第 83 回 春 季 全 国 大 会 学 会 報 告 論 文 外 国 人 株 主 の 増 大 が 雇 用 と 配 当 に 及 ぼす 影 響
外 国 人 株 主 の 増 大 が 雇 用 と 配 当 に 及 ぼす 影 響 壷 内 慎 二 金 沢 星 稜 大 学 1.はじめに 日 本 の 株 式 市 場 では 1990 年 代 2000 年 代 を 通 じて 外 国 人 株 主 の 株 式 保 有 が 増 加 している 図 1 投 資 部 門 別 株 式 保 有 比 率 の 推 移 は 東 京 証 券 取 引 所 発 表 の 投 資 部 門 別 保 有 比 率 を 表 したものである 1990 年 度 外 国 人 株 主 の 保 有 比 率 は 6%であったが この 20 年 間 一 貫 して 保 有 比 率 を 伸 ばし 2013 年 には 30.8%に 達 している 一 方 日 本 企 業 による 株 式 保 有 は 低 下 している 1990 年 度 金 融 機 関 及 び 事 業 法 人 の 保 有 比 率 は 両 者 合 わせて 73.1%( 金 融 機 関 43% 事 業 法 人 30.1%)であったが この 20 年 間 で 48%( 金 融 機 関 26.7% 事 業 法 人 21.3%)まで 減 少 している 2013 年 の 11 兆 円 まで 一 貫 して 増 加 している 一 方 企 業 の 雇 用 状 況 も 変 化 している 1997 年 の 銀 行 危 機 以 降 日 本 企 業 の 雇 用 調 整 が 進 んだ 1998 年 以 前 と 以 後 それぞれ 10 年 間 の 雇 用 調 整 速 度 の 変 化 率 を 比 較 し た 研 究 によると 1997 年 以 前 全 産 業 で 4.05%だったが 1998 年 以 降 では 6.41%と 2.36 ポイント 上 昇 している 2 ) この 数 値 の 上 昇 は 雇 用 調 整 が 加 速 していることを 示 して いる 図 3 は 雇 用 と 給 与 の 推 移 を 現 した 図 である 雇 用 を 年 間 月 平 均 人 員 で 見 れば 2008 年 度 までは 減 少 傾 向 にある 2010 年 度 から 2013 年 度 までは 雇 用 が 増 加 し ているが 2004 年 度 の 水 準 には 達 していない(2004 年 度 の 約 920 万 人 に 対 して 2010 年 度 は 約 840 万 人 2013 年 度 は 約 900 万 人 ) (%) 50.0 40.0 図 1 投 資 部 門 別 株 式 保 有 比 率 の 推 移 (10 億 円 ) 1,500 1,000 図 2 配 当 総 額 の 推 移 30.0 20.0 10.0 0.0 199019921994199619982000200220042006200820102012 金 融 機 関 事 業 法 人 等 外 国 法 人 等 個 人 その 他 ( 出 所 ) 東 京 証 券 取 引 所 投 資 部 門 別 株 式 保 有 比 率 の 推 移 より 作 成 このような 外 国 人 投 資 家 の 増 加 日 本 の 金 融 機 関 や 事 業 法 人 の 保 有 比 率 の 低 下 に 伴 って 以 前 よりも 株 主 重 視 の 経 営 に 変 わりつつある その 一 つが 配 当 である 図 2 配 当 総 額 の 推 移 は 資 本 金 10 億 円 以 上 の 企 業 について 2004 年 度 から 2013 年 度 の 配 当 の 推 移 を 示 している 1) 2004 年 には 約 5 兆 円 であったが 2006 年 に 約 12 兆 円 ま で 増 加 している 2008 年 にはリーマンショックの 影 響 を 受 けたとはいえ 約 9 兆 円 あり 2009 年 の 7 兆 円 から 500 0 