こども 青 少 年 健 康 福 祉 病 院 経 営 委 員 会 資 料 平 成 19 年 9 月 25 日 病 院 経 営 局 横 浜 市 立 脳 血 管 医 療 センターで 発 生 した 心 肺 停 止 事 故 に 関 する 調 査 報 告 ( 概 要 版 ) 1 事 故 の 概 要 平 成 19 年 7 月 4 日 当 センターの 入 院 患 者 さんに 心 肺 停 止 事 故 が 発 生 した 緊 急 の 蘇 生 処 置 により 自 発 的 な 心 拍 は 再 開 したが 事 故 時 の 状 況 を 確 認 したところ 午 前 7 時 前 患 者 さんに 装 着 していたCPAP 呼 吸 補 助 器 の 作 動 停 止 を 内 蔵 データが 示 していること また 記 録 からは モニターの 血 中 酸 素 飽 和 度 低 下 の 警 告 アラーム 不 整 脈 の 緊 急 アラー ムが 鳴 っていたと 考 えられるにもかかわらず 看 護 師 が30 分 以 上 気 づかず 対 応 が 遅 れた ことが 判 明 した 事 故 後 集 中 治 療 室 において 患 者 さんに 対 する 治 療 を 続 けたが 7 月 13 日 未 明 容 態 が 悪 化 し 同 日 早 朝 亡 くなられた 2 調 査 の 概 要 事 故 調 査 にあたっては 事 故 調 査 委 員 会 を 設 置 し 事 実 確 認 と 原 因 究 明 及 び 再 発 防 止 策 を 検 討 した また 本 件 事 故 では ヒューマンファクターが 大 きな 原 因 の 一 つと 考 えられ ることから 専 門 家 である 山 内 桂 子 氏 ( 東 京 海 上 日 動 メディカルサービス 株 式 会 社 主 席 研 究 員 )に 協 力 を 仰 ぎ 検 証 と 考 察 をまとめた なお CPAP 呼 吸 補 助 器 は 輸 入 代 理 店 へ 機 器 の 作 動 解 析 を 依 頼 したが 7 月 24 日 警 察 により 機 器 が 押 収 された 3 事 故 に 至 った 経 過 (1) 患 者 さんの 状 態 について 平 成 19 年 5 月 16 日 19 時 30 分 患 者 さん(50 歳 代 男 性 )が 左 脳 出 血 を 発 症 し 救 急 車 にて 当 センターに 搬 送 された 5 月 18 日 朝 意 識 障 害 が 徐 々に 悪 化 し 同 日 午 前 中 に 血 腫 除 去 手 術 を 実 施 した 術 後 気 管 挿 管 したまま 人 工 呼 吸 器 を 装 着 し 治 療 を 継 続 した 6 月 14 日 一 旦 ICUから2 階 西 病 棟 へ 転 棟 したが 6 月 20 日 気 管 内 チューブを 抜 管 する 目 的 でICUに 再 入 室 し 6 月 26 日 気 管 内 チューブを 抜 管 した 7 月 3 日 朝 ICUからの 退 室 が 決 定 し 14 時 30 分 3 階 東 病 棟 へ 転 棟 した 7 月 4 日 朝 6 時 血 糖 測 定 を 行 い 6 時 20 分 インスリンを 注 射 また 6 時 30 分 経 管 栄 養 の 注 入 を 開 始 した 患 者 さんの 様 子 に 変 わったことはなかった 6 時 56 分 CPAP 呼 吸 補 助 器 の 内 蔵 データによると 電 源 が 切 れていた ( 原 因 不 明 ) 8 時 27 分 看 護 師 がセントラルモニター 画 面 で 心 拍 数 0になっていることに 気 づき 訪 室 した 8 時 28 分 心 臓 マッサージ 補 助 呼 吸 を 開 始 し 直 後 に 駆 けつけた 医 師 らが 気 管 挿 管 強 心 薬 投 与 除 細 動 等 蘇 生 処 置 を 行 い 8 時 50 分 自 己 心 拍 が 再 開 した 1
