名 古 屋 学 院 大 学 研 究 年 報 第 27 号 (2014.12) 研 究 ノート 大 学 入 学 後 の 生 活 変 化 が 起 立 性 調 節 障 害 (OD) 様 症 状 発 現 に 及 ぼす 影 響 中 野 貴 博 沖 村 多 賀 典 金 愛 慶 齋 藤 健 治 早 坂 一 成 廣 美 里 松 田 克 彦 名 古 屋 学 院 大 学 スポーツ 健 康 学 部 要 旨 大 学 1 年 生 を 対 象 に, 大 学 入 学 直 後 から 半 年 間 における 生 活 習 慣 の 変 化 と,それに 伴 うOD 様 症 状 発 現 との 関 係 性 を 検 討 することを 目 的 とした 4 月 および10 月 に 実 施 したアンケート 調 査 に 適 切 に 回 答 した125 名 を 分 析 対 象 とした 生 活 時 間, 睡 眠, 食 事,OD 様 症 状 に 関 して4 月 と 10 月 の 変 化 を 分 析 検 討 した 睡 眠, 食 事 習 慣 に 有 意 な 悪 化 が 確 認 された 生 活 時 間 では 有 意 な 遅 寝 遅 起 きの 進 行 が 確 認 された OD が 疑 われる 学 生 の 割 合 は,わずか 半 年 間 で 約 10%の 増 加 が 確 認 された これらの 結 果 より, 生 活 習 慣 の 悪 化 と 生 活 時 間 の 夜 型 化 がOD 様 症 状 を 引 き 起 こしている 可 能 性 が 疑 われた 大 学 生 に 対 して 適 切 な 生 活 習 慣 とリズムの 獲 得 を 教 育 すること が 体 調 の 改 善, 学 業 姿 勢 の 改 善 に 有 効 であることが 示 唆 された キーワード: 生 活 リズム, 起 立 性 調 節 障 害, 大 学 生 Influence of Lifestyle Changes on Appearance of OD Symptoms after Entrance into University Takahiro NAKANO, Takanori OKIMURA, Aekyoung KIM, Kenji SAITOU Kazunari HAYASAKA, Misato HIRO, Katsuhiko MATUDA Faculty of Health and Sports Nagoya Gakuin University 発 行 日 2014 年 12 月 31 日 33
名 古 屋 学 院 大 学 研 究 年 報 Ⅰ. 序 文 近 年, 子 ども 達 における 生 活 習 慣 の 乱 れや 様 々な 健 康 問 題, 学 校 への 不 適 応 などが 社 会 問 題 となっている[6, 15, 19] 小 学 生 におい ては 小 1 プロブレムなどと 言 われ, 小 学 校 の 生 活 に 適 応 できず, 授 業 中 じっとしていられ なかったり, 集 団 行 動 ができなかったりする ケースが 問 題 であり, 様 々な 取 り 組 みも 行 わ れている[5] これ 以 外 にも 小 学 校 高 学 年 頃 から, 身 体 活 動 が 減 少 したり,あるいは 痩 せ 願 望 などの 影 響 で 食 習 慣 の 乱 れが 生 じたりす ることも 指 摘 されている[10, 13] 中 学 生 や 高 校 生 における 女 児 の 痩 せ 願 望 は 特 に 大 きな 問 題 であり, 不 健 康 やせや 思 春 期 やせ 症 など の 増 加 も 指 摘 されている[20] その 一 方 で, 食 習 慣 の 乱 れや 身 体 活 動 の 現 象,テレビや ゲーム,ネットなどの 影 響 による 睡 眠 を 中 心 とした 生 活 習 慣 の 乱 れなどに 起 因 した 肥 満 の 増 加 も 問 題 となっている[1, 12] 肥 満 の 増 加 も 痩 せの 増 加 も 大 きな 社 会 問 題 と 言 える[4, 