裁 決 評 釈 源 泉 徴 収 制 度 と 確 定 申 告 制 度 - 取 り 消 された 配 当 に 係 る 所 得 税 の 源 泉 徴 収 と 申 告 等 の 手 続 との 関 係 裁 判 上 の 和 解 により 取 り 消 された 配 当 に 係 る 源 泉 所 得 税 について 申 告 等 の 手 続 により 還 付 を 求 めることはできないとした 事 例 ( 平 成 18 年 分 の 所 得 税 の 更 正 の 請 求 に 対 してされた 更 正 をすべき 理 由 がない 旨 の 通 知 処 分 棄 却 ) 国 税 不 服 審 判 所 平 成 24 年 12 月 20 日 裁 決 ( 裁 決 事 例 集 89 号 ) 仙 台 国 税 不 服 審 判 所 長 伊 藤 義 之 SUMMARY 源 泉 徴 収 と 確 定 申 告 を 巡 る 関 係 については 最 高 裁 平 成 4 年 2 月 18 日 第 三 小 法 廷 判 決 ( 平 成 4 年 最 高 裁 判 決 )により 源 泉 所 得 税 と 受 給 者 の 申 告 所 得 税 は 別 個 のものとして 成 立 確 定 するのであって 受 給 者 と 国 との 間 には 直 接 的 な 法 律 関 係 が 生 じないものとされているこ と( 最 高 裁 昭 和 45 年 12 月 24 日 第 一 小 法 廷 判 決 )などを 理 由 に 受 給 者 の 確 定 申 告 の 際 に 源 泉 所 得 税 の 徴 収 納 付 における 過 不 足 の 精 算 を 行 うことは 所 得 税 法 の 予 定 するところで はないとして 最 高 裁 として 初 めてその 精 算 を 否 定 する 旨 明 示 している ところで 相 続 税 が 課 された 生 命 保 険 契 約 等 に 基 づく 年 金 への 所 得 課 税 の 適 否 (いわゆる 生 命 保 険 年 金 二 重 課 税 訴 訟 )について 判 示 した 最 高 裁 平 成 22 年 7 月 6 日 第 三 小 法 廷 判 決 ( 本 件 最 高 裁 判 決 )においては もう 一 つの 争 点 であった 源 泉 徴 収 の 適 否 と 受 領 者 の 還 付 請 求 の 可 否 について 所 得 税 の 申 告 等 の 手 続 における 還 付 を 許 容 する 判 断 を 示 している 本 裁 決 は 本 件 最 高 裁 判 決 後 当 該 判 決 を 準 用 して 源 泉 所 得 税 に 係 る 是 正 ( 更 正 の 請 求 を 通 じた 源 泉 所 得 税 額 相 当 分 の 還 付 )を 求 めた 審 査 請 求 において 平 成 4 年 最 高 裁 判 決 を 踏 ま えて 請 求 人 の 主 張 を 棄 却 した 初 めての 事 案 であり 先 例 性 も 高 いことから 本 稿 において 当 該 事 案 を 取 り 上 げ 源 泉 徴 収 の 法 律 関 係 や 税 法 上 の 規 定 内 容 を 確 認 するとともに 過 去 の 主 な 裁 判 例 や 裁 決 事 例 をトレースし 同 裁 決 の 妥 当 性 について 検 討 及 び 検 証 を 行 うものである ( 平 成 26 年 12 月 26 日 税 務 大 学 校 ホームページ 掲 載 ) ( 税 大 ジャーナル 編 集 部 ) 本 内 容 については すべて 執 筆 者 の 個 人 的 見 解 であり 税 務 大 学 校 国 税 庁 あるいは 国 税 不 服 審 判 所 等 の 公 式 見 解 を 示 すものではありません 237
目 次 1 事 案 の 概 要 238 ⑴ 争 点 239 ⑵ 当 事 者 の 主 張 239 イ 請 求 人 の 主 張 239 ロ 原 処 分 庁 の 主 張 240 2 裁 決 の 要 旨 240 3 評 釈 240 ⑴ 源 泉 徴 収 の 法 律 関 係 と 税 法 上 の 規 定 の 概 要 240 ⑵ 源 泉 徴 収 制 度 を 巡 る 主 な 先 例 裁 判 例 及 び 裁 決 事 例 242 イ 最 高 裁 昭 和 45 年 12 月 24 日 第 一 小 法 廷 判 決 ( 民 集 24 巻 13 号 2243 頁 ) 242 ロ 最 高 裁 平 成 4 年 2 月 18 日 第 三 小 法 廷 判 決 ( 民 集 46 巻 2 号 77 頁 ) 243 ハ その 他 の 裁 判 例 及 び 裁 決 事 例 244 ニ 最 高 裁 平 成 22 年 7 月 6 日 第 三 小 法 廷 判 決 ( 民 集 64 巻 5 号 1277 頁 ) 244 ⑶ 本 裁 決 における 判 断 の 妥 当 性 について 246 イ 法 令 解 釈 246 ロ 当 てはめ 246 ハ 結 論 247 1 事 案 の 概 要 本 件 は 審 査 請 求 人 ( 以 下 請 求 人 とい う )が 裁 判 上 の 和 解 により 配 当 が 取 り 消 さ れたことを 受 けて 配 当 に 係 る 収 入 金 額 は 零 円 であり 源 泉 徴 収 をされた 所 得 税 の 額 は 確 定 申 告 書 記 載 の 額 であるから 還 付 金 の 額 に 相 当 する 税 額 が 過 少 であるとして 更 正 の 請 求 を したところ 原 処 分 庁 が 配 当 につき 源 泉 徴 収 をされた 所 得 税 の 額 は 請 求 人 の 所 得 税 額 の 計 算 において 算 出 所 得 税 額 から 控 除 できない から 還 付 金 の 額 に 相 当 する 税 額 が 過 少 である 場 合 には 当 たらないとして 更 正 をすべき 理 由 がない 旨 の 通 知 処 分 を 行 ったことに 対 し 請 求 人 がその 処 分 の 全 部 の 取 消 しを 求 めた 事 案 である なお 本 件 は 源 泉 徴 収 義 務 者 である 支 払 者 が 現 金 等 により 給 与 報 酬 を 支 給 する 事 案 ではなく 配 当 支 給 (しかも 不 動 産 を 現 物 支 給 )が 行 われた 事 案 であり 源 泉 所 得 税 相 当 分 を 請 求 人 が 配 当 受 領 後 に 支 払 者 に 支 払 い 支 払 者 により 国 へ 納 付 が 行 われたのであるが 後 日 支 払 者 に 対 する 破 産 手 続 開 始 決 定 がな され 破 産 管 財 人 による 破 産 法 上 の 否 認 権 に 基 づき 請 求 人 らに 対 する 訴 訟 提 起 がなされた ところ 結 果 的 に 本 件 和 解 により 配 当 が 取 り 消 され( 不 動 産 の 返 還 手 続 を 取 っている) 本 件 源 泉 所 得 税 について 支 払 者 ではなく 一 旦 配 当 を 受 領 した 請 求 人 自 身 の 申 告 等 の 手 続 によって 還 付 を 求 めた 特 異 な 事 案 であったこ とに 留 意 する 必 要 がある [ 請 求 人 と 源 泉 徴 収 義 務 者 である 支 払 者 と の 関 係 ] 請 求 人 は 平 成 18 年 10 月 日 に C 社 ( 以 下 C 社 という )から 会 社 法 第 453 条 株 238
