震 災 や 放 射 線 が 児 童 生 徒 への 心 身 に 与 える 影 響 について 日 本 小 児 心 身 医 学 会 田 中 英 高 ( 大 阪 医 科 大 学 小 児 科 ) 福 島 県 内 で 一 定 の 放 射 線 量 が 計 測 された 学 校 等 に 通 う 児 童 生 徒 等 の 日 常 生 活 等 に 関 する 専 門 家 からのヒアリング( 第 1 回 )について 平 成 23 年 5 月 31 日
子 どものストレス 反 応 を 必 要 以 上 に 心 配 すると かえって 心 身 の 不 調 が 悪 化 します 子 どもの 心 の 診 療 医 専 門 研 修 テキスト( 厚 労 省 雇 用 均 等 家 庭 児 童 局 発 行 p36) (3) 親 ガイダンスの 基 本 的 姿 勢 親 自 身 が 不 安 を 減 らし 子 どもとのかかわりの 自 信 を 持 てるように 導 いて いく と 記 載 がある 青 春 期 精 神 医 学 診 断 と 治 療 社 p86-90 ストレス 関 連 障 害 の 項 くり 返 しストレスを 感 じることでさまざまな 身 体 症 状 や 精 神 症 状 を 生 ず る と 記 載 がある 子 どもの 心 とからだ( 日 本 小 児 心 身 医 学 会 雑 誌 )2005; 14: 2-13 小 児 心 身 医 学 における 合 理 性 と 心 の 神 秘 性 の 融 合 養 育 に 一 生 懸 命 な 保 護 者 は 子 どもの 異 常 な 症 状 に 深 刻 になりがちで それ が 子 どもの 症 状 をさらに 悪 化 させるケースが 多 い これを 海 外 では Selffulfilling profecy とよび 事 例 報 告 とともに 記 載 されている
震 災 などの 精 神 的 ストレスが 子 どもに 与 える 影 響 心 身 症 身 体 化 障 害 睡 眠 障 害 習 癖 の 悪 化 遺 尿 ( 夜 尿 )など 分 離 不 安 障 害 不 安 障 害 強 迫 性 障 害 外 傷 後 ストレス 障 害 (PTSD): 津 波 や 地 震 で 死 の 恐 怖 を 感 じた 子 どもに 生 ずる 可 能 性 があります
心 身 症 身 体 化 障 害 子 どもの 不 安 が 過 剰 になると 不 安 が 身 体 症 状 に 代 わって 現 れたり 自 律 神 経 系 の 異 常 として 身 体 症 状 が 出 現 することがあります 過 剰 な 不 安 が 蔓 延 している 時 に 子 どもが 身 体 症 状 を 訴 えたら このような 可 能 性 についても 思 い 及 ぶことが 大 切 です このような 場 合 は 身 体 症 状 に 対 する 対 応 だけは なく 子 どもに 事 実 を 伝 えて 安 心 させる 必 要 があ ります 精 神 科 薬 物 療 法 が 有 効 なことがあります
睡 眠 障 害 習 癖 の 悪 化 遺 尿 ( 夜 尿 ) 乱 暴 な 行 動 情 緒 の 乱 れなど 子 どもの 不 安 が 強 まると 精 神 状 態 が 緊 張 する ため 夜 眠 れなくなることがあります チックや 爪 噛 みなどの 習 癖 が 悪 化 することも あります 遺 尿 ( 夜 尿 )が 起 きることもあります イライラしたり 乱 暴 な 行 動 が 見 られたり 急 に 泣 いたり 元 気 がなくなることもあります このような 時 にも 事 実 を 伝 えて 子 どもを 安 心 させる 必 要 があります
分 離 不 安 障 害 子 どもが 過 剰 な 不 安 状 態 に 陥 った 時 自 分 を 安 心 させるために 一 番 信 頼 している 親 から 離 れたが らなくなります 自 分 が 親 と 離 れている 間 に 親 に 悪 いことが 起 きる のではないかと 心 配 し 親 から 離 れられず 結 果 として 不 登 校 になることがあります そういう 時 は 無 理 に 親 から 離 すのではなく 子 ど もが 安 心 するまで 傍 に 寄 り 添 い 段 階 的 に 親 から 離 れられるように 配 慮 します 精 神 科 薬 物 療 法 が 有 効 な 場 合 があります