11] このような 問 題 点 は 児 童 生 徒 のみの 話 ではなく, 大 学 生 においても 多 く 見 られる 特 に, 大 学 生 では 一 人 暮 らしの 影 響 や 授 業 時 間 の 変 化 などによる 生 活 の 乱 れは 顕 著 であ り, 授 業 中 の 居 眠 りや 集 中 力 不 足, 午 前 中 の 体 調 不 良 などの 様 子 は 日 常 的 に 見 られている のが 現 状 である このような 学 生 は, 将 来, 卒 業 後 に 社 会 生 活 に 適 応 できなくなる 恐 れも ある 上 記 のような 問 題 を 呈 する 子 ども 達 におい ては, 単 なる 体 型 の 変 化 や 学 校 および 社 会 へ の 不 適 応 といった 問 題 だけではなく, 健 康 上 の 問 題 が 顕 在 化 するケースも 少 なくない 一 般 的 に 不 定 愁 訴 と 呼 ばれる 頭 痛 腹 痛 や 身 体 のだるさなどを 訴 えるケースも 多 く 見 ら れ, 上 記 のような 子 ども 達 の 意 外 な 共 通 項 であったりもする 午 前 中 の 体 調 不 良 など は,その 典 型 例 である このような 不 定 愁 訴 を 有 する 子 どもは,わが 国 では20 年 ぐらい 前 から 多 くなってきたと 言 われる[17, 19] さらに,このような 生 活 の 乱 れに 起 因 した 不 定 愁 訴 では 起 立 性 調 節 障 害 (Orthostatic Dysregulation, 以 下 OD と 記 述 する)が 疑 われるケースも 多 い[16, 17] これまでにも OD に 関 しては 児 童 生 徒 を 中 心 にいくつかの 報 告 がある[3, 9, 21] そして,これらの 報 告 の 多 くで 生 活 習 慣 の 乱 れとの 関 係 が 指 摘 され ている 本 来,OD は 自 律 神 経 系 の 働 きの 不 調 により, 起 立 時 に 血 圧 が 維 持 されず, 結 果 的 にめまいや 立 ちくらみを 起 こす 症 状 がその 典 型 症 状 である 自 律 神 経 の 働 きの 不 調 は 生 活 習 慣 の 乱 れにより, 正 常 な 日 内 リズムで 自 律 神 経 が 働 かないために 起 こることがわかっ ており, 生 活 習 慣 を 適 切 にすることで,この ような 症 状 が 大 幅 に 改 善 できる[14] 上 記 のような 学 校 や 社 会 への 不 適 応,そし てその 背 景 に 存 在 が 考 えられるOD,OD と 並 存 する 健 康 上 の 問 題 は, 重 大 な 社 会 問 題 で ある 日 本 学 校 保 健 会 の 調 査 では, 小 学 生 高 学 年 の 女 児 では 約 5.4%がOD 様 症 状 を 呈 することが 示 されている また, 中 学 生 や 高 校 生 ではさらに 増 加 し,それぞれ24.1%と 29.4%になっている 同 様 に 男 児 でも 中 学 生 で 16.5%, 高 校 生 で17.8%になっている[9] 一 方 で 大 学 生 に 関 する 研 究 はまだまだ 少 な い 実 際 には, 大 学 生 の 生 活 は 一 人 暮 らしな どの 生 活 の 変 化 に 影 響 を 受 けて 著 しく 乱 れて いることが 予 想 され, 高 校 生 まで 以 上 にOD 様 症 状 を 呈 する 学 生 が 多 いと 推 察 される 事 実, 小 学 生 や 中 学 生 よりも 大 学 生 の 生 活 はは るかに 乱 れているという 指 摘 もあり,それが 34
