旨Jpn J Rehabil Med 2018;55: 特集 筋萎縮性側索硬化症 ü 筋萎縮性側索硬化症患者の在宅ケア Home Care for ALS Patients 日野 * 創 Hajime Hino Key words: 筋萎縮性側索硬化症 / 地域包括ケアシステム / 難

Similar documents
基本料金明細 金額 基本利用料 ( 利用者負担金 ) 訪問看護基本療養費 (Ⅰ) 週 3 日まで (1 日 1 回につき ) 週 4 日目以降緩和 褥瘡ケアの専門看護師 ( 同一日に共同の訪問看護 ) 1 割負担 2 割負担 3 割負担 5, ,110 1,665 6,

臨床神経学雑誌第56巻第4号

リハビリテーションを受けること 以下 リハビリ 理想 病院でも自宅でも 自分が納得できる 期間や時間のリハビリを受けたい 現実: 現実: リ ビリが受けられる期間や時間は制度で リハビリが受けられる期間や時間は制度で 決 決められています いつ どこで どのように いつ どこで どのように リハビリ

平成 28 年 10 月 17 日 平成 28 年度の認定看護師教育基準カリキュラムから排尿自立指導料の所定の研修として認めら れることとなりました 平成 28 年度研修生から 排泄自立指導料 算定要件 施設基準を満たすことができます 下部尿路機能障害を有する患者に対して 病棟でのケアや多職種チーム

000-はじめに.indd

Microsoft PowerPoint - 9-2桜川市(2)

56: 巻 4 号 (2016:4) The cumulative occurrence of the time (month) from onset to diagnosis ( , n = 190). The time from onset to diagnosis

介護における尊厳の保持 自立支援 9 時間 介護職が 利用者の尊厳のある暮らしを支える専門職であることを自覚し 自立支援 介 護予防という介護 福祉サービスを提供するにあたっての基本的視点及びやってはいけ ない行動例を理解している 1 人権と尊厳を支える介護 人権と尊厳の保持 ICF QOL ノーマ

Key words ALS respiratory failure ventilation tracheostomy music therapy Spinal Surgery ALS ALS ALS 1 ALS ALS Fig

01 R1 å®�剎ç€fl修$僓ç€flä¿®ï¼„æł´æŒ°ç€fl修+å®�剎未組é¨fi蕖咂ㆂ;.xlsx

認知症医療従事者等向け研修事業要領

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

加算 栄養改善加算 ( 月 2 回を限度 ) 栄養スクリーニング加算 口腔機能向上加算 ( 月 2 回を限度 ) 5 円 重度療養管理加算 要介護 であって 別に厚生労働大が定める状態である者に対して 医学的管理のもと 通所リハビリテーションを行った場合 100 円 中重度者ケア体制加算

Q1 訪問看護の導入時期は どのように判断すればよいでしょうか? A 医療処置や医療機器の管理などが必要な場合は比較的早期に訪問看護の依頼がありますが ADLの維持 向上などの予防的ケアや病気の悪化予防の目的での訪問看護についても できるだけ早期の導入が理想的です また ターミナル時期の利用者の場合

高齢化率が上昇する中 認定看護師は患者への直接的な看護だけでなく看護職への指導 看護体制づくりなどのさまざまな場面におけるキーパーソンとして 今後もさらなる活躍が期待されます 高齢者の生活を支える主な分野と所属状況は 以下の通りです 脳卒中リハビリテーション看護認定看護師 脳卒中発症直後から 患者の

計画の今後の方向性

<4D F736F F D20CADFCCDEBAD D9595B68E9A816A8AEC91BD95FB8E735F5F91E682558AFA89EE8CEC95DB8CAF8E968BC68C7689E >

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - (医政発第0717001ALS.doc

untitled

2 保険者協議会からの意見 ( 医療法第 30 条の 4 第 14 項の規定に基づく意見聴取 ) (1) 照会日平成 28 年 3 月 3 日 ( 同日開催の保険者協議会において説明も実施 ) (2) 期限平成 28 年 3 月 30 日 (3) 意見数 25 件 ( 総論 3 件 各論 22 件

, 地域包括支援センターの組織と人材 2. 1 福祉専門職の歴史と特性

地域包括ケア病棟 緩和ケア病棟 これから迎える超高齢社会において需要が高まる 高齢者救急に重点を置き 地域包括ケア病棟と 緩和ケア病棟を開設いたしました! 社会福祉法人 恩賜財団済生会福岡県済生会八幡総合病院

7 時間以上 8 時間未満 922 単位 / 回 介護予防通所リハビリテーション 変更前 変更後 要支援 Ⅰ 1812 単位 / 月 1712 単位 / 月 要支援 Ⅱ 3715 単位 / 月 3615 単位 / 月 リハビリテーションマネジメント加算 (Ⅰ) の見直し リハビリテーションマネジメン

介護老人保健施設 契約書

介護支援専門員 ( 回答数 件 ) 介護支援専門員の基礎資格 介護支援専門員の基礎資格 n= 複数回答 0 基礎資格について 介護福祉士 が 件 ( 0.%) と最も多かった 介護支援専門員が担当する利用者 (H 年 月 ). 要介護別利用者の割合 要介護 0% 要介護

一般会計負担の考え方

訪問リハビリテーションに関する調査の概要

日本臨床倫理学会 日本版 POLST(DNAR 指示を含む ) 作成指針 POLST(Physician Orders for Life Sustaining Treatment) 生命を脅かす疾患 に直面している患者の 医療処置 ( 蘇生処置を含む ) に関する医師による指示書 これは日本臨床倫理

平成 26 年度版 第三者評価結果概要版 ( 居宅介護支援 ) 基本情報 法人名 社会福祉法人多摩同胞会 事業所名 泉苑居宅介護支援センター 所在地 東京都府中市武蔵台 1 丁目 10 番 4 号 連絡先 事業者が大切にしている考え ( 事業者の理念 ビジョン 使命など )

居宅介護支援事業者向け説明会

Microsoft Word - シラバス.doc

小児_各論1の2_x1a形式

Microsoft Word - 4㕕H30 �践蕖㕕管璃蕖㕕㇫ㅪ�ㅥㅩㅀ.docx

表紙@C

蘇生をしない指示(DNR)に関する指針

4 研修について考慮する事項 1. 研修の対象者 a. 職種横断的な研修か 限定した職種への研修か b. 部署 部門を横断する研修か 部署及び部門別か c. 職種別の研修か 2. 研修内容とプログラム a. 研修の企画においては 対象者や研修内容に応じて開催時刻を考慮する b. 全員への周知が必要な

