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5G 社会課題解決 社会変革実現に向けたドコモの挑戦 5G/NR Sub6/mmW ノンスタンドアローン 5G ネットワーク 2020 年 3 月にNTTドコモは5G 商用サービスを開始しました. ドコモでは5G 導入に際し,LTEで提供している機能 エリアを最大限活用することで, 早期提供と安定した品質確保を実現しています. 本稿では,5G 商用サービスを提供するために実施した無線基地局装置, コアネットワーク装置の開発内容について解説します. さがえ寒 河江佑 おおわたり大 かんばら神 渡裕 原恵 ゆうた 1 太 ゆうすけ 1 介 けいいち 1 一 NTT ドコモ 1 ドコモ テクノロジ 2 さわむかい澤 きよしま清 たかはし高 向信 嶋耕 橋匠 しんすけ 1 輔 こうへい 1 平 じょう 2 まえがき第 5 世代移動通信システム (5G) は高速 大容量, 低遅延, 多数端末接続の特長を有しており, 動画 サービスなどコンテンツのさらなるリッチ化などへの対応に加え, 従来では困難であった社会的課題の解決や新たな産業創出が可能となることにも期待が高まっています. NTTドコモは2019 年 9 月に開始した5Gプレサービスに続き,2020 年 3 月に5G 商用サービスを開始し,2020 年 7 月 6 日時点において契約者数が17 万件を超しています. 今後, 5G 需要の増加が見込まれていることから, 端末ラインアップの充実,5G 提供エリアの拡大を順次行っていきます. 本稿では,5G 商用サービス提供を行うた めの無線基地局装置, およびコアネットワーク装置の開発内容について解説します. 5G 向け周波数の概要 5Gにおいては, ユースケース, 利用シナリオなどに応じたネットワークが求められており, 技術面では, 新たな無線技術 5G NR(New Radio) の採用, 既存の周波数帯に加え, より高い周波数帯を活用することなどが求められています (1). 5G 向け国内周波数帯として,3.7 GHz 帯 (3.6 4.1 GHz),4.5 GHz 帯 (4.5 4.6 GHz), および28 GHz 帯 (27.0 29.5 GHz, うち28.2 29.1 GHzは非割当て ) の 3 つの周波数帯が割り当てられています ( 表 1). 特に前者 2 つの周波数帯がSub6 帯, 後者が mmw(millimeter Wave) 帯 *1 と呼ばれ 本は NTT DOCOMO テクニカル ジャーナル (Vol. 28 No. 2, 2020 年 7 月 ) に掲載された内容を編集したものです. *1 mmw 帯 : 周波数帯域の区分の 1 つ.30 GHz から 300 GHz の周波数であり,5G で利用される周波数である 28 GHz 帯を含めて慣習的にミリ波と呼びます. 2020.9 67

5G 社会課題解決 社会変革実現に向けたドコモの挑戦 表 1 国内 5G 周波数の特徴 割当周波数 3.7 GHz 帯 4.5 GHz 帯 28 GHz 帯 3.6~4.1 GHz (500 MHz 幅 ) 4.5~4.6 GHz (100 MHz 幅 ) 27.0~28.2 GHz 29.1~29.5 GHz (1.6 GHz 幅 ) 割当帯域幅 100 MHz 幅 / オペレータ 100 MHz 幅 / オペレータ 400 MHz 幅 / オペレータ Massive MIMO の活用 MIMO 多重に活用 Beamforming によるカバレッジ拡張 他システムとの利用状況衛星システム航空機電波高度計衛星システム 海外動向中国, 韓国, 欧州, 米国将来的に中国が利用予定米国, 韓国 LTE- 3.7 GHz 帯 Advanced 互いに干渉しないように同一の TDD Config での運用が必要 固定衛星通信 ( ダウンリンク ) 航空機電波高度計 4.5 GHz 帯 隣接周波数にて運用がないため独自の TDD Config が利用可能 3,400 MHz 3,600 MHz 4,200 MHz 4,400 MHz 図 1 3.7 GHz 帯の周波数割り当てと LTE 3.5 GHz 帯の関係 ています. Sub6 帯は,5G 国内周波数において100 MHz 幅 / 事業者と,LTEと比較して広帯域利用が可能であり, かつ,LTE 3.5 GHz 帯と同様のカバレッジを実現することができます. 一方でmmW 帯は, これまでLTEで利用してきた周波数とは大きく異なり, 超広帯域の割当てにより数 Gbit/sの高速伝送によるサービスをスポット的に展開することが期待されています. しかし, 一般に高い周波数であるほど電波が飛びづらいため, 既存 LTE 周波数やSub6 帯と組み合わせたヘテロジニアス ネットワークを構築していく必要があります. 