平 成 19 年 度 国 立 情 報 学 研 究 所 第 1 回 市 民 講 座 脳 科 学 とロボット 稲 邑 哲 也
本 日 の 市 民 講 座 の 流 れ 1. 脳 科 学 とロボットの 関 連 性 2. ロボットに 関 連 する 脳 科 学 トピック 紹 介 3. 脳 科 学 の 知 見 のロボット 工 学 への 応 用 4. まとめ & 質 疑 応 答
脳 科 学 とは? 人 間 や 動 物 の 脳 のメカニズムを 明 らかにする 科 学 (サイエンス) 認 知, 思 考, 記 憶, 学 習, 言 語,etc 科 学 : 明 らかにする 事 が 第 一 使 命 応 用 例 : 脳 に 起 因 する 病 状 の 治 療 脳 のトレーニングゲーム
ロボット( 工 学 )とは? モータとセンサを 統 合 し, 目 的 の 仕 事 を 遂 行 する 自 動 機 械 産 業 用 ロボット,ペットロボット,ヒューマノイド ロボット.etc 工 学 : 目 的 の 動 作 をさせる 事 が 第 一 使 命
得 意 分 野 ロボット(コンピュータ)が 得 意 な 事, 苦 手 な 事 細 かい 精 度 の 制 御 大 量 な 情 報 の 正 確 な 記 憶 と 再 現 決 められたルールに 完 璧 に 従 い,ミスをしない 苦 手 分 野 曖 昧 な 表 現 などの 言 葉 の 理 解 知 らない 環 境 に 対 応 が 難 しい(アドリブに 弱 い!) 人 間 に 対 する 自 然 な 立 ち 振 る 舞 い 人 間 の 得 意 分 野, 苦 手 分 野 と 正 反 対 工 場 から 家 庭 にロボットが 進 出 する 際 に 大 問 題 となる
人 間 とインタラクションするロボット 東 京 大 学 井 上 稲 葉 研 究 室
ロボットを 賢 く するための 試 み 遭 遇 する 全 ての 状 況 を 網 羅 し, 記 述 しておく 限 られた 状 況 のみ. 一 般 的 な 用 途 には 向 かない 曖 昧 な 情 報 に 対 する 判 断 ニューラルネット,ファジー 制 御 等 学 習 に 基 づく 行 動 獲 得 試 行 錯 誤 の 経 験 から, 適 切 な 行 動 を 見 つける 人 間 の 脳 のメカニズムを 参 考 にするべき という 考 え 方 が 求 められてきた
スタンダードな 脳 型 計 算 ニューラルネットワーク 神 経 細 胞 の 化 学 的 な 振 る 舞 いを, 計 算 機 上 で 再 現 する 事 による 脳 型 計 算 手 法 樹 状 突 起 軸 索 シナプス 結 合 電 気 信 号 細 胞 体
人 工 ニューラルネットワーク 化 学 的 な 電 気 信 号 の 伝 達 を 数 式 でモデル 化 パターン 認 識 など,1980 年 頃 に 爆 発 的 人 気 単 純 な 問 題 から 複 雑 な 問 題 へ 発 展 が 困 難 ( 入 力 信 号 )x 1 ( 重 み)w 1 x 2 x n w 2 w n y( 出 力 )
人 工 ニューラルネットの 課 題 数 十 種 類 の 顔 パターン 認 識 学 習 記 憶 など, シンプルな 問 題 に 対 しては 非 常 に 有 効 情 動 言 語 文 脈 判 断,など 高 次 元 な 知 能 を 実 現 するのが 困 難 ミクロな 神 経 細 胞 の 挙 動 の 理 解 だけでは, 高 次 元 な 知 能 のメカニズムが 分 からない マクロな 脳 全 体 の 挙 動 の 理 解 も 必 要
構 成 論 的 アプローチ 還 元 論 的 に 対 象 を 理 解 する, 科 学 的 アプロー チだけでなく 全 体 的 マクロな 立 場 からシステムを 構 成 し, その 振 る 舞 いを 確 認 する 工 学 的 アプローチも 並 列 して 行 い 複 雑 なシステムのメカニズムを 探 るアプローチ 特 に 知 能 の 解 明 脳 科 学 ( 調 べる 明 ら かにする) 仮 説 検 証 ロボット 工 学 ( 作 ってみる)
本 日 の 話 題 脳 科 学 とロボット 工 学 の 連 携 による 構 成 論 的 アプローチとして,,, 言 葉 を 操 り, 他 者 とコミュニケーションを 行 う 人 間 の 高 次 知 能 のメカニズムをさぐる その 第 一 歩 として: ヒューマノイドロボットに,そのメカニズムを 埋 め 込 む 新 しい 試 みについて 紹 介
