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国 際 開 発 研 究 フォーラム 43(2013. 3 Forum of International Development Studies. 43 (Mar. 2013 47 日 本 語 におけるイントネーション 型 と 終 助 詞 機 能 の 相 関 について 大 島 デイヴィッド 義 和 On the Relation Between the Intonation Types and the Functions of Discourse Particles in Japanese David Yoshikazu OSHIMA Abstract It has been acknowledged in the literature that the interpretation of discourse particles (sentencefinal particles in Japanese is largely affected by intonation. There is much room for investigation, however, as to how exactly the discourse particles and intonation interact. In this work, I demonstrate that four types of contours insisting rise, question rise, flat, and rise-fall have to be distinguished for the purpose of analyzing the functions of discourse particles, and examine the functions of the two paradigmatic discourse particles yo and ne as accompanied by different contours. Yo can be accompanied by the question-rise, flat, or rise-fall contour. Yo with the question-rise contour has two distinct functions, and yo with the flat contour has four. Yo with the rise-fall contour has similar functions as yo with the flat contour, but additionally conveys an emotive and childish tone. Ne can be accompanied by any of the four contours. Ne with the insisting-rise contour has three distinct functions, and ne with the questionrise contour has two. Ne with the flat or rise-fall contour has similar functions as ne accompanied by the insisting-rise contour, but additionally conveys an emotive (but not necessarily childish tone. 1.はじめに 日 本 語 の 文 末 イントネーション 1 と 終 助 詞 の 意 味 機 能 の 関 わりについては,これまで 多 くの 研 究 で 取 り 上 げられてきたが, 十 分 に 解 明 されていない 部 分 も 多 い 本 稿 では, 終 助 詞 研 究 を 行 う 際 にどのようなイントネーショ ン 型 の 分 類 を 念 頭 に 置 くべきかを 検 討 したう えで, 代 表 的 な 終 助 詞 よ ね の 意 味 機 能 とイントネーション 型 の 対 応 関 係 を 考 察 す る * 名 古 屋 大 学 大 学 院 国 際 開 発 研 究 科 准 教 授 終 助 詞 ( 文 末 詞, 談 話 助 詞 という 範 疇 に 何 を 含 めるかについては 研 究 者 によって 必 ず しも 意 見 が 一 致 しない 本 稿 では よ ね の 他, ぜ ぞ な の 2 さ わ も の(もん を 終 助 詞 とみなすが,これら 以 外 にどのようなものを 含 めるかについては 判 断 を 保 留 する 終 助 詞 は, 疑 問 文 や 命 令 文,あるいは 断 片 的 な 発 話 ( 例 : 気 が 向 いたらね の 末 尾 に 現 れたり, 文 中 で 間 投 的 に 用 いられたりする 場 合 があるが, 本 稿 では 平 叙 文 の 述 語 の 末 尾 に 終 助 詞 が 現 れる 場 合 のみに 議 論 を 絞 る 3

48 国 際 開 発 研 究 フォーラム 43(2013. 3 また, よね の(だよ のように, 終 助 詞 が 他 の 終 助 詞 や 助 動 詞 と 共 起 する 場 合 も 考 慮 の 対 象 から 外 す 2. 日 本 語 ( 標 準 語 文 末 イントネー ションの 分 類 日 本 語 ( 標 準 語 の 文 末 イントネーション の 分 類 には 諸 説 あるが, 郡 (1997による 5 分 類 強 調 上 昇 調, 疑 問 上 昇 調, 上 昇 下 降 調, 平 調, 下 降 調 が, 比 較 的 広 く 受 けいれられ ている 本 稿 でも, 基 本 的 にこの 分 類 法 を 採 用 する これに 対 して,Venditti(2005は 下 降 調 と 平 調 を 分 けず,3 種 の 句 末 境 界 音 調 と, 句 末 境 界 音 調 の 不 在 による 4 分 類 を 提 示 している また, 上 昇 調 の 下 位 区 分 を 論 じた 川 上 (1963では, 郡 の 疑 問 上 昇 にあたる 音 調 を 3 分 類 している 郡,Venditti, 川 上 の 分 類 および 用 語 記 法 の 対 応 関 係 をまとめる と, 表 1 のようになる 表 の 最 右 列 に, 以 下 本 稿 で 用 いる 記 法 ( 郡 の 記 法 に 準 じるが, 平 調 に の 記 号 をあてるを 示 す 強 調 上 昇 調 は, 強 い 主 張 を 示 す 場 合 や, 文 中 の 情 報 構 造 的 焦 点 を 明 示 する 場 合 などに 用 いられる 音 調 である 郡 (1997では, ど うしても 茸 (きのこを 食 べたい という 意 思 を 伝 えるために, きのこ! を 木 の 独 楽 (きのこま の 最 後 の ま を 言 わずに 止 めるのと 同 じ 言 い 方 で 言 うときの 音 調,と 説 明 している 疑 問 上 昇 調 は, 典 型 的 には 問 いかけに 用 い られる 音 調 である(ただし, 終 助 詞 よ と ともに 用 いられる 場 合 など, 問 いかけ 以 外 に 用 いられることもある 強 調 上 昇 と 比 べて, 疑 問 上 昇 によるピッチ 変 化 はよりはっきりと した 凹 型 を 描 く(Venditti 2005: 182 川 上 の 第 二 種 は 第 一 種 と 比 較 して 上 昇 の 始 まるタイミングが 早 い また, 第 三 種 は 上 昇 が 遅 く 始 まり,また 上 昇 の 幅 が 大 きく なることが 多 い 上 昇 下 降 調 は, 相 手 を 促 す 際 の 早 く!(は やくぅ! という 発 話 に 現 れうるものであ る また, 発 話 中 に 区 切 りを 入 れる 際 に, 発 言 がまだ 終 わってないことを 示 す 標 識 として 用 いられることもある 上 昇 下 降 調 を 伴 う 文 ( 句 の 末 尾 拍 は 長 く 発 音 される 傾 向 があり, くだけた 書 き 言 葉 では,これを 仮 名 や 長 音 符 を 添 えることで 表 す 場 合 がある( 早 くう 早 くぅ 早 くー など 平 調 は, 自 然 下 降 のみで 特 段 の 上 昇 も 下 降 表 1 先 行 研 究 におけるイントネーションの 分 類 Venditti(2005 郡 (1997 川 上 (1963 本 稿 insisting rise(h% 強 調 上 昇 調 ( 第 四 種 : 強 めの 上 昇 調 第 一 種 : 普 通 の 上 昇 調 question rise(lh% 疑 問 上 昇 調 ( 第 二 種 : 浮 き 上 がり 調 第 三 種 : 反 問 の 上 昇 調 rise-fall(hl% 上 昇 下 降 調 ( 境 界 音 調 無 し( 無 記 号 平 調 ( 無 記 号 下 降 調 (