(2) 深 夜 勤 看 護 師 の 対 応 について 深 夜 勤 は3 名 の 看 護 師 で 行 い 看 護 師 2 名 が 当 日 の 入 院 患 者 30 名 をそれぞれA B チーム15 名 ずつ 担 当 した 1 人 はリーダーで 両 看 護 師 のサポートを 行 った Aチームで 当 該 患 者 さんの 担 当 看 護 師 は 7 月 4 日 5 時 30 分 頃 他 の 患 者 さんに 使 用 した 針 を 誤 って 自 分 に 刺 し( 以 下 針 刺 し という ) その 報 告 と 対 処 をした 6 時 20 分 頃 当 該 患 者 さんにインスリン 注 射 をした その 後 8 時 10~15 分 頃 に 当 直 看 護 師 長 に 呼 ばれ ナースステーションの 奥 で 針 刺 しの 血 液 検 査 結 果 等 について 説 明 を 受 けた リーダー 看 護 師 は 6 時 30 分 頃 当 該 患 者 さんの 経 管 栄 養 を 開 始 した その 後 7 時 45 分 からナースステーションへ 戻 らなかった Bチーム 担 当 の 看 護 師 は 7 時 頃 にナースステーションで 端 末 に 入 力 を 行 った モニタ ー 確 認 の 後 病 室 を 巡 視 したが 巡 視 開 始 後 ナースステーションには 戻 らなかった 当 直 看 護 師 長 は 5 時 50 分 頃 針 刺 しの 連 絡 があったため3 階 東 病 棟 へ 行 き 患 者 さ んと 看 護 師 の 採 血 等 針 刺 しの 対 処 をした また 8 時 10~15 分 頃 針 刺 しを 起 こし た 看 護 師 に 血 液 検 査 結 果 等 を 伝 えるために3 階 東 病 棟 へ 行 った (3) 日 勤 看 護 師 の 対 応 について 7 月 4 日 は10 名 の 日 勤 看 護 師 が 勤 務 予 定 で 勤 務 開 始 の8 時 30 分 前 には 全 員 がナ ースステーション 内 で 当 日 の 業 務 の 準 備 を 行 っていた 当 該 病 棟 の 看 護 師 長 は 出 勤 後 病 棟 の 管 理 日 誌 と 看 護 師 の 休 暇 簿 を 確 認 針 刺 しの 報 告 書 を 読 んだ 患 者 さんを 担 当 する 看 護 師 6 名 は 出 勤 後 患 者 情 報 用 紙 であるワークシー トを 端 末 から 出 力 し カルテ 等 から 情 報 収 集 を 行 った 他 の 看 護 師 をサポートするフリー 看 護 師 3 名 はワークシートを 打 ち 出 し 検 査 や 処 置 の 情 報 収 集 を 行 い 必 要 な 物 品 を 準 備 した (4)アラームについて セントラルモニターのアラームは 音 量 1に 設 定 されていた 当 該 患 者 さんのアラームは 記 録 によると 7 時 52 分 9 秒 から 血 中 酸 素 飽 和 度 低 下 に よる 警 告 アラームが 鳴 り また 8 時 18 分 52 秒 から19 分 20 秒 まで 不 整 脈 の 緊 急 ア ラームが 鳴 り 8 時 25 分 33 秒 から 心 停 止 を 示 す 不 整 脈 の 緊 急 アラームが 鳴 っていた 4 検 証 と 考 察 4-1 検 証 と 考 察 (1)ICUからの 退 室 について 気 管 内 チューブ 抜 管 後 7 日 間 経 過 観 察 し 全 身 状 態 が 安 定 していたことから 退 室 を 決 定 し 3 階 東 病 棟 へはモニター 監 視 を 継 続 しての 転 棟 となった ICUからの 退 室 に 関 して 問 題 はなかったと 考 えられた 2
(2)CPAP 呼 吸 補 助 器 について CPAP 呼 吸 補 助 器 は 夜 間 の 気 道 狭 窄 予 防 のために 使 用 した CPAP 呼 吸 補 助 器 の 作 動 停 止 は 今 回 の 事 故 の 一 因 であると 考 えられたが その 原 因 について 明 らかにすること はできなかった (3) 情 報 伝 達 について ICU 退 室 サマリの 記 載 内 容 が 十 分 ではなかったため 患 者 さんの 病 態 等 について 日 勤 準 夜 勤 深 夜 勤 の 個 々の 看 護 師 の 受 け 止 めに 少 しずつ 違 いが 生 まれ 行 動 にも 多 少 の 差 が 生 じた また 医 師 看 護 師 間 の 相 互 の 情 報 伝 達 が 十 分 ではなかったと 考 えられた (4) 深 夜 帯 の 看 護 業 務 について 当 センターは 他 の 病 院 と 比 較 し 日 常 生 活 動 作 については 一 人 ひとり 介 