ヒューマンライツ ナウと 市 民 をつなぐ 懸 け 橋 に 鈴 木 麻 子 氏 (ヒューマンライツ ナウ 事 務 局 弁 護 士 ) 2000 年 に 東 京 大 学 へ 入 学 し 在 学 中 に 司 法 試 験 に 合 格 合 格 後 青 法 協 の 祝 賀 会 で 出 会 った 若 手 弁 護 士 らに 誘 われて イラク 民 衆 法 廷 の 活 動 に 参 加 し 国 際 人 権 や 平 和 運 動 に 関 わる 弁 護 士 の 姿 に 感 銘 を 受 ける 2005 年 に 第 59 期 司 法 修 習 生 として 司 法 研 修 所 へ 入 所 2006 年 10 月 に 川 崎 合 同 法 律 事 務 所 へ 入 所 現 在 は 一 般 民 事 刑 事 事 件 ( 家 事 事 件 が 多 数 )に 取 り 組 む 傍 ら 米 兵 犯 罪 国 家 賠 償 請 求 弁 護 団 や 神 奈 川 こころの 自 由 裁 判 弁 護 団 などの 集 団 訴 訟 に 関 わ り また HRN 事 務 局 広 報 係 としても 活 躍 司 法 修 習 中 にヒューマンライツ ナウの 設 立 に 参 加 され 現 在 も 事 務 局 広 報 係 として 活 躍 されている 弁 護 士 の 鈴 木 麻 子 先 生 に お 話 を 伺 いました Q1 現 在 は 国 際 人 権 NGO ヒューマンライツ ナウで 活 動 されています が 関 わることになったきっかけは 何 だったのでしょうか? 61
高 校 のときに 英 語 や 世 界 史 が 好 きで 将 来 は 国 際 的 な 仕 事 がしたいと 思 っていたので 大 学 は 法 学 ではなく 国 際 関 係 を 学 ぶ 学 科 を 選 びました 国 際 関 係 を 勉 強 し 始 めたばかりのころ 大 学 2 年 のときに アメリカの 同 時 多 発 テロが 起 きて その 後 アメリカによるアフガン 侵 攻 があり さらに 2003 年 にはイラク 戦 争 がはじまりました 私 は 戦 争 には 反 対 だったので すが 特 に 何 か 反 対 運 動 をしたわけでもなく 戦 争 がはじまれば 多 くの 市 民 が 犠 牲 になるだろうな と 思 いながらも ただ ニュースを 見 ているだけで した 実 際 戦 争 がはじまり 多 くの 本 当 に 多 くの 市 民 が 殺 されることに なりました それに 対 して 自 分 は 何 もできなかったことにわだかまりを 感 じ 人 が 殺 されようとしているのに 自 分 は 何 もしなくてもよいのかと 平 和 や 国 際 人 権 に 対 する 問 題 意 識 が 芽 生 えました ちょうど 司 法 試 験 の 勉 強 をしてい たころのことです その 後 司 法 試 験 に 合 格 し 合 格 発 表 会 場 で 配 布 していたチラシで 知 った 青 年 法 律 家 協 会 の 合 格 祝 賀 会 に 参 加 した 際 に アフガニスタン 民 衆 法 廷 1 に 関 わっている 若 手 弁 護 士 の 話 を 聞 いて 次 に 行 われるイラク 民 衆 法 廷 の 誘 い を 受 けました そのときにはじめて 自 分 の 問 題 意 識 となっていた 平 和 や 国 際 人 権 といった 国 際 的 な 課 題 に 取 り 組 んでいる 弁 護 士 がいることを 知 りま した 民 衆 法 廷 の 活 動 に 参 加 し イラクの 方 の 生 の 声 や 映 像 を 見 聞 きし 大 変 な 衝 撃 を 受 けたのを 覚 えています また ふだんは 一 般 事 件 で 忙 しいは ずの 弁 護 士 が 民 衆 法 廷 のために 夜 中 まで 準 備 をして 熱 心 に 議 論 する 姿 は 大 変 刺 激 的 で 自 分 もこういう 弁 護 士 になりたいと 思 うきっかけになりまし た そして 司 法 修 習 中 に イラク 民 衆 法 廷 のときに 知 り 合 った 土 井 香 苗 弁 護 士 から 国 際 人 権 活 動 に 取 り 組 む NGO を 今 度 立 ち 上 げることになったので 62
一 緒 にやらないかと 誘 いを 受 けて 自 分 の 問 題 意 識 と 合 っていたことと NGO の 立 ち 上 げという 未 知 の 世 界 に 興 味 があったことから HRN の 立 ち 上 げ 当 初 から 活 動 に 参 加 することになりました 1 民 衆 法 廷 実 際 に 起 きた 戦 争 紛 争 に 関 わる 犯 罪 について 市 民 や NGO 有 識 者 などが 中 心 となって 行 う 模 擬 法 廷 1966 年 ベトナム 戦 争 の 際 に 哲 学 者 ラッセルが 提 唱 して 哲 学 者 サルトル を 執 行 裁 判 長 として 開 かれた ラッセル 法 廷 (ラッセル サルトル 法 廷 ) にはじまり 湾 岸 戦 争 