日 本 語 におけるイントネーション 型 と 終 助 詞 機 能 の 相 関 について 49 図 1 見 えない ( 左 上 見 えない ( 右 上 見 えない ( 左 下 早 く ( 右 下 も 伴 わない 音 調 である 下 降 調 は, 驚 きのニュ アンスをこめた 発 話 に 現 れることがあり, 句 末 でピッチが 急 に 下 降 する( 例 : 本 当!(ほ んとぉ! 上 昇 下 降 調 と 同 様, 下 降 調 も 末 尾 拍 が 長 くなることが 多 く, 仮 名 や 長 音 符 を 添 えて 表 記 されることがある 表 1 で 比 較 される 三 つの 分 類 法 のあいだ の 違 いは,イントネーションにおける 音 韻 的 な 区 別 と 音 声 的 な 差 異 あるいはイントネー ションの 音 韻 的 文 法 的 な 側 面 と 情 意 的 な 側 面 を 峻 別 することの 困 難 さ(Gussenhoven 2004: 49 90,Vance 2008: 195を 反 映 して いると 言 える Venditti の 4 分 類 を 採 用 する 立 場 から 見 れば, 郡 の 平 調 と 下 降 調 の 対 立 は, 文 法 的 イントネーション(grammatical intonationの 問 題 ではなく, 情 意 的 イント ネーション(affective intonationの 問 題 に 過 ぎないということになる 郡 の 疑 問 上 昇 調 と 川 上 の 第 一 ~ 三 種 とのあいだにも, 同 様 の 関 係 が 成 立 する どの 分 類 がもっとも 適 切 かは, 研 究 上 ある いは 応 用 上 の 個 別 の 場 面 に 依 存 する 問 題 であ り, 単 純 に 優 劣 をつけることは 不 可 能 であろ う しかしながら, 日 本 語 のイントネーショ ンに 少 なくとも 4 種 の 音 韻 的 区 別 (すなわち Venditti が 認 定 するものがあることは 間 違 いなく, 終 助 詞 の 意 味 機 能 を 考 える 際 にも, 少 なくともこの 4 種 の 場 合 に 分 けて 考 えるこ とが 必 要 である 参 考 のため, 図 1 に, 強 調 上 昇 調, 疑 問 上

50 国 際 開 発 研 究 フォーラム 43(2013. 3 昇 調, 平 調, 上 昇 下 降 調 を 伴 う 発 話 強 調 上 昇 調 疑 問 上 昇 調 平 調 は 見 えない, 上 昇 下 降 調 は 早 く(はやくぅ の F0( 基 本 周 波 数 を 視 覚 化 したものを 例 示 する( 下 降 調 は 省 略 上 昇 下 降 調 のみ 早 く を 用 いているのは, 上 昇 下 降 調 は 原 則 的 に 終 助 詞 を 伴 わない 独 立 文 には 用 いられない( 見 え ない という 発 話 は 不 自 然 という 理 由 による( 後 述 3. イントネーション 型 と 終 助 詞 の 機 能 との 相 関 近 年 の 終 助 詞 研 究 においては, 終 助 詞 の 意 味 機 能 とイントネーションとのあいだに 密 接 な 関 係 があることは 広 く 認 知 されてきてい る( 橋 本 1992, 蓮 沼 1996, 井 上 1997, 杉 藤 1997, 森 山 2001,Davis 2011 などものの, 上 昇 対 非 上 昇 ( 下 降 の 二 分 法 かそれに 近 いものだけを 考 慮 している 場 合 が 多 い ま た, 二 種 類 の 上 昇 調 を 分 けて 考 える 場 合 にも, それが 強 調 上 昇 と 疑 問 上 昇 の 対 立 を 問 題 にし ているのか,それとも 第 一 種 と 第 三 種 の 対 立 を 問 題 にしているのかが 不 明 瞭 な 場 合 がある など, 若 干 の 混 乱 が 見 受 けられる(3.1 節 を 参 照 本 節 では,イントネーション 型 と 終 助 詞 の 結 合 可 能 性 および 意 味 機 能 的 相 関 を, 概 観 的 に 検 討 する ただし, 下 降 調 については,ま れにしか 現 れない 音 調 ということもあり, 以 下 では 考 慮 の 対 象 から 外 す なお, 末 尾 拍 以 外 にアクセント 核 を 持 た ない 述 語 形 式 ( 例 : 行 く / 行 った 越 える / 越 えた に 終 助 詞 が 後 接 する 場 合, 述 語 形 式 末 尾 に 下 降 が 生 じる 場 合 と 生 じない 場 合 とがある 4 例 えば, 疑 問 上 昇 調 を 伴 う 行 よ の 場 合 ( もう 行 くよ いいね, く から よ にかけて 下 降 がある 発 音 と,ない 発 音 の 2 つが 可 能 であり,また,この 2 つ には 意 味 機 能 上 の 大 きな 違 いはない 轟 木 (1993は,これを 終 助 詞 の 低 接 順 接 と 呼 んで 区 別 している 低 接 順 接 の 違 いは, 述 語 形 式 の 末 尾 拍 のアクセントが 実 現 するか 否 か,という 問 題 に 還 元 される 頭 高 型 でも 中 高 型 でもない( 単 一 の 述 語 形 式 が, 末 尾 拍 にアクセントを 持 つ 場 合 と 持 たない 場 合 が あるということは, 次 のような 例 によって 示 すことができる(Vance 2008: 162 187 (1a. 行 くから, 心 配 しないで ( 下 線 部 の アクセント 型 は LHLL く のアク セントが 実 現 している b. 行 く 人,いますか ( 下 線 部 のアクセ ント 型 は LHHH く のアクセン トが 実 現 しない 5 低 接 の 行 くよ は(1aの 場 合 と 類 比 的 であり, 順 接 の 行 くよ は(1bの 場 合 と 類 比 的 である 低 接 による 下 降 は, 要 はアク セントの 問 題 であり,イントネーションとは 区 別 してあつかう 必 要 がある 以 下, 終 助 詞 のイントネーションを 例 示 する 際 には, 低 接 順 接 の 区 別 が 問 題 にならない 末 尾 拍 以 外 に アクセント 核 を 持 つ 述 語 形 式 ( 頭 高 型 または 中 高 型 の 述 語 形 式 を 用 いる 3.1 疑 問 上 昇 調 と 強 調 上 昇 調 終 助 詞 のつかない 発 話 の 場 合, 疑 問 上 昇 調 によって 付 与 される 意 味 と, 強 調 上 昇 調 に よって 付 与 される 意 味 は 大 きく 異 なる 上 述 のように, 前 者 は 典 型 的 には 問 いかけに 用 いられ, 後 者 は 強 い 主 張 などに 用 いられる