加えて, 高周波数帯においてはアンテナの小型化が容易であり,Massive MIMO(Massive Multiple Input Multiple Output) *2 による MIMO 技術の高度化を活用したネットワーク展開が期待されます. さらに, 国内では 5G 向け国内周波数帯に おいて既存システムが運用されており, その 既存事業者との共存 棲分けが重要です. 特 に 3.7 GHz 帯は衛星システム事業者が利用し ており, 衛星システムとのシステム間の干渉 調整を実施しながらの展開となるため,5G 早期展開に有力な周波数帯として 4.5 GHz 帯 が注目されています ( 図 1). また, 海外動 向に注目すると 3.7 GHz 帯や 28 GHz 帯はす でに各国で利用開始がされており, 端末の対 応状況や今後のローミング対応の観点から, 今後の 5G 特有の高速大容量などのサービス 展開において有力です. これらの周波数の特 徴, 既存事業者との共存, そして, グローバ *2 Massive MIMO: 非常に多数のアンテナを用いる MIMO 伝送技術の総称.MIMO とは同一時間, 同一周波数において複数の送受信アンテナを用いて信号の伝送を行い, 通信品質および周波数利用効率の向上を実現する信号技術. 68 2020.9

ル動向などを踏まえ, それぞれの周波数帯の強みを最大限活用した商用展開を実施していきます. これら国内周波数に対して, 総務省による開設計画の認定 (2) の結果, ドコモはSub6 帯については3.6 3.7 GHz および4.5 4.6 GHz の合計 200 MHz,mmW 帯は27.4 27.8 GHz の400 MHzが割り当てられています. これにより, 下りピークレートとして, 既存 LTEシステムと組み合わせることでSub6 帯では3.4 Gbit/s,mmW 帯では4.1 Gbit/sを提供可能です ( 表 2). Sub6 帯および28 GHz 帯はTDD(Time Division Duplex) バンドとして割当てが行われていますが, 周波数の有効利用の観点で, 隣接する携帯事業者間で同じ下り 上りリ ソース割当て (TDD Config *3 ) を利用し なければなりません. 国内においては, 3GPP(3rd Generation Partnership Project) で合意されている TDD Config を 基に, データトラフィック量や今後の 5G サー ビス予測をかんがみたうえで, 図 2 に示す TDD Config での運用を実施することとなっ ています. 特に 3.7 GHz 帯は隣接する LTE 3.5 GHz との干渉を軽減させるために, 同一 タイミングにおいて, 下り 上りリソースを 使用するように設計されています ( 図 2 ). また, ドコモのみが獲得した 4.5 GHz 帯にお *3 TDD Config:TDD の上下スロットをどのように配分するかを決定するパラメータ.3GPP 仕様にて規定されています. 表 2 技術的特徴 Sub6 帯 mmw 帯 Massive MIMOの活用方法 MIMO 多重に活用 Beamformingによるカバレッジ拡張 カバレッジの考え方 LTE 3.5 GHz 帯と同様のカバレッジ 広帯域を活用した高スループットを提供スポット的な展開 ピークレート (3GPP 規格値,LTE 含む ) 下り 3.4 Gbit/s/ 上り 182 Mbit/s 下り 4.1 Gbit/s/ 上り 480 Mbit/s MIMO 数下り 4 4 / 上り SISO 下り 上り 2 2MIMO 変調方式下り 256QAM/ 上り 64QAM 下り 上り 64QAM (Sub6 NR) D D D D D D D S U U D D D D D D D S U U DL4 UL1 (3.5G LTE) D U D U (28G NR) D D D S U D D D S U D D D S U *3.5G LTE との干渉低減のため, 同一リソースタイミングとなるように設計 D 下りリソース U 上りリソース S 下り 上り切替えリソース 図 2 国内周波数で利用される TDD Config 2020.9 69

