ホワイトカラーのキャリア 形 成 - 人 事 データに 基 づく 昇 進 昇 格 と 異 動 の 実 証 分 析 - 一 橋 大 学 審 査 博 士 学 位 請 求 論 文 要 旨 上 原 克 仁 1. 本 論 文 の 背 景 と 目 的 1.1 背 景 1980 年 代 において いわゆる 日 本 型 の 人 事 管 理 は 国 際 競 争 力 の 源 泉 として 世 界 から 注 目 を 浴 びていた しかし 1990 年 代 に 入 り バブル 景 気 が 崩 壊 し デ フレ 不 況 下 にあって 企 業 業 績 が 低 迷 を 続 けると 一 転 して その 原 因 を 日 本 型 人 事 管 理 に 帰 属 させる 論 調 が 噴 出 した そして 多 くの 日 本 企 業 は それまで 長 期 にわたり 人 事 制 度 の 骨 格 をなしてきた 職 能 資 格 制 度 に 見 切 りをつけ 成 果 主 義 の 導 入 を 柱 とする 人 事 制 度 改 革 を 行 った その 流 れは 賛 否 両 論 の 議 論 がなされ 運 用 の 見 直 しがなされるなど 試 行 錯 誤 を 繰 り 返 しながら 今 日 もなお 続 いている あわせて 昇 進 昇 格 についても 日 本 企 業 の 特 徴 とされる 遅 い 選 抜 のデメリッ トを 解 消 するため 早 期 選 抜 や 抜 擢 人 事 が 可 能 な 制 度 を 導 入 する 企 業 も 多 く 見 ら れた ブルーカラーの 研 究 に 比 べ 少 なさが 指 摘 される 中 ( 小 池 編 (1991)など) 今 日 に 至 るまで ホワイトカラーのキャリア 形 成 に 関 する 研 究 が 徐 々に 蓄 積 されて きた( 花 田 (1987) 小 池 猪 木 編 (2002)など) その 結 果 欧 米 企 業 と 対 比 さ せ 遅 い 昇 進 遅 い 選 抜 ( 小 池 編 (1991)など) キャリアの 段 階 に 応 じて 変 化 する 選 抜 メカニズム ( 今 田 平 田 (1995) 竹 内 (1995))などといった 日 本 企 業 特 有 の 昇 進 管 理 の 特 徴 が 見 出 されてきた さらに 選 抜 育 成 と 動 機 づけ の 相 矛 盾 する 制 約 要 因 に 直 面 する 中 で 見 出 された 昇 進 構 造 がいかに 効 率 的 か どのようなメリットやデメリットが 存 在 するか 議 論 がなされてきた し かし データの 入 手 困 難 性 も 手 伝 って いまだ 解 明 されていない 実 態 が 数 多 くあ るように 思 われる 昇 進 昇 格 に 関 する 先 行 研 究 の 多 くは 主 として 格 差 がいつ 発 生 するかに 多 くの 注 意 を 注 いできた しかし 今 田 平 田 (1995)の 冒 頭 にもあるように 企 1
業 で 働 く 者 のキャリアは 昇 進 昇 格 と 異 動 ( 職 務 の 配 置 転 換 )が 密 接 に 関 係 し あって 形 成 されるものと 考 えられる にもかかわらず 小 池 編 (1991)なども 指 摘 するように これまでの 昇 進 昇 格 構 造 の 分 析 を 試 みた 研 究 の 多 くは 配 置 転 換 ( 異 動 )と 強 く 関 係 している 技 能 形 成 の 視 点 に 乏 しい その 逆 もまた 然 りであ る 一 体 であるものを 一 緒 に もしくは 関 連 付 けて 分 析 がなされていないことに 現 実 を 把 握 しきれない 一 因 があるように 思 われる 1.2 目 的 このような 現 状 を 踏 まえ 本 論 文 の 目 的 は 1990 年 代 後 半 までなされていた 日 本 の 大 企 業 で 働 くホワイトカラーの 