なぜ,ヒトは 賢 いのか? そもそも 賢 い 知 能 とは 何 か? 学 習 し 抽 象 的 な 思 考 をし 環 境 に 適 応 する 知 的 機 能 のもとになっている 能 力 ( 大 辞 林 第 二 版 より) 環 境 や 人 に 適 応 する 能 力 が 現 在 のロボット における 大 きな 課 題 情 動 言 語 文 脈 判 断 などがキーワード
心 の 理 論 サリーとアン 課 題 サリーがボールを 籠 に 入 れる サリーがいない 間 にアンが ボールを 箱 に 移 す サリーが 戻 って 来 る サリーがボールを 取 ろうとし ています.どちらから 取 るで しょうか? 3 歳 児 は 正 解 できない サリー アン
心 の 理 論 に 関 係 する 脳 の 部 位 上 側 頭 溝, 下 外 側 前 頭 前 野, 前 部 帯 状 回, 内 側 前 頭 前 野,など
ミラーニューロン Rizzolatti (イタリア,パルマ 大 )らがマカクザ ルの 前 頭 葉 F5 領 域 に 発 見 した 脳 の 部 位
上 側 頭 溝 領 域 視 線 の 向 き 動 き,ジェスチャ, 手 話, 口 の 動 き, 生 物 的 な 動 き, 等 を 認 知 する 際 に 活 動 生 物 的 社 会 的 な 動 きに 関 する 情 報 処 理 に 関 与 している 可 能 性 心 の 理 論 の 問 題 に 関 与
言 語 と 脳 ブローカ 野 運 動 性 言 語 野 この 部 位 を 損 傷 すると, 発 話 が 困 難 になる 他 人 の 発 話 の 理 解 は 可 能 ウェルニッケ 野 聴 覚 性 言 語 野 この 部 位 を 損 傷 すると, 理 解 が 困 難 になる 発 話 は 流 暢 だが, 意 味 が 伴 わない
ミメシス 仮 説 :ヒトの 脳 の 進 化 における 謎??? 行 動 模 倣 に 基 づくコミュニケーション 約 200 万 年 前 約 5 万 年 前 言 語 の 使 用 文 字 壁 画 進 化 の 時 間 ミメシス 仮 説 : 他 人 の 行 動 を 模 倣 する 能 力 が,コミュニケーション 能 力 の 萌 芽 になったとする 仮 説 言 語 の 前 段 階 の, 概 念 を 記 号 化 する 情 報 処 理 の 進 化
ミラーニューロンとヒューマノイドの 知 能 ミラーニューロン(ブローカ 野, 上 側 頭 溝 ) 人 間 がある 行 動 を 観 察 した 時 と その 行 動 を 実 行 しようとした 時 の 双 方 で 発 火 する 双 方 向 計 算 モデル: 行 動 の 認 識 & 生 成 シンボルマニプレーション 行 動 を 介 したシンボル 接 地 相 手 の 意 図 の 理 解 高 次 知 能 形 成
ミメシスモデル [ 稲 邑 2002] 抽 象 化 表 現 動 作 生 成 (= 原 始 シンボル) 3 関 節 角 度 情 報 4 隠 れマルコフモデル 2 1 動 作 認 識 抽 象 化 動 作 パターン
隠 れマルコフモデル 時 系 列 データを 抽 象 化 認 識 する 数 理 手 法 音 声 認 識 システムによく 使 われる 動 作 に 応 用 a 11 a 22 a q 12 1 2 a N 1 N q q q N 1 N b ( ) b 2 ( o) 1 o O = { o1 o 2 Λ o Μ } b ( o) i M = c j= 1 ij N ij ( o ; μ, Σ j j ) 確 率 的 な 振 る 舞 いを 表 現 するパラメータ b i a ij : 状 態 遷 移 確 率 行 列 (o) : 出 力 確 率 分 布 λ = { a, b ( o)} ij i 原 始 シンボル
隠 れマルコフモデルの 利 点 認 識 と 再 現 の 双 方 向 の 処 理 が 表 現 可 能 Kick Squat Walk Throw 認 識 再 現
ここまでの 段 階 で 何 ができたのか? 概 念 と 動 作 パターンの 対 応 付 け 他 者 の 動 作 と, 自 分 の 動 作 の 対 応 付 け HMMによる 運 動 データのパラメータ 圧 縮 / 復 元 ができただけに 過 ぎないとも 言 える walk.zip squat.zip シンボルや 言 語 の 醍 醐 味 : 組 み 合 わせによって ほぼ 無 限 とも 言 えるパターンを 取 り 扱 うことができる
