Ⅰ.てんかん てんかん はいろいろな 原 因 で 繰 り 返 しておこる 痙 攣 発 作 を 伴 う 慢 性 の 脳 疾 患 です 極 端 に 言 えば 症 状 であり 複 数 の 疾 患 が 含 まれているといえます 一 般 人 口 の 1~1.5%にあり 痙 攣 発 作 を 伴 わない 脳 波 異 常 だけもふくめると 約 5%といわれます 1. 痙 攣 発 作 の 分 類 2. 原 因 : 1) 部 分 ( 焦 点 局 所 ) 発 作 ( 局 所 関 連 性 てんかん) 2) 全 般 発 作 ( 痙 攣 性 非 痙 攣 性 全 般 てんかん) 3) 未 分 類 発 作 1) 脳 の 形 成 異 常 2) 胎 児 期 頭 蓋 内 感 染 3) 周 産 期 障 害 4) 脳 腫 瘍 5) 出 生 後 の 外 傷 感 染 等 6) 遺 伝 性 疾 患 3. 遺 伝 特 発 性 てんかんの 中 に 家 族 性 出 現 があること 一 致 率 が 一 卵 性 双 生 児 では 50~ 60% 二 卵 性 双 生 児 では 3~6%であることから 遺 伝 の 関 与 が 推 定 されます た だし 一 卵 性 双 生 児 の 一 致 率 が 100%でないことは 環 境 因 子 の 関 与 を 意 味 します また てんかんをもつ 女 性 の 多 数 が 健 康 なこどもを 出 産 しています しかし 先 天 異 常 児 が 生 まれる 可 能 性 は 4~6%と 対 象 の 2~3 倍 になるともいいます 単 一 遺 伝 性 で 遺 伝 子 の 分 かっているてんかんもあります 遺 伝 性 遺 伝 子 良 性 家 族 性 新 生 児 けいれん AD 8q24, 20q13.3 熱 性 けいれんプラス AD 19q13, 2q24-q33 家 族 性 夜 間 前 頭 葉 けいれん AD 20q13.3 1
4. 経 験 的 再 発 率 1~14% 1~13% 2~10% 50~60% 3~5% 熱 性 けいれん 11% 22% 18% 4% Ⅱ.パーキンソン 病 振 戦 固 縮 運 動 減 少 を 三 主 徴 とする 慢 性 疾 患 ですが 表 現 度 ( 病 気 の 状 態 )が 異 なります. 大 多 数 が 孤 発 例 ですが 中 に 家 族 例 があり 常 染 色 体 優 性 遺 伝 あるい は 常 染 色 体 劣 性 遺 伝 が 知 られています 1. 発 生 頻 度 :150~200/10 万 人 若 年 発 症 も 稀 にありますが 大 多 数 が 孤 発 例 で 50 歳 代 に 発 症 します 家 族 例 は 5% 程 度 です 2. 原 因 : 中 脳 の 黒 質 にあるドーパミン 含 有 細 胞 が 変 性 消 失 することによりま す 2
3. 症 状 : 1) 振 戦 : 安 静 時 におこり 規 則 正 しい 精 神 的 緊 張 の 影 響 を 受 け 手 下 顎 口 唇 舌 頭 と 広 がる 広 がりや 進 行 程 度 は 様 々です 2) 固 縮 : 他 人 の 力 で 関 節 を 動 かそうとすると 歯 車 様 と 表 現 される 抵 抗 を 感 じます 膝 肘 手 首 を 屈 曲 させる 特 有 な 姿 勢 と 小 さい 歩 幅 で ひきずって 歩 く 歩 行 が 特 徴 的 です. 3) 運 動 減 少 :すべての 動 作 が 緩 緩 になり 表 情 も 乏 しくなります 4. 遺 伝 : 遺 伝 的 異 質 性 が 認 められます. 1) 常 染 色 体 優 性 遺 伝 PARK1(4q21-q22),PARK5(4p14),PARK3(2p13), PARK4(4p15), 2) 常 染 色 体 劣 性 遺 伝 PARK2(6q25.2-q27),PARK7(1p36),PARK6(1p36-p35) 5. 遺 伝 相 談 : 常 染 色 体 優 性 遺 伝 常 染 色 体 常 劣 性 遺 伝 があります (1) 大 多 数 が 孤 発 例 であること (2) 発 症 年 齢 が 50 歳 代 と 遅 い( 日 本 では 40 歳 以 前 発 症 の 若 年 型 が 比 較 的 多 い( 約 10%とされています) (3) 表 現 度 に 差 がある こと(4) 浸 透 度 (5) 遺 伝 的 異 質 性 などに 注 意 をする 必 要 があります 3