いては, ユースケースに応じた独自のTDD Configを設定し, 周波数を有効に活用していきます. 5G 商用開発 5G 基地局装置開発 5Gにおけるネットワーク構成を図 ₃に示します.5Gのサービス開始に向けドコモは,5G に対応したベースバンド (BB:Base Band) 信号処理部を集約した親局 (CU:Central Unit) を, 既存のBB 処理装置である高密度 BDE(Base station Digital processing Equipment) を拡張して開発し, 加えて, 電波の送受信機能などを持つ5G 無線部 (RU:Radio Unit) を新規に開発しました. また, より多くのRUを 1 台のCUに収容するために,LTEにおいて導入していたフロントホール分配装置 (FHM:FrontHaul Multiplexer) (3) の5G 対応版である5G FHM を開発しました. これらの装置について概要を以下に解説します. ⑴ CU 開発コンセプト 5Gサービスのスムーズな展開に向け, 3G/LTE/LTE-Advancedに対応したBB 信号処理を行う既存の高密度 BDEを最大限活用し, 高密度 BDEの一部のカード交換, および5G 対応ソフトウェアへのアップグレードにより, 既存装置を置き換えることなく, 工事期間や設備投資を抑えてエリア構築が可能なCUを開発しました. CU 基本仕様今回開発したCUの装置外観例を写真 1 に示します. これまでに述べたように, 本装置は既存装置である高密度 BDEの一部のカード交換により5Gに対応した機能が実現可能となっています. また, 今後のソフトウェアアップグレー 郊 外 マクロセル 5G 無線部 RRU ベースバンド信号処理部 都市中心部 / 都心部など 5G CU LTE BDE スモールセル O-RANX2 インタフェース O-RAN フロントホール 5G FHM 5G 無線部 SRU 5G エリア LTE/LTE-Advanced エリア 図 3 5G ネットワーク構成 7₀ 2020.9

写真 1 CU 外観例 ドにより, 従来の 3G/LTE/LTE-Advanced に対応したソフトウェアと 5G 対応ソフトウェ アをそれぞれ搭載することで, 1 台の CU に おいて,3G から 5G の 3 世代に対応したネッ トワークを構築することができます. 既存の LTE-Advanced ではドコモが提唱 する高度化 C-RAN(Centralized RAN) *4 アーキテクチャ (4) を採用していましたが, 5G においても本アーキテクチャに対応して おり,CU RU 間はフロントホールを介し て接続します. このフロントホールは, ドコ モを含めたオペレータ 5 社により 2018 年 2 月 に設立した O-RAN(Open RAN)Alliance で標準化を進められ, 異なるベンダ間の相互 接続を可能とする O-RAN フロントホール仕 様に,5G サービス導入当初から準拠してお り, 同仕様に準拠した CU RU はベンダを 問わず接続可能としています. また, 基地局 装置どうしを接続するための仕様についても *4 高度化 C-RAN: ドコモが提唱する新しいネットワークアーキテクチャで,LTE-Advanced の主要な技術であるキャリアアグリゲーション技術を活用し, 広域エリアをカバーするマクロセルと局所的なエリアをカバーするスモールセルを同一の基地局制御部により高度に連携させる無線アクセスネットワーク. O-RAN 標準仕様に準拠しており,5G 対応の CUとLTE-Advanced 対応の高密度 BDEについて異なるベンダ間の接続を可能としています (5). これにより, ドコモでは既存の高密度 BDEのベンダに依存せずにCUを導入可能となり, 既存資産を活かしつつスピーディに必要な場所に柔軟にエリア展開することが可能です. なお,CU1 台につき, 6 本以上のフロントホール接続が可能となっており, それぞれのフロントホールに対して接続先の RUを選択可能にしています.5GではLTE- Advancedに比較してさらなる広帯域伝送に対応するため, フロントホール伝送レートを従来の最大 9.8 Gbit/sから最大 25 Gbit/s に拡張しながら,CU RU 間の光張出し距離は従来の高密度 BDE と同等を実現しました. ⑵ RU 開発コンセプトドコモでは,5Gサービス導入当初から柔軟なエリア構築を可能とするため,2019 年 9 月の5Gプレサービス開始に合わせ, 導入時の周波数帯である3.7 GHz 帯,4.5 GHz 帯, および28 GHz 帯にそれぞれ対応した, スモールセル用のRUとなる小型低出力張出しRU 2020.9 7₁