人 的 資 源 管 理 の 実 態 を 明 らかにすることに ある とりわけ 入 手 した 人 事 データを 用 い これまで 主 として 別 々に 分 析 議 論 がなされてきた 昇 進 昇 格 と 職 務 配 置 を2 軸 で 結 合 させ 彼 らのキャリア 形 成 過 程 とその 問 題 点 を 再 吟 味 する そして キャリアを 通 じて 従 業 員 が 企 業 の 目 的 に 沿 って 行 動 するよういかに 誘 因 が 与 えられてきたのか さらには 生 産 性 向 上 を 図 るため いかに 教 育 訓 練 がなされ 適 材 適 所 を 実 現 してきたのか 労 働 経 済 学 と 人 的 資 源 管 理 論 の 観 点 から 実 証 的 に 解 明 し 新 たな 知 見 を 導 くこととした い 本 論 文 の 構 成 は 以 下 の 通 りである 第 1 章 問 題 意 識 と 課 題 の 設 定 第 2 章 大 手 銀 行 におけるホワイトカラーの 昇 進 構 造 第 3 章 総 合 商 社 における 異 動 と 昇 格 補 論 総 合 商 社 D 社 の 会 社 概 要 と 人 事 制 度 第 4 章 異 動 パターンに 見 る 昇 格 格 差 発 生 前 のキャリア 分 化 第 5 章 総 合 商 社 における 出 向 施 策 第 6 章 結 論 と 含 意 2. 各 章 の 要 約 第 1 章 問 題 意 識 と 課 題 の 設 定 では 本 論 文 における 分 析 枠 組 みを 設 定 す べく Doeringer and Piore(1971)の 内 部 労 働 市 場 論 や 小 池 編 (1991)の 知 的 熟 練 論 遅 い 選 抜 論 さらには 早 い 昇 進 と 遅 い 昇 進 の 理 論 的 考 察 を 行 った Prendergast(1992)など 関 連 する 労 働 経 済 学 の 理 論 を 誘 因 と 教 育 訓 練 およ び 人 的 資 源 配 分 の 観 点 から 概 観 する それをふまえて 日 本 企 業 におけるホワイ 2
トカラーの 昇 進 昇 格 と 異 動 に 関 する 先 行 研 究 から 得 られた 知 見 を アメリカ 企 業 における 労 働 慣 行 との 比 較 も 試 みながら 展 望 する そして そこから 析 出 され た 未 だ 解 明 されていない 先 行 研 究 の 空 白 部 分 を 埋 めるべく 本 論 文 の 研 究 課 題 を 設 定 する 第 2 章 大 手 銀 行 におけるホワイトカラーの 昇 進 構 造 では 昇 進 のインセ ンティブ 機 能 の 観 点 から 同 じ 業 種 を 営 む 企 業 でも 業 態 が 異 なることで そこで 働 く 者 のキャリアにいかなる 違 いが 見 られるか 分 析 を 試 みた 具 体 的 には 公 刊 されている 銀 行 職 員 録 を 20 余 年 にわたり 追 跡 し 1972 年 に 入 行 した 大 卒 行 員 の 昇 進 に 関 するデータをもとに 大 手 銀 行 3 行 の 昇 進 構 造 を キャリアツリー を 描 いて 明 らかにし 比 較 検 討 を 行 った その 結 果 いずれにおいても 第 一 選 抜 出 現 期 が 入 社 後 かなり 遅 い 時 点 で 設 定 されていたものの その 後 の 昇 進 構 造 には 顕 著 に 異 なる 傾 向 が 示 された 業 態 柄 行 員 が 専 門 性 の 高 い 業 務 に 特 化 し 生 産 性 や 責 任 の 度 合 いが 役 職 や 報 酬 ほど 大 き な 格 差 となって 現 れないとされる 長 期 信 用 銀 行 A 行 では 入 行 後 20 年 以 上 が 経 過 した 参 事 昇 進 時 点 