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中国の地域間分業と地域の 位置 67 論文 - 情報の非対称性の観点から - 齋藤幸則 大島一二 [ キーワード ] 現地化 債権回収 非対称性 [JEL 分類番号 ]M16 1. 課題の所在と問題意識 中国に進出している日系企業では中国市場の拡大に伴い 経営現地化への関心が高まっている 中国進出日系企業に対しておこなったアン 1 ケート調査によると 今後 1 ~ 2 年の事業展開の方向性を 拡大 とする企業は54.2% と多い また 14 年度の営業利益改善の理由を 現地市場での売上増加 とする企業は77.7% にものぼり 中国市場の重要性が増している 日系企業は中国市場のさらなる開拓のためには経営の現地化が必要不可欠と認識しており この認識が高まる現地化への関心の背景にあると思われる 中国進出日系企業の経営現地化が進み 現地市場での売上増加が予想されるなか 進出企業が抱える経営問題の 1 つに債権回収 ( 販売代金回収 ) がある 日本貿易振興機構 ( 以下 JETRO) のアンケート調査 (2013) によると 中国におけるビジネス上のリスク 問題点を債権回収とする割合は39.2% も占めており 政情リスク (55.5%) 人件費の上昇 (55.3%) 法制度が未整備 (47.2%) 知的財産権の保護 (46.5%) につづき 経営諸課題の中でも重要な問題として位置づけられている 2 また 中国は改革開放以降に高い経済成長を 1 日本貿易振興機構 (2014 7-18ページ ) 2 日本貿易振興機構 (2013 10ページ ) 達成してきたが 今後の景気減速による企業の経営状況悪化によって 債権回収問題がクローズアップされる可能性がある 3 特に中国の日系企業は日本の親会社から融資や増資を受ける場合 外貨管理の制約があるため申請手続きが必要となり 融資や増資の対応には時間を要する そのため 現地法人における通常の資金繰りは中国の日系銀行もしくは地場銀行からの借入に依存していることが多い しかし 日系含めた中国における銀行は国の政策影響を受けており 今後の景気如何では融資への総量規制がおこなわれる可能性がある 4 したがって 増資や銀行借入等 資金調達に制約がある状況において 債権回収や与信管理を含めた債権管理問題は 会社の血液 と呼ばれる資金繰りに影響を与える 景気如何によっては 企業の経営基盤を揺るがしかねない重要な問題と言えよう 以上のとおり 債権回収は経営基盤となる重要な機能であるにもかかわらず 上記のアン 3 民間企業の天気図と呼ばれるほど多くの民営企業を抱え その動向が注目されている浙江省温州市では2010 年に借金苦による自殺や失踪が 20 数件おきており 金額や範囲が拡大している ( 翁仕友 楊中旭 70-88ページ ) また 2011 年に入ってからは 年初から 9 月までで200 人強の社長が失踪していることが報道されている ( 日本経済新聞電子版 2011 年 12 月 26 日アクセス ) 4 事実 過去には総量規制が行われている みずほ総合研究所 (2011 4ページ )

68 中国経済経営研究第 1 巻第 1 号 ケート調査が示すように 日系企業は中国での債権回収を難しいと感じている なぜ中国では債権回収が難しいと言われるのか ということが筆者の問題意識である 2. 中国の債権回収に関する先行研究 中国の債権回収に関する議論については 企業間信用の観点から金融問題として または 債務不履行時の法的問題として 多くの研究が行われてきた 5 企業間信用を支える法制度について 中国政府は 契約履行保全に関する規定を欠いていた状況に対し 1990 年代の半ばより関連法規を整備してきたと言える 例えば 契約法で債権者代位権 ( 第 73 条 ) 債権譲渡( 第 79 条 ) 等を認めることにより 契約履行保全制度が確立されることになった 6 また 実際の運用面についても He(2011) が債権回収に関する裁判の事例研究を行い 実際の裁判では 法に則った正当な評価がおこなわれていることを指摘している このように 中国の法制度は整備面のみならず 運用面でも整いつつあると言えよう しかし 現実的には 執行難 とよばれる 法的に勝訴した場合でも回収できるケースは少なく 裁判にかかる費用や労力を考慮すると 裁判は 労多くして 益少なし と言えよう また 実際には戦略的債務不履行と呼ばれる 支払い能力があるにもかかわらず 支払いが行われない現象も多く見られる このような現実的な問題を視野にいれた 新たな視点からの研究も行われている 第一に 企業間信用を発展 機能させるメカニズムの研究である 白石 矢野 (2011) は 中国では企業間信用が一定程度定常的に行われていることを統計データを用いて明らかにしている また 企業間信用を可能にしている前提 5 例えば Hu and Qiu (2010), Ponset, Steingress and Vandenbussche (2010), Zhang, Wang and Qu (2012) 参照 6 理論上において実体法上の責任財産保全制度として位置付けられている 曲 (2013 3 ページ ) として 市場が競争 ( 流動 ) 的であること 企業同士の自助行動や政府のサポートにより情報が取得しやすいことを挙げている そして 企業間信用を発展 機能させる理由として 売り手側企業の販売促進動機や取引企業間での投資によるリスクヘッジ等があることを解明している 第二に 売り手と買い手のエンフォースメントパワー ( 強制力 ) に着目した企業間信用の研究が行われている 例えば Watanabe and Yanagawa(2010) は 売り手の支払い強制力に注目し 実証分析を行っている 強制力に影響を与えるのは売り手の独占力であるとし 独占力による交渉力の大きさが事前の取引条件だけでなく 事後の支払い強制力にも影響すると結論づけている 第三に アンケートやインタビューによる 企業事例を踏まえた研究も行われている 渡邉 (2010) は 中国企業における代金回収リスクへの対応について 家電企業への聞き取り調査を実施し 経済学的観点から代金回収方法の比較検討を行っている そのうち 前払と販売数量 代金回収を組み合わせた方式が最も社会厚生をもたらすとの結論を導き出している また 齋藤 大島 (2013) は アンケート調査を通じて債権回収に関する日系企業の現状を把握するとともに 日系企業 N 社の事例をもとに 中国における効果的な債権管理方法について検討している 本稿では 問題意識である中国進出日系企業における債権回収の困難性の原因を検討する まず 債権回収の困難性の検討を進めるにあたり 情報の非対称性に着目する 第三節では情報の経済学の理論から情報の非対称性に関する論点を整理する そして この理論的な論点を債権回収問題にあてはめ 先行研究の枠組みを拡張する形で 債権回収の困難性は情報の非対称性により発生するが 日系企業の対応如何で低減しうること を検討仮説とする この仮説を 第四節では日系企業約 350 社へのアンケート調査と日系企業 19 社への個別インタビュー調

