中 国 と 日 本 の 経 済 関 係 房 文 慧 はじめに 中 国 が 日 本 にとって 最 大 の 貿 易 相 手 国 となったことに 象 徴 されるように 日 中 の 経 済 関 係 はますます 強 くなっている ここでは まず 日 中 両 国 の 政 府 間 関 係 について 外 交 関 係 日 本 の 対 中 政 府 開 発 援 助 を 取 り 上 げて 整 理 する 次 に 日 中 の 経 済 関 係 について 直 接 投 資 と 貿 易 から 明 らかにする 1 日 中 の 外 交 関 係 1972 年 の 日 中 国 交 正 常 化 は 両 国 の 経 済 関 係 の 基 礎 を 築 いた 日 中 の 経 済 関 係 に 先 立 っ て 1949 年 の 中 華 人 民 共 和 国 の 成 立 から1972 年 の 日 中 国 交 正 常 化 まで 両 国 の 政 治 関 係 を みておこう 1-1 国 交 正 常 化 まで: 敵 視 から 和 解 へ 1949 年 に 中 華 人 民 共 和 国 が 成 立 した 後 も 日 本 政 府 は 台 湾 の 国 民 党 政 権 を 中 国 の 正 式 な 政 府 として 承 認 し 大 陸 の 共 産 党 政 権 を 敵 視 する 政 策 をとっていた 1952 年 4 月 28 日 に 日 本 政 府 と 台 湾 の 国 民 党 政 権 との 間 では 日 中 両 国 間 における 第 二 次 世 界 大 戦 の 戦 争 状 態 を 終 了 させるための 日 華 平 和 条 約 が 結 ばれた(52 年 8 月 5 日 効 力 発 生 ) 1957 年 2 月 に 中 国 の 周 恩 来 首 相 が 中 日 関 係 に 関 する 政 治 三 原 則 ( 中 国 人 民 を 敵 視 せず 2つの 中 国 を 作 らず 中 日 関 係 の 正 常 化 を 妨 害 せず)を 表 明 し 対 日 関 係 改 善 の 意 欲 を 示 した ところが 1964 年 10 月 16 日 の 中 国 の 初 の 核 実 験 のため 日 本 では 中 国 に 対 する 危 機 感 が 高 まる 1965 年 に 佐 藤 栄 作 首 相 が 中 国 批 判 を 強 めると 同 時 に アメリカの 核 の 傘 を 求 め 日 中 間 の 緊 張 関 係 が 高 まる( 日 本 外 務 省 公 開 文 書 2008 年 12 月 22 日 ) 一 方 中 国 では 1966 年 から 始 まった 文 化 大 革 命 によって 国 内 の 大 混 乱 を 引 き 起 こしたと 同 時 に 国 際 的 孤 立 を 深 めた その 窮 境 から 脱 却 しようとする 中 国 政 府 は ベトナ ムとの 泥 沼 戦 争 やソ 連 との 深 刻 な 対 立 などを 続 けるアメリカへ 急 接 近 して 1972 年 2 月 に アメリカのニクソン 大 統 領 の 電 撃 訪 中 を 実 現 させた 当 時 の 佐 藤 栄 作 首 相 は 中 国 との 国 交 正 常 化 には 消 極 的 だったとされ 外 務 省 も 台 湾 重 視 の 姿 勢 を 崩 さず 水 面 下 で 進 む 米 外 交 の 歴 史 的 転 換 を 察 知 できなかった (1) 1972 年 には 田 中 角 栄 が 日 本 の 首 相 に 就 任 した ニクソン 訪 中 など 国 際 情 勢 の 激 動 を 受 85
けて 7 月 7 日 に 田 中 角 栄 は 中 華 人 民 共 和 国 との 国 交 正 常 化 を 急 ぎ 激 動 する 世 界 情 勢 の 中 にあって 平 和 外 交 を 強 力 に 推 進 していく と 表 明 した この 日 本 側 の 動 きに 即 座 に 呼 応 して 7 月 9 日 に 当 時 の 中 国 の 総 理 周 恩 来 は 人 民 大 会 堂 のイエメン 政 府 代 表 団 歓 迎 夕 食 会 で 中 日 国 交 正 常 化 を 早 期 に 実 現 したいという 田 中 首 相 の 談 話 を 歓 迎 する と 評 価 し 日 本 政 府 と 国 交 正 常 化 交 渉 