平 成 25 年 7 月 5 日 判 決 言 渡 平 成 24 年 ( 行 ウ) 第 17 号 加 給 年 金 額 対 象 者 不 該 当 処 分 取 消 請 求 事 件 主 文 1 厚 生 労 働 大 臣 が 原 告 に 対 し 平 成 22 年 6 月 16 日 付 けでしたAを 老 齢 厚 生 年 金 加 給 年 金 額 対 象 者 としない 旨 の 処 分 を 取 り 消 す 2 訴 訟 費 用 は 被 告 の 負 担 とする 事 実 及 び 理 由 第 1 請 求 主 文 同 旨 第 2 事 案 の 概 要 1 事 案 の 骨 子 本 件 は, 原 告 が, 厚 生 年 金 保 険 法 ( 以 下 厚 年 法 という ) 附 則 8 条 による 特 別 支 給 の 老 齢 厚 生 年 金 ( 以 下 特 老 厚 生 年 金 という )の 受 給 権 を 取 得 し た 当 時,Aと 内 縁 関 係 にあったとして, 厚 生 労 働 大 臣 に 対 し,Aを 厚 年 法 44 条 1 項 所 定 の 配 偶 者 に 係 る 加 給 年 金 額 の 対 象 者 とした 老 齢 厚 生 年 金 退 職 共 済 年 金 加 給 年 金 額 加 算 開 始 事 由 該 当 届 ( 以 下 本 件 該 当 届 という )を 提 出 したところ,Aを 上 記 加 給 年 金 額 の 対 象 者 としない 旨 の 処 分 ( 以 下 本 件 処 分 という )を 受 けたことから, 被 告 に 対 し,その 取 消 しを 求 める 事 案 である 2 関 係 法 令 の 定 め 老 齢 厚 生 年 金 について 厚 年 法 42 条 は, 老 齢 厚 生 年 金 は, 原 則 として, 被 保 険 者 期 間 を 有 する 者 が165 歳 以 上 であり,2 保 険 料 納 付 済 期 間 及 び 保 険 料 免 除 期 間 を 合 算 した 期 間 が25 年 以 上 である 場 合 に 支 給 されると 規 定 している なお, 厚 年 法 附 則 8 条 は, 当 分 の 間,65 歳 未 満 の 者 が,160 歳 以 上 で あること,21 年 以 上 の 被 保 険 者 期 間 を 有 すること,3 保 険 料 納 付 済 期 間 と 保 険 料 免 除 期 間 とを 合 算 した 期 間 が25 年 以 上 であること,のいずれにも 該
当 するに 至 ったときは,その 者 に 老 齢 厚 生 年 金 ( 特 老 厚 生 年 金 )を 支 給 する と 規 定 している 加 給 年 金 額 の 加 算 について ア 加 給 年 金 額 が 加 算 される 要 件 厚 年 法 44 条 1 項 は, 老 齢 厚 生 年 金 の 額 につき, 原 則 として 受 給 権 者 が その 権 利 を 取 得 した 当 時,その 者 によって 生 計 を 維 持 していたその 者 の6 5 歳 未 満 の 配 偶 者 があるときは, 同 法 43 条 に 定 める 額 に 加 給 年 金 額 を 加 算 した 額 とすると 規 定 している そして, 厚 年 法 44 条 5 項 は, 同 条 1 項 の 適 用 上, 配 偶 者 が 老 齢 厚 生 年 金 の 受 給 権 者 によって 生 計 を 維 持 していた こと( 以 下, 配 偶 者 が 老 齢 厚 生 年 金 の 受 給 権 者 によって 生 計 を 維 持 してい たことを 生 計 維 持 要 件 という )の 認 定 に 関 し 必 要 な 事 項 を 政 令 で 定 め ると 規 定 している イ 配 偶 者 について 上 記 アの 配 偶 者 について, 厚 年 法 3 条 2 項 は, 婚 姻 の 届 出 をしてい ないが 事 実 上 婚 姻 関 係 と 同 様 の 事 情 にある 者 も 含 むと 規 定 している 生 計 維 持 要 件 の 認 定 に 関 し 必 要 な 事 項 について 厚 年 法 44 条 5 項 の 規 定 を 受 け, 厚 生 年 金 保 険 法 施 行 令 3 条 