修 士 論 文 ( 要 旨 ) 2013 年 1 月 社 会 言 語 的 視 点 から 考 える 日 本 語 の 中 途 終 了 型 発 話 -ポライトネス(Politeness)を 中 心 に- 指 導 堀 口 純 子 教 授 言 語 教 育 研 究 科 日 本 語 教 育 専 攻 210J3904 朴 在 恩
目 次 用 語 の 定 義 1 第 1 章 は じ め に 3 1.1 研 究 の 背 景 3 1.2 研 究 の 目 的 6 1.3 研 究 意 義 6 第 2 章 先 行 研 究 と 問 題 点 7 第 3 章 調 査 1 16 3.1 調 査 概 要 16 3.2 調 査 対 象 者 16 3.3 分 析 対 象 16 3.4 中 途 終 了 型 発 話 の 割 合 と 分 析 17 3.5 調 査 1の 分 析 方 向 と 目 的 21 3.6 形 式 面 からみる 中 途 終 了 型 発 話 21 3.6.1 分 析 22 3.6.2 考 察 37 3.6.3 まとめ 38 3.7 機 能 面 からみる 中 途 終 了 型 発 話 38 3.7.1 分 析 39 3.7.2 考 察 55 3.7.3 まとめ 59 3.8 調 査 1の 総 合 的 まとめ 60 3.9 今 後 の 課 題 と 調 査 2への 方 向 付 け 60 第 4 章 調 査 2 62 4.1 調 査 概 要 62 4.2 調 査 対 象 者 62 4.3 調 査 方 法 63 4.4 分 析 対 象 の 範 囲 と 発 話 の 認 定 64 4.5 調 査 2の 分 析 方 針 と 目 的 64 4.6 分 析 64 4.7 総 合 的 考 察 75 4.8 調 査 2の 総 合 的 まとめ 83 第 5 章 本 研 究 のまとめと 今 後 の 課 題 87 5.1 本 研 究 のまとめ 87 5.2 本 研 究 の 限 界 87 5.3 本 研 究 の 意 義 と 今 後 の 課 題 88 参 考 文 献 a 添 付 資 料 1:フェイスシート ⅰ 添 付 資 料 2: 文 字 化 資 料 ⅱ
第 1 章 はじめに 初 めて 日 本 の 社 会 に 入 る 非 母 語 話 者 は コミュニケーション 上 の 様 々な 失 敗 を 重 ねつつ 気 づき- 学 び- 修 正 の 過 程 を 経 て 生 の 社 会 言 語 的 日 本 語 を 身 に 付 けてい く ところが その 心 的 負 担 は 小 さくない そこで 本 研 究 では 非 母 語 話 者 の 言 語 の 社 会 化 がよりスムーズに 進 められるよう スピーチレベル( 以 下 SL)のうち 中 途 終 了 型 発 話 に 注 目 する 異 文 化 間 コミュニケーションでは 多 かれ 少 なかれ 各 自 が 属 していた 言 語 文 化 やポ ライトネス 観 点 が 影 響 を 与 え 言 語 行 動 として 現 れる SLにおいても 非 母 語 話 者 は 今 までの 学 習 や 各 自 が 持 つ 社 会 言 語 的 経 験 心 理 的 要 素 からの 判 断 と 解 釈 でSLを 使 い 分 けている ところが そこで 話 者 の 意 図 とは 違 った 解 釈 が 生 まれることもある 本 研 究 では 日 本 語 母 語 話 者 と 非 母 語 話 者 の 中 途 終 了 型 発 話 を ポライトネス の 観 点 から 見 直 し その 役 割 と 解 釈 を 明 らかにすることを 目 的 とする なお 本 研 究 で 対 象 とする 非 母 語 話 者 は 調 査 1では5ヶ 国 調 査 2では 韓 国 語 母 語 話 者 である 第 2 章 先 行 研 究 本 研 究 は 宇 佐 美 (1995 2004 他 ) 伊 集 院 (2004)などの 先 行 研 究 の 結 果 に 基 づき SL のうち 中 途 終 了 型 発 話 に 関 する 分 析 と 考 察 を 行 う 調 査 1では これまでのSL 研 究 を 参 考 に 分 析 するにとどまらず ポライトネス 観 点 から 日 本 語 母 語 話 者 と 非 母 語 話 者 の 中 途 終 了 型 発 話 の 分 析 を 行 い 特 徴 を 探 る また これを 基 にした 調 査 2では 日 韓 の 接 触 場 面 での 韓 国 人 日 本 語 学 習 者 の 中 途 終 了 型 発 話 の 