69 - 情報の非対称性の観点から- 査を利用し さらに 第五節では日系企業 T 社 情報の経済学では情報の非対称性に着目し の事例研究を通じて 債権回収に対する取り組 非対称情報下における取引を分析対象とする 7 み状況とその効果を把握することにより 検証 情報の非対称性とは 売り手は個々の販売商品 する の質を知っているが 買い手はそれを知らない ため 売り手と買い手で情報に差がある状態の 3. 分析枠組みの提示 ことをいう 情報の非対称性が発生するのは取 この節では まず情報の経済学における情報 引主体の一方によって情報が 隠される から の非対称性に関する論点を整理する 次に こ であるが そのケースとしては 隠された情 の論点を債権回収の事例にあてはめ 検討仮説 報 (hidden information) と 隠された行動 を提示するとともに 債権回収リスクに対する (hidden action) の二つがあり いずれのケー 日系企業の対応方法を類型化し 分析の枠組み スかによって引き起こされる問題とそれへの対 を提示したい 応方法が違ってくる ( 図表 1 参照 ) 図表 1 情報の非対称性により発生する問題と対応策 段階問題対応策 ( インセンティブコントロール ) 取引前 取引後 逆選択 モラルハザード 一方の当事者が取引されるモノやサービスの品質がわからないため 高品質の財が淘汰されてしまって 低品質の財ばかりが出回るようになる 一方の当事者が相手がどういう行動をとるのかがわからないため 相手が努力や注意を怠る ( 出所 ) 青木 奥野 (1996) より 筆者が加筆し作成 スクリーニング シグナリング モニタリング コミットメント 隠れた性質に関する情報を開示するような基準を設定し それによって取引相手を選択する方法相手が自分の隠れた性質を開示するような行動をとらせる もしくはそうした行動から相手の隠れた性質を明らかにする方法 取引後の相手の行動を監視する方法 将来とる行動を表明することにより 約束を確実に実行させる方法 まず 隠された情報 は取引の開始前に情報の非対称性が存在するため 事前の情報の非対称性 と呼ばれる 中古車市場の例にあるように 一方の当事者が取引されるモノやサービスの品質がわからない状況であり この結果 高品質の財が淘汰され低品質の財ばかりが出回るようになる いわゆる 逆選択 (adverse selection) の問題を引き起こす この逆選択の問題を解決する方法として スクリーニングやシグナリングがある スクリーニングは 情報の非対称性の原因である隠れた性質に関する情報を開示するような基準を設定し それによって取引相手を選択するという対応方法である シグナリングは相手が自分の隠れた性質を開示 するような行動をとらせる もしくはそうした行動から相手の隠れた性質を明らかにするという対応方法である つぎに 隠された行動 は取引の開始後に発生する情報の非対称性のため 事後の情報の非対称性 と呼ばれる 例として保険市場があり 一方の当事者は相手がどういう行動をとるのか わからない状況であるため モラルハザード (moral hazard) の問題を引き起こす モラルハザードの問題を解決する対応方法とし 7 情報の経済学における 情報の非対称性に関する論点整理にあたり 青木 奥野 (1996) 藪下 (2002) ハル(2015) を参照した

70 中国経済経営研究第 1 巻第 1 号 てモニタリングやコミットメントがある モニタリングは取引後の相手の行動を監視する対応方法であり コミットメントはモニタリングの結果 万が一好ましくない状態が起きた時に 自分がどのように動くかを事前に明示しておくことである 以上をまとめると 情報格差により情報の非対称性が発生し 情報をもつ主体は情報を有効利用しようとするインセンティブを持つ 一方 情報を持たない主体はその不利な状況を克服するために相手のインセンティブをいかにコントロールするか ということが情報の経済学における論点である すなわち 非対称性による問題と それに対するインセンティブコントロールとの組み合わせ と捉えることができよう したがって 適切なインセンティブコン トロールを設計できれば 情報の非対称性から生じる問題が緩和され 資源配分の効率性の改善と社会厚生の増加が可能になる そのために どのようなインセンティブコントロールが適切であるか 最適なインセンティブコントロールをどのように設計するかは 情報の非対称性の問題を解決するための鍵であると言えよう では 上記理論の論点を債権回収の事例にあてはめた場合 債権回収の問題はどのように捉えることができるのであろうか 債権回収の場合 売り手は 買い手の支払い能力や支払意思に関する情報を持たないため 情報の非対称性による債権回収リスクが発生し この債権回収リスクを解消するためのインセンティブコントロールとして図表 2 のような例が考えられる 段階 取引前 取引後 逆選択 図表 2 モラルハザード 問題 情報の非対称性により発生する問題と対応方法 一方の当事者が取引されるモノやサービスの品質がわからないため 高品質の財が淘汰されてしまって 低品質の財ばかりが出回るようになる 一方の当事者が相手がどういう行動をとるのかがわからないため 相手が努力や注意を怠る ( 出所 ) 青木 奥野 (1996) より 筆者が加筆し作成 対応方法 ( インセンティブコントロール ) と債権回収における具体例信用調査 ( 財務諸表 会社情報 ) スクリーニングや取引先訪問による取引先の選別 シグナリング モニタリング コミットメント 取引先からの担保提供やリスクの小さい決済条件の提示 定期的な回収状況確認や未回収債権のフォローアップ懲罰的措置 ( 与信見直し 取引停止 遅延金利の請求 ) 第一に スクリーニングの事例としては信用調査や取引先への企業訪問などが挙げられる 信用調査では取引相手の信用状況を確認するために 相手の財務諸表や企業情報を収集する さらに 信用調査情報を入手するだけではなく 調査情報も常に正しいとは限らず虚偽の情報も含まれる可能性があるため その場合は企業を訪問することによって信用調査情報の適正性について確認することも必要となる このように スクリーニングでは信用調査や企業訪問等 隠れた相手の性質に関する情報を明らかにするよ うな基準や仕組みを設定し それによって取引相手を選択したり 相手の状況に応じた取引条件を提示する 第二に シグナリングの事例としてリスクのない決済条件の提示や取引相手からの担保の提供が挙げられる 買い手が積極的に取引したい場合は 売り手に対して後述するリスクのない決済条件や担保を提供することがある このように シグナリングでは決済条件や担保提供などを通じて 相手の隠れた性質を開示するような行動をとらせる もしくはそうした行動から

71 - 情報の非対称性の観点から- 相手の隠れた性質を明らかにすることが可能とろうか つまり 債権回収問題を考える際には なる 企業の債権回収への取り組みという仕組みに着第三に モニタリングの事例としては 回収目することが問題解決を考える上で重要と言え状況の確認や支払い期限が過ぎた取引先に対しよう て支払いの催促をする未回収債権へのフォローでは 今述べた日系企業の債権回収リスクへアップなどが挙げられる 取引開始後 売り手の取り組みとして どのような仕組みがあるのの買い手に対するモニタリングを通じて契約等か考えてみたい スクリーニングやシグナリンで定めた期限通りに支払を行っているかどうか グの観点から 債権回収リスクへの取り組みを定期的に相手の行動を監視する 類型化してみよう 債権回収のリスクは二つの第四に コミットメントの事例としては契約ファクターがあると考える どのような決済等での懲罰的措置がある 例えば 与信の見直手段で どのような相手に 販売するかである しや取引の停止 さらには遅延した場合の金利これは以下のような式で表すことができる 請求等 モニタリングの結果を受けてコミットされなかった場合を想定した措置が契約書に織債権回収のリスク= り込まれ 実際コミットされない場合はこのよ決済手段のリスク 取引先選択のリスクうな行動がとられる 以上のように 情報の経済学の論点を債権回では このリスクの定義に従い リスク係数収にあてはめた場合 売り手と買い手の間には を計算し 日系企業の債権回収に対する対応方情報の非対称性があるため債権回収リスクが発法を分類してみよう シグナリング機能として生するが その債権回収リスクを解消するため取引の決済条件をAとし スクリーニング機能に 売り手は買い手のインセンティブをどのよとして取引先の選択をBとした これらの要素うにコントロールするかということがポインからリスク係数はA Bで算出される 決済条トとなる 売り手のインセンティブへのコント件は与信を付与する場合はリスクがあるため 1 ロールを 債権回収リスクへの日系企業の取りとし 与信を付与しない場合はリスクが発生し組み とした場合 日系企業の債権回収へのないため 0 とする また 取引先企業の国籍が取り組み如何で 債権回収リスクを低減させる中資系の場合は外資系よりリスクが大きいためことが可能になる と考えられるのではないだ 1 とし 外資系の場合はリスクが少ないとし 0 図表 3 取引の決済条件 A ( シグナリング ) インセンティブの組み合わせによる 債権回収リスク対応の類型化 与信なし (0) 与信あり (1) 取引先国籍 B ( スクリーニング ) リスク係数 =A B 外資 (0) 中資 (1) 外資 (0) 中資 (1) 0 0 0 1 リスク対応の類型化 リスク管理方法 ( 出所 ) 筆者作成 リスク回避型 不要 リスクコントロール型 モニタリングやコミットメントによるリスクコントロール