Ⅲ. 多 発 性 硬 化 症 中 枢 神 経 系 の 脱 髄 疾 患 ( 神 経 をカバーしている 髄 鞘 が 壊 れておこる 疾 患 )の 一 つです この 脱 髄 があちこちにでき( 脱 髄 斑 ) 発 病 再 発 をします 1. 頻 度 : 人 口 10 万 人 あたり 8~9 人 程 度 です 20~40 代 に 多 く 発 病 し 男 女 比 は1:2~3 位 と 女 性 に 多 いです. 2. 原 因 : 自 己 免 疫 説 が 有 力 です 環 境 因 子 としてウイルス 感 染 が 考 えられてい ます 3. 遺 伝 : 体 質 が 遺 伝 すると 考 えられています 遺 伝 子 としてHLA とくに DR 2タイプはなりやすいと 言 います 多 因 子 遺 伝 を 考 えます 4. 症 状 : 視 神 経 障 害 : 視 力 が 低 下 視 野 欠 損 球 後 視 神 経 炎 脳 幹 障 害 : 複 視 ( 二 重 に 見 える) 眼 振 顔 の 感 覚 や 運 動 が 麻 痺 嚥 下 障 害 言 語 障 害 小 脳 障 害 : 酩 酊 歩 行 手 がふるえる 脊 髄 障 害 : 胸 や 腹 の 帯 状 のしびれ ぴりぴりした 痛 み 手 足 のしびれや 運 動 麻 痺 尿 失 禁 排 尿 障 害 5. 検 査 法 : 脳 脊 髄 液 検 査 MRI 検 査 脳 波 ( 誘 発 脳 波 ) 6. 経 過 : 多 くは 再 発 寛 解 を 繰 り 返 しながら 慢 性 に 経 過 します 一 部 に 進 行 性 や 予 後 不 良 の 場 合 があります 7. 遺 伝 相 談 : 15~45/10 万 人 25% 2.3% 4
Ⅳ. 脊 髄 小 脳 変 性 症 運 動 失 調 を 主 な 症 状 とする 神 経 変 性 疾 患 で. 多 くの 疾 患 が 含 まれています 頻 度 は 10 万 人 あたり 約 18 人 です その 30%が 遺 伝 性,70%が 孤 発 性 ( 非 遺 伝 性 )で す 遺 伝 性 の 脊 髄 小 脳 変 性 症 は, 常 染 色 体 優 性 遺 伝 が 多 いですが, 常 染 色 体 劣 性 遺 伝 もあります 1. 遺 伝 性 脊 髄 小 脳 変 性 症 の 分 類 病 型 遺 伝 様 式 遺 伝 子 座 リピート 配 列 SCA1 AD 6p23 CAG SCA2 AD 12q24 CAG SCA3(マシャド ジョセフ 病 ) AD 14q24.1-q31 CAG SCA4 AD 16q22.1 SCA5 AD 11p13 SCA6 AD 19p13 CAG 歯 状 核 赤 核 淡 蒼 球 ルイ 体 萎 縮 症 AD 12p13.3 CAG SCA7 AD 3p21.1-p12 CAG SCA8 AD 13q21 CAG CTG SCA10 AD 22q13 ATTCT SCA11 AD 15q14-q15.3 SCA12 AD 5q31-q33 SCA13 AD 9q13.3-q13.4 SCA17 AD 6q27 CAG Friedreich 失 調 症 AR 9q13-q21 GAA(CAG) ビタミン E 欠 乏 に 伴 う 失 調 症 AR 8q13.1-q13.3 毛 細 血 管 拡 張 性 務 失 調 症 AR 11q22.3 家 族 性 痙 性 対 麻 痺 AD,AR,XR オリーブ 橋 小 脳 萎 縮 症 多 系 統 萎 縮 症 (Multiple system atrophy:msa): オリーブ 橋 小 脳 萎 縮 症,シャイドレーガー 症 候 群, 線 条 体 黒 質 変 性 症 の3 疾 患 を 統 一 して 扱 ったものです 5
