 成 22 年 度 平 成 21 年 度 対 前 年 度 比 較 経 常 収 支 差 引 額 4,154 億 円 5,234 億 円 1,080 億 円 改 善 赤 字 組 合 の 赤 字 総 額 4,836 億 円 5,636 億 円 800 億 円 減

有 料 老 ホーム ( ) ( 主 として 要 介 護 状 態 にある を 入 居 させるも のに 限 る ) 第 29 条 ( 届 出 等 ) 第 二 十 九 条 有 料 老 ホーム( 老 を 入 居 させ 入 浴 排 せつ 若 しくは 食 事 の 介 護 食 事 の 提 供 又 はその 他 の

Microsoft Word - (課×県・指定)【頭紙】「精神障害者保健福祉手帳の診断書の記入に当たって留意すべき事項について」等の一部改正について.rtf

2 一 般 行 政 職 給 料 表 の 状 況 ( 平 成 23 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 号 給 の 給 料 月 額 最 高 号 給 の 給 料 月 額 1 級 2 級 3 級 4 級 5 級 ( 単 位 : ) 6 級 7 級 8 級 135, , ,900 2

<4D F736F F D2088E78E998B788BC C98AD682B782E98B4B92F62E646F63>

III. 前 述 の 如 く 医 学 部 新 設 を 容 認 している 訳 ではないが 国 家 戦 略 特 区 による 医 学 部 新 設 については 国 会 答 弁 で 確 約 している 様 に 平 成 27 年 7 月 31 日 付 け 国 の 方 針 に 厳 格 に 従 う 事 を 求 める

Microsoft Word - nagekomi栃木県特定医療費(指定難病)支給認定申請手続きのご案内 - コピー

臨 床 研 究 事 案 に 関 する 主 な 報 道 概 要 ディオバン 事 案 白 血 病 治 療 薬 タシグナ 事 案 (SIGN 試 験 ) ノバルティス 社 の 高 血 圧 症 治 療 薬 ディオバンに 係 る 臨 床 研 究 において データ 操 作 等 があり 研 究 結 果 の 信 頼

資 格 給 付 関 係 ( 問 1) 外 国 人 Aさん(76 歳 )は 在 留 期 間 が3ヶ 月 であることから 長 寿 医 療 の 被 保 険 者 ではない が 在 留 資 格 の 変 更 又 は 在 留 期 間 の 伸 長 により 長 寿 医 療 の 適 用 対 象 となる 場 合 には 国

社会資源について 

月 収 額 算 出 のながれ 給 与 所 得 者 の 場 合 年 金 所 得 者 の 場 合 その 他 の 所 得 者 の 場 合 前 年 中 の 年 間 総 収 入 を 確 かめてください 前 年 中 の 年 間 総 収 入 を 確 かめてください 前 年 中 の 年 間 総 所 得 を 確 かめ

( 減 免 の 根 拠 等 ) 第 1 条 こ の 要 綱 は, 地 方 税 法 第 条 の 規 定 に 基 づ く 市 税 条 例 第 6 9 条 の 2 の 規 定 を 根 拠 と す る 身 体 障 害 者 等 に 対 す る 軽 自 動 車 税 の 減 免 の 具 体 的 な 対


弁護士が精選! 重要労働判例 - 第7回 学校法人専修大学(地位確認等反訴請求控訴)事件 | WEB労政時報(WEB限定記事)

2 平 均 病 床 数 の 平 均 病 床 数 では 療 法 人 に 対 しそれ 以 外 の 開 設 主 体 自 治 体 社 会 保 険 関 係 団 体 その 他 公 的 の 規 模 が 2.5 倍 程 度 大 きく 療 法 人 に 比 べ 公 的 病 院 の 方 が 規 模 の 大 き いことが

公平委員会設置条例

[2] 控 除 限 度 額 繰 越 欠 損 金 を 有 する 法 人 において 欠 損 金 発 生 事 業 年 度 の 翌 事 業 年 度 以 後 の 欠 損 金 の 繰 越 控 除 にあ たっては 平 成 27 年 度 税 制 改 正 により 次 ページ 以 降 で 解 説 する の 特 例 (