においても 5 年 程 度 の 昇 進 スピード 格 差 の 中 でほぼ 全 員 が 昇 進 していた 他 方 都 市 銀 行 2 行 (B 行 およびC 行 )では 入 行 7 年 目 頃 の 第 1 選 抜 出 現 期 時 点 で すでに 10 年 以 上 の 格 差 が 同 期 入 行 者 間 で 生 じていた そ れまでの 修 得 技 能 を 活 かした 厳 しい 職 務 が 課 せられることに 伴 う 昇 進 時 点 での 厳 しい 選 別 と 護 送 船 団 方 式 と 呼 ばれた 規 制 による 一 貫 した 企 業 規 模 拡 大 をもたら す 環 境 が かかる 昇 進 構 造 を 可 能 にしていたと 推 測 される また 昇 進 競 争 に 遅 れをとった 者 が 早 期 に 退 職 するといった 傾 向 は 示 されず 敗 者 復 活 や 上 位 役 職 昇 進 の 可 能 性 が 残 されていた これまで 企 業 の 組 織 風 土 と 昇 進 昇 格 パターンの 間 に 関 連 が 存 在 することが 明 らかにされたが 観 察 された 傾 向 を 踏 まえると 社 員 に 技 能 習 得 や 能 力 向 上 の 誘 因 を 保 持 させる 昇 進 機 能 の 効 率 的 活 用 の 観 点 から 属 する 産 業 や 業 態 もそれと 強 く 関 連 していることが 明 らかになった あわせて A 行 のキャリアツリーは ピラミッド 型 の 組 織 では 本 来 不 可 能 な 構 造 である 規 制 の 恩 恵 がそれを 可 能 とし 昇 進 の 選 抜 機 能 やコストの 面 で さらには 誘 因 機 能 の 観 点 からも 最 適 でない 昇 進 構 造 を 合 理 的 なものと 化 している 可 能 性 がある 第 3 章 総 合 商 社 における 異 動 と 昇 格 では 職 務 配 置 と 昇 進 昇 格 がいか に 連 関 し 大 企 業 で 働 くホワイトカラーのキャリアを 形 成 しているのか 入 手 し た 総 合 商 社 D 社 の 37 年 におよぶ 社 員 名 簿 をもとに 1960 年 代 前 半 に 入 社 した 大 卒 男 子 社 員 840 余 人 の 人 事 データを 用 いて キャリア 構 造 の 分 析 を 試 みた とり わけ 職 務 配 置 に 焦 点 を 当 て 異 動 パターンが 職 務 間 の 関 連 性 の 強 さや 企 業 によ る 人 事 情 報 の 蓄 積 の 度 合 いなどに 応 じて 決 まることを グループごとおよびグル ープ 内 に 遷 移 行 列 などを 示 してこれを 明 らかにした 結 果 D 社 では 入 社 から 3
長 期 にわたり 同 一 グループに 所 属 し 営 業 グループ 内 においても 多 くは 長 期 に わたり1つの 専 門 商 品 を 担 当 し 国 内 外 の 勤 務 地 間 の 異 動 を 通 じキャリア 形 成 が 行 われていた 一 方 で 経 理 グループでは キャリア 初 期 には 営 業 会 計 主 計 財 務 海 外 現 地 法 人 とローテーションする 傾 向 が 示 されたが 中 期 以 降 は 異 動 先 が 限 定 されるなど かかる 傾 向 は 示 されなかった そして 所 属 グループや 担 当 する 専 門 商 品 ( 部 署 )の 違 いで 上 位 資 格 への 昇 格 可 能 性 に 有 意 な 格 差 が 見 られるのか カプラン マイヤー 推 定 値 を 用 いて 生 存 時 間 曲 線 を 描 くとともに ログランク 検 定 や 一 般 化 ウィルコクソン 検 定 を 用 いて 差 の 検 出 を 行 った 結 果 生 存 曲 線 には グループ 間 でスピードと 昇 格 