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 ( 出 所 ) 財 務 相 法 人 企 業 統 計 より 作 成 図 3 雇 用 と 給 与 ( 千 人 ) ( 千 円 ) 9,500 5,600 5,400 9,000 5,200 8,500 5,000 8,000 4,800 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 年 間 月 平 均 人 員 平 均 給 与 ( 出 所 ) 国 税 庁 民 間 給 与 実 態 統 計 調 査 より 作 成 ( 注 ) 資 本 金 10 億 円 以 上 の 企 業 が 対 象 1-5-1
しかし このような 配 当 の 増 加 雇 用 の 減 少 が 企 業 に 一 様 に 生 じたわけではない 外 国 人 株 主 の 増 加 にも 関 わ らず 雇 用 調 整 速 度 の 遅 い 企 業 も 存 在 している 特 に 製 造 業 企 業 では 内 部 留 保 金 の 大 きさ 企 業 特 殊 能 力 ( 熟 練 技 能 )の 重 要 性 から 雇 用 調 整 速 度 が 低 下 する 可 能 性 が 報 告 されている 3) 図 3 では 平 均 給 与 の 推 移 も 示 している 伝 統 的 な 日 本 的 雇 用 においては 不 況 に 陥 った 時 給 与 の 削 減 等 で 雇 用 調 整 を 回 避 することが 知 られている たと えば 図 3では2008 年 には 雇 用 が 減 少 する 一 方 で 給 与 が 減 少 していないことが 見 て 取 れる ところが 2009 年 以 降 はそのような 関 係 がなくなっているように 見 受 けられる そこで 本 稿 では 企 業 がある 特 殊 な 状 況 に 陥 ったとき つまり 経 常 利 益 が 赤 字 になったとき 経 営 者 は 株 主 の 利 益 を 優 先 するのか 雇 用 を 守 るのか それとも 株 主 の 利 益 を 重 視 しながらも 雇 用 を 守 り 給 与 の 削 減 で 対 処 す るのか そしてそれらの 判 断 は 外 国 人 投 資 家 の 大 きさに 影 響 されるのかを 明 らかにしたい 2. 先 行 研 究 1990 年 代 の 長 期 不 況 金 融 機 関 の 株 式 所 有 比 率 の 低 下 と 外 国 人 株 主 の 株 式 所 有 比 率 の 上 昇 に 伴 い 会 社 は 誰 の ために 経 営 されるべきか といった 経 営 者 に 対 する 規 律 付 けの 観 点 から これまで 多 くの 議 論 がなされてきた 3) このようなコーポレート ガバナンスの 議 論 では 従 業 員 の 利 益 を 重 視 すべきであるといった 従 業 員 利 益 最 大 化 論 株 主 の 利 益 を 重 視 すべきである 株 主 利 益 最 大 化 論 に 大 別 される 4) 従 業 員 の 利 益 を 重 視 した 経 営 では 配 当 やキャ ピタルゲインなどの 株 主 の 利 益 よりも 従 業 員 の 雇 用 や 給 与 の 安 定 を 重 視 し 株 主 を 重 視 した 経 営 では 従 業 員 の 雇 用 や 給 与 の 安 定 よりも 配 当 やキャピタルゲインを 重 視 す ることとなる 一 般 的 に 日 本 の 企 業 は 銀 行 を 中 心 とし た 株 式 持 合 いによって 株 主 の 発 言 力 が 抑 えられ 株 主 の 利 益 を 軽 視 し 従 業 員 の 利 益 を 優 先 してきたと 認 識 されて きた しかし 株 式 持 合 いの 解 消 外 国 人 や 個 人 投 資 家 の 増 加 に 伴 って 株 主 の 利 益 を 重 視 すべきといった 株 主 の 利 益 重 視 の 経 営 が 求 められている 株 主 重 視 の 経 