大 学 入 学 後 の 生 活 変 化 が 起 立 性 調 節 障 害 (OD) 様 症 状 発 現 に 及 ぼす 影 響 体 調 の 不 良 や 抑 鬱 と 関 連 するとも 言 われてい る[8, 18] 恐 らくこのような 学 生 は 学 業 にも 支 障 をきたしている 可 能 性 があり, 将 来 の 社 会 生 活 に 適 応 できない 危 険 性 も 想 定 される 以 上 のような 背 景 から, 本 研 究 では 大 学 生 を 対 象 に, 大 学 入 学 直 後 から 半 年 間 における 生 活 習 慣 の 変 化 と,それに 伴 うOD 様 症 状 発 現 との 関 係 性 を 検 討 することを 目 的 とした Ⅱ. 方 法 2.1 対 象 者 対 象 者 は,2014 年 度 に 本 学 に 入 学 した1 年 生 153 名 であり,この 内,4 月 および10 月 に 実 施 したアンケート 調 査 に 適 切 に 回 答 した 125 名 を 分 析 対 象 とした 2.2 調 査 項 目 アンケート 調 査 は 生 活 時 間, 睡 眠, 食 事, OD 様 症 状, 情 緒, 過 去 の 運 動 暦,これから の 運 動 生 活, 自 己 効 力 感 に 関 する11 の 大 問 で 構 成 した 調 査 項 目 の 総 数 は103 項 目 であ り, 集 合 調 査 法 により 調 査 を 行 った また, すべての 選 択 肢 が 同 じものを 選 んでいたり, 選 択 肢 外 の 数 字 を 記 入 していたり, 時 間 項 目 においてはありえない 時 間 を 記 入 していたり などの 信 頼 性 の 低 い 回 答 に 関 しては, 不 適 切 な 回 答 として 事 前 に 削 除 して 分 析 を 行 った 本 研 究 では 上 記 の 調 査 項 目 の 内, 生 活 時 間 (3 項 目 ), 睡 眠 (10 項 目 ), 食 事 (12 項 目 ), OD 様 症 状 (11 項 目 )を 分 析 対 象 とした 調 査 はすべて4 件 法 にて 行 い, 数 値 の 大 きいも のを 良 好 な 生 活 習 慣 となるようにした ま た, 時 刻 項 目 に 関 しては24 時 間 表 記 にて 記 入 させた 2.3 データ 分 析 生 活 時 間 に 関 しては, 起 床 時 刻, 就 寝 時 刻, 睡 眠 時 間 の 変 化 を 対 応 のあるt 検 定 によ り 検 討 した 睡 眠 関 連 項 目 に 関 しては10 項 目, 食 事 関 連 項 目 に 関 しては12 項 目 の 合 計 得 点 を 算 出 し,それぞれ 睡 眠 得 点, 食 事 得 点 という 合 成 変 数 の 変 化 を 対 応 のあるt 検 定 により 検 討 した OD に 関 しては 表 2 に 示 し た 診 断 基 準 に 基 づき[2, 3], 陽 性 が 疑 われる 学 生 を 判 断 した その 後,4 月 から10 月 にお ける 陽 性 が 疑 われる 学 生 の 割 合 の 変 化 をクロ ス 集 計 およびカイ 二 乗 検 定 により 検 討 した すべての 分 析 において 有 意 水 準 は5%とし, IBM SPSS Statistics Version 20.0 を 用 いて 分 析 を 行 った Ⅲ. 結 果 3.1 生 活 時 間 の 変 化 起 床 時 刻, 就 寝 時 刻, 睡 眠 時 間 の 変 化 を 表 3 に 示 した 起 床 時 刻 は 有 意 に 遅 くなってお り,7 時 56 分 から8 時 17 分 へと 約 20 分 間 遅 くなっていた 就 寝 時 刻 も 同 様 に 約 20 分 間 遅 くなっており, 有 意 な 変 化 であった 睡 眠 時 間 に 有 意 な 変 化 は 見 られなかった 全 体 的 に 生 活 時 間 が 約 20 分 間 夜 型 に 移 行 している ことがうかがえた 3.2 睡 眠, 食 事 得 点 の 変 化 睡 眠 得 点 および 食 事 得 点 の 変 化 を 表 4 に 示 した 睡 眠 得 点 に 関 しては, 十 分 な 睡 眠 時 間 や 寝 つき, 起 床 の 仕 方 などの10 項 目 の 合 計 得 点 で 検 討 した 4 月 の 段 階 では 平 均 31.34 点 であり1 項 目 あたりでは3.0 点 をわずかに 越 える 値 であった 全 体 的 に 睡 眠 習 慣 は 良 好 であったことがうかがえた また,10 月 の 35