< F2D874491E682528FCD2091E DF C A2E>

目 次 事 例 法 別 5 法 別 5 70 歳 以 上 ( 患 者 負 担 割 ) 誕 生 が 昭 和 9 年 月 以 降 の 者 3 法 別 5 70 歳 以 上 ( 患 者 負 担 割 ) 特 例 措 置 対 象 者 法 別 歳 以 上 ( 患 者 負 担 割 ) 特 例 措 置

Microsoft Word - 福祉医療費給付要綱

別 紙

特 徴 差 分 点 検 レセ 楽 netの 点 検 方 式 は レセ 電 データを 使 用 した 差 分 点 検 です 前 回 点 検 分 と 比 較 して データ 内 容 と 記 録 順 が 異 なる 場 合 のみ 点 検 を 行 います 追 加 されたデータの 点 検 実 施 病 名 追 加 さ

第4回税制調査会 総4-1

別紙3

Microsoft Word 第1章 定款.doc

<4D F736F F D20836E E819592E88C5E B F944E82548C8E89FC90B3816A5F6A D28F57>

Microsoft Word - 19年度(行情)答申第081号.doc

Microsoft Word - 10 H21田中睡眠と経過

平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~

5 民 間 事 業 者 における 取 扱 いについて( 概 要 資 料 P.17~19) 6 法 人 番 号 について( 概 要 資 料 P.4) (3) 社 会 保 障 税 番 号 制 度 のスケジュールについて( 概 要 資 料 P.20) 1 平 成 27 年 10 月 から( 施 行 日 は

Microsoft Word - 2章.doc

_si00421

1 林 地 台 帳 整 備 マニュアル( 案 )について 林 地 台 帳 整 備 マニュアル( 案 )の 構 成 構 成 記 載 内 容 第 1 章 はじめに 本 マニュアルの 目 的 記 載 内 容 について 説 明 しています 第 2 章 第 3 章 第 4 章 第 5 章 第 6 章 林 地

発 覚 理 由 違 反 態 様 在 日 期 間 違 反 期 間 婚 姻 期 間 夫 婦 間 の 子 刑 事 処 分 等 1 出 頭 申 告 不 法 残 留 約 13 年 9 月 約 9 年 11 月 約 1 年 10 月 2 出 頭 申 告 不 法 入 国 約 4 年 2 月 約 4 年 2 月 約

資料2 利用者負担(保育費用)

2 職 員 の 平 均 給 与 月 額 初 任 給 等 の 状 況 (1) 職 員 の 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 及 び 平 均 給 与 月 額 の 状 況 ( 平 成 22 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 一 般 行 政 職 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 平 均 給 与

取 り 消 された 後 当 該 産 前 の 休 業 又 は 出 産 に 係 る 子 若 しくは 同 号 に 規 定 する 承 認 に 係 る 子 が 死 亡 し 又 は 養 子 縁 組 等 により 職 員 と 別 居 することとなったこと (2) 育 児 休 業 をしている 職 員 が 休 職 又

鳥 取 国 民 年 金 事 案 177 第 1 委 員 会 の 結 論 申 立 人 の 昭 和 37 年 6 月 から 38 年 3 月 までの 国 民 年 金 保 険 料 については 納 付 していたものと 認 められることから 納 付 記 録 を 訂 正 することが 必 要 である 第 2 申

食 品 や 食 材 を 購 入 する 際 に 注 意 する 点 食 品 や 食 材 を 購 入 される 際 には 主 にどのような 点 に 注 意 されていますか 価 格 数 量 味 賞 味 期 限 消 費 期 限 や 加 工 年 月 日 色 つや ブランド 産 地 食 物 アレルギー 原 材 料

第 3 節 結 果 1. 調 査 票 の 回 収 324 か 所 から 回 答 を 得 た ( 回 収 率 29.5%) 一 般 診 療 所 総 数 回 答 数 回 収 率 (%) 大 津 湖 南 甲 賀 東 近 江

毎 月 の 給 与 等 ( )を 一 定 の 等 級 区 分 にあてはめた 標 準 月 額 の 上 限 が 現 行 の47 等 級 から50 等 級 に 改 正 されます ( 別 紙 健 康 保 険 料 額 表 参 照 ) なお 法 改 正 に 伴 い 標 準 月 額 が 改 定 される 方 につい