を 開 始 する 用 意 のあることを 公 式 に 表 明 した 日 本 と 関 係 の ない 場 での 周 恩 来 の 発 言 は 早 期 対 日 関 係 を 改 善 したい 中 国 政 府 の 強 い 意 欲 をうかがわせ る ついに1972 年 9 月 25 日 に 田 中 角 栄 首 相 が 訪 中 した 日 中 双 方 は5 日 間 にわたる 困 難 な 交 渉 を 経 て 29 日 に 共 同 声 明 を 発 表 し 日 中 両 国 の 関 係 正 常 化 と 外 交 関 係 の 樹 立 を 実 現 し た それから6 年 後 の1978 年 8 月 12 日 に 日 中 平 和 友 好 条 約 が 調 印 された( 福 田 赳 夫 内 閣 ) 1-2 国 交 正 常 化 後 : 繰 り 返 される 悪 化 と 改 善 天 安 門 事 件 と 対 中 制 裁 国 交 正 常 化 と 平 和 友 好 条 約 締 結 後 おおむね 順 調 に 進 んでいた 日 中 関 係 は 1989 年 の 天 安 門 事 件 で 停 滞 した 1989 年 6 月 4 日 に 天 安 門 事 件 ( 民 主 化 を 求 める 一 般 市 民 への 武 力 弾 圧 )が 発 生 した 西 側 諸 国 は 中 国 を 非 難 抗 議 し 経 済 制 裁 を 発 動 した そのような 中 で 日 本 政 府 も 中 国 への 渡 航 制 限 経 済 援 助 の 凍 結 通 商 規 制 の 強 化 などの 措 置 を 講 じて いた 天 安 門 事 件 後 中 国 国 内 の 情 勢 が 安 定 化 するにつれて 日 本 政 府 は 対 中 制 裁 の 解 除 に 向 けて 動 き 出 し 閣 僚 の 相 互 訪 問 も 再 開 した 1991 年 8 月 には 海 部 俊 樹 首 相 が 中 国 を 訪 問 し た 日 中 国 交 正 常 化 20 周 年 を 迎 える1992 年 4 月 に 記 念 行 事 のため 江 沢 民 党 総 書 記 が 日 本 を 訪 問 した 同 年 10 月 には 天 皇 皇 后 両 陛 下 が 初 めて 中 国 を 公 式 訪 問 した このよう な 一 連 のハイレベルな 相 互 訪 問 は 日 中 間 で 停 滞 した 政 治 関 係 を 改 善 しただけでなく 中 国 を 天 安 門 事 件 による 国 際 的 孤 立 から 一 刻 も 早 く 脱 却 させることにも 一 役 を 買 ったと 評 価 されるべきである 歴 史 問 題 を 巡 る 日 中 対 立 ところが 1998 年 11 月 に 江 沢 民 が 再 び 日 本 を 訪 問 した 際 に 歴 史 問 題 や 謝 罪 要 求 など を 提 起 した これは 日 本 の 中 国 に 対 する 国 民 感 情 を 悪 化 させた 原 因 と 言 われている さ らに2001 年 に 首 相 に 就 任 した 小 泉 純 一 郎 が06 年 までの 在 任 期 間 中 靖 国 神 社 参 拝 を 繰 り 返 したことにより 中 国 の 日 本 に 対 する 国 民 感 情 の 悪 化 をもたらし 首 脳 の 相 互 訪 問 が 途 絶 えるほど 日 中 関 係 は 深 刻 な 危 機 を 迎 えた この 時 期 はちょうど 日 中 貿 易 の 飛 躍 的 な 拡 大 期 と 重 なり 経 済 関 係 が 強 まる 中 政 治 関 係 が 冷 え 込 んだ 当 時 の 日 中 関 係 は 政 冷 経 熱 と 表 されていた 86
