Societal Adaptation to Climate Change : Integrating Palaeoclimatological Date with Historical and Archaeological Evidences Newsletter 高分解能古気候学と歴史 考古学の連携による 気候変動に強い社会システムの探索 No.1 1/6/2014 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所 中塚研究室 歴史学 考古学と気候学の統合によって 新しい地球環境学の構築を目指します 中塚 武 なかつか たけし プロジェクトリーダーを務めます 地球研の中塚 武で 料の関係が詳細に議論できる中世史 G や近世史 G ではそ す 2010 年 4 月以来 4 年に及ぶ長い準備期間 IS-1 年 れぞれに具体的な時代や地域毎の空間的 通時的な気候 FS-2 年 PR-1 年 を経て ようやく今年 4 月から 5 年 と社会の関係の比較分析の方向性が議論されて来ました 間の Full Research が始まりました 本プロジェクトでは その結果 Full Research の開始と共に グループ毎に一 近年 世界中で急速に進んだ高時空間分解能の古気候復 斉にさまざまな研究が始まっています 元の最新の成果を日本史の新しい理解に用い 特に 歴 今後 新しく全メンバーの中から構成していくことに 史上何度も起きた大きな気候変動に際して 過去の人々 なる 第 6 の研究グループ 分類 統合 G を中心に がどのように対応したか どのように危機を乗り切るこ 膨大な研究をどのように取りまとめて 縄文時代から現 とができたか できなかったか を 古気候学と歴史学 在までの日本の長い歴史からどのような普遍性のある教 考古学の最新の知見を照合して解明し 地球温暖化を含 訓を導いていけるか プロジェクトの真価が いよいよ む さまざまな地球環境問題に直面する現代社会の私た 問われることになります プロジェクトメンバーの皆さ ちが学ぶべき教訓を 歴史から体系的に抽出することを まには 準備期間の長いご協力に感謝いたしますと共に 目指しています これからが本番ですので これまで以上のご活躍を期待 長い準備期間中 プロジェクトでは古気候学 G 気候学 しています また ニュースをご覧になって興味を持っ G 先史 古代史 G 中世史 G 近世史 G の 5 つのグルー て頂けた研究者や一般の皆さまには 是非このプロジェ プに分かれて プロジェクトの研究課題を検討すると共 クトにご注目 或いは参加をご検討頂ければ幸いです に 予備的な研究を進めてきました 古気候学 G では 木材年輪の酸素同位体比という新しい指標を用いて 過去 数千年間に亘る中部日本の気候変動 特に夏季降水量の 変動を 1 年単位で復元することに成功し 古文書 サンゴ 鍾乳石などの他の古気候指標と合わせて データの延伸 高精度化や日本全国への空間被覆の拡大 データの種類 の多様化等に取り組んでいます また世界の大陸毎に行 われている過去 2 千年間の気候復元 PAGES 2k network, 2013 に参加し 東アジアの西暦 800 年以降の 1 年単位 の気温復元にも成功しました Cook et al., 2013 気候 学 G では そうした新しい古気候データを取り込んだ気 候モデリング研究を開始する一方 先史 古代史 G では 年輪酸素同位体比が持つ 高精度年代決定 という も う一つの側面 本誌5ページ参照 を活用して 考古木 質遺物の年代決定を軸に 気候と社会の関係の新しい研 究法を模索しています 新規の気候変動データと文書史 PAGES 2k Network (2013), Continental-scale temperature variability during the last two millennia, Nature Geoscience, 6, 339-346. Cook et al. (2013) Tree-ring reconstructed summer temperature anomalies for temperate East Asia since 800 C.E, Climate Dynamics, 41, 2957-2972. タイワンヒノキの巨木から年輪コアを採取