2. 症 状 1) 体 幹 失 調 立 った 時, 不 安 定 でふらつく, 片 足 立 ちが 出 来 ない 2) 歩 行 失 調, 歩 行 時 にふらつく 3) 四 肢 の 失 調 手 の 動 作 時 の 震 え, 思 ったように 字 が 書 けない, 動 かせない 4) 言 語 障 害 呂 律 が 回 らない,あるいは 音 と 音 がつながってしまう 5) パーキンソ 様 徴 候 四 肢 の 関 節 が 固 くなり, 動 きが 遅 くなる 表 情 が 乏 しい 6) その 他 排 尿 障 害 眼 球 運 動 異 常 知 能 障 害 深 部 感 覚 障 害 症 状 は 徐 々に 出 現 し,ゆっくりと 進 行 します. 3. 診 断 家 族 歴 臨 床 症 状 画 像 所 見 さらに 遺 伝 子 診 断 をすることが 大 切 です 脳 血 管 障 害, 炎 症, 腫 瘍, 多 発 性 硬 化 症, 内 分 泌 異 常, 薬 物 中 毒 などによる 運 動 失 調 症 が 否 定 されることが 必 要 です 4. 経 過 各 病 型 によって 異 なり 一 概 にいえません. 遺 伝 性 では 臨 床 型, 遺 伝 型 を 考 える 必 要 があります 孤 発 性 では 皮 質 性 小 脳 萎 縮 症 は,その 進 行 は 非 常 に 遅 く 高 齢 まで 自 立 できるこ とが 多 いですが 多 系 統 萎 縮 症 (オリーブ 橋 小 脳 萎 縮 症 )は, 進 行 が 早 いです. DRPLA は 比 較 的 進 行 も 早 く 予 後 は 悪 いほうです 5. 遺 伝 常 染 色 体 優 性 遺 伝 性 の 中 には,グルタミンをつくる CAG という 3 塩 基 の 繰 り 返 しが 通 常 より 長 いことによって 起 こるものがあります この 繰 り 返 し 配 列 が 長 けれ ば 長 いほど, 発 症 年 齢 の 若 年 化 や 重 症 化 する 傾 向 にあります 遺 伝 性 の 病 型 では その 遺 伝 子 型 により 表 現 型 が 異 なることに 注 意 する 必 要 があ 6
ります 特 に 同 一 家 系 内 でも 表 現 型 が 異 なり, 世 代 を 経 る 毎 に 重 症 化, 発 症 年 齢 が 若 年 化 する 傾 向 が,SCA1,2,3,7 DRPLA には 強 いことがわかっています 6. 遺 伝 子 診 断 このうち 約 60~80 %は, 遺 伝 子 診 断 による 病 型 の 確 定 が 可 能 です.すでに 遺 伝 子 座 もしくは 原 因 遺 伝 子 が 判 明 している 遺 伝 性 のものでは, 遺 伝 子 診 断 が 病 型 決 定 の 上 で 有 用 です 7. 遺 伝 性 と 頻 度 遺 伝 性 頻 度 (%) 孤 発 性 頻 度 (%) MJD/SCA3 7.17 多 系 統 萎 縮 症 42.66 SCA6 5.85 皮 質 性 小 脳 萎 縮 症 23.03 DRPLA 2.04 その 他 2.36 SCA2 0.66 痙 性 対 麻 痺 0.65 SCA1 0.62 小 計 68.69 SCA7 0.04 その 他 (AD) 7.46 不 明 4.39 常 染 色 体 劣 性 0.95 痙 性 対 麻 痺 (AD) 0.94 痙 性 対 麻 痺 (AR) 0.47 小 計 31.31 総 計 100 Ⅵ. 副 腎 白 質 ジストロフィー(ALD) 中 枢 神 経 系 の 脱 髄 と 副 腎 の 機 能 不 全 がおこり 全 身 組 織 に 脂 肪 酸 を 認 めます 2. 頻 度 男 子 2~3 万 人 に 一 人 の 割 合 です 3. 原 因 X 連 鎖 劣 性 遺 伝 Xq28 にある ALD 遺 伝 子 の 異 常 によります 7