72 中国経済経営研究第 1 巻第 1 号 とする 図表 3 はこれらの指標を用いてリスク 係数を算出し 企業の債権回収リスクに対する管理方法をまとめたものである スクリーニングやシグナリングの観点から インセンティブコントロールの組み合わせによって 債権管理方式を大きく リスク回避型 と リスクコントロール型 に分類することができる リスク回避型 債権管理方式は事前の情報の非対称性に対して 決済条件や取引先の選択という手段によりコントロールするため リスク係数はゼロであり 取引開始後の管理は不要である 一方 リスクコントロール型 債権管理方式では 決済条件や取引先選択の点からリスク係数が 1 となり 債権回収リスクに対してモニタリングやコミットメントといったインセンティブコントロールの設計が必要となる 4. アンケートおよびインタビュー調査に基づく中国進出日系企業の債権回収に対する取り組み 実際の日系企業では債権回収リスクに対して どのような債権管理方式がとられているのだろうか この節では アンケート調査やインタビュー調査による情報を利用して 前節の債権管理方式の分類にしたがい 日系企業における債権管理方式の現状を把握してみよう はじめに 国際協力銀行 日中投資促進機構 (2007) が 約 350 社の在中日系企業にアンケート調査した結果を利用し 8 決済手段と取引先選択の観点から日系企業の債権管理方式の全体的な傾向を把握する 続いて 中小企業金融公庫総合研究所 (2005) が日系企業 19 社にインタビュー 8 アンケートを実施した業種は製造業 235 社 (67.9%) 非製造業 111 社 (32.1%) で 製造業が約 7 割を占める 製造業の個別業種については 多い順に 電気機器 20.8% 金属製品 7.5% 化学工業 7.2% 輸送用機器 7.2% 一般機械 5.8% 食料品 4.9% 精密機器 3.8% 繊維 2.9% となっている 国際協力銀行 日中投資促進機構 (2007 15ページ ) した調査結果をもとに 複数の企業間でどのような債権管理方式がとられているのか把握する なお 本稿では 中国へ進出している日系企業はいまだ製造業が多いことに加え 9 調査データの制約から 債権回収の困難性に関する仮説を主に中間製品を製造している BtoB 型の製造業に焦点をあて検証する アンケート調査の結果 日系企業ではどのような決済手段が採られているのであろうか 図表 4 のとおり 日系企業における主たる決済手段は 前受金による回収が21% 製品納入時に現金で一括回収しているケースが17% 現金と手形の併用というケースが11% で合計 49% あり ほぼ半数が製品納入前もしくは納入時に代金回収という対応を行っている 一方 掛売り ( 現金による回収 ) の比率は27% であるが 掛売り ( 現金 手形併用による回収 ) の18% とあわせると45% となる このデータから 日系企業の決済手段は納入時までに何らかの形で代金回収する債権回収リスクがゼロであるリスク回避型のケースと 債権回収リスクがある掛売りをしているリスクコントロール型のケースが それぞれ約半々であることがわかる また これらの決済手段を前回アンケートと比較した場合 掛売りの比率に大きな変化はないものの 前受金の比率が増加していることや 手形を併用するケースでも債権回収リスクの低い 銀行の支払保証がついている銀行引受手形を利用している このことから 債権回収リスクをコントロールするための決済手段としてはリスク回避型の対応が増加する傾向にある 取引先選択の状況については 図表 5 のとおり 自社製品の主な販売ルートとして 99 年のデータを見ると 日系を含めた外資企業に直接販売するリスク回避型のケースが51% 中資企 9 日本貿易振興機構が定期的に行っている在アジア オセアニア日系企業実態調査によると 調査企業のうち 製造業が 616 社 (63.1%) 非製造業が 360 社 (36.9%) と 6 割超が製造業である 日本貿易振興機構 (2015 3 ページ )

- 情報の非対称性の観点から - 73 図表 4 日系企業における代金決済手段 未回収リスク 大 掛売り ( 現金のみ ) 27% 掛売り ( 現金 手形併用 ) 18% 製品納入時に現金 手形併用 11% 製品納入時に現金一括回収 17% 小 前受金 21% 小 ( 出所 ) 国際協力銀行 日中投資促進機構より筆者作成 大 資金負担 業に直接販売するリスクコントロール型のケースは40% と約半々となっている 取引先の選択を時系列で見ると リスク回避型のケースが99 年の51% から06 年の59% と 8 % 増加しており 一方 リスクコントロール型のケースは99 年の 40% から32% へと 8 % 減少していることがわか る その結果 日系企業における取引先の選択は 従来の中資企業から中国進出の外資企業へとシフトしており 取引先の選択においても よりリスクの少ない販売先を選択するリスク回避型の対応が増加している傾向にあると言えよう 図表 5 自社製品の主な販売ルート 外資 ( 含日系 ) に直販 中国企業に直販 1999 2001 2003 2006 その他 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% ( 出所 ) 国際協力銀行 日中投資促進機構より筆者作成

74 中国経済経営研究第 1 巻第 1 号 以上 アンケート調査データから 債権回収に影響を与える 2 つの基本的ファクターである決済手段と取引先選択の状況を検討した 検討の結果 決済手段 取引先選択の両方のファクターで リスク回避型の企業とリスクコントロール型の企業はおおよそ半々であった しかし 時系列でみた傾向としては 決済手段の面では前受金比率の増加や銀行引受手形による決済が また 取引先選択の面では中資企業から外資企業へ販売がシフトしていることから 日系企業は債権回収リスクに対してリスク回避的な対応傾向があると言えよう 次に 中小企業金融公庫総合研究所 (2005) が日系企業 19 社にインタビューした調査結果を踏まえて 複数企業間ではどのような債権回収管理方式がとられているのか 各企業における債権回収への取り組み方を見てみよう 第一に リスク回避型債権回収方式を採用している 7 社の場合 図表 6 のとおり 取引先の選択は 在中外資企業のみの企業がA 社とB 社の 2 社 中資企業のみの企業がI 社とO 社の 2 社 それら両方である企業がK 社 M 社 P 社の 3 社と特に大きな偏りはない 全 7 社のうち 約 4 割に相当するB 社 I 社 P 社の 3 社は過去に債権回収の問題 ( 焦げ付き ) を抱えていた 債権問題を抱える理由は各社様々である 例えば B 社のケースでは 会社設立後に中資企業へ販売 ( 前受金 20~80% 納品後 1 ~ 3 ヵ月後に20~80% 現金回収 ) していたが 100% 回収できた取引先は 1 社もなかった I 社のケースでは 合弁企業で 中国事情に疎い日本側は中国側に言われるままに取引をしていたため 売掛金の回収が困難になり大きな焦げ付きが発生した P 社では取引先が最初から全く支払う意思がなく 裁判を行っても証拠不十分で敗訴している これらの債権回収に問題を抱えた企業では債権未回収への対応として B 社は中資企業との取引を停止し I 社とP 社は中資企業との決済条件を前受金 100% に変更している その結果 リスク回避型の債権管理方式を採用している企業では 全 7 社中 取引先を外資企業 とのみ取引することによって債権リスクを回避している企業が 2 社 (A 社とB 社 ) 中資企業と取引は行うが 決済手段を全額前受金とすることによって債権リスクを回避している企業が 5 社となっている 第二に リスクコントロール型債権回収方式を採用している12 社の場合 図表 7 のとおり 取引先の選択は 外資企業比率が 7 割以上の企業が 5 社 (C 社 F 社 G 社 L 社 R 社 ) 外資企業と中資企業が約半数である企業が 3 社 (D 社 E 社 S 社 ) 中資企業比率が 7 割以上の企業が 4 社 (H 社 J 社 N 社 Q 社 ) と特に大きな偏りはない そのうち 約 7 割に相当するF 社 G 社 H 社 L 社 N 社 Q 社 R 社 S 社の 8 社では現在債権問題を抱えている もしくは過去に債権問題を抱えていた 債権が未回収である理由は F H Q R 社のケースでは資金繰り上の理由や品質面でクレームをつけて支払いを意図的に遅らせてくる G L 社では購買や経理担当者が変更になり 仕事に慣れていないという理由で支払いを遅らせたり 債務履行が行われない N 社では代理店が別の模倣品を販売したことにより 既存の売掛金が回収できなくなった S 社では経験不足で相手を見極める力が弱かったため最後まで支払われなかった などである 債権未回収に対する対応として 3 社 (F 社 G 社 L 社 ) は中国企業との取引を制限 縮小する対応策がとられており R 社では決済条件を変更し 銀行引受手形としている また H 社 N 社 Q 社 S 社の 4 社は新規先には信用を与えず前受金で対応し 取引期間や規模によって既存先に信用を与えている その結果 リスクコントロール型債権管理方式を採用している企業では 取引先を選別することによって債権回収リスクを回避している企業が 6 社 (C 社 D 社 E 社 F 社 G 社 L 社 ) 新規取引先へは与信を付与せず 取引の状況をモニタリングしながら与信を付与していく企業が 5 社 決済条件を銀行引受手形へ変更した企業が 1 社となっている