名 古 屋 学 院 大 学 研 究 年 報 表 1 調 査 領 域 項 目 一 覧 調 査 領 域 調 査 項 目 選 択 肢 生 活 時 間 睡 眠 食 事 起 立 性 調 節 障 害 (OD) 様 症 状 学 校 がある 日 の 起 床 時 刻 学 校 がある 日 の 就 寝 時 刻 学 校 がある 日 の 睡 眠 時 間 睡 眠 時 間 はじゅうぶんに 取 ることができていますか 同 じぐらいの 睡 眠 時 間 を 取 っていますか ふとんに 入 ってからすぐに 眠 ることができますか ぐっすり 眠 ることができていますか 朝 はすっきりと 目 をさますことができていますか 朝 は 自 分 で 起 きることができていますか 同 じ 時 間 に 起 きることができていますか だいたい 同 じ 時 間 に 寝 ることができていますか 朝, 起 きてから 学 校 に 行 くまでの 時 間 に 余 裕 を 持 てていますか お 風 呂 にゆっくり 入 ることができていますか 朝 食 を 食 べることができていますか 好 き 嫌 いをしないで 食 事 ができていますか 毎 日, 食 事 を 三 回 きちんととることができていますか 毎 日, 食 事 を 同 じ 時 間 にすることができていますか ごはんを 残 さずに 食 べることができていますか できるだけ 多 くの 食 品 を 食 べるようにしていますか 栄 養 バランスのよい 食 事 ができていますか 食 事 はゆっくりとかんで 食 べていますか お 菓 子 やスナック 菓 子 を 食 べすぎないようにしていますか 食 品 の 安 全 ( 食 品 添 加 物 や 賞 味 期 限 等 )を 確 かめていますか ジュース 等 を 飲 みすぎないようにしていますか 塩 辛 いものを 食 べすぎないようにしていますか 立 ちくらみ や めまい を 感 じることがあるまたは, 立 ち 上 がるときにそっと 立 つことがある 立 っていると 気 持 ち 悪 くなり,ひどいときは 倒 れることがある お 風 呂 やシャワーに 入 ったとき, 気 分 が 悪 くなり,ひどいとき には 倒 れることがある 少 し 動 いただけでも 胸 がドキドキしたり, 息 切 れしたりするこ とがある 朝, 頭 痛 や 腹 痛 や 身 体 のだるさで, 起 きにくいことがある 顔 色 が 悪 い( 青 白 い) と 言 われることがある 食 欲 がないことがある おなかがさすように 痛 くなることがある 身 体 の だるさ や 疲 れやすさ を 感 じることがある 頭 が 痛 くなることがある 乗 り 物 に 酔 いやすい 時 刻 記 入 時 刻 記 入 起 床 就 寝 より 算 出 4 件 法 1:ほとんどない 2:ときどき 3:しばしば 4: 毎 日 4 件 法 1:ほとんどない 2:ときどき 3:しばしば 4: 毎 日 4 件 法 1:しばしば 感 じる 2:ときどき 感 じる 3:たまに 感 じる 4: 感 じない 36