助 が 必 要 な 患 者 さんが 多 いため 患 者 さんが 目 覚 める 時 間 帯 以 降 は 看 護 師 の 負 担 が 重 くなっていたと 考 えられた (5)アラームへの 対 応 について アラーム 音 量 が1に 設 定 されていたことについては 院 内 でルールがなかったため ル ールを 決 める 必 要 性 があると 考 えられた しかし 深 夜 勤 看 護 師 がなぜ 気 づかなかったか また 勤 務 前 の 日 勤 看 護 師 が ナースステーションにいたにもかかわらず なぜ 一 人 も 気 づ かなかったのかについては 明 確 なことがわからなかった 4-2 アラームへの 対 応 に 関 する 検 討 ( 山 内 桂 子 氏 作 成 ) (1) 当 該 病 棟 の 看 護 師 が 全 体 としてアラームへの 関 心 が 低 くなっていた 背 景 要 因 事 故 前 は 患 者 の 処 置 のために 鳴 ってしまったり 検 査 リハビリ 入 浴 などで 患 者 不 在 時 にモニターを 外 したままにして 鳴 ってしまったりという 対 応 する 必 要 のないアラーム が 頻 繁 に 鳴 っていた 可 能 性 があった また 事 故 前 は 各 患 者 のモニターの 必 要 性 が 明 確 になっていなかったために 看 護 師 のモニターの 重 要 性 の 認 識 や 関 心 が 全 般 として 薄 くな り それによってアラームへの 関 心 が 下 がっていた 可 能 性 があった (2) 深 夜 勤 看 護 師 がアラームに 対 応 できなかった 理 由 ( 推 測 ) 交 代 までに 行 うべき 業 務 を 遅 れないようにすませたい 焦 りの 気 持 ちからアラームに 注 意 を 払 いにくく 特 に 担 当 看 護 師 は 針 刺 しの 対 応 で 業 務 が 遅 れる 焦 りを 感 じていた 可 能 性 が あった ナースステーションから 離 れていた 深 夜 勤 看 護 師 には アラーム 音 が 聞 こえづら かった また 日 勤 看 護 師 がナースステーションにいたため アラームが 鳴 ったら 日 勤 看 護 師 が 気 づいてくれるだろうと 期 待 していて アラーム 音 への 注 意 が 低 くなっていた 可 能 性 がある また 緊 急 に 対 応 すべきアラームであれば 対 応 してくれるだろうと 無 意 識 に 期 待 していた 可 能 性 がある 3
(3) 日 勤 看 護 師 がアラームに 対 応 できなかった 理 由 ( 推 測 ) 日 勤 看 護 師 は 情 報 収 集 や 点 滴 準 備 などの 業 務 に 集 中 していたためアラームが 聞 こえな かった また 始 業 前 のアラーム 対 応 は 深 夜 勤 看 護 師 の 役 割 と 考 えていることと 複 数 の 看 護 師 がいたために 責 任 の 分 散 が 起 こり 誰 かが 対 応 するという 意 識 があったことか ら アラーム 音 に 注 意 を 向 けていなかった (4)その 他 アラーム 対 応 の 遅 れに 関 連 する 要 因 医 師 からの 日 々のさまざまな 指 示 を 看 護 師 に 伝 える 仕 組 みが 複 雑 で 情 報 を 把 握 しにくく それが 業 務 開 始 前 に 出 勤 していた 日 勤 看 護 師 からアラームを 気 にかける 余 裕 を 奪 ってい た 一 因 となったと 考 えられた さらに ナースステーションが 隣 接 し 相 互 のアラーム 音 が 聞 こえ 混 在 する 状 況 にあり 自 走 台 車 の 音 質 も 類 似 音 であった そのため 一 つ 一 つ の 音 に 対 する 意 識 が 低 くなるなどの 状 況 が 生 じていた 可 能 性 があった 4-3 まとめ 今 回 の 医 療 事 故 は 単 純 な 原 因 で 発 生 したものではなく 各 種 の 要 因 が 重 なり 合 った 結 果 起 きたものであることが 明 らかになった CPAP 呼 吸 補 助 器 の 作 動 停 止 情 報 伝 達 が 十 分 でなかったこと 看 護 が 忙 しくなる 時 間 帯 であったこと そして 様 々な 要 因 の 