(3) 調 査 の 進 め 方 2 月 28 日 2 月 28 日 ~6 月 30 日 平 成 25 年 9 月 サウンディング 型 市 場 調 査 について 公 表 松 戸 市 から 基 本 的 な 土 地 情 報 サウンディングの 実 施 活 用 意 向 アイデアのある 民 間 事 業 者 と

類 ( 番 号 を 記 載 ) 施 設 名 事 所 名 所 在 事 開 始 年 月 日 事 規 模 ( 定 員 ) 公 益 事 必 要 な 者 に 対 し 相 談 情 報 提 供 助 言 行 政 や 福 祉 保 健 医 療 サービス 事 者 等 との 連 絡 調 整 を 行 う 等 の 事 必 要

学校法人日本医科大学利益相反マネジメント規程

国 家 公 務 員 の 年 金 払 い 退 職 給 付 の 創 設 について 検 討 を 進 めるものとする 平 成 19 年 法 案 をベースに 一 元 化 の 具 体 的 内 容 について 検 討 する 関 係 省 庁 間 で 調 整 の 上 平 成 24 年 通 常 国 会 への 法 案 提

2 条 例 の 概 要 (1) 趣 旨 この 条 例 は 番 号 利 用 法 第 9 条 第 2 項 に 基 づく 個 人 番 号 の 利 用 に 関 し 必 要 な 事 項 を 定 めます (2) 定 義 この 条 例 で 規 定 しようとする 用 語 の 意 義 は 次 のとおりです 1 個 人

Taro-学校だより学力調査号.jtd

Microsoft Word - conference

5

重 度 障 害 者 等 包 括 支 援 の 控 除 対 象 額 等 の 算 出 方 法 について ( 別 添 1) ( 神 奈 川 県 保 健 福 祉 部 障 害 福 祉 課 ) 重 度 障 害 者 等 包 括 支 援 以 外 に 係 る 控 除 対 象 額 の 算 出 については 平 成 18 年

2 一 般 行 政 職 給 料 表 の 状 況 ( 平 成 25 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 号 給 の 給 料 月 額 最 高 号 給 の 給 料 月 額 ( 注 ) 給 料 月 額 は, 給 与 抑 制 措 置 を 行 う 前 のものである ( 単 位 : ) 3 職 員 の, 初 任

スライド 1

一般競争入札について


<4D F736F F D C482C682EA817A89BA90BF8E7793B1834B A4F8D91906C8DDE8A A>


2 職 員 の 初 任 給 等 の 状 況 (1) 職 員 の 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 及 び の 状 況 (26 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 一 般 行 政 職 平 均 年 齢 静 岡 県 国 類 似 団 体 2 技 能 労 務 職 区 41.8 歳 42.6 歳 43.5

39_1

(Microsoft Word - \213\213\227^\201E\222\350\210\365\212\307\227\235\214\366\225\\\201iH \)\201iHP\227p\201j.doc)

1 変更の許可等(都市計画法第35条の2)

横浜市障害者ガイドヘルプ事業実施要綱

認 定 看 護 師 専 門 看 護 師 集 中 ケア 新 生 児 集 中 ケア A 呼 吸 ケアチーム 加 算 150 点 呼 吸 ケアチームの 設 置 救 急 看 護 小 児 救 急 看 護 慢 性 呼 吸 器 疾 患 看 護 急 性 重 症 患 者 看 護 A 247 認 知 症

(1) 児 童 福 祉 施 設 等 の 職 員 が 出 産 する 場 合 ( 以 下 産 休 の 場 合 という ) 次 のア 又 はイに 掲 げる 期 間 ア その 職 員 の 出 産 予 定 日 の6 週 間 多 胎 妊 娠 の 場 合 は14 週 間 前 の 日 から 産 後 8 週 間 を

Transcription:

1 第 章 起 立 性 調 節 障 害 の 概 要 起 立 性 調 節 障 害 の 病 態 を 最 初 に 報 告 したのは,1826 年 のフランスの 医 師 ピオリらしい. 立 位 で 意 識 消 失 する 症 例 の 報 告 である.1925 年 には,ブラッ ドベリにより postural hypotension の 語 が 初 めて 使 用 された. 起 立 性 調 節 障 害 の 体 系 的 な 研 究 の 歴 史 は,1950 年 代 のドイツに 始 まる. 循 環 器 系 の 自 律 神 経 機 能 障 害 と 捉 えられ, 急 速 に 発 育 する 前 思 春 期, 思 春 期 にみられる 生 理 現 象 と 病 的 状 態 の 中 間 に 位 置 する 病 態 と 考 えられてきた. ドイツでの 研 究 成 果 を 踏 まえ, 我 が 国 に 初 めて 起 立 性 調 節 障 害 が 紹 介 され たのは 1958 年 で, 第 1 回 起 立 性 調 節 障 害 研 究 会 を 主 催 された 日 本 大 学 の 大 国 真 彦 先 生 がその 先 駆 的 役 割 を 果 たした.その 翌 年, 大 国 先 生 により 診 断 基 準 が 作 成 され, 同 研 究 会 は,1973 年 に 日 本 自 律 神 経 学 会 に 吸 収 される 形 で 発 展 的 に 解 消 した. 以 後, 鳥 取 大 学 の 本 多 和 雄 先 生, 浜 松 医 科 大 学 の 永 田 勝 太 郎 先 生 などによって 研 究 が 推 し 進 められ, 今 日 では 日 本 小 児 心 身 医 学 会 が ガイドラインを 作 成 するに 至 った. 起 立 性 調 節 障 害 は, 近 年 増 加 傾 向 にある. 好 発 年 齢 は 10 16 歳, 有 病 率 は 小 学 生 で 約 5%, 中 学 生 で 約 10%である. 病 院 を 受 診 しないまでも, 朝 が 起 きづらい 午 前 中 に 体 調 が 悪 い などを 訴 える 子 供,つまり 起 立 性 調 節 障 害 の 予 備 軍 と 呼 べる 子 供 は, 健 康 な 小 学 校 4 年 生 から 中 学 校 3 年 生 まで の 間 で 40 60%ほど 存 在 するといわれている.つまり, 相 当 数 の 患 者 およ び 予 備 軍 の 存 在 する 裾 野 の 広 い 疾 患 である. 小 児 科 外 来 を 受 診 する 5 人 に 1 人 が, 起 立 性 調 節 障 害 の 何 らかの 症 状 を 持 っているともいわれる. 男 女 比 は 1 対 1.5 2 の 比 で 女 子 に 多 い. JCOPY 498-14534 1

起 立 性 調 節 障 害 の 何 が 問 題 か さて,common disease ともいえる 起 立 性 調 節 障 害 であるが,その 何 が 問 題 か. 私 のクリニックには, 日 本 全 国 から 起 立 性 調 節 障 害 の 子 供 がやってくる. 多 くの 子 供 たちは,すでに 前 医 で 治 療 を 受 けている.そういう 子 供 たちを 診 ていると, 起 立 性 調 節 障 害 の 治 療 の 問 題 点 が 透 けてみえる. 多 くの 医 師 は, 起 立 性 調 節 障 害 を 身 体 疾 患 としてしか 治 療 していないよう である. 低 血 圧 に 対 する 昇 圧 剤, 頭 痛 に 対 する 鎮 痛 剤, 下 痢 に 対 する 整 腸 剤 といった 対 症 療 法 である. そこが 最 大 の 問 題 であるのだが,そうなるのも 無 理 はない. 起 立 調 節 障 害 の 子 供 がまず 訪 れる 小 児 科 は 基 本 的 には 身 体 科 であるし,そもそも 小 児 心 身 医 学 会 の 提 示 した 小 児 心 身 医 学 会 ガイドライン 集 の 冒 頭 に OD( 起 立 性 調 節 障 害 )は 身 体 疾 患 である と 書 いている. 起 立 性 調 節 障 害 は, 心 身 症 としての 要 素 が 強 いというのが 実 情 であるのだ から,この 文 言 は 誤 解 を 与 える.もちろん, 純 粋 に 身 体 疾 患 として 扱 える 症 例 もあり,それはそれで 重 要 な 疾 患 単 位 であるのだが, 長 引 く 遅 刻 や 欠 席 な ど, 学 校 生 活 に 支 障 を 生 じ, 病 院 の 受 診 を 余 儀 なくされるようになると, 自 ずと 心 身 症 としての 様 相 を 帯 びてくる. 小 児 心 身 医 学 会 ガイドライン 集 にある OD は 身 体 疾 患 である とは, 本 来 は OD には 身 体 疾 患 としての 一 面 があり, 器 質 的 なメカニズムが 存 在 するが,その 背 景 には 心 理 社 会 的 背 景 のある 場 合 が 多 い とすべきはずで ある.ガイドライン 全 体 の 論 調 は 心 身 症 であることを 否 定 していないので, 冒 頭 の 言 葉 が 言 葉 足 らずなのである. 我 々 臨 床 家 は,まずこの 点 を 誤 解 しな いようにしなければならない. 決 して, 起 立 性 調 節 障 害 は 身 体 の 病 気 であ る などと 患 児 や 親 に 向 かって 公 言 してはならない. 受 診 した 子 供 に 付 き 添 っている 親 も, OD は 身 体 疾 患 である と 思 い 込 んでいることが 多 い. 彼 らは 我 が 子 の 窮 地 を 救 おうと,インターネットを 使 ってあらゆる 情 報 を 無 秩 序 に 取 り 入 れている.そこには, 身 体 疾 患 なの だから, 怠 け 扱 いしないでしっかり 治 しましょう というニュアンスの, 心 2 JCOPY 498-14534