2 プロジェクト 研 究 員 からのごあいさつと 抱 負 歴 史 学 考 古 学 との 連 携 に 向 けた 古 気 候 データの 収 集 と 解 析 佐 野 雅 規 (さの まさき) 古 気 候 学 と 気 候 学 のグループを 担 当 する 研 究 員 として 着 任 した 佐 野 雅 規 です これまで 私 は ヒマラヤや 東 南 アジアなどから 収 集 した 現 生 木 のサンプルを 材 料 とし そ の 年 輪 幅 や 酸 素 同 位 体 比 の 測 定 から 当 地 の 気 候 変 動 を 過 去 数 百 年 にわたって 復 元 するという 研 究 に 取 り 組 んでき ました 海 外 を 対 象 としてきた 理 由 は 日 本 から 遠 く 離 れ た 山 野 に 分 け 入 ってサンプルを 採 取 するフィールドワーク そのものが 好 きだからという 不 純 な 動 機 もありますが 年 輪 幅 に 基 づく 従 来 の 研 究 手 法 では 温 暖 多 湿 な 日 本 に 生 える 樹 木 から 精 度 良 く 気 候 の 情 報 を 取 得 することが 難 しいことや まとまった 数 の 老 齢 木 が 古 くからの 伐 採 により 残 存 していないことも 関 係 していました ところが 本 プロ ジェクトの 予 備 研 究 に 参 加 して 日 本 産 木 材 の 酸 素 同 位 体 比 の 測 定 を 進 めていくうちに 夏 季 の 降 水 量 を 高 精 度 で 復 元 できることや 考 古 材 の 年 代 を 正 確 に 決 定 できることが 明 らかとなったほか 気 候 変 動 と 史 実 に 少 なくとも 見 かけ の 関 連 があることを 認 めるに 至 りました Full Research に 移 行 した 今 年 度 からは 気 候 の 変 化 に 対 して 当 時 の 人 々はどのように 対 応 してきたのか と いう 問 いに 答 えるべく 日 本 各 地 で 網 羅 的 に 古 気 候 の データを 収 集 していきます 古 気 候 グループでは 樹 木 やサンゴ 鍾 乳 石 古 文 書 など 複 数 の 材 料 を 用 い て 古 気 候 データの 地 理 的 分 布 の 拡 大 や 遡 及 期 間 の 延 長 年 から 月 日 レベルへの 解 像 度 の 向 上 な ど 歴 史 考 古 学 との 統 合 に 耐 えうるデータの 収 集 と 解 析 を 進 めております さらに 気 候 学 グループでは こ うして 得 られるデータを 統 計 学 的 に 統 合 したり 気 候 モデルに 取 り 込 むことで 領 域 全 体 の 気 候 変 動 の 実 態 を 把 握 し その 気 候 学 的 な 意 味 を 考 察 していきます ま た PAGES 2k Network の 枠 組 みで アジアの 古 気 候 を 過 去 二 千 年 間 に 亘 って 復 元 するという 国 際 的 な 共 同 研 究 にも 参 加 していますが 樹 木 年 輪 の 酸 素 同 位 体 が 降 水 量 の 復 元 に 大 きな 役 割 を 果 たすことが 明 白 なので 海 外 の 研 究 者 とも 共 同 してアジア 全 域 を 対 象 とした 気 候 復 元 研 究 も 進 めていく 予 定 です 出 土 木 製 品 研 究 の 新 たな 展 開 を 目 指 して 村 上 由 美 子 (むらかみ ゆみこ) 先 史 