の5 第 1 項 1 号 は, 老 齢 厚 生 年 金 の 受 給 権 者 によって 生 計 を 維 持 していた 配 偶 者 につ き, 当 該 老 齢 厚 生 年 金 の 受 給 権 者 がその 権 利 を 取 得 した 当 時,その 受 給 権 者 と 生 計 を 同 じくしていた 者 であって( 以 下, 配 偶 者 の 上 記 生 計 の 同 一 性 に 係 る 要 件 を 生 計 同 一 要 件 という ), 厚 生 労 働 大 臣 の 定 める 金 額 以 上 の 収 入 を 将 来 にわたって 有 すると 認 められる 者 以 外 のもの( 以 下, 配 偶 者 の 上 記 収 入 に 係 る 要 件 を 収 入 要 件 という )などと 規 定 している 3 前 提 となる 事 実 以 下 の 事 実 は, 当 事 者 間 に 争 いがないか, 後 掲 の 証 拠 及 び 弁 論 の 全 趣 旨 によ り 容 易 に 認 めることができる
当 事 者 等 ア 原 告 は, 昭 和 年 月 日 に 出 生 した 男 性 である( 甲 11) イ 原 告 は, 昭 和 59 年 5 月 7 日, 韓 国 国 籍 を 有 する 外 国 人 であるBと 婚 姻 の 届 出 をしたが,Bは, 昭 和 62 年 11 月 7 日 に 本 邦 から 出 国 した 後, 現 在 に 至 るまで 所 在 が 不 明 である( 乙 12,13, 弁 論 の 全 趣 旨 ) ウ Aは, 昭 和 年 月 日 に 出 生 した 女 性 である( 甲 22) エ 原 告 とBについては, 平 成 23 年 1 月 15 日 に 離 婚 の 裁 判 が 確 定 し, 原 告 とAは, 同 年 9 月 1 日, 婚 姻 の 届 出 をした( 甲 4,11, 弁 論 の 全 趣 旨 ) 原 告 とAの, 住 民 票 上 の 住 所 の 変 遷 ア 原 告 は, 平 成 元 年 3 月 25 日 付 けで, 住 民 票 上 の 住 所 を, 大 阪 府 豊 中 市 α 番 14 号 に 異 動 した( 乙 14) イ Aは, 平 成 8 年 2 月 19 日 付 けで, 住 民 票 上 の 住 所 を, 大 阪 府 豊 中 市 β 番 17 号 から 原 告 の 上 記 住 所 地 に 異 動 した( 乙 15) ウ 原 告 は, 平 成 19 年 2 月 6 日 付 けで, 住 民 票 上 の 住 所 を, 兵 庫 県 尼 崎 市 γ 番 地 C 号 に 異 動 し,Aは, 同 月 13 日 付 けで, 住 民 票 上 の 住 所 を 同 所 に 異 動 した( 乙 14,15) 本 件 処 分 に 至 る 経 緯 ア 原 告 は, 平 成 6 年 11 月 2 日, 社 会 保 険 庁 長 官 に 対 して, 特 老 厚 生 年 金 を 受 ける 権 利 の 裁 定 を 請 求 した( 乙 6) イ 社 会 保 険 庁 長 官 は, 同 年 12 月 8 日 付 けで, 上 記 アの 裁 定 請 求 に 対 して, 受 給 権 の 発 生 日 を 年 月 日, 年 金 額 の 計 算 の 基 礎 となる 厚 生 年 金 保 険 の 被 保 険 者 期 間 を300 月 とする 特 老 厚 生 年 金 を 受 ける 権 利 の 裁 定 をした ( 乙 6) ウ 原 告 は, 平 成 22 年 1 月 19 日 (ただし 受 付 日 ), 厚 生 労 働 大 臣 に 対 し, 特 老 厚 生 年 金 の 受 給 権 を 取 得 した 日 ( 平 成 年 月 日 )において, 加 給 年 金 額 の 対 象 となる 配 偶 者 があったとして,Aを 対 象 者 とする 本 件 該 当 届
