FINDAS 若 手 研 究 者 セミナー 2012 年 1 月 28 日 土 着 医 療 のアーユルヴェーダ 化 スリランカにおける 伝 統 医 療 の 制 度 化 と 実 践 をめぐって 首 都 大 学 東 京 人 文 科 学 研 究 科 博 士 後 期 課 程 梅 村 絢 美 1
はじめに アーユルヴェーダの 氾 濫 ➀ 法 制 度 上 のアーユルヴェーダの 拡 大 20 世 紀 初 頭 にはじまるスリランカ 伝 統 医 療 保 護 育 成 政 策 は 生 物 医 療 を 模 範 に 近 代 化 されたインドのアーユルヴェーダにならい インドで 教 育 を 受 けた アーユルヴェーダ 医 師 を 中 心 に 推 進 される 土 着 の 医 療 実 践 の 合 理 化 近 代 化 ( 言 語 化 脱 魔 術 化 など) 伝 統 医 療 =アーユルヴェーダ 2アーユルヴェーダの 商 業 化 観 光 化 アーユルヴェーダが 固 有 名 詞 となり ブランド 化 3 土 着 の 医 療 実 践 のアーユルヴェーダ 化 ➀2の 流 れのなかで 土 着 の 医 療 は 実 践 においてアーユルヴェーダ 化 を 余 儀 なくされている 2
本 発 表 の 目 的 と 構 成 スリランカの 土 着 医 療 が アーユルヴェーダの 制 度 化 に 際 して アーユルヴェーダに 包 摂 していく 過 程 を 明 らか にする ➀アーユルヴェーダの 制 度 化 における 包 摂 2 制 度 化 におけるアーユルヴェーダ 化 を 補 強 再 生 産 する 人 文 社 会 科 学 研 究 者 3 土 着 医 療 の 実 践 のアーユルヴェーダ 化 3
調 査 の 概 要 2008 年 10 月 から2011 年 8 月 まで 断 続 的 に 合 計 約 14ヶ 月 間 スリランカの 西 部 州 (コロンボ 県 ガンパハ 県 ) 中 部 州 (キャンディ 県 ) 北 西 部 州 (クルネーガラ 県 ) 南 部 州 (バランゴダ 県 )において 土 着 医 療 の 診 療 をおこ なうシンハラ 人 医 師 (32 名 )に 対 し 調 査 ケラニヤ 大 学 アーユルヴェーダ 学 部 ( 旧 Gampaha Wicramarachi Siddha Ayurveda Institute)における 参 与 観 察 シンハラ 語 を 中 心 に 一 部 英 語 の 通 訳 4
土 着 医 療 の 輪 郭 ベヘット ゲダラ( 医 療 の 家 )の 内 部 で 継 承 される デーシィーヤ チキッサ( 国 内 の 治 療 術 ) パーランパリ カー ヴェダカマ( 受 け 継 がれる 医 療 実 践 )という 呼 称 2009 年 現 在 パーランパリカー ヴェダカマの 医 師 とし て5190 名 の 医 師 が 登 録 されている[AYUEVEDIC MEDICAL COUNCIL- SRILANKA 2010] ベヘット ゲダラ 間 の 情 報 共 有 を 好 まないため 統 一 的 な 理 論 知 識 をもつ 医 療 システムとして 対 象 化 しづらい 一 族 の 苗 字 や 出 身 地 の 地 名 を 用 いて ヴェダカマ (vedakama 医 療 実 践 の 意 ) と 称 す 5
呪 文 まじない 呪 文 治 癒 をもたらすヤカ( 悪 魔 )を 呼 び 寄 せ 治 癒 効 果 を 高 める 薬 を 作 ったり 薬 を 塗 布 したりする 際 に 唱 えられる ケマ(まじない) 打 撲 した 患 部 をたたく ガラスの 破 片 で 出 血 させ その 血 液 を 薬 に 混 ぜる 薬 を 塗 布 するとき 発 話 を 避 ける 6
7 (Photo by Ayami Umemura. 12. Dec. 2010.) 2012/2/9
土 着 医 療 の 習 得 長 期 間 の 修 業 を 要 する ピヒタナワー( 習 得 ): 覚 醒 大 きな 建 物 柱 を 立 てる イゲナガンナワー( 勉 強 ) ➀ペラ プルッダ 前 世 からの 習 性 2ダカ プルッダ 見 て 習 得 する 3カラ プルッダ 実 習 から 習 得 する 4パラ プルッダ 経 験 を 通 じて 習 得 する 薬 の 処 方 や 施 術 法 呪 文 を 暗 記 するだけでは 効 果 の ある 治 療 を 行 なうことはできない 四 つのピヒタナワーを 通 じて 医 療 行 為 を 行 なうにふさわしい 状 態 シッダ (siddha)に 到 達 することではじめて 薬 や 施 術 に 治 療 効 果 8