- 情報の非対称性の観点から - 75 図表 6 債権回収問題とその対応策 ( リスク回避型債権回収方式 ) 販売先回収条件 形態外資企業中国企業外資企業中国企業 債権問題債権問題に対する対応策リスク係数 債権回収リスクに対する対応 A 社独資 100 0 1-6 ヶ月取引なしなし取引先選別 0 リスク回避型 B 社独資 100 0 3 ヶ月取引なし I 社合弁 0 100-100% 前受金 過去あり ( 焦げ付き ) なし 過去あり ( 焦げ付き ) なし 取引先選別 ( 中国企業との取引中止 ) 0 リスク回避型 決裁条件 ( 全額前受金 ) 0 リスク回避型 K 社独資 70 30 1 ヶ月 100% 前受金なし決裁条件 ( 全額前受金 ) 0 リスク回避型 M 社合弁 50 50 2 ヶ月 100% 前受金なし決裁条件 ( 全額前受金 ) 0 リスク回避型 O 社独資 0 100-100% 前受金なし決裁条件 ( 全額前受金 ) 0 リスク回避型 P 社独資 67 33 不明 100% 前受金 ( 出所 ) 中小企業金融公庫総合研究所より筆者作成 過去あり ( 焦げ付き ) なし 決裁条件変更 ( 全額前受金 ) 0 リスク回避型 図表 7 債権回収問題とその対応策 ( リスクコントロール型債権回収方式 ) 販売先回収条件 形態外資企業中国企業外資企業中国企業 債権問題債権問題に対する対応策リスク係数 債権回収リスクに対する対応 C 社 独資 70 30 不明 不明 なし 取引先選別 1 リスクコントロール型 D 社 独資 50 50 1-3 ヶ月 1-3 ヶ月 なし 取引先選別 ( 取引先はハイアール ) 1 リスクコントロール型 E 社 合弁 50 50 不明 2 ヶ月 なし 取引先選別 ( 信頼できる大手企業に限定 ) 1 リスクコントロール型 F 社 合弁 90 10 1-2 ヶ月 1-2 ヶ月 あり ( 支払遅延 ) 取引先選別 ( 中国企業との取引制限 ) 1 リスクコントロール型 ( 実質リスク回避型 ) G 社 合弁 95 5 2 ヶ月 50% 前受金 あり ( 支払遅延 ) 取引先選別 ( 中国企業との取引制限 ) 1 リスクコントロール型 ( 実質リスク回避型 ) H 社 合弁 10 90 不明 0-2 ヶ月 過去あり ( 支払遅延 ) なし 新規与信なし 既存 2 ヶ月 1 リスクコントロール型 J 社 独資 30 70 不明 0-2 ヶ月 なし 新規与信なし 既存 1-2 ヶ月 1 リスクコントロール型 L 社 独資 93 7 2 ヶ月 2 ヶ月 あり ( 支払遅延 ) 取引先選別 ( 中国企業との取引縮小 ) 1 リスクコントロール型 ( 実質リスク回避型 ) N 社 独資 30 70 不明 0-1.5 ヶ月 あり ( 焦げ付き ) 新規与信なし 既存 1-1.5 ヶ月 ( 与信金額制限 ) 1 リスクコントロール型 Q 社独資 10 90 前金 30% 出荷半月後 60% 1 年後 10% 前金 30% 出荷半月後 60% 1 年後 10% 過去あり ( 焦げ付き ) なし 新規与信なし 既存のみ与信付与 1 リスクコントロール型 R 社 独資 78 22 不明 不明 あり ( 支払遅延 ) 決裁条件変更 ( 銀行引受手形 ) 1 リスクコントロール型 S 社 独資 40 60 不明 0- 不明 過去あり ( 支払遅延 ) なし 新規与信なし 既存のみ与信付与 1 リスクコントロール型 ( 出所 ) 中小企業金融公庫総合研究所より筆者作成

