2009.12.4 (No.21, 2009) Newsletter Institute for International Monetary Affairs ( 財 ) 国 際 通 貨 研 究 所 ドバイ ショックの 背 景 と 今 後 ( 財 ) 国 際 通 貨 研 究 所 開 発 経 済 調 査 部 主 任 研 究 員 糠 谷 英 輝 nukaya@iima.or.jp 1.ドバイ ショックの 発 生 2009 年 9 月 25 日 付 Newsletter No.18 世 界 金 融 危 機 後 の 中 東 湾 岸 諸 国 の 補 論 :ドバイ 首 長 国 の 債 務 問 題 において 2009 年 12 月 に 期 限 の 到 来 するNakheel 社 発 行 のイスラム 債 券 (スクーク)35 億 ドルの 償 還 が 注 目 される と 紹 介 した が これが 悪 い 方 向 で 現 実 化 してしまった 2009 年 11 月 25 日 ドバイ 金 融 局 は Dubai World 1 並 びに 傘 下 のNakheel 社 の 債 務 返 済 を 少 なくとも 2010 年 5 月 30 日 まで 猶 予 することを 求 める 要 請 を 突 然 に 発 表 した 2 ドバイ 首 長 国 ( 以 下 ドバイ)はその 後 イスラム 教 の 犠 牲 祭 (Eid al-adha) 建 国 記 念 日 週 末 と 続 く 1 週 間 に 及 ぶ 休 日 に 突 入 した 内 容 の 詳 細 が 不 明 なこと 前 掲 Newsletter でも 述 べたようにドバイの 債 務 問 題 も 一 応 の 落 ち 着 きを 見 せていたことから この 突 然 の 発 表 に 世 界 の 金 融 市 場 は 株 式 並 びにユーロ 相 場 が 下 落 するなど 大 きな 混 乱 を 示 した ドバイ ショック 発 生 直 後 は 市 場 が 混 乱 したものの その 後 欧 米 銀 行 の アラブ 首 長 国 連 邦 ( 以 下 UAE)に 対 するエクスポージャー 返 済 猶 予 要 請 の 対 象 債 務 額 などが 明 らかになるに 連 れ 混 乱 は 収 束 を 見 せている しかしなが ら 未 だに 詳 細 な 情 報 開 示 はなされていない 1
2.ドバイ ショック 発 生 の 背 景 ドバイ ショックはそもそもバブルとも 言 われる 不 動 産 開 発 をドバイが 進 め てきたことに 原 因 がある ドバイは 原 油 がほとんど 産 出 されず このため 石 油 に 依 存 しない 経 済 開 発 を 余 儀 なくされ 地 理 的 な 条 件 を 活 かして 物 流 金 融 サービス 等 の 地 域 のハブとしての 開 発 を 進 めた これが 功 を 奏 し ドバイは 中 東 でもっとも 経 済 発 展 に 成 功 した 国 となり その 経 済 開 発 はドバイ モデルと 呼 ばれるようになった ドバイ 経 済 は 中 東 地 域 でもっとも 開 放 が 進 んだ 経 済 となる 一 方 で 開 発 のフ ァイナンスは 銀 行 借 り 入 れに 大 きく 依 存 する 状 況 となった 最 近 では 債 券 発 行 も 増 加 しているが ファイナンスの 主 体 は 銀 行 借 り 入 れである また 前 掲 Newsletter でも 指 摘 した 通 り そのファイナンスは 主 に 期 間 3~5 年 の 短 期 ファ イナンスであった こうした 状 況 下 で 世 界 金 融 危 機 が 発 生 し バブルの 破 裂 で 不 動 産 価 格 が 急 落 するのに 加 え 借 り 換 え 時 期 が 到 来 したが 世 界 金 融 危 機 の 影 響 を 大 きく 被 った 欧 米 銀 行 からの 借 り 入 れが 厳 しくなるという 状 況 にドバイは 陥 った 2009 年 になって 徐 々に 中 東 湾 岸 諸 国 の 経 済 も 回 復 を 示 すようになり 政 府 による 金 融 支 援 策 も 進 められ 債 務 危 機 は 乗 り 切 ったかと 思 われるようになっ た ドバイでもドバイ 金 融 支 援 基 金 が 設 立 され 総 枠 200 