に 際 して ブッシュ 大 統 領 ( 父 親 )の 戦 争 犯 罪 を 裁 くために アメリ カ 元 司 法 長 官 のラムゼー クラークが 呼 びかけた クラーク 法 廷 などが 有 名 である 日 本 では 2002 年 にアフガニスタン 国 際 戦 犯 民 衆 法 廷 が 2004 年 にイラク 国 際 戦 犯 民 衆 法 廷 が 開 かれ 多 くの 市 民 や 弁 護 士 が 参 加 した Q2 具 体 的 にはどのような 活 動 をされているのでしょうか? HRN は 組 織 としての 中 枢 業 務 を 担 う 事 務 局 と 個 々の 問 題 に 対 処 する ためのプロジェクトチームがありますが 私 は 主 に 事 務 局 の 中 で 広 報 を 担 当 しています 具 体 的 な 活 動 としては HRN が 開 催 する 各 種 イベントの 準 備 ホームページの 更 新 ニュースレターの 発 行 作 業 などで 広 告 業 界 で 働 く 方 にボランティアでお 手 伝 いをお 願 いしたり 雑 誌 への 記 事 掲 載 を 依 頼 したりという 活 動 も 行 っています 現 在 NRN では カンボジアのクメー ル ルージュ 特 別 法 廷 ビルマの 軍 事 政 権 による 人 権 侵 害 アジア 地 域 の 女 性 に 対 する 暴 力 児 童 労 働 人 身 売 買 など 各 分 野 のプロジェクトチームが あり 先 端 的 な 議 論 がなされていますが 国 際 人 権 法 の 専 門 用 語 が 飛 び 交 い 一 般 の 方 には 理 解 しにくいところもあるかと 思 います しかし 現 に 起 こっ 63
ている 深 刻 な 人 権 侵 害 の 実 態 を 多 くの 人 に 知 ってもらい 声 をあげ 行 動 す ることによって 現 状 を 変 えていくことを 活 動 方 針 とする HRN としては 一 般 の 方 に 活 動 内 容 を 理 解 してもらうことが 不 可 欠 です そこで 各 プロジェ クトの 最 先 端 の 議 論 やレポート 団 体 の 活 動 内 容 などを 一 般 の 方 にわかりや すいように 翻 訳 し 伝 えて 共 感 していただくという 広 報 の 役 割 はとて も 重 要 だと 思 っています 人 に 伝 えるためには まず 自 分 が 本 質 を 理 解 し その 上 で 伝 えたい 相 手 の 目 線 にたつことが 求 められるので とてもクリエ ィティブな 作 業 だと 思 っています Q3 活 動 を 通 して 感 じたことは 何 でしょうか? (1)HRN のニーズ HRN が 設 立 されるまでは 平 和 や 開 発 各 種 の 国 際 的 な 社 会 問 題 に 対 し て 人 権 という 視 点 から 取 り 組 む 団 体 は 日 本 には 多 くありませんでしたので 多 方 面 から HRN のニーズを 感 じます 例 えば アジア 諸 国 の 人 権 団 体 から 提 携 して 活 動 して 欲 しいという 要 望 が 多 く 寄 せられます 日 本 は アジア 諸 国 に 莫 大 な ODA を 行 っていることか ら 日 本 のアジア 諸 国 に 対 する 発 言 力 は 欧 米 諸 国 と 比 しても かなりの 影 響 力 を 持 っています そこで アジア 諸 国 の 人 権 団 体 としては アムネスティ インターナショナルやヒューマン ライツ ウォッチなどの 欧 米 系 の 国 際 人 権 NGO だけでなく 日 本 発 の NGO と 提 携 して 活 動 することで 自 国 の 人 権 侵 害 の 状 況 改 善 につなげていきたいと 考 えているのだと 思 います 64
また HRN は 設 立 してまだ 3 年 ですが 国 内 外 から 多 くのインターンの 方 が 常 時 参 加 して 勉 強 をしたり 活 動 の 手 伝 いをしてくれています これも 日 本 というアジアの 中 での 発 言 力 の 強 い 国 にある 国 際 人 権 NGO ということ に 興 味 関 心 をもってもらっているということであり HRN の 存 在 意 義 が 認 められた 結 果 の 一 つであると 思 っています (2) 人 権 意 識 を 変 える 必 要 性 国 際 人 権 分 野 に 限 ったことではないですが 人 権 活 動 をしていると 一 般 の 方 々の 人 権 に 対 する 意 識 を 変 える 必 要 性 を 感 じます 人 権 というと 被 告 人 の 人 権 や 労 働 者 の 人 権 というイメージ が 先 行 して 悪 い 人 を 擁 護 する 論 理 とか 過 激 な 行 動 の 原 理 などというよ うに 不 当 な 利 益 を 主 張 するときに 使 われるキーワードと 捉 えられたり ま た 子 どもの 人 権 