大 学 入 学 後 の 生 活 変 化 が 起 立 性 調 節 障 害 (OD) 様 症 状 発 現 に 及 ぼす 影 響 表 2 起 立 性 調 節 障 害 (OD) 診 断 基 準 大 症 状 質 問 項 目 立 ちくらみ や めまい を 感 じることがあるまたは, 立 ち 上 がると きにそっと 立 つことがある 立 っていると 気 持 ち 悪 くなり,ひどいときは 倒 れることがある お 風 呂 やシャワーに 入 ったとき, 気 分 が 悪 くなり,ひどいときには 倒 れ ることがある 少 し 動 いただけでも 胸 がドキドキしたり, 息 切 れしたりすることがある 朝, 頭 痛 や 腹 痛 や 身 体 のだるさで, 起 きにくいことがある 陽 性 の 基 準 1,2,3 陽 性 1,2,3 陽 性 小 症 状 顔 色 が 悪 い( 青 白 い) と 言 われることがある 食 欲 がないことがある おなかがさすように 痛 くなることがある 身 体 の だるさ や 疲 れやすさ を 感 じることがある 頭 が 痛 くなることがある 乗 り 物 に 酔 いやすい ( 選 択 肢 :1.しばしば,2.ときどき,3.たまに,4.ない) OD 診 断 陽 性 陰 性 陽 性 の 基 準 大 症 状 3つ 以 上 が 陽 性 大 症 状 2つが 陽 性 かつ 小 症 状 1つ 以 上 が 陽 性 大 症 状 1つが 陽 性 かつ 小 症 状 3つ 以 上 が 陽 性 その 他 表 3 生 活 時 間 の 変 化 調 査 領 域 4 月 10 月 df t 値 p 値 ( 両 側 ) 起 床 時 刻 7: 56 ± 1: 42 8: 17 ± 1: 32 121-2.28 0.024* 就 寝 時 刻 24: 24 ± 0: 57 24: 44 ± 1: 11 121-3.28 0.001* 睡 眠 時 間 6: 50 ± 1: 11 6: 53 ± 1: 23 121-0.54 0.588 表 4 睡 眠 得 点, 食 事 得 点 の 変 化 調 査 領 域 4 月 10 月 df t 値 p 値 ( 両 側 ) 睡 眠 得 点 (10 項 目 :40 点 満 点 ) 31.34 ± 5.12 28.98 ± 4.94 124 5.65 0.000* 食 事 得 点 (12 項 目 :48 点 満 点 ) 37.59 ± 5.03 35.33 ± 5.28 124 5.89 0.000* 平 均 は28.98 点 であり, 有 意 な 悪 化 が 確 認 さ れた 同 様 に 食 事 得 点 に 関 しては, 朝 食 摂 取 や 食 べ 残 し, 栄 養 バランス,スナック 菓 子 等 の 摂 取 などの12 項 目 の 合 計 点 で 検 討 した 4 月 時 点 での 平 均 点 は37.59 点 であった 1 項 目 あ たりの 平 均 で3.1 点 以 上 であり 良 好 であった が,10 月 時 点 では 平 均 35.33 点 であり, 有 意 37
名 古 屋 学 院 大 学 研 究 年 報 表 5 起 立 性 調 節 障 害 (OD)が 疑 われる 学 生 の 割 合 の 変 化 時 期 陽 性 陰 性 合 計 4 月 31.8% 68.2% 100% 10 月 41.5% 58.5% 100% χ 2 test: p=0.05* な 悪 化 が 確 認 された 3.3 ODが 疑 われる 学 生 割 合 の 変 化 OD が 疑 われる 学 生 の 割 合 の 変 化 を 表 5 に 示 した 4 月 時 点 で 陽 性 が 疑 われる 学 生 の 割 合 は31.8%であった 10 月 時 点 では41.5%で あり 有 意 に 増 加 していた 約 10% OD 様 症 状 を 訴 える 学 生 が 増 加 していた Ⅳ. 考 察 4.1 ODが 疑 われる 学 生 の 割 合 今 回 の 調 査 では4 月 時 点 でのOD が 疑 われ る 学 生 の 割 合 は31.8%であった 先 行 研 究 に よれば, 小 学 生 や 中 学 生 ではOD が 疑 われる 児 童 生 徒 は 男 児 では16~17%, 女 児 では24 ~29% 程 度 おり,また, 思 春 期 以 降 に 増 加 す ることが 指 摘 されている[9] 今 回 の 結 果 か ら 大 学 生 においても 同 程 度 にOD が 疑 われる 学 生 がいることがうかがえた さらに, 先 行 研 究 では 女 子 において1 割 程 度 