億 ドルのうち 100 億 ドルの 起 債 が 行 われ 全 額 を UAE 中 央 銀 行 が 引 き 受 けることで 膨 大 な 資 産 を 持 つアブダビ 首 長 国 ( 以 下 アブダビ)によるドバイ 支 援 姿 勢 も 明 確 になっ たものと 認 識 された 以 降 ドバイは 企 業 再 編 等 を 進 めていたが 来 る 12 月 14 日 の Nakheel 債 の 償 還 目 途 が 立 たず 今 回 の 返 済 猶 予 発 表 に 至 ったものと 推 測 される 市 場 としては 詳 細 の 分 からない 突 然 の 返 済 猶 予 要 請 を 受 けたが そもそも 企 業 情 報 等 の 開 示 が 不 十 分 であるため ドバイの 債 務 状 況 すら 把 握 するのが 難 し い 状 態 であった このため 懸 念 が 一 気 に 高 まり 市 場 が 混 乱 に 陥 ったと 言 える ドバイ ショックの 背 景 としては ドバイのファイナンスが 短 期 銀 行 借 り 入 れに 過 度 に 依 存 しており キャッシュフローが 回 らなくなったこと 情 報 開 示 が 不 十 分 であったことの 2 点 が 重 要 であったものと 思 われる 3 3.ドバイ ショックの 影 響 (1) 返 済 猶 予 対 象 債 務 は 限 定 的 2009 年 8 月 Nakheel 社 はドバイの 総 債 務 額 800 億 ドルのうち Dubai World 2
の 債 務 が 2008 年 末 で 590 億 ドルである 一 方 総 資 産 が 996 億 ドルであることを 発 表 した 続 く 10 月 には Dubai World の 債 務 のうち 約 180 億 ドルが 債 務 返 済 に 十 分 なキャッシュフローを 持 つ DP World などの 企 業 によるものであり 最 終 的 に 問 題 となりそうな 債 務 額 は 220 億 ドルであることを 明 らかにした また 11 月 30 日 Dubai World は 事 業 再 編 対 象 の 子 会 社 の 債 務 は 合 計 で 約 260 億 ドルであり Nakheel 社 や Limitless 社 といった 不 動 産 開 発 会 社 が 対 象 で あり Istithmar World DP World Economic Zone World Jebel Ali Free Zone Authority などの 企 業 は 財 務 状 況 が 安 定 しており 再 編 計 画 からは 外 すことを 発 表 した なお Jebel Ali Free Zone Authority は 11 月 30 日 に 75 億 UAE ディルハ ム( 約 20 億 ドル)のイスラム 債 権 の 利 払 いを 実 施 している 図 表 1 はドバイの 抱 える 規 模 の 大 きな 債 務 並 びに 2010 年 までに 期 限 が 到 来 する 債 務 である 当 面 は 12 月 14 日 に 償 還 日 の 到 来 するNakheel 債 の 取 り 扱 いが 焦 点 となるが 4 その 後 2010 年 3 月 31 日 にLimitless 社 (12 億 ドル) 同 5 月 13 日 にNakheel 社 (9 億 8,000 万 ドル)と 再 編 対 象 企 業 の 返 済 期 限 が 到 来 する 再 編 はこうした 対 象 企 業 全 体 の 今 後 の 事 業 展 開 債 務 整 理 をどのように 行 って いくのかを 全 体 的 な 観 点 から 検 討 していくことになろう 図 表 1 ドバイの 大 型 債 務 と 返 済 期 限 債 務 者 金 額 (10 億 ドル) 債 務 状 況 <Dubai World> Ports, Custom & Free Zone Authority 7.8 Nakheel 7.1 Holding Company 5.1 DP World 3 Dubai Drydocks 2.2 Jebel Ali Free Zone Authority 2 <Dubai Holding> Dubai Aerospace Enterprise 3.3 Holding Company 1.9 Dubai International Capital 1.7 期 限 返 済 期 限 (2010 年 まで) Nakheel 3.52 2009 年 12 月 14 日 Limitless 1.2 2010 年 3 月 31 日 Nakheel 0.98 2010 年 5 月 13 日 Dubai World 2.1 2010 年 6 月 19 日 Dubai International Capital 1.25 2010 年 6 月 26 日 ( 出 所 )S&P, MEED, Citi 3