営 であ れば 効 率 の 低 い 資 産 生 産 性 の 低 い 従 業 員 はリストラ の 対 象 となるべきといった 考 え 方 が 強 くなる このよう なコーポレート ガバナンス 論 と 1990 年 代 からの 外 国 人 株 主 の 増 加 とを 考 え 合 わせれば 外 国 人 株 主 が 増 えるこ とによって 日 本 のコーポレート ガバナンスが 従 業 員 の 利 益 重 視 から 株 主 の 利 益 重 視 へと 変 化 し 株 価 や 配 当 を より 重 視 すると 同 時 に 経 営 効 率 化 ために 従 業 員 の 雇 用 が 不 安 定 化 する 可 能 性 が 高 まる 実 際 日 本 企 業 につい て 外 国 人 株 主 の 増 加 で 株 主 の 利 益 が 重 視 され 雇 用 調 整 が 柔 軟 に 行 われるようになったことを 指 摘 する 研 究 もあ る 5 ) ところが 日 本 的 ガバナンスの 議 論 において Aoki (1994)は あるタイプのガバナンスとそのガバナンス に 整 合 的 な 雇 用 制 度 があることを 考 慮 すべきであると 指 摘 する Jackson and Miyajima(2007)や 宮 島 (2009) はメインバンクと 雇 用 制 度 との 間 の 補 完 性 など 一 部 の 制 度 間 の 補 完 性 が 必 ずしも 固 定 的 でないことや 各 サブ システム 間 で 同 時 に 変 化 していることを 指 摘 しつつ 雇 用 システムの 面 では 基 本 的 な 変 化 ではなくシステムの 修 正 が 行 われたことを 株 式 所 有 構 造 雇 用 システムデー タ 企 業 のパフォーマンスデータを 用 いたクラスター 分 析 から 明 らかにしている そして 今 日 の 日 本 経 済 にお いて 支 配 的 な 地 位 にある 企 業 は 市 場 ベースの 金 融 と 暗 黙 の 関 係 ベースの 内 部 組 織 ( 長 期 雇 用 )が 結 合 したハイ ブリッド 構 造 を 持 つとする 6) 日 本 企 業 を 対 象 とした 分 析 結 果 から このハイブリッド 構 造 を 持 つ 企 業 では 金 融 機 関 のガバナンス 低 下 にもかかわらず 長 期 雇 用 制 度 が 維 持 されており 雇 用 調 整 速 度 は 上 昇 していないと 結 論 している 株 主 の 利 益 重 視 か 従 業 員 の 利 益 重 視 かについて 配 当 と 雇 用 との 関 連 を 同 時 に 扱 った 研 究 として 久 保 (2011) と 佐 々 木 花 枝 (2012)がある 久 保 は 外 国 人 株 主 の 増 加 取 締 役 改 革 が 配 当 政 策 と 雇 用 調 整 に 与 える 影 響 に 焦 点 を 当 てている 1996 年 から 2008 年 に 3 期 連 続 経 常 赤 字 企 業 143 社 を 対 象 に 企 業 が 危 機 に 陥 ったとき 配 当 を 削 減 するのか 雇 用 を 削 減 するのかを 分 析 した 結 果 外 国 人 持 ち 株 比 率 が 高 く 取 締 役 改 革 を 行 った 企 業 では 株 主 の 利 益 を 重 視 する 傾 向 にあることを 明 らかにしている 佐 々 木 花 枝 (2012)は 1999 年 から 2011 年 に 3 期 連 続 経 常 赤 字 企 業 1,379 社 を 対 象 に 配 当 政 策 と 雇 用 政 策 に 従 業 員 の 賃 金 を 加 え 三 者 の 関 係 を 同 時 に 検 証 している 佐 々 木 花 枝 は 配 当 と 雇 用 に 正 の 相 関 を 雇 用 と 賃 金 の 間 に 負 の 相 関 を 見 出 し 企 業 が 危 機 的 な 状 況 に 陥 った 場 合 配 当 と 賃 金 を 削 減 し 雇 用 を 維 持 しようとする 損 失 の 共 有 が 行 われていると 報 告 している 7 ) これは 株 主 と 従 業 員 の 共 存 関 係 を 示 唆 する 結 果 であり 宮 島 が 指 摘 するハイブリッド 型 の 経 営 であると 考 えられるが 外 国 人 持 株 比 率 が 高 い 企 業 の 場 合 この 関 係 が 弱 まること すなわち 配 当 の 削 減 よりも 雇 用 や 賃 金 の 削 減 を 優 先 す ることを 示 唆 している 1-5-2