では 何 が 必 要 か? 原 始 シンボル 同 士 に 存 在 する 関 係 性 の 記 述 関 係 性 を 記 述 する 空 間 構 造 の 導 入 原 始 シンボルの 操 作 新 規 行 動 の 生 成 と 未 知 行 動 の 認 識 Walk Run Walk Run
双 方 向 計 算 モデルから シンボルマニプレーション( 記 号 操 作 )へ シンボルマニプレーション
空 間 表 現 の 導 入 原 始 シンボル 同 士 の 関 係 性 を 記 述 するための 位 相 構 造 行 動 認 識 / 生 成 として, 位 相 構 造 上 での 幾 何 学 的 操 作 を 定 義 原 始 シンボル 空 間 Walk Squat 原 始 シンボル 空 間 Kick
どうやって 空 間 を 作 る か? 動 作 同 士 の 似 ている 度 合 い を 測 る 統 計 学 的 な ものさし を 用 いて 距 離 を 計 測 距 離 の 関 係 から, 空 間 的 な 配 置 を 決 定 Kullbuck-Leibler 情 報 量 1 原 始 シンボル 空 間 Walk 3 Squat 1 2 Kick 2 3
行 動 の 空 間 的 表 現 行 動 の 意 味 を 空 間 的 に 配 置 する 数 理 手 法 行 動 間 の 類 似 性 に 基 づいて 空 間 を 形 成 Walk Stretch Kick Squat Throw Stoop 写 真 動 画 東 京 大 学 中 村 研 究 室
原 始 シンボル 空 間 を 用 いた ジェスチャ 認 識 特 徴 未 知 の 動 作 も 認 識 が 可 能 ジェスチャの 移 り 変 わりの 瞬 間 を 検 出 可 能 曖 昧 なジェスチャであっても, 類 推 可 能
原 始 シンボル 空 間 を 用 いた 見 真 似 単 純 なコピー ではない 写 真 動 画 東 京 大 学 中 村 研 究 室
動 作 の 誘 発 と 修 正 人 間 の 動 作 の 認 識 時 に, 既 知 の 動 作 との 距 離 に 応 じ て, 自 動 修 正 させることが 可 能 この 距 離 が 動 作 の 類 似 度 を 表 現. 近 ければ 同 じ 動 作 と 認 識 pour pitch wipe pour bye 引 き 込 まれた 点 行 動 誘 発 leftmove 認 識 ( 射 影 ) 隠 れマルコフモデル 不 完 全 な 情 報 部 分 的 に 隠 れて 見 えない 短 時 間 しか 観 察 できない, 等 動 作 パターン 写 真 動 画 東 京 大 学 稲 葉 研 究 室
動 作 修 正 の 例 写 真 動 画 東 京 大 学 稲 葉 研 究 室 単 純 なコピーではない 原 始 シンボル 空 間 は 動 作 の 概 念 を 表 現 する 動 作 の 修 正 に 基 づく 目 的 の 遂 行 単 純 なコピーではない
シンボルと 運 動 の 相 互 発 達 [ T. Deacon 97] Symbol 物 理 的 レベルから 乖 離 した 層 におけるサイン 間 の 強 力 な 関 係 性 Index 物 理 的 な 影 響 を 考 慮 したサイン 間 の 間 接 的 な 関 係 性 の 発 達 物 理 的, 直 接 的 な 関 係 性 Icon [C.S. Peirce]
本 日 のまとめ 人 間 の 知 能 のメカニズムを 探 るため, 脳 科 学 とロボット 工 学 の 連 携 は 今 後 も 重 要 言 語 や 記 号 の 処 理 メカニズムと 脳 のメカニズ ムには 密 接 な 関 係 があると 考 えられる 人 間 と 自 然 にコミュニケーションできるロボッ トの 実 現 のためには, 脳 の 理 解 は 避 けては 通 れない 研 究 員 学 生 募 集 稲 邑 研 究 室 では,ロボットの 知 能 のメカニズムを 探 る 研 究 テーマについて 総 合 研 究 大 学 院 大 学 の 修 士 博 士 課 程 の 学 生,および 国 立 情 報 学 研 究 所 の 研 究 員 を 募 集 しています. 興 味 をお 持 ちの 方 はinamura@nii.ac.jp までご 連 絡 下 さ い.
質 疑 応 答 脳 科 学 ロボット 工 学 言 語 学 認 知 科 学 社 会 学 発 達 心 理 学 等 の 複 数 のアプローチから, 人 間 やロボットの 知 能 のメカニズムをさぐる, 社 会 的 知 能 発 生 学 研 究 会 本 研 究 会 のメンバーの 瀬 名 秀 明 さんにパネ ラーとして 参 加 していただきます.