を 提 出 した( 乙 5) エ 厚 生 労 働 大 臣 は, 平 成 22 年 6 月 16 日 付 けで, 本 件 該 当 届 について, 老 齢 厚 生 年 金 の 受 給 権 を 取 得 した 当 時 生 計 を 維 持 していた 配 偶 者 と 認 められない として,Aが 加 給 年 金 額 対 象 者 に 該 当 しない 旨 の 処 分 ( 本 件 処 分 )をした( 甲 1) 不 服 申 立 て 及 び 本 件 訴 訟 の 提 起 ア 原 告 は, 本 件 処 分 を 不 服 として, 平 成 22 年 7 月 9 日, 近 畿 厚 生 局 社 会 保 険 審 査 官 に 対 して 審 査 請 求 をしたが( 乙 9), 同 審 査 官 は 同 年 9 月 16 日, 原 告 の 審 査 請 求 を 棄 却 する 決 定 をした( 甲 3) イ 原 告 は, 上 記 審 査 官 の 棄 却 決 定 を 不 服 として, 同 年 10 月 25 日, 社 会 保 険 審 査 会 に 対 して, 再 審 査 請 求 をしたが( 乙 10), 社 会 保 険 審 査 会 は, 平 成 23 年 7 月 29 日, 原 告 の 再 審 査 請 求 を 棄 却 する 裁 決 をした( 甲 2) ウ 原 告 は, 平 成 24 年 1 月 26 日, 本 件 訴 訟 を 提 起 した( 顕 著 な 事 実 ) 厚 年 法 3 条 2 項 の 事 実 上 婚 姻 関 係 と 同 様 の 事 情 について 昭 和 55 年 5 月 16 日 庁 保 発 第 15 号 通 知 事 実 婚 関 係 の 認 定 について は, 厚 年 法 3 条 2 項 の 事 実 上 婚 姻 関 係 と 同 様 の 事 情 とは, 婚 姻 の 届 出 を 欠 くが, 社 会 通 念 上, 夫 婦 としての 共 同 生 活 と 認 められる 事 実 関 係 ( 内 縁 関 係 )をいい,1 当 事 者 間 に, 社 会 通 念 上, 夫 婦 の 共 同 生 活 と 認 められる 事 実 関 係 を 成 立 させようとする 合 意 があること,2 当 事 者 間 に, 社 会 通 念 上, 夫 婦 の 共 同 生 活 と 認 められる 事 実 関 係 が 存 在 することが 必 要 であるとしている そして, 届 出 による 婚 姻 関 係 にある 者 が 重 ねて 他 の 者 と 内 縁 関 係 にある 場 合, 届 出 による 婚 姻 関 係 を 優 先 すべきであり, 届 出 による 婚 姻 関 係 がその 実 体 を 全 く 失 ったものとなっているときに 限 り, 内 縁 関 係 にある 者 を 事 実 上 婚 姻 関 係 と 同 様 の 事 情 にある 者 として 認 定 するものとしている ( 乙 11) 生 計 維 持 要 件 について 昭 和 61 年 4 月 30 日 庁 保 険 発 第 29 号 通 知 生 計 維 持 関 係 等 の 認 定 基 準
及 び 認 定 の 取 扱 いについて は, 生 計 維 持 要 件 の 認 定 基 準 として, 生 計 同 一 要 件 と 収 入 要 件 を 次 のとおり 定 めている( 乙 11) ア 生 計 同 一 要 件 について 次 のア~ウなどに 該 当 する 配 偶 者 については 生 計 同 一 関 係 を 認 定 す る ア 住 民 票 上 同 一 世 帯 に 属 しているとき イ 住 民 票 上 世 帯 を 異 にしているが, 住 所 が 住 民 票 上 同 一 であるとき ウ 住 所 が 住 民 票 上 異 なっているが, 現 に 起 居 を 共 にし,かつ, 消 費 生 活 上 の 家 計 を 一 つにしていると 認 められるとき イ 収 入 要 件 について 次 のいずれかに 該 当 する 配 偶 者 は, 厚 生 労 働 大 臣 の 定 める 金 額 ( 年 額 8 50 万 円 ) 以 上 の 収 入 を 将 来 にわたって 有 すると 認 められる 者 以 外 の 者 に 該 当 するものとする ア 前 年 の 収 入 が 年 額 850 万 円 未 満 であること イ 前 年 の 所 得 が 年 額 655.5 万 円 未 満 であること ウ 一 時 的 な 所 得 があるときは,これを 除 いた 後, 上 記 ア 又 はイに 該 当 すること エ 上 記 のア,イ 又 はウに 該 当 しないが, 定 年 