不 安 障 害 漠 然 とした 不 安 が 強 くなると 子 どもは 様 々なこ とに 対 して 強 い 不 安 を 抱 くようになります 悪 い 事 態 が 起 きる 前 からそれを 心 配 し それを 避 けるために 行 動 を 控 えるようになります 結 果 と して 不 登 校 が 生 じることもあります そういう 時 は 無 理 に 行 動 させるのではなく 事 実 を 伝 えて 安 心 させ 段 階 的 に 安 易 なことから 行 動 させて 心 配 のないことを 確 認 しながら 通 常 のこと ができるようになるまで 援 助 します
強 迫 性 障 害 不 安 がますます 募 ると 子 どもは 現 実 の 不 安 に 直 視 できなくなり 別 なことを 心 配 するようになり ます 自 分 の 手 が 汚 れているのでないかと 不 安 になって 何 度 も 手 洗 いを 繰 り 返 したり 鍵 がちゃんと 閉 まっているか 何 度 も 確 認 するようになります ( 強 迫 観 念 と 強 迫 行 為 ) そういう 時 は 強 迫 観 念 や 強 迫 行 為 を 否 定 したり 禁 止 するのではなく 事 実 を 伝 えて 安 心 させ 段 階 的 に 強 迫 行 為 を 減 らしていきます 精 神 科 薬 物 療 法 が 有 効 なことがあります
もっと 強 いストレスでは とてもこわい 目 にあったり 自 分 ではどうにもできな かったという 体 験 は こころの 傷 として 薄 れていきに くくなることがあります(トラウマ) この 場 合 通 常 の 生 活 で 起 こるストレス 反 応 よりも 症 状 の 程 度 が 強 くなりますが トラウマに 対 する 反 応 としては 一 般 的 です からだの 症 状 では いつまでもこわい 夢 を 見 て 眠 れない 朝 が 起 きられない 息 苦 しい 吐 き 気 食 欲 低 下 腹 痛 頭 痛 排 尿 の 失 敗 がなか なか 治 らない 行 動 面 では ちょっとしたことでこわがる イライラ 怒 りっぽい 多 動 多 弁 あるいは 無 表 情 しゃべらない 赤 ちゃん 返 り 一 人 で いられない などがいつまでも 続 く 9
心 的 外 傷 後 ストレス 障 害 (PTSD)とは トラウマの 中 でも 地 震 や 津 波 の 被 害 のように 生 命 が 危 険 にさらされるような 強 い 恐 怖 を 経 験 をしたり 目 撃 した 場 合 で 以 下 の3つの 症 状 が1か 月 以 上 続 きます 1. トラウマ 体 験 が 自 分 の 意 思 と 無 関 係 にくり 返 し 思 い 出 される (フラッシュバック) 夢 を 見 る 2. トラウマ 体 験 に 関 する 思 考 や 会 話 を 避 けようとしたり 忘 れて いる 3. 不 眠 イライラ 興 奮 状 態 が 続 く 子 どもでは これらの 症 状 がはっきりと しない 場 合 もあります 10
子 どもの 心 の 問 題 の 現 れ 方 (1) 子 どもの 様 々なストレス(ストレッサー) 乳 児 期 幼 児 期 小 学 校 思 春 期 母 子 関 係 家 庭 ストレス 兄 弟 間 葛 藤 夫 婦 関 係 学 校 での 集 団 生 活 ( 友 達 関 係 教 師 との 関 係 ) 学 業 のストレス 親 からの 圧 力 高 校 進 学 親 子 の 人 生 価 値 観 のズレ ( 支 配 的 夫 婦 不 和 虐 待 ) 学 校 ストレス (いじめ 学 業 教 師 )
子 どもの 心 の 問 題 の 現 れ 方 (2)ストレス 反 応 の 個 人 差 ( 子 どもの 素 質 ) 自 分 で 適 当 にストレスを 処 理 する (ストレス 対 処 行 動 が 良 好 stress coping) ストレスを 自 分 一 人 で 抱 え 込 むまじめな 性 格 病 気 になりやすい( 心 身 症 ) ストレスがたまると 外 部 にまき 散 らす 自 己 チュウ 本 人 は 平 気 周 囲 の 人 を 病 気 にする( 困 った 人 )