次 節 では 外 国 人 投 資 家 の 増 大 に 伴 ってガバナンスが 株 主 重 視 になっているのか 特 に 損 失 を 発 生 させた 企 業 が 配 当 削 減 を 優 先 ( 株 主 重 視 )するのか 雇 用 削 減 を 優 先 ( 従 業 員 重 視 )するのか それとも 損 失 の 共 有 が 見 られるのかを 確 かめる 分 析 の 際 佐 々 木 花 枝 と 同 様 に 配 当 賃 金 雇 用 との 関 係 を 見 るが 久 保 や 佐 々 木 花 枝 の 回 帰 分 析 とは 異 なり 企 業 の 特 質 をより 詳 細 に 把 握 するため 経 営 学 的 なアプローチを 用 いて 分 析 する 3. 分 析 本 節 の 目 的 は 第 一 に 二 期 連 続 赤 字 企 業 の 配 当 と 雇 用 平 均 給 与 の 変 化 を 概 観 し それらの 変 化 が 外 国 人 株 主 の 増 大 に 影 響 を 受 けているかどうかを 検 証 することである そして 第 二 に 外 国 人 株 主 が 増 えても 株 主 の 利 益 優 先 にな りすぎず 佐 々 木 花 枝 で 指 摘 される 損 失 の 共 有 を 図 っているかどうかを 検 証 することである (1)データについて サンプルとして 取 り 上 げる 企 業 は 2004 年 度 から 2011 年 度 に 二 期 連 続 経 常 赤 字 ( 単 体 )を 計 上 した 東 京 証 券 取 引 所 一 部 上 場 企 業 のうち 金 融 機 関 を 除 く 49 社 である こ れらの 財 務 データについては 日 経 バリューサーチの 財 務 データから 得 た サンプル 企 業 について 赤 字 2 期 を 含 む 5 期 について 配 当 雇 用 平 均 給 与 の 関 係 をグラフで 示 す その 際 赤 字 初 年 度 の 1 期 前 を t-1 赤 字 初 年 度 を t 二 期 目 の 赤 字 をt+1と 表 す 2 期 連 続 赤 字 後 2 期 分 (t+3) まで 対 象 とするのは 雇 用 調 整 にタイムラグが 存 在 する ためである 企 業 は 生 産 が 減 少 してもすぐには 雇 用 を 減 少 させず 増 加 させる 場 合 でもすぐに 雇 用 を 増 加 させな いため 生 産 変 動 に 一 定 のタイムラグが 存 在 することが 知 られている 8) 各 ケースについては 配 当 の 推 移 を 一 株 当 たり 配 当 ( 累 積 )で 雇 用 の 推 移 を 単 独 従 業 員 数 で 給 与 を 単 独 平 均 年 間 給 与 で 表 している 次 に サンプル 企 業 全 体 の 傾 向 を 見 るために 変 化 率 をとった 配 当 については 配 当 総 額 で 算 出 している また 前 期 無 配 であった 企 業 が 復 配 し た 場 合 計 算 上 変 化 率 は 100%とした 9 ) また 給 与 は 一 人 当 たり 平 均 給 与 に 期 末 の 従 業 員 数 を 乗 じた 数 値 を 用 い た 各 変 化 率 は 以 下 のとおりである 配 当 の 変 化 率 (%)=( 今 期 の 配 当 総 額 - 前 期 の 配 当 総 額 )/ 前 期 の 配 当 総 額 雇 