理 的 側 面 を 否 定 したものが 多 い. 親 も 誤 解 してしまう 所 以 である. このように, 近 年, 起 立 性 調 節 障 害 は, 身 体 疾 患 としての 側 面 が 強 調 され 過 ぎている.これは 一 体 何 なのか. 朝, 起 きられない を 単 に 怠 け と しかみて 来 なかった 過 去 に 対 する 反 動 であろうと 思 われる. 今 まで, 朝, 起 きられない は, 精 神 論, 根 性 論 に 結 びつけられ, 起 き られないで 辛 い 思 いをしている 子 供 たちを 大 人 たちが 無 理 やり 叩 き 起 こして 登 校 を 強 いてきた 歴 史 がある.それが, 起 立 性 調 節 障 害 の 登 場 によって 覆 った. 朝, 起 きられない という 現 象 は, 精 神 論 などで 片 付 けられるも のではなく, 身 体 の 病 気 だとされるようになった.すると, 今 までの 対 応 が さも 悪 しきことだったかのように 片 付 けられ, 精 神 論 に 基 づく 登 校 の 強 制 は 間 違 っているといった 風 潮 が 醸 成 され, 結 果, 起 立 性 調 節 障 害 の 持 つ 心 理 的 な 側 面 が 削 がれていったのである. 精 神 論 や 根 性 論 を 復 活 させようというのではない. 起 立 性 調 節 障 害 の 子 供 を 怠 け といって 一 蹴 してはいけない.いまさらそれは 論 を 待 たない.だ が, 結 果 的 に 怠 け といわれても 否 定 できない 心 理 的 問 題 を 内 包 している こともまた 事 実 なのである.ここから 目 を 背 けてはいけない. 重 要 なことは, 起 立 性 調 節 障 害 の 身 体 的 なメカニズムが 明 らかにされるこ ととともに, 今 まで 怠 け といわれてきたものとは 一 体 何 なのか,その 心 理 ダイナミズムはどういうものなのかということを 明 確 にすることである. 身 体 型 と 心 身 症 型 まず 重 要 なことは, 起 立 性 調 節 障 害 には,1 身 体 疾 患 として 扱 ってよい 身 体 型 と,2 心 身 症 として 扱 うべき 心 身 症 型 が 存 在 するということ である. 1 身 体 型 は, 一 言 でいうと 軽 症 例 である. 起 立 性 調 節 障 害 は 一 般 中 学 生 の 一 割 を 占 めるといわれ, 病 院 を 受 診 しない 者 を 含 めれば 軽 症 例 の 絶 対 数 は 多 い. 一 方, 病 院 を 受 診 する 軽 症 例 は 決 して 多 くないと 思 われる. 2 心 身 症 型 は, 中 等 症 以 上 の 起 立 性 調 節 障 害 であると 考 えて 差 し 支 え JCOPY 498-14534 3