戦 略 的 互 恵 関 係 と 尖 閣 問 題 2006 年 9 月 に 首 相 に 就 任 した 安 部 晋 三 が 10 月 に 中 国 を 訪 問 し 関 係 改 善 に 乗 り 出 し た 日 中 首 脳 会 談 は 戦 略 的 互 恵 関 係 の 構 築 で 一 致 した 07 年 4 月 温 家 宝 首 相 が 日 本 を 訪 問 してから 日 中 首 脳 相 互 訪 問 が 再 開 され 政 冷 経 熱 の 日 中 関 係 は 次 第 に 改 善 さ れていった 2010 年 9 月 7 日 に 尖 閣 諸 島 事 件 が 発 生 し 事 件 の 処 理 や 領 土 問 題 を 巡 って 日 中 関 係 は 再 び 険 悪 化 した 横 浜 APEC 開 催 期 間 中 の11 月 13 日 に 日 中 首 脳 が 会 談 した 双 方 は 日 中 両 国 の 戦 略 的 互 恵 関 係 発 展 で 一 致 したものの 尖 閣 領 有 権 についてそれぞれの 主 張 は 平 行 線 のままであった 2 日 本 の 対 中 政 府 開 発 援 助 国 交 正 常 化 後 経 済 的 手 段 を 梃 子 とした 日 本 の 対 中 外 交 の 一 つは 政 府 開 発 援 助 (Official Development Assistance:ODA)である 中 国 は 1978 年 の 改 革 開 放 以 後 外 国 の 資 本 と 技 術 を 積 極 的 に 導 入 する 方 針 を 明 確 に 打 出 した 中 国 の 政 策 転 換 に 応 じて 日 本 政 府 は 対 中 政 府 開 発 援 助 の 実 施 を 開 始 した 日 本 政 府 は 対 中 ODAの 基 本 方 針 として 我 が 国 の 安 全 と 繁 栄 を 維 持 強 化 するためには 平 和 な 国 際 環 境 の 保 持 が 必 要 であり 特 に 我 が 国 が 位 置 する 東 アジア 地 域 の 安 定 と 繁 栄 が 不 可 欠 です そのためには 地 域 のいかなる 国 も 孤 立 することなく 協 力 していくような 環 境 を 醸 成 する 必 要 があり 中 国 がより 開 か れ 安 定 した 社 会 となり 国 際 社 会 の 一 員 としての 責 任 を 一 層 果 たしていくようになるこ とが 我 が 国 にとって 望 ましい 姿 です と 掲 げている (2) 1979 年 から2007 年 までの 対 中 ODAは 円 借 款 事 業 が 行 われていた 対 中 円 借 款 は 複 数 年 度 の 事 業 内 容 を 一 括 して 審 議 する 複 数 年 度 方 式 (1979 年 ~2000 年 計 4 回 )と 毎 年 に 事 業 内 容 を 審 議 する 単 年 度 方 式 (2001 年 ~2007 年 )で 行 われていた (3) 複 数 年 度 方 式 の 対 中 円 借 款 第 1 次 対 中 円 借 款 (1979~83 年 度 )が7 案 件 を 対 象 に3,309 億 円 が 供 与 された 当 時 中 国 経 済 のボトルネックとされていたエネルギー 運 輸 の 分 野 に 投 入 された また 同 時 に 開 始 された 旧 日 本 輸 出 入 銀 行 のアンタイドローン( 資 金 の 使 途 に 制 限 のない 融 資 )は エネルギー 分 野 を 対 象 とした 中 国 の 経 済 開 発 に 貢 献 するとともに 中 国 と 日 本 との 関 係 を 重 視 し 石 炭 を 山 元 から 鉄 道 港 湾 を 通 じて 日 本 へ 輸 出 することに 資 するために 日 本 が 総 合 的 に 資 金 的 支 援 を 行 ったものである 第 2 次 円 借 款 (1984~89 年 度 )が6 案 件 のプロジェクトに 対 して4,700 億 円 が 供 与 され た また これとは 別 に 88 年 に 総 額 700 億 円 の 輸 出 基 地 開 発 計 画 に 対 する 借 款 が 供 87
与 された この 結 果 1984~89 年 度 の 間 に 供 与 された 借 款 は17 案 件 総 額 5,400 億 円 と なった 第 2 次 円 借 款 は 引 き 続 き 交 通 インフラ 及 び 電 力 通 信 の 強 化 を 通 じて 中 国 経 済 のボトルネック 解 消 という 支 援 目 的 が 貫 かれていた 初 期 の 円 借 款 は 経 済 成 長 のボトルネック 解 消 のための 大 型 インフラ 建 設 ( 国 家 重 点 事 業 )を 日 本 の 資 金 と 技 術 を 導 入 して 行 うとの 明 確 な 政 策 意 図 に 基 づいており 