分 析 を 行 うことで ポライ トネス 観 点 での 発 話 の 意 図 の 差 を 探 る これにより 韓 国 人 学 習 者 が 日 本 語 コミュニケ ーションを 行 う 際 の 中 途 終 了 型 発 話 への 理 解 と 使 用 を 促 せると 考 えるからである さ らに 本 研 究 では 韓 国 人 日 本 語 学 習 者 への 中 途 終 了 型 発 話 の 指 導 をポライトネス 観 点 から 見 直 すことを 提 案 する 第 3 章 本 研 究 のまとめ 本 研 究 は 日 本 語 コミュニケーションにおけるSLのうち 中 途 終 了 型 発 話 に 注 目 した ものである 構 成 として 調 査 1と 調 査 2に 分 けられている 中 途 終 了 型 発 話 を 分 析 して いくには 基 になる 理 論 が 必 要 である ところが 先 行 研 究 は 少 ない そこで 本 研 究 の 調 査 1では 中 途 終 了 型 発 話 の 形 式 と 機 能 を 明 らかにすることを 目 的 とした 特 に 機 能 面 においては 中 途 終 了 型 発 話 が 反 映 する 日 本 の 言 語 文 化 をポライトネス 観 点 か ら 見 直 し 分 析 しようと 考 えた 日 本 語 母 語 話 者 と 非 母 語 話 者 両 方 の 中 途 終 了 型 発 話 を 分 析 対 象 とし 両 者 の 役 割 と 解 釈 の 差 を 明 らかにすることを 目 的 とした その 結 果 調 査 1では 1) 母 語 話 者 と 非 母 語 話 者 の 中 途 終 了 型 発 話 に 解 釈 の 違 いがあることが 明 らかになった 母 語 話 者 と 非 母 語 話 者 それぞれの 中 途 終 了 型 発 話 が 持 つコミュニケー シ ョ ン 上 の 形 式 と 機 能 の 分 析 を 行 い 両 者 の 発 話 に は 多 少 ず れ が あ っ た も の の 形 式 機 能 面 で 関 連 付 けられ 発 話 されていることが 明 らかになった そして 2) ポ ライトネス 観 点 からの 機 能 面 での 解 釈 が 中 途 終 了 型 発 話 を 見 直 すために 非 常 に 大 事 な 手 がかりとなった それと 共 に 3) 非 母 語 話 者 の 中 途 終 了 型 発 話 が 母 語 話 者 と 比 1
べ どのような 特 徴 を 持 つかを ポライトネス 観 点 から 探 ることができた また 4) 中 途 終 了 型 発 話 が 持 つコミュニケーション 上 の 役 割 を 形 式 面 と 機 能 面 に 分 け 分 析 す るに 当 たって ポライトネス 観 点 での 機 能 面 の 会 話 構 造 を 見 出 すことができた 残 さ れた 問 題 としては 5) これまでSLの 分 類 に 入 れられず 研 究 者 それぞれの 判 断 で 分 類 研 究 されてきた 中 途 終 了 型 発 話 を 日 本 語 のSLに 入 れ 再 分 類 することができるか 6) 文 字 化 に 当 たっての 中 途 終 了 型 発 話 のスピーチスタイルのコーディングを 見 直 す ことができるかがある これらについては 今 後 の 課 題 にしたい 一 方 調 査 2は 調 査 1の 考 察 結 果 を 基 に 分 析 考 察 したものである 調 査 対 象 は 韓 国 語 母 語 話 者 とし その 中 途 終 了 型 発 話 の 分 析 を 行 った 三 宅 (2011)によると 配 慮 をめぐる 諸 要 素 の 背 景 には 文 化 の 問 題 があるという また ことばをともなって 相 手 に 配 慮 を 示 す 行 動 は 社 会 や 言 語 が 異 なっても 普 遍 的 に 存 在 する しかし 同 じようなことを 達 成 する 場 合 でも 異 なる 文 化 や 異 なる 言 語 間 では 配 慮 言 語 行 動 に 違 いがみられる つまり 配 慮 言 語 行 動 を 理 解 するには その 文 化 が 背 景 となる という 調 査 2の 考 察 では 三 宅 (2011)の 言 う 配 慮 言 語 行 動 の 違 いに 注 目 し 考 察 を 行 った そこで 韓 国 語 母 語 話 者 の 中 途 終 了 型 発 話 の 形 式 と 機 能 面 の 特 徴 や 意 