日 本 語 におけるイントネーション 型 と 終 助 詞 機 能 の 相 関 について 51 図 2 まずいの ( 左 まずいの ( 右 図 3 まずいね ( 左 まずいね ( 右 ( 例 : 問 いかけの 飲 む と 強 い 主 張 の 飲 む 終 助 詞 のある 発 話 の 場 合 も 同 様 に, 強 調 上 昇 調 と 疑 問 上 昇 調 では 大 きく 談 話 機 能 が 異 な る (2a.まずいの ( 問 いかけ b.まずいの ( 強 い 主 張 (3a.まずいね ( 確 認 要 求 b. まずいね ( 相 手 の 同 意 を 想 定 した 言 明 など 図 2 図 3 に,(2 (3を 実 際 に 発 音 し, その F0 を 視 覚 化 したものを 示 す 終 助 詞 の 種 類 によっては, 疑 問 上 昇 調 強 調 上 昇 調 との 共 起 に 制 限 がある の ね な はどちらの 音 調 とも 結 びつくが, よ ぜ ぞ わ は 強 調 上 昇 調 と 結 びつくこ とがなく,また, さ もの(もん はど ちらとも 結 びつかない 上 述 のように 疑 問 上 昇 調 には 第 一 ~ 三 種 という 下 位 種 があるが,この 三 者 の 機 能 面 での 違 いは 情 意 的 ニュアンスの 差 異 にとど まる より 具 体 的 には, 第 二 種 は 第 一 種 と 比 べてより 軽 い 態 度 を 伝 え( 川 上 1963: 283 284, 第 三 種 には 話 者 の 苛 立 ち, 不 信 といった 情 意 を 伝 達 する 働 き がある これは, 終 助 詞 なしの 場 合 と 終 助 詞 ありの 場 合 のどちらにもあてはまる

52 国 際 開 発 研 究 フォーラム 43(2013. 3 表 2 先 行 研 究 における 上 昇 調 の 諸 分 類 郡 (1997 川 上 (1963 田 中 窪 園 (1999 小 山 (1997 強 調 上 昇 調 ( 第 四 種 ( 言 及 なし 疑 問 上 昇 調 ( 第 一 種 第 二 種 上 昇 ( 昇 調 ( 第 三 種 疑 問 上 昇 ( 降 昇 調 ( 田 中 窪 園 (1999では,イントネーショ ン 型 と 終 助 詞 の 機 能 の 関 係 を 解 説 する 際 に 上 昇 と 疑 問 上 昇 を 区 別 しているが, これは 川 上 の 第 一 種 と 第 三 種 の 区 別 に 相 当 するものであり, 第 四 種 (= 郡 の 強 調 上 昇 は 考 慮 の 対 象 から 外 れている また, 小 山 (1997では,やはりイントネーション 型 と 終 助 詞 の 機 能 の 関 係 を 論 じるにあたって 昇 調 と 降 昇 調 を 区 別 しているが, 降 昇 調 が 川 上 の 第 三 種 に 相 当 する 一 方, 昇 調 は 第 一 種 と 第 四 種 をひとまとめ にしたものと 見 受 けられる 小 山 が 昇 調 の 例 として 挙 げるものには,(4(p. 101の ように 第 四 種 を 用 いるのが 自 然 なものと,(5 (p. 105のように 第 一 ~ 三 種 を 用 いるのが 自 然 なものが 混 在 している (4 そろそろ 野 茂 も 打 たれ 出 したね ( 原 文 では (5 髪 に 何 かついてますよ 第 一 種 と 第 四 種 とは,イントネーションの 外 形 上 も 意 味 機 能 上 もはっきりした 違 いがあ り,これをひとまとめにすることは 妥 当 では ない 郡 (1997, 川 上 (1963, 田 中 窪 園 (1999, 小 山 (1997における 上 昇 調 の 分 類 をまとめると 表 2 のようになる (4 (5のような 文 の 自 然 な 発 音 における イントネーションが 疑 問 上 昇 か 強 調 上 昇 かを 直 観 的 に 判 断 するのは 必 ずしも 容 易 ではない が, 実 際 に 発 音 したものを 音 響 分 析 して 結 果 を 観 察 すると,(4は 強 調 上 昇,(5は 疑 問 上 昇 であることがわかる( 図 4 図 5 3.2 平 調 前 節 で 疑 問 上 昇 調 強 調 上 昇 調 はすべての 終 助 詞 と 結 びつきうるわけではないことを 指 摘 したが, 平 調 は,どの 終 助 詞 とも 結 びつく 可 能 性 がある 6 ただし, 終 助 詞 が 連 続 して 現 れる (の/わよね よな わな な どは, 平 調 とは 結 びつかない (6a. そんなの,おかしい {のよ / わよ} b. # そんなの,おかしい(の / わよ ね 3.3 上 昇 下 降 調 上 昇 下 降 調 は, 必 ず 終 助 詞 とともに 用 いら れるとは 限 らない( 例 : 早 くぅ あな たぁ が, 文 末 の 述 語 に 現 れる 場 合 に 限 って 言 えば, よ ね のような 終 助 詞 の 存 在 を 前 提 とするものと 言 える (7# 外 は 寒 い (8( 外 で 遊 んで 来 いと 言 われた 子 供 が 外 は 寒 いよ(う

日 本 語 におけるイントネーション 型 と 終 助 詞 機 能 の 相 関 について 53 図 4 (そろそろ 野 茂 も 打 たれだしたね 図 5 ( 髪 になにかついてますよ (9( 外 出 先 から 家 に 帰 ってきた 人 物 が 外 は 寒 いね(え てはとりあげないが,これは ね の 場 合 に 準 ずると 考 えられる 終 助 詞 のなかでも, 上 昇 下 降 調 と 結 びつく 可 能 性 があるものは よ ね な など 一 部 に 限 られ, の ぜ ぞ わ もの な どは 結 びつかない 7 第 4 節, 第 5 節 で 見 るように, 上 昇 下 降 調 を 伴 う よ ね を 含 む 発 話 は, 情 意 的 なニュ アンスを 帯 びる ただし, 上 昇 下 降 調 によっ て 追 加 される 伝 達 効 果 は, よ の 場 合 と ね の 場 合 でかなり 異 なる ( な の 場 合 につい 4. よ の 諸 機 能 本 節 では, 音 調 別 に, 平 叙 文 の 文 末 に 現 れ る よ の 諸 機 能 を 解 説 する よ は 疑 問 上 昇 調, 平 調, 上 昇 下 降 調 と 結 びつくが, 強 調 上 昇 調 とは 結 びつかない なお, 以 下 で 論 じる よ の 諸 機 能 のあい だには, 同 じ 形 式 で 表 現 される 以 上, 当 然, 歴 史 的 な 派 生 関 係 と 概 念 的 な 類 似 性 関 連 が