私のリビングウィル 自分らしい最期を迎えるために あなたが病気や事故で意思表示できなくなっても最期まであなたの意思を尊重した治療を行います リビングウィル とは? リビングウィルとは 生前に発効される遺書 のことです 通常の遺書は 亡くなった後に発効されますが リビングウィルは 生きていても意思表示

スライド 1

Ô µ µ Õ 6 Ú ÒÕ Ž l y ÖÍ ( )Í ÕŒ ÔÙØÔÕÍ ÖßäáÖ lö m Í2005 Ö dôõ m ÖÙÙ m ÖÒÒ søôõóù ÔØÔÕÓÍ ÓÙÍ Ø ÒÕ mþáßäø d zööøòùí Öi ØÓÖŽ Õ ØÙÙØÔÕÍ e 6 y Œ ÓÓ

事業者名称 ( 事業者番号 ): 地域密着型特別養護老人ホームきいと ( ) 提供サービス名 : 地域密着型介護老人福祉施設 TEL 評価年月日 :H30 年 3 月 7 日 評価結果整理表 共通項目 Ⅰ 福祉サービスの基本方針と組織 1 理念 基本方針

2 望ましい死の達成度と満足度の評価 宮下 光令 サマリー 望ましい死の達成を評価する尺度であ 施設の 73 が そう思う と回答しま る Good Death Inventory GDI 短縮 した その他では 医師を信頼していた 版と全般満足度に関する調査を行い 遺 ご家族やご友人と十分に時間を

リハビリテーションマネジメント加算 計画の進捗状況を定期的に評価し 必要に応じ見直しを実施 ( 初回評価は約 2 週間以内 その後は約 3 月毎に実施 ) 介護支援専門員を通じ その他サービス事業者に 利用者の日常生活の留意点や介護の工夫等の情報を伝達 利用者の興味 関心 身体の状況 家屋の状況 家

2 基本理念と基本目標 本市のまちづくりの指針である 第 2 次柳井市総合計画 は 平成 29 年 3 月に策定 されました この総合計画では すべての市民が健康で安心して暮らせる 人にやさ しいまちづくり を健康 福祉分野の基本目標に掲げ その実現を目指しています これは 高齢者も含めた全ての市民

9(1) 介護の基本的な考え方 9() 介護に関するこころのしくみの基礎的理解 9() 介護に関するからだのしくみの基礎的理解 9(4) 生活と家事 5 9(5) 快適な居住環境整備と介護 9(6) 整容に関連したこころとからだのしくみと自立に向けた介護 4 4 理論と法的根拠に基づき介護を行うこと

3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

1章-1 責了.indd

日本臨床倫理学会 Ⅱ POLST(DNAR 指示を含む ) 作成に関するガイダンス 生命を脅かす疾患 に直面している患者の 医療処置 ( 蘇生処置を含む ) に関する医師による指示 現在, 広く DNAR 指示 (Do Not Attempt Resuscitation Order) という言葉が用

Microsoft Word - 1.停電や災害発生(結果まとめ0302)docx

第1回 障害者グループホームと医療との連携体制構築のための検討会

Microsoft Word - 02:【最終版】ガイドライン

看護師のクリニカルラダー ニ ズをとらえる力 ケアする力 協働する力 意思決定を支える力 レベル Ⅰ 定義 : 基本的な看護手順に従い必要に応じ助言を得て看護を実践する 到達目標 ; 助言を得てケアの受け手や状況 ( 場 ) のニーズをとらえる 行動目標 情報収集 1 助言を受けながら情報収集の基本

Microsoft Word - 03:【最終版】ガイドライン解説編


Microsoft PowerPoint - 資料4_救急(ガイドライン)

02 H30 å°‡éŒ•â–€ï¼„â–¡ã…»æł´æŒ°â–€ï¼„â–¡ï¼‹ç‘¾ä»»ï¼›ã‡«ã…ªã‡�ㅥㅩㅀ.xlsx

地域医療構想の概要 1 地域医療構想の位置づけ 平成 25 年 3 月に 医療法に基づき 本県の疾病対策及び医療提供体制の基本方針である第 6 期岐阜県保健医療計画を策定した 平成 27 年 4 月に施行された改正医療法に基づき 保健医療計画の一部として 将来 (2025 年 ) あるべき医療提供体


平成30年度精神保健に関する技術研修過程(自治体推薦による申込研修)

問題です 訪問看護って? 指示があるまで開けないでね!

001

私たちの人生 病気やケガのリスクと 経済的影響は? 50 ( 千人 ) 1, 通院入院 ( 歳 )

日本臨床麻酔学会 vol.36

点検項目 点検事項 点検結果 リハビリテーションマネジメント加算 Ⅰ 計画の定期的評価 見直し 約 3 月毎に実施 リハビリテーションマネジメント加算 Ⅱ ( リハビリテーションマネジメント加算 Ⅰ の要件に加え ) 居宅介護支援事業者を通じて他のサービス事業者への情報伝達 利用者の興味 関心 身体

地域包括支援センターにおける運営形態による労働職場ストレス度等の調査 2015年6月

特集 神経筋疾患のリハビリテーション up to date Jpn J Rehabil Med 2016;53: 筋萎縮性側索硬化症に対するリハビリテーション Rehabilitation in Amyotrophic Lateral Sclerosis 日野 * 創 Hajime

このような現状を踏まえると これからの介護予防は 機能回復訓練などの高齢者本人へのアプローチだけではなく 生活環境の調整や 地域の中に生きがい 役割を持って生活できるような居場所と出番づくりなど 高齢者本人を取り巻く環境へのアプローチも含めた バランスのとれたアプローチが重要である このような効果的

スライド 1

周南市版地域ケア会議 運用マニュアル 1 地域ケア会議の定義 地域ケア会議は 地域包括支援センターまたは市町村が主催し 設置 運営する 行政職員をはじめ 地域の関係者から構成される会議体 と定義されています 地域ケア会議の構成員は 会議の目的に応じ 行政職員 センター職員 介護支援専門員 介護サービ

2 経口移行加算の充実 経口移行加算については 経管栄養により食事を摂取している入所者の摂食 嚥 下機能を踏まえた経口移行支援を充実させる 経口移行加算 (1 日につき ) 28 単位 (1 日につき ) 28 単位 算定要件等 ( 変更点のみ ) 経口移行計画に従い 医師の指示を受けた管理栄養士又

平成 31 年度 地域ケア会議開催計画 魚津市地域包括支援センター 平成 31 年 4 月

Agilent 490 Micro GC Biogas Analyzers User Manual

患者さんの食のストレス解消がQOL 向上につながる 5 質疑応答 Q) 食事を摂れない人の食事指導について A) 普段は食べてはいけないと言われているものをわざと出してみる 少量なら問題ないので少しでも食べられるところを何かきっかけにする 3. 末期重症心不全患者への補助人工心臓医療 看護の現状と課