子 どもの 心 の 問 題 の 現 れ 方 (3)ストレス 反 応 を 和 らげるもの 学 校 ストレス (いじめ 学 業 教 師 ) 家 庭 ストレス ( 支 配 的 夫 婦 不 和 虐 待 ) 心 理 社 会 的 ストレス 子 どもの 素 質 性 格 知 能 精 神 発 達 親 家 庭 保 護 機 能 ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト 学 校 の 先 生 親 戚 ご 近 所
子 どもの 心 の 問 題 の 現 れ 方 からだの 異 変 ( 心 身 症 ) 行 動 上 の 問 題 ( 非 行 パニック) 学 校 ストレス (いじめ 学 業 教 師 ) ストレス 反 応 親 家 庭 保 護 機 能 家 庭 ストレス ( 支 配 的 夫 婦 不 和 虐 待 ) 子 どもの 素 質 性 格 知 能 精 神 発 達 ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト 学 校 の 先 生 親 戚 ご 近 所
心 配 事 やストレスは 心 身 の 不 調 を 起 こします いやなことがあったり 頭 ( 大 脳 皮 質 )で 心 配 なことを 考 え 過 ぎると その 命 令 が 脳 の 奥 の 部 分 ( 大 脳 辺 縁 系 や 視 床 下 部 )に 伝 えられ 様 々な 心 身 の 不 調 を 起 こ します これをストレス 反 応 といい 誰 にでも 起 こります ストレス 反 応 脳 大 脳 皮 質 大 脳 辺 縁 系 の 反 応 いらいらする ぼーっとする ひきこもる 小 脳 視 床 下 部 の 反 応 脈 が 速 くなる 食 欲 がない 眠 れない 頭 痛 や 腹 痛 微 熱 がでる 排 尿 の 失 敗 高 血 圧 や 低 血 圧 15
心 とからだはつながっています 楽 しいことやうれしいことがあると 心 が 軽 くなって ごはんもおいしく 夜 もよく 眠 れ ますね 逆 に いやなことや 心 配 なことがあると 胸 の あたりが 重 くなって ソワソワして 心 が 暗 く なります ご 飯 もおいしくなく 夜 が 眠 れない 頭 やおなかが 痛 くなったり からだがだるくな りますね これは 心 とからだがつながっているからです 子 どもにはこのように 説 明 しましょう 16
各 発 達 段 階 の 気 になる 症 状 ( 心 身 症 や 行 動 上 の 異 常 )と それを 起 こしやすい 精 神 発 達 心 理 社 会 的 背 景 発 達 段 階 心 身 症 行 動 上 の 異 常 精 神 発 達 心 理 社 会 的 背 景 幼 児 期 反 復 性 腹 痛 自 家 中 毒 症 周 期 性 嘔 吐 心 因 性 頻 尿 落 ち 着 きのなさ 退 行 ( 赤 ちゃん 返 り) 指 しゃぶりパニック 養 育 上 の 問 題 虐 待 同 胞 葛 藤 欠 損 家 庭 集 団 生 活 への 不 適 応 発 達 障 害 学 童 期 反 復 性 腹 痛 慢 性 頭 痛 関 節 痛 吃 音 チック 気 管 支 喘 息 落 ち 着 きのなさ 衝 動 性 乱 暴 パニック 抜 毛 不 登 校 不 眠 集 団 生 活 への 不 適 応, 発 達 障 害 友 人 関 係 (いじめ) 学 習 困 難 教 師 の 不 適 切 な 対 応 養 育 上 の 問 題 夫 婦 不 和 虐 待 思 春 期 以 後 起 立 性 調 節 障 害 過 敏 性 腸 症 候 群 頭 痛 過 換 気 症 候 群 摂 食 障 害 ( 神 経 性 無 食 欲 症 大 食 症 ) 不 登 校 ひきこもり よくうつ 状 態 不 眠 パニック リストカット 非 行 乱 暴 友 人 関 係 (いじめ) 学 力 問 題 教 師 の 不 適 切 な 対 応 養 育 上 の 問 題 夫 婦 不 和 親 との 価 値 観 の 相 違 発 達 障 害