54 国 際 開 発 研 究 フォーラム 43(2013. 3 存 在 するが,この 点 に 関 しての 本 稿 での 議 論 は 限 定 的 なものにとどまる 第 5 節 における ね の 議 論 においても,この 点 は 同 様 である 4.1 疑 問 上 昇 調 と よ 4.1.1 当 為 判 断 の 材 料 疑 問 上 昇 調 を 伴 う よ ( よ の 用 法 の うち, 先 行 研 究 においてよく 取 りあげられて きたのは,(10 (12に 例 示 されているもの である( 井 上 1997,Takubo and Kinsui 1997, Davis 2011 など (10 髪 に 何 かついてますよ (=(5 (11もしもし, 財 布 を 落 とされましたよ (12(レストランで, 辛 いスープを 口 にしよ うとしている 友 人 に 対 して それ, 辛 いよ この 用 法 に 関 して, 筆 者 は,Oshima(2012, forthcomingにおいて, 既 存 の 分 析 を 批 判 的 に 検 討 したうえで,その 機 能 は 発 話 の 命 題 内 容 発 話 によって 描 写 される 事 態 が, 聞 き 手 が 何 をするべきか,および, 何 をして もよいか,に 関 連 を 持 つことを 示 す ことで あるとする 分 析 を 提 示 している 8 本 稿 では, この 用 法 を 当 為 判 断 の 材 料 用 法 と 呼 ぶ 4.1.2 親 愛 感 情 の 表 明 よ には, 実 質 的 な 意 味 機 能 に 乏 しく, 単 に 聞 き 手 への 親 愛 の 念 や 親 近 感 を 示 すため だけに 用 いられる 場 合 がある 9 これを 親 愛 感 情 の 表 明 用 法 と 呼 び,(13 (15に 例 を 示 す (13( 雑 居 ビルの 5 階 の 事 務 所 に 入 ってきた 話 者 が, 同 僚 に 向 かって なんか,1 階 に 警 察 が 来 てた(よ (14( 電 話 で A: 大 阪 の 暮 らしはどう? B: うん, 結 構 楽 しい(よ (15(A は B の 母 親 B は 外 出 しようとして いる A: お 弁 当 持 った? B: 持 った(よ じゃあ, 行 ってき ます 当 為 判 断 の 材 料 用 法 の よ は 典 型 的 には 聞 き 手 に 何 らかの 行 為 を 促 す 際 に 用 いら れるが, 促 される 行 為 は 話 し 手 と 対 話 を 行 う,または 継 続 すること でもありうる 対 話 をしたいという 積 極 的 な 姿 勢 を 示 すこと は,しばしば 親 愛 感 情 を 表 明 するための 手 段 となる 当 為 判 断 の 材 料 用 法 の よ が このようなかたちで 使 われていくなかで,そ の 表 現 効 果 が 慣 習 的 に 固 定 化 され,その 結 果 親 愛 感 情 の 表 明 用 法 が 成 立 したと 考 える ことができる 実 際,(13 (14では, よ の 使 用 者 は 聞 き 手 に 対 話 への 参 加 を 促 していると 解 釈 することも 可 能 である(ただし,(15で は 話 し 手 B は よ を 用 いた 直 後 に 会 話 を 切 り 上 げており,そのような 解 釈 はできな い しかしながら,(13 (14における よ の 使 用 が 義 務 的 ではなく,また, 当 為 判 断 の 材 料 用 法 の よ は 一 般 に 省 略 不 可 能 で あることを 考 えあわせると,やはり(13 (14の よ は 親 愛 感 情 の 表 明 用 法 の ものであると 考 えるほうが 妥 当 と 思 われる

日 本 語 におけるイントネーション 型 と 終 助 詞 機 能 の 相 関 について 55 4.2 平 調 と よ 平 調 の よ ( よ には, 少 なくとも 4 つの 用 法 を 認 めることができる 以 下,こ れらを 例 示 解 説 する 4.2.1 無 知 の 非 難 よ の 用 法 のうち, 先 行 研 究 でもっと もよく 取 りあげられてきたのは, 例 (16 (17のように, 話 し 手 と 聞 き 手 の 認 識 に ギャップ, 食 い 違 いがある 場 面 に 現 れるも のである( 小 山 1997, 伊 豆 原 2003,Davis 2011 など (16A: 映 画 が 始 まる 前 に, 何 か 食 べない? B: もうそんな 時 間 はないよ 10 分 で 始 まるんだから (17A: カナダの 首 都 ってどこだっけ? B: オタワだよ あと 早 く 終 わったよ (19( 話 者 は 一 週 間 前 に 野 球 場 で 財 布 を 紛 失 した 聞 き 手 はそれを 知 っている 財 布,やっぱりみつからなかったよ (20のようなケースでは, 表 明 されている 感 情 は, 価 値 判 断 を 含 まない, 中 立 的 な 驚 き と 解 釈 することができる (20( 窓 の 外 を 見 て おや, 雪 が 降 ってるよ 4.2.3 心 理 状 態 の 詠 嘆 的 表 明 よ には 話 し 手 が 自 らの 心 理 状 態 を 報 告 する 発 話 に 用 いられ, 詠 嘆 的 なニュアンス を 追 加 する 用 法 もある (21ありがとう 嬉 しいよ 筆 者 は,Oshima(2012,forthcomingにおいて, この 用 法 の よ の 機 能 は 聞 き 手 が 命 題 内 容 をあらかじめ 認 識 しているべきであっ た という 情 報 を 示 すことであるとする 分 析 を 提 案 している 10 この 無 知 の 非 難 用 法 には 聞 き 手 のするべきこと( 義 務 に 関 わるという 点 で, 上 述 の 当 為 判 断 の 材 料 とのつながりが 認 められる 4.2.2 命 題 内 容 に 対 する 感 情 の 表 明 よ には, 命 題 内 容 やその 程 度 に 対 し て 話 者 が, 感 銘 落 胆 驚 きなどの 強 い 感 情 を 抱 いていることを 示 す 働 きもある( 田 中 窪 園 1999:122 123 表 明 される 感 情 は,(18 のように 肯 定 的 なものの 場 合 もあれば,(19 のように 否 定 的 なものの 場 合 もある (22あの 時 は, 本 当 に 悲 しかったよ この 用 法 は, 上 述 の 命 題 内 容 に 対 する 感 情 の 表 明 用 法 と 連 続 性 を 持 つが, よ によって 強 調 される 感 情 の 対 象 は 命 題 内 容 で はないことに 注 意 する 必 要 がある 例 えば, (21では, よ は 話 者 が 嬉 しさを 感 じて いる という 命 題 内 容 に 対 しての 話 者 の 感 情 を 伝 えているわけではない 11 4.2.4 意 向 予 定 よ は 話 し 手 が 自 らの 意 向 予 定 を 表 明 する 発 話 にも 用 いられる (23 臨 時 収 入 があったから, 今 日 は 僕 がお ごるよ (18 山 田 さんが 手 伝 ってくれたおかげで, (24( 職 場 からの 帰 途, 同 僚 たちから 居 酒 屋