(2)UAE 銀 行 に 及 ぼす 影 響 は 大 きい 図 表 2 は UAE の 上 場 企 業 の 収 益 推 移 を 四 半 期 毎 に 見 たものであるが 2008 年 第 4 四 半 期 を 底 に 2009 年 に 入 り 企 業 収 益 も 回 復 してきている しかし 銀 行 部 門 だけは 依 然 として 厳 しい 状 況 にあり 2009 年 第 3 四 半 期 の 上 場 銀 行 収 益 は 前 年 同 期 比 47%の 減 少 となっている ( 百 万 ドル) 図 表 2UAE 上 場 企 業 の 収 益 動 向 4,500 4,000 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 2008/Q1 Q2 Q3 Q4 2009/Q1 Q2 Q3 ( 出 所 ) Kuwait Financial Centre "Markaz" 銀 行 部 門 が 苦 境 にある 背 景 には サウジアラビアの 有 力 財 閥 である Saad 社 Al Gosaibi Group の 債 務 不 履 行 (2009 年 5 月 )が 発 生 したことが 指 摘 できる UAE の 銀 行 は 8 億 ドル 超 の 債 権 を 有 しており 巨 額 の 貸 倒 引 当 金 計 上 を 義 務 付 けられることになった そこにさらにドバイ ショックが 追 い 打 ちを 掛 けるこ とになったのである 中 東 湾 岸 諸 国 の 金 融 機 関 にとっては ドバイ ショック はサウジアラビア ショックに 次 ぐ 第 2 のショックであると 言 える 特 にドバイ アブダビの UAE 銀 行 の Dubai World に 対 するエクスポージャー の 比 率 が 高 く Dubai World あるいは 傘 下 の Nakheel 社 等 が 債 務 不 履 行 となった 場 合 はさらに 巨 額 の 貸 倒 引 当 金 計 上 を 迫 られることになり 厳 しい 状 態 に 陥 る ことになろう( 図 表 3) UAE 政 府 は 債 務 返 済 猶 予 要 請 の 発 表 後 先 ず 銀 行 流 動 性 支 援 策 を 公 表 したが 銀 行 に 対 する 政 府 支 援 が 一 つのカギを 握 ることにな るものと 思 われる 一 方 ドバイ ショックがサウジアラビアなどUAEを 除 く 中 東 湾 岸 他 国 へ 波 及 する 影 響 は 限 定 的 と 予 想 される サウジアラビア クウェート カタールな どの 金 融 機 関 のドバイに 対 するエクスポージャーは 大 きなものではなく ドバ イ ショックによる 信 用 の 低 下 も それがそのまま 他 国 の 信 用 状 態 に 波 及 する 状 況 にはない 5 この 点 は 国 際 的 にも 認 識 されていると 言 える 4
図 表 3 Dubai Worldへの 融 資 銀 行 上 位 10 行 銀 行 名 国 籍 融 資 残 高 ( 百 万 ドル) Emirates NBD PJSC ドバイ 2,452 Mashreqbank PSC ドバイ 2,452 Al Khaliji Commercial Bank カタール 2,000 Abu Dhabi Commercial Bank PJSC アブダビ 586 Arab Bank Group ヨルダン 293 Commercial Bank of Kuwait SAK クウェート 293 National Bank of Fujairah フジャイラ( 注 ) 293 Dubai Islamic