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68 表 示 とも 言 えるであろう したがって 被 災 地 支 援 の 寄 付 には 積 極 的 ではあっても 税 負 担 には 消 極 的 なのは 前 者 が 自 分 の 意 思 に 基 づくのに 対 して 後 者 は 全 国 民 という 他 者 の 意 思 に 基 づくためと 思 われる このように 租 税 債 務 には 自 分 の 意 思 でなくもっぱら 他 者 の 意 思 ( 法 律 )によって 生 じるという 特 質 があるが 申 告 納 税 制 度 においては 租 税 債 務 は 納 税 申 告 によって 確 定 するとされることから 申 告 行 為 を 行 う 納 税 者 の 意 思 が 租 税 債 務 の 内 容 にどのように 影 響 するかが 問 題 となる 特 に 法 律 で 税 額 の 算 定 方 法 等 について 複 数 の 制 度 ( 選 択 肢 )を 定 め そのいずれによるかは 納 税 者 の 自 由 な 意 思 に 委 ねる 場 合 には 納 税 者 の 意 思 と 法 律 の 規 定 ( 全 納 税 者 の 意 思 )が 複 雑 にからみあうことになる 最 高 裁 平 成 21 年 7 月 10 日 判 決 は このような 問 題 を 扱 っているが 本 稿 は 納 税 申 告 の 法 的 性 格 をめぐる 議 論 を 整 理 した 上 で この 判 決 を 下 に 納 税 申 告 における 納 税 者 の 意 思 と 法 律 の 規 定 との 関 係 について 考 察 する 2 租 税 債 権 債 務 の 成 立 と 確 定 私 法 上 の 債 権 債 務 は 私 人 と 私 人 の 合 意 により 成 立 する これに 対 して 租 税 義 務 は 法 律 に 定 める 課 税 要 件 の 充 足 によって 何 らの 手 続 きを 必 要 としないで 成 立 する ここで 納 税 義 務 の 成 立 とは 国 が 国 民 に 対 して 租 税 という 金 銭 的 給 付 を 請 求 できる 権 利 の 発 生 であり 国 民 の 側 からみれば 租 税 を 納 付 し なければならないという 義 務 の 発 生 である( 注 1 2) ( 注 1) 地 方 税 についても 同 様 であるが 本 稿 はもっぱら 国 税 について 論 じる ( 注 2) 国 税 通 則 法 第 15 条 2 項 納 税 義 務 は 次 の 各 号 に 掲 げる 国 税 ( 第 一 号 から 第 十 二 号 までにお いて 附 帯 税 を 除 く )については 当 該 各 号 に 定 める 時 ( 当 該 国 税 の

納 税 申 告 における 制 度 選 択 の 意 思 表 示 と 租 税 法 律 主 義 69 うち 政 令 で 定 めるものについては 政 令 で 定 める 時 )に 成 立 する 一 所 得 税 ( 次 号 に 掲 げるものを 除 く ) 暦 年 の 終 了 の 時 二 源 泉 徴 収 による 所 得 税 利 子 配 当 給 与 報 酬 料 金 その 他 源 泉 徴 収 をすべきものとされている 所 得 の 支 払 の 時 三 法 人 税 事 業 年 度 ( 連 結 所 得 に 対 する 法 人 税 については 連 結 事 業 年 度 )の 終 了 の 時 ( 以 下 略 ) そして 納 付 すべき 税 額 は 原 則 として 納 税 者 の 行 う 申 告 により 確 定 し その 申 告 がない 場 合 又 はその 申 告 に 係 る 税 額 の 計 算 が 国 税 に 関 す る 法 律 の 規 定 に 従 っていなかった 場 合 その 他 税 額 が 税 務 署 長 または 税 関 長 の 調 査 したところと 異 なる 場 合 に 限 り 税 務 署 長 等 の 処 分 により 確 定 し( 申 告 納 税 方 式 ( 注 1)) その 確 定 したところに 基 づいて 納 付 又 は 徴 収 手 続 が 開 始 される すなわち 租 税 債 権 債 務 は 法 律 により 定 められた 一 定 の 要 件 に 該 当 する 事 実 ( 課 税 要 件 事 実 )が 発 生 すれば 自 動 確 定 の 国 税 ( 納 税 者 の 意 思 表 示 がなくても 当 然 に 成 立 するもの( 注 2))を 除 き その 内 容 が 具 体 的 に 定 まっておらず そのままでは 税 額 の 納 付 又 は 徴 収 の 段 階 に 進 む ことができないことから 納 税 者 又 は 税 務 官 庁 の 一 定 の 行 為 を 通 じて その 金 額 を 確 定 するのである ( 注 1) 国 税 通 則 法 第 16 条 1 項 国 税 についての 納 付 すべき 税 額 の 確 定 の 手 続 については 次 の 各 号 に 掲 げるいずれかの 方 式 によるものとし これらの 方 式 の 内 容 は 当 該 各 号 に 掲 げるところによる 一 申 告 納 税 方 式 納 付 すべき 税 額 が 納 税 者 のする 申 告 により 確 定 す ることを 原 則 とし その 申 告 がない 場 合 又 はその 申 告 に 係 る 税 額 の 計 算 が 国 税 に 関 する 法 律 の 規 定 に 従 っていなかつた 場 合 その 他 当 該 税 額 が 税 務 署 長 又 は 税 関 長 の 調 査 したところと 異 なる 場 合 に 限 り 税 務 署 長 又 は 税 関 長 の 処 分 により 確 定 する 方 式 をいう ( 注 2) 国 税 通 則 法 第 15 条 3 項

70 納 税 義 務 の 成 立 と 同 時 に 特 別 の 手 続 を 要 しないで 納 付 すべき 税 額 が 確 定 する 国 税 は 次 に 掲 げる 国 税 とする 一 所 得 税 法 第 二 編 第 5 章 第 1 節 ( 予 定 納 税 )の 規 定 により 納 付 すべ き 所 得 税 二 源 泉 徴 収 による 国 税 ( 以 下 略 ) このような 申 告 納 税 方 式 による 租 税 債 務 の 確 定 と 私 法 上 の 債 権 債 務 の 確 定 とを 比 べると 後 者 が 債 権 債 務 の 成 立 = 債 権 債 務 の 確 定 とさ れるのに 対 し 前 者 は その 成 立 と 確 定 が 区 別 され 課 税 要 件 事 実 の 発 生 により 債 権 債 務 が 成 立 し 納 税 申 告 によってその 具 体 的 内 容 が 確 定 す る このため 課 税 要 件 事 実 の 発 生 は 客 観 的 な 事 実 であるとしても 納 税 申 告 は 納 税 者 の 主 観 的 な 行 為 であるので 納 税 者 の 意 思 が 申 告 行 為 に 反 映 され それが 租 税 債 務 の 内 容 にどのように 影 響 するかが 問 題 とな る 3 申 告 行 為 ⑴ 事 実 の 通 知 申 告 行 為 の 法 的 性 格 について 札 幌 高 裁 平 成 3 年 8 月 29 日 判 決 は 次 のように 述 べ 上 告 審 の 最 高 裁 平 成 4 年 10 月 8 日 判 決 はこれを 維 持 し ている( 注 ) 申 告 納 税 制 度 の 法 的 性 格 は 納 税 者 の 自 主 的 な 申 告 によりその 租 税 債 務 が 第 一 次 的 に 確 定 するという 点 にあるのであって 納 税 者 の 申 告 行 為 は 課 税 標 準 と 税 額 が 各 税 法 の 規 定 によって 既 に 定 まっている 限 り 当 該 納 税 者 がこれらの 課 税 要 件 事 実 を 確 認 し 定 められた 方 法 で 数 額 を 確 定 し それを 政 府 に 通 知 するという 性 質 を 有 する ( 注 ) 最 高 裁 平 成 4 年 10 月 8 日 判 決 札 幌 高 裁 平 成 3 年 8 月 29 日 判 決