複 合 によりモニターのアラームを 認 知 でき なかったことが 原 因 と 考 えられた 5 再 発 防 止 のために (1)モニターアラームについて ア モニターの 適 正 使 用 について アラームが 頻 繁 に 鳴 る 無 駄 鳴 り の 状 況 を 改 善 し アラームへの 関 心 を 高 めるよう 下 記 の 対 策 を 講 じた (ア)モニター アラーム コントロールチームの 設 置 (イ)モニターの 適 正 使 用 のルール 化 (ウ)モニターマニュアルの 改 善 (エ)セントラルモニターの 音 量 設 定 (オ)モニター 監 視 の 再 教 育 イ アラームへの 的 確 な 対 応 について 各 勤 務 帯 でアラーム 対 応 の 責 任 者 を 決 定 し 責 任 者 のPHSにアラームを 連 動 させる システムを 導 入 することについて 検 討 を 行 っている ウ ナースステーション 内 の 音 環 境 の 改 善 について アラーム 音 によく 似 た 自 走 台 車 が 到 着 することを 知 らせる 電 子 音 を まったく 違 う 種 類 の 音 にする または 無 音 にするなどの 検 討 を 行 っている 4
(2) 看 護 業 務 軽 減 及 び 改 善 について ア 看 護 業 務 の 軽 減 朝 の 繁 忙 時 間 への 看 護 補 助 者 の 増 員 職 種 間 分 担 変 更 の 検 討 業 務 の 簡 略 化 深 夜 帯 業 務 から 日 勤 帯 業 務 への 変 更 始 業 前 情 報 収 集 の 負 担 の 軽 減 を 検 討 している イ 看 護 業 務 の 改 善 看 護 業 務 遂 行 基 準 の 改 善 病 棟 クラークの 導 入 の 検 討 その 他 看 護 業 務 に 関 する 改 善 を 実 施 していく (3) 情 報 伝 達 の 改 善 について ア 正 確 な 情 報 伝 達 ICU 退 室 サマリ 記 載 マニュアルを 修 正 した また 医 師 と 看 護 師 の 双 方 向 の 情 報 交 換 ができる 様 式 を 整 備 することなどを 検 討 している イ モニター 装 着 の 目 的 の 共 有 モニター アラーム コントロールチームの 活 動 を 通 じて 医 師 と 看 護 師 のモニター 装 着 の 目 的 の 共 有 を 図 っていく ウ 指 示 全 般 の 仕 組 みの 整 理 始 業 前 情 報 収 集 の 負 担 軽 減 のための 検 討 の 中 で 医 師 から 看 護 師 への 指 示 全 般 を 見 直 していく (4) その 他 モニター 機 器 の 改 良 を 今 後 機 器 メーカーなどに 要 望 していく 6 意 見 書 調 査 報 告 書 が 全 体 として 事 故 の 十 分 な 検 証 と 考 察 となっているのかについて 医 療 安 全 の 第 一 人 者 から 評 価 及 び 意 見 をいただいた (1) 武 蔵 野 赤 十 字 病 院 院 長 三 宅 祥 三 氏 同 院 矢 野 真 氏 同 院 杉 山 良 子 氏 CPAPの 使 用 情 報 伝 達 ICUからの 転 棟 など 事 前 予 測 性 が 低 くても 改 善 の 可 能 性 があるのであれば 議 論 の 対 象 となる 本 報 告 書 は 重 点 を 絞 って 詳 細 な 分 析 がなされており 病 院 としての 対 応 は 問 題 ないと 思 われる 現 在 でも 検 討 が 継 続 されており 今 後 はより 幅 広 い 視 点 での 改 善 が 進 むこと が 期 待 される (2) 日 本 看 護 協 会 常 任 理 事 楠 本 万 里 子 氏 全 体 的 に 丁 寧 な 事 実 確 認 と 分 析 が 行 われ 事 故 の 再 発 防 止 を 検 討 するうえでの 重 要 なデ ータとなっている 事 故 の 調 査 報 告 としては 十 分 な 検 証 と 考 察 が 行 われているといえる 情 報 伝 達 という 観 点 から 考 えると 必 要 な 情 報 が 確 実 に 伝 わるよう 医 師 が 再 発 防 止 にどのように 関 わるのかも 含 めた 具 体 的 行 動 計 画 が 必 要 である 5