女 性 の 人 権 高 齢 者 の 人 権 などということから 特 に 弱 い 人 のための 考 え 方 というイメージを 持 っている 人 がまだまだ 少 な くありません しかし 人 権 とは そもそも 人 間 であるというそれ 自 体 によって 全 ての 人 が 有 しているものであり 人 権 について 語 ることは すべての 人 が 生 きやすい 世 界 を 創 るために 必 要 なことだと 思 います HRN の 活 動 を 通 じて 私 自 身 も 常 に 人 権 とは 何 かということを 考 え 続 け ているところです HRN の 理 事 長 の 阿 部 浩 己 先 生 が 抽 象 的 な 人 権 を 振 りかざすのではなく 個 別 具 体 的 な 人 権 侵 害 の 痛 み 苦 しみに 同 じ 人 間 と して 共 感 し 連 帯 することから 人 権 というものを 考 えていく 必 要 がある と 指 摘 していますが そのとおりだと 思 います (3) 人 権 活 動 の 意 義 65
また 特 に 国 際 的 な 人 権 擁 護 活 動 を 行 っていると そんなことをしても 人 権 侵 害 状 況 は 何 も 変 わらないから 意 味 がない と 言 う 人 もいます しかし 問 題 に 対 して 行 動 を 起 こしても 現 状 が 変 わらないとしても それ は その 行 動 に 影 響 力 がないことを 意 味 するのではなく その 行 動 によって それ 以 上 に 悪 い 状 態 に 陥 っていない その 行 動 によって 侵 害 行 為 にかろうじ て 歯 止 めがかかっている というふうに 考 えられると 思 っています 人 権 侵 害 が 誰 の 目 にもさらされずにいれば それはエスカレートし 続 けます 人 権 侵 害 の 状 況 を 調 査 し 公 表 し 白 日 の 下 にさらすことで 少 なくとも 侵 害 者 は よりひどい 侵 害 行 為 をすることにためらいを 感 じるはずです 人 権 擁 護 活 動 を 行 っても 変 わらない 現 状 があっても なおかつ その 活 動 には 意 義 がある ということを 一 般 の 方 にも 広 く 伝 えていきたいと 思 います Q5 今 後 の 展 望 を 教 えてください この3 年 間 で HRN の 活 動 の 幅 はずいぶんと 広 がりました 会 員 もスタ ッフも 増 え メディアで 取 り 上 げられることも 増 えています HRN として やりたいことや 求 められていることはたくさんあるけれども マンパワーや 財 政 がついていかない 状 況 があるので これからも 広 報 活 動 などを 通 じて 組 織 を 支 える 役 割 を 担 っていきたいです また 国 際 人 権 法 などを 専 門 的 体 系 的 に 勉 強 したり 英 語 の 勉 強 をしたりして いずれは HRN のプロジェ クトチームの 現 地 調 査 にも 参 加 できるようになりたいと 思 っています さらに HRN の 活 動 に 限 らず 平 和 問 題 や 憲 法 9 条 の 問 題 にも 積 極 的 に 66
取 り 組 んでいきたいです Q5 最 後 に これから 法 曹 になる 人 達 に 一 言 お 願 い 致 します 関 心 のある 分 野 を 持 っている 人 は はじめから 少 しでも 何 らかの 形 で 実 際 にその 問 題 に 関 わって 欲 しいと 思 います いつかやろうと 思 っていても 弁 護 士 業 は 次 から 次 へと 仕 事 が 来 て 結 局 できずに 終 わってしまうことが 多 いです これだけはやりたい と 決 めたことは そのために 意 識 的 に 時 間 と 労 力 を 割 くようにするのがよいと 思 います そして やると 決 めたことは 中 途 半 端 にせず やり 遂 げて 欲 しいです また 虐 げられている 者 と 虐 げている 者 がせめぎ 合 っているという 構 図 を 持 つ 問 題 では ぜひ 虐 げられている 側 に 立 ち 力 を 発 揮 して 欲 しいと 思 い ます 虐 げられている 側 の 主 張 を 通 すことは 大 変 な 努 力 が 必 要 ですが その 努 力 が 報 われたときの 感 動 や あるいは 報 われなかったときの 悔 しい 思 い などは 弁 護 士 しか 味 わえない 貴 重 な 経 験 だと 思 います ぜひ みなさんに もそれを 味 わって 頂 きたいです 国 際 人 権 問 題 についていえば 人 権 問 題 に 取 り 組 むときのメンタリティと しては 国 内 も 国 外 も 変 わらないと 思 うので ぜひ 国 外 にも 目 を 向 けて 国 際 人 権 問 題 にも 取 り 組 んで 欲 しいと 思 います [ 文 責 : 久 保 田 明 人 ] 67