者 割 合 に 異 なる 傾 向 が 観 察 され 行 った 検 定 では 課 長 及 び 代 理 といった 下 位 昇 格 時 点 で 有 意 な 格 差 が 検 出 された 機 械 グループに 配 属 された 者 に 対 象 を 限 定 し グループ 内 の 部 署 間 で 昇 格 格 差 が 検 出 されるか 分 析 を 試 みた 結 果 いずれの 部 署 にも 上 位 資 格 昇 格 者 と 下 位 資 格 滞 留 者 が 混 在 していたが 最 終 到 達 資 格 の 分 布 に 異 なる 傾 向 が 示 され 代 理 および 次 長 昇 格 時 点 で 部 署 間 に 有 意 な 格 差 が 検 出 された 各 部 で 最 終 的 に 上 位 資 格 まで 昇 格 した 者 の 多 くは 長 期 にわたり 同 一 商 品 を 担 当 し 同 一 部 内 で 昇 進 していた すなわち 先 に 見 た 遅 い 選 抜 という 分 析 結 果 に 反 し 同 一 部 内 さら には 少 ない 部 間 異 動 で 人 事 情 報 の 粘 着 性 が 低 く 昇 格 格 差 発 生 前 から 課 長 昇 格 順 位 や 最 終 到 達 資 格 に 規 定 されるキャリア( 職 務 配 置 )の 違 いが 観 察 される 可 能 性 を 指 摘 した 第 4 章 異 動 パターンに 見 る 昇 格 格 差 発 生 前 のキャリア 分 化 では 第 3 章 の 分 析 結 果 を 踏 まえ Prendergast(1992)の 誘 因 と 人 的 資 源 配 分 の 相 互 作 用 に 関 する 理 論 小 池 の 知 的 熟 練 論 さらには Thurow(1975)の 仕 事 競 争 モデルな どの 検 証 を 行 うべく D 社 における 入 社 から 退 職 までのキャリア 構 造 を 分 析 した そして なぜそのような 昇 格 構 造 になるのか 何 が 差 を 生 み 出 し 昇 進 昇 格 と 異 動 がいかに 連 関 しているか 明 らかにした 1960 年 代 前 半 に 入 社 した 大 卒 社 員 840 人 の 昇 格 パターンを 分 析 した 結 果 遅 い 昇 格 構 造 を 示 すものの 敗 者 復 活 が 少 なく 課 長 昇 格 順 位 が 最 終 到 達 資 格 に 影 響 を 及 ぼす 結 果 が 示 された これをふまえ 昇 格 格 差 発 生 前 の 職 務 配 置 に 目 を 向 け 異 動 格 差 の 存 在 可 能 性 を 統 計 的 に 検 証 した 結 果 主 任 ( 入 社 5-8 年 目 ) 昇 格 以 降 の 海 外 勤 務 経 験 が 課 長 昇 格 順 位 や 上 位 資 格 昇 格 に 正 の 国 内 支 店 勤 務 経 験 は 負 の 有 意 な 効 果 を 示 すなど 格 差 発 生 前 のキャリアから その 者 の 将 来 の 昇 格 を 推 測 することが 可 能 だった さらに 前 章 で キャリア 初 期 には 部 署 間 をジョブローテーションする 傾 向 が 観 察 された 経 理 グループに 対 象 を 限 定 し グループ 内 での 昇 進 昇 格 と 異 動 の 関 4