(SRU:low power Small Radio Unit) を 開発しました. また,5G エリアの早期拡大 に向け, 郊外などにおける効率的なエリア化 の実現を可能としたマクロセル用の RU であ る張出し RU(RRU:Regular power Radio Unit) についても開発しました. 5G 機能の 1 つとして, 他セルへの干渉低 減を図り, ユーザ体感品質の向上が期待で きる Beamforming *5 機能があります. 本 機能に対応したアンテナ 5G 無線部一体型 の装置 ( アンテナ一体型 RU) を開発すると ともに, 既設の 3G/LTE/LTE-Advanced 向 けの無線装置 (RE:Radio Equipment) に 本装置を併設できるようにスペースなどが 限られた個所に対して柔軟に設置可能とす ることを目的として, アンテナ 5G 無線部 *5 Beamforming: 送信信号に指向性をもたせることで, 特定方向の信号電力を増加 低下させる技術. 複数のアンテナ素子 (RF 装置 ) の位相制御により指向性を形成するアナログビームフォーミングと, ベースバンド部において位相制御するデジタルビームフォーミングが存在します. 分離型の装置 ( アンテナ分離型 RU) を開発しました. SRU 基本仕様 SRUは, これまでに述べたように柔軟なエリア構築を可能とすることを目的とし, 5Gプレサービス開始当初から,3.7 GHz 帯 4.5 GHz 帯 28 GHz 帯にそれぞれ対応したアンテナ一体型 SRU, および3.7 GHz 帯 4.5 GHz 帯にそれぞれ対応したアンテナ分離型 SRUを開発しました ( 写真 2 ). アンテナ一体型 RUについては, Beamforming 機能を実現するアンテナパネルを具備しています.3.7 GHz 帯 4.5 GHz 帯では標準仕様上最大 8 ビーム,28 GHz 帯では標準仕様上最大 64ビームであり, ドコモで利用するTDD Configなどに応じた送受信ビーム数にてエリアを形成可能としています. また, 送受信ブランチ数は3.7 GHz 帯 4.5 GHz 帯では428 GHz 帯では 2 とし, 1 台で前者は最大 4 レイヤ, 後者は最大 2 レイヤ (a) アンテナ一体型 SRU (b) アンテナ分離型 SRU 写真 2 SRU 外観例 7₂ 2020.9

写真 3 RRU 外観例 のMIMO 送受信が可能です. アンテナ分離型 SRUについては, 設置性を考慮して省スペース化を目的とし, 従来の RE 同様に無線部のみの構成としており, SRUとアンテナを別の場所に設置することが可能です. なお, 同周波数帯に対応したアンテナ一体型 SRUと比較して装置容積を低減し,6.5 l 以下を実現しました. アンテナ分離型 SRUでは,Beamforming 機能には非対応となっているものの, 同周波数帯のアンテナ一体型 SRU 同様に送受信ブランチ数は 4 としています. RRU 基本仕様 RRUは,5G エリアの早期拡大に向け, SRU と比較して高出力の装置として,5G サービス展開に合わせて開発されました ( 写真 ₃ ). 5G の広帯域幅をサポートするために, 従来のマクロセル用 RE(RRE:Remote Radio Equipment) と比較して装置サイズが大きくなる傾向となりますが, 最新のデバイス動向をかんがみ, 早期に省スペース化 軽量化が期待できるアンテナ分離型を先行開発して導入しました. 最大送信出力はマクロセルのエ リア半径を考慮し,36.3 W/100 MHz/ ブランチ *6 としました. また, 送受信ブランチ数は 4 としており, アンテナ分離型 SRUと同様のMIMO 送受信レイヤ数を実現しています. ドコモでは, 引き続きアンテナ一体型 RRUについても導入予定であり, 今後は設置場所などをかんがみながらそれぞれの機種を活用して柔軟に5Gエリアを構築していく予定です. ⑶ 5G FHM 5G FHMは, フロントホール上の無線信号を最大 12 分配, 合成する機能を持つ装置であり,RRU 同様に5Gサービス展開に合わせて開発されました ( 写真 ₄ ). 5G FHMを用いない場合は, 1 台のRUごとに 1 セルとして収容しますが,5G FHM を用いることにより, 最大 12 台のRUを 1 セルとしてCUに収容可能となり,5Gサービス開始当初, 必要な無線容量が少ない場所のエリア化において, より多くのRUを 1 台の *6 ブランチ : 本稿では, アンテナおよび RF 送受信機の総称. 2020.9 7₃