Bank PJCS ドバイ 247 National Bank of Abu Dhabi PJSC アブダビ 159 Union National Bank PJSC アブダビ 159 ( 注 )フジャイラはアラブ 首 長 国 連 邦 の 一 首 長 国 ( 出 所 )Citi Global Markets, "CEEMEA Strategy:Trouble in Dubai", 30 November 2009 (3) 欧 米 銀 行 に 与 える 影 響 は 小 さい 中 東 湾 岸 地 域 は 英 領 であった 歴 史 的 な 経 緯 から 外 国 銀 行 では 欧 州 系 銀 行 の 対 中 東 融 資 が 多 い 中 東 湾 岸 諸 国 もオイルマネーの 対 外 投 資 を 英 国 を 中 心 とし た 欧 州 に 行 うなど 中 東 と 欧 州 の 経 済 的 な 繋 がりは 緊 密 である 国 際 決 済 銀 行 (BIS)の 統 計 によれば 2009 年 6 月 末 で UAE への 債 権 残 高 は 合 計 で 1,231 億 ドル 国 別 では 最 大 の 英 国 が 502 億 ドル 以 下 フランス 113 億 ドル ドイツ 106 億 ドルと 続 き 欧 州 銀 行 は 合 計 で 886 億 ドルとなっている また 米 国 は 106 億 ドル 日 本 は 90 億 ドルである 個 別 行 ではHSBC Standard Charteredなどのシェアが 大 きいが HSBCはUAE 顧 客 に 対 する 融 資 残 高 は 159 億 ドルである 一 方 預 金 残 高 が 193 億 ドル(2009 年 6 月 末 )であり 預 金 残 高 が 融 資 残 高 を 上 回 っている 旨 発 表 した 欧 州 系 銀 行 は 資 産 規 模 が 大 きく 6 既 にヘッジを 行 っていたり 保 証 を 取 りつけてい たりしている 部 分 もあり さらに 預 金 受 け 入 れもあることなどを 考 えれば ド バイ ショックによる 影 響 は 限 定 的 なものであると 言 える 4.ドバイの 対 応 UAE 中 央 銀 行 は 11 月 29 日 金 融 システムに 流 動 性 を 供 給 する 緊 急 措 置 を 発 表 した 3 カ 月 物 の 首 長 国 銀 行 間 取 引 金 利 (EIBOR)+50BP で 銀 行 の 当 座 勘 定 に 特 別 追 加 流 動 性 を 供 給 するものである 銀 行 に 対 する 不 安 が 高 まり 預 金 取 り 付 け 騒 ぎなどが 発 生 することを 懸 念 した 措 置 であるが 実 施 の 詳 細 に 関 し ては 明 らかになっていない 5
また 150 億 ドルとなったドバイ 金 融 支 援 基 金 も 同 基 金 による 支 援 対 象 支 援 金 額 等 は 未 だ 明 確 にされていない このように 未 だドバイの 対 応 も 不 明 確 なものであり 先 ずはドバイ 政 府 とし てどのような 支 援 を 行 うのかを 明 確 にすることが 第 一 である 一 方 ドバイ 首 長 をはじめとしたドバイ 当 事 者 からの 発 表 では 債 権 者 も 一 定 の 責 任 を 分 担 すべき との 主 張 が 強 く 聞 かれる これはイスラムの 考 え 方 に 通 じるものである イスラム 金 融 の 基 本 理 念 特 徴 の 一 つとして 損 益 分 担 (Profit and Loss Sharing)という 考 え 方 がある 事 業 に 投 資 した 投 資 家 は 事 業 収 益 の 配 分 を 受 ける 一 方 で 損 失 が 発 生 した 場 合 には その 損 失 も 分 担 せねば ならないとするものである Nakheel 債 はイスラム 債 券 であり こうした 考 え 方 をより 強 く 受 けるものと 予 想 される 今 後 の 債 務 再 編 交 渉 等 において 留 意 されるポイントであろう 今 回 の 債 務 返 済 猶 予 要 請 の 発 表 に 当 たっては Dubai Worldの 再 編 が 不 可 避 で あり 一 刻 の 猶 予 もなくなっていることを 