古 代 史 を 担 当 させていただきます プロジェクト 研 究 員 の 村 上 由 美 子 です 専 門 は 考 古 学 で これまで は 弥 生 時 代 を 中 心 として 遺 跡 出 土 木 製 品 を 研 究 してきま した 木 製 品 に 残 る 加 工 や 使 用 の 痕 跡 を 検 討 し 製 作 技 術 や 道 具 の 使 用 に 関 わる 技 術 集 落 の 周 りにある 森 林 を 利 用 する 技 術 を 復 元 する という 取 組 みを 続 けています このたびプロジェクトに 参 加 することにより 出 土 木 材 の 年 代 測 定 という 新 しい 課 題 に 挑 むこととなりました これま で 資 料 提 供 という 立 場 で 木 材 の 年 代 測 定 に 関 わることは あっても 実 際 に 自 ら 測 定 を 行 うことはありませんでした 現 在 は 上 級 研 究 員 の 佐 野 さんに 手 順 や 機 器 の 使 い 方 を 教 わりながら 酸 素 同 位 体 比 を 測 定 するための 資 料 の 前 処 理 の 仕 方 を 習 っています 新 たな 課 題 とはいえ 研 究 の 方 向 性 が 変 わるわけではなく 出 土 木 製 品 からいかに さまざまな 情 報 を 得 るか というこれまでの 問 いの 延 長 に ある 作 業 ですので 研 究 の 幅 を 広 げるいい 機 会 と 考 えて 鋭 意 取 り 組 んでいるところです ヤクスギの 円 盤 これまでは 木 製 品 と 本 誌 5ページ 上 のような 折 れ 線 グ ラフがどう 結 びつくのか なかなか 実 感 が 得 られなかった のですが 一 連 の 作 業 を 実 際 に 行 うことにより ようやく 資 料 とデータとのつながりや 一 つのグラフの 背 景 にある ものが 見 えてきそうです 地 球 研 で 研 究 することの 醍 醐 味 の 一 つは 文 理 融 合 を 日 常 的 に 肌 で 実 感 できることにあります 異 分 野 の 手 法 で 研 究 が 進 んでいく 過 程 に 立 ち 会 って 刺 激 をもらいつつ 出 てきた 成 果 を 吸 収 して 自 分 の 専 門 分 野 でも 生 かしてい く というよい 流 れがこのプロジェクトでもたくさん 生 じてき そうです そうした 場 に 身 を 置 いて 研 究 を 続 けられること に 感 謝 しつつ 日 々 年 輪 を 数 えて 行 きたいと 思 います
高 分 解 能 古 気 候 学 と 歴 史 考 古 学 の 連 携 による 気 候 変 動 に 強 い 社 会 システムの 探 索 Newsletter No.1 June 2014 3 気 候 変 動 データを 歴 史 分 析 に 生 かす 伊 藤 啓 介 (いとう けいすけ) 中 世 担 当 のプロジェクト 研 究 員 を 拝 命 いたしました 伊 藤 啓 介 と 申 します どうぞよろしくお 願 い 申 し 上 げます 従 来 の 中 世 の 気 候 変 動 と 社 会 の 関 係 の 検 討 にあたって は 大 きな 社 会 変 動 ( 鎌 倉 幕 府 の 滅 亡 など) があった 時 期 の 気 候 を 調 べて 気 候 と 社 会 変 動 との 関 連 性 をよみと く という 手 法 が 取 られることが 多 かったように 思 います ですが 本 プロジェクトでは 逆 に 過 去 の 気 候 変 動 を 詳 細 に 明 らかにしたうえで 気 候 変 動 の 激 しい 時 期 の 社 会 を 検 討 対 象 とする という 手 法 を 取 るのが 特 徴 といえます その 認 識 の 上 で 中 世 史 グループでは 気 候 変 動 関 係 史 料 集 ( 仮 ) の 作 成 を 目 指 しています この 史 料 集 のコンセプトは 二 つあります ひとつは 先 述 の 通 り 特 