納 税 申 告 における 制 度 選 択 の 意 思 表 示 と 租 税 法 律 主 義 71 申 告 納 税 制 度 の 意 義 と 税 務 署 長 による 申 告 内 容 の 是 正 との 関 係 につ いて 判 示 したもの すなわち 申 告 行 為 は 納 税 者 が 課 税 要 件 に 該 当 する 事 実 の 発 生 を 確 認 し 法 律 で 定 められた 方 法 により 税 額 を 確 定 した 上 で その 事 実 を 政 府 に 通 知 するという 性 質 を 有 するとされる 思 うに 租 税 法 律 主 義 の 下 では 法 律 で 定 める 課 税 要 件 を 該 当 する 事 実 が 発 生 する 場 合 には 当 然 にその 法 律 効 果 である 租 税 債 務 が 生 じるの であり 法 律 で 定 める 課 税 要 件 に 該 当 する 事 実 が 発 生 しない 限 り 租 税 債 務 は 生 じない そうすると 租 税 債 務 が 生 じるか 生 じないかは 課 税 要 件 に 該 当 する 事 実 が 発 生 するかどうかのみで 生 じ その 税 額 は 法 律 の 定 めによって 算 定 されるのだから 納 税 者 の 意 思 は 租 税 債 務 の 成 立 に 何 ら 影 響 しない はずである このゆえに 納 税 申 告 は 課 税 要 件 事 実 を 確 認 し 法 律 の 規 定 に 基 づ き 確 定 した 税 額 を 政 府 に 通 知 するという 性 質 を 有 するにすぎない すな わち 申 告 行 為 = 事 実 の 通 知 とされることになる これは 通 知 行 為 説 といわれる( 注 ) ( 注 ) 税 務 事 例 (Vol.41 No.4)2009 4 申 告 納 税 制 度 の 意 義 と 展 望 ( 上 ) 酒 井 克 彦 参 照 ⑵ 意 思 表 示 これに 対 して 納 税 申 告 は 納 税 者 の 自 主 的 な 行 為 であるから この ことを 重 くみて 申 告 行 為 = 納 税 者 の 意 思 表 示 とする 考 え 方 があり 裁 判 例 にも 散 見 される( 注 ) ( 注 ) 神 戸 地 裁 昭 和 37 年 10 月 19 日 判 決 納 税 申 告 行 為 は 同 じく 確 認 的 判 断 作 用 的 行 為 であるといつても それは 私 人 によって 自 発 的 に 行 われる 行 為 であり かかる 意 味 におい て 私 人 の 自 由 な 意 思 の 発 現 ( 準 意 思 表 示 )としての 性 質 をも 具 備 し

72 このように 考 える 場 合 には 意 思 表 示 に 関 する 私 法 上 の 原 則 である 信 義 則 ( 禁 反 言 )の 適 用 や 錯 誤 無 効 が 問 題 となる イ 信 義 則 ( 禁 反 言 ) 信 義 則 の 適 用 については 最 高 裁 昭 和 62 年 10 月 30 日 判 決 ( 注 )は 次 のように 述 べている 租 税 法 規 に 適 合 する 課 税 処 分 について 法 の 一 般 原 理 である 信 義 則 の 法 理 の 適 用 により 右 課 税 処 分 を 違 法 なものとして 取 り 消 すことがで きる 場 合 があるとしても 法 律 による 行 政 の 原 理 なかんずく 租 税 法 律 主 義 の 原 則 が 貫 かれるべき 租 税 法 律 関 係 においては 右 法 理 の 適 用 につい ては 慎 重 でなければならず 租 税 法 規 の 適 用 における 納 税 者 間 の 平 等 公 平 という 要 請 を 犠 牲 にしてもなお 当 該 課 税 処 分 に 係 る 課 税 を 免 れしめ て 納 税 者 の 信 頼 を 保 護 しなければ 正 義 に 反 するといえるような 特 別 の 事 情 が 存 する 場 合 に 初 めて 右 法 理 の 適 用 の 是 非 を 考 えるべきものである そして 右 特 別 の 事 情 が 存 するかどうかの 判 断 に 当 たっては 少 なくと も 税 務 官 庁 が 納 税 者 に 対 し 信 頼 の 対 象 となる 公 的 見 解 を 表 示 したこと により 納 税 者 がその 表 示 を 信 頼 しその 信 頼 に 基 づいて 行 動 したところ のちに 右 表 示 に 反 する 課 税 処 分 が 行 われ そのために 納 税 者 が 経 済 的 不 利 益 を 受 けることになったものであるかどうか また 納 税 者 が 税 務 官 庁 の 右 表 示 を 信 頼 しその 信 頼 に 基 づいて 行 動 したことについて 納 税 者 の 責 めに 帰 すべき 事 由 がないかどうかという 点 の 考 慮 は 不 可 欠 のもので ある ( 注 ) 最 高 裁 昭 和 62 年 10 月 30 日 判 決 青 色 申 告 の 承 認 申 請 書 を 提 出 せず 税 務 署 長 の 承 認 を 受 けていない ときにおいて 納 税 者 が 青 色 申 告 書 を 提 出 したことにより 青 色 申 告 と しての 効 力 を 認 めうるかどうかについて 判 示 したもの すなわち 最 高 裁 は 信 義 則 の 適 用 があり 得 るとした 上 で その 適 用 要 件 として 1 公 的 見 解 の 表 示 があること 2 納 税 者 がその 表 示 の 信 頼