中 国 の 統 借 統 還 という 体 制 で 実 施 された 第 3 次 円 借 款 (1990~95 年 度 )では 52 案 件 を 対 象 に8,100 億 円 が 供 与 された しか し 1989 年 の 天 安 門 事 件 で 日 本 政 府 は 対 中 ODA( 政 府 開 発 援 助 )を90 年 度 について 凍 結 すると 一 旦 発 表 したが 天 安 門 事 件 後 情 勢 の 安 定 化 を 受 け 年 末 に 対 中 ODA 供 与 を 再 開 した 12 月 6 日 に90 年 度 の 対 中 無 償 援 助 約 50 億 円 の 供 与 に 調 印 した 第 4 次 円 借 款 (1996~2000 年 度 )では 74 案 件 を 対 象 に 総 額 は9,698 億 3,400 万 円 が 供 与 された 今 回 の 対 象 分 野 は 市 場 経 済 化 からはずれた 課 題 への 対 処 として 環 境 重 視 ( 大 気 汚 染 対 策 水 質 汚 濁 対 策 植 林 事 業 等 )や 経 済 格 差 対 策 などとされた 単 年 度 方 式 への 見 直 しと 対 中 円 借 款 の 卒 業 中 国 が 急 速 な 経 済 成 長 を 遂 げ 軍 備 拡 張 や 途 上 国 への 巨 額 援 助 が 政 府 与 党 内 で 問 題 と なり 日 本 政 府 が 見 直 しに 着 手 した (4) 見 直 しには 2001 年 以 降 従 来 の 複 数 年 度 方 式 から 毎 年 に 事 業 内 容 を 審 議 するという 単 年 度 式 へと 変 更 し 支 援 の 重 点 を 沿 海 部 のインフラ 整 備 から 内 陸 部 の 環 境 保 護 事 業 に 移 すなどの 内 容 が 含 まれた さらに 小 泉 政 権 下 の05 年 4 月 の 日 中 外 相 会 談 で 新 規 の 円 借 款 を08 年 の 北 京 五 輪 前 に 終 了 することで 両 国 が 合 意 した 2001 年 度 ~2003 年 度 の 対 中 円 借 款 の 事 業 内 容 2001 年 度 2002 年 度 2003 年 度 陝 西 省 西 安 市 環 境 整 備 計 画 遼 寧 省 鞍 山 市 総 合 環 境 整 備 計 画 山 西 省 太 原 市 総 合 環 境 整 備 計 画 重 慶 市 環 境 整 備 計 画 北 京 市 環 境 整 備 計 画 寧 夏 回 族 自 治 区 植 林 植 草 計 画 山 西 省 西 龍 池 揚 水 発 電 所 建 設 計 画 陝 西 省 人 材 育 成 計 画 甘 粛 省 人 材 育 成 計 画 四 川 省 人 材 育 成 計 画 重 慶 市 人 材 育 成 計 画 雲 南 省 人 材 育 成 計 画 湖 南 省 人 材 育 成 計 画 甘 粛 省 地 方 道 路 整 備 計 画 湖 南 省 地 方 道 路 整 備 計 画 河 南 省 大 気 環 境 改 善 計 画 安 徽 省 大 気 環 境 改 善 計 画 湖 北 省 宜 昌 市 水 環 境 整 備 計 画 広 西 チワン 族 自 治 区 南 寧 市 水 環 境 整 備 計 画 甘 粛 省 植 林 植 草 計 画 内 蒙 古 自 治 区 植 林 植 草 計 画 内 陸 部 人 材 育 成 計 画 ( 地 域 活 性 化 交 流 市 場 ルール 強 化 環 境 保 全 ) 湖 南 省 環 境 整 備 生 活 改 善 計 画 公 衆 衛 生 基 礎 施 設 整 備 計 画 江 西 省 植 林 計 画 湖 北 省 植 林 計 画 内 蒙 古 自 治 区 フ フホト 市 水 環 境 整 備 計 画 内 陸 部 人 材 育 成 計 画 ( 地 域 活 性 化 交 流 市 場 ルー ル 強 化 環 境 保 全 ) 放 送 施 設 整 備 計 画 出 所 : 外 務 省 ホームページ(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda) 88