退 職 等 の 事 情 により 近 い 将 来 収 入 が 年 額 850 万 円 未 満 又 は 所 得 が 年 額 655.5 万 円 未 満 となることが 認 められること 4 争 点 及 び 争 点 に 関 する 当 事 者 の 主 張 本 案 前 の 争 点 は, 訴 えの 利 益 があるかである 本 案 の 争 点 は, 本 件 処 分 の 違 法 性 (Aが 原 告 によって 生 計 を 維 持 していた 原 告 の 配 偶 者 に 当 たるか)である これらについての 当 事 者 の 主 張 は 以 下 のとおりである 本 案 前 の 争 点 について ( 被 告 の 主 張 )
平 成 19 年 法 律 第 111 号 の 施 行 日 前 に 同 法 による 改 正 前 の 厚 年 法 に 基 づ き 保 険 給 付 を 受 ける 権 利 を 取 得 した 者 の 支 分 権 については, 会 計 法 30 条 及 び31 条 の 規 定 が 適 用 され, 権 利 を 行 使 できるとき( 同 法 31 条 2 項, 民 法 166 条 1 項 ),すなわち 各 支 払 期 月 の 翌 月 の 初 日 ( 厚 年 法 36 条 3 項 参 照 ) を 起 算 日 として, 各 支 払 期 月 ごとに 消 滅 時 効 が 進 行 し,5 年 の 経 過 により, 順 次, 援 用 を 要 せずに 時 効 消 滅 するものと 解 される 本 件 でも,Aが 厚 年 法 44 条 1 項 所 定 の 配 偶 者 に 係 る 加 給 年 金 額 の 対 象 者 に 該 当 するとしても,Aは 平 成 年 月 日 に65 歳 に 達 することから, 同 年 8 月 分 までの 支 分 権 しか 発 生 しないところ,この 同 月 分 の 支 分 権 は,その 支 払 期 である 同 年 10 月 の 翌 月 の 初 日 である 同 年 11 月 1 日 を 起 算 点 として, 5 年 を 経 過 することにより 援 用 なくして 時 効 消 滅 する そして, 原 告 が 本 件 該 当 届 を 提 出 したのは 平 成 22 年 1 月 19 日 であるから,Aに 係 る 加 給 年 金 額 の 支 分 権 はその 時 点 で 既 に 全 て 消 滅 していたことになる そうすると, 仮 に,Aが 厚 年 法 44 条 1 項 による 配 偶 者 に 係 る 加 給 年 金 額 の 対 象 者 と 認 めら れ, 本 件 処 分 が 判 決 により 取 り 消 されたとしても,Aに 係 る 加 給 年 金 額 の 支 分 権 は 既 に 全 て 時 効 によって 消 滅 しているのであるから, 結 局, 裁 定 請 求 に よって 当 該 加 給 年 金 額 が 支 払 われることは 法 律 上 あり 得 ない したがって, 原 告 は, 本 件 処 分 の 取 消 しを 求 める 利 益 を 有 する 者 とはいえず, 本 件 訴 えは 不 適 法 であるから, 却 下 されるべきである ( 原 告 の 主 張 ) 原 告 は, 平 成 年 月 日 付 けで 特 老 厚 生 年 金 の 受 給 権 を 取 得 し, 同 年 1 0 月 支 給 分 から 同 年 金 を 受 給 しており,これにより 支 分 権 を 行 使 しているか ら, 時 効 の 中 断 が 生 じており,Aに 係 る 加 給 年 金 額 との 関 係 でも, 消 滅 時 効 が 進 行 することはない また, 原 告 は, 社 会 保 険 庁 長 官 に 対 し, 特 老 厚 生 年 金 を 受 ける 権 利 の 裁 定 を 請 求 した 際, 当 時 の 戸 籍 上 の 妻 を 申 告 したから, 社 会 保 険 庁 長 官 がこの 者