写真 4 5GFHM 外観例 5G FHM 導入なし 5G FHM 導入あり 1 台の RU ごとに 1 セルとして収容 最大 12 台の RU を 1 セルとして収容 5G FHM 5G FHM 5G FHM CU CU CU 図 4 5GFHM 導入イメージ CUに収容することが可能です ( 図 ₄). また, 従来のFHM 同様, 全 RUが同一セルの無線信号の送受信を行うため,RU 間の干渉や, RU 間をまたがるハンドオーバ (HO:Hand Over) 制御の発生を抑止することができます. なお,5G 周波数帯である3.7 GHz 帯 4.5 GHz 帯 28 GHz 帯すべてに対応しており, それぞれの周波数帯の用途に応じて柔軟にエリア構築が可能となっています. 5G 無線アクセスネットワーク対応 5Gサービスを実現するRANの構成と, 無線アクセスネットワーク技術としてLTE-NR Dual Connectivity *7,Beam Management 技術,NR 高速化対応に関する技術概要を解説します. ⑴ RANの構成 5G 商用サービス展開にあたっては, ドコモはNRの特徴の 1 つであるノンスタンドアローン運用にてサービスを提供しています. ノンスタンドアローンとは,NR 単独ではエ リア提供せず,LTE/LTE-Advanced のエリ アをアンカーとして利用し, サービスを提供 する運用形態です. 図 ₅ に示すように,NR のノンスタンドアローン運用において enb (evolved NodeB) *8 は,NR を提供する基 地局である gnb *9 とは X2 *10 インタフェー スを用いて接続します. また,eNB と gnb は EPC(Evolved Packet Core) と S1 イ ンタフェースを用いて接続します. ノンスタ ンドアローンでは LTE をアンカー *11 として いるため, 接続性に関してはこれまでと同等 の品質レベルを実現しつつ,LTE 装置との *7 Dual Connectivity: マスターとセカンダリの 2 つの基地局に接続し, それらの基地局でサポートされる複数のコンポーネントキャリアを用いて送受信することで, 広帯域化を実現する技術. *8 enb:lte 無線を提供する無線基地局. *9 gnb:nr 無線を提供する無線基地局. *10 X2:3GPP で定義された enodeb 間のリファレンスポイント. *11 アンカー : 制御信号もしくは, ユーザベアラの切替え基点となる論理的ノード地点. 7₄ 2020.9

インターネット インターネット EPC S1 S1 5GC NG enb (LTE) X2 gnb (NR) gnb (NR) NR エリア LTE エリア ノンスタンドアローン運用 NR エリア NR エリア スタンドアローン運用 図 5 5G におけるネットワーク構成 併用による既存ネットワークインフラの活用により早期に商用化を実現しました. また enbとgnb 間の接続に際してドコモらが主導したO-RAN X2 仕様に準拠し,LTEとNR の, 異なるベンダ間における相互接続を可能としました. すでに展開されているLTEエリアに対して5Gエリアを迅速かつ柔軟に展開することもできるようになりました. 今後提供予定の NRのスタンドアローンは, gnbのみでサービス提供を可能とするもので,ran は新しいコアネットワーク (5GC: 5G Core network) に接続します.gNB 間はXnインタフェースを用いて接続し, gnb-5gc 間はNGインタフェースを用いて接続します. ⑵ LTE-NR Dual Connectivity 前述のとおり既存のLTE/LTE-Advanced とNRとを組み合わせてサービス提供するノンスタンドアローン構成において,UEに対してLTE/NR 両方で同時に通信するアーキテクチャがLTE-NR Dual Connectivity です.LTE-NR Dual Connectivityでは, LTE/NRそれぞれの無線リソースを同時に 送る Split Bearer *12 が規定されおり, 最大 5 つの LTE キャリアと NR との同時送信を 実現し, 高速化や柔軟な 5G 商用サービス展 開を可能としています. LTE-NR Dual Connectivity の,LTE 基 地局が MN(Master Node) となる運用に おいては,NR 側の帯域が大きくなるに連れ て LTE 基地局側で MCG(Master Cell Group)Split Bearer を行う必要があり, そのため,NR 装置に比べ能力に制限のある LTE 基地局装置側の増強が必要であり, そ れに伴う装置開発 運用コストの増加につな がります. そこで LTE 基地局装置の増強を 抑えつつ, その装置能力によるスループット の制約を回避するために,LTE-NR Dual Connectivity ではユーザデータの分岐点を NR 装置である SN(Secondary Node) *13 で設定できるように SN terminated split *12 Split Bearer:Dual Connectivity において, マスターとセカンダリの両方の基地局を介して送受信されるベアラ. *13 SN:Dual Connectivity 中の端末に,MN の無線リソースに加えて, 追加で端末に無線リソースを提供する基地局. LTE-NR Dual Connectivity において,SN は,MN が LTE 基地局 (enb) の場合は NR 基地局 (gnb),mn が NR 基地局 (gnb) の場合は LTE 基地局 (enb) がなり得ます. 2020.9 75