表 わすものである Dubai World 傘 下 にはDP Worldをはじめ 優 良 企 業 も 存 在 する Dubai Worldは Nakheel 社 をはじ め 問 題 企 業 のみを 再 編 計 画 の 対 象 と 発 表 している しかし 国 営 企 業 の 破 綻 と なれば それは 当 該 企 業 のみにとどまらず ドバイ 全 体 の 信 用 に 関 わる 問 題 と なる 今 後 の 経 済 発 展 に 当 たっては 資 源 のないドバイとしては 引 き 続 き 外 国 からの 投 資 信 用 供 与 に 依 存 せざるを 得 ない 7 したがってこうした 点 を 考 慮 した 上 で 実 質 的 には 傘 下 の 優 良 企 業 を 含 めて グループ 全 体 としてどの ように 債 務 再 編 等 を 行 っていくかを 検 討 せざるを 得 ないであろう 5.アブダビの 支 援 ドバイの 債 務 再 編 には 巨 額 の 資 産 を 有 するアブダビの 支 援 が 不 可 欠 である とも 言 われ アブダビの 支 援 に 対 する 期 待 も 高 い これまでのドバイ 金 融 支 援 基 金 150 億 ドルも 実 質 的 にはアブダビが 負 担 した ものである 今 回 のドバイ ショックに 対 して アブダビは ドバイの 債 務 内 容 を 精 査 した 上 で 時 期 や 支 援 対 象 を 決 定 するとの 表 明 を 行 ったが 同 時 に 債 務 の 全 面 的 な 引 き 受 けは 否 定 している UAE は 各 首 長 国 の 独 立 性 が 強 く アブダビもドバイの 内 実 を 詳 細 には 把 握 し ていない 可 能 性 が 高 い このため 前 述 のような 表 明 となったものと 推 測 される アブダビの 銀 行 のDubai Worldをはじめとしたドバイに 対 するエクスポージ ャーは 大 きく ドバイの 債 務 再 編 はアブダビにも 大 きな 影 響 を 及 ぼす このた めアブダビはドバイを 支 援 せざるを 得 ない 立 場 にあると 言 える 今 後 アブダ 6
ビがどのような 支 援 を 表 明 するかが 注 目 されるとともに それによってアブダ ビのUAEにおける 位 置 付 けがどのように 変 化 していくのか UAEとしての 一 体 性 が 強 まるのかが 興 味 あるところとなろう 8 ドバイ ショックの 対 外 的 な 影 響 は 限 定 的 であり これが 世 界 金 融 危 機 など に 波 及 していく 可 能 性 は 低 い 一 方 で UAE の 特 に 金 融 部 門 に 与 える 影 響 今 後 のドバイの 資 金 調 達 に 対 する 影 響 は 大 きなものである しかしドバイ ショックがドバイ 企 業 の 財 務 内 容 などの 透 明 性 を 高 める 契 機 となれば ドバイの 中 東 地 域 のハブとしての 経 済 戦 略 は 成 功 を 収 めており そ の 機 能 重 要 性 は 変 わらないとみられることから 再 び 今 度 は より 強 い 基 盤 を 持 ったドバイ ブームを 引 き 起 こす 可 能 性 も 期 待 されよう 1 Dubai World は Dubai Holdings Investment Corporation of Dubai と 並 ぶドバイの 国 有 3 大 持 株 会 社 である Nakheel 社 は Dubai World の 傘 下 にあり パーム ジュメイラ ザ ワー ルドなどの 海 上 不 動 産 の 開 発 を 進 めている 主 に 陸 上 での 開 発 を 行 う 陸 の Emaar 社 に 対 し て 海 の Nakeel 社 と 称 されるドバイを 代 表 する 不 動 産 開 発 会 社 である なお Dubai World Nakheel 社 ともに 未 上 場 また 債 務 返 済 猶 予 要 請 発 表 前 の 11 月 20 日 には ドバイ 首 長 が 上 記 3 社 を 含 む 主 要 な 国 営 企 業 トップの 大 幅 な 刷 新 を 発 表 している これはドバイの 国 営 企 業 再 編 が 進 