納 税 申 告 における 制 度 選 択 の 意 思 表 示 と 租 税 法 律 主 義 73 に 基 づき 行 動 をしたこと 3 納 税 者 の 責 めに 帰 すべき 事 由 がないことを 挙 げている しかしながら 思 うに 私 法 は 私 的 自 治 を 前 提 とし 一 方 の 私 人 をそ の 者 の 表 示 した 意 思 に 拘 束 する( 縛 り 付 ける)のは 他 方 の 私 人 の 意 思 ( 一 方 の 私 人 の 意 思 表 示 に 対 する 信 頼 )を 保 護 するためである これと 異 なり 租 税 債 権 債 務 は 私 人 対 国 の 関 係 で 成 立 し 両 当 事 者 は 法 令 ( 全 納 税 者 の 意 思 )に 完 全 に 拘 束 され 国 に 私 的 自 治 は 認 められないのであ るから 私 法 の 規 範 を 持 ち 込 むのは 適 当 ではない したがって 最 高 裁 が 示 した 信 義 則 の 適 用 要 件 である 信 頼 に 基 づく 行 動 とは 申 告 行 為 以 外 の 行 為 をいうものと 考 えるべきであろう( 注 ) ( 注 ) 同 旨 : 酒 井 克 彦 税 務 事 例 (Vol.41 No.4)2009 4 申 告 納 税 制 度 の 意 義 と 展 望 ( 上 ) P 62~63 ロ 錯 誤 無 効 錯 誤 無 効 については 最 高 裁 昭 和 39 年 10 月 22 日 判 決 ( 注 )は 次 のように 述 べている 所 得 税 法 が 右 のごとく 申 告 納 税 制 度 を 採 用 し 確 定 申 告 書 記 載 事 項 の 過 誤 の 是 正 につき 特 別 の 規 定 を 設 けた 所 以 は 所 得 税 の 課 税 標 準 等 の 決 定 については 最 もその 間 の 事 情 に 通 じている 納 税 義 務 者 自 身 の 申 告 に 基 づくものとし その 過 誤 の 是 正 は 法 律 が 特 に 認 めた 場 合 に 限 る 建 前 とすることが 租 税 債 務 を 可 及 的 速 かに 確 定 せしむべき 国 家 財 政 上 の 要 請 に 応 ずるものであり 納 税 義 務 者 に 対 しても 過 当 な 不 利 益 を 強 いる 虞 れがないと 認 めたからにほかならない 従 って 確 定 申 告 書 の 記 載 内 容 の 過 誤 の 是 正 については その 錯 誤 が 客 観 的 に 明 白 且 つ 重 大 であって 前 記 所 得 税 法 の 定 めた 方 法 以 外 にその 是 正 を 許 さないならば 納 税 義 務 者 の 利 益 を 著 しく 害 すると 認 められる 特 段 の 事 情 がある 場 合 でなければ 所 論 のように 法 定 の 方 法 によらない で 記 載 内 容 の 錯 誤 を 主 張 することは 許 されないものといわなければな らない

74 ( 注 ) 最 高 裁 昭 和 39 年 10 月 22 日 判 決 納 税 者 が 所 得 税 の 確 定 申 告 を 行 い 分 納 金 を 納 付 したが 滞 納 処 分 がなされたことにつき 確 定 申 告 は 法 律 行 為 の 要 素 に 錯 誤 があり 無 効 であるとして 滞 納 処 分 の 無 効 確 認 等 を 求 めたもの すなわち 納 税 申 告 においては 錯 誤 が 客 観 的 に 明 白 かつ 重 大 であり 法 律 で 定 めた 方 法 以 外 にその 是 正 を 許 さないならば 納 税 義 務 者 の 利 益 を 著 しく 害 すると 認 められる 特 段 の 事 情 がある 場 合 にのみ 錯 誤 の 主 張 が 許 されるとされる 思 うに 私 法 上 法 律 行 為 ( 意 思 表 示 )の 重 要 な 部 分 について 錯 誤 ( 要 素 の 錯 誤 )がある 場 合 には その 法 律 行 為 は 無 効 とされるが( 民 法 第 95 条 ) これは 表 示 に 対 応 する 意 思 がそもそも 存 在 しない( 意 思 の 欠 缺 ) ためである しかしながら 私 法 上 の 債 権 債 務 が 当 事 者 の 意 思 に 基 づき 成 立 するのとは 異 なり 租 税 債 務 は 全 納 税 者 の 意 思 ( 法 律 の 規 定 ) に 基 づき 成 立 するのであるから 錯 誤 によって 納 税 者 の 意 思 が 存 在 しな くても 全 納 税 者 の 意 思 は 存 在 するのだから 租 税 債 務 には 影 響 が ないと 考 えられる したがって この 判 決 で 言 う 客 観 的 に 明 白 かつ 重 大 な 錯 誤 があって 特 段 の 事 情 がある 場 合 とは 意 思 が 存 在 しない 場 合 ( 意 思 の 欠 缺 ) をいうのではなく そもそも 申 告 行 為 が 存 在 するとはいえないような 場 合 を 言 うものと 考 えられる 以 上 のとおり 申 告 行 為 に 対 する 信 義 則 の 適 用 や 錯 誤 無 効 については 最 高 裁 は きわめて 限 られた 場 合 に 認 められるとはするものの 租 税 債 務 については 租 税 法 律 主 義 の 原 則 が 貫 かれるべきとしているのである から 申 告 行 為 を 私 法 と 同 様 の 意 思 表 示 とはとらえていないと 考 え られる( 注 ) ( 注 ) 同 旨 : 新 井 隆 一 税 法 学 者 の 憲 法 論 ZEIKEN 2008.9 (No.141) 63 P

納 税 申 告 における 制 度 選 択 の 意 思 表 示 と 租 税 法 律 主 義 75 租 税 法 律 主 義 の 原 理 が 支 配 しているとされる 現 在 の 租 税 制 度 のもと にあっては 納 税 義 務 の 確 定 が 私 人 ( 納 税 義 務 者 )であれ 税 務 行 政 庁 であれ なにびとによってなされるものであろうとも その 確 定 の 行 為 の 内 容 に その 行 為 の 主 体 の 効 果 意 思 の 要 素 はもとより 何 人 の 意 思 も 包 含 せられてはならないとされているものといわなければな らない ⑶ 意 思 の 通 知 しかしながら 納 税 者 が 申 告 行 為 を 行 う 限 り その 何 らかの 意 思 が 申 告 行 為 に 現 れることは 否 定 できないであろう このため 申 告 行 為 とは 事 実 (についての 観 念 )の 通 知 であるとと もに 納 税 者 の 意 思 の 通 知 でもあるという 考 え 方 がある( 注 ) ( 注 ) 園 部 逸 夫 租 税 法 講 座 ( 第 3 巻 ) 租 税 行 政 法 金 子 宏 ほか 編 申 告 は 租 税 手 続 法 上 特 別 に 認 められた 私 人 の 特 殊 な 公 法 行 為 と みるべきもので 仮 に この 公 法 行 為 を 通 知 行 為 と 解 するにしても その 通 知 の 対 象 となる 事 項 は 事 実 についての 観 念 である 場 合 と 行 為 者 たる 私 人 の 意 思 である 場 合 の 両 方 がありうるとみるべきで どち らか 一 方 でなければならない 性 質 のものではない 思 うに 租 税 債 務 は 法 律 の 規 定 によって 成 立 し 納 税 者 は 法 律 の 規 定 に 従 って 税 額 を 算 定 しなければならないのだから 申 告 行 為 に 何 らかの 納 税 者 の 意 思 が 現 れるとしても それは 少 なくとも 法 律 効 果 を 欲 する 効 果 意 思 とはいえない このため 意 思 表 示 でなく 意 思 の 通 知 とするのであろう しかし そのようにして 通 知 される 意 思 も それが 法 律 の 根 拠 を 持 たない 限 り 租 税 債 務 の 内 容 に 影 響 しないことには 変 わりはない それでは どのような 場 合 に そのようにして 通 知 される 意 思 が 租 税 債 務 の 成 立 に 影 響 するのだろうか