76 中国経済経営研究第 1 巻第 1 号 リスクコントロール型債権回収方式を採用している企業のうち 中国企業との取引を制限 縮小している 実質的にリスク回避型の債権回収方式の会社が 3 社 (F 社 G 社 L 社 ) あり この状況を加味すると 全 19 社中 リスク回避型債権回収管理方式の会社が10 社 リスクコントロール型債権回収管理方式の会社が 9 社とほぼ半々となる 以上 アンケート調査ならびにインタビュー調査結果から 日系企業の債権管理方式について以下のようなことが言える 第一に 日系企業の債権管理方式としては リスク回避型 と リスクコントロール型 が約半数ずつであることがわかった また 実際の焦げ付き等 債権回収の問題に対して 決済条件面では前受金や銀行引受手形による決済が また 取引先選択面では外資企業との取引に絞るといった リスク回避的な対応が増加傾向にある この債権問題発生 リスク回避型の対応というパターンが債権回収を難しいと感じさせる背景にあると言えよう 第二に このようなリスク回避的な対応を可能にしている理由としては 現状 日系企業の製品が中国企業に比べ技術的に優位である もしくは商品に希少性があり 競争力があることが挙げられ それらが回収条件の交渉を有利にしている 10 この状況は Watanabe and Yanagawa(2010) が 売り手の独占力による交渉力の大きさが事後のエンフォースメントパワーにも影響するとしたことに合致する 当然のことながら リスク回避的な対応がとられていることは安全性という観点から好ましい状況ではある しかし 日本貿易振興機構 (2011) の調査において 現地市場攻略の課題を 他社との価格競合が激しい とした企業が 8 割を超えており 中国企業の技術力ならびに商品開発力向上に伴う競争の激化 そして 今後の中国 10 中小企業金融公庫総合研究所 (2005) の各社事例では 前受金や現金交換といった取引条件を可能としている理由として 技術力および商品力の優位性を挙げている 国内販売拡大にあたっては中資企業との取引が不可欠になることを想定した場合 これまでの回収条件交渉における これらの優位性は低下していくと考えられ 債権回収の環境整備がよりいっそう必要になると言えよう 第三に リスクコントロール型の特徴として 前受金や取引先を外資企業に絞り込むのではなく リスクの高い中資企業と取引している この債権回収リスクに対し 12 社のうち 6 社は中資系取引先の選択 ( 絞込み ) により 1 社は決済手段の厳格化により対応している しかし これらの会社では 7 社中 4 社で債権回収に問題を抱えている 残りの 5 社は 最初は前受金や現金との引き換えといったリスクのない方法にて対応し その後の相手の会社規模や取引金額 それまでの信用状況を踏まえて 徐々に与信金額を大きくするといったリスクコントロールがとられている これらの漸進的リスクコントロール型企業では 取引を通じて信用度合いをモニタリングしながら与信を拡大させる仕組みができており これらの企業では債権回収問題を抱えている企業が少なく コントロール効果があることがわかった ( 5 社中 4 社は債権回収問題なし ) 5. 日系企業 T 社の債権回収 11 リスクへの取り組み事例 この節では 実際の企業において リスクコントロール型の債権回収がどのように行われているか 日系企業 T 社の事例を取り上げ考察する はじめに 企業経営面から債権管理する目的とT 社を事例として取り上げる理由を述べ 続いて T 社の債権回収リスクに対する取り組み状況とその効果を把握することにより 仮説検証する 現実的な企業対応を理解するには 単純に債権回収リスクを回避するという観点から評価す 11 本事例は2007 年 6 月に 江蘇省にある日系製造業 T 社にて 財務総責任者の方へ債権回収状況に関するインタビュー形式による聞き取り調査に基づいている

77 - 情報の非対称性の観点から- るのではなく 売り上げを維持しながら債権回つの要素の最適解を各企業は模索しているとい収リスクをコントロールしていることを認識すうことができる 債権管理とは 債権回収のリる必要がある 企業の債権管理の目的は 債権スクをコントロールすることにあり 売上の最回収を確実に行うこと にあるが 現実問題と大化と不良債権の最小化という 相反することして債権管理の難しいところは 事前調査の段の最適解を求めることである 階をあまりにも厳しくしてしまうと更なる販売 T 社は90 年代前半にT 社グループの現地子会拡大の機会を失ってしまう可能性があり 一社として中国に設立された製造業の会社である 方 あまりにも緩くすると未回収リスクが高ま設立の目的は 当時中国へ進出していた他の日り 企業業績へ影響を与えてしまうことになる 系企業同様 中国を日本及び欧米向け製品の生つまり 売上高を増加させつつ 不良債権を減産加工拠点として位置づけたことによる しか少させるという 一見すると矛盾するようなこし T 社は90 年後半のアジア通貨危機による先とを行うのが債権管理と言えよう 債権管理は 進国の景気後退とその後の中国市場の拡大によ大きく分けて事前の与信管理と事後の債権回収り 販売をこれまでの生産加工拠点としての製管理に分けられるが 与信管理は債権管理の入品輸出から中国国内販売へと舵を切った T 社り口にあたり 債権回収管理は出口ということを事例として選んだ理由は 第一に 委託加工ができる この 2 つは密接な結びつきがあり による輸出から中国国内販売へ経営の軸足をシ一般的に入り口での与信管理の基準を厳しくすフトし国内販売を強化したが 債権回収を課題ると出口の債権回収管理の業務は楽になり 反としていたこと 第二に 国内販売を行うにあ対に 入り口での基準を緩めると出口の業務がたり 販売当初は第四節で取り上げたインタ大変になる このトレードオフの関係にある二ビュー調査の企業同様 滞り債権率 30% を超え 図表 8 リスクコントロール型債権回収プロセス シグナリングを通じたリスクコントロール 1. 決済条件の確認 1 決済条件の与信リスク有無 2 担保提供の有無 コミットメントを通じたリスクコントロール 2. 信用付与検討 1 信用調査 2 財務諸表分析 3 企業訪問 情報の非対称性 債権回収リスク 4. 対応策 1 与信見直し 2 取引の停止 3 延滞金利の請求 4 貸倒引当金の計上 スクリーニングを通じたリスクコントロール 3. 回収管理 1 回収会議 2 タイムリーなフォローアップ モニタリングを通じたリスクコントロール ( 出所 ) 筆者作成

78 中国経済経営研究第 1 巻第 1 号 る問題を抱えていたが リスク回避型ではなく リスクコントロール型の債権回収体制構築により 効果を上げたからである では T 社は債権回収を確実に行うために どのような体制を構築したのだろうか T 社の債権回収プロセスを図表 8 のとおり 決済条件の確認 与信検討 回収管理 未回収債権に対する対応策の 4 ステップにて示した 1 ) 第一のステップ ( 決済条件の確認 ) このステップでは取引を検討している相手先との決済条件を確認する 買い手が積極的に取引したい場合は 現金決済や銀行保証手形等のリスクの少ない決済条件や リスクがある場合でも担保を提供する場合がある このステップでは決済条件や担保提供などを通じて 相手の隠れた性質を明らかにすることが可能である 特に新規で取引を行う場合や取引先が小規模でリスクが高いことが想定される場合はリスクコントロールの手段として有用であろう 2 ) 第二のステップ ( 与信検討 ) このステップでは取引を検討している相手先と信用取引を行うかどうか 行う場合は信用取引の取引限度額をいくらにするのかが検討される 具体的には 1 ) 信用調査会社から財務諸表及び会社情報を入手し 財務諸表の分析や企業訪問による事前調査を行う 2 ) その上で取引先に付与する信用限度額を算出するという流れで行われている このステップは 隠れた相手の性質に関する情報を明らかにするような基準や仕組みを設定し それによって取引相手の選択や相手の状況に応じた取引条件を提示することから スクリーニングによるコントロールと言えよう 第一に T 社では信用調査会社から入手する財務諸表を利用して Solvency( 安全性 ) Efficiency( 効率性 ) Profitability( 収益性 ) の 3 つの観点から財務諸表を分析している 具体的には 安全性の 4 指標 ( 流動比率 当座比率 固定比率 負債比率 ) 効率性の 3 指標 ( 総 資産回転率 売掛金回転日数 棚卸資産回転率 ) 収益性の 3 指標 ( 売上高純利益率 総資産利益率 自己資本利益率 ) 合計 10 指標を財務分析の判断指標としており 信用調査会社から入手した財務諸表を利用して 取引先の10 指標を業界の標準値に照らし合わせて判断している 第二に 信用限度額の算出について 信用限度額とは取引先に対する信用取引の限度額であり 会社としての取引先に対する売掛金残高の上限となる 信用限度額の設定には様々な方法があるが 12 T 社の事例では 極力簡便的な方法で かつ信用調査会社からの財務諸表で判断できる操作性の高い方法という実務的な側面を考慮して 簡便法による信用限度額の設定を行っている 13 T 社の与信検討のステップでは 財務諸表分析や簡便法による信用限度額計算といった一般的な評価項目以外に 以下のような項目も考慮に入れた判断を行っていることが特徴として挙げられる 第一に 財務諸表上で借入があるケースである 通常 取引先で借入がある場合 財務数値 12 与信限度額の設定方法には ( 1 ) 顧客申請法 ( 2 ) 実績法 ( 3 ) 法定信用限度法 ( 4 ) 業種比較法 ( 5 ) 標準評点比較法 ( 6 ) 売掛能力一括法 ( 7 ) 自己資本基準法 ( 8 ) 仕入債務基準法 ( 9 ) 簡便法 (10) 総合評価法などがある ( 牧野 104 ページ ) 13 簡便法とは 平均月間売上 自己資本 運転資本の 3 つの指標を利用して 信用限度額を算出する方法である この方法では 平均月間売上の項目にて代金支払いのための原資を獲得する能力について 自己資本の項目で長期的な支払能力について 運転資本の項目で短期的な資金の支払い能力を判断する 信用限度額設定における簡便法の特徴として ほかの方法と比べた場合 複数の財務数値を使用する点にある たとえば 複数の財務諸表の数値ではなく 1 つの財務数値から信用限度額を導き出した場合 1 つの財務数値がたまたま大きければ 与信限度額が大きくなり 反対に小さければ 与信限度額が小さくなるという欠点があるが 簡便法は 3 つの財務数値を使用しているため バラツキが少なくなる