日 本 の 子 どもは 体 調 不 良 で 精 神 不 安 定 である Tanaka H, Mollgborg P, Terashima S, Borres MP. Comparison Between Japanese and Swedish Schoolchildren in regards to Physical Symptoms and psychiatric complaints. Acta Pediatr 2005; 94: 1661-6 方 法 日 本 (742 名 )とスウエーデン(1120 名 )の 小 4 中 3に 質 問 票 質 問 に 対 して はい ときどき いいえ の3 件 法 で 回 答 朝 起 きにくく 午 前 中 体 調 が 悪 い たちくらみやめまいがする おなかがいたくなる カッとしやすい よく 死 にたいと 思 う 家 でストレスを 感 じる 中 学 Sweden 中 学 日 本 わたしは 学 校 でストレスを 感 じる はい の 回 答 率 (%) 0 20 40
心 身 に 問 題 のある 子 どものパターンと 早 期 発 見 とトリアージ ク ラ ス の 中 の 気 に な る 子 ど も の パ タ ー ン 慢 性 疾 患 などの 持 病 がある エスケープ 暴 力 盗 難 などの 非 行 精 神 不 安 定 ときにパニック リストカット すでに 欠 席 が1ヵ 月 以 上 遅 刻 早 退 がある 体 調 不 良 を 訴 える (だるい くらくらする ふらつく 気 分 不 良 ) 保 健 室 にたびたび 行 く 月 曜 日 に 休 みが 多 い 表 情 が 暗 い 一 人 でいることが 多 い 元 気 にしているが 少 し 痩 せすぎ または 体 重 が 減 った 友 達 との 交 流 が 少 なく おとなしい クラスで 浮 いた 感 じでもなかったけど コミュニケーションが 取 りにくいが クラスの 中 で 浮 いた 感 じでもない クラスで 時 々 妙 にはしゃいぐことあり クラスの 中 で 浮 いた 感 じがする クラスでジッとすべき 時 にできない 衝 動 性 がある 注 意 集 中 が 悪 い 記 憶 力 など 知 的 に 大 きな 問 題 がないのに 学 業 が 追 いつかない 行 為 障 害 人 格 障 害 ( 基 礎 にPDD) 適 応 障 害 不 安 障 害 うつ 統 合 失 調 神 経 症 的 登 校 拒 否 不 登 校 の 初 期 起 立 性 調 節 障 害 うつ 状 態 摂 食 障 害 怠 学 高 機 能 自 閉 症 アスペルガー 注 意 欠 損 多 動 性 障 害 学 習 障 害 心 身 症 発 達 障 害 専 門 的 対 応 要 一 次 対 応 児 童 健 康 チ ェ ッ ク リ ス ト QTA 30 ト リ ア ー ジ
QTA30による 一 般 児 童 生 徒 群 と 心 身 症 群 の 得 点 分 布 10.0% 9.0% 8.0% 7.0% 6.0% 5.0% 4.0% 3.0% 2.0% 1.0% 一 般 群 心 身 症 群 0.0% 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 3637383940414243 合 計 得 点
QTA30の 評 価 による 対 応 基 準 合 計 点 数 評 価 と 対 応 9 点 以 下 今 回 の 調 査 では 問 題 なしと 評 価 する 10-14 点 兆 候 が 少 ないが 本 人 とスクールカウンセラーが 要 観 察 群 面 談 することが 望 ましい 15-2 4 点 心 身 の 不 調 が 強 く 要 医 療 対 象 児 である 潜 在 的 準 優 先 群 な 身 体 疾 患 の 除 外 および 起 立 性 調 節 障 害 など 心 身 症 の 診 断 のために 一 般 小 児 科 への 受 診 が 25 点 以 上 優 先 群 勧 められる 心 と 身 体 の 両 面 からの 診 療 が 必 要 一 般 小 児 科 医 経 由 で あるいは 最 初 から 子 どもの 心 の 診 療 を 専 門 にしている 医 師 に 受 診 することが 望 まれる (こころの 相 談 医 二 次 診 療 担 当 医 児 童 精 神 科 医 など)