76 ⑷ 制 度 の 選 択 の 意 思 この 点 現 行 の 法 人 税 法 や 所 得 税 法 等 では 棚 卸 資 産 の 評 価 や 固 定 資 産 の 減 価 償 却 税 額 控 除 などについて 複 数 の 方 法 ( 制 度 )を 定 め そ のいずれを 選 択 するか あるいは 制 度 を 適 用 するかどうかについては 申 告 書 に 記 載 するか 又 は 届 出 を 行 うことを 求 めている このような 場 合 には 申 告 書 等 に 表 示 された( 申 告 書 等 で 通 知 される) 納 税 者 の 制 度 選 択 の 意 思 は 租 税 債 務 の 内 容 に 影 響 することになる しかし 申 告 書 においてこのような 制 度 選 択 の 意 思 表 示 を 行 う 場 合 に は 申 告 書 上 納 税 者 の 意 思 と 事 実 に 関 する 記 載 が 混 在 するこ とになり そのいずれに 関 する 記 載 なのか 問 題 となることがある 最 高 裁 平 成 21 年 7 月 10 日 判 決 は そのような 問 題 について 判 断 した ものである 3 最 高 裁 平 成 21 年 7 月 10 日 判 決 ⑴ 事 案 の 概 要 納 税 者 (X)が 法 人 税 の 確 定 申 告 において 法 人 税 法 第 68 条 ( 所 得 税 額 控 除 )( 注 1)の 金 額 の 計 算 を 誤 るなどした 結 果 納 付 すべき 法 人 税 額 を 過 大 に 申 告 したとして 更 正 の 請 求 ( 国 税 通 則 法 第 23 条 1 項 )( 注 2)をしたのに 対 し 国 (Y)が 所 得 税 額 控 除 等 は 確 定 申 告 書 に 記 載 された 金 額 を 控 除 の 限 度 とするとして これを 超 過 する 税 額 を 認 めず 更 正 の 請 求 をすべき 理 由 がない 旨 通 知 したところ Xがその 取 消 を 請 求 した ( 注 1) 法 人 税 法 第 68 条 1 項 3 項 ( 現 行 法 人 税 法 第 68 条 1 項 10 項 ) 1 内 国 法 人 が 各 事 業 年 度 において 所 得 税 法 第 174 条 各 号 に 規 定 する 利 子 等 配 当 等 の 支 払 いを 受 ける 場 合 には これらにつき 同 法 の 規 定 により 課 される 所 得 税 の 額 は 政 令 で 定 めるところにより 当 該 事 業 年 度 の 所 得 に 対 する 法 人 税 の 額 から 控 除 する 3 第 1 項 の 規 定 は 確 定 申 告 書 に 同 項 の 規 定 による 控 除 を 受 けるべき

納 税 申 告 における 制 度 選 択 の 意 思 表 示 と 租 税 法 律 主 義 77 金 額 及 びその 計 算 に 関 する 明 細 の 記 載 がある 場 合 に 限 り 適 用 する この 場 合 において 同 項 の 規 定 による 控 除 をされるべき 金 額 は 当 該 金 額 として 記 載 された 金 額 を 限 度 とする ( 注 2) 国 税 通 則 法 第 23 条 1 項 納 税 申 告 書 を 提 出 した 者 は 次 の 各 号 の 一 に 該 当 する 場 合 には 当 該 申 告 書 に 係 る 国 税 の 法 定 申 告 期 限 から 一 年 以 内 に 限 り 税 務 署 長 に 対 し その 申 告 に 係 る 課 税 標 準 等 又 は 税 額 等 につき 更 正 をすべき 旨 の 請 求 をすることができる 一 当 該 申 告 書 に 記 載 した 課 税 標 準 等 若 しくは 税 額 等 の 計 算 が 国 税 に 関 する 法 律 の 規 定 に 従 っていなかつたこと 又 は 当 該 計 算 に 誤 りがあつたことにより 当 該 申 告 書 の 提 出 により 納 付 すべき 税 額 が 過 大 であるとき ⑵ 判 決 のポイント 確 定 申 告 において 法 人 税 法 第 68 条 1 項 に 基 づき 配 当 等 に 係 る 所 得 税 額 を 控 除 するにあたり 計 算 を 誤 ったため 控 除 を 受 けるべき 金 額 を 過 少 に 計 算 したとしてされた 更 正 の 請 求 は 同 条 3 項 の 趣 旨 に 反 すると いうことはできず 更 正 の 請 求 の 要 件 に 該 当 する ⑶ 判 決 の 要 旨 所 得 税 額 控 除 については 計 算 の 誤 りは 確 定 申 告 書 に 現 れた 計 算 過 程 の 上 からは 明 白 であるとは 言 えないものの 所 有 株 式 数 の 記 載 を 誤 っ たことに 起 因 する 単 純 な 誤 りであるということができ 確 定 申 告 書 に 記 載 された 控 除 を 受 ける 所 得 税 額 の 計 算 が Xが 別 の 理 由 により 選 択 した 結 果 であることをうかがわせる 事 情 もない そうすると Xが 確 定 申 告 において その 所 有 する 株 式 の 全 銘 柄 に 係 る 所 得 税 額 の 全 部 を 対 象 として 法 令 に 基 づき 正 当 に 計 算 される 金 額 につき 所 得 税 額 控 除 制 度 の 適 用 を 受 けることを 選 択 する 意 思 であった ことは 確 定 申 告 書 の 記 載 からも 見 て 取 れるところであり 誤 って 過 少

78 に 記 載 した 金 額 に 限 って 同 制 度 の 適 用 を 受 ける 意 思 であったとは 解 さ れない 以 上 のような 事 情 の 下 では 本 件 の 更 正 の 請 求 は 所 得 税 額 控 除 制 度 の 適 用 を 受 ける 範 囲 を 追 加 的 に 拡 張 する 趣 旨 のものではないから 更 正 の 請 求 の 要 件 に 該 当 する ⑷ 争 点 所 得 税 額 控 除 については 法 人 税 法 第 68 条 3 項 前 段 において 確 定 申 告 書 上 の 控 除 を 受 けるべき 金 額 の 記 載 が 適 用 要 件 であるとされ 後 段 において 記 載 された 金 額 は 制 度 の 適 用 範 囲 であり 控 除 をうける べき 金 額 の 限 度 になると 規 定 されている このため 前 段 によると 控 除 を 受 けるべき 金 額 が 記 載 されてい れば 制 度 が 適 用 され 記 載 されていなければ 適 用 されないのだから 控 除 を 受 けるべき 金 額 の 記 載 が ある ことが 制 度 の 適 用 要 件 であり 制 度 が 適 用 されるかどうかについて 記 載 の 存 否 が 問 われることに なる 一 方 後 段 では 控 除 を 受 けるべき 金 額 として 申 告 書 に 記 載 され た 金 額 は 控 除 される 金 額 の 限 度 になるから 記 載 されている 金 額 がい くらかが 問 われることになり このため その 金 額 の 計 算 方 法 が 正 しい かどうか すなわち 記 載 金 額 の 当 否 も 問 題 となりうる( 注 ) ( 注 ) 記 載 金 額 の 両 義 性 法 人 税 法 第 68 条 3 項 では 同 じ 記 載 金 額 という 言 葉 が 使 われて いるが 前 段 は 金 額 の 記 載 の 有 無 を 問 い 後 段 は 記 載 された 金 額 を 問 う すなわち 前 段 は 申 告 書 への 記 載 という 表 現 行 為 を 問 題 にし 後 段 は 記 載 された 金 額 がいくらかという 表 現 内 容 を 問 題 に している そして 表 現 行 為 は その 存 否 が 問 題 になるが 表 現 内 容 は それ が 正 しいかどうか すなわちその 当 否 ( 規 範 に 従 っているかどうか) が 問 題 となる