に 気 候 変 動 の 激 しい 時 期 をいくつか 選 択 し て その 時 期 の 史 料 を 列 島 横 断 的 に 収 集 し そこから 気 候 変 動 と 社 会 の 関 係 を 明 らかにしようというものです もう ひとつは 特 定 の 地 域 を 選 択 し そこの 史 料 を 通 時 的 に 集 めることで 通 時 的 な 社 会 の 気 候 変 動 への 対 応 の 様 子 を 明 らかにすることを 目 指 します 作 業 を 開 始 したばかりで 未 だ 先 のまったく 見 えない 状 況 ではありますが 豊 かな 成 果 をえるべく 努 力 していく 所 存 です 最 後 に 簡 単 に 自 己 紹 介 させていただきます 私 は 中 世 の 貨 幣 経 済 や 手 形 文 書 について 研 究 してまいりました 畑 違 いに 見 えますが 例 えば 撰 銭 令 ( 注 )と 食 料 需 給 の 関 係 が 指 摘 されるなど 米 をはじめとする 食 料 を 通 じて 気 候 変 動 と 中 世 貨 幣 経 済 の 関 係 は 深 いものがあります 貨 幣 経 済 や 流 通 の 変 化 と 気 候 変 動 などの 環 境 要 因 の 関 係 の 検 討 を 通 じて 環 境 史 という 分 野 に 貢 献 できれば と 考 えております ご 指 導 ご 鞭 撻 のほど どうぞよろしくお 願 い 申 し 上 げます 撰 銭 令 (えりぜにれい) : 粗 悪 な 貨 幣 の 受 取 拒 否 良 銭 による 支 払 要 求 を 禁 止 する 室 町 戦 国 時 代 の 法 令 古 文 書 活 用 の 新 たな 可 能 性 と 近 世 史 研 究 が 現 代 に 果 たす 役 割 を 考 える 天 気 の 記 述 がある 近 世 文 書 近 世 史 グループ 担 当 のプロジェクト 研 究 員 として 着 任 い たしました 鎌 谷 かおると 申 します 私 はこれまで 近 世 の 近 江 国 ( 現 在 の 滋 賀 県 ) のとく に 湖 岸 の 村 々の 漁 業 や 舟 運 業 などの 生 業 に 注 目 し そ れを 通 じて 取 り 結 ばれる 人 と 人 地 域 と 地 域 との 関 係 を 分 析 することで 近 世 における 生 業 を 通 じた 地 域 秩 序 形 成 の 有 り 様 を 明 らかにする 作 業 をしてきました 琵 琶 湖 を 場 とする 生 業 には 自 然 環 境 の 影 響 が 少 なからず 有 る ので 自 身 の 研 究 を 進 める 上 で 考 古 学 や 社 会 学 環 境 史 といった 様 々な 学 問 の 成 果 に 学 ぶことはもちろんのこ とですが 当 時 の 気 候 と 生 業 への 影 響 については 興 味 が ありつつも なかなか 踏 み 込 めない 領 域 でした そんな 折 FS 研 究 にお 誘 いいただいたのが 縁 で 本 プロジェクトに 引 き 続 き 関 わらせていただいています 鎌 谷 かおる (かまたに かおる) 日 本 の 長 い 歴 史 の 中 でも 近 世 という 時 代 は 一 般 の 人 々が 書 き 残 した 古 文 書 が 膨 大 に 蓄 積 された 時 代 です その 点 近 世 史 研 究 者 は 当 時 の 具 体 的 な 社 会 の 実 態 を 知 ることのできる 材 料 に 恵 まれていると 思 います です が その 多 くの 古 文 書 からのメッセージをいかに 受 け 取 り それをどう 活 かし 組 み 立 てていくかが 重 要 であり 日 々そ れを 意 識 しながら 研 究 をしています 近 世 史 グループでは メンバーが 日 本 各 地 のフィール ドで 研 究 を 進 めています 私 は 近 江 国 および 畿 内 につ いて 研 究 をしています 日 記 史 料 から 導 きだせる 天 気 デー タの 蓄 積 にとどまらず 豊 富 な 近 世 史 料 を 活 かしながら 近 世 人 の 気 候 への 関 心 知 識 生 業 との 関 係 気 候 変 動 が 社 会 に 与 えた 影 響 など 多 岐 にわたる 論 点 を 丁 寧 に 解 明 し 本 プロジェクト 全 体 の 論 点 につなげていきた いと 思 います