2007 年 以 降 円 借 款 は 終 了 したが 日 本 の 対 中 ODAは 続 いており その 多 くが 環 境 協 力 に 供 与 されている 円 借 款 をはじめとする 日 本 の 対 中 政 府 開 発 援 助 は 中 国 の 改 革 開 放 を 支 援 し 市 場 経 済 化 と 経 済 成 長 に 貢 献 した また 対 中 政 府 開 発 援 助 は 日 中 関 係 ひいてはアジア 太 平 洋 地 域 を 安 定 化 させるうえでも 大 きな 意 義 がある 3 日 本 の 対 中 直 接 投 資 アメリカ 東 南 アジアから 中 国 へ 日 本 の 海 外 直 接 投 資 は 1985 年 のプラザ 合 意 を 契 機 として 生 じた 急 激 な 円 高 により アメリカおよび 東 南 アジアを 中 心 に 急 速 に 増 加 した これに 伴 って 日 本 企 業 は 国 内 生 産 を 海 外 現 地 生 産 へシフトさせていった 海 外 直 接 投 資 の 主 力 は 1990 年 代 初 めまで 東 アジアのNIEs4( 香 港 台 湾 シンガポール 韓 国 )とASEAN4(マレーシア インド ネシア タイ フィリピン)に 置 かれていた 1990 年 代 以 降 日 本 の 直 接 投 資 は 中 国 へ 向 けるようになった その 背 景 には 東 南 アジア 諸 国 の 人 手 不 足 や 賃 金 の 上 昇 と 1992 年 以 降 の 中 国 の 改 革 開 放 の 加 速 などがあった 日 本 の 対 中 投 資 ブーム 1978 年 中 国 の 改 革 開 放 以 降 日 本 の 対 中 直 接 投 資 は 1980 年 代 後 半 期 1990 年 代 後 半 期 2000 年 代 前 半 という3 回 のブームを 引 き 起 こした 2005 年 をピークに 対 中 直 接 投 資 の 件 数 と 金 額 はともに 減 少 傾 向 が 続 いていた しかし 09 年 から 日 本 の 対 中 投 資 は 反 転 増 加 に 転 じた 中 国 商 務 部 によると 2011 年 1~10 月 の 中 国 の 実 質 外 資 導 入 額 は 約 950 億 ドルで 前 年 同 期 比 15.8% 増 だった 中 でも 米 国 イギリス フランスからの 投 資 がそれぞれ 14.4% 1.7% 24% 減 に 対 して 日 本 からの 投 資 が65.5%(57 億 ドル)の 大 幅 増 で 2010 年 の 規 模 を 上 回 った その 理 由 として 次 の2 点 が 挙 げられる 第 1には 国 内 では 電 力 不 足 懸 念 と 超 円 高 のため 対 内 投 資 の 環 境 がよくない 海 外 で はアメリカ 欧 州 の 経 済 低 迷 などで 輸 出 不 振 が 続 いている そのため 日 本 企 業 は 海 外 投 資 特 に 経 済 好 調 な 中 国 への 投 資 を 積 極 的 に 行 っている 第 2には 中 国 進 出 日 系 企 業 の 資 金 需 要 によるものと 考 えられる 日 本 貿 易 振 興 機 構 (ジェトロ)によると 2011 年 の 日 本 の 対 中 投 資 には 製 造 業 が 大 規 模 な 投 資 プロジェク トをスタートさせたこと 輸 送 機 械 の 部 品 メーカーが 中 国 に 進 出 したこと 大 手 企 業 が 中 国 業 務 経 営 本 部 を 設 立 したこと 企 業 が 生 産 拠 点 を 上 海 市 や 江 蘇 省 といった 東 部 地 域 に 拡 大 したことに 特 徴 がある これらのいずれの 投 資 プロジェクトも 十 分 な 資 金 が 必 要 であ る 例 えば 今 年 に 入 って 武 田 製 薬 工 業 神 戸 製 鋼 所 などが 中 国 事 業 拡 大 へ 戦 略 を 立 案 す 89