図 は 何 かについて 探 ることができ 中 途 終 了 型 発 話 習 得 における 課 題 が 見 つけられた これらは 韓 国 人 日 本 語 学 習 者 向 けの 日 本 語 コミュニケーションにおける 中 途 終 了 型 発 話 の 習 得 と 教 育 方 法 の 参 考 になると 思 われる 第 4 章 本 研 究 の 限 界 調 査 1の 中 途 終 了 型 発 話 の 機 能 面 での 考 察 と 発 話 構 造 に 関 しては 母 語 話 者 の 視 点 からみるとまた 異 なる 解 釈 ができる 可 能 性 がある 稿 者 が 機 能 面 をポライトネス 観 点 から 分 析 しようとした 理 由 はそのような 限 界 を 認 識 した 結 果 でもある また 調 査 2では 韓 国 人 母 語 話 者 の 中 途 終 了 型 発 話 の 形 式 面 と 機 能 面 の 特 徴 を1つ ずつ 取 り 上 げ 分 析 した ところが 調 査 1から 得 られた 他 の 形 式 と 機 能 についてはよ り 詳 細 な 分 析 までは 行 えなかった 調 査 1の 理 論 を 確 かめ 確 実 にするためにも 調 査 1の 考 察 と 発 話 構 造 を 基 にした 研 究 を 進 めることが 必 要 とされる 第 5 章 本 研 究 の 意 義 と 今 後 の 課 題 本 研 究 を 執 筆 する 中 稿 者 が 考 える 中 途 終 了 型 発 話 についての 考 えや 課 題 と 認 識 が 共 通 する 研 究 ( 宇 佐 美 2012)が 最 近 発 表 出 版 された 宇 佐 美 (2012)は 日 本 語 教 育 で 取 り 上 げる 必 要 がある 中 途 終 了 型 発 話 習 得 の 課 題 とその 解 決 方 法 として 3つを 挙 げている 本 研 究 の 今 後 の 課 題 は 宇 佐 美 (2012)が 述 べている3つの 課 題 を 参 考 にす る まず 1 番 目 は 言 外 の 意 味 や 機 能 を 理 解 する 力 を 身 につける ことである そのためには その 理 解 力 を 助 ける 理 論 が 必 要 であり その 理 論 の 論 理 を 裏 付 ける 研 究 がなされるべきであろう そういう 意 味 では 本 研 究 の 調 査 1で 中 途 終 了 型 発 話 の 形 式 と 機 能 を 分 析 考 察 し 特 徴 を 引 き 出 したことは わずかな 成 果 ではあるが 中 途 終 了 型 発 話 の 研 究 を 一 歩 進 めたこととして 意 義 のある 考 察 であったと 考 える 今 後 の 研 究 では その 考 察 を 妥 当 性 のある 理 論 にすることと それに 加 えて 新 しい 考 察 を することを 念 頭 において 研 究 を 進 めたい 2つ 目 は 学 習 者 が 自 ら 中 途 終 了 型 発 話 2
を 適 切 に 使 える 力 を 持 っているか また 中 途 終 了 型 発 話 が 日 本 語 の 特 徴 的 なやり とり で ポライトネスにもかかわっている という 認 識 を 持 っているかを 分 析 する 必 要 があるだろう そして ポライトネスにかかわっているかどうかについては 調 査 1でも 行 ったポライトネス 観 点 からの 機 能 面 を 結 び 付 けた 分 析 を 行 う 必 要 があるだ ろう 3 番 目 は 日 本 語 コミュニケーションで 多 く 現 れる 共 同 発 話 文 において 相 手 の 発 話 の 意 味 や 意 図 を 予 測 する 力 を 分 析 することである 構 文 力 を 身 につけ るためには まず 使 用 の 現 状 と 理 由 を 把 握 する 必 要 がある それは 中 途 終 了 型 発 話 の 前 後 の 発 話 の 分 析 からできると 思 われる そこから 課 題 を 見 つけ 日 本 語 教 育 への 提 案 ができるだろう 上 で 述 べた 課 題 3つを 韓 国 語 日 本 語 学 習 者 を 対 象 として 調 査 分 析 を 行 い 解 決 していくことで 日 本 語 教 育 への 一 助 となることを 願 っている 3