について 加 給 年 金 額 の 対 象 者 に 当 たるかどうかを 調 査 し 確 認 すれば, 原 告 が 当 時 既 にAと 内 縁 関 係 にあったことを 容 易 に 確 認 できたところ, 社 会 保 険 庁 長 官 はこれを 怠 った このように 社 会 保 険 庁 長 官 の 過 失 により, 原 告 が 加 給 年 金 額 を 受 け 取 れなかった 場 合 に, 被 告 が 消 滅 時 効 を 主 張 するのは 信 義 則 に 反 して 許 されないというべきである 本 案 の 争 点 について ( 原 告 の 主 張 ) Aは, 原 告 が 特 老 厚 生 年 金 の 受 給 権 を 取 得 した 平 成 年 月 日 当 時, 原 告 と 同 居 し, 内 縁 関 係 にあった 者 であり, 原 告 によってその 生 計 を 維 持 して いたのであるから, 加 給 年 金 額 の 対 象 者 となる 配 偶 者 に 該 当 する よって, Aを 加 給 年 金 額 の 対 象 者 と 認 めなかった 本 件 処 分 は, 事 実 誤 認 に 基 づくもの であり, 違 法 であるから 取 り 消 されるべきである ( 被 告 の 主 張 ) 原 告 が 特 老 厚 生 年 金 の 受 給 権 を 取 得 した 平 成 年 月 日 時 点 で,Aは, 原 告 の 世 帯 に 属 しておらず, 住 民 票 上 の 住 所 も 同 一 ではなかった したがっ て, 前 記 3 アの 生 計 同 一 要 件 の 認 定 基 準 に 照 らすと, 本 件 の 場 合 には, 現 に 起 居 を 共 にし,かつ, 消 費 生 活 上 の 家 計 を 一 つにしていると 認 められると き ( 同 ウ)に 該 当 するかが 問 題 となるところ, 本 件 該 当 届 の 受 理 に 伴 って 実 施 された 意 見 聴 取 の 結 果, 十 分 な 資 料 等 が 提 出 されることはなく, 同 要 件 を 満 たすものと 判 断 できなかった また, 本 件 訴 訟 においても, 原 告 は,こ れらを 認 めるのに 十 分 な 信 用 性 のある 証 拠 を 提 出 しておらず, 立 証 がないと いうべきである よって,Aは 原 告 によって 生 計 を 維 持 していた とは 認 められなかった ことから, 厚 生 労 働 大 臣 が 原 告 に 対 して,Aを 加 給 年 金 額 の 対 象 者 としない とした 本 件 処 分 は 適 法 である 第 3 当 裁 判 所 の 判 断
1 本 案 前 の 争 点 ( 訴 えの 利 益 があるか)について 老 齢 厚 生 年 金 の 加 給 年 金 額 加 算 開 始 事 由 該 当 届 の 提 出 は, 加 給 年 金 額 の 加 算 の 裁 定 請 求 の 性 質 を 有 し,これに 対 する 裁 定 行 為 によって, 加 算 の 始 期 や 加 算 額 等 が 公 的 に 確 認 され, 加 給 年 金 額 の 受 給 権 が 具 体 化 すると 解 するのが 相 当 で ある そうすると, 加 給 年 金 額 の 対 象 者 に 該 当 しない 旨 の 処 分 が 取 り 消 されれ ば, 上 記 のとおり 加 給 年 金 額 の 受 給 権 を 具 体 化 され 得 る 地 位 を 回 復 するのであ るから, 上 記 届 出 をした 者 は, 当 該 処 分 の 取 消 しを 求 める 利 益 を 有 するという べきである この 点, 被 告 は, 仮 にAが 加 給 年 金 額 の 対 象 者 に 該 当 するとしても, 受 給 し 得 た 加 給 年 金 額 の 支 分 権 は,いずれも 既 に 時 効 消 滅 しており, 本 件 処 分 を 取 り 消 しても 加 給 年 金 額 が 支 払 われることはないから, 原 告 は 本 件 処 分 の 取 消 しを 求 める 利 益 を 有 しないと 主 張 する しかしながら, 支 分 権 の 時 効 消 滅 の 効 果 は, 法 律 の 規 定 によって 生 ずるものであり, 厚 生 労 働 大 臣 の 処 分 によって 生 ずるも のではないから, 配 偶 者 が 加 給 年 金 額 の 対 象 者 に 該 当 しない 旨 の 処 分 の 取 消 訴 訟 等 において 具 体 