4 研 究 最 前 線 酸 素 には 重 さの 異 なる 安 定 同 位 体 というもの が 3 種 類 あり その 中 の 質 量 数 18 の 酸 素 原 子 の 質 量 数 16 の 酸 素 原 子 に 対 する 存 在 数 の 比 を 酸 素 同 位 体 比 と 呼 んでいます 年 輪 に 含 ま れるセルロースは 木 材 の 主 要 成 分 の 一 つで そ の 中 の 酸 素 同 位 体 比 は 樹 木 が 死 んで 地 中 に 埋 没 しても セルロース 自 身 が 無 くならない 限 り 永 遠 に 変 化 しません 一 般 に 晴 れて 乾 いた 日 の 日 中 には 葉 に 開 い た 孔 ( 気 孔 )から 水 がどんどん 蒸 発 しますが そのとき 軽 い 水 ( 質 量 数 16 の 酸 素 から 成 る 水 ) が 優 先 的 に 蒸 発 するため 葉 内 では 重 い 水 ( 質 量 数 18 の 酸 素 から 成 る 水 )が 濃 縮 され 葉 内 水 の 酸 素 同 位 体 比 が 高 くなります 反 対 に 雨 の 日 には 蒸 発 が 起 きにくいため 葉 内 水 の 酸 素 同 位 体 比 は 低 くなります つまり 年 輪 セルロース の 酸 素 同 位 体 比 はその 年 輪 が 形 成 された 年 の 夏 ( 光 合 成 の 季 節 )における 雨 の 降 り 方 すなわ ち 降 水 量 の 変 化 を 記 録 しています その 結 果 同 じ 地 域 内 では 全 ての 樹 木 の 年 輪 セルロースの 酸 素 同 位 体 比 が 樹 種 を 問 わず 同 じ 変 動 パターンを 示 すことになり 年 輪 数 の 多 いヒノキやスギを 用 いて 作 成 した 酸 素 同 位 体 比 の 標 準 変 動 パターンを 針 葉 樹 広 葉 樹 を 問 わず すべての 木 材 の 年 代 決 定 に 利 用 すること ができます また 変 動 パターンの 樹 木 間 での 相 同 性 がとても 高 いため これまでの 年 輪 年 代 法 では 年 代 決 定 に 至 らなかった 年 輪 数 の 少 ない 資 料 ( 年 輪 数 が 50 ~ 100 程 度 の 資 料 )でも 十 分 に 年 代 決 定 ができる 可 能 性 があります ドリルによる 年 輪 の 柱 状 資 料 (コア) の 採 取 大 阪 難 波 宮 から 発 掘 された 柱 根 ( 左 が 柱 根 598) 大 阪 府 立 近 つ 飛 鳥 博 物 館 において 今 年 3 月 に 展 示 され たパネルからの 転 載 です プロジェクトで 開 発 した 年 輪 セル ロース 酸 素 同 位 体 比 による 新 しい 年 輪 年 代 法 を 用 いて 年 代 決 定 に 成 功 した 難 波 宮 の 柱 根 資 料 ( 写 真 左 ) と 共 に 展 示 されました 今 後 プロジェクトで 得 られるさまざまな 木 材 遺 物 の 年 代 が その 遺 跡 の 成 立 の 気 候 変 動 との 関 わりと 共 に 明 らかになって 行 きます ( 中 塚 ) 採 取 された 年 輪 コア (このあと 1 mm 厚 の 薄 板 に 加 工 してセルロースを 抽 出 し 年 層 ごとに 酸 素 同 位 体 比 を 分 析 した)
高 分 解 能 古 気 候 学 と 歴 史 考 古 学 の 連 携 による 気 候 変 動 に 強 い 社 会 システムの 探 索 Newsletter No.1 June 2014 5 柱 根 598 の 年 輪 セルロース 酸 素 同 位 体 比 による 年 代 決 定 の 手 順