主 に 対 する 剰 余 金 の 配 当 による 配 当 として 土 地 及 び 建 物 ( 以 下 本 件 土 地 等 という ) の 引 渡 しを 受 けた( 以 下 この 配 当 を 本 件 配 当 という ) 本 件 土 地 等 については D 地 方 法 務 局 e 支 局 において 受 付 年 月 日 平 成 18 年 10 月 日 受 付 番 号 第 号 原 因 を 平 成 18 年 10 月 1 日 贈 与 とする C 社 から 請 求 人 への 所 有 権 移 転 登 記 が 行 われたが その 後 登 記 原 因 に 錯 誤 があったとして 受 付 年 月 日 平 成 18 年 11 月 日 受 付 番 号 第 号 で 原 因 を 会 社 法 第 453 条 による 配 当 とする 所 有 権 更 正 登 記 が 行 われた 請 求 人 は 本 件 配 当 に 係 る 源 泉 徴 収 による 所 得 税 ( 以 下 本 件 源 泉 所 得 税 という )に 相 当 する 金 額 を C 社 に 支 払 った 請 求 人 が 提 出 した 確 定 申 告 書 には 平 成 18 年 分 配 当 剰 余 金 の 分 配 及 び 基 金 利 息 の 支 払 調 書 が 添 付 されており 当 該 支 払 調 書 の 配 当 等 の 金 額 欄 には 円 源 泉 徴 収 税 額 欄 には 円 及 び 支 払 者 の 名 称 欄 には C 社 と 記 載 されている C 社 は 平 成 20 年 12 月 日 に E 地 方 裁 判 所 に 対 し 破 産 手 続 開 始 を 申 し 立 てたところ 平 成 21 年 1 月 日 に 破 産 手 続 開 始 決 定 を 受 け 同 日 E 地 方 裁 判 所 は 破 産 管 財 人 ( 以 下 本 件 破 産 管 財 人 という )を 選 任 した 本 件 破 産 管 財 人 は 破 産 法 第 160 条 破 産 債 権 者 を 害 する 行 為 の 否 認 第 1 項 第 1 号 に 規 定 する 否 認 権 を 根 拠 として 平 成 22 年 3 月 日 に 請 求 人 他 1 法 人 を 被 告 とする 訴 訟 ( 以 下 本 件 訴 訟 という )を E 地 方 裁 判 所 に 提 起 した 本 件 訴 訟 は 平 成 23 年 10 月 日 に E 地 方 裁 判 所 において 和 解 ( 以 下 本 件 和 解 とい う )が 成 立 終 結 した 本 件 和 解 の 要 旨 は 原 告 ( 本 件 破 産 管 財 人 )は 本 件 配 当 を 取 り 消 す 被 告 ( 請 求 人 )は 平 成 18 年 10 月 日 D 地 方 法 務 局 e 支 局 受 付 第 号 により 本 件 土 地 等 についてされている C 社 から 被 告 ( 請 求 人 ) への 所 有 権 移 転 登 記 について 配 当 取 消 を 原 因 とする 抹 消 登 記 手 続 をする である 本 件 土 地 等 については 平 成 23 年 11 月 日 D 地 方 法 務 局 e 支 局 において 受 付 番 号 第 号 原 因 を 平 成 23 年 10 月 27 日 配 当 取 消 として 請 求 人 の 所 有 権 抹 消 登 記 がなされた ⑴ 争 点 本 件 源 泉 所 得 税 は 本 件 和 解 後 においても 所 得 税 法 第 120 条 確 定 所 得 申 告 第 1 項 第 5 号 に 規 定 する 源 泉 徴 収 をされた 又 はされ るべき 所 得 税 の 額 に 該 当 することを 理 由 に 本 件 更 正 の 請 求 により 還 付 を 受 けることがで きるか 否 か ⑵ 当 事 者 の 主 張 イ 請 求 人 の 主 張 (イ) 源 泉 徴 収 はあくまでも 申 告 納 税 制 度 を 補 足 するものとして 位 置 付 けられ 源 泉 徴 収 された 税 額 は 所 得 税 法 第 120 条 第 1 項 第 5 号 の 規 定 により 確 定 申 告 で 精 算 さ れることになる 本 件 の 場 合 は 所 得 税 法 第 181 条 源 泉 徴 収 義 務 の 規 定 に 基 づいて 本 件 源 泉 所 得 税 が 適 法 に 徴 収 納 付 され 請 求 人 はそれに 基 づいて 適 法 に 確 定 申 告 書 を 提 出 していたところ そ の 後 C 社 が 破 産 手 続 開 始 決 定 を 受 け 破 産 管 財 人 が 訴 訟 を 提 起 することとなり 本 件 和 解 が 成 立 した 結 果 本 件 配 当 の 全 部 が 取 り 消 されたものである 本 件 和 解 を 受 けて 本 件 配 当 の 全 部 が 取 り 消 された 事 実 ( 以 下 本 件 事 実 という )は 国 税 通 則 法 ( 以 下 通 則 法 という ) 第 23 条 更 正 の 請 求 第 2 項 第 1 号 の 後 発 的 事 由 に 該 当 するから 本 件 源 泉 所 得 税 は 所 得 税 法 第 120 条 第 1 項 第 5 号 の 規 定 に 基 づいて 精 算 されるべきものである (ロ) 最 高 裁 平 成 22 年 7 月 6 日 第 三 小 法 廷 判 決 ( 平 成 20 年 ( 行 ヒ) 第 16 号 )( 以 下 本 件 最 高 裁 判 決 という )の 主 旨 は 239
課 税 処 分 の 取 消 しであり 法 的 には 本 件 と 同 じである 本 件 最 高 裁 判 決 は 適 法 に 源 泉 徴 収 されていれば 年 金 の 受 給 者 が 申 告 等 の 手 続 により 直 接 還 付 を 受 けるこ とを 認 めたものであり 源 泉 徴 収 義 務 者 である 生 命 保 険 会 社 に 還 付 しようとする ものではない 所 得 税 法 第 207 条 源 泉 徴 収 義 務 の 生 命 保 険 契 約 等 に 基 づく 年 金 に 係 る 源 泉 徴 収 の 規 定 も 同 法 第 181 条 の 利 子 所 得 及 び 配 当 所 得 に 係 る 源 泉 徴 収 の 規 定 も 同 じ 源 泉 徴 収 体 系 の 中 にあり 源 泉 徴 収 義 務 の 規 定 も 同 一 性 格 のもので ある 本 件 源 泉 所 得 税 は 適 法 に 徴 収 納 付 されていたもので 請 求 人 は 適 法 に 平 成 18 年 分 の 確 定 申 告 を 行 っていたと ころ 判 決 と 同 一 の 効 力 を 有 する 本 件 和 解 により 本 件 配 当 が 取 り 消 されたもので あるから 本 件 最 高 裁 判 決 を 準 用 し 請 求 人 は 本 件 源 泉 所 得 税 を 申 告 等 の 手 続 に より 精 算 できるものである ロ 原 処 分 庁 の 主 張 (イ) 本 件 の 場 合 は 納 付 の 時 には 適 法 な 国 税 の 納 付 であったものが その 後 に 本 件 和 解 により 本 件 配 当 そのものが 取 り 消 さ れたため 源 泉 徴 収 義 務 者 である 支 払 者 が 納 付 した 税 額 が 超 過 納 付 となったもの であり 超 過 納 付 となった 金 員 はその 国 税 を 納 付 した 源 泉 徴 収 義 務 者 たる 支 払 者 に 対 して 還 付 すべきものである した がって 本 件 和 解 後 の 本 件 配 当 に 係 る 源 泉 所 得 税 の 額 は 円 ではなく 零 円 となるから 請 求 人 に 係 る 所 得 税 法 第 120 条 第 1 項 第 5 号 に 規 定 する 源 泉 徴 収 をされた 又 はされるべき 所 得 税 の 額 は 社 会 保 険 庁 からの 年 金 に 係 る 源 泉 徴 収 税 額 円 となる これにより 請 求 人 の 課 税 標 準 等 及 び 税 額 等 を 計 算 す ると 