められてい るとともに 今 回 の 債 務 返 済 猶 予 要 請 発 表 に 繋 がる 布 石 であったともみられる 2 返 済 猶 予 要 請 とともに 米 コンサルティング 会 社 デロイト 社 の 助 力 を 得 て Dubai World の 再 編 を 進 めることも 発 表 された 3 本 稿 では 以 下 銀 行 部 門 に 関 する 影 響 を 述 べるが 銀 行 部 門 以 外 への 影 響 さらには 信 用 不 安 が 一 部 新 興 国 に 波 及 する 懸 念 なども 指 摘 されている Dubai World は 傘 下 企 業 が 多 くの 海 外 資 産 を 所 有 しており 再 編 に 当 たって 資 産 処 分 を 行 うのではないかとの 憶 測 も 伝 えられる 保 有 優 良 不 動 産 の 処 分 保 有 株 式 の 売 却 などが 不 動 産 市 場 や 株 式 市 場 に 与 える 影 響 海 外 で 実 施 しているプロジェクト( 米 国 ラスベガス での 大 型 複 合 施 設 の 建 設 など)の 行 方 が 注 目 されている さらに UAE では 多 くの 海 外 労 働 者 が 建 設 作 業 等 に 従 事 しているが 犠 牲 祭 休 暇 で 帰 国 したインド 人 労 働 者 が 解 雇 再 渡 航 に 及 ばずとの 通 知 を 受 け ビザも 取 り 消 されたなどの 事 例 も 出 ている 南 アジア 諸 国 を 中 心 に UAE からの 郷 里 送 金 が 経 済 の 大 きな 支 えとなっ ている 地 域 もあり ドバイ ショックの 間 接 的 な 影 響 も 出 てくるものと 予 想 される 4 Nakheel 債 はイスラム 債 (スクーク)であり 同 債 券 がデフォルトとなった 場 合 には そ の 処 理 がどうなるかはスクーク 市 場 の 今 後 にとっても 注 目 されるものである Nakheelスク ークはリース 形 態 をとるイジャラ スクークであり 広 く 採 用 されるスクークの 形 態 であ ること 大 型 のスクークであり 投 資 家 も 多 いことから 同 債 の 取 り 扱 いが 今 後 のスクー ク 市 場 に 与 える 影 響 も 大 きなものとなることも 予 想 される なお スクークの 問 題 につい ては 拙 著 国 際 金 融 トピックスNo.172 視 界 不 透 明 なイスラム 債 券 (スクーク) 市 場 (2009 年 8 月 13 日 ) 参 照 (http://www.iima.or.jp/topics/2009/data/172.pdf) 5 ドバイ ショックを 受 けて バーレーンの Gulf International Bank は 債 券 発 行 の 延 期 を 決 定 した 40 億 ドルの 中 期 債 発 行 プログラムに 基 づくものであり 事 前 の 応 募 は 発 行 予 定 額 のほぼ 2 倍 に 上 るものであった ドバイ ショックによる 市 場 の 混 乱 が 落 ち 着 いた 後 に 7
発 行 を 延 期 する 6 これとは 反 対 に 中 東 湾 岸 諸 国 の 銀 行 は 総 資 産 規 模 が 小 さいため ドバイ ショックに よる 影 響 も 相 対 的 に 大 きなものとなる 7 ドバイ ショック 発 生 後 も Dubai Electricity & Water Authority は 2010 年 第 1 四 半 期 の 起 債 (10~20 億 ドル)の 計 画 を 予 定 通 り 進 めている 但 し この 起 債 については 明 確 な 政 府 保 証 を 付 与 している 今 後 は 少 なくとも 明 確 な 政 府 保 証 を 付 与 しないと 企 業 は 資 金 調 達 が 困 難 となることも 予 想 されよう なお Dubai World は 国 営 投 資 会 社 であるため 投 資 家 は 暗 黙 の 政 府 保 証 と 考 えていたが ドバイ 政 府 は Dubai World の 債 務 保 証 はしていないと 表 明 している 8 アブダビのドバイ 支 援 に 関 しては 米 国 からの 圧 力 があるとみる 