係 を 詳 細 に 分 析 した 結 果 第 2 配 属 以 降 技 能 習 得 順 位 の 代 理 指 標 と 仮 定 しう る 課 長 昇 格 順 位 に 応 じ 難 易 度 の 高 いと 思 われる 業 務 に 就 く 時 期 や 経 験 部 署 およ び 経 験 時 期 に 異 なる 傾 向 が 示 された 加 えて 昇 格 格 差 発 生 後 は たとえ 同 じ 役 職 名 であっても 課 長 昇 格 順 位 や 最 終 到 達 資 格 の 違 いで 配 属 される 部 署 が 顕 著 に 異 なっていた あわせて 遅 い 選 抜 の 存 立 基 盤 が 変 化 したことで D 社 の 昇 進 昇 格 と 職 務 配 置 の 構 造 にいかなる 変 化 がもたらされたか コーホート 比 較 を 通 じて 明 らかにし た 結 果 1970 年 代 前 半 の 世 代 では 課 長 昇 格 の 遅 延 化 傾 向 が 見 られ 有 意 な 異 動 格 差 を 示 す 時 点 が 早 期 化 するなど 早 い 選 抜 キャリア 分 化 の 早 期 化 傾 向 が 示 された 第 5 章 総 合 商 社 における 出 向 施 策 では 日 本 独 自 の 雇 用 慣 行 と 言 われる 出 向 に 焦 点 をあて これまで 人 事 データを 用 いた 分 析 があまりなされていない 中 D 社 ではいかに 出 向 政 策 が 採 られてきたか 分 析 を 通 じ 明 らかにした その 結 果 1960 年 代 前 半 以 降 国 内 外 を 問 わず 出 向 者 が 増 加 し 続 け 1990 年 代 半 ばには 全 社 員 の 約 6 分 の1(1500 人 女 子 社 員 を 含 む)が 出 向 していた とりわけ 1970 年 代 の 石 油 危 機 や 1980 年 代 後 半 の 定 年 延 長 等 D 社 の 人 事 管 理 に 影 響 を 及 ぼすイベントごとに 出 向 者 の 顕 著 な 増 加 傾 向 が 示 された 出 向 者 のD 社 関 連 会 社 に 出 向 する 者 の 割 合 は 概 ね7 割 を 超 え 出 向 先 のおよそ9 割 が 中 小 企 業 であった さらに 出 向 の 雇 用 調 整 および 人 材 育 成 などといった 観 点 から 誰 がいつどこ に 出 向 するのか さらには 出 向 がその 後 の 昇 進 昇 格 にいかなる 効 果 や 影 響 を 及 ぼすのかなどを 1970 年 代 後 半 入 社 の 若 い 世 代 にまで 分 析 対 象 を 拡 げて 行 った 結 果 世 代 が 若 くなるにつれ 出 向 の 早 期 化 と 出 向 者 数 の 増 加 さらには 出 向 年 数 の 長 期 化 傾 向 が 示 され 出 向 動 向 に 関 しては1% 水 準 で 帰 無 仮 説 が 棄 却 される など 世 代 間 で 有 意 な 格 差 が 検 出 された 出 向 前 後 の 職 位 や 業 種 の 変 化 に 関 しては ほぼ 全 ての 者 が 出 向 前 にD 社 で 担 当 していた 専 門 商 品 群 ( 業 種 )を 扱 う 中 小 企 業 に 出 向 し 出 向 先 では 役 員 などD 社 での 資 格 よりも 上 位 の 職 位 資 格 に 就 いていた 課 長 昇 格 前 のキャリア 前 半 に 出 向 を 経 験 した 者 の 課 長 昇 格 順 位 と 最 終 到 達 資 格 を 未 経 験 者 とコーホート 間 で 比 較 した その 結 果 出 向 者 が 少 ない 1960 年 代 入 社 者 では 海 外 出 向 経 験 者 を 中 心 に 上 ~ 中 位 で 課 長 に 昇 格 した 者 が 多 く 見 られ た しかし 世 代 が 若 くなるにつれ 出 向 者 数 とともに 遅 れて 課 長 に 昇 格 する 者 の 割 合 が 増 加 した さらに 1980 年 代 半 ば 以 降 出 向 者 が 急 増 し 外 国 企 業 に 出 向 経 験 を 有 する 者 を 中 心 に 最 終 的 に 上 位 資 格 まで 昇 格 する 者 が 見 受 けられた が その 数 は 未 経 験 者 の 割 合 と 同 等 か 若 干 下 回 る 程 度 で 先 行 研 究 で 指 摘 され 5