4. 分 類 と 主 な 症 状 頻 度 % 主 な 症 状 進 行 1. 小 児 型 35 行 動 異 常 知 能 低 下 視 力 障 害 急 速 2. 成 人 型 40~45 歩 行 障 害 知 覚 障 害 尿 失 禁 緩 徐 3.アジソン 病 10 副 腎 機 能 不 全 4.その 他 5~10 頭 痛 ふらつき 失 語 症 3 歳 までに 発 症 することはほとんどありません 女 性 保 因 者 は 通 常 発 症 しませんが 中 高 年 以 降 に 軽 度 の 歩 行 異 常 を 認 めることが あります 5. 遺 伝 X 連 鎖 劣 性 遺 伝 をしますが 新 生 突 然 変 異 があり 浸 透 率 は 100%でありません Ⅶ. フォンヒッペル リンドウ 病 1. 症 状 : 網 膜 辺 縁 : 血 管 腫 小 脳 : 血 管 芽 細 胞 腫 腎 膵 : 嚢 腫 多 血 症 褐 色 細 胞 腫 のあることもあります 2. 分 類 褐 色 細 胞 腫 腎 細 胞 癌 膵 嚢 胞 1 型 なし 2A 型 あり いずれか 一 方 あり 2B 型 あり あり あり 2C 型 あり なし なし 8
3. 遺 伝 : 常 染 色 体 優 性 遺 伝 原 因 遺 伝 子 は VHL で 3p25-p26 にあります VHL はがん 抑 制 遺 伝 子 です 原 因 遺 伝 子 は 子 に 50% 伝 わりますが 浸 透 度 は 年 齢 依 存 性 があるので 未 発 症 者 は 脳 MRI 腹 部 超 音 波 検 査 眼 科 的 検 査 など 定 期 的 検 査 を 必 要 とします 約 20%に 新 生 突 然 変 異 があり 性 腺 モザイクの 存 在 が 考 えられます Ⅷ.ナルコレプシーnarcolepsy 抵 抗 できない 眠 気 短 時 間 で 目 が 覚 めるが 2~3 時 間 でまた 眠 くなります 1. 頻 度 : 1/600 人 7~8 割 が 13~16 歳 で 発 症 します 性 差 はありません 2. 原 因 : 環 境 要 因 ともいわれますが 家 族 内 発 生 が 約 5%あります 3. 症 状 : 1) 日 中 反 復 する 居 眠 り(ほとんど 毎 日 何 年 間 にもわたって 続 く) 2) 睡 眠 発 作 ( 急 におこる 抵 抗 できない 強 い 眠 気 ) 3) 情 動 脱 力 発 作 ( 感 情 の 高 ぶったときに 突 然 脱 力 感 が 襲 う 意 識 は 清 明 ) 4) 入 眠 時 幻 覚 ( 半 分 目 が 覚 めているようなときに 鮮 明 な 夢 をみる) 5) 睡 眠 麻 痺 ( 入 眠 時 幻 覚 に 一 致 して 全 身 の 脱 力 状 態 が 起 こります) 4.メカニズム; 視 床 下 部 で 作 られるオレキシンの 欠 如 によるといわれます ナルコレプシー 患 者 の 90% 以 上 で 髄 液 にオレキシンが 検 出 されません オレキシンは 睡 眠 と 覚 醒 の メカニズムに 関 わる 物 質 で 覚 醒 時 に 筋 の 緊 張 を 高 めています 9
5. 検 査 : 脳 波 筋 電 図 髄 液 検 査 単 に 眠 気 だけではナルコレプシーとは 確 定 診 断 出 来 ません 6.HLAとの 関 連 ナルコレプシー 患 者 とくに 日 本 人 では HLA-DR2 との 関 連 が 指 摘 されています けれど HLA 遺 伝 子 は 素 因 ではあっても 十 分 条 件 とは 言 えません ナルコレプシーの 一 卵 性 双 生 児 13 組 のうち 11 組 が 相 手 は 発 症 していません また HLA 陽 性 者 がナルコレプシーを 発 症 するとは 限 りません 7. 遺 伝 遺 伝 的 には 浸 透 度 の 低 い 多 因 子 遺 伝 が 考 えられます 両 親 のどちらかが 罹 患 : 10% 同 胞 が 罹 患 :3.5%. 10