用 の 変 化 率 (%)=( 今 期 末 従 業 員 数 - 前 期 末 従 業 員 数 )/ 前 期 末 従 業 員 数 給 与 の 変 化 率 (%)=( 今 期 の 給 与 総 額 - 前 期 の 給 与 総 額 )/ 前 期 の 給 与 総 額 まず 株 主 と 従 業 員 のどちらかの 利 益 を 優 先 するのか についてサンプル 全 体 の 傾 向 を 概 観 する 表 1 配 当 雇 用 給 与 の 変 化 はサンプル 企 業 について 二 期 連 続 赤 字 1 期 前 から 5 年 分 の 配 当 雇 用 給 与 の 変 化 を 変 化 率 で 表 したものである 配 当 について 赤 字 1 期 目 (t)にマイナ ス 2.5 2 期 目 (t+1)に 45.3%のマイナスであった 10 ) 雇 用 についても 赤 字 1 期 目 よりも 赤 字 2 期 目 のほうが 変 化 率 は 大 きい(それぞれマイナス 0.3% マイナス 1.7%) 給 与 については 1 期 目 に 2.8%のマイナス 2 期 目 に 9.4% のマイナスとなっている このように 変 化 率 で 見 ると 配 当 の 増 減 率 > 給 与 の 削 減 率 > 雇 用 の 削 減 率 となり 企 業 が 損 失 を 発 生 させた 場 合 雇 用 を 削 減 するよりも まず 配 当 と 給 与 を 削 減 して いることがみてとれる 全 体 の 傾 向 として 佐 々 木 花 枝 (2012)が 指 摘 するような 株 主 と 従 業 員 が 損 失 の 共 有 を 図 っていることが 示 唆 される 表 1 配 当 雇 用 給 与 の 変 化 (%) 年 度 配 当 変 化 率 従 業 員 数 変 化 率 給 与 変 化 率 t-1 5.0 2.3 1.5 t -2.5-0.3-2.8 t+1-45.3-1.7-9.4 t+2-4.8-0.4 0.2 t+3 11.3-2.6 2.5 ( 注 ) 塗 りつぶしは 赤 字 年 度 (2)ケース 次 に 個 別 企 業 のケースを 取 り 上 げる まず 経 常 赤 字 にも 関 わらず 配 当 を 下 げず(あるいは 無 配 にせず) 従 業 員 の 雇 用 給 与 を 下 げるケースである このような 企 業 は 株 主 の 利 益 を 優 先 する 企 業 として 分 類 できる たと えば 図 4 ケース 1( 日 産 自 動 車 )がこのケースにあた る 日 産 自 動 車 は 2010 年 2011 年 に 経 常 赤 字 であった しかし 一 株 あたりの 配 当 を 2010 年 ( 赤 字 1 期 目 )に 10 円 2011 年 ( 赤 字 2 期 目 )に 20 円 と 増 加 させている 雇 用 について 赤 字 1 期 目 は 29,878 人 から 28,403(マイ ナス 5%)へ 赤 字 2 期 目 に 24,240 人 ( 前 年 比 マイナス 15%)へと 雇 用 を 減 少 させている 給 与 では 平 均 給 与 は 1-5-3
下 げていないが 給 与 総 額 は 赤 字 1 期 目 に 4% 増 加 して いるが 赤 字 2 期 目 にマイナス 15%であった また 外 国 人 株 主 の 比 率 は 5 年 平 均 で 70%を 超 えている このケ ースから 外 国 人 株 主 の 比 率 が 高 ければ 株 主 優 先 の 経 営 であることが 示 唆 される 図 5 ケース( 日 立 製 作 所 ) 人 ) 配 当 と 雇 用 60,000 40,000 20,000 15.00 1 5.00 図 4 ケース( 日 産 自 動 車 ) 0 2005 2006 2007 2008 2009 ( 人 ) 配 当 と 雇 用 40,000 20,000 4 2 一 株 当 たり 配 当 一 株 当 たり 配 当 ( 千 円 ) 