る 出 向 の 将 来 の 経 営 者 を 養 成 する 人 材 育 成 機 能 は 示 されなかった 3. 本 論 文 の 結 論 と 含 意 以 上 が 各 章 で 展 開 されている 議 論 の 要 約 である 日 本 の 大 企 業 で 働 くホワイ トカラーのキャリア 構 造 に 関 して 本 論 文 で 得 られた 主 要 な 結 論 と 含 意 をまとめ ると 以 下 のようになる 先 行 研 究 では 主 としてアンケート 調 査 や 聞 き 取 り 調 査 に 基 づき 欧 米 企 業 よ り 遅 い 第 一 選 抜 出 現 期 の 時 期 や 分 析 により 得 られた 格 差 発 生 後 の 昇 進 パターン の 形 状 から 日 本 企 業 における 昇 進 昇 格 に 関 する 議 論 がなされてきた 本 論 文 では 公 刊 されている 職 員 録 や 独 自 に 入 手 した 社 員 名 簿 をもとに 格 差 発 生 前 の ヨコの 異 動 にも 目 を 向 け 昇 進 昇 格 と 職 務 配 置 がいかに 連 関 し 彼 らのキャリ アを 成 しているか 明 らかにした より 詳 細 に 分 析 した 結 果 これまでなされてい た 議 論 とは 異 なる 可 能 性 を 示 す 結 果 がいくつか 現 れた 具 体 的 に 同 期 入 社 者 間 で 資 格 等 級 上 では 格 差 が 生 じていなくても 初 任 配 属 以 降 事 実 上 の 選 抜 が 継 続 して 少 しずつ 行 われ 格 差 発 生 時 点 では 役 員 等 上 位 資 格 まで 昇 格 しうる 者 が 相 当 に 絞 り 込 まれていた すなわち 格 差 発 生 前 の 勤 務 地 や 職 務 配 置 から 誰 が 課 長 に 早 期 に 昇 格 し 誰 が 上 位 まで 昇 格 するか 推 測 でき 第 1 選 抜 出 現 期 以 降 に 格 差 がつき 始 める 昇 進 昇 格 は 入 社 直 後 からの 長 期 に わたるパフォーマンスに 基 づく 早 い 選 抜 遅 い 昇 進 昇 格 構 造 を 日 本 企 業 は 採 っていた 可 能 性 がある このことは 日 本 のサラリーマン 社 会 では ある 意 味 で 常 識 の 話 と 指 摘 されるかもしれない しかし そうした 通 説 的 な 仮 説 を 人 事 デ ータを 用 いて 改 めて 実 証 的 に 確 認 したことにある( 清 家 (2007))と 考 える 日 本 企 業 では 長 期 雇 用 慣 行 に 伴 い 長 期 にわたり 誘 因 保 持 をさせておく 必 要 があった それゆえ 遅 くあまり 格 差 が 生 じない 昇 進 昇 格 構 造 と 生 産 性 向 上 や 能 力 に 応 じた 技 能 形 成 などといった 効 率 を 維 持 するために 格 差 が 発 生 しない 時 点 からヨコの 異 動 パターンに 技 能 習 得 状 況 に 応 じた 格 差 をつけることで 効 率 と 誘 因 ( 動 機 づけ)の2つの 制 約 要 因 の 保 持 に 努 めていたものと 推 測 される こ のことは 従 業 員 の 潜 在 的 能 力 に 関 する 情 報 収 集 にも 有 益 と 思 われる すなわち 分 析 を 試 みたD 社 においても Prendergast(1992)の 議 論 を 支 持 する 全 従 業 員 が 技 能 を 習 得 するインセンティブを 保 持 することが 可 能 な 構 造 が 示 された しかし 仕 事 の 配 分 については 昇 格 格 差 発 生 前 から 企 業 内 で 蓄 積 された 従 業 員 の 潜 在 能 力 に 関 する 情 報 をもとに Thurow(1975)のいう 仕 事 獲 得 競 争 が 行 われている 傾 向 が 示 された このことから 企 業 側 の 生 産 性 向 上 と 従 6