79 - 情報の非対称性の観点から- の負債比率が高くなるためマイナス評価になる与信検討のステップでは 信用調査や企業訪が T 社では借入をマイナス評価としてのみ捉問等によって 隠れた相手の性質に関する情報えるのではなく 借入を可能にしているというを明らかにするような基準や仕組みを設定し 事実は銀行からの与信審査を受けて貸付を行っそれによって取引相手を選択したり 相手の状ても良いという判断が行われているという点で況に応じた取引条件を提示する 一般的には事プラスの評価をしている 前の信用調査を厳格に行えば回収の安全性を図第二に 債権流動化による取引先の判定であることはできると考えがちだが 実際には財務る 債権流動化とは 売掛債権 手形債権等を諸表の精度やグループ企業の構造 支払を遅ら銀行に売却し 決済期日等が到来する前に 債せることが財務担当者の評価要素となっている権を回収する資金調達の一手段である 当然の中国独特の評価制度などもあり 代金支払いのことながら 銀行が債権流動化スキームにより確実性を正確に測ることは難しく 事前調査を債権を購入する際には 取引先が倒産し 代金行うことは安全性を図る必要条件ではあるが十が回収できなくなるデフォルトリスクや債権自分条件ではない T 社では 売上と債権回収リ体が実在しないといった不正取引リスク等 各スクのトレードオフの関係も考慮し 事前調査銀行独自の審査基準を通過することが必要であによる与信判断のウェイトは大きくせず 売上る そのため 上記で述べた借入同様 債権のの拡大可能性も考慮に入れて極力信用を与える買い取りを銀行に依頼し 銀行の審査の結果 方針で対応している 但し 第四節で取り上げ取引先の債権売却が可能と判断された場合は た漸進的リスクコントロール型の事例同様 与銀行による審査結果において 良い判断が行わ信設定時は小さい信用限度額から始めている れているという点でプラス評価をしている さこのように 貸し倒れリスクを極力最小化するらに 中国における債権流動化のメリットとしとともに その後の回収状況を重点的にモニタて 流動化を行う場合の調達レートは債権の原リングすることにより 本当の意味での信用度債務者の信用力によって決定されるため 優良合いを測り その上で 信用限度額増枠を行っな債権を利用した流動化の場合 銀行借入レーている トより有利なレートでの調達ができる可能性が あり 総資産利益率 (ROA) の資産効率を向上させる副次的効果もある 第三に 取引会社への訪問である T 社では与信判断にあたり 営業担当者が今後の取り組み方針等 定性的な企業評価を行っているが 営業担当者の企業評価と与信管理者の企業評価が異なることがある このような場合 単に営業担当者からの評価や財務諸表だけで判断すると大きな問題を抱える可能性があるため注意が必要であり 取引開始前に与信管理担当者が営業担当者に同行して取引先を訪問している 14 14 T 社の事例として ある会社との取引を検討するにあたり 与信管理担当者が営業担当者より取引先の評価を聞いたところ 敷地内にすばらしい立派な建物があること ホテルやデパートの経営を手広く行っていることをプラス評価 項目として取り上げていた しかし これらの事実は 与信管理の観点から捉えると 一般的にホテルやデパート経営には 大きな設備投資を伴うということであり 与信管理担当者が 実際現地へ同行した際のホテルやデパートの稼働状況を考えると 資金繰りは相当厳しいと判断した しかし 与信調査会社から入手した財務諸表では この取引先は比較的健全であると判断されていた 財務担当者が財務諸表の固定資産金額をみたところ とてもホテルやデパートの建物や設備が含まれているとは思えない金額であったため 更なる調査を続けたところ この取引先は数多くの子会社を持っており 入手した財務諸表は取引している子会社のみの財務諸表であった この取引先のケースでは 資金管理は各子会社単位で行われてはおらず ホテルやデパートを運営する会社も含めたグループ全体で行なわれていたため 極端に支払いが悪い状況にあることが判明した

80 中国経済経営研究第 1 巻第 1 号 3 ) 第三のステップ ( 回収管理 ) このステップでは取引先の信用調査を通じて付与された信用限度額に基づき 債権回収が適切に行われているか モニタリングを行う T 社では与信設定のステップ以上に回収管理に重点を置いている 具体的な回収管理の仕組みとして 1 ) 月二回実施される回収会議 2 ) 財務部による日々の入金状況確認 3 ) 確認結果の営業部署へのフィードバック等 モニタリングを通じたリスクコントロールが行われている 第一に 月二回の回収会議では 営業総責任者及び財務総責任者により 営業担当ごとに回収状況のヒアリングが行われる 営業担当者の取引先ごとに債権期間で区分されている売掛金残高一覧表 販売取引一件別の売掛債権明細表を作成し これらの債権資料をもとに 滞り債権のみならず期限前の債権を含め 取引一件ごとに各営業担当へ入金予定日のヒアリングを行う 回収会議でヒアリングされた取引一件ごとの入金予定日は別途入金予定表にまとめられる 第二に 財務部はこの予定表をもとに日々銀行への入金確認を実施する 入金予定日になっても未入金の取引については別途 未入金リストを作成する 第三に 財務総責任者は この未入金リストを総経理 営業総責任者 営業担当者へ連絡し 再度 一週間以内での入金を取引先に催促している 翌週には入金分が消しこまれた未入金リストが更新されるとともに 再度回収会議が行われ 未入金状況の確認が行われる なお 回収会議の際に取引先との確認で起算日に関する双方の解釈違いや増値税発票発行の手違いなど 債権未回収につながる細かな問題も発見されるので その場で即時に問題解決することによって 入金遅延となる原因を最小化している このように T 社では 不良債権リスクに対する過度な対応は販売機会喪失の可能性もあるため 与信検討ステップではなく 実際の回収状況のモニタリングを強化している さらに 上述した回収管理以外に 回収管理を効果的に実施するために以下のような仕組みを取り入れ ている 第一に債権回収に対する会社方針である 営業はお金を回収して初めて業績となる という方針を打ち出し 毎月経営会議で回収状況を報告するとともに 一年に一度営業販売会議の場で 総経理自ら回収実績を報告している さらに回収面で優秀な営業担当者を表彰することにより 従業員に対して会社が債権回収を重要視していることを実感させる場を作り出している 第二は人事制度である T 社では2005 年より新しい人事制度を導入したが 営業担当者の人事評価項目に新たに回収項目を加えた これまでの人事制度では評価項目に債権回収の項目はなく 売上等で査定されていたため 滞り債権率は30% を超えるものであった 新しい制度では 営業評価を100とした場合 原則 15% 程度を回収状況により加点する制度とした なお 回収状況については上述した月二回の回収会議や毎週の回収フォローアップにより 総経理 営業および財務責任者に共有化されており その状況に応じて査定される 15 第三は販売契約書の見直しである T 社では人事制度を見直すと同時に 販売契約の見直しも行った それまでは個別契約書ベースでの販売契約となっており その一項目としてユーザンスが決まっていたため 同じ取引先において担当者のミスや認識違いなどによりユーザンスが異なるという問題が発生していた この問題については 個別契約書の上位契約となる販売基本契約書を作成し 基本契約でユーザンスを決定することにより複数のユーザンス発生を防止した また 回収遅延に関する遅延損害金条項を盛り込むと同時に それ以外にも回収会議で支払遅延の理由として明らかとなった検収条件の明確化や瑕疵責任などの条項についても織り込むことにより 支払催促の際の根拠となる 15 営業の評価指標として回収項目を取り入れた背景 人事制度の見直しについては 齋藤 大島 (2014) を参照