配 当 と 給 与 8,000 15.00 0 2009 2010 2011 2012 2013 単 独 従 業 員 数 ( 人 ) 一 株 当 たり 配 当 千 円 ) 10,000 配 当 と 給 与 4 5,000 2 0 2009 2010 2011 2012 2013 単 独 平 均 年 間 給 与 一 株 当 たり 配 当 第 二 は 配 当 を 下 げ 従 業 員 の 雇 用 給 与 を 確 保 する 従 業 員 の 利 益 を 優 先 したケースである 図 5 ケース( 日 立 製 作 所 ) がこのケースの 典 型 となる 日 立 製 作 所 は 2006 年 2007 年 に 経 常 赤 字 であった そのため 一 株 当 たり 配 当 を 赤 字 1 期 目 では 11 円 から 6 円 に 減 配 ( 総 額 変 化 率 で 前 年 比 22%のマイナス) 2 赤 字 2 期 目 は 6 円 ( 前 年 比 29%のマイナス)としたが その 後 も 減 配 し 続 けた し かし 雇 用 は 赤 字 1 期 目 に 38,000 人 から 37,143 人 ( 前 年 比 マイナス1%) 2 期 目 に37,143 人 ( 前 年 比 マイナス2%) 給 与 総 額 は 赤 字 1 期 目 には 前 年 比 0% 2 期 目 にも 前 年 比 マイナス 2%と 変 化 はわずかであった 外 国 人 株 主 の 比 率 は 5 年 平 均 で 約 40%であった 7,500 1 7,000 5.00 6,500 2005 2006 2007 2008 2009 単 独 平 均 年 間 給 与 一 株 当 たり 配 当 第 三 は 赤 字 に 陥 った 場 合 配 当 給 与 を 下 げ 雇 用 を 維 持 する 損 失 の 共 有 を 図 るケースである 図 6 ケー ス( 富 士 重 工 業 )がこのケースに 当 たると 思 われる 赤 字 第 1 期 目 に 一 株 当 たりの 配 当 を 9 円 から 4.5 円 赤 字 2 期 目 には 一 株 あたり 0 円 に 減 配 している そして 日 立 製 作 所 のケースと 異 なり 経 常 黒 字 になった 次 年 度 には 再 び 一 株 当 たり 9 円 に 復 配 している 雇 用 については 赤 字 1 期 目 11,909 人 から 12,137 人 ( 前 年 比 プラス 2%) 赤 字 2 期 目 に 12,483 人 (プラス 3%)と 雇 用 を 増 加 させてい る 給 与 総 額 については 赤 字 1 期 目 で 前 年 比 1%の 増 加 2 期 目 でマイナス 4%であった 外 国 人 株 主 の 比 率 はこの 期 間 平 均 で 30%であった このケースでは 赤 字 1 期 目 に は 無 配 にせず また 従 業 員 も 削 減 しなかった そして 赤 字 2 期 目 には 無 配 に 雇 用 を 削 減 せず 給 与 を 削 減 してい た したがって 株 主 と 従 業 員 が 損 失 を 共 有 しているこ とがうかがえる 図 6 ケース( 富 士 重 工 業 ) ( 人 ) 配 当 と 雇 用 13,000 1 12,500 12,000 11,500 5.00 2007 2008 2009 2010 2011 単 独 従 業 員 数 ( 人 ) 一 株 当 たり 配 当 1-5-4