IFFT 5G 社会課題解決 社会変革実現に向けたドコモの挑戦 bearer, および SN Terminated MCG Bearerが仕様化されています.SCG split bearerはユーザデータをsnのキャリアに伝送しつつ MNのキャリアにも転送を行い, SNおよびMN 同時にデータをユーザに伝送できるようにする方法です. これにより高速化通信を実現しています. また SN terminated MCG Bearer はNR のエリア外においても SN からデータ転送を行えるようにする方法であり, これにより安定的な通信を実現しています. ⑶ Beam Management 技術 NRでは新たに Beam Management 技術を採用しています. 前述のようにアンテナ一体型 RUについては複数ビームを形成するような構成となっています ( 図 6). FR1(Frequency Range 1 ) ではBB 信号に位相回転を与えることによりビーム形成するDigital beamformingを採用し,fr2 (Frequency Range 2) ではRF(Radio Frequency) 信号に位相を与えることによりビーム形成するAnalog beamformingを採用しています.nr 接続開始時の最適ビーム選択処理および,UEの移動などによる無線品質変更に伴いビームを変更するビーム切替え処理を具備し, 通信するUEの位置に応じた最適な送受信ビームを使用することで, 高周波数帯においてもカバレッジの確保を実現しています. また,UE の位置に対してビームを向けることにより, 不要な方向への電波の放射が抑制され, セル間の干渉の抑圧効果も期待できます. ⑷ NR 高速化対応 5GではLTE/LTE-AdvancedとNRとの Dual Connectivityにて NRも同時に利用することにより, さらなる高速通信が実現されます. 現在ドコモでは LTE/LTE-Advanced にて, 下り通信は 5 つのコンポーネントキャリアをキャリアアグリゲーションすることにより下り最大 1.7 Gbit/sのサービスを提供していますが, ドコモの5Gでは導入当初から LTE/LTE-Advancedの 5 つのコンポーネントキャリアとNRのDual connectivityを実現しており,nrとして3.7 GHz 帯または 4.5 GHz 帯を利用する場合は最大 3.4 Gbit/ s,nrとして28 GHz 帯を利用する場合は最大 4.1 Gbit/sを実現しています. また, 上り通信においては,28 GHz 帯において, 合計 200 MHz( 2 コンポーネントキャリア ) をキャリアアグリゲーションで同時利用することに加え, 2 2 MIMOの導入により, 合計 480 Mbit/sを実現しています. さらに, 今後, 下り通信においては3.7 Beamforming Digital beamforming Analog beamforming PRB TXRU TXRU H 偏波 TXRU V 偏波 TXRU 図 6 Beamforming 技術の種別 76 2020.9

GHz 帯と4.5 GHzのキャリアアグリゲーション, 上り通信においては28 GHz 帯における 400 MHz( 4 コンポーネントキャリア ) のキャリアアグリゲーションによりさらなる広帯域利用による高速化をねらいます. コアネットワーク装置開発国際的な標準化団体である3GPPにおいては,5G の提供に向けた複数のマイグレーションのアーキテクチャが規定されています. 3GPPに規定されているアーキテクチャの一覧を図 7に示します.Option 1 がLTEで提供しているアーキテクチャであり,5Gを提供するにあたりOption 2 5, 7 の, どのアーキテクチャを採用するかは各オペレータの判断になります. ドコモは前述したとおり, 5G 導入当初においてはLTEで商用運用しているEPCを拡張することでNRと接続し, 5Gを提供するOption 3 アーキテクチャを採用しています. これにより,LTE/LTE- Advancedで展開済みの安定した品質を担保可能としつつ, 早期に5Gの商用提供を実現しました. なお,5G 導入当初は世界的に見て多くのオペレータがOption 3 を採用しています. 