OD 様 症 状 や 不 定 愁 訴 が 見 られやすいことも 指 摘 されてい る[3, 9, 21] 本 研 究 では,4 月 時 点 でOD が 疑 われる 女 子 学 生 の 割 合 は35.7%, 男 子 学 生 では30.8%であった 同 様 に10 月 時 点 では, 45.8%と41.6%であった いずれの 時 点 も 女 子 学 生 においてOD が 疑 われる 割 合 が 多 かっ た しかしながら 男 女 の 乖 離 は5% 程 度 であ り, 小 中 学 生 よりは 少 なかった 義 務 教 育 以 降, 男 子 学 生 においてOD が 疑 われるケース が 増 加 していることが 示 唆 された 4 月 と10 月 の 比 較 では, 約 10% OD が 疑 わ れる 学 生 の 割 合 が 増 加 していた わずか 半 年 間 で10%の 増 加 は 驚 異 的 であり, 大 学 2 年 生 や 3 年 生 における 脅 威 はそれ 以 上 であること が 予 想 される 今 後 さらなる 追 跡 をしていき たい 大 学 生 においては, 親 元 を 離 れての 一 人 暮 らしや 就 学 時 間 の 変 化,あるいは,アル バイトを 自 由 にするようになるなどの 様 々な 生 活 の 変 化 が 予 想 される その 一 方 で, 大 人 として 扱 われることも 多 くなるため,あらゆ る 行 動 に 自 己 管 理 が 求 められるようになる 自 分 自 身 で 生 活 や 健 康 といったものに 気 を 付 けていかなければOD のような 体 調 不 良 を 減 らすことは 難 しいであろう また, 本 論 文 の 冒 頭 にも 記 したが,OD 様 症 状 の 増 加 は 近 年 の 大 学 生 における 学 業 への 姿 勢 や 社 会 に 出 て からの 不 適 応 といった 問 題 とも 無 関 係 ではな く,これらの 問 題 解 決 のためにも 学 生 の 健 康 生 活 管 理 にも 焦 点 をあてていくべきであ る 4.2 OD 様 症 状 発 生 割 合 と 生 活 習 慣 の 変 化 OD が 疑 われる 学 生 は 前 述 の 通 り4 月 から 10 月 で 約 10% 増 加 した 睡 眠 習 慣 の 得 点 や 食 習 慣 の 得 点 は 有 意 に 減 少 しており,それぞ れの 習 慣 の 悪 化 が 確 認 された 生 活 時 間 に 関 しても 有 意 な 悪 化 が 観 察 された 平 均 睡 眠 時 間 には 大 きな 変 化 が 見 られなかったが, 起 床 時 刻 と 就 寝 時 刻 は 有 意 に 遅 くなっており,い 38
大 学 入 学 後 の 生 活 変 化 が 起 立 性 調 節 障 害 (OD) 様 症 状 発 現 に 及 ぼす 影 響 ずれも 約 20 分 の 遅 れであった 小 学 生 から 高 校 生 頃 までは 発 育 発 達 に 伴 い 生 活 時 間 も 変 化 し, 就 寝 時 刻 が 遅 くなり, 睡 眠 時 間 も7 時 間 程 度 に 落 ち 着 くのは 自 然 である しかし, 大 学 生 においては 発 育 発 達 に 伴 う 変 化 とは 考 え 難 い さらに 睡 眠 時 間 は 変 化 していないこ とを 考 慮 すれば, 純 粋 に 遅 寝 遅 起 きの 進 行 と 考 えられる 本 学 では 始 業 が9 時 30 分 であ るが, 多 くの 学 生 が 高 校 時 代 は8 時 30 分, 遅 くとも9 時 には 始 業 していたはずである このような30 分 の 変 化 が 生 活 時 間 を 後 ろに ずらすことを 許 容 している 可 能 性 も 考 えられ る 序 文 にも 書 いたが,OD は 生 活 習 慣 の 乱 れにより 正 常 な 日 内 リズムで 自 律 神 経 が 働 か ないために 起 