参 考 文 献 荻 原 稚 佳 子 (2008) 言 いさし 発 話 の 解 釈 理 論 春 風 社 伊 集 院 郁 子 (2004) 母 語 話 者 による 場 面 に 応 じたスピーチスタイルの 使 い 分 け- 母 語 場 面 と 接 触 場 面 の 相 違 - 社 会 言 語 科 学 6 号, pp.12-26. 宇 佐 美 まゆみ(1993) 初 対 面 の 二 者 間 の 会 話 の 構 造 と 話 者 に よる 会 話 のストラテジ ー: 話 者 間 の 力 関 係 による 相 違 - 日 本 語 の 場 合 The Communication Assoc iation of Japan(CAJ) pp.25-40. 宇 佐 美 まゆみ(1993) 談 話 レベルから 見 た politeness - Politeness theory の 普 遍 理 論 確 立 のために ことば 14(12), pp.20-29, 現 代 日 本 語 研 究 会 宇 佐 美 まゆみ(2003) 異 文 化 接 触 とポライトネス-ディスコース ポライトネス 理 論 の 観 点 から- 国 語 学 第 54 巻 3 号, pp.117-132. 宇 佐 美 まゆみ(2007) 改 訂 版 : 基 本 的 な 文 字 化 の 原 則 (Basic Transcription System for Japanese:BTSJ) 2007 年 3 月 31 日 改 訂 版 小 田 美 恵 子 (2002) 中 途 終 了 型 発 話 の 横 断 的 研 究 : 中 上 級 韓 国 人 学 習 者 の 発 話 から 龍 谷 大 学 国 際 センター 研 究 年 報 11 号, pp.15-26. 川 口 義 一 (2005) 海 外 における 待 遇 表 現 教 育 の 問 題 点 - 台 湾 での 研 修 会 における 事 前 課 題 分 析 (3)- 紀 要 早 稲 田 大 学 日 本 語 研 究 教 育 センター16:37-50 金 珍 娥 (2002) 日 本 語 と 韓 国 語 に おける 談 話 ス トラテジースピーチレベルシフト 朝 鮮 学 報 第 183 朝 鮮 学 会 佐 久 間 まゆみ 杉 戸 清 樹 半 澤 幹 一 (1997) 文 章 談 話 のしくみ おうふう 白 川 博 之 (2009) 言 いさし 文 の 研 究 くろしお 出 版 真 田 真 治 (2006) 韓 国 人 による 日 本 社 会 言 語 学 研 究 おうふう 真 田 真 治 (2006) 社 会 言 語 学 の 展 望 くろしお 出 版 真 田 真 治 (2008) 活 動 としての 文 と 発 話 ひつじ 書 房 申 媛 善 (2009) 韓 国 人 日 本 語 学 習 者 の 文 末 スタイルの 運 用 - 時 間 軸 に 沿 った 敬 体 使 用 率 の 変 化 に 着 目 して- 日 本 語 教 育 140 号, pp.81-91. 陳 文 敏 (2000b) 日 本 語 母 語 話 者 の 会 話 に 見 られる 中 途 終 了 型 発 話 - 表 現 形 式 及 び その 生 起 の 理 由 - 言 葉 と 文 化 第 1 号, pp.125-141. 徳 井 厚 子 桝 本 智 子 (2006) 対 人 関 係 構 築 のためのコミュニケーション 入 門 ひつじ 書 房 J.V.ネウストプニー(2003) 外 国 人 とのコミュニケーション 岩 波 新 書 野 田 尚 史 (2012) 日 本 語 教 育 のためのコミュニケーション 研 究 くろしお 出 版 堀 口 純 子 (1990) 対 話 における 省 略 の 復 元 のストラテジー 文 藝 言 語 研 究 言 語 編 堀 口 純 子 (1997) 日 本 語 教 育 と 会 話 分 析 くろしお 出 版 三 牧 陽 子 (2007) 文 体 差 と 日 本 語 教 育 日 本 語 教 育 134 号, pp.58-67. Brown,P. and Levinson, S. (1987) Politeness : Some universals in language usage. Second edition, Cambridge University Press. Ikuta, Shoko(1983) Speech Level Shift and Conversational Strategy in Japanese Discourse, Language Sciences 5/1:37-53.