納 税 申 告 における 制 度 選 択 の 意 思 表 示 と 租 税 法 律 主 義 79 本 件 では Yは 記 載 金 額 の 当 否 を 問 題 とせず 控 除 されるべき 金 額 の 限 度 は 申 告 書 に 記 載 され 書 類 の 添 付 により 具 体 的 に 確 認 できる 金 額 である とし 更 正 の 請 求 は 法 律 の 規 定 に 従 っていなかったこ とまたは 当 該 計 算 に 誤 りがあったこと が 要 件 となる( 通 則 法 第 23 条 1 一 )ところ 記 載 金 額 に 誤 りがあったとしても 法 律 の 規 定 に 従 っ ていなかったこと 又 は 当 該 計 算 に 誤 りがあったことにならないので 更 正 の 請 求 の 要 件 に 該 当 しない と 主 張 した これに 対 し Xは 記 載 金 額 の 当 否 を 問 題 にして 控 除 されるべき 金 額 の 限 度 額 は 申 告 書 に 記 載 された 金 額 ではなく 納 税 者 が 制 度 の 適 用 対 象 として 選 択 した 範 囲 において 正 当 額 を 計 算 し これをもって 限 度 額 とすべきであり 記 載 金 額 が 法 令 に 従 っていなかったのだから 更 正 の 請 求 の 要 件 に 該 当 する と 主 張 した すなわち この 争 いは 制 度 の 適 用 に 当 たり 法 令 に 基 づく 所 定 の 金 額 計 算 ( 法 人 税 法 施 行 令 第 140 条 の 2 第 3 項 )( 注 )が 必 要 となる 場 合 に おいて Yが 当 該 金 額 計 算 は 申 告 の 前 段 階 又 は 申 告 外 の 行 為 であり 申 告 書 の 記 載 金 額 そのものは 制 度 の 適 用 範 囲 についての 納 税 者 の 意 思 表 示 であるとして 金 額 計 算 の 当 否 を 問 題 にしないのに 対 し Xは 記 載 金 額 は 制 度 の 適 用 範 囲 についての 意 思 だけでなく 法 令 に 基 づく 計 算 結 果 も 表 示 したものであるとして その 当 否 を 問 題 にするものである ( 注 ) 法 人 税 法 施 行 令 第 140 条 の 2 1 法 68 条 第 1 項 ( 所 得 税 額 の 控 除 )の 規 定 により 法 人 税 の 額 より 控 除 する 所 得 税 の 額 は 次 の 各 号 に 掲 げる 区 分 に 応 じ 当 該 各 号 に 定 める 金 額 とする 一 法 人 から 受 ける 利 益 の 配 当 に 対 する 所 得 税 その 元 本 を 所 有 していた 期 間 に 対 応 するものとして 計 算 される 所 得 税 の 額 3 その 銘 柄 ごとに 所 得 税 の 額 に 第 一 号 に 掲 げる 数 のうちに 第 二 号 の 掲 げる 数 の 占 める 割 合 を 乗 ずる 方 法 により 計 算 することができる 一 配 当 等 の 計 算 の 基 礎 となった 期 間 の 終 了 の 時 において 所 有 してい た 元 本 の 数

80 二 イに 掲 げる 数 とロに 掲 げる 数 を 合 計 した 数 イ ロ 期 間 の 開 始 の 時 において 所 有 していた 元 本 の 数 全 号 に 掲 げる 数 からイに 掲 げる 数 を 控 除 した 数 の 2 分 の 一 に 相 当 する 数 結 局 本 件 は 申 告 書 上 の 記 載 事 項 ( 記 載 金 額 )を 納 税 者 の 意 思 とみるか それとも 事 実 ( 法 令 に 基 づく 計 算 結 果 )とみるかを 争 う ものであるといえる なお 本 件 は 第 1 審 がX 勝 訴 第 2 審 はY 勝 訴 最 高 裁 でX 勝 訴 と なった ⑸ 意 思 表 示 の 誤 り 本 件 の 事 案 は 制 度 の 適 用 範 囲 となる 金 額 の 計 算 を 誤 った 場 合 である が このような 計 算 誤 りがない 場 合 で 納 税 者 が 単 に 制 度 ( 計 算 方 法 ) の 得 失 の 判 断 を 誤 ったので 制 度 の 適 用 を 変 更 したいとして 更 正 の 請 求 をしたときは 認 められるのだろうか この 点 最 高 裁 昭 和 62 年 11 月 10 日 判 決 は 所 得 計 算 の 方 法 につい て 納 税 者 の 選 択 が 認 められている 場 合 その 選 択 の 誤 りを 理 由 とする 更 正 の 請 求 を 認 めることはいわば 納 税 者 の 意 思 によって 税 の 確 定 が 左 右 されることになるので 妥 当 でない としている ( 注 ) 最 高 裁 昭 和 62 年 11 月 10 日 判 決 納 税 者 が 租 税 特 別 措 置 法 第 26 条 1( 概 算 経 費 控 除 )により 事 業 所 得 の 金 額 を 計 算 し 確 定 申 告 をした 場 合 には たとえ 実 際 に 要 した 必 要 経 費 の 金 額 が 右 規 定 による 必 要 経 費 の 金 額 を 超 えるため 納 付 すべき 税 額 が 多 くなったとしても 納 税 者 としては そのことを 理 由 として 国 税 通 則 法 第 23 条 1 一 による 更 正 の 請 求 をすることはできない すなわち 法 律 上 複 数 の 制 度 が 用 意 されている 場 合 に 納 税 者 が 申 告 書 でその 一 つの 制 度 を 選 択 する 意 思 表 示 をしたときは もはや 変 更 でき

納 税 申 告 における 制 度 選 択 の 意 思 表 示 と 租 税 法 律 主 義 81 ない 本 件 でも 最 高 裁 は 確 定 申 告 において 当 該 事 業 年 度 中 に 支 払 い を 受 けた 配 当 等 に 係 る 所 得 税 額 の 全 部 または 一 部 につき 所 得 税 額 控 除 の 適 用 を 受 ける 範 囲 を 追 加 的 に 拡 張 する 趣 旨 で 更 正 の 請 求 をすることを 許 さない としており 最 高 裁 昭 和 62 年 11 月 10 日 判 決 の 考 え 方 を 踏 襲 している 思 うに 申 告 に 当 たり 必 要 となる 金 額 の 計 算 は 法 律 の 規 定 に 完 全 に 拘 束 される しかし 計 算 方 法 について 選 択 肢 が 示 され そのいずれに よるかは 納 税 者 の 自 由 な 意 思 にゆだねられている 場 合 は その 部 分 に 限 っては 納 税 者 は 法 律 に 拘 束 されず いずれを 選 択 しても 法 律 に 従 っ ていなかったこと( 法 律 違 反 )にならない したがって 選 択 したこと を 変 更 すべく 更 正 の 請 求 をしても 更 正 の 請 求 の 要 件 法 律 の 規 定 に 従 っ ていなかったこと 又 は 当 該 計 算 に 誤 りがあつたこと( 国 税 通 則 法 第 23 条 1 項 ) に 該 当 しないから 更 正 の 請 求 は 認 められない すなわち 申 告 書 に 記 載 された 課 税 標 準 等 又 は 税 額 等 の 計 算 が 国 税 に 関 する 法 律 の 規 定 に 従 っていなかったときに 限 って 国 は 課 税 標 準 等 又 は 税 額 等 の 更 正 をするのであって 申 告 書 に 記 載 された 課 税 標 準 等 又 は 税 額 等 の 計 算 が 法 律 の 規 定 に 従 っているのであれば そもそも 更 正 をす ることは できない のである( 国 税 通 則 法 第 24 条 )( 注 ) したがって 納 税 者 が 申 告 書 で 選 択 の 意 思 表 示 をした 制 度 を 更 正 の 請 求 によって 変 更 しようとするのは 国 に 対 して 不 可 能 なこと( 更 正 の 要 件 を 満 たさないにもかかわらず 更 正 すること)を 請 求 することになるか ら 更 正 の 請 求 の 可 否 の 問 題 というよりも その 前 提 となる 更 正 の 可 否 の 問 題 であるといえよう ( 注 ) 国 税 通 則 法 第 24 条 税 務 署 長 は 納 税 申 告 書 の 提 出 があつた 場 合 において その 納 税 申 告 書 に 記 載 された 課 税 標 準 等 又 は 税 額 等 の 計 算 が 国 税 に 関 する 法 律 の 規 定 に 従 っていなかつたとき その 他 当 該 課 税 標 準 等 又 は 税 額 等 がそ の 調 査 したところと 異 なるときは その 調 査 により 当 該 申 告 書 に 係