56 国 際 開 発 研 究 フォーラム 43(2013. 3 図 6 (なんにも 見 えないよ ( 左 (なんにも 見 えないよ (う ( 右 に 一 緒 に 来 るよう 誘 われて 今 日 は 疲 れているから,まっすぐ 帰 る よ (25( 将 棋 の 対 局 に 負 けて 悔 しいなあ 次 は 絶 対 に 勝 ちますよ この 用 法 の よ は, 行 為 拘 束 型 の 発 語 内 行 為 (commissive illocutionary act Searle 1979 の 用 語 の 標 識 として 機 能 していると 理 解 することができる (26( 望 遠 鏡 を 覗 いたが, 霧 がかかっていて 何 も 見 えない a. なんにも 見 えないよ b. なんにも 見 えないよ(う (27( 上 司 からの 電 子 メールを 見 て a. また 呼 び 出 しだ 気 が 重 いよ b. ま た 呼 び 出 しだ 気 が 重 いよ (う (28これは 僕 のおもちゃだよ(う 4.3 上 昇 下 降 調 と よ 上 昇 下 降 調 の よ ( よ の 機 能 は, 平 調 のものの 変 種 と 理 解 することができる 平 調 のかわりに 上 昇 下 降 調 を 用 いると, 発 話 に 子 供 っぽく 甘 えたニュアンスが 加 わり, 話 者 が 聞 き 手 に 同 情 を 求 める 気 持 ちが 表 明 され る (26bは 命 題 内 容 に 対 する 感 情 の 表 明 用 法 の 変 種,(27bは 心 理 状 態 の 詠 嘆 的 表 明 用 法 の 変 種 の 例 である また,(28は 無 知 の 非 難 用 法 の 変 種,(29は 予 定 意 向 用 法 の 変 種 の 例 である 図 6 に,(26a,b の 発 話 例 の 音 調 ( 一 部 を 示 す (29( 子 供 が, 親 が 持 っている 風 船 を 持 ちた がって 僕 が 持 つよ(う 話 者 が 同 情 を 求 めていないことが 文 脈 的 に 明 らかな 場 合, よ の 使 用 は 不 自 然 な ものとなる (30# 山 田 さんが 手 伝 ってくれたおかげで, 早 く 終 わったよ(う (31# ありがとう 嬉 しいよ(う

日 本 語 におけるイントネーション 型 と 終 助 詞 機 能 の 相 関 について 57 5. ね の 諸 機 能 本 節 では, 音 調 別 に, 平 叙 文 の 文 末 に 現 れ る ね の 諸 機 能 を 解 説 する ね は 疑 問 上 昇 調, 平 調, 上 昇 下 降 調 に 加 え, 強 調 上 昇 調 とも 結 びつく ただし, ね と 平 調 との 組 み 合 わせについては, 位 相 的 に 偏 りがある ことが 指 摘 されている( 犬 飼 2001 ね の 用 法 のうちの 多 くは, 聞 き 手 が 命 題 内 容 に 同 意 するという 見 込 みを 話 者 が 持 っ ている ことを 伝 達 するという 性 質 を 持 つ 5.1 強 調 上 昇 調 と ね 5.1.1 共 有 認 識 強 調 上 昇 調 を 伴 う ね ( ね は, 典 型 的 には, 聞 き 手 が 認 識 していると 想 定 され る 事 柄 をあらためて 述 べる 発 話 に 用 いられ る 本 稿 ではこの 用 法 を 共 有 認 識 用 法 と 呼 ぶ 12 (32( 寒 いなか, 一 緒 にバスを 待 っている 恋 人 に 対 して 寒 いね (33( 繁 華 街 を 一 緒 に 歩 いている 友 人 同 士 の 会 話 A: 今 日 は 人 出 が 多 いね B: そうだね (34A: 来 週 は 試 験 かあ B: 嫌 だね (35( 将 棋 の 対 局 相 手 に 対 して お 強 いですね (32 (33A,B (34Bのような 発 話 は, 情 報 の 提 供 ではなく, 話 題 の 提 起 や,あ るいは 話 者 と 聞 き 手 の 共 通 基 盤 (common ground Brown and Levinson 1987: 117 124 を 参 照 を 喚 起 承 認 することで 友 好 的 な 関 係 を 構 築 維 持 することを 目 的 とするもので ある 逆 に 言 うと, 共 有 認 識 用 法 の ね は, 発 話 の 目 的 が 典 型 的 な 意 味 での 情 報 伝 達 ではないことを 示 す 働 きを 持 つ 5.1.2 照 会 ね には, 発 話 の 命 題 内 容 が 談 話 の 現 場 で 考 えたり, 記 憶 を 探 ったり, 何 かを 調 べた りした 結 果 得 られた 情 報 であることを 示 す 用 法 もある(Takubo and Kinsui 1997: 755, 宮 崎 他 2002: 279, 日 本 語 記 述 文 法 研 究 会 2003: 257 など 13 (36A: 山 田 さんの 内 線 番 号 わかる? B: ええと,たしか 5524 だね (37A: 今, 何 時? B: ( 時 計 を 見 ながらええと,4 時 だ ね (38(B は 昨 年,ベトナムに 3 ヶ 月 間 滞 在 し ていた A: 向 こうの 食 事 はどうだった? B: 意 外 とおいしかったね (39(イタリア 対 スペインのサッカーの 試 合 が 始 まろうとしている A: どっちが 勝 つと 思 う? B: ううん, 多 分,イタリアが 勝 つね 5.1.3 拒 絶 ね には, 先 行 する 発 話 に 対 する 拒 絶 的 な 反 応 を 示 す 用 法 もある( 宮 崎 他 2002: 280, 日 本 語 記 述 文 法 研 究 会 2003:257