患者学講座第1講「医療と社会」

地域包括ケアにおけるチーム医療

佐久医師会ニュース連載意外と知られていない訪問看護の基礎知識 佐久総合病院地域ケア科小松裕和 意外と知られていない訪問看護の基礎知識 1 意外と知られていない訪問看護の基礎知識 2 私たち在宅医にとって 訪問看護が存在しない在宅医療は考えられません 訪問看護は医療面はもちろん 生活面も含めて関わって

為化比較試験の結果が出ています ただ この Disease management というのは その国の医療事情にかなり依存したプログラム構成をしなくてはいけないということから わが国でも独自の Disease management プログラムの開発が必要ではないかということで 今回開発を試みました

下の図は 平成 25 年 8 月 28 日の社会保障審議会介護保険部会資料であるが 平成 27 年度以降 在宅医療連携拠点事業は 介護保険法の中での恒久的な制度として位置づけられる計画である 在宅医療 介護の連携推進についてのイメージでは 介護の中心的機関である地域包括支援センターと医療サイドから医

複数名訪問看護加算 (1 人以上の看護職員等と同 2 人以上による訪問看護を行う場合 行 ) 看護師等と訪問 看護師等と訪問 4,500 円 30 分未満 254 単位 准看護師と訪問 3,800 円 30 分以上 402 単位 看護補助者と訪問 ( 別に厚生労働省が定める場合 看護補助者と訪問 を

【最終版】医療経営学会議配付資料 pptx

通所リハビリテーションとは 介護保険で認定を受けられた要支援 要介護の方を対象に機能訓練 歩行訓練や日常生活訓練 脳への刺激で認知症予防などを目的に リハビリテーション ( 以下 リハビリ ) を行う通いのサービスです 通所リハビリテーション ( 以下 通所リハビリ ) は 利用者様が可能な限り自宅

介護保険制度改正の全体図 2 総合事業のあり方の検討における基本的な考え方本市における総合事業のあり方を検討するに当たりましては 現在 予防給付として介護保険サービスを受けている対象者の状況や 本市におけるボランティア NPO 等の社会資源の状況などを踏まえるとともに 以下の事項に留意しながら検討を

wslist01

平成 28 年度診療報酬改定情報リハビリテーション ここでは全病理に直接関連する項目を記載します Ⅰ. 疾患別リハビリ料の点数改定及び 維持期リハビリテーション (13 単位 ) の見直し 脳血管疾患等リハビリテーション料 1. 脳血管疾患等リハビリテーション料 (Ⅰ)(1 単位 ) 245 点 2

正誤表 正誤箇所 誤 正 医科 - 基本診療料 -35/47 注 3 診療に係る費用 ( 注 2 及び注 4に規定する加算 注 3 診療に係る費用 ( 注 2 及び注 4に規定する加算 注の見直し 当該患者に対して行った第 2 章第 1 部医学管理等の 当該患者に対して行った第 2 章第 1 部医学

Clinical Indicator 2016 FUNABASHI MUNICIPAL REHABILITATION HOSPITAL

SBOs- 3: がん診断期の患者の心身の特徴について述べることができる SBOs- 4: がん治療期 ; 化学療法を受けている患者の心身の特徴について述べることができる SBOs- 5: がん治療期 ; 放射線療法を受けている患者の心身の特徴について述べることができる SBOs- 6: がん治療期

<4D F736F F F696E74202D C E9197BF A90EA96E58AC58CEC8E E88AC58CEC8E F0977B90AC82B782E98AF991B682CC89DB92F682C682CC8AD68C5782C982C282A282C42E >


きずな 第9号.indd

いろいろな治療の中で して欲しい事 して欲しくない事がありますか? どこで治療やケアを受けたいですか? Step2 あなたの健康について学びましょう 主治医 かかりつけ医や他の医療従事者にあなたの健康について相談する事も大切です 何らかの持病がある場合には あなたがその病気で将来どうなるか 今後どう

Microsoft PowerPoint - 【4 山本先生】地域包括ケア時代のMC協議会のあり方

Microsoft Word F--Explosion proof flow measurement TIIS.docx

短 報 Frequencies and intensities of clinical nurses experiences of ethical problems: a questionnaire survey Kazumi OGAWA Seitaro TERAOKA Yoko T

を増床しました 地域包括ケア病棟とは? 急性期後の受入れをはじめとする 地域包括ケアシステム を支える病棟です 急性期治療の後すぐの在宅や施設等での療養に不安があったり, もう少しの入院治療で社会復帰ができる患者さんのために退院支援を行います 当院では5 階全床を 地域包括ケア病棟 (60 床 )

山梨県地域医療再生計画 ( 峡南医療圏 : 救急 在宅医療に重点化 ) 現状 社保鰍沢病院 (158 床 ) 常勤医 9 名 実施後 社保鰍沢病院 峡南病院 (40 床 ) 3 名 市川三郷町立病院 (100 床 ) 7 名 峡南病院 救急の重点化 県下で最も過疎 高齢化が進行 飯富病院 (87 床

<4D F736F F F696E74202D AAE90AC94C5817A835F C581698FE39E8A90E690B6816A2E >

2. 延命措置への対応 1) 終末期と判断した後の対応医療チームは患者および患者の意思を良く理解している家族や関係者 ( 以下 家族らという ) に対して 患者が上記 1)~4) に該当する状態で病状が絶対的に予後不良であり 治療を続けても救命の見込みが全くなく これ以上の措置は患者にとって最善の治

Microsoft Word - Q&A(訪問リハ).doc

0_____目次.indd

Transcription:

旨Jpn J Rehabil Med 2018;55:556-563 特集 筋萎縮性側索硬化症 ü 筋萎縮性側索硬化症患者の在宅ケア Home Care for ALS Patients 日野 * 創 Hajime Hino Key words: 筋萎縮性側索硬化症 / 地域包括ケアシステム / 難病 / 在宅療養 / 神経難病地域リハビリテーション研修会要地域包括ケアシステムでは, 人工呼吸器を装着し日常生活動作 (activities of daily living: ADL) 全介助の状態で在宅療養生活を送る ALS などの神経難病患者においてもリハビリテーション医療のかかわりが重要である. しかし, 神経難病のリハビリテーション治療は, 脳血管疾患や外傷に代表される急性発症疾患の急性期発症モデルの, 急性期リハビリテーション治療 回復期リハビリテーション治療 維持期リハビリテーション治療と受け継がれていく一般的な地域リハビリテーション医療の支援体制に当てはまらないため, 提供が十分でないばかりでなく, 人材育成 研修についても独自の研修拠点を考える必要がある. 稀少疾患であるため専門病院以外での経験が蓄積しにくく, 一般的な知識技術の伝達だけでは十分なスキルアップを確保することが困難である. さらに, 相談窓口 連携を意識する必要がある. 難病医療の理念 難病という用語は医学用語ではなく, 行政サー ビスを施行する対象者を定めるための行政用語で ある. 英語では intractable disease( 対処困難な 疾患 ).rare disease( 希少疾患 ) と称されることが 多い. スモン患者の支援 ø) に端を発して øāþù 年に 難病対策要項 ù, ú) が策定され, 公平かつ安定的な 制度の確立をめざし,ù øû 年 ü 月に成立, 翌 ù øü 年 ø 月より施行されたのが, 難病の患者に対する 医療等に関する法律 ( 難病法 ) である. 難病法第 ù 条の基本理念には, 難病の患者に対する医療等 は, 難病の克服を目指し, 難病の患者がその社会 参加の機会が確保されること及び地域社会におい て尊厳を保持しつつ他の人々と共生することを妨 * 東京都立神経病院リハビリテーション科 ( 183-0042 東京都府中市武蔵台 2-6-1) E-mail:hajime_hino@tmhp.jp げられないことを旨として, 難病の特性に応じて, 社会福祉その他の関連施策との有機的な連携に配慮しつつ, 総合的に行われなければならない と謳われている. これは, 認知症のオレンジプランにも通底しているノーマライゼーションの理念が根幹にある. 難病法が掲げる理念とは, 難病患者との共生社会の実現をめざし, 地域リハビリテーション医療の実現で いかなる疾患や障害があろうとも, 住みたい場所で, 自ら生き方を決められる人は, 自らが決めたように生きて, そして平穏な最期を迎えられるように, かかわる医療従事者は ø 人ひとりの患者の価値観を尊重し, 真摯に向かい合い, 寄り添い, その QOL を可能な限り高める ということが難病医療におけるリハビリテーション医療の目標といえる û). 当院, 地域療養支援室の訪問診療実績 (ù øý 年度 ) によると, 訪問診療対象者の疾患別内訳 (n=øùü) は, 筋萎縮性側索硬化症 (amyotrophic 556 Jpn J Rehabil Med Vol. 55 No. 7 2018

5 筋萎縮性側索硬化症患者の在宅ケア lateral sclerosis:als)üþ%, 多系統萎縮症 脊髄 小脳変性症 øû%, 筋疾患 øø%, パーキンソン類縁 疾患 ü% であった. 訪問診療対象者の年代では, ý 歳代 úû%,þ 歳代 ùÿ%,û 歳代 Ā% であった. 訪問診療対象者の医療処置の内容では, 経管栄養 ø ÿ 名, 気管切開 ÿú 名, 人工呼吸器 (TPPV/ NPPV 合計 )þā 名, 膀胱留置カテーテル ûú 名, 酸 素 úú 名であった. 病院から在宅療養移行時の連携 在宅移行時の情報提供は, 専門医療機関からか かりつけ医への診療情報提供書によるが, 内容は, 症状と問題点だけでなく, 患者 家族への説明内 容, さらにその理解度や疾患の受容状態, 医療処 置の選択についての意思決定の有無 ü-þ) が必要で ある. 患者 家族, かかりつけ医 ( 往診医 ), 訪問看護 スタッフ, 在宅支援の多職種を交えた退院前カン ファレンスを行い, 顔の見える情報交換が必要で ある. 問題点として, かかりつけ医 ( 往診医 ) は, 大多数は専門医でなく, 呼吸障害やコミュニケー ション障害が進行してから紹介を受けると, 患者の 病態把握や患者との関係構築が困難で困惑する, そのため, 専門医は早めにかかりつけ医 ( 往診医 ) をみつけ, 紹介することが望まれる. なお, 在宅療 養中に医療上の問題が生じたとき, 専門医は速や かに相談に対応し, 必要なら緊急入院などができ ることが必要である. 近隣に専門医がいない地域 では困難である. また, 患者 家族は訪問看護ス テーションを通して患者の異変に気がつくことが 多く, それに対応できるようにすることも必要であ る. 延命処置を希望しないのであれば, 救急搬送 を勧めないことも重要である. 救急搬送されて望 まない医療処置, 特に挿管 人工呼吸器装着から 気管切開を伴う侵襲的人工呼吸器 (tracheostomy and invasive ventilation:tiv) となり, 後悔して いる患者 家族は存在する. また,ùû 時間対応の かかりつけ医を確保することが必要である. やむ なく救急搬送する場合は, 患者の医療処置に対す る意思を確認しておくこと, その意思が確実に伝わ る方策を決めておくことが必要である ÿ). ステーションの看護師やリハビリテーション医療 在宅療養中のケアチーム 医療機関の連携 在宅ケアチームは, かかりつけ医, 訪問看護 リ ハビリテーション, 薬剤師, 訪問入浴, 訪問介護師, デイサービスやデイケア施設, 福祉機器 医療機器 業者, 保健師など多職種からなる. 在宅療養中の 患者 家族の状況に応じてマネジメントを行うのは ケアマネジャーである. 患者の病状や介護状況に 問題が生じたときに, 他のスタッフに連絡し情報を 共有すること, そのための多職種間が情報交流を し合える関係づくりが重要である. 場合によって は, 難病担当の保健師が働きかけることもある. 最近は往診可能な医師が増加しているが, 地域差 があり, 特に医療過疎地域では確保が難しいこと が多く問題である. 気管切開や胃瘻などの医療処 置を希望する場合や合併症の治療などで入院が必 要となることもある. 緊急の場合, 病院が満床の ために受け入れ困難なことがあり, 複数の病院を 把握しておく必要がある. なお, 延命につながる 医療処置 ( 特に,TPPV) を希望するかどうかは, あらかじめ十分に話し合って決めておき, 希望しな い場合は救急搬送をせず, かかりつけ医や訪問看 護師が対応することが重要である. そのためには, ùû 時間応需体制の確立が必要である ÿ). 自宅療養が困難になったときの長期療養の場 自宅療養継続が困難になる原因 Ā) は, 独居, 介 Jpn J Rehabil Med Vol. 55 No. 7 2018 557