82 る 課 税 標 準 等 又 は 税 額 等 を 更 正 する ⑹ 計 算 誤 り 一 方 本 件 ( 最 高 裁 平 成 21 年 7 月 10 日 判 決 )は 申 告 書 の 記 載 事 項 に 計 算 誤 りがある 場 合 であるが このような 場 合 でも 納 税 者 は その 金 額 によって 申 告 書 上 で 制 度 の 適 用 範 囲 についての 選 択 ( 適 用 限 度 額 の 選 択 )の 意 思 表 示 を 行 ったことになるのだろうか この 点 について 原 審 ( 福 岡 高 裁 平 成 18 年 10 月 24 日 判 決 )は 法 令 解 釈 の 誤 りや 計 算 誤 りがあったとしてもそれも 納 税 者 の 意 思 であるこ とには 変 わりはなく 自 らの 自 由 な 意 思 と 判 断 により 記 載 したもので あってみれば 法 令 解 釈 や 計 算 の 誤 りがあったとしても 通 則 法 第 23 条 第 1 項 第 1 号 の 要 件 該 当 性 が 肯 定 されることにはならない とした すなわち 計 算 誤 りのある 金 額 の 記 載 も 納 税 者 の 自 由 な 意 思 に 基 づく ものであるとされる しかし この 点 については 最 高 裁 は 法 令 に 基 づき 正 当 に 計 算 さ れる 金 額 について 適 用 を 選 択 する 意 思 であったことが 申 告 書 上 見 て 取 れ るのであれば 誤 って 記 載 した 金 額 について 適 用 を 受 ける 意 思 に 拘 束 さ れるわけではない とした 思 うに 意 思 というものを 広 くとらえ 人 の 考 えたこと など 精 神 活 動 一 般 を 言 うものと 考 えれば たとえ 計 算 誤 りという 瑕 疵 が あったとしても 申 告 書 への 金 額 の 記 載 が 納 税 者 の 意 思 ( 瑕 疵 のある 意 思 )の 表 示 であることには 変 わりはないと 考 えられる しかし 申 告 書 に 記 載 することを 求 められている 金 額 の 計 算 は 法 律 に 従 って 行 うべきものであり 従 う か 従 わない かについて 納 税 者 が 自 由 に 選 択 できるわけではなく 納 税 者 は 法 律 に 従 う しか 選 択 の 余 地 はない この 意 味 で 申 告 で 必 要 となる 金 額 の 計 算 は 納 税 者 の 自 由 な 意 思 に 基 づくものでなく 法 律 で 拘 束 された 意 思 すなわ ち 自 由 でない 意 思 に 基 づくものといえよう そうすると 計 算 を 誤 った 金 額 の 記 載 が 納 税 者 の 意 思 の 表 示 である

納 税 申 告 における 制 度 選 択 の 意 思 表 示 と 租 税 法 律 主 義 83 ことに 変 わりはないとしたとしても その 意 思 の 表 示 とともに あるい は 表 示 された 意 思 の 中 に 必 然 的 に 計 算 が 法 律 に 従 っていなかったこ と も 表 示 されてしまうことになる そして 法 律 に 従 っていない 部 分 については そもそも 法 律 に 従 っていないのだから これに 従 わせるべ く 更 正 されねばならないだろう すなわち 申 告 書 の 記 載 金 額 は 法 律 に 基 づく 計 算 結 果 の 表 示 で あり その 際 生 じた 計 算 誤 りは 法 律 に 従 っていない のだから 更 正 ができるかできないかというよりも そもそも 当 然 に 更 正 されなけれ ばならないのである したがって 本 件 は 国 税 通 則 法 第 23 条 1 項 1 号 に 基 づく 更 正 の 請 求 の 可 否 というよりも 同 法 第 24 条 に 基 づく 更 正 の 要 否 の 問 題 であるともいえよう なぜなら 同 法 第 24 条 は 税 務 署 長 は 納 税 申 告 書 の 提 出 があつた 場 合 において その 納 税 申 告 書 に 記 載 された 課 税 標 準 等 又 は 税 額 等 の 計 算 が 国 税 に 関 する 法 律 の 規 定 に 従 っていなかつたとき 当 該 申 告 書 に 係 る 課 税 標 準 等 又 は 税 額 等 を 更 正 する と 規 定 しているが ここ でいう 更 正 する とは 更 正 できる という 意 味 でなく 更 正 しな ければならない という 意 味 であり 税 務 当 局 には 更 正 するかしないか の 選 択 の 余 地 はないからである( 注 ) ( 注 ) 同 旨 新 井 隆 一 税 法 学 者 の 憲 法 論 ZEIKEN 2008.9 (No.141) 63 P 一 般 論 として 国 家 による 法 の 規 制 の 範 囲 内 における 権 力 の 行 使 は いわゆる 義 務 の 性 格 を 有 するものであって いわゆる 権 利 の 性 格 をも つものではない ⑺ 制 度 の 適 用 範 囲 の 意 思 表 示 しかし このように 考 えた 場 合 でも さらに 次 のような 疑 問 が 残 る すなわち 申 告 書 の 記 載 金 額 は 制 度 の 適 用 範 囲 ( 控 除 をうけるべき 金 額 の 限 度 )となるものであるが 記 載 金 額 に 誤 りがあった 場 合 これ を 是 正 しなければならないとすると 納 税 者 が 記 載 した 金 額 は 制 度 の