58 国 際 開 発 研 究 フォーラム 43(2013. 3 (40A: そこを 何 とか 頼 むよ B: 嫌 だね (41A: やっぱりそんなもの 無 いんじゃない かな B: いいや, 絶 対 にあるね (34Bの 嫌 だね が 同 調 的 態 度 を 示 すの に 対 し,(40Bのそれは 反 対 の 拒 絶 的 態 度 を 示 す 2 つの 嫌 だね は, 多 くの 場 合 声 の 調 子 などで 区 別 可 能 だが,イントネーショ ン 型 の 上 では 同 一 である 5.2 疑 問 上 昇 調 と ね 5.2.1 確 認 要 求 疑 問 上 昇 調 を 伴 う ね ( ね の 中 心 的 な 機 能 は, 確 認 の 要 求 である( 小 山 1997, 田 中 窪 園 1999, 他 多 数 (42これが 豆 だね (43 待 ち 合 わせの 時 間 は,6 時 だね この 確 認 要 求 用 法 は 多 くの 先 行 研 究 で 取 りあげられており, ね の 代 表 的 な 機 能 の 1 つと 言 える 5.2.2 承 認 要 求 ね には, 話 者 の 意 向 を 述 べた 文 に 添 えられ,その 意 向 に 対 する 聞 き 手 の 承 認 を 求 める 用 法 もある 14 (44これ,ちょっと 借 りるね (45じゃあ,5 時 になったらまた 迎 えに 来 る ね これは, 確 認 要 求 の ね りても 構 わないね るつもりだけど,それでいいね を 含 む 借 5 時 にまた 迎 えに 来 のよう な 発 話 が 縮 約 されることで 成 立 したものでは ないかと 推 測 される 承 認 要 求 の ね は,(46のよう に, 聞 き 手 が 話 者 の 意 向 に 対 して 反 対 するこ とが 考 えにくい 場 合 にも 用 いられることがあ る この 例 では, 話 者 は, おみやげを 買 う こと が 聞 き 手 のネガティブ フェイス( 他 者 から 自 分 のテリトリーを 守 り, 行 動 の 自 由 を 保 ちたいという 欲 求 を 侵 害 する 可 能 性 に 配 慮 し, 緩 和 的 行 為 (redressive actionと して 形 式 的 に 聞 き 手 の 承 認 を 求 めていると 考 えられる 15 (46( 海 外 旅 行 に 行 く 人 が, 空 港 まで 送 って くれた 友 人 に 向 けて ありがとう,おみやげ 買 ってくるね 聞 き 手 の 依 頼 や 命 令 に 応 えてそれを 遂 行 す る 意 向 があることを 述 べる 発 話 では, 意 向 予 定 用 法 の よ が, 承 認 要 求 用 法 の ね (4.2.4 節 は 現 れ 得 る の 使 用 は 不 自 然 である これは, 表 明 された 意 向 が, 聞 き 手 の 意 思 にかなったものであることがすで に 明 らかであり,あらためて 承 認 を 求 めるこ とが 不 適 切 であるためである (47A: 明 日 は 万 が 一 にも 遅 刻 しないよう, 気 をつけてください B: ええ, 気 をつけます B :ええ, 気 をつけますよ B :# ええ, 気 をつけますね

日 本 語 におけるイントネーション 型 と 終 助 詞 機 能 の 相 関 について 59 図 7 ( 桃 の 木 があるね ( 左 ( 桃 の 木 があるね ( 中 央 ( 桃 の 木 があるね (え ( 右 5.3 平 調 上 昇 下 降 調 と ね 平 調 上 昇 下 降 調 を 伴 う ね ( ね ね は, 強 調 上 昇 調 を 伴 う ね ( ね の 確 認 要 求 用 法 および 照 会 用 法 と 似 通 っ た 機 能 を 持 つ 平 調 上 昇 下 降 調 を 用 いた 場 合, 強 調 上 昇 調 を 用 いた 場 合 と 異 なり, 話 者 が 命 題 内 容 に 対 して 強 い 感 情 を 抱 いているこ とが 表 明 される ね と ね の 談 話 機 能 はほぼ 同 一 である 16 よ の 場 合 と 異 なり, 上 昇 下 降 調 を 用 いても 子 供 っぽく 甘 えたニュアンス は 生 じず, 成 人 が 改 まった 間 柄 の 相 手 に 用 い ても 不 自 然 にはならない また, 同 情 を 求 め る 気 持 ちが 表 現 されることもない 5.3.1 共 有 認 識 + 感 情 表 明 ね および ね には, 共 有 認 識 の ね と 似 た, 聞 き 手 が 命 題 内 容 に 同 意 することが 想 定 される 場 面 で 用 いられる 用 法 がある (48( 繁 華 街 で, 一 緒 に 歩 いている 友 人 に 対 して a. 今 日 は 人 出 が 多 いね b. 今 日 は 人 出 が 多 いね(え の 中 にいた 人 に 対 して a. おっ, 中 は 暖 かいね b. おっ, 中 は 暖 かいね(え 上 述 のように, 共 有 認 識 の ね と 異 なるのは,あわせて 話 者 が 発 話 で 描 写 され る 事 態 やその 程 度 に 対 して 驚 きなどの 強 い 感 情 を 抱 いていることが 表 明 されるという 点 で ある たとえば,(50aは 目 についたこと, 意 識 にのぼったことを 何 の 気 なしに 口 にした 発 話 と 捉 えることが 可 能 なのに 対 し,(50b,c では, 話 者 の 桃 の 木 があること に 対 する 強 い 感 情 が 伝 達 されている 図 7 に,(50a c の 発 話 例 の 音 調 ( 一 部 を 示 す (50( 公 園 を 一 緒 に 歩 いている 友 人 に 対 し て a. 桃 の 木 があるね b. 桃 の 木 があるね c. 桃 の 木 があるね(え 命 題 内 容 が, 強 い 感 情 を 抱 くのにそぐわな いものである 場 合, ね 用 は 不 自 然 なものとなる ね の 使 (49( 部 屋 に 入 ってきた 人 が,もともと 部 屋 (51( 夫 婦 で 映 画 を 見 に 行 き, 帰 りの 電 車