る 統 括 会 社 を 相 次 いで 立 ち 上 げ 自 動 車 用 シート 大 手 のタチエスが 日 産 自 動 車 向 けの 合 弁 会 社 を 設 立 した (5) 日 本 からの 対 中 直 接 投 資 120 3,500 100 契 約 額 実 行 額 3,000 契 約 額 実 行 額 / 億 ド ル 80 60 40 件 数 2,500 2,000 1,500 1,000 件 数 20 500 0 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 0 年 度 出 所 : 日 中 投 資 促 進 機 構 が 作 成 ( 中 国 商 務 省 データにより) 対 中 投 資 の 構 造 変 化 日 本 企 業 の 進 出 先 を 地 域 別 に 見 ると 長 江 デルタ 地 域 を 中 心 として 沿 海 地 域 に 集 中 し ている 分 野 としては 製 造 業 が 中 心 となっている そのうち80 年 代 は 電 気 機 械 サービス 業 90 年 代 は 電 機 商 業 サービス 業 不 動 産 業 が 多 かった 2002 年 以 降 は 電 機 が 横 這 いになる 一 方 自 動 車 が 大 半 を 占 める 輸 送 機 械 が 激 増 するという 流 れになっている 2000 年 からトヨタは 中 国 進 出 を 本 格 化 させた 現 在 中 国 進 出 のトヨタ 車 の 製 造 会 社 ( 車 両 組 立 )には 天 津 一 汽 豊 田 汽 車 有 限 公 司 四 川 一 汽 豊 田 汽 車 有 限 公 司 広 州 豊 田 汽 車 有 限 公 司 などがある 4 日 中 貿 易 の 拡 大 と 構 造 変 化 貿 易 相 手 国 :アメリカから 中 国 へ 日 中 貿 易 は 1978 年 の50 億 ドルから2008 年 の2664 億 ドルへと30 年 間 で50 倍 以 上 拡 大 した 最 近 の10 年 間 は5 倍 近 くも 拡 大 した(1998 年 の569 億 ドルから2008 年 の2664 億 ドル) 戦 後 長 い 間 において 日 本 にとって 最 大 の 貿 易 相 手 はアメリカであったが 06 年 から 中 国 になった 06 年 に 日 本 と 中 国 ( 香 港 台 湾 を 除 く)との 貿 易 総 額 は 前 年 比 16.5% 増 の25 兆 4276 億 円 で 戦 後 初 めて 米 国 を 上 回 り 世 界 最 大 になった(07 年 財 務 省 90
統 計 ) 日 本 の 対 世 界 貿 易 に 占 める 各 国 ( 貿 易 相 手 国 )シェアを 見 ると 1990 年 に アメ リカ27.4% 中 国 3.5% 2006 年 に アメリカ16.1% 中 国 17.7% 2009 年 現 在 アメリカ 12.8% 中 国 20.5% 日 米 と 日 中 の 間 の 格 差 が 拡 大 している 日 中 貿 易 の 拡 大 は 対 中 直 接 投 資 によって 牽 引 されている 面 が 大 きい つまり 製 造 の 最 終 工 程 である 組 立 て 加 工 は 中 国 で 行 っても そのために 必 要 な 高 性 能 の 部 品 や 素 材 は 多 く が 日 本 から 輸 入 され その 完 成 品 は 多 くが 日 本 へ 輸 出 されたのである ( 総 額 ) 3,500 日 中 貿 易 の 推 移 (%) 50.0 3,000 2,500 2,000 1,680 1,894 2,367 2,114 2,664 2,322 3,019 40.0 30.0 20.0 1,500 1,324 10.0 1,000 500 228 289 379 462 579 624 639 569 662 857 892 1,016 0.0 10.0 0 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 20.0 総 額 輸 出 伸 び 率 輸 入 伸 び 率 出 所 :ジェトロが 作 成 ( 財 務 省 貿 易 統 計 ) 日 中 貿 易 の 構 造 変 化 1980 年 代 において 対 中 輸 入 は 主 に 原 油 石 炭 軽 工 業 品 対 中 輸 出 は 機 械 類 鉄 鋼 化 学 などが 中 心 であった 2010 年 現 在 対 中 輸 入 では 雑 貨 (その 他 )30.8%に 加 えて 電 気 機 器 