今後は新しいコアネットワークである5GC の導入も含め, 将来のマイグレーションに向けた検討を続けていきます. ⑴ Option 3x アーキテクチャ前述のとおり, 装置開発 運用コストを抑制するためのSCG split bearerによるユーザデータの転送処理を行っています. つまり制御系信号のやり取りはEPC-eNB 間で行い, ユーザデータのやり取りは EPC-gNB 間で行っています. これはOption 3xとして Option 1 Option 2 Option 3 EPC 5GC EPC enb gnb enb gnb Option 4 Option 5 Option 7 5GC 5GC 5GC enb gnb enb enb gnb C-plane U-plane 図 7 5G へのマイグレーションアーキテクチャ 2020.9 77

5G 社会課題解決 社会変革実現に向けたドコモの挑戦 標準上規定さています. EPCはeNBとのS1インタフェースおよび UE との NAS(Non-Access Stratum) インタフェースを拡張することでNRを収容可能となるため, コアネットワーク装置への影響を軽減でき, 安定した品質と早期導入を両立可能なことが最大の特長です. ⑵ 高スループット対応 5Gでは最大で4.1 Gbit/sの下りスループットを提供し, 今後もより高速 大容量通信を実現するために開発を続けていきます. 一方,EPCはさまざまな能力の装置が混在しており,5Gの求めるスループットの提供が困難な装置も存在します. これらをかんがみ, EPCの中でデータ転送処理を担うS/P-GW (Serving Gateway/PDN Gateway) を選択する際に,5Gのスループットを提供可能なS/P-GWを選択する開発を実施しました. 具体的には,MME(Mobility Management Entity) で S/P-GW を選択する際に TA (Tracking Area) やAPN(Access Point Name) をキーにDNS(Domain Name System) を引くことで, 応答に含まれるレコードからS/P-GWを選択していますが, DNSの応答に含まれるサービスパラメータ (network capability) に5G 能力を示す値 (+nc-nr) を追加しました.5Gユーザに対しては, この値に応じて5Gのスループットを提供可能なS/P-GWを選択することで高速通信を実現しています. ⑶ 低遅延ネットワーク 5Gの商用開始と同時にドコモオープンイノベーションクラウドの提供も開始しました. ドコモオープンイノベーションクラウドは MEC(Multi-access Edge Computing) の 1 つの形態として提供しており, コアネッ トワークを含めたコンピューティングリソー スを端末に近いところに配備することで End to End の通信遅延を短縮することができま す. さらに接続端末とクラウド基盤間の通信 経路を最適化することでネットワーク伝送遅 延を短縮する クラウドダイレクト も提 供します. あとがき 本稿では,5G 商用サービス提供を行うた めの無線基地局装置, およびコアネットワー ク装置の開発内容について解説しました. ドコモは 5G を通じてさまざまなパートナー と協創し, 豊かな社会の実現に貢献するとと もに, 今後も先進的で高度な技術開発を進め ていきます. 参考文献 (1) https://www.soumu.go.jp/main_content/000567504.pdf (2) https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_ 02000378.html (3) 藤井 諏訪 鳥羽 戸枝 : 3.5 GHz 帯 TD-LTE 導入に向けた基地局装置の開発, NTT DOCOMO テクニカル ジャーナル,Vol. 24, No. 2, pp. 8-13, Jul. 2016. (4) 吉原 戸枝 藤井 諏訪 山田 : 高度化 C-RAN アーキテクチャを実現する無線装置およびアンテナの開発, NTT DOCOMO テクニカル ジャーナル,Vol. 23, No. 2, pp. 19-24, Jul. 2015. (5) https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2019/ 09/18_01.html 問い合わせ先 NTT ドコモ R&D 戦略部 E-mail dtj nttdocomo.com 78 2020.9