日野 創 護者の病気や疲労などで介護困難になった場合がほとんどで,TPPV 中の ALS では, 前頭側頭葉変性症 (frontotemporal lobar degeneration: FTLD) ø, øø) を併発し, 家族が疲労困憊し介護継続を断念する例もあり長期療養の場が必要である. 人工呼吸, 吸引が必要な患者の受け入れ施設は非常に少ない. 老老介護や独居者の増加が問題となっている ÿ). 災害時の対応 災害時の対応を整備することが必要である. 筆者は阪神淡路大震災と東日本大震災を経験した. 震災直後の高速道路の閉鎖, 交通渋滞, 電車などの公共交通機関の乱れにより帰宅困難者が発生し, 職場に泊まった人が多かった. 電話回線の不通 ( 公衆電話, 訪問 PHS を使って連絡をとった ) なども発生した. 患者 家族の安否確認を人工呼吸器装着者を中心に, 電話や訪問により行った. 電話連絡 ýü 件 ( 連絡がついたのは ûø 件 ), 訪問連絡 ü 件であった. 特に, 東日本大震災では, 一部の地域は計画停電により電力供給が停止された. 在宅療養患者は人工呼吸器や, 吸引器の充電器の機能や自家発電器の有無などの確認がされた. 体験から学んだ特徴や課題は,1 災害発生直後の緊急対応は, 家族が中心.2 災害や病状の進行を想定した備えが必要.3 定期的に各種バッテリーや医療機器の点検が必要.4 情報が錯綜し, 不安や混乱を招く. 災害対策として取り組むべきポイントは,1 日頃から必要物品を用意する.2 定期的に医療機器のメンテナンスを行う.3 関係機関と災害直後の対応について検討 確認する. 災害対策において大切なことは,1 日頃の備え, 2 物の備え,3 人の備え, である. 災害はいつ起こるかわからない. 日常 ( 普段 ) 行えていないことは, 非日常 ( 災害時 ) には実行できない. 医療依存度 が高い在宅療養者の災害時対応の特徴として, 療養者の自助力を高め,ø 人ひとりの状況に応じた災害時個別支援計画が必要である øù). 当院では, 震災後アンケート調査を行った. その結果, 在宅療養生活の継続が困難となり入院した患者は ú 名中 øþ 名だった. 困ったことは, 物品と人員の確保, 独居の患者の安否確認, 連絡手段の確保, 充電式の物品がない, 電話不通で連絡がとれなくなった などであった øú). 東日本大震災発生時, 宮城県では在宅療養中で人工呼吸器を装着した ALS 療養者は ûā 名で, アンケート調査し回答した ùā 名中 øû 名は病院に入院した. 入院の理由は 電源不足 や 津波などによる自宅損傷 のためで,ø 週間以上の入院は øù 名であり, 退院できなかった理由は ライフラインが復旧していなかったため が最も多く, また, 介護者不足による不安も大きく, いちばん困ったこととして, 水などの配給に並ぶこと, スーパーやガソリンスタンドに並んだりすることができない などの意見が挙がっていた. 災害が起きた際の対応で不安に思うことは, 電源確保関連( ガソリン確保を含む ) であった. 自宅損傷がなく, 電源確保が可能となれば, 自宅で過ごせる可能性が高いことがわかった. 一方で, 在宅継続の際には, 介護者不足による不安が大きいことも明らかになった øû). 人工呼吸器装着 日本における TIV 装着率は, 世界のどこよりも高率である øü).tiv 装着の選択にかかわる要因として, 患者の生命への強い意志 ( 生き抜く気持ち ), 宗教観, 経済力, 従来の生活満足度, 総合的介護力, 夫婦 親子関係, 個人的価値観などが意思決定に深く関与すると考えられる øý). 配偶者の存在は, 患者の TIV 装着への意思決定上, 重要な因子の ø つであり, 配偶者は, その決断において大きな 558 Jpn J Rehabil Med Vol. 55 No. 7 2018

5 筋萎縮性側索硬化症患者の在宅ケア 負担を受け止める覚悟と,NO の決断のうえで, 主たる介護者としての役割を果たし,ALS 患者の TIV 受容を後押しする. また, 配偶者は TIV 装着患者の療養生活をともに生き, ともに人生の喜びを授受する役割として重要である øþ, øÿ). 一方, 西欧諸国では ALS 患者の TIV 装着率は低く, 米国 ù%, カナダ ø.ü%, ノルウェーで男性 þ%, 女性 ú.ÿ%, など報告されている øā-ùû). 近年, イタリア, デンマークやスペインから ALS 患者の約 ú % に TIV を施行したとの報告がなされている ùü-ùþ). 民族的 文化的な背景があるのかもしれない. また, 本邦では人工呼吸器にかかわる費用は保険診療にて全額補助されていることが挙げられる. 米国においては, 保険で在宅介護がカバーされておらず, また, 自立の文化 があり, 気管切開換気の利用者は少なく,TIV のデータは少ない ùÿ-úú). それ以外, 日本 ALS 協会によるピアコンサルテーションなど継続した活動も重要である. なお, 日本と米国における医師の TIV に対する対応の相違の報告もある úû-úü). 海外との相違点は, もう ø つ人工呼吸器離脱問題である. オランダでは withdrawal of invasive mechanical ventilation として法制度化されている úý). 米国における気管切開人工呼吸器外しについては, 米国最高裁判所では, 呼吸器を開始しないことと外すことは同義と解釈され, 患者は法的権利として呼吸器の取り外しを要求できる. また, 米国では,NIV(noninvasive ventilation) のほうが ALS 患者には好まれる呼吸サポート手段で, 気管切開換気の利用者は少ない. 緩和ケアとホスピスケアが増加している ùÿ-úú). アンケート調査の結果では, 取り外しを希望された症例の存在が報告されている úþ-úā). 現在, 日本では法的な整備はなされておらず, 全 体としてのコンセンサスも得られていない øý). 一方で, 在宅療養者は病院療養者に比べて TIV 装着後の生存期間が有意に長い, また, 配偶者の存在も有意に TIV 装着後の生存を延長させるとの報告もある øý). 配偶者による在宅ケアは, きめ細かで高い QOL が得られ, 病院に比べ在宅での低い感染リスクなどが予後に関与すると想定される û ). 女性介護者は日本 þý%, 米国 þ %. 介護者の離職, 退職率は日本 ûÿ%, 米国 ùû%. 介護支援は, 日本 üù% に対し, 米国は úü% しか受けていない. 気管切開は日本の介護者の üù% に対し, 米国は úú% が望んでいた. 望む理由は, 日本はマイルストーンに達するに対し, 米国は, 日常の QOL 維持としている. 日本の介護者の üý%, 患者 øü% と介護者が患者より気管切開を積極的に考えていた. 米国においても, 患者 - 介護者間の認識の違いは存在する ùÿ-úú). 現在, 在宅 ALS 患者の支援においては, その療養環境は変化しつつあるが, さまざまな問題や地域格差がある. 特に,1 身近な相談相手がいない, 2 専門医や専門看護師の不足,3 急変時の受け入れ先の確保が困難,4 医療度が高いため高度な介護技術が必要,5 主たる介護者, 多くは家族の存在,6 介護者の休息がとれない状況にある,7 無理な介護 介護の長期化による在宅破綻の可能性がある,8 ALS 患者の長期入院受け入れ可能な施設が少ない, などが挙げられる. それらを解決するため, 在宅 ALS 患者 家族支援の条件として,1 専門的医療が可能である,2 在宅往診医 訪問看護師の確保,3 後方支援病院 レスパイト入院施設の確保,4 長期療養病床の確保,5リハビリテーション医療の継続,6 患者 家族のメンタルサポート,7 福祉 行政による支援, 8 患者 家族のための療養環境の調整役の存在などがある. 各体制の円滑な 顔の見える連携 が Jpn J Rehabil Med Vol. 55 No. 7 2018 559