本 件 事 実 に 基 づき 請 求 人 の 課 税 標 準 等 又 は 税 額 等 の 計 算 の 基 礎 に 変 更 が 生 じているものの 通 則 法 第 23 条 第 1 項 の 還 付 金 の 額 に 相 当 する 税 額 が 過 少 であ るときに 該 当 しない (ロ) 本 件 最 高 裁 判 決 は 所 得 税 法 第 181 条 に 規 定 する 源 泉 徴 収 の 対 象 となる 配 当 そ のものが 取 り 消 された 本 件 とは 事 情 を 異 にするものである 2 裁 決 の 要 旨 請 求 人 は 本 件 和 解 により 取 り 消 された 本 件 配 当 に 係 る 本 件 源 泉 所 得 税 は 所 得 税 法 第 181 条 の 規 定 に 基 づいて 適 法 に 徴 収 納 税 さ れたものであるから 適 法 に 源 泉 徴 収 された 年 金 について 受 給 者 が 申 告 等 の 手 続 で 精 算 す ることを 認 めた 本 件 最 高 裁 判 決 を 準 用 し 申 告 等 の 手 続 によって 精 算 できる 旨 主 張 する しかしながら 本 件 和 解 により 本 件 配 当 が 取 り 消 された 後 は 本 件 配 当 はその 支 払 の 時 点 まで 遡 って 無 効 となるのであるから 所 得 税 法 第 181 条 の 源 泉 徴 収 義 務 の 適 用 対 象 とな らず 本 件 源 泉 所 得 税 は 同 法 第 120 条 第 1 項 第 5 号 の 源 泉 徴 収 をされた 又 はされるべ き 所 得 税 の 額 には 該 当 しない また 本 件 最 高 裁 判 決 は 生 命 保 険 契 約 等 に 基 づく 年 金 に 係 る 源 泉 徴 収 義 務 について 判 断 したもので あり 源 泉 徴 収 義 務 についての 法 令 の 根 拠 が なくなった 源 泉 所 得 税 についてまでも 申 告 等 の 手 続 においてその 精 算 を 認 めたものではな い 3 評 釈 ⑴ 源 泉 徴 収 の 法 律 関 係 と 税 法 上 の 規 定 の 概 要 最 高 裁 昭 和 45 年 12 月 24 日 第 一 小 法 廷 判 決 は 納 税 告 知 処 分 を 巡 り 源 泉 所 得 税 に 関 する 法 律 関 係 のうち 支 払 者 と 国 支 払 者 と 受 給 者 との 間 の 問 題 に 関 するものであったが 受 給 者 と 国 との 関 係 に 関 して 問 題 となった 最 高 裁 平 成 4 年 2 月 18 日 第 三 小 法 廷 判 決 ( 以 下 平 成 4 年 最 高 裁 判 決 という )が 出 さ れる 以 前 において 国 が 受 給 者 の 確 定 申 告 に 対 して 行 った 更 正 処 分 に 対 する 抗 告 訴 訟 とし 240
て 受 給 者 と 国 との 関 係 の 問 題 が 初 めて 正 面 からクローズアップされた (1) と 言 われている 東 京 高 裁 昭 和 55 年 10 月 27 日 判 決 ( 税 務 訴 訟 資 料 115 号 269 頁 ) 文 中 源 泉 徴 収 の 法 律 関 係 並 びに 受 給 者 の 所 得 税 法 上 の 規 定 におけ る 位 置 付 けについて 大 要 以 下 のとおり 説 示 し ている 源 泉 徴 収 の 法 律 関 係 について 見 るのに ( 一 ) 源 泉 徴 収 所 得 税 を 徴 収 して 納 付 する 義 務 は 納 税 義 務 であり( 国 税 通 則 法 15 条 1 項 ) 支 払 者 が 納 税 者 の 地 位 に 立 つ( 同 法 2 条 5 号 ) ( 二 ) 同 税 の 納 税 義 務 は 所 得 の 支 払 の 時 に 成 立 し( 同 法 15 条 2 項 2 号 ) その 税 額 は 右 成 立 と 同 時 に 特 別 の 手 続 を 要 しないで 確 定 する( 同 法 15 条 3 項 2 号 ) ( 三 ) 支 払 者 は 源 泉 徴 収 をすべき 所 得 を 支 払 う 際 法 定 の 所 得 税 を 徴 収 し 法 定 期 限 迄 に 国 に 納 付 しなければならない( 所 得 税 法 181 条 以 下 ) ( 四 ) 徴 収 義 務 者 たる 支 払 者 が 法 定 納 付 期 限 までに 右 税 を 納 付 しない ときは 税 務 署 長 は 支 払 者 に 対 する 納 税 告 知 によりこれを 徴 収 するが( 所 得 税 法 221 条 国 税 通 則 法 36 条 1 項 2 号 ) 右 納 税 告 知 処 分 は 課 税 処 分 ではなく 徴 収 処 分 で あり 徴 収 の 一 段 階 としての 履 行 の 請 求 で ある と 解 される ( 五 ) 支 払 者 は 源 泉 徴 収 所 得 税 の 徴 収 納 付 義 務 の 存 否 又 は 範 囲 を 争 って 納 税 告 知 処 分 に 対 する 抗 告 訴 訟 を 提 起 し 得 るほか これに 合 せて 又 は 別 個 に 右 徴 収 納 付 義 務 の 全 部 又 は 一 部 の 不 存 在 確 認 の 訴 を 提 起 することができる ( 六 ) 支 払 者 が 源 泉 徴 収 をしていなかった 場 合 において 右 ( 四 )により 徴 収 され 又 は 期 限 後 に 納 付 したときは 受 給 者 に 対 し その 税 額 に 相 当 する 金 額 を 爾 後 の 支 払 分 か ら 控 除 するか 又 は 右 金 額 を 求 償 すること ができる( 所 得 税 法 222 条 ) ( 七 ) 右 ( 四 ) の 納 税 告 知 処 分 は 徴 収 処 分 であって 支 払 者 の 納 税 義 務 の 存 否 範 囲 は 右 処 分 の 前 提 問 題 たるにすぎないから 支 払 者 において これに 対 する 不 服 申 立 をせず 又 これをし て 排 除 されたとしても 受 給 者 の 源 泉 納 税 義 務 の 存 否 範 囲 にはいかなる 影 響 も 及 し 得 るものではなく 従 って 受 給 者 は 支 払 者 から 右 ( 六 )の 求 償 権 の 行 使 を 受 けたと きは 自 己 において 源 泉 納 税 義 務 を 負 わな いこと 又 はその 義 務 の 範 囲 を 争 って 支 払 者 の 請 求 の 全 部 又 は 一 部 を 拒 むことができ 又 右 の 次 の 支 払 分 からの 控 除 を 受 けたとき は 残 余 の 支 払 のみでは 債 務 の 一 部 不 履 行 であるとして 右 控 除 にかかる 債 務 の 履 行 を 請 求 することができると 解 される 概 ね このような 法 律 関 係 にあるものと 認 められ る また 右 に 見 たような 基 本 構 造 を 有 す る 現 行 の 源 泉 徴 収 制 度 の 下 においては 国 ( 税 務 官 庁 )と 直 接 の 関 係 に 立 つものは 支 払 者 であって 本 来 の 所 得 税 納 税 義 務 者 たる 受 給 者 は 制 度 上 も 法 律 上 も 国 と 直 接 の 関 係 に 立 つものではないと 考 えられるが この 点 については 更 に 所 得 税 法 の 規 定 に 即 して 検 討 する 必 要 がある まず 同 法 138 条 によると 確 定 申 告 に 伴 う 受 給 者 の 還 付 請 求 が 認 められ この 場 合 受 給 者 は 国 と 直 接 の 法 律 関 係 