6 調 査 報 告 福 岡 市 内 遺 跡 出 土 木 材 のサンプリング 調 査 調 査 期 間 :2014 年 5 月 7 日 ~9 日 調 査 者 : 佐 野 雅 規 村 上 由 美 子 連 休 明 けに 福 岡 市 埋 蔵 文 化 財 センターにおいて 弥 生 時 代 と 中 世 の 出 土 材 70 点 からサンプリングを 行 いました 3 月 の 中 塚 佐 野 による 事 前 調 査 に 基 づき 候 補 とした 博 多 遺 跡 群 ( 中 世 ) 今 宿 五 郎 江 遺 跡 橋 本 一 丁 田 遺 跡 ( 弥 生 時 代 ) などの 出 土 材 から 年 輪 数 が 50 以 上 あるものを 選 び 鋸 で 木 口 面 を 切 断 して 厚 さ 数 cm のサンプルを 採 取 し ます ( 写 真 左 ) サンプルは 地 球 研 に 持 ち 帰 った 後 地 下 の 実 験 室 でまず 分 析 にかける 準 備 を 行 います 瞬 間 接 着 剤 で 台 木 に 固 定 ( 写 真 中 央 ) した 後 ダイヤモンドカッターを 用 いて 木 口 面 を スライスし 厚 さ 1.5mm の 薄 板 を2 枚 採 取 します ( 写 真 右 ) これでセルロース 抽 出 の 準 備 が 整 いました 続 きの 工 程 は 次 号 以 降 でお 伝 えします ( 村 上 ) サンプリング 状 況 サンプルを 台 木 に 固 定 する 厚 さ 1.5mm の 薄 板 に 加 工 する 近 江 国 湖 西 の 寺 院 日 記 調 査 ( 天 気 記 述 抽 出 作 業 ) 調 査 期 間 : 2014 年 4 月 22 日 ~ 調 査 者 : 鎌 谷 かおる 滋 賀 県 大 津 市 の 円 満 院 末 門 跡 坊 官 ( 注 ) の 西 坊 家 には 寛 政 11 年 (1799) ~ 大 正 期 の 日 記 145 冊 が 残 されています この 日 記 には ほぼ 毎 日 の 天 気 が 詳 細 に 記 載 されています 現 在 この 日 記 の 天 気 記 述 を 抜 き 出 す 作 業 に 取 り 組 んでいます 日 記 からは 長 期 間 の 天 気 情 報 を 途 絶 えること なく 知 ることができるので 近 江 国 の 近 世 の 天 気 を 復 元 するためにも 良 い 史 料 であると 思 います もっとも 近 世 史 研 究 者 としては この 史 料 に 書 かれている 天 気 情 西 坊 家 史 料 日 記 報 の 書 き 方 にも 興 味 があります 書 き 手 が 変 われば 天 気 の 書 き 方 も 変 わります 朝 昼 夜 に 加 え 夜 中 までの 天 気 の 変 化 を 詳 細 に 書 く 人 の 文 字 の 形 からは 書 き 手 の 几 帳 面 な 性 格 がうかがえます 秋 頃 までに 全 データ 抜 出 作 業 完 成 の 予 定 です 西 坊 家 史 料 日 記 は 現 在 大 津 市 歴 史 博 物 館 に 寄 託 されており 本 調 査 についてご 協 力 いただいております ( 鎌 谷 ) 門 跡 ( もんぜき): 皇 族 貴 族 の 子 弟 が 出 家 して 入 室 している 特 定 の 寺 格 の 寺 家 院 家 のこと 江 戸 時 代 には 宮 門 跡 摂 家 門 跡 清 華 門 跡 准 門 跡 等 に 区 分 され 制 度 化 された 坊 官 (ぼうかん) : 門 跡 などの 坊 に 仕 える 俗 形 の 法 師 のこと