60 国 際 開 発 研 究 フォーラム 43(2013. 3 に 乗 っている 電 車 は 特 にトラブルも なく, 夫 妻 の 家 の 最 寄 り 駅 に 到 着 する 夫 が 言 う a. 着 いたね b. # 着 いたね c. # 着 いたね(え 5.3.2 照 会 + 感 情 表 明 ね および ね には, 照 会 の ね と 似 た 用 法 もある 照 会 の ね との 違 いは,あわせて, 話 者 が 命 題 内 容 に 対 して 強 い 感 情 を 抱 いていることが 表 現 される ことである 例 えば,(52B,B では, ね ね を 用 いることで, 命 題 内 容 に 対 して 話 者 が 感 銘 などの 強 い 感 情 を 抱 いてい ることが 表 現 されている (52(B は 昨 年,ベトナムに 3 ヶ 月 間 滞 在 し ていた A: 向 こうの 食 事 はどうだった? B: 意 外 とおいしかったね B : 意 外 とおいしかったね B : 意 外 とおいしかったね(え (53b,cでは, ね ね を 用 いる ことで, 話 者 が 落 胆 や 同 情 の 念 を 感 じている ことを 伝 達 しようとしていると 解 釈 すること が 自 然 である (53aは,このような 伝 達 効 果 を 欠 くため,この 場 面 ではやや 冷 淡 な 言 い 方 であると 感 じられる (53( 聞 き 手 は 6 時 までに 東 京 駅 に 行 きたい が, 今 からでは 間 に 合 わないかもしれ ないと 思 っている 話 者 は, 時 刻 表 を 見 ながら 話 している a. やっぱり, 今 からじゃ 間 に 合 わない ね b. やっぱり, 今 からじゃ 間 に 合 わない ね c. やっぱり, 今 からじゃ 間 に 合 わない ね(え 同 様 に,(54B,B と 比 べ,(54Bでは, 話 者 が 残 念 だ, 申 し 訳 ないという 気 持 ちを 抱 き, 表 明 することが 期 待 される 場 面 であるに も 関 わらず 中 立 的 な ね が 用 いられてい るため,やや 横 柄 で 配 慮 に 欠 ける 言 い 方 と 受 け 取 られる 可 能 性 が 高 い (54A: できれば, 来 週 中 に 納 品 してほしい んだけど B: 来 週 中 っていうのは,ちょっと 難 し いですね B : 来 週 中 っていうのは,ちょっと 難 し いですね B : 来 週 中 っていうのは,ちょっと 難 し いですね(え (51の 場 合 と 同 様,(55では, 命 題 内 容 が 強 い 感 情 を 抱 くのにそぐわないものであるた め, ね のとなる ね の 使 用 は 不 自 然 なも (55A: 山 田 さんの 内 線 番 号 わかる? B: ええと,たしか 5524 だね B :# ええと,たしか 5524 だね B : # ええと,たしか 5524 だね 6. 結 語 (え 以 上, 本 稿 では, 日 本 語 ( 標 準 語 の 終 助

日 本 語 におけるイントネーション 型 と 終 助 詞 機 能 の 相 関 について 61 表 3 よ ね の 諸 用 法 の 整 理 音 調 よ ね 強 調 上 昇 調 ( 疑 問 上 昇 調 ( 平 調 ( 上 昇 下 降 調 ( 当 為 判 断 の 材 料 親 愛 感 情 の 表 明 無 知 の 非 難 命 題 内 容 に 対 する 感 情 の 表 明 心 理 状 態 の 詠 嘆 的 表 明 予 定 意 向 平 調 のものに 情 意 的 なニュアン ス( 同 情 の 訴 求 が 追 加 される 共 有 認 識 照 会 拒 絶 確 認 要 求 承 認 要 求 共 有 認 識 + 感 情 表 明 照 会 + 感 情 表 明 詞 の 機 能 を 分 析 記 述 するにあたって 強 調 上 昇 調 疑 問 上 昇 調 平 調 上 昇 下 降 調 という 4 種 の 音 調 の 区 別 を 考 慮 する 必 要 があ ることを 示 したうえで, 代 表 的 な 終 助 詞 よ ね の 機 能 を 音 調 別 に 検 討 解 説 した と りあげた 諸 用 法 を, 表 3 にまとめて 示 す 個 々の 用 法 の 記 述 分 析 に 関 しては, 今 後 さらなる 精 緻 化 が 求 められる また, 本 稿 で は, よ ね が 平 叙 文 以 外 に 現 れる 場 合, 他 の 終 助 詞 や 助 動 詞 と 組 み 合 わせて 用 いられ る 場 合,などについては 考 慮 しなかった 今 後 の 課 題 としたい 注 1 本 稿 における 文 末 イントネーション は, 厳 密 には 文 という 統 語 的 単 位 ではなく,イント ネーション 句 ( 韻 律 句,major phraseと 呼 ば れる 音 韻 的 な 単 位 と 結 びつき,その 末 尾 に 現 れ るものである(Vance 2008: 196 2 発 話 末 にあらわれる の については, 助 動 詞 のだ の だ が 脱 落 したものとみなす 立 場 もある( 野 田 1997 などが, 本 稿 では 終 助 詞 とみなす これは, の と のだ には 文 体 話 体 面 だけでなく, 機 能 面 でもかなりの 違 いが 見 られるという 点 を 考 慮 したものである 例 え ば, 推 論 による 帰 結 を 表 す のだ を の で 言 い 換 えることはできない (i a. 地 面 が 濡 れている (おそらく 雨 が 降 っ たのだ b. # 地 面 が 濡 れているわ (きっと 雨 が 降 っ たの 3 ただし, 確 認 要 求 用 法 の ね (5.2 節 を 伴 う 文 などは, 疑 問 文 の 一 種 と 理 解 すること も 可 能 である 本 稿 で 疑 問 文 として 考 慮 の 対 象 から 外 すのは, だれ 何 などの 疑 問 詞 や か のような 疑 問 の 標 識 を 含 む 文 である 4 終 助 詞 の 種 類 や 文 末 イントネーションの 型 によっては 下 降 あり 下 降 なし のうち 一 方 の 発 音 だけが 可 能 となる 例 えば, 疑 問 上 昇 調 を 伴 う の の 場 合 ( 行 くの?, 下 降 あ りの 発 音 のみが 可 能 である 5 来 る 人 のアクセント 型 が 通 常 は(HLLH ではなくHLLL となることから, 動 詞 終 止 形 ( 辞 書 形 + 名 詞 からなる 統 語 的 句 は 通 常 単 一 のアクセント 句 として 実 現 されると 考 えら れる したがって, 行 く 人 の く にアク セントがあるならば,それは 下 降 として 実 現 さ れるはずである 6 ただし, 女 性 語 的 な わ ( あっ, 私 の 番 だ わ と, 男 性 的 な 発 話 にも 用 いられる わ ( じゃあ, 俺 はもう 帰 るわ を 別 のものと みなせば( 宮 崎 他 2002:271 273, 日 本 語 記 述 文 法 研 究 会 2003:252 253, 前 者 は 平 調 と は 結 びつかないということになる 7 の は, 役 割 語 ( 金 水 2003としての 老 人