25.9% 一 般 機 械 16.8% これらの 機 械 類 を 合 計 すると 最 大 の42.7%と なる 他 方 対 中 輸 出 では 電 気 機 器 23.5% 一 般 機 械 22.4% 輸 送 用 機 器 10.2% 機 械 類 の 合 計 は56.1%でやはり 最 大 である そのほか 原 料 別 製 品 14.5% 化 学 製 品 12.9%も 比 較 的 大 きく 中 国 進 出 日 系 企 業 による 素 材 類 の 調 達 がその 一 つの 原 因 と 考 えられる おわりに 日 本 経 済 の 活 性 化 のために 中 国 経 済 の 活 力 を 取 り 込 む 必 要 がある 一 方 中 国 の 持 続 可 能 な 発 展 と 産 業 構 造 の 高 度 化 などの 課 題 に 日 本 の 優 れた 技 術 が 必 要 となる 今 後 日 本 と 中 国 の 経 済 関 係 は 好 むと 好 まざるとにかかわらず 今 後 も 強 まっていくに 違 いない ところ 91
が 日 中 の 経 済 関 係 において 政 治 的 な 問 題 が 絡 むことも 少 なくない 例 えば 東 シナ 海 の 海 底 ガス 田 開 発 や 尖 閣 問 題 などを 巡 る 海 洋 資 源 と 主 権 の 問 題 FTA( 地 域 自 由 貿 易 協 定 )やTPP( 環 太 平 洋 パートナーシップ)を 巡 る 貿 易 自 由 化 と 主 導 権 争 いの 問 題 が そ の 例 である この 種 の 問 題 を 適 切 に 解 決 することは 日 中 の 経 済 関 係 を 安 定 化 させるには 必 要 不 可 欠 である 註 (1) 2011 年 12 月 22 日 に 公 開 した 日 本 外 務 省 の 外 交 文 書 によると ニクソン 米 大 統 領 の1971 年 7 月 の 訪 中 電 撃 発 表 に 先 立 つ 同 年 2 月 ごろ 中 国 の 周 恩 来 首 相 が 藤 山 愛 一 郎 元 外 相 と 会 談 し 日 中 国 交 回 復 促 進 議 員 連 盟 の 会 長 だった 藤 山 氏 は 71 年 2 月 下 旬 から3 月 上 旬 にかけて 北 京 を 訪 問 し 周 首 相 と 会 談 した 周 首 相 は 藤 山 氏 に 米 国 は 変 わり 身 が 早 い 中 共 ( 中 国 )との 関 係 に おいては 米 国 が 先 行 して 日 本 が 取 り 残 されるのではないか と 米 国 との 和 解 を 示 唆 してい た( 時 事 通 信 2011 年 12 月 22 日 ) (2) 政 府 開 発 援 助 ODAホームページ( 国 別 地 域 別 政 策 情 報 / 東 アジア 地 域 : 対 中 ODA) (3) 21 世 紀 中 国 総 研 (2003) (4) 岡 田 (2008) (5) 日 本 経 済 新 聞 (2011.11.17) 参 考 文 献 稲 垣 清 (2010) 一 目 でわかる 中 国 進 出 企 業 地 図 蒼 蒼 社 岡 田 実 (2008) 日 中 関 係 とODA 対 中 ODAをめぐる 政 治 外 交 史 入 門 日 本 僑 報 社 外 務 省 ( 各 年 版 ) 政 府 開 発 援 助 (ODA) 白 書 外 務 省 ホームページ (http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo.html) 田 村 重 信 小 枝 義 人 豊 島 典 雄 (2000) 日 華 断 交 と 日 中 国 交 正 常 化 南 窓 社 21 世 紀 中 国 総 研 (2003 年 ) 中 国 情 報 ハンドブック 蒼 蒼 社 21 世 紀 中 国 総 研 ( 各 年 版 ) 中 国 進 出 企 業 地 図 日 系 企 業 業 種 別 編 蒼 蒼 社 林 祐 一 (2008) 日 中 外 交 交 流 回 想 録 関 懐 過 去 探 望 将 来 日 本 僑 報 社 渡 辺 利 夫 三 浦 有 史 (2003) ODA( 政 府 開 発 援 助 ) 日 本 に 何 ができるか 中 公 新 書 92