高 分 解 能 古 気 候 学 と 歴 史 考 古 学 の 連 携 による 気 候 変 動 に 強 い 社 会 システムの 探 索 Newsletter No.1 June 2014 7 プロジェクトメンバー 一 覧 (6 月 1 日 現 在 ) プロジェクトリーダー 中 塚 武 ( 総 合 地 球 環 境 学 研 究 所 ) サブリーダー 佐 野 雅 規 ( 総 合 地 球 環 境 学 研 究 所 ) プロジェクトメンバー( はグループリーダー/グループサブリーダー/ 五 十 音 順 ) 古 気 候 学 グループ 安 江 恒 ( 信 州 大 学 山 岳 科 学 研 究 所 ) 阿 部 理 ( 名 古 屋 大 学 大 学 院 環 境 学 研 究 科 ) 香 川 聡 ( 森 林 総 合 研 究 所 ) 木 村 勝 彦 ( 福 島 大 学 共 生 システム 理 工 学 類 ) 久 保 田 好 美 ( 国 立 科 学 博 物 館 地 学 研 究 部 ) 財 城 真 寿 美 ( 成 蹊 大 学 経 済 学 部 ) 坂 本 稔 ( 国 立 歴 史 民 俗 博 物 館 ) 許 晨 曦 ( 総 合 地 球 環 境 学 研 究 所 ) 庄 建 治 朗 ( 名 古 屋 工 業 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 ) 平 英 彰 ( タテヤマスギ 研 究 所 ) 田 上 高 広 ( 京 都 大 学 大 学 院 理 学 研 究 科 ) 竹 内 望 ( 千 葉 大 学 大 学 院 理 学 研 究 科 ) 多 田 隆 治 ( 東 京 大 学 大 学 院 理 学 系 研 究 科 ) 箱 崎 真 隆 ( 名 古 屋 大 学 年 代 測 定 総 合 研 究 センター ) 平 野 淳 平 ( 防 災 科 学 技 術 研 究 所 ) 藤 田 耕 史 ( 名 古 屋 大 学 大 学 院 環 境 学 研 究 科 ) 光 谷 拓 実 ( 奈 良 文 化 財 研 究 所 ) 森 本 真 紀 ( 名 古 屋 大 学 大 学 院 環 境 学 研 究 科 ) 横 山 祐 典 ( 東 京 大 学 大 気 海 洋 研 究 所 ) 渡 邊 裕 美 子 ( 京 都 大 学 大 学 院 理 学 研 究 科 ) 気 候 学 グループ 芳 村 圭 ( 東 京 大 学 大 気 海 洋 研 究 所 ) 栗 田 直 幸 ( 名 古 屋 大 学 大 学 院 環 境 学 研 究 科 ) 植 村 立 ( 琉 球 大 学 理 学 部 ) 渡 部 雅 浩 ( 東 京 大 学 大 気 海 洋 研 究 所 ) 先 史 古 代 史 グループ 若 林 邦 彦 ( 同 志 社 大 学 歴 史 資 料 館 ) 樋 上 昇 ( 愛 知 県 埋 蔵 文 化 財 センター ) 赤 塚 次 郎 ( 愛 知 県 埋 蔵 文 化 財 センター ) 今 津 勝 紀 ( 岡 山 大 学 大 学 院 社 会 文 化 科 学 研 究 科 ) 藤 尾 慎 一 郎 ( 国 立 歴 史 民 俗 博 物 館 ) 松 木 武 彦 ( 国 立 歴 史 民 俗 博 物 館 ) 村 上 由 美 子 ( 総 合 地 球 環 境 学 研 究 所 ) 山 田 昌 久 ( 首 都 大 学 東 京 大 学 院 人 文 科 学 研 究 科 ) 中 世 史 グループ 田 村 憲 美 ( 別 府 大 学 文 学 部 ) 水 野 章 二 ( 滋 賀 県 立 大 学 人 間 文 化 学 部 ) 伊 藤 啓 介 ( 総 合 地 球 環 境 学 研 究 所 ) 河 角 龍 典 ( 立 命 館 大 学 文 学 部 ) 清 水 克 行 ( 明 治 大 学 商 学 部 ) 高 木 徳 郎 ( 早 稲 田 大 学 教 育 学 部 ) 西 谷 地 晴 美 ( 奈 良 女 子 大 学 文 学 部 ) 近 世 史 グループ 佐 藤 大 介 ( 東 北 大 学 災 害 科 学 国 際 研 究 所 ) 渡 辺 浩 一 ( 国 文 学 研 究 資 料 館 研 究 部 ) 荻 慎 一 郎 ( 高 知 大 学 人 文 学 部 ) 鎌 谷 かおる ( 総 合 地 球 環 境 学 研 究 所 ) 菊 池 勇 夫 ( 宮 城 学 院 女 子 大 学 学 芸 学 部 ) 佐 藤 宏 之 ( 鹿 児 島 