62 国 際 開 発 研 究 フォーラム 43(2013. 3 語 (フィクションのなかに 現 れる,ステレオタ イプ 的 な 老 人 の 話 し 方 などでは, 上 昇 下 降 調 と 結 びつきうる( 外 は, 寒 いの(う 8 同 様 の 方 向 性 を 持 つ 分 析 として, 井 上 (1997 および 伊 豆 原 (2003のものが 挙 げられる 9 宮 崎 他 (2002:266 267に 類 似 の 指 摘 が ある 10 日 本 語 記 述 文 法 研 究 会 (2003:204でも よ がこのような 用 法 を 持 つことが 指 摘 されてい る ただし, 同 書 ではこの 用 法 の よ は 典 型 的 に 上 昇 調 を 伴 うとしている 11 例 えば(iのように, 話 し 手 の 感 情 を 報 告 する 発 話 に 命 題 内 容 に 対 する 感 情 の 表 明 用 法 の よ を 付 加 し, 自 分 がその 感 情 を 抱 い ていることに 対 する 感 情 ( 驚 きなどを 表 明 す ることも 可 能 である (i( 仲 が 悪 かったはずの 知 人 が 戻 ってくると 聞 いて, 思 いがけず 嬉 しい 気 持 ちになる あれっ, 俺, 喜 んでるよ 12 大 曽 (2005:4では,これを 一 致 の ね と 呼 んでいる 13 金 水 (1993:16, 宮 崎 他 (2002:279 などでは,この 用 法 を 自 己 確 認 と 呼 んでい る 宮 崎 他 (2002:280が 回 想 用 法 と 呼 ぶものも, 本 稿 では 照 会 用 法 の 一 種 とみ なす 14 宮 崎 他 (2002:279では,この 用 法 を 行 動 宣 言 と 呼 んでいる 15Brown and Levinson(1987:65 67 は, 申 し 出 や 約 束 を,( 命 令 などと 同 様 に 聞 き 手 の ネガティブ フェイスを 侵 害 する 恐 れのある 行 為 とみなしている 16ただし, 両 者 のあいだに 性 別, 方 言 などに 関 わる 位 相 差 があることは 考 えられる( 犬 飼 2001 参 考 文 献 Brown, Penelope and Stephen C. Levinson. 1987. Politeness: Some Universals in Language Usage. Reissue edition. Cambridge: Cambridge University Press. Davis, Chris. 2011. Constraining Interpretation: Sentence Final Particles in Japanese. Ph. D. thesis, University of Massachusetts. Gussenhoven, Carlos. 2004. The Phonology of Tone and Intonation. Cambridge: Cambridge University Press. 橋 本 修.1992. 終 助 詞 ね の, 意 味 の 型 と イントネーションの 型 長 く 急 激 な 下 降 イン トネーションの 解 釈 を 中 心 に 日 本 語 学 11(11: 89 97. 蓮 沼 昭 子.1996. 終 助 詞 よ の 談 話 機 能 上 田 功 高 見 健 一 蓮 沼 昭 子 砂 川 有 里 子 野 田 尚 史 ( 編 言 語 研 究 の 領 域 小 泉 保 博 士 古 稀 記 念 論 文 集 大 学 書 林,pp. 383 395. 井 上 優.1997. もしもし, 切 符 を 落 とされまし たよ 終 助 詞 よ を 使 うことの 意 味 月 刊 言 語 26(2:62 71. 犬 飼 隆.2001. 低 く 短 く 付 く 終 助 詞 ね 音 声 文 法 研 究 会 ( 編 文 法 と 音 声 3 くろしお 出 版, pp. 17 29. 伊 豆 原 英 子.2003. 終 助 詞 よ よね ね 再 考 愛 知 学 院 大 学 教 養 部 紀 要 51(2, 愛 知 学 院 大 学,pp. 1 15. 川 上 蓁.1963. 文 末 などの 上 昇 調 について 国 語 研 究 16, 國 學 院 大 學 国 語 研 究 会,pp. 25 46. 金 水 敏.1993. 終 助 詞 ヨ ネの 意 味 論 的 分 析 学 習 と 対 話 93(1, 認 知 科 学 会,pp. 13 19. 金 水 敏.2003. ヴァーチャル 日 本 語 役 割 語 の 謎 岩 波 書 店. 郡 史 郎.1997. 日 本 語 のイントネーション 型 と 機 能 国 広 哲 弥 廣 瀬 肇 河 野 守 夫 ( 編 ア クセント イントネーション リズムとポーズ 三 省 堂,pp. 169 202. 小 山 哲 春.1997. 文 末 詞 と 文 末 イントネーショ ン 音 声 文 法 研 究 会 ( 編 文 法 と 音 声 くろ しお 出 版,pp. 97 119. 宮 崎 和 人 安 達 太 郎 野 田 春 美 高 梨 信 乃 (2002 モダリティ 東 京 :くろしお 出 版. 森 山 卓 郎.2001. 終 助 詞 ね のイントネーショ ン 音 声 文 法 研 究 会 ( 編 文 法 と 音 声 3 く ろしお 出 版,pp. 31 54. 日 本 語 記 述 文 法 研 究 会 ( 編.2003. 現 代 日 本 語 文 法 4: 第 8 部 モダリティ くろしお 出 版. 野 田 春 美.1997. の(だの 機 能 くろしお 出 版. 大 曽 美 恵 子.2005. 終 助 詞 よ ね よね 再 考 雑 談 コーパスに 基 づく 考 察 鎌 田 修 筒 井 通 雄 畑 佐 由 紀 子 ナズキアン 富 美 子 岡 まゆみ( 編 言 語 教 育 の 新 展 開 : 牧 野 成 一 教 授 古 稀 記 念 論 集 ひつじ 書 房,pp. 3 15. Oshima, David Y. 2012. The Japanese particle yo in declaratives: Relevance, priority, and blaming. In

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