日野 創 何より重要である. 地域包括ケアシステムとは, 重度の要介護状態 になっても住み慣れた地域で自分らしく生きること ができるようにするシステムであり, 人工呼吸器を 装着し日常生活動作 (activities of daily living: ADL) 全介助の状態で在宅療養生活を送る ALS などの神経難病患者においても, 自分らしく生きる ことについてはリハビリテーション医療のかかわり が重要である. そのためには, 地域で神経難病患 者に対応できるリハビリテーション医療専門職の 育成が重要である ûù-ûú). 神経難病地域リハビリテーション研修会の取り組み 当院は,ù ù 年より毎年, 地域の医療従事者に 対し, 交流も交えて神経難病地域リハビリテーショ ン研修会を開催している. この研修会の第 ø 回 (ù øø 年 )~ 第 øÿ 回 (ù øü 年 ) の ü 年間における 計 ÿ 回 (ù ø 年からは年 ù 回開催 ) について研修 会ごとの参加者の職種, 所属形態について調査し た. 延べ参加人数は ýāü 名, 同一者の平均参加回 数は ø.ùÿ 回, 研修会参加者の全体の総数の職種別 は, 理学療法士が û.ù% と最も多く, 作業療法士 ùü.ü%, 看護師 Ā.ý%, 言語聴覚士 ý.ÿ%, ケアマネ ジャー ý.ú%, 保健師 ú.þ%, 福祉用具専門員 ø.ú%, 医師.Ā% であった. 所属種別は, 病院 診療所 医 院が ûü.þ% と最大で, 訪問看護ステーション úā.ý%, 保健所 ù.ü%, 行政 ( 福祉課など )ø.ú%, その他 ø.ā% であった. そして, これらの所属地域別で集計したところ, 多摩地区 ýü.ā%, その他の ùú 区 隣接県が úû.ø% であった.ALS に関するテーマでは, 神経難病の 嚥下障害, コミュニケーション手段の工夫, ALS の呼吸理学療法, ALS を生きる, ALS のリハ, ALS 患者に対するスイッチコントロー ルの活用法, 難病医学( 神経系 ) 主に呼吸管理を必要とする疾患, 人工呼吸器装着在宅療養者へ介入するときの留意点, ALS の療養生活における課題とその対応, 神経難病のリハについて, 米国の高齢者地域医療の在宅緩和ケアについて, 安全な吸引方法について, 神経難病療養者の災害対策 平常時からできる医療機器の備えや取り組み, 知っておきたい気管切開と気道ケア, 神経難病リハにおける地域連携, 神経難病を取り巻く制度と活用, 神経難病患者の在宅診療と地域連携, ALS の理学療法を考える, ALS の栄養管理, 地域療養支援室の取り組み ~ 自宅療養者への災害対策 ~ などであった. アンケートでは, 体験に基づく話をされわかりやすかった, 臨床実践からの先生の話がとても心に響く内容でした, 神経難病に特化した話をまとめて聴く機会は少なく, とても貴重な場だと思いました, 講義 交流会 ハンズオンがあって内容が充実していました, 他院様とも同じ難病患者様の意見交換を行え, とても参考になりました, 多くの方が参加されていて, さまざまな関係が開けた, 実技はとても勉強になり, 明日からの仕事で活かせそうです, 神経難病に関してのこのような機会, とても助かります, 本当に素晴らしい会だと思いました, 是非継続してください, 多くの関係職種の方が悩まれていることを知り, つながっていることが心強く思いました, 今回勉強させていただいたことを, チーム間でも共有し, よりよいアプローチができるようにしたいです, 実際に患者様のお話が少しでも聞けて, よかったです, コミュニケーションが取れることがどれだけ患者さんにとって心強いことかわかりました, 在宅を主な仕事としてきましたので, 病院での治療について最新の知識がなかったのでとても勉強になりました, 当事者の方の話がきけるのはとてもよかった, 大変参考になる研修でした, 職場の新人にも 560 Jpn J Rehabil Med Vol. 55 No. 7 2018

5 筋萎縮性側索硬化症患者の在宅ケア 必ず勧めます, 近隣の施設の方と交流できてよ かったです, 参加されている方の顔が見えてよ かった, 自分の職場の近くの施設を知ることが できた であった. 難病の患者に対する医療等に関する法律 のもとでのリハビリテーション医療 ù øû 年 難病の患者に対する医療等に関する法 律 が成立し,ù øü 年から施行されたのは冒頭で も述べたが, そこでは, 療養の質的向上, 施設間の 相互連携, 人材育成は重要な要素となっている. 特に, 難治性の神経難病に対する治療 ケアの中 で, リハビリテーション医療の役割が挙げられてい る. 神経難病のリハビリテーション治療は, 脳血管 疾患や外傷に代表される急性発症疾患の急性期発 症モデルの, 急性期リハビリテーション治療 回復 期リハビリテーション治療 維持期リハビリテー ション治療と受け継がれていく一般的な地域リハ ビリテーション医療の支援体制に当てはまらない ため, 提供が十分でないばかりでなく, 人材育成 研修についても独自の研修拠点を考える必要があ る. 稀少疾患であるため, 専門病院以外での経験 が蓄積されにくく, 一般的な知識技術の伝達だけ では十分なスキルアップを確保することが困難で ある. さらに, 相談窓口 連携を意識する必要があ る. 神経難病は発症早期から疾患教育, 廃用をは じめとする二次的障害の予防が必要であり, 一部 の疾患での集中リハビリテーション医学のエビデ ンス, 症状の進行に伴い呼吸リハビリテーション治 療, 摂食嚥下リハビリテーション治療, コミュニ ケーション支援など医療と密着してリハビリテー ション医療ニーズが継続する. 神経難病専門医の いる拠点病院でのリハビリテーション医療スキル アップと相談窓口と常時, 在宅主治医との密なチー ムワークが重要となってくると考えられる ûý). 新しい難病法のもとでの拠点病院は, リハビリ テーション医療について研修とネットワークの拠点 となることが期待されている. 在宅支援の現場で は患者さんを受けもつ機会がまばらなため, 実際に 神経難病の研修に多くの労力をかける余裕がない のが現状である ûý). 地域包括ケアシステム ûþ) 地域包括システムとは, 地域に生活する高齢者 の住まい 医療 介護 予防 生活支援を一体的に 提供するための体系であり, 高齢化率や基盤条件 が異なるため, 地方行政単位で担うものとされてい る. 地域包括ケアシステムのあり方は, 議論の途 上である. 当初は, 福祉 介護を中心に構想されていたが, 医療の関与が重要視される傾向になってきてい る ûÿ). 医療に関しても, 在宅診療, 診療所が中心 で, 急性期病院は関与しない想定から, 急性期病 院の関与も想定したものとなり, 地域によっては, 大学病院のように特定機能病院であっても地域包 括ケア中核センターを設立し積極的にかかわる場 合もある ûā). 議論が深化していく過程で, 医療の 関与, それも急性期病院, 高機能病院の役割が, あ らためて重要視されるようになっている. 地域医 療では, 基盤となる確固としたシステムを構築する ことが要求される. そのうえで, どのように地域包 括ケアシステムの中にネットワーク的要素を組み 入れるかは, 医師はもちろん, これからの医療, 福 祉介護に携わるすべての職種に課せられた重要な 命題である ü ). 文献 ø) 小長谷正明 : スモン キノホルム薬害と現状.Brain and Nerve ù øü;ýþ:ûā-ýù ù) 厚生省 : 難病対策要綱.øĀþù. Available from URL: http://www.nanbyou.or.jp/pdf/nan_youkou.pdf ú) 厚生労働省 : 難病対策.ù øþ. Available from URL: Jpn J Rehabil Med Vol. 55 No. 7 2018 561