業 員 の 技 能 形 成 に 早 期 から 効 率 性 を 効 かせ 技 能 習 得 状 況 に 応 じた 教 育 訓 練 を 通 じ 優 秀 な 者 の 技 能 の 有 効 活 用 やリーダーの 育 成 が 可 能 と 推 測 され このことが これまで 懸 念 されてきた 遅 い 選 抜 のデメリットを 軽 減 させている 可 能 性 がある また 同 期 入 社 者 間 で 昇 格 格 差 が 長 期 にわたり 発 生 しなくても 第 一 選 抜 出 現 期 以 降 に 生 じ 始 める 昇 進 昇 格 格 差 が 入 社 直 後 からの 長 期 にわたるパフォーマン スに 基 づくものであると 認 識 でき Gibbons and Murphy(1992)や 伊 藤 (1992) の 議 論 から 優 秀 な 者 の 誘 因 保 持 および 促 進 が 可 能 なことが 明 らかになった 参 考 文 献 伊 藤 秀 史 (1992) 査 定 昇 進 賃 金 体 系 の 経 済 理 論 - 情 報 とインセンティブの 見 地 から 橘 木 俊 詔 編 査 定 昇 進 賃 金 決 定 第 9 章 pp.207-229 有 斐 閣 小 池 和 男 編 (1991) 大 卒 ホワイトカラーの 人 材 開 発 東 洋 経 済 新 報 社 小 池 和 男 猪 木 武 徳 編 (2002) ホワイトカラーの 人 材 形 成 - 日 米 英 独 の 比 較 東 洋 経 済 新 報 社 清 家 篤 (2007) 第 8 回 労 働 関 係 論 文 優 秀 賞 講 評 大 手 企 業 における 昇 進 昇 格 と 異 動 の 実 証 分 析 に 対 して 日 本 労 働 研 究 雑 誌 No.568 pp.119 竹 内 洋 (1995) 日 本 のメリトクラシー - 構 造 と 心 性 東 京 大 学 出 版 会 花 田 光 世 (1987) 人 事 制 度 における 競 争 原 理 の 実 態 - 昇 進 昇 格 のシステムからみた 日 本 企 業 の 人 事 戦 略 組 織 科 学 Vol.21 No.2 pp.44-53 Doeringer, P., and M. Piore(1971)Internal Labor Markets and Manpower Analysis, Lexington MA, D.C. Heath. ( 邦 訳 : 白 木 三 秀 監 訳 (2007) 内 部 労 働 市 場 とマンパワー 分 析 早 稲 田 大 学 出 版 部 ) Gibbons, R and K. Murphy (1992) Optimal Incentive Contracts in the Presence of Career Concerns: Theory and Evidence, Journal of Political Economy, Vol.100, No.3, pp468-505. Lester, C. Thurow(1975)Generating Inequality : Mechanisms of Distribution in the U.S. Economy, Basic Book ( 邦 訳 : 小 池 和 男 脇 坂 明 訳 (1984) 不 平 等 を 生 み 出 すもの 同 文 舘 ) Prendergast, Canice. ( 1992 ) Career Development and Specific Human Capital Collection, Journal of the Japanese and International Economies, Vol.6, No.3, pp.207-227. 7