的 な 支 分 権 の 時 効 消 滅 を 争 うことはできず,これが 時 効 消 滅 していないとしてその 支 払 を 求 める 場 合 には, 国 を 被 告 としてその 支 払 請 求 訴 訟 ( 行 政 事 件 訴 訟 法 4 条 )を 提 起 すべきと 解 されるところ( 厚 生 労 働 大 臣 は, 配 偶 者 が 加 給 年 金 額 の 対 象 者 となるべき 要 件 を 満 たしていた 特 老 厚 生 年 金 の 受 給 権 者 から 加 給 年 金 額 の 加 算 の 裁 定 請 求 がされた 場 合 には, 加 給 年 金 額 の 支 分 権 が 時 効 消 滅 していると 認 めるときであっても, 加 給 年 金 額 の 加 算 の 裁 定 を した 上 で, 年 金 時 効 特 例 法 に 該 当 する 場 合 を 除 き, 平 成 年 月 以 前 の 年 金 は, 時 効 消 滅 によりお 支 払 いはありません と 記 載 された 通 知 をしており ( 弁 論 の 全 趣 旨 ),このような 行 政 実 務 も, 上 記 の 考 え 方 に 沿 うものといえる ), このような 訴 訟 を 提 起 するためには, 前 提 として, 加 給 年 金 額 の 加 算 の 裁 定 に よって 加 給 年 金 額 の 受 給 権 が 具 体 化 していることが 必 要 であるから, 原 告 は, 配 偶 者 が 加 給 年 金 額 の 対 象 者 に 該 当 しない 旨 の 裁 定 ( 本 件 処 分 )の 取 消 しを 求
める 利 益 を 有 しており, 支 分 権 の 時 効 消 滅 を 理 由 に 当 該 利 益 を 否 定 することは できないというべきである よって, 被 告 の 上 記 主 張 は, 採 用 することができ ない 以 上 によれば, 本 件 については, 訴 えの 利 益 があるというべきである 2 本 案 の 争 点 (Aが 原 告 によって 生 計 を 維 持 していた 原 告 の 配 偶 者 に 当 たるか) について 認 定 事 実 後 掲 の 証 拠 及 び 弁 論 の 全 趣 旨 によると, 以 下 の 事 実 が 認 められる ア 原 告 とAは,いずれも 昭 和 62 年 7 月 2 日 から 昭 和 63 年 8 月 12 日 ま での 間,D 株 式 会 社 に 勤 務 していた( 甲 5,6) イ 昭 和 62 年 7 月 2 日 に 交 付 されたAの 年 金 手 帳 上, 同 人 の 氏 名 は E と 記 載 されていた なお, 氏 名 は, 平 成 5 年 12 月 1 日 付 けで F と 訂 正 されている ( 甲 8) ウ 原 告 とAは, 平 成 元 年 4 月 から 平 成 19 年 4 月 まで, 株 式 会 社 Gに, 大 阪 府 豊 中 市 α 番 14 号 所 在 のアパートであるHの 住 み 込 みの 管 理 人 とし て 雇 われた 原 告 は, 平 成 2 年 8 月 まではI 株 式 会 社 にも 勤 めていたが, 同 月 9 日 に 同 社 を 退 職 してからは, 時 々タクシーの 運 転 手 として 稼 働 しな がら Aとともに,Hの 管 理 人 の 仕 事 を 共 同 して 行 っていた なお, 株 式 会 社 Gの 代 表 取 締 役 の 妻 は, 平 成 元 年 当 時, 原 告 とAを 夫 婦 だと 思 ってい た ( 甲 5,7,10,14~17,23~26) エ 原 告 は, 平 成 6 年 7 月 頃, 大 阪 地 方 裁 判 所 に 自 己 破 産 の 申 立 てをしたが, 当 時, 原 告 は,HにおいてA 及 び 実 母 と 同 居 しており, 原 告 がタクシー 運 転 手 として 月 収 18 万 円 を,AがHの 管 理 人 として 月 収 4 万 円 を,それぞ れ 得 ていた( 甲 10,18) 事 実 認 定 の 補 足 説 明 この 点, 被 告 は, 原 告 やAらの 陳 述 書 ( 甲 14,17)は 反 対 尋 問 を 経 て