日野 創 http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/ kenkou_iryou/kenkou/nanbyou/ û) 菊地豊 : 筋萎縮性側索硬化症患者に対する発症初期から終末期までの理学療法の関わり. 理学療法 ù øþ;úû:ýāü-þ þ ü) 荻野美恵子, 荻野裕, 川浪文, 坂井文彦 :ALS の告知のあり方について 患者アンケート調査より. 臨床神経学 ù ú;ûú:ø ùþ ý) 湯浅龍彦, 水町真知子, 若林佑子, 川上純子, 吉本佳預子 : 筋萎縮性側索硬化症のインフォームド コンセント ALS とともに生きる人から見た現状と告知のあり方. 医療 ù ù;üý:úúÿ-úûú þ) 日本神経学会監, 筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン 作成委員会編 : 告知, 診療チーム, 事前指示, 終末期ケア. 筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン ù øú. 南江堂, 東京,ù øú;pp ûü-þû ÿ) 難波玲子 : 神経難病 (amyotrophic lateral sclerosis) の地域連携の課題 臨床現場の問題点. 神経治療 ù øþ;úû:ùýā-ùþù Ā) 西田美紀 : 在宅 ALS 患者の身体介護の困難性. Core Ethics ù øú;ā:øāā-ùø ø ) Ringholz GM, Appel SH, Bradshaw M, Cooke NA, Mosnik DM, Schulz PE;Prevalance and patterns of cognitive impairment in sporadic ALS. Neurology ù ü;ýü:üÿý-üā øø) Witgert M, Salamone AR, Strutt AM, Jawaid A, Massman PJ, Bradshaw M, Mosnik D, Appel SH, Schulz PE:Frontal-lobe mediated behavioral dysfunction in amyotrophic lateral sclerosis. Eur J Neurol ù ø ;øþ:ø ú-øø øù) 白子千春 : 災害時に備えた平常時からの継続した取り組み. 難病と在宅ケア ù øÿ;ùú:úû-úÿ øú) 日野創 : 口腔 咽頭および気管吸引の実態調査. Jpn J Rehabil Med ù øù;ûā:sùøÿ øû) 青木正志 : 在宅人工呼吸器使用患者への対応をどうするか. 臨床神経学 ù øú;üú:øøûā-øøüø øü) Borasio GD, Gelinas DF, Yanagisawa N:Mechanical ventilation in amyotrophic lateral sclerosis:a cross-cultural perspective. J Neurol øāāÿ;ùûü:þ-øù øý) 木村文治 : 筋萎縮性側索硬化症 人工呼吸器装着の背景因子と予後分析. 臨床神経学 ù øý;üý:ùûøùûþ øþ) Atkins L, Brown RG, Leigh PN, Goldstein L:Marital relationships in amyotrophic lateral sclerosis. Amyotroph Lateral Scler ù ø ;øø:úûû-úü øÿ) 中川悠子, 魚住武則, 辻貞俊 : 筋萎縮性側索硬化症患者における介護負担と QOL の検討. 臨床神経学 ù ø ;ü :ûøù-ûøû øā) Neudert C,Oliver D, Wasner M, Borasio GD:The course of the terminal phase in patients with amyotrophic lateral sclerosis. J Neurol ù ø;ùûÿ: ýøù-ýøý ù ) Miller RG, Jackson CE, Kasarskis EJ, England JD, Forshew D, Johnston W, Kalra S, Katz JS, Mitsumoto H, Rosenfeld J, Shoesmith C, Strong MJ, Woolley SC:Quality Standards Subcommittee of the American Academy of Neurology:Practice parameter update:the care of the patient with amyotrophic lateral sclerosis:drug, nutritional, and respiratory therapies(an evidence-based review):report of the Quality Standards Subcommittee of the American Academy of Neurology. Neurology ù Ā;þú: øùøÿ-øùùý ùø) Moss AH, Casey P, Stocking CB, Roos RP, Brooks. BR, Siegler M:Home ventilation for amyotrophic lateral sclerosis patients:outcomes, costs, and patient, family, and physician attitudes. Neurology øāāú;ûú:ûúÿ-ûûú ùù) Lechtzin N, Wiener CM, Clawson L, Davidson MC, Anderson F, Gowda N, Diette GB:ALS CARE- Study Group:Use of noninvasive ventilation in patients with amyotrophic lateral sclerosis. Amyotroph Lateral Scler Other Motor Neuron Disord ù û;ü:ā-øü ùú) Ritsma BR, Berger MJ, Charland DA, Khoury MA, Phillips JT, Quon MJ, Strong MJ, Schulz VM: NIPPV:prevalence, approach and barriers to use at Canadian ALS centres. Can J Neurol Sci ù ø ;úþ: üû-ý ùû) Gonzalez-Bermejo J:Indications and equipment needs for ventilator support in amyotrophic lateral sclerosis[article in French]. Rev Neurol(Paris) ù ý;øýù:ûsúù -ûsúùù ùü) Spataro R, Bono V, Marchese S, La Bella V: Tracheostomy mechanical ventilation in patients with amyotrophic lateral sclerosis:clinical features and survival analysis. J Neurol Sci ù øù;úùú:ýý-þ ùý) Dreyer P, Lorenzen CK, Schou L, Felding M: Survival in ALS with home mechanical ventilation non-invasively and invasively:a øü-year cohort study in west Denmark. Amyotroph Lateral Scler Frontotemporal Degener ù øû;øü:ýù-ýþ ùþ) Sancho J, Servera E, Dfaz JL, Bañuls P, Marin J: Home tracheotomy mechanical ventilation in patients with amyotrophic lateral sclerosis causes, complications and ø-year survival. Thorax ù øø; ýý:āûÿ-āüù ùÿ) Benditt JO, Boitano LJ:Pulmonary issues in patients with chronic neuromuscular disease. Am J Respir Crit Care Med ù øú;øÿþ:ø ûý-ø üü ùā) McKim DA, Road J, Avendano M, Abdool S, Cote F, Duguid N, Fraser J, Maltais F, Morrison DL, O'Connell C, Petrof BJ, Rimmer K, Skomro R:Home mechanical ventilation:a Canadian Thoracic Society clinical practice guideline. Can Respir J ù øø; øÿ:øāþ-ùøü ú ) Benditt JO, Smith TS, Tonelli MR:Empowering the individual with ALS at the end-of-life:diseasespecific advanced care planning. Muscle Nerve ù ø;ùû:øþ ý-øþ Ā úø) Mitsumoto H, Bromber, M, Johnston W, Tandan R, Byock I, Lyon M, Miller RG, Appel SH, Benditt J, Bernat JL, Borasio GD, Carver AC, Clawson L, Del Bene ML, Kasarskis EJ, LeGrand SB, Mandler R, 562 Jpn J Rehabil Med Vol. 55 No. 7 2018