84 適 用 範 囲 とされず 法 律 に 基 づき 正 当 に 計 算 されるべき 金 額 こそが 制 度 の 適 用 範 囲 となるのだから 結 局 納 税 者 は 申 告 書 において 制 度 の 適 用 範 囲 に 関 する 意 思 表 示 を 行 ったことにはならないのではないか また あらかじめ 納 税 者 の 意 図 する 制 度 の 適 用 範 囲 (たとえば 本 件 では どの 所 得 税 を 税 額 控 除 の 対 象 とするか すなわち どの 銘 柄 の 株 式 の 配 当 等 に 係 る 所 得 税 を 税 額 控 除 の 対 象 とするか 等 )が 明 らかにさ れていなければ そもそも 金 額 の 計 算 が 行 えないのだから 金 額 の 当 否 の 判 断 に 先 行 して 申 告 書 上 に 制 度 の 適 用 範 囲 に 関 する 選 択 の 意 思 が 表 示 されなければならないのではないか Yは 正 当 な 金 額 は 申 告 書 に 記 載 されていないのだから 申 告 書 に 表 示 されていない 納 税 者 の 真 意 を 探 ることになるから 不 当 である と 主 張 しているが その 趣 旨 は 以 上 のようなものと 考 えられる しかし 最 高 裁 は 法 令 に 基 づき 正 当 に 計 算 される 金 額 について 適 用 を 選 択 する 意 思 であったことが 申 告 書 上 から 見 て 取 れる とした すなわち 申 告 書 には 制 度 の 適 用 範 囲 に 関 する 意 思 が 表 示 されなけ ればならないところ 少 なくともその 意 思 が 見 てとれればよいとされる しかしながら 本 件 ( 株 式 の 配 当 )の 場 合 はともかくとして 金 融 商 品 はさまざまであり( 株 式 債 券 国 の 内 外 銘 柄 対 象 期 間 等 ) こ れに 応 じてその 利 子 配 当 等 に 係 る 源 泉 所 得 税 も 多 種 多 様 となるから 申 告 書 上 で 制 度 の 適 用 範 囲 ( 税 額 控 除 の 対 象 とする 所 得 税 )を 見 てとる のは 困 難 な 場 合 があることも 想 定 される この 点 所 得 税 額 控 除 の 適 用 範 囲 の 選 択 とは 源 泉 徴 収 された 所 得 税 の 額 のうち 1いくら(A 円 )を 損 金 不 算 入 とし(その 代 わり A 円 を 税 額 控 除 し) 2その 残 額 ( 源 泉 徴 収 された 所 得 税 の 額 -A 円 )は 損 金 算 入 とする(その 代 わり その 残 額 は 税 額 控 除 しない)とするかの 選 択 であるので 適 用 範 囲 を A 円 で 表 示 するのは きわめて 明 確 である その 意 味 で 記 載 された A 円 を 適 用 範 囲 の 意 思 表 示 とすべきと するYの 主 張 は 合 理 的 である しかし 最 高 裁 は その 所 有 する 株 式 の 全 銘 柄 に 係 る 所 得 税 額 の 全

納 税 申 告 における 制 度 選 択 の 意 思 表 示 と 租 税 法 律 主 義 85 部 を 対 象 として 所 得 税 額 控 除 の 適 用 を 受 ける 意 思 であったことは 確 定 申 告 書 の 記 載 からも 見 て 取 れる としており 制 度 の 適 用 範 囲 は A 円 でなく 所 有 する 株 式 の 銘 柄 等 に 係 る 所 得 税 額 の 全 額 を 適 用 範 囲 としていることが 見 て 取 れるとしている 思 うに 金 額 (A 円 ) は 前 述 のとおり 法 令 に 拘 束 された 意 思 に 基 づく 計 算 結 果 であるので これによって 制 度 選 択 を 行 う 場 合 納 税 者 の 選 び 取 った 対 象 ( 金 額 A 円 )の 中 に 拘 束 された 意 思 が 混 入 する ことになる このため 納 税 者 は 自 分 の 自 由 な 意 思 に 基 づいて 選 択 した ことにならない この 点 株 式 の 配 当 に 係 る 所 得 税 の 額 は 納 税 者 の 意 思 が 混 入 し ない 客 観 的 対 象 であるので 選 択 の 対 象 にしても 問 題 はない したがって 金 額 (A 円 ) に 基 づき 適 用 範 囲 の 意 思 表 示 をするのは もともと 無 理 があったと 言 わざるを 得 ない ⑻ やむを 得 ない 事 情 法 人 税 法 第 68 条 第 4 項 ( 注 )は 税 務 署 長 は 第 1 項 に 規 定 する 所 得 税 額 の 全 部 または 一 部 につき 前 項 の 記 載 がない 確 定 申 告 書 の 提 出 が あった 場 合 においても その 記 載 がなかったことについてやむを 得 ない 事 情 があると 認 めるときは その 記 載 がなかった 金 額 につき 第 1 項 の 規 定 を 適 用 することができる としている Xは この 規 定 に 言 及 し 申 告 書 に 記 載 した 以 上 絶 対 に 変 更 できな い 旨 厳 格 に 解 釈 するとすれば この 規 定 は 不 要 又 は 無 意 味 なものとなら ざるを 得 ない として 更 正 の 請 求 を 認 めるべきと 主 張 する すなわち Xは やむを 得 ない 事 情 がある 場 合 とは 申 告 書 の 記 載 金 額 を 変 更 できる 場 合 にあたると 考 えている この 点 について 原 審 ( 福 岡 高 裁 平 成 18 年 10 月 24 日 判 決 )は こ の 規 定 は 例 外 的 に 制 度 の 適 用 を 受 ける 余 地 を 認 めているものである としている すなわち この 規 定 は 制 度 の 適 用 の 有 無 に 関 わるものであって

86 制 度 の 適 用 範 囲 には 関 わらないものとしている なお 最 高 裁 平 成 21 年 7 月 10 日 判 決 は 法 人 税 法 第 68 条 第 4 項 との 関 連 性 について 触 れていない 思 うに やむを 得 ない 事 情 とは 法 人 税 法 第 68 条 第 4 項 が 前 項 の 記 載 がない 確 定 申 告 書 の 提 出 があった 場 合 においても その 記 載 が なかったことについてやむを 得 ない 事 情 があると 認 められるとき と していることから 原 審 の 言 うとおり 記 載 の 存 否 にかかわるもの と 考 えられる また やむを 得 ない 事 情 とは 納 税 者 の 責 めに 帰 さない 客 観 的 事 情 があって かつ それが 納 税 者 の 申 告 行 為 を 妨 害 し 申 告 書 に 記 載 が なくても 仮 にそのような 客 観 的 障 害 がなかったとすれば おそらく 納 税 者 は 申 告 書 に 記 載 したと 認 められるような 事 情 をいうものと 考 えられ る すなわち 法 人 税 法 第 68 条 4 項 の 規 定 は 申 告 書 において 納 税 者 自 らが 制 度 選 択 の 意 思 表 示 ( 制 度 を 選 択 するかしないか)を 行 ったがゆえ に その 自 ら 表 示 した 意 思 をもって 納 税 者 を 拘 束 すべきところ 納 税 者 の 責 めに 帰 さない 外 部 的 障 害 があったために もはや 申 告 書 の 記 載 は 納 税 者 の 自 由 な 意 思 表 示 とはいえないような 場 合 に その 表 示 した 意 思 による 拘 束 を 解 くものと 考 えられる したがって 法 人 税 法 第 68 条 4 項 の 規 定 は 納 税 者 の 自 由 意 思 にも とづく 申 告 書 の 記 載 に 関 わるものと 考 えられる そうすると 金 額 の 記 載 の 有 無 は 納 税 者 の 自 由 意 思 に 基 づくも のであるとしても 金 額 の 計 算 は 前 述 ⑹のとおり 法 令 に 拘 束 さ れた 意 思 に 基 づく 行 為 であり 自 由 な 意 思 に 基 づく 行 為 でないから 法 人 税 法 第 68 条 4 項 とは 無 関 係 である したがって 法 人 税 法 第 68 条 4 項 は 原 審 ( 福 岡 高 裁 平 成 18 年 10 月 24 日 判 決 )のいうように 申 告 書 上 に 記 載 がない 場 合 であっても 納 税 者 の 自 由 な 意 思 表 示 を 妨 害 するような 客 観 的 事 情 (たとえば 郵 便 事 情 などで 申 告 書 が 提 出 できなかったようなケース)があり 仮 にそれ