こることがわかっている[17] 学 校 の 始 業 時 間 に 関 わらず, 一 日 24 時 間 の 適 切 な 生 活 リズムを 刻 むことがOD のような 体 調 不 良 発 生 の 予 防 には 重 要 になると 考 えら れる 生 活 時 間 の 夜 型 化 がOD 様 症 状 を 引 き 起 こしているかどうかは,さらなる 追 跡 が 必 要 と 思 われるが,その 可 能 性 は 否 定 できな い さらに, 睡 眠 習 慣 や 食 習 慣 に 関 しても, 大 学 生 になって 半 年 で 有 意 な 悪 化 が 確 認 され ており,これもOD 様 症 状 の 増 加 に 影 響 した 可 能 性 がある 生 活 習 慣 の 乱 れや 生 活 の 夜 型 化 は 学 業 成 績 と 関 連 するという 報 告 もあり [7], 大 学 生 の 学 業 に 望 む 姿 勢 を 改 善 する 意 味 でも,このような 現 象 は 極 力 回 避 すべきで ある 現 代 の 大 学 においては 学 業 の 教 育 はも ちろんであるが, 日 々の 生 活 に 関 しても 教 育 をしていくことが 求 められるのかもしれな い 大 学 時 代 を 良 好 な 生 活 習 慣 とリズムのも とで 過 ごすことにより,OD 様 症 状 の 発 現 を 回 避 し, 充 実 した 学 生 生 活 へとつなげられる ことが 期 待 される Ⅴ.まとめ 本 研 究 は,2014 年 度 に 本 学 に 入 学 した1 年 生 を 対 象 に, 大 学 入 学 直 後 から 半 年 間 におけ る 生 活 習 慣 の 変 化 と,それに 伴 うOD 様 症 状 発 現 との 関 係 性 を 検 討 することを 目 的 とし た 睡 眠, 食 事 習 慣 に 有 意 な 悪 化 が 確 認 され た 生 活 時 間 では 有 意 な 遅 寝 遅 起 きの 進 行 が 確 認 された OD が 疑 われる 学 生 の 割 合 は, わずか 半 年 間 で 約 10%の 増 加 が 確 認 された これらの 結 果 より, 生 活 習 慣 の 悪 化 と 生 活 時 間 の 夜 型 化 がOD 様 症 状 を 引 き 起 こしている 可 能 性 が 疑 われた 体 調 の 改 善 や 学 業 姿 勢 の 改 善 のためにも, 大 学 時 代 に 適 切 な 生 活 習 慣 とリズムの 獲 得 を 教 育 することが 有 効 である ことが 示 唆 された 本 研 究 は2013 年 度 に 名 古 屋 学 院 大 学 総 合 研 究 所 において 研 究 活 動 の 補 助 ( 共 同 研 究 会 ) を 受 けて 実 施 した 文 献 [1] 林 辰 美, 伊 東 るみ, 二 宮 正 幸, 伊 藤 雄 平 (2002) 高 校 生 の 肥 満, 血 圧 高 値 者 における 食 生 活, 生 活 習 慣 ならびに 疲 労 自 覚 症 状 について. 栄 養 学 雑 誌 60: 93 97 [2] 市 橋 保 雄, 大 国 真 彦, 草 川 三 治, 鈴 木 栄, 八 代 公 夫, 市 橋 治 雄 編.(1974) 起 立 性 調 節 障 害. 中 央 医 学 社, 東 京,pp7 36 [3] 飯 田 吏 沙, 仙 田 真 弓, 古 田 真 司.(2008) 生 徒 の 起 立 性 調 節 障 害 (OD)を 疑 う 問 診 項 目 の 実 験 的 検 討 新 ガイドラインによる 起 立 試 験 と の 関 連 から. 愛 知 教 育 大 学 研 究 報 告 ( 教 育 科 学 編 )57: 35 43 [4] 金 田 芙 美, 菅 野 幸 子, 佐 野 文 美, 西 田 美 佐, 吉 池 信 男, 山 本 茂.(2004) 我 が 国 の 子 どもに 39
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