現 地 の 報 道 もある ア ブダビは 脱 石 油 を 急 速 に 進 めており 二 酸 化 炭 素 排 出 ゼロの 環 境 都 市 マスダール シティ 計 画 も 進 めている 石 油 は 輸 出 商 品 に 充 て 自 国 では 石 油 に 頼 らないエネルギー 体 制 を 構 築 するのが 目 標 である 原 子 力 発 電 にも 力 を 入 れており 2017 年 には 中 東 湾 岸 諸 国 で 最 初 の 原 子 力 発 電 所 を 稼 働 する 計 画 である しかしそのためには 欧 米 諸 国 からの 原 子 力 発 電 に 関 する 機 器 や 技 術 を 導 入 せねばならない 一 方 ドバイは 歴 史 的 にイランとの 関 係 が 深 く イランとは 良 好 な 外 交 通 商 関 係 を 維 持 している ドバイは 中 東 地 域 のハブ 的 役 割 を 担 っ ているが イラン 経 由 でパキスタンや 中 央 アジア 諸 国 へ 輸 出 を 行 い 一 方 イランからは 天 然 ガスをはじめ 多 くの 商 品 を 輸 入 している ドバイにはイラン 貿 易 促 進 センターも 設 置 されており ドバイはイランが 対 外 取 引 を 行 う 重 要 な 拠 点 となっている このため 核 問 題 でイランへの 制 裁 を 強 める 米 国 にとっては いかにドバイに 圧 力 を 掛 けるかが 課 題 とな っており 原 子 力 発 電 の 導 入 を 目 指 すアブダビに 対 して ドバイを 抑 えるように 要 請 して いるというものである またアブダビもドバイの 成 功 を 羨 んでおり 出 来 ればドバイの 役 割 を 手 中 にしたいとの 意 向 があるとも 言 われている ドバイの 支 援 に 当 たっては アブダビはエミレーツ 航 空 ドバイ ポーツ ワールド ドバイ アルミニウムなどの 優 良 政 府 系 企 業 の 株 式 を 担 保 に 入 れることを 要 求 しているとの 報 道 もある 以 上 当 資 料 は 情 報 提 供 のみを 目 的 として 作 成 されたものであり 何 らかの 行 動 を 勧 誘 するものではありませ ん ご 利 用 に 関 しては すべてお 客 様 御 自 身 でご 判 断 下 さいますよう 宜 しくお 願 い 申 し 上 げます 当 資 料 は 信 頼 できると 思 われる 情 報 に 基 づいて 作 成 されていますが その 正 確 性 を 保 証 するものではあり ません 内 容 は 予 告 なしに 変 更 することがありますので 予 めご 了 承 下 さい また 当 資 料 は 著 作 物 で あり 著 作 権 法 により 保 護 されております 全 文 または 一 部 を 転 載 する 場 合 は 出 所 を 明 記 してください Copyright 2009 Institute for International Monetary Affairs( 財 団 法 人 国 際 通 貨 研 究 所 ) All rights reserved. Except for brief quotations embodied in articles and reviews, no part of this publication may be reproduced in any form or by any means, including photocopy, without permission from the Institute for International Monetary Affairs. Address: 3-2, Nihombashi Hongokucho 1-Chome, Chuo-ku, Tokyo 103-0021, Japan Telephone: 81-3-3245-6934, Facsimile: 81-3-3231-5422 103-0021 東 京 都 中 央 区 日 本 橋 本 石 町 1-3-2 電 話 :03-3235-6934( 代 )ファックス:03-3231-5422 e-mail: admin@iima.or.jp URL: http://www.iima.or.jp 8