身 体 化 された 診 断 法 と 手 の 効 力 ほとんどの 医 師 が 聴 診 器 や 血 圧 計 など 医 療 器 具 を 用 いず ナーディ( 径 脈 )の 診 断 や 望 診 触 診 が 診 察 の 主 な 手 段 アトゥ グナヤー( 手 の 効 力 ) 生 得 的 な 能 力 一 族 以 外 の 者 がどれだけ 修 行 を 積 もうとも 習 得 することはできない 薬 草 を 主 原 料 とする 処 方 薬 は 医 師 が 手 でつくる 大 学 教 育 (4 年 + 研 修 1 年 )のみを 受 けたアーユルヴェーダ 医 師 は 医 療 器 具 に 頼 った 診 断 をおこない 処 方 箋 を 発 行 9
製 薬 の 風 景 10 2010 年 11 月 6 日 梅 村 撮 影
功 徳 としての 医 療 行 為 医 師 から 患 者 に 治 療 費 を 請 求 することは 稀 請 求 したら ピン( 功 徳 )や 治 療 効 果 も 消 えてしまう 患 者 は 医 師 にワンディナワー( 医 師 の 足 元 で 額 づく)し たり 手 土 産 贈 呈 品 アーユルヴェーダや 生 物 医 療 では 医 療 行 為 に 価 格 が つけられ 患 者 は 医 師 に 額 づかない 11
Noted specialist in orthopedics. 12 Photo by Ayami Umemura Dec. 2010 2012/2/9
多 様 な 専 門 分 野 サルヴァンガ(Sarvanga): 全 身 サルパ ヴィシャ(Sarpa visha: 毒 ヘビ 毒 クモ サソリなど 動 物 の 毒 抜 き キャドゥム ビンドゥム(Kadum bindum): 整 骨 アス ヴェダカマ(As vedakama): 目 の 治 療 ゲディ ヴェダカマ(Gedi vedakama): 膿 瘍 チャルマ ローガ(Charma roga): 皮 膚 科 火 傷 マーナシカ ヴェダカマ(Manasika): 精 神 治 療 13
アーユルヴェーダの 起 源 と 近 代 化 (インドにおける) ヒマラヤで 瞑 想 中 のリシたちにブラフマンが 授 けた チャラ カ サンヒター 二 大 文 献 チャラカ サンヒター (A.C.2~3) スシュルタ サンヒター (A.C.3~4) チベット 中 医 学 ムスリム 統 治 下 におけるユナーニーの 影 響 19 世 紀 ~ 統 一 化 された 理 論 的 基 盤 をもつ 知 の 体 系 として 生 物 医 療 を 取 り 込 みながら 再 編 成 されていく 実 践 を 通 じた 習 得 から テキスト 中 心 の 近 代 教 育 へ 天 体 や 自 然 環 境 との 相 補 的 な 関 係 性 のなかにある 身 体 から 皮 膚 で 区 画 された 孤 立 した 身 体 へ[Gupta 1976] 14
スリランカにおける 医 療 の 沿 革 ラーワナにより3 冊 の 医 学 文 献 が 編 纂 される B.C.4 世 紀 の 仏 教 伝 来 とともにインドから 医 学 がもたらさ れる 王 権 誇 示 と 仏 教 倫 理 の 普 及 王 政 による 積 極 的 介 入 [Uragoda 1987] アヌラーダプラ 時 代 ポロンナルワ 時 代 に 病 院 助 産 院 仏 僧 による 研 究 がすすめられる 12 世 紀 ~ タミル 語 の 医 学 文 献 や 治 療 家 15
アーユルヴェーダの( 再 ) 輸 入 と 成 立 シンハラ 仏 教 徒 を 中 心 に 国 民 国 家 創 設 運 動 が 進 められるよう になると アーユルヴェーダは ナショナリズムのよりどころのひ とつとされる アーユルヴェーダの 定 義 化 の 必 要 当 時 のインドのアーユルヴェーダがひな 形 とされる 1910 年 Oriental Science and Medical Fund 創 設 インドのアーユルヴェーダ カレッジに 学 生 を 派 遣 1929 年 Wikramarachi Siddha Ayurveda Institute Ayurveda college 1962 年 バンダラナーヤカ 国 立 アーユルヴェーダ 研 究 所 1962 年 チャラカ スシュルタ シンハラ 語 訳 発 行 16