納 税 申 告 における 制 度 選 択 の 意 思 表 示 と 租 税 法 律 主 義 87 がなければ 記 載 して 申 告 したと 認 められるようなときには 記 載 がある とみなして 例 外 的 に 制 度 の 適 用 を 認 めるものと 考 えられる ⑼ 修 正 申 告 以 上 のとおり 最 高 裁 平 成 21 年 7 月 10 日 判 決 は 制 度 適 用 の 意 思 表 示 は 更 正 の 請 求 によっては 変 更 できないものの 計 算 誤 りがあるとき には 更 正 の 請 求 により 是 正 できる 場 合 があることを 明 らかにしたもの と 考 えられる しかし 最 高 裁 平 成 2 年 6 月 5 日 判 決 ( 注 )は 次 のように 判 示 し 計 算 誤 りがない 場 合 であっても 更 正 の 請 求 ではなく 修 正 申 告 を 行 う 場 合 には 制 度 適 用 を 変 更 できるとしている 修 正 申 告 をするに 当 たり 修 正 申 告 の 要 件 を 充 たす 限 りにおいては (すなわち 確 定 申 告 に 係 る 税 額 を 増 加 させる 限 りにおいては) 確 定 申 告 における 必 要 経 費 の 計 算 の 誤 りを 是 正 する 一 環 として 錯 誤 に 基 づく 概 算 経 費 選 択 の 意 思 表 示 を 撤 回 し 所 得 税 法 37 条 1 項 等 に 基 づき 実 額 経 費 を 社 会 保 険 診 療 報 酬 の 必 要 経 費 として 計 上 することができると 解 す るのが 相 当 である ( 注 ) 最 高 裁 平 成 2 年 6 月 5 日 判 決 所 得 税 の 確 定 申 告 において 租 税 特 別 措 置 法 ( 昭 和 63 年 法 律 第 109 号 による 改 正 前 のもの)26 条 1 項 に 基 づくいわゆる 概 算 経 費 により 事 業 所 得 金 額 を 計 算 していた 場 合 に 修 正 申 告 においていわゆる 実 額 経 費 に 変 更 することが 許 されるとしたもの このことは 一 見 すると 本 件 ( 最 高 裁 平 成 21 年 7 月 10 日 判 決 )で 確 定 申 告 において 所 得 税 額 控 除 の 適 用 をうけることを 選 択 しなかっ た 以 上 後 になってこれを 覆 し 更 正 の 請 求 をすることを 許 さない としていることと 矛 盾 するようにも 見 える 思 うに このような 場 合 に 更 正 の 請 求 ができないのは 前 述 のとおり 国 が 更 正 できないからである

88 一 方 修 正 申 告 は 納 税 者 が 行 う 行 為 であり その 際 必 要 となる 金 額 計 算 は 法 律 によって 全 面 的 に 拘 束 されるべきところ その 一 部 に 穴 ( 選 択 肢 )が 穿 たれ その 部 分 に 限 っては 納 税 者 の 自 由 な 意 思 にゆだね られている 場 合 には 税 法 または 他 の 法 令 にもとづく 何 らかの 法 規 範 に よりこの 穴 が 埋 められない 限 りは 修 正 申 告 においても 依 然 としてその 穴 は 開 いており 納 税 者 の 自 由 な 意 思 でこれを 埋 めることができると 考 えられる もっとも 本 件 で 最 高 裁 がいうように 選 択 した 以 上 後 になって これを 覆 すことはできない との 考 え 方 に 立 ち 修 正 申 告 によっても 制 度 の 適 用 を 変 更 できないと 考 えることもできるかもしれない しかし 前 述 のとおり 私 法 は 私 的 自 治 を 前 提 とし 一 方 の 私 人 を その 者 の 表 示 した 意 思 に 拘 束 するのは 他 方 の 私 人 の 意 思 ( 信 頼 )を 保 護 するためである これに 対 して 租 税 債 権 債 務 は 私 人 対 国 の 関 係 で 成 立 し 両 当 事 者 は 法 律 の 規 定 ( 全 納 税 者 の 意 思 )に 完 全 に 拘 束 され 国 に 私 的 自 治 は 認 められないから 私 法 の 規 範 を 持 ち 込 むのは 適 当 でな いと 考 えられる 4 おわりに 以 上 のとおり 租 税 債 務 は 法 律 が 納 税 者 の 自 由 意 思 による 選 択 を 許 容 する 場 合 を 除 き 法 律 の 規 定 によって 全 面 的 に 決 まる すなわち 租 税 とは 国 の 意 思 すなわち 全 国 民 の 意 思 ( 全 納 税 者 の 意 思 )そのもの であるといえよう このような 全 国 民 ( 全 納 税 者 )の 意 思 とは その 原 初 形 態 にさかのぼ れば 共 同 体 の 意 思 であろう すなわち 共 同 体 においては その 構 成 員 は さまざまな 役 務 提 供 義 務 を 共 同 体 に 対 して 負 い いかなる 者 も 共 同 体 に 所 属 するかぎり その 共 同 体 の 意 思 に 拘 束 される 租 税 は 共 同 体 によって 課 される 役 務 提 供 義 務 が 金 銭 納 付 義 務 に 転 化 したものであ ると 考 えられる

納 税 申 告 における 制 度 選 択 の 意 思 表 示 と 租 税 法 律 主 義 89 このように 構 成 員 を 拘 束 する 共 同 体 の 意 思 については 租 税 のほ かに 言 語 や 通 貨 も 挙 げられるであろう たとえば 日 本 という 共 同 体 に 属 する 者 は 日 本 語 の 語 彙 と 文 法 に 拘 束 され 自 分 の 意 思 で 自 由 に 変 更 できない 通 貨 ( 円 貨 )も 同 様 である しかし 租 税 が 言 語 や 通 貨 と 異 なるのは 近 代 国 家 においては 共 同 体 の 意 思 決 定 ( 法 律 の 成 立 )にその 構 成 員 ( 国 民 )が 参 加 できることに ある したがって 十 分 に 議 論 して 意 思 決 定 ( 議 決 )をすれば 全 国 民 の 意 思 = 各 国 民 の 意 思 とすることも 不 可 能 ではなく この 場 合 には 租 税 はもはや 他 者 の 意 思 とは 言 えなくなり 自 分 の 意 思 となるであ ろう 復 興 増 税 の 議 論 においても 一 人 ひとりが 議 論 に 参 加 し 十 分 な 意 見 交 換 を 行 うことによって 各 納 税 者 の 意 思 ( 寄 付 )= 全 納 税 者 の 意 思 ( 税 負 担 ) とすることはできないのであろうか ( 以 上 )