に 立 つというべきであるが 右 はその 都 度 適 切 な 源 泉 徴 収 の 手 続 が 終 了 した 後 の 段 階 で 源 泉 徴 収 された 税 額 の 合 計 額 が 暦 年 経 過 後 他 の 所 得 も 合 算 した 年 間 総 所 得 に 対 応 する 算 出 税 額 を 上 廻 る 場 合 に 受 給 者 に 還 付 請 求 権 を 認 めることによ りその 間 の 直 截 の 解 決 調 整 をはかるための ものであると 解 される つぎに 給 与 所 得 に 係 る 源 泉 徴 収 においては 年 末 調 整 がな される( 同 法 190 条 ないし 193 条 ) これ は 暦 年 一 年 間 に 源 泉 徴 収 した 所 得 税 額 の 合 計 額 と その 年 中 に 支 給 された 給 与 額 に ついて 正 確 に( 特 に 諸 控 除 を 勘 案 して) 計 算 した 所 定 の 年 税 額 とを その 年 の 最 後 の 給 与 支 払 の 際 に 対 比 して 過 不 足 を 計 算 し これを 過 納 額 を 生 じた 時 は 年 末 の 給 与 に 対 する 源 泉 徴 収 税 額 をそれ 丈 減 額 し 又 は 241
還 付 し 不 足 額 を 生 じたときは 年 末 の 給 与 から 通 常 の 源 泉 徴 収 税 額 に 加 算 して 徴 収 することによってその 間 を 清 算 調 整 するも のであるが これに 当 る 者 は 支 払 者 であっ て 受 給 者 が 直 接 関 与 することはない 最 後 に 受 給 者 が 同 法 の 規 定 により 確 定 申 告 をする 場 合 (これに 当 るものは 確 定 申 告 が 義 務 付 けられている 場 合 及 び 医 療 費 控 除 雑 損 控 除 を 受 ける 場 合 のように 年 末 調 整 が 予 定 されていないか 右 でまかなえない 場 合 である)について 考 える 右 確 定 申 告 に おいては 源 泉 徴 収 の 対 象 となった 給 与 等 の 所 得 は 他 の 所 得 と 合 せて 課 税 総 所 得 金 額 を 構 成 し 他 方 右 給 与 等 の 所 得 について 源 泉 徴 収 をし 又 はされるべき 所 得 税 額 は 算 出 税 額 から 控 除 することとされているか ら( 同 法 120 条 1 項 ) 源 泉 徴 収 の 段 階 で 徴 収 納 付 された 所 得 税 額 を 申 告 納 税 の 段 階 で 更 めて 取 込 んだうえ 再 計 算 すること になる これは 所 得 税 の 確 定 申 告 におい ては 暦 年 末 を 基 準 として 年 間 における 所 得 のすべてを 総 合 して 計 上 したうえ 税 率 を 適 用 して 税 額 を 算 出 し これから 別 途 納 付 した 税 額 を 控 除 して 納 付 すべき 税 額 が 確 定 することになっていることによるもの であるが(いわゆる 年 税 主 義 総 合 課 税 主 義 累 進 税 率 ) 源 泉 所 得 税 の 納 税 義 務 者 その 成 立 確 定 の 時 期 手 続 は 右 1 にみたと おりであって 申 告 所 得 税 のそれと 全 く 異 るから 右 両 者 は 従 って 右 両 租 税 債 務 は 法 律 上 同 一 性 がないものというべきである このように 源 泉 所 得 税 の 申 告 所 得 税 との 間 に 同 一 性 がない 以 上 右 再 計 算 にあたって 両 者 の 間 の 清 算 調 整 がなされ 得 る 余 地 はな く 右 再 計 算 は 受 給 者 の 申 告 所 得 税 額 を 算 出 するための 計 算 関 係 にすぎないものとい うべく また 前 記 控 除 項 目 としての 源 泉 徴 収 をし 又 はされるべき 所 得 税 額 とは 法 上 正 当 に 徴 収 された 又 は 徴 収 されるべ きそれを 言 うものと 解 するのが 相 当 である 以 上 のとおりであって 確 定 申 告 に 際 して の 計 算 関 係 の 中 には 源 泉 徴 収 所 得 税 の 過 不 足 を 受 給 者 の 申 告 所 得 税 と 関 連 させて 清 算 調 整 する 機 能 は 存 しないというべきであ る ( 下 線 は 筆 者 が 挿 入 ) ⑵ 源 泉 徴 収 制 度 を 巡 る 主 な 先 例 裁 判 例 及 び 裁 決 事 例 イ 最 高 裁 昭 和 45 年 12 月 24 日 第 一 小 法 廷 判 決 ( 民 集 24 巻 13 号 2243 頁 ) 判 決 要 旨 は 以 下 のとおり (イ) 源 泉 徴 収 による 所 得 税 についての 納 税 の 告 知 は 徴 収 処 分 であって 課 税 処 分 で はない (ロ) 支 払 者 は 源 泉 徴 収 による 所 得 税 の 徴 収 納 付 義 務 の 存 否 または 範 囲 を 争 って 納 税 の 告 知 ( 徴 収 処 分 )に 対 する 抗 告 訴 訟 を 提 起 することができ また これに あわせてまたはこれと 別 個 に 右 徴 収 納 付 義 務 の 存 否 または 範 囲 を 訴 訟 上 確 定 させるため 右 義 務 の 全 部 または 一 部 の 不 存 在 確 認 の 訴 を 提 起 することができる (ハ) 受 給 者 は 源 泉 徴 収 による 所 得 税 を 税 務 署 長 から 徴 収 されまたは 期 限 後 に 納 付 した 支 払 者 から その 税 額 に 相 当 する 金 額 につき 求 償 権 の 行 使 を 受 けたときは 自 己 の 負 担 すべき 源 泉 納 税 義 務 の 存 否 ま たは 範 囲 を 争 って 支 払 者 の 請 求 を 拒 む ことができる (ニ) 源 泉 徴 収 による 所 得 税 を 税 務 署 長 から 徴 収 されまたは 期 限 後 に 納 付 した 支 払 者 の 受 給 者 に 対 する 求 償 権 は 右 所 得 税 の 本 税 相 当 額 についてのみ 行 使 することが でき 附 帯 税 相 当 額 には 及 ばない 本 判 決 は 源 泉 徴 収 の 法 律 関 係 及 びそれ を 巡 る 訴 訟 の 形 式 について 支 払 者 受 給 者 の 権 利 救 済 を 十 分 配 慮 し 詳 細 に 説 示 し た 基 本 判 例 であると 言 われ その 理 論 構 成 の 特 色 としては 納 税 告 知 を 徴 収 処 分 とし て 性 格 決 定 することにより 納 税 告 知 が 確 定 しても 支 払 者 の 納 税 義 務 の 成 立 と 税 額 242