5 筋萎縮性側索硬化症患者の在宅ケア McCarthy J, Munsat T, Newman D, Sufit RL, Versenyi A:Promoting excellence in end-of-life care in ALS. Amyotroph Lateral Scler Other Motor Neuron Disord ù ü;ý:øûü-øüû úù) Birnkrant DJ,Bushby KM,Amin RS, Bach JR, Benditt JO, Eagle M, Finder JD, Kalra MS, Kissel JT, Koumbourlis AC, Kravitz RM:The respiratory management of patients with duchenne muscular dystrophy:a DMD care considerations working group specialty article. Pediatr Pulmonol ù ø ;ûü: þúā-þûÿ úú) Wang LH, Elliott MA, Jung Henson L, Gerena- Maldonado E, Storm S, Downing S, Vetrovs, J, Kayihan P, Paul P, Kennedy K, Benditt JO, Weiss MD:Death with dignity in washington patients with amyotrophc lateral sclerosis. Neurology ù øý; ÿþ:ùøøþ-ùøùù úû) Christodoulou G, Goetz R, Ogino M, Mitsumoto H, Rabkin J:Opinions of Japanese and American ALS caregivers regarding tracheostomy with invasive ventilation(tiv). Amyotroph Lateral Scler Frontotemporal Degener ù øü;øþ:ûþ-üû úü) Rabkin J, Ogino M, Goetz R, McElhiney M, Hupf J, Heitzman D, Heiman- Patterson T, Miller R, Katz J, Lomen-Hoerth C, Imai T, Atsuta N, Morita M, Tateishi T, Matsumura T, Mitsumoto H:Japanese and American ALS patient preferences regarding TIV(tracheostomy with invasive ventilation):a cross-national survey. Amyotroph Lateral Scler Frontotemporal Degener ù øû;øü:øÿü-øāø úý) Dreyer PS, Felding M, Klitnaes CS:Withdrawal of invasive home mechanical ventilation in patients with advanced amyotrophic lateral sclerosis:ten years of Danish experience. J Palliat Med ù øù;øü: ù ü-ù Ā úþ) 荻野美恵子 : 神経内科領域における終末期の倫理的問題について ALS 終末期ケアに関するアンケート調査結果. 臨床神経学 ù ø ;ü :ø ùý-ø ùÿ úÿ) 西澤正豊 : 人工呼吸器の中止を巡って. 難病と在宅 ケア ù ü;ø :ùþ-úø úā) 清水哲郎 : いわゆる TLS 状態の ALS 患者をめぐる生命維持中止の問題 臨床倫理の視点から. 臨床神経学 ù ø ;ü :ø ùā-ø ú û ) Chiò A, Calvo A, Ghiglione P, Mazzini L, Mutani R, Mora G:PARALS:Tracheostomy in amyotrophic lateral sclerosis:a ø -year population-based study in Italy. J Neurol Neurosurg Psychiatry ù ø ;ÿø: øøûø-øøûú ûø) 日本 ALS 協会編 : 新 ALS ケアブック 筋萎縮性側索硬化症療養の手引き第 ù 版. 川島書店, 東京, ù øû;p ùüü ûù) 田中勇次郎 : 地域包括支援ケア時代の神経筋疾患患者へのリハビリテーション.Jpn J Rehabil Msd ù øý;üú:üû -üûú ûú) 神経難病リハビリテーション研究会 : ホームページ. Available from URL:http://nanbyoreha.com/ ûû) 日野創 : 神経難病リハビリテーション.Jpn J Rehabil Med ù Ā;ûý:Sùýú ûü) 日野創 : 脳 神経難病医療専門病院におけるリハビリテーション科外来診療への取り組み.Jpn J Rehabil Med ù øø;ûÿ:súþā ûý) 西澤正豊, 小森哲夫, 小林庸子, 中馬孝容 : 拠点病院が行う神経難病リハビリテーション研修会実施手引き 連携を作る. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業,ù øþ ûþ) 厚生労働省 : 地域包括ケアシステム.ù øþ.available from URL:http://www.mhlw.go.jp/stf/seisaku nitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ch iiki-houkatsu/ ûÿ) 二木立 : 地域包括ケアシステムシステムの展開と論点. 地域包括ケアと地域医療連携. 勁草書房, 東京,ù øü;pp ø-úā ûā) 藤田保健衛生大学 : 地域包括ケア中核センター. ù øþ. Available from URL:http://www.fujita-hu.ac. jp/~cyukaku/ ü ) 三井良之 : 難病支援ネットワークと地域包括ケアシステム 難病患者在宅医療支援事業の経験から. 近畿大学医学雑誌 ù øþ;ûù:ú-ø Jpn J Rehabil Med Vol. 55 No. 7 2018 563