81 - 情報の非対称性の観点から- ように契約の変更を行った 制度の見直し 会社方針の徹底等を含む総合的な債権管理体制を構築することによって 構築 4 ) 第四のステップ ( 対応策 ) 前の滞り債権率 30% から 1 年間で20% まで さこのステップでは 回収会議でヒアリングさらに半年後には15% まで引き下げることが可能れた入金予定日を過ぎても引き続き未入金の取となった 17 引先に対しては 総経理 営業責任者 財務責 6. 結論任者にて対策会議が行われ コミットメントに基づく懲罰的機能として取引先への対応が検討本稿では 日系企業が中国ビジネスを行うでされる 具体的には与信の見直し 販売の取引重要課題の 1 つとしている債権回収問題を取り停止等が検討され 代金回収へ向けた対応が行上げた その理由は 第一に債権回収問題が中われる 国のクロスボーダーの投融資規制等の特殊事情対策の第一は 与信の見直しである 対策会もあり 場合によっては資金繰りに大きな影響議後に与信の見直しが必要とされた取引先につを与え 企業の死活問題となりうること 第二いては 以後の債権回収リスクを回避するために債権回収は経営の重要課題であるにもかかわに与信限度額はゼロとなり 以後の取引についらず アンケート結果から中国での債権回収はてはすべて現金との交換取引 (COD) となる 難しいと認識されており なぜ中国では債権第二は 販売取引の停止である 上記対策に回収が難しいと言われるのか という問題意識より与信限度額を見直し後も 過去に発生したを持ったからである 滞り債権の未払いが続くような場合には 販売議論を進めるにあたり はじめに中国の債権取引を停止する措置をとっている この措置は回収に関する先行研究レビューを行った 筆者取引先にとって将来のビジネスの種を失うことは債権回収の困難性を検討する枠組みとして情にもつながるため 支払いが行われるケースが報の非対称性に注目し 先行研究を拡張させる多く 債権回収の点からこれまで一定の効果を形で情報の経済学の論点を債権回収に適用した あげている 情報の経済学では 情報の非対称性から発生す第三は 会計上の貸倒引当金設定である T る問題とその問題を解決するために相手のイン社では会計事務所とも相談の上 一定期間遅延センティブをいかにコントロールするかというした債権については恣意性を排除するために ことを検討している この考えを債権回収にあ会計上強制的に貸倒引当金を計上するルールをてはめた場合 情報の非対称性は中国に限らず採用している 一定期間を超過した債権の貸倒どの地域でも存在する したがって 中国の債処理による早期の費用化を行うことで 債権放権回収が難しいという原因は 情報の非対称性棄を実施したときの損失影響を緩和するができ そのものではなく インセンティブコントローまた 不良債権処理の早期の意思決定ができるルの設定のされ方に問題があるのではないかとような体制をとっている 16 考えた そして インセンティブコントロール以上 T 社ではリスクコントロール型債権回の設計を日系企業の債権回収への取り組みと捉収プロセスに基づき 決済条件の確認 与信検え 日系企業は 債権回収への取り組み如何に討 回収管理 未回収債権に対する対応策の 4 よって 情報の非対称性により発生する債権回つのプロセスをベースに 契約書の整備や人事収リスクを低減しうる という仮説を立てた 16 T 社では 2 ヶ月から 6 ケ月の滞り債権については 5 % 7 ヶ月から 12 ヶ月の債権については 10% 1 年以上の債権については 20% の引当を行っている 17 契約に基づく入金予定日より 1 日でも遅れた債権も含んでおり 軽微な滞り債権を除くと 5 % 程度となる

82 中国経済経営研究第 1 巻第 1 号 この仮説を検証するにあたり リスク要素として 決済条件 と 取引先選択 という 2 つの変数からリスク係数を算出した このリスク係数に基づき 日系企業の債権回収への取り組みを リスク回避型 と リスクコントロール型 に区分した その上で 約 350 社に行ったアンケート調査を利用し 日系企業の債権回収への取り組みに関する全般的な傾向を把握した 検証の結果 リスク回避型の債権回収方式とリスクコントロール型の債権回収方式はおおよそ半数ずつであること 時系列的にみると リスク回避型の債権回収方式が増加傾向にあることが判明した さらに 日系企業 19 社に行ったインタビュー調査を利用し より詳細に取引先や決済条件 債権回収問題の有無 問題の原因と解決への取り組み内容を把握した 検証の結果 第一に日系企業が採用している債権回収方式は リスク回避型とリスクコントロール型がそれぞれ約半々であった この傾向はアンケート調査結果の傾向と同様であり この傾向は日系企業における 2 つの債権回収方式の採用割合として より妥当と考えることができよう 第二に 債権回収の問題が発生した場合の対応策として 多くの企業ではリスクコントロール型による対応ではなく リスク回避型の対応がとられていた このことは債権回収問題発生 リスクのある取引をやめる ( 回避型対応 ) 債権回収は難しいと判断させることになり 中国の債権回収を難しいと認識させる 1 つの要因として考えられる また リスク回避型の対応を可能にしている背景には日系企業の技術 商品の優位性があることがわかった 第三に 債権回収問題に対してリスク回避的な対応がとられる一方で 新規取引先とはリスクの少ない形で取引を始め 徐々に与信を増やしていく債権管理方式を採用している企業では債権回収問題を抱えている企業が少ないことがわかった この結果から リスクに対しては回避するだけではなく リスクコントロールによって効果を上げることも可能であると言えよう 最後に リスクコントロール型の債権回収がどのように行われているか 債権回収の仕組みを構築し 効果を上げている日系企業 T 社の事例をもとに考察した T 社では第一に 債権管理制度を構築する際に取引開始前の信用調査や契約書の内容整備といった狭義の債権管理だけではなく 日常の回収管理を通じて未回収のシグナルを察知するモニタリングを重視している 第二に 与信限度額の見直しを行う 販売停止措置をとる 早期に経理上の引当を行うといった 問題が発生した場合にはリスクを最小限に抑えるための多重の対応策がとられている 第三に これらの回収プロセスを支える土台として 債権回収に対する会社方針や方針に合わせた人事制度が導入されていた T 社ではこれらの総合的な債権管理体制を構築することによってリスクコントロールが行われており その結果 債権回収リスクの低減に効果を上げていることがわかった T 社の事例研究を通じて 現実の企業における債権回収の詳細なプロセスが明らかになるとともに 各プロセスが実際どのように相互作用しているのかを知ることができ 債権回収を有効に機能させるための債権回収以外の仕組み ( 人事制度や契約書の整備等 ) も含め 多次元の構図を示すことができた 以上の検証の結果 日系企業は債権回収リスクに対して リスク回避的な対応やリスクをコントロールする取り組みによりリスク低減の効果を上げていた このことは仮説とした 日系企業の取り組み如何で情報の非対称性を低減しうる ということが証明されたと言えよう しかし 検証の過程で 多くの企業で採用されていたリスク回避的な債権管理方式は日系企業の技術力や商品力の優位性を前提として成り立っていることもわかった したがって 日系企業における中国市場の重要性が増す一方で 競争激化に伴う日系企業の技術や商品の優位性低下が予想される中 この方式を採用し続けることは難しくなることが想定される その意味から 今後は債権回収リスクに対する債権回収体制の整備が必要となり 部分的な体制整備ではなく