が 不 動 のものとならないことになり 受 給 者 は 支 払 者 の 支 払 請 求 ( 所 得 税 法 第 222 条 ) を 拒 みうるとして 一 般 論 としての 行 政 処 分 の 公 定 力 との 理 論 的 整 合 性 を 保 ちつ つ 本 来 の 源 泉 納 税 義 務 者 である 受 給 者 の 権 利 利 益 の 保 護 の 要 請 を 確 保 して いる 点 にあるとされている (2) (3) ロ 最 高 裁 平 成 4 年 2 月 18 日 第 三 小 法 廷 判 決 ( 民 集 46 巻 2 号 77 頁 ) 判 決 要 旨 は 以 下 のとおり 給 与 等 の 受 給 者 が 支 払 者 により 誤 って 所 得 税 の 源 泉 徴 収 をされた 場 合 において 当 該 年 分 の 所 得 税 の 額 から 右 誤 徴 収 額 を 控 除 して 確 定 申 告 することはできない 本 判 決 文 中 源 泉 徴 収 制 度 における 国 と 給 与 支 払 者 そして 給 与 所 得 者 の 三 者 の 法 律 関 係 について 明 確 に 判 示 がなされてい るところ 判 決 文 を 引 用 し これらの 関 係 を 確 認 する 右 の[ 筆 者 注 所 得 税 法 ]120 条 1 項 5 号 にいう 源 泉 徴 収 をされた 又 はされ るべき 所 得 税 の 額 とは 所 得 税 法 の 源 泉 徴 収 の 規 定 ( 第 四 編 )に 基 づき 正 当 に 徴 収 をされた 又 はされるべき 所 得 税 の 額 を 意 味 するものであり 給 与 その 他 の 所 得 についてその 支 払 者 がした 所 得 税 の 源 泉 徴 収 に 誤 りがある 場 合 に その 受 給 者 が 右 確 定 申 告 の 手 続 において 支 払 者 が 誤 って 徴 収 した 金 額 を 算 出 所 得 税 額 か ら 控 除 し 又 は 右 誤 徴 収 額 の 全 部 若 しくは 一 部 の 還 付 を 受 けることはできないもの と 解 するのが 相 当 である けだし 所 得 税 法 上 源 泉 徴 収 による 所 得 税 ( 以 下 源 泉 所 得 税 という )について 徴 収 納 付 の 義 務 を 負 う 者 は 源 泉 徴 収 の 対 象 となる べき 所 得 の 支 払 者 とされ 原 判 示 のとお り その 納 税 義 務 は 当 該 所 得 の 受 給 者 に 係 る 申 告 所 得 税 の 納 税 義 務 とは 別 個 の ものとして 成 立 確 定 し これと 並 存 す るものであり そして 源 泉 所 得 税 の 徴 収 納 付 に 不 足 がある 場 合 には 不 足 分 について 税 務 署 長 は 源 泉 徴 収 義 務 者 た る 支 払 者 から 徴 収 し(221 条 ) 支 払 者 は 源 泉 納 税 義 務 者 たる 受 給 者 に 対 して 求 償 すべきものとされており(222 条 ) また 源 泉 所 得 税 の 徴 収 納 付 に 誤 りがある 場 合 には 支 払 者 は 国 に 対 し 当 該 誤 納 金 の 還 付 を 請 求 することができ( 国 税 通 則 法 56 条 ) 他 方 受 給 者 は 何 ら 特 別 の 手 続 を 経 ることを 要 せず 直 ちに 支 払 者 に 対 し 本 来 の 債 務 の 一 部 不 履 行 を 理 由 とし て 誤 って 徴 収 された 金 額 の 支 払 を 直 接 に 請 求 することができるのである( 最 高 裁 昭 和 43 年 (オ) 第 258 号 同 45 年 12 月 24 日 第 一 小 法 廷 判 決 民 集 24 巻 13 号 2243 頁 参 照 ) このように 源 泉 所 得 税 と 申 告 所 得 税 との 各 租 税 債 務 の 間 には 同 一 性 がなく 源 泉 所 得 税 の 納 税 に 関 して は 国 と 法 律 関 係 を 有 するのは 支 払 者 の みで 受 給 者 との 間 には 直 接 の 法 律 関 係 を 生 じないものとされていることからす れば 前 記 源 泉 徴 収 税 額 の 控 除 の 規 定 は 申 告 により 納 付 すべき 税 額 の 計 算 に 当 た り 算 出 所 得 税 額 から 右 源 泉 徴 収 の 規 定 に 基 づき 徴 収 すべきものとされている 所 得 税 の 額 を 控 除 することとし これによ り 源 泉 徴 収 制 度 との 調 整 を 図 る 趣 旨 のも のと 解 されるのであり 右 税 額 の 計 算 に 当 たり 源 泉 所 得 税 の 徴 収 納 付 におけ る 過 不 足 の 清 算 を 行 うことは 所 得 税 法 の 予 定 するところではない のみならず 給 与 等 の 支 払 を 受 けるに 当 たり 誤 って 源 泉 徴 収 をされた( 給 与 等 を 不 当 に 一 部 天 引 控 除 された) 受 給 者 は その 不 足 分 を 即 時 かつ 直 接 に 支 払 者 に 請 求 して 追 加 支 払 を 受 ければ 足 りるのであるから 右 の ように 解 しても その 者 の 権 利 救 済 上 支 障 は 生 じないものといわなければならな い 本 判 決 は 解 釈 上 疑 義 のあった 所 得 税 法 243
第 120 条 第 1 項 第 5 号 の 源 泉 徴 収 をされ た 又 はされるべき 金 額 という 文 言 の 意 義 についての 解 釈 を 示 しつつ 源 泉 所 得 税 と 受 給 者 の 申 告 所 得 税 は 別 個 のものとして 成 立 確 定 するのであってその 間 に 同 一 性 が ないこと また 源 泉 所 得 税 の 納 税 に 関 し て 支 払 者 のみが 国 と 法 律 関 係 を 有 するので あって 受 給 者 と 国 との 間 には 直 接 的 な 法 律 関 係 が 生 じないものとされていること ( 最 高 裁 昭 和 45 年 12 月 24 日 第 一 小 法 廷 判 決 民 集 24 巻 13 号 2243 頁 )などを 理 由 に 受 給 者 の 確 定 申 告 の 際 に 源 泉 所 得 税 の 徴 収 納 付 における 過 不 足 の 清 算 を 行 うことは 所 得 税 法 の 予 定 するところでは ない として 確 定 申 告 時 における 源 泉 所 得 税 の 徴 収 納 付 に 係 る 過 不 足 額 の 精 算 が 否 定 される( 消 極 説 )ことを 最 高 裁 判 所 と して 初 めて 明 示 し 学 説 上 は 積 極 説 が 多 数 占 めていた 中 で 実 務 上 の 解 釈 の 争 いに 一 応 の 決 着 をつけたものと 言 われている (4) (5) (6) ハ その 他 の 裁 判 例 及 び 裁 決 事 例 (イ) 岡 山 地 裁 平 成 16 年 3 月 23 日 判 決 ( 税 資 254 号 順 号 9604) 仮 に 原 告 の 主 張 するように 原 告 が 支 払 者 に 対 し 源 泉 徴 収 の 誤 徴 収 部 分 につき 返 還 請 求 しても 支 払 者 が 容 易 に 応 じない と 予 想 される 場 合 であったとしても そ れは 支 払 者 と 受 給 者 間 の 事 実 上 の 問 題 で あって そもそも 原 告 は 国 に 対 し 直 接 その 清 算 を 求 める 返 還 請 求 権 を 有 し ないのであるから 原 告 の 主 張 [ 筆 者 注 所 得 税 法 120 条 1 項 5 号 の 控 除 すべき 源 泉 徴 収 税 額 は 現 実 に 徴 収 された 源 泉 徴 収 税 額 であるとするもの]は 採 用 できない (ロ) 国 税 不 服 審 判 所 平 成 18 年 11 月 27 日 裁 決 ( 裁 決 事 例 集 72 巻 246 頁 ) 所 得 税 法 第 120 条 第 1 項 第 3 号 に 掲 げ る 算 出 所 得 税 額 から 控 除 すべき 同 項 第 5 号 に 規 定 する 源 泉 徴 収 をされた 又 はさ れるべき 所 得 税 の 額 とは 所 得 税 法 の 源 泉 徴 収 の 規 定 に 基 づき 正 当 に 徴 収 さ れた 又 はされるべき 所 得 税 の 額 を 意 味 す るものであり 給 