大 学 教 育 学 部 ) 高 槻 泰 郎 ( 神 戸 大 学 経 済 経 営 研 究 所 ) 高 橋 美 由 紀 ( 立 正 大 学 経 済 学 部 ) 武 井 弘 一 ( 琉 球 大 学 法 文 学 部 ) 平 野 哲 也 ( 常 磐 大 学 人 間 科 学 部 ) 中 山 富 廣 ( 広 島 大 学 大 学 院 文 学 研 究 科 ) 山 田 浩 世 ( 沖 縄 国 際 大 学 ) 地 球 研 研 究 室 メンバー 中 塚 武 ( プロジェクトリーダー ) nakatsuka 佐 野 雅 規 ( サブリーダー, 古 気 候 ) msano 村 上 由 美 子 ( 先 史 古 代 史 ) mura 伊 藤 啓 介 ( 中 世 史 ) k-itou 鎌 谷 かおる ( 近 世 史 ) kamatani 許 晨 曦 ( 古 気 候 ) 政 岡 二 三 笑 ( 事 務 ) f.masaoka 李 貞 ( 大 学 院 生 ) @chikyu.ac.jp を 後 ろにつけていただくと メールアドレス になります
8 高 分 解 能 古 気 候 学 と 歴 史 考 古 学 の 連 携 による 気 候 変 動 に 強 い 社 会 システムの 探 索 Newsletter No.1 June 2014 7 各 グループの 主 な 活 動 中 世 史 グル プ 去 る5 月 24 日 ( 土 )25 日 ( 日 ) 駒 沢 大 学 にておこなわ れた 歴 史 学 研 究 会 ( 日 本 史 学 の 全 国 的 な 大 会 )にあわせて 同 所 で 中 世 史 グループの 会 合 をもちました 今 後 の 中 世 史 グルー プの 方 針 や 議 論 のたたき 台 具 体 的 な 作 業 の 手 順 や 分 担 など を 活 発 に 話 し 合 いました 今 後 も 中 世 史 グループでは 情 報 交 換 を 密 にして プロジェ クトにおける 議 論 のさらなる 深 化 と 進 展 を 目 指 してまいりま す ( 伊 藤 ) 各 グループの 今 後 の 予 定 研 究 会 6 月 21 日 22 日 ( 土 日 ) 近 世 史 グループ 第 1 回 研 究 会 ( 於 総 合 地 球 環 境 学 研 究 所 ) 7 月 24 日 25 日 ( 木 金 ) 先 史 古 代 史 グループ 研 究 集 会 ( 於 総 合 地 球 環 境 学 研 究 所 ) 研 究 室 通 信 Full Research 開 始 から2ヶ 月 が 過 ぎました 研 究 室 では 隔 週 でセミナーを 開 催 し 各 分 野 の 研 究 について 理 解 を 深 めています また 毎 日 のランチタイムをともに 過 ごしながら それぞれの 研 究 分 野 についての 情 報 交 換 をしつつ 交 流 を 深 めています お 近 くにお 越 しの 際 は ぜひお 立 ち 寄 りください ( 写 真 左 から 鎌 谷 政 岡 村 上 伊 藤 中 塚 李 許 佐 野 ) お 知 らせ 大 学 共 同 利 用 機 関 法 人 人 間 文 化 研 究 機 構 総 合 地 球 環 境 学 研 究 所 研 究 室 2( 中 塚 研 究 室 ) Newsletter No.1 5 月 下 旬 に 名 古 屋 大 学 から 地 球 研 の 地 下 実 験 室 に 同 位 体 比 質 量 分 析 計 (TCEA-IRMS)を 移 設 しました 今 まで 以 上 に 装 置 を 駆 使 して 大 量 の データを 取 得 していく 予 定 です サンプルをお 待 ちしております ( 佐 野 ) 発 行 日 2014 年 6 月 10 日 発 行 所 総 合 地 球 環 境 学 研 究 所 研 究 室 2 603-8047 京 都 府 京 都 市 北 区 上 賀 茂 本 山 457 番 地 4 電 話 075-707-2235 URL http://www.chikyu.ac.jp/nenrin