おらず 信 用 できないとか, 破 産 申 立 書 ( 甲 10)についても 裁 判 所 に 提 出 さ れたものかどうかも 確 認 できず 信 用 できないなどと 主 張 する しかし, 破 産 申 立 書 については, 弁 護 士 がその 職 責 の 下 に 説 明 した 作 成 経 緯 ( 甲 23,2 4)に 照 らして 信 用 できるのであって, 原 告 やAの 陳 述 書 の 内 容 も, 上 記 の とおり 信 用 できる 破 産 申 立 書 の 内 容 や,その 他 前 記 のような 客 観 的 事 実 とし ての 年 金 手 帳 の 記 載 ( 甲 8)や 職 歴 等 ( 甲 5,6)によって 裏 付 けられてい るといえるから,これらはいずれも 信 用 することができる 検 討 ア 配 偶 者 該 当 性 について 前 記 前 提 となる 事 実 のとおり, 原 告 の 法 律 上 の 妻 であったBは, 昭 和 6 2 年 に 本 邦 から 出 国 して 以 来, 所 在 不 明 であるから, 平 成 年 月 日 当 時, 原 告 とBとは 事 実 上 離 婚 状 態 にあったというべきである そして, 前 記 前 提 となる 事 実 及 び 認 定 事 実 によれば, 原 告 とAは, 同 日 当 時, 住 民 票 上 は 世 帯 又 は 住 所 を 同 一 にしていたものとは 認 められないが, 昭 和 62 年 7 月 には 同 時 にD 株 式 会 社 での 勤 務 を 始 め,Aが 社 会 保 険 事 務 所 という 公 的 機 関 に 対 してJ 姓 を 名 乗 っていたところ, 原 告 及 びAは,そ の 後, 株 式 会 社 Gに 雇 われ,Hの 管 理 人 として, 同 居 するようになり, 周 囲 からも 夫 婦 であると 認 識 されていた 上, 平 成 6 年 7 月 頃 には, 原 告 の 実 母 と3 人 で 同 居 し, 主 として 原 告 の 収 入 により 生 活 していたものと 認 めら れる そうすると, 平 成 年 月 日 当 時, 原 告 とAの 間 には,1 社 会 通 念 上, 夫 婦 の 共 同 生 活 と 認 められる 事 実 関 係 を 成 立 させようとする 合 意 があり, 2 社 会 通 念 上, 夫 婦 の 共 同 生 活 と 認 められる 事 実 関 係 が 存 在 するといえる から, 前 記 第 2の3の 通 知 の 基 準 によっても, 同 人 らは 内 縁 関 係 にあっ たといえ,Aは 原 告 の 配 偶 者 に 当 たる イ 生 計 維 持 要 件 について
上 記 のとおり, 原 告 とAは, 平 成 年 月 日 当 時,Hにおいて 同 居 し, 主 に 原 告 の 収 入 により 生 活 していたところ,Aの 収 入 はわずか4 万 円 程 度 であった( 前 記 (1)エ) そうすると, 当 時,Aは 原 告 と 現 に 起 居 を 共 に し,かつ, 消 費 生 活 上 の 家 計 を 一 つにしている と 認 められ,かつ,その 前 年 の 収 入 が 年 額 850 万 円 未 満 であること は 明 らかであるから, 前 記 第 2の3(6)の 通 知 の 基 準 によっても, 生 計 維 持 要 件 を 満 たすというべき である ウ まとめ よって,Aは, 原 告 によって 生 計 を 維 持 していた 原 告 の 配 偶 者 に 当 たる 3 結 論 以 上 の 次 第 で, 本 件 処 分 は,Aを 加 給 年 金 額 の 対 象 者 とするための 要 件 をい ずれも 満 たすにもかかわらず, 加 給 年 金 額 の 対 象 者 としなかった 違 法 があるか ら, 取 り 消 されるべきであり, 原 告 の 請 求 は 理 由 があるからこれを 認 容 するこ ととして, 主 文 のとおり 判 決 する 大 阪 地 方 裁 判 所 第 2 民 事 部 裁 判 長 裁 判 官 西 田 隆 裕 裁 判 官 山 本 拓
裁 判 官 佐 藤 し ほ り