与 その 他 の 所 得 につい てその 支 払 者 がした 所 得 税 の 源 泉 徴 収 に 誤 りがある 場 合 に その 受 給 者 が 所 得 税 の 確 定 申 告 の 手 続 において 支 払 者 が 誤 って 徴 収 した 金 額 を 算 出 所 得 税 額 から 控 除 し 又 は 誤 徴 収 額 の 全 部 若 しくは 一 部 の 還 付 を 受 けることはできないと 解 する のが 相 当 である( 最 高 裁 平 成 4 年 2 月 18 日 第 三 小 法 廷 判 決 民 集 46 巻 2 号 77 頁 参 照 ) (ハ) 国 税 不 服 審 判 所 平 成 19 年 1 月 12 日 裁 決 ( 裁 決 事 例 集 73 巻 312 頁 ) 源 泉 所 得 税 の 納 税 に 関 し 国 と 法 律 関 係 を 有 するのは 徴 収 義 務 者 のみで その 所 得 の 受 給 者 との 間 には 直 接 の 法 律 関 係 を 生 じるものではなく また その 所 得 の 受 給 者 が 徴 収 されるべき 源 泉 所 得 税 を 確 定 申 告 により 納 税 することはできない のであるから 受 給 者 の 確 定 申 告 によっ て 請 求 人 の 源 泉 徴 収 義 務 が 消 滅 するこ とはない ニ 最 高 裁 平 成 22 年 7 月 6 日 第 三 小 法 廷 判 決 ( 民 集 64 巻 5 号 1277 頁 ) 判 決 要 旨 ( 但 し 源 泉 徴 収 関 係 部 分 のみ 抜 粋 )は 以 下 のとおり 所 得 税 法 ( 平 成 18 年 法 律 第 10 号 による 改 正 前 のもの) 第 207 条 所 定 の 生 命 保 険 契 約 等 に 基 づく 年 金 の 支 払 をする 者 は 当 該 年 金 が 同 法 の 定 める 所 得 として 所 得 税 の 課 税 対 象 となるか 否 かにかかわらず その 支 払 の 際 その 年 金 について 同 法 第 208 条 所 定 の 金 額 を 徴 収 し これを 所 得 税 として 国 に 納 付 する 義 務 を 負 う 本 件 最 高 裁 判 決 は 年 金 払 特 約 付 き 生 命 保 険 契 約 の 被 保 険 者 兼 保 険 料 負 担 者 であっ た 夫 の 死 亡 により 保 険 会 社 からの 保 険 金 244
としての 年 金 の 支 払 を 受 けた 妻 X( 原 告 被 控 訴 人 上 告 人 )が 税 務 署 長 からその 年 金 に 対 して 所 得 税 を 課 す 旨 の 更 正 処 分 を 受 けたため 当 該 年 金 は 相 続 税 法 第 3 条 相 続 又 は 遺 贈 により 取 得 したものとみなす 場 合 第 1 項 第 1 号 のみなし 相 続 財 産 として 所 得 税 法 ( 平 成 22 年 法 律 第 6 号 による 改 正 前 のもの) 第 9 条 非 課 税 所 得 第 1 項 第 15 号 ( 現 第 16 号 )の 非 課 税 所 得 に 当 た ると 主 張 して その 取 消 しを 求 めた 事 件 (い わゆる 生 命 保 険 年 金 二 重 課 税 訴 訟 )である 国 側 は 仮 に 当 該 年 金 に 所 得 税 を 課 すこと ができないとした 場 合 には 生 命 保 険 会 社 が 本 件 年 金 についてした 源 泉 徴 収 は 誤 りで あったことになり Xの 申 告 所 得 税 の 計 算 に 当 たってその 誤 って 徴 収 された 金 額 を 差 し 引 くことはできない(Xとしては 生 命 保 険 会 社 に 対 して 誤 徴 収 額 相 当 の 未 払 年 金 の 支 払 を 請 求 すべきである)から このこと を 前 提 として 計 算 しなおせば 当 該 更 正 処 分 は 結 果 的 に 適 法 なものとなると 主 張 した この 主 張 に 対 し 本 件 最 高 裁 判 決 は 上 記 判 決 要 旨 のとおり 判 断 を 示 し 生 命 保 険 会 社 が 本 件 年 金 についてした 源 泉 徴 収 は 適 法 であって Xの 申 告 所 得 税 の 計 算 に 当 たり その 徴 収 金 額 を 差 し 引 くことは 許 されると した そのため 本 件 最 高 裁 判 決 が 確 定 申 告 時 における 源 泉 所 得 税 の 徴 収 納 付 に 係 る 過 不 足 額 の 精 算 を 否 定 した 平 成 4 年 最 高 裁 判 決 と 相 反 する 判 断 なのではないか 平 成 4 年 最 高 裁 判 決 の 射 程 は 及 ばないのかと いった 種 々の 議 論 や 判 例 評 釈 があるが 本 件 最 高 裁 判 決 は 生 命 保 険 会 社 が 源 泉 徴 収 した 額 は 適 法 に 支 払 がなされた 年 金 に 対 し 所 得 税 法 の 規 定 に 基 づき 正 当 に 徴 収 され た 所 得 税 の 額 であると 判 断 した 上 で 確 定 申 告 時 の 精 算 を 認 めているのであって こ の 点 からすれば 平 成 4 年 最 高 裁 判 決 の 事 案 は 支 払 者 が 誤 って 法 令 の 根 拠 なく 源 泉 徴 収 をしたことになるから 適 法 に 源 泉 徴 収 が 行 われた 本 件 とは 事 案 が 異 なると 判 断 したものと 考 えられる (7) ほか 本 件 最 高 裁 判 決 は 支 払 者 にとって 源 泉 徴 収 の 対 象 と なるものと 受 給 者 にとって 所 得 税 の 課 税 対 象 となるものとの 間 における 乖 離 を 認 めた 上 で 支 払 者 が 正 しく 所 得 税 法 第 207 条 に したがって 源 泉 徴 収 している 金 額 は それ が 受 給 者 にとって 課 税 所 得 となるか 否 かを 問 わず 所 得 税 法 の 源 泉 徴 収 の 規 定 ( 第 4 編 )に 基 づき 正 当 に 徴 収 された 又 はされる べき 所 得 税 の 額 であるという 論 理 にした がって 確 定 申 告 時 における 源 泉 所 得 税 の 徴 収 納 付 に 係 る 過 不 足 額 の 精 算 を 認 めた ものであって 本 判 決 の 判 示 を 否 定 するも のではない (8) との 見 解 がある なお その 判 断 理 由 について 最 高 裁 調 査 官 は 1 給 与 所 得 等 に 関 する 所 得 税 法 183 条 1 項 等 の 規 定 が 源 泉 徴 収 の 対 象 を 同 法 の 定 める 課 税 所 得 に 限 る 旨 を 明 示 してい るのに 対 し 同 法 207 条 の 規 定 がその 旨 を 明 示 していないという 文 理 上 の 理 由 と 2 本 判 決 の 考 え 方 によれば 生 命 保 険 契 約 等 に 基 づく 年 金 の 中 に 所 得 税 が 課 される 年 金 とそうでない 年 金 とがあり 更 に 1 つの 年 金 の 中 にも 所 得 税 の 課 税 対 象 となる 部 分 とそうでない 部 分 とがあることになり こ れらを 細 かく 仕 分 けさせることが 支 払 者 の 手 間 と 費 用 を 増 大 させる 結 果 にもなりかね ないことから 一 律 に 所 得 税 法 207 条 208 条 を 適 用 し 確 定 申 告 において 個 別 に 精 算 させるのが 相 当 であるとの 実 質 上 の 理 由 に よるものと 考 えられる (9) と 述 べている また 本 件 最 高 裁 判 決 の 判 断 については 源 泉 徴 収 制 度 の 基 本 ないし 所 得 税 法 等 の 各 規 定 ( 特 に 所 得 税 法 第 120 条 第 1 項 第 5 号 ) との 関 係 において 問 題 であるのみならず 非 課 税 であるのに 何 故 源 泉 徴 収 の 対 象 となり その 還 付 を 受 けるために 別 途 確 定 申 告 の 手 続 を 採 らねばならないのか 245