伝 統 医 療 の 制 度 化 1927 年 committee 創 設 1928 年 Board of Indigenous medicine 設 置 1950 年 医 師 登 録 の 開 始 1961 年 Ayurveda act アーユルヴェーダとは シッダ ユ ナーニー デーシィーヤ チキッサを 含 む 医 療 体 系 [section89 of Ayurveda act No.31 of 1961] 1962 年 ~ 薬 草 の 調 査 研 究 臨 床 における 研 究 教 育 活 動 出 版 事 業 薬 草 資 源 保 全 事 業 など 1984 年 ~ 土 着 の 医 療 の 発 展 プロジェクト 土 着 医 療 の 薬 の 処 方 や 薬 草 に 関 する 知 識 のみ 収 集 アーユルヴェーダの 知 識 および 製 薬 技 術 向 上 のため 17
医 師 登 録 と 学 歴 化 される 医 師 たち 1950 年 ~アーユルヴェーダ 協 議 会 による 医 師 登 録 土 着 医 療 の 医 師 は 後 継 者 を 学 位 が 取 得 できる 大 学 や 専 門 学 校 でアーユルヴェーダを 学 ばせる アーユルヴェーダの 医 師 として 登 録 父 から 受 け 継 いだ 医 療 をやっていくためにも アーユ ルヴェーダの 学 位 を 取 得 する 必 要 がある 兼 業 の 医 師 に 専 業 or 閉 業 をせまる 18
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アーユルヴェーダ 教 育 と 土 着 医 療 土 着 医 療 は ベヘット ゲダラにおいて 継 承 される アトゥ グナヤー ヘキアーワを 重 視 多 数 の 学 生 に 言 語 情 報 の 知 識 を 伝 える 学 校 教 育 大 学 の5 年 生 で 週 に 一 回 現 役 の 土 着 医 療 の 医 師 が 出 張 講 義 ( 必 修 科 目 ) 薬 の 処 方 の 暗 記 中 心 スリランカ 固 有 のアーユルヴェーダ(デーシィーヤ アー ユルヴェーダ)として 土 着 医 療 で 用 いられる 薬 草 や 製 薬 法 などにかかわる 科 目 20
複 合 的 な 伝 統 医 療 としての アーユルヴェーダの 再 生 産 20 世 紀 以 降 の 近 代 的 なアーユルヴェーダの 輸 入 を ス リランカにおけるアーユルヴェーダの 再 復 興 とする 見 方 [Wanninayaka 1982] アーユルヴェーダとは シッダ ユナーニー デー シィーヤチキッサを 含 む 医 療 体 系 [section89 of Ayurveda act No.31 of 1961] ひとつに 対 象 化 しづらい 土 着 医 療 を 雑 多 な 医 療 と してのアーユルヴェーダ 定 義 を 引 用 しそれに 押 し 込 む ことで 土 着 医 療 の 輪 郭 を 描 く 困 難 を 回 避 [Higuchi 2002; Kusumaratne 1995,2005; Uragoda 1987] アーユルヴェーダが 伝 統 医 療 の 代 表 格 の 地 位 確 立 21
アーユルヴェーダ 理 論 の 引 用 土 着 医 療 の 理 論 的 側 面 をアーユルヴェーダ 理 論 を 引 用 して 説 明 する 論 法 デーシィーヤ チキッサは 今 日 アーユルヴェーダの 理 論 を 利 用 して 行 われている [Higuchi 2002:5] チャラカ スシュルタ を 引 き 合 いに 出 すのが 常 套 化 少 なくとも 発 表 者 が 調 査 した 範 囲 では 読 んだことが あると 答 えた 医 師 は 皆 無 実 践 とした 乖 離 した 水 準 で 土 着 医 療 がアーユル ヴェーダにすり 替 えられてしまっている 22
実 践 におけるアーユルヴェーダ 化 後 継 者 にアーユルヴェーダ 教 育 を 受 けさせ アーユル ヴェーダ 医 師 (サルヴァンガ)として 登 録 薬 をつくらず 処 方 箋 をだす 美 容 業 界 に 進 出 したAyurvedaを 看 板 に アーユルヴェーダなど 他 の 医 療 による 診 断 結 果 やカル テを 患 者 が 持 参 他 の 診 断 方 法 23
おわりに 本 発 表 では 生 物 医 療 に 触 発 されて 近 代 化 されたアー ユルヴェーダに スリランカの 土 着 医 療 が 制 度 的 に 包 摂 され 研 究 者 がそれを 補 強 再 生 産 していることを 明 らかにした 近 代 化 的 枠 組 み( 教 育 など)への 包 摂 統 一 的 な 知 的 システムの 希 求 24