- 情報の非対称性の観点から - T 社のような総合的な回収体制の整備が求められるであろう 以上 本稿の意義としては 中国における債権回収に関する先行研究では論じられることが少なかった日系企業の債権回収方法に着目し 対応方法如何では非対称性を削減しうることを 各種調査結果 事例研究を通じて検証したことである また 仮説検証にとどまらず 事例研究を通じて 有効な債権回収方法のモデル ( 現実的な処方箋 ) を提示したことである これらを明らかにすることは 今後中国で現地化を進めるにあたり 債権回収問題を抱える多くの日系企業にとって重要な意味をもつであろう また 中国以外の 市場経済の導入により発展している ASEAN 等の国と比較検討することも可能になろう 最後に 本稿の課題としてはT 社以外の事例でのさらなる検証が必要である 日系企業の他社事例を取り入れた 更なる仮説の妥当性の検証については今後の取り組みとしたい 参考文献 [ 日本語文献 ] 青木昌彦 奥野正寛 (1996) 経済システムの比較制度分析 東京大学出版会伊藤秀史 (2003) 契約の経済理論 有斐閣曲仁民 (2013) 中国の債権者代位権制度と日本法との比較研究 岡山大学博士学位論文国際協力銀行 日中投資促進機構 (2007) 第 9 次日系企業アンケート調査集計 分析結果 国際協力銀行 日中投資促進機構齋藤幸則 大島一二 (2013) 中国進出日系企業における債権回収問題にかんする事例分析 : 江蘇省 N 社の事例を中心に 桃山学院大学経済経営論集 第 54 巻第 3 号 2 月齋藤幸則 大島一二 (2014) 中国進出日系企業における経営現地化と人事制度 : 製造業 N 社の事例を中心に 桃山学院大学経済経営論集 第 55 巻第 3 号 2 月白石麻保 矢野剛 (2011) 中国企業金融における企業間信用の利用実態 アジア経済 第 52 巻第 10 号 10 月中小企業金融公庫総合研究所 (2005) 中国に 83 進出している中小企業における取引慣行上の問題点と対策 中小企業金融公庫総合研究所日中投資促進機構 日系企業アンケート調査集計 分析結果 各年版日本貿易振興機構 (2002) 日本企業の中国における国内販売活動に関するアンケート調査 日本貿易振興会日本貿易振興機構 (2011) 在アジア オセアニア日系企業活動実態調査 - 中国 香港 台湾 韓国編 -(2010 年度調査 ) 日本貿易振興機構日本貿易振興機構 (2012) 中国市場開拓に挑む中小企業 日本貿易振興機構日本貿易振興機構 (2013) 2013 年度日本企業の中国での事業展開に関するアンケート調査 ( ジェトロ海外ビジネス調査 ) 結果概要 日本貿易振興機構日本貿易振興機構 (2014) 在アジア オセアニア日系企業実態調査 中国編 (2013 年度調査 ) 日本貿易振興機構日本貿易振興機構 (2015) 在アジア オセアニア日系企業実態調査 中国編 (2014 年度調査 ) 日本貿易振興機構ハル R ヴァリアン (2015) 入門ミクロ経済学 [ 原著第 9 版 ] ( 佐藤隆三監訳 ) 頸草書房牧野和彦 (2010) 海外取引の与信管理と債権回収 税務経理協会みずほ総合研究所調査本部 (2011) みずほ中国経済情報 みずほ総合研究所藪下史郎 (2002) 非対称情報の経済学 光文社柳川範之 (2013) エンフォースメントの不完全性について 新世代法政策学研究 第 19 号 1 月渡邉真理子 (2006) 代金回収問題 と販売戦略 中国家電企業の事例 アジ研ワールド トレンド 第 127 号 4 月渡邉真理子 (2010) 低質な制度のもとでの企業の戦略 - 代金回収リスクへの中国企業の反応についての契約理論分析 アジア経済 第 51 巻第 1 号 1 月 [ 中国語文献 ] 翁仕友 楊中旭 (2011) 銭商覆没真相 財経 第 24 期 12 月

84 中国経済経営研究第 1 巻第 1 号 [ 英語文献 ] He, X. (2011) Debt Collection in the Less Developed Regions of China: An Empirical Study from a Basic-Level Court in Shaanxi Province The China Quarterly, vol. 205, Mar. Hu, Y., and Qiu, L. (2010) An Empirical analysis of Contracting by Chinese Firms China Economic Review, vol. 21, Jun. Ponset, S., Steingress, W., and Vandenbussche, H. (2010) Financial Constraints in China: Firm-level Evidence, China Economic Review, vol. 21, Jan. Watanabe, M., and Yanagawa, N. (2011) Ex Ante Bargaining and Ex post Enforcement in Trade Credit Supply: Theory and Evidence from China IDE Discussion Paper, No. 279, Feb. Zhang, J., Wang, P., and Qu, B. (2012) Bank Risk Taking, Efficiency, and Law Enforcement: Evidence from Chinese City Commercial Banks, China Economic Review, vol. 23, Sep. [ インターネット情報 ] 日本経済新聞電子版 浙江省の中小企業経営者 200 人が失踪 <http://www.nikkei.com/ne ws/category/article/> 2011 年 12 月 26 日アクセス ( さいとうゆきのり 桃山学院大学 ) ( おおしまかずつぐ 桃山学院大学 )

- 情報の非対称性の観点から - 85 Payment collection of Japanese company in China : Case study based on asymmetric information theory Yukinori SAITO (St. Andrewʼs University) Kazutsugu OSHIMA (St. Andrewʼs University) Keywords: localization Payment collection, asymmetric information JEL Classification Numbers: M16 As the Chinese market expands, many Japanese companies are accelerating their entry into China. One of the management problems that Japanese companies face in China is debt collection to receive money from sales. According to a survey conducted by the Japan External Trade Organization, 39.2% of Japanese companies replied that debt collection is a business risk and problem in China. In this paper, we examine the cause of difficulties in collecting debt in China. In particular, we focus on the theory of information asymmetry. First, we will confirm issues on the theory of information asymmetry. Then, by applying this theoretical issue to the debt collection problem, we will hypothesize that the difficulty of collecting debt is caused by information asymmetry, but it can be reduced by applying a framework in which Japanese companies take some countermeasures to reduce and minimize debt collection risk. Second, we will verify this hypothesis with a questionnaire and an individual interview survey of Japanese companies. Third, through a case study of a Japanese company, we will verify this hypothesis by examining the countermeasures to collect debt and their effects. As a result of this study, Japanese companies have reduced their debt collection risk by taking risk aversion or risk control countermeasures. This means the hypothesis that these countermeasures can reduce the debt collection risk caused by information asymmetry could be proven. This paper contributed as follows. First, we focused on the framework for collecting debts at Japanese companies that were rarely discussed in the previous research on debt collection in China. Second, we applied the theory of information asymmetry in microeconomics to this problem and verified that debt collection risk can be reduced by applying a framework for collecting debts at Japanese companies through various research results and case studies. Third, in addition to this verification of my hypothesis, we presented a model framework of effective debt collection through a case study.