という 素 朴 な 納 税 者 感 情 からの 疑 問 があり 支 払 者 ( 源 泉 徴 収 義 務 者 )と 受 給 者 ( 源 泉 納 税 義 務 者 )との 間 で 年 金 債 務 の 履 行 に 関 わる 紛 争 を 生 じるおそれがあるなどのこ とからすると 生 命 保 険 契 約 等 に 基 づく 年 金 の 支 払 に 係 る 源 泉 徴 収 に 関 し その 廃 止 を 含 め 早 急 に 手 当 をする 必 要 があるよう に 思 われる[ 筆 者 注 実 際 平 成 23 年 度 税 制 改 正 により 生 命 保 険 契 約 等 に 基 づく 年 金 に 係 る 源 泉 徴 収 義 務 を 定 めた 所 得 税 法 第 207 条 の 例 外 規 定 としての 同 法 第 209 条 源 泉 徴 収 を 要 しない 年 金 が 改 正 措 置 済 ] (10) とする 見 解 もともと 所 得 税 法 の 定 める 源 泉 徴 収 制 度 が 所 得 税 の 前 どりの 制 度 で あることにかんがみ 支 払 う 年 金 のうち 所 得 税 法 の 対 象 となる 部 分 についてのみ 源 泉 徴 収 義 務 が 生 ずると 解 すべきである (11) といった 見 解 もある ⑶ 本 裁 決 における 判 断 の 妥 当 性 について イ 法 令 解 釈 本 裁 決 の 法 令 解 釈 では 所 得 税 法 第 120 条 第 1 項 第 5 号 の 趣 旨 として 平 成 4 年 最 高 裁 判 決 を 引 用 し 所 得 税 法 第 120 条 第 1 項 第 5 号 にいう 源 泉 徴 収 をされた 又 はさ れるべき 所 得 税 の 額 とは 所 得 税 法 の 源 泉 徴 収 の 規 定 に 基 づき 正 当 に 徴 収 をされた 又 はされるべき 所 得 税 の 額 を 意 味 するもの であり 給 与 その 他 の 所 得 についてその 支 払 者 がした 所 得 税 の 源 泉 徴 収 に 誤 りがある 場 合 に その 受 給 者 が 所 得 税 の 確 定 申 告 の 手 続 において 支 払 者 が 誤 って 徴 収 した 金 額 を 算 出 所 得 税 額 から 控 除 し 又 は 当 該 誤 徴 収 額 の 全 部 若 しくは 一 部 の 還 付 を 受 ける ことはできないと 解 するのが 相 当 である と 述 べ 更 に 源 泉 徴 収 と 確 定 申 告 との 関 係 に 関 し 同 様 に 平 成 4 年 最 高 裁 判 決 を 引 用 し 所 得 税 法 上 源 泉 所 得 税 について 徴 収 納 税 の 義 務 を 負 う 者 は 源 泉 徴 収 の 対 象 となるべき 所 得 の 支 払 者 とされ その 納 税 義 務 は 当 該 所 得 の 受 給 者 に 係 る 申 告 所 得 税 の 納 税 義 務 とは 別 個 のものとして 成 立 確 定 し これと 並 存 するものであり そし て 源 泉 所 得 税 の 徴 収 納 付 に 不 足 がある 場 合 には 不 足 分 について 税 務 署 長 は 源 泉 徴 収 義 務 者 たる 支 払 者 から 徴 収 し( 所 得 税 法 第 221 条 ) 支 払 者 は 源 泉 納 税 義 務 者 たる 受 給 者 に 対 して 求 償 すべきものとされ ており( 同 法 第 222 条 ) また 源 泉 所 得 税 の 徴 収 納 付 に 誤 りがある 場 合 には 支 払 者 は 国 に 対 し 当 該 誤 納 金 の 還 付 を 請 求 す ることができ( 国 税 通 則 法 第 56 条 ) 他 方 受 給 者 は 何 ら 特 別 の 手 続 を 経 ることを 要 せず 直 ちに 支 払 者 に 対 し 本 来 の 債 務 の 一 部 不 履 行 を 理 由 として 誤 って 徴 収 された 金 額 の 支 払 を 直 接 に 請 求 することができ る と 述 べており 相 当 である そして 最 後 に 生 命 保 険 契 約 等 に 基 づ く 年 金 に 係 る 源 泉 徴 収 義 務 について 判 断 し た 本 件 最 高 裁 判 決 を 確 認 的 に 引 用 している ロ 当 てはめ 本 裁 決 では 本 件 和 解 により 本 件 配 当 が 取 り 消 された 後 は 本 件 配 当 は 当 該 支 払 の 時 点 に 遡 って 無 効 となって 本 件 配 当 には 所 得 税 法 第 24 条 第 1 項 が 適 用 されない そして 同 法 第 181 条 は 同 条 が 適 用 される 源 泉 徴 収 の 対 象 である 配 当 を 第 24 条 第 1 項 ( 配 当 所 得 )に 規 定 する 配 当 等 と 規 定 していることから 本 件 配 当 は 同 法 第 181 条 の 適 用 対 象 にもならない とした 上 で 上 記 の 法 令 解 釈 のとおり 平 成 4 年 最 高 裁 判 決 に 当 てはめ 所 得 税 法 第 120 条 第 1 項 第 5 号 にいう 源 泉 徴 収 をされた 又 はさ れるべき 所 得 税 の 額 とは 所 得 税 法 の 源 泉 徴 収 の 規 定 に 基 づき 正 当 に 徴 収 をされた 又 はされるべき 所 得 税 の 額 を 意 味 すると 解 され 本 件 和 解 後 においては 本 件 配 当 は 源 泉 徴 収 の 対 象 とならないことから 本 件 源 泉 所 得 税 は 同 号 に 規 定 する 源 泉 徴 収 を された 又 はされるべき 所 得 税 の 額 に 該 当 246
しない と 判 断 しており 相 当 である また 本 裁 決 では 請 求 人 の 主 張 に 対 し て 大 要 次 のとおり 説 示 の 上 排 斥 して いる 2 本 件 最 高 裁 判 決 の 要 旨 は 同 法 第 207 条 は 同 条 が 適 用 される 源 泉 徴 収 の 対 象 である 年 金 を 第 76 条 第 3 項 第 1 号 から 第 4 号 まで( 生 命 保 険 料 控 除 )に 掲 げる 契 約 第 77 条 第 2 項 ( 損 害 保 険 料 控 除 )に 規 定 する 損 害 保 険 契 約 等 その 他 政 令 で 定 める 年 金 に 係 る 契 約 に 基 づく 年 金 と 規 定 し 初 回 分 年 金 は 同 法 第 207 条 が 適 用 される 年 金 に 該 当 するから その 支 払 をす る 者 は 初 回 分 年 金 が 同 法 第 9 条 の 規 定 に 該 当 するか 否 かに 関 わらず その 支 払 の 際 その 年 金 について 同 法 第 208 条 所 定 の 金 額 を 徴 収 し これを 国 に 納 付 する 義 務 を 負 い 当 該 年 金 受 給 者 が 所 得 税 の 申 告 等 の 手 続 に おいてその 徴 収 された 税 額 を 算 出 所 得 税 額 から 控 