ない. 病 院 を 受 診 する 者 は, 身 体 型 よりもこちらの 方 が 多 い. 心 療 内 科 や 精 神 科 を 訪 れる 患 者 ならなおさらである. なぜこれを 中 等 症 以 上 としてよいかというと, 病 院 を 受 診 する 例 は, 遅 刻 や 欠 席 など,ほとんどの 例 で 学 校 生 活 に 支 障 をきたしているからである. そうした 場 合, 何 らかのストレスが 背 景 にあるものであるし,たとえそれが なくても, 学 校 生 活 に 支 障 をきたしているということ 自 体 が 心 理 的 ストレス となる( 詳 細 は 後 述 ). この 点 は, 小 児 心 身 医 学 会 ガイドライン 集 の 診 断 アルゴリズム の 描 く 起 立 性 調 節 障 害 の 病 態 像 と 一 線 を 画 する. 小 児 心 身 医 学 会 ガイドライン 集 の 診 断 アルゴリズム では,あくま で1 身 体 型 が 起 立 性 調 節 障 害 のメインであり, 心 身 症 としての 要 素 は 付 加 的 なものとして 扱 われている. このガイドラインは, 身 体 科 である 小 児 科 医 が 起 立 性 調 節 障 害 の 身 体 的 な 側 面 の 研 究 を 積 み 重 ねてきた 結 果 のものであるから,それは 無 理 もないのか もしれない.しかし, 心 療 内 科 や 精 神 科 において,これをそのまま 無 批 判 に 運 用 することには 慎 重 であらねばならない. なぜなら,こと 心 理 的 な 問 題 にフォーカスしてみると,そこには 心 身 症 と しての 問 題 のみならず, 思 春 期 の 心 理 特 性, 欠 席 や 遅 刻 という 行 動 のもたら す 心 理 的 影 響 が 存 在 し, 治 療 面 ではそこを 避 けては 通 れないからである. こうした 問 題 は, 厳 密 にいえば 身 体 型 と 心 身 症 型 の 境 界 を 曖 昧 に するし,また, 心 身 症 という 言 葉 で 心 理 的 な 問 題 のすべてを 代 弁 するこ とにも 疑 問 を 生 じさせる.このあたりの 問 題 は 後 に 詳 述 するとして,ここで は1 身 体 型 と2 心 身 症 型 の 典 型 例 を 提 示 しておく. 4 JCOPY 498-14534

第 1 章 起立性調節障害とは何か 症例 ① 身体型 の典型例 小学校 6 年生 男児 A 主訴 朝起き不良 易疲労 めまい たちくらみ 既往歴 特記すべきことなし 病歴 このところ身長の伸びがめざましい A は地域のサッカーのク ラブチームに所属し リーグ戦の得点王を期待されるくらいに運動能 力が高い 成績もよく 友達関係や家族関係にも問題はない A は 夏休みの期間中にサッカーに励み 親からみて頑張り過ぎでは ないかと心配するほどであった 次第に疲労感を訴えるようになり 夏休みを過ぎたころからすっかり元気をなくしてしまった 立ちくら みやめまいを訴え 家に帰るや 食事もそこそこに倒れ込んで寝てし まう そんな状態が何日も続き 練習にも満足についていくことがで きなくなった レギュラーも危うくなり 朝 なかなか起きることが できなくなった 厳格な父親は たるんでいる 怠けだ といっては 首根っこをつかんで強引にベッドから引きずり起こすことが度々で あった 心配した母親に付き添われ来院した 現症 神経学的所見 胸腹部 頭頸部に異常は認められない 検査所見 血液生化学 末梢血液検査 心理テストは異常なし 起立試験は 起立直後性低血圧のパターンであった 前 1分 3分 5分 7分 10 分 血圧 102/52 81/61 86/64 84/66 88/66 92/68 脈拍 62 92 96 90 84 78 本例は 疲れている感はあるものの受け答えもしっかりしており 気分障 害や認知の歪みも認めず また 心理テストも正常であった 炎天下のサッ カーがオーバーワークとなって発症したと思われた 昇圧剤と漢方薬の服用 のみで 3 カ月ほどの通院で改善した JCOPY 498-14534 5