除 し 又 はその 全 部 若 しくは 一 部 の 還 付 を 受 けることは 許 されるとしたものであ り 同 法 第 207 条 の 源 泉 徴 収 義 務 について 判 断 したものである として 本 件 最 高 裁 判 決 との 事 件 との 相 違 性 を 述 べ そして 本 件 は 本 件 配 当 が 当 初 から 無 効 となった ことから 源 泉 徴 収 についての 法 令 の 根 拠 が なくなった 場 合 であり 年 金 の 支 払 自 体 は 無 効 とはなっていない 本 件 最 高 裁 判 決 とで は 事 情 を 異 にしており 本 件 最 高 裁 判 決 が 源 泉 徴 収 義 務 についての 法 令 の 根 拠 がなく なった 源 泉 所 得 税 についても 所 得 税 の 申 告 等 の 手 続 においてその 精 算 を 認 めたもので はないことは 明 らかである 旨 説 示 してい るのは 相 当 である なお 本 裁 決 に 係 る 審 判 所 の 判 断 につい て 平 成 4 年 最 高 裁 判 決 及 びそれ 以 後 の 課 税 実 務 等 の 潮 流 に 従 うものといえ 現 行 制 度 上 首 肯 せざるを 得 ないものと 考 える [また ] 請 求 人 が 本 件 最 高 裁 判 決 を 引 き 合 いに 自 己 の 正 当 性 を 主 張 したことについて は ( 裁 決 書 に) 説 示 されたとおり 本 裁 決 に 係 る 事 案 が 本 件 最 高 裁 判 決 の 射 程 外 であ ることを 示 した 点 は 意 義 があるものといえ る との 実 務 家 からの 見 解 がある (12) ハ 結 論 本 裁 決 は 源 泉 徴 収 と 確 定 申 告 との 関 係 についての 問 題 ( 具 体 的 には 支 払 者 によ る 源 泉 徴 収 の 過 程 で 生 じた 過 不 足 額 を 受 給 者 がその 確 定 申 告 の 際 に 精 算 是 正 するこ とができるか 否 か)を 含 んだ 事 件 について 本 件 最 高 裁 判 決 後 当 該 判 決 を 準 用 して 源 泉 所 得 税 に 係 る 是 正 を 求 めた 審 査 請 求 にお いて 本 件 は 年 金 の 支 払 い 自 体 は 無 効 と なっていない 本 件 最 高 裁 判 決 とでは 事 情 が 異 なり 本 件 最 高 裁 判 決 は 生 命 保 険 契 約 等 に 基 づく 年 金 に 係 る 源 泉 徴 収 義 務 につい て 判 断 したものであり 本 件 配 当 が 当 初 か ら 無 効 となったことから 源 泉 徴 収 について の 法 令 の 根 拠 が 無 くなったのであるから そもそも 所 得 税 法 第 181 条 の 源 泉 徴 収 義 務 の 適 用 対 象 とはならず 従 って 本 件 源 泉 所 得 税 は 同 法 第 120 条 第 1 項 第 5 号 の 源 泉 徴 収 をされた 又 はされるべき 所 得 税 の 額 に 該 当 しないこととなり これを 申 告 等 の 手 続 により 精 算 することはできないと して 請 求 人 の 主 張 を 棄 却 した 初 めての 事 案 であったが 上 記 のこれ 迄 の 検 討 結 果 を 踏 まえると 本 裁 決 の 結 論 は 妥 当 と 考 えられる なお 冒 頭 の 1 事 案 の 概 要 でも 触 れたとおり 本 事 案 は 特 異 な 事 案 であり 請 求 人 は 何 らかの 事 由 で 支 払 者 に 対 す る 本 件 源 泉 所 得 税 の 返 還 請 求 が 事 実 上 困 難 であったため 更 正 の 請 求 に 至 ったものと 推 察 されるとともに 本 件 和 解 の 際 の 本 件 源 泉 所 得 税 に 係 る 取 決 め( 和 解 条 項 - 清 算 条 項 や 権 利 放 棄 条 項 など)がどのようなもの であったかも 必 ずしも 明 らかではなく 破 産 法 上 の 取 扱 も 含 めて 検 討 を 要 する 課 題 を 内 包 する 事 例 であったと 考 えられる 本 件 のような 事 例 は 金 子 教 授 が 述 べて いる 徴 収 納 付 された 租 税 は 性 質 上 は 納 247
税 義 務 者 の 負 担 に 属 するものといえるから 徴 収 納 付 義 務 者 に 請 求 することが 不 可 能 な いし 困 難 な 場 合 ( 例 えば 徴 収 納 付 義 務 者 である 法 人 が 解 散 してしまった 場 合 破 産 手 続 において 源 泉 徴 収 がなされた 場 合 等 ) は 例 外 的 に 直 接 国 に 対 して 還 付 を 請 求 等 できると 解 すべき (13) 事 例 に 該 当 しうる ものと 考 えられ 私 見 ではあるが あくま で 例 外 的 な 措 置 としての 制 度 的 な 手 当 が 必 要 との 見 解 も 同 意 し 得 るところである (12) 寺 澤 典 洋 確 定 申 告 制 度 における 過 誤 納 された 源 泉 所 得 税 の 取 扱 い - 平 成 24 年 12 月 20 日 裁 決 ) 税 務 弘 報 (2013.12)143 頁 (13) 金 子 前 掲 注 (11)840 頁 (1) 石 原 直 樹 給 与 等 の 受 給 者 が 支 払 者 により 誤 っ て 源 泉 徴 収 をされた 金 額 を 税 額 から 控 除 して 確 定 申 告 をすることの 可 否 ( 平 成 5 年 度 主 要 民 事 判 例 解 説 ) 判 例 タイムズ 852(1994.9.25)282 頁 (2) 髙 木 光 源 泉 徴 収 の 法 律 関 係 と 納 税 の 告 知 租 税 判 例 百 選 ( 第 5 版 ) 別 冊 ジュリスト 207 (2011.12.25)206 頁 (3) 木 村 弘 之 亮 納 税 告 知 行 政 判 例 百 選 Ⅰ( 第 4 版 ) 別 冊 ジュリスト 150(1999.2)136 頁 (4) 青 栁 馨 給 与 等 の 受 給 者 が 支 払 者 により 誤 って 源 泉 徴 収 をされた 金 額 を 税 額 から 控 除 して 確 定 申 告 をすることの 可 否 最 判 解 民 事 篇 平 成 4 年 度 46 頁 (5) 石 原 前 掲 注 (1)282 頁 (6) 吉 村 典 久 源 泉 徴 収 と 確 定 申 告 租 税 判 例 百 選 ( 第 5 版 ) 別 冊 ジュリスト 207(2011.12.25) 208 頁 (7) 澤 田 久 文 年 金 型 生 命 保 険 に 対 する 相 続 税 と 所 得 税 の 課 税 関 係 に 関 する 最 高 裁 判 決 ( 最 高 裁 平 成 22 年 7 月 6 日 第 三 小 法 廷 判 決 ) 法 律 のひろば 2010.11 号 43 頁 (8) 吉 村 前 掲 注 (6)208 頁 (9) 古 田 孝 夫 時 の 判 例 ジュリスト 1423 (2011.6.1)100 頁 (10) 佐 藤 孝 一 所 得 税 法 207 条 所 定 の 年 金 の 支 払 者 は 源 泉 徴 収 義 務 を 負 う 旨 判 示 した 最 高 裁 判 決 ( 年 金 二 重 課 税 事 件 )- 源 泉 徴 収 との 関 係 からの 検 討 税 務 事 例 Vol.43 4(2011.4)7 頁 (11) 金 子 宏 租 税 法 ( 第 19 版 ) ( 弘 文 堂 2014.4.15) 835 頁 248