6,500 6,000 5,500 このように 企 業 が 2 期 連 続 赤 字 を 計 上 するような 危 機 的 な 状 況 に 陥 ったとき 採 用 する 経 営 政 策 に 違 いがみ られる 株 主 の 利 益 を 重 視 する 企 業 従 業 員 の 利 益 を 重 視 する 企 業 損 失 を 共 有 する 企 業 である 次 節 では こ れらの 違 いは はじめに で 観 察 した 外 国 人 投 資 家 の 増 加 に 影 響 されるのかを 検 証 する (3) 株 主 の 影 響 ここでは 前 節 でみた 配 当 や 雇 用 給 与 の 関 係 また 損 失 の 共 有 が 株 主 の 所 有 比 率 によって 影 響 されるのかを 検 証 する 配 当 と 給 与 2007 2008 2009 2010 2011 サンプル 企 業 を 外 国 人 持 ち 株 比 率 の 高 い 順 に 序 列 化 し たところ 外 国 人 持 ち 株 比 率 上 位 4 分 の 1 の 企 業 群 では 外 国 人 株 主 の 持 ち 株 比 率 がそれぞれ30%を 超 しているの に 対 して 事 業 会 社 の 持 ち 株 比 率 が 低 い 傾 向 にあった 一 方 外 国 人 持 ち 株 比 率 下 位 4 分 の 1 の 企 業 群 では 外 国 人 投 資 家 の 持 ち 株 比 率 は 平 均 して 3% 事 業 会 社 と 個 人 の 持 ち 株 比 率 が 高 い 傾 向 にあった したがって 配 当 や 雇 用 政 策 に 与 える 外 国 人 株 主 の 影 響 はこれらの 企 業 群 の 指 標 を 比 較 することで 明 らかになると 考 えられる 表 2 外 国 人 投 資 家 の 影 響 ( 注 ) 塗 りつぶしは 赤 字 年 度 1 5.00 単 独 平 均 年 間 給 与 一 株 当 たり 配 当 配 当 変 化 率 従 業 員 数 変 化 率 給 与 変 化 率 年 度 上 位 25% 下 位 25% 上 位 25% 下 位 25% 上 位 25% 下 位 25% t-1-1.7 11.3 1.8 0.4 0.9-1.2 t 11.5-9.6-0.3-2.8-2.3-5.9 t+1-21.8-59.3-3.8 0.2-9.0-9.8 t+2 6.1-15.0 5.5-6.5 6.0-6.9 t+3 1.7 2.2-3.6-4.1 0.6 2.4 表 2 はサンプル 企 業 について 外 国 人 株 主 の 保 有 比 率 上 位 4 分 の 1( 上 位 25%)の 企 業 と 下 位 4 分 の 1( 下 位 25%)の 企 業 に 分 け 配 当 従 業 員 数 給 与 の 変 化 率 の 平 均 を 表 したものである 上 位 25%の 企 業 群 では 配 当 について サンプル 全 体 では 赤 字 1 期 目 マイナス 2.5% 2 期 目 マイナス 45.3%で あったが 上 位 企 業 では 同 期 間 でプラス 11.5% マイナ ス 21.8%となり 配 当 の 削 減 が 小 さくなっている 雇 用 について 赤 字 1 期 目 は 全 体 と 変 わらずマイナス 0.3%で あったが 赤 字 2 期 目 は 全 体 でマイナス 1.7%からマイナ ス 3.8%であった これは 雇 用 の 削 減 幅 が 大 きいことを 意 味 する 給 与 について 赤 字 1 期 目 はマイナス 2.8%に 対 してマイナス 2.3% 2 期 目 はマイナス 9.4%に 対 してマ イナス 9.0%となり 配 当 や 雇 用 ほどの 差 はない 全 体 の 傾 向 と 上 位 25%の 企 業 群 を 比 較 したこれらの 傾 向 から 外 国 人 株 主 の 比 率 が 高 いほど 配 当 の 削 減 率 は 小 さく 雇 用 の 削 減 率 が 大 きい したがって より 株 主 重 視 の 経 営 になっているといえるだろう 一 方 下 位 25%の 企 業 群 では 赤 字 1 期 目 ではサンプ ル 全 体 がマイナス 2.5 に 対 しマイナス 9.6% 2 期 目 では 全 体 のマイナス 45.3%に 対 しマイナス 59.3%と 配 当 の 削 減 が 大 きくなっている 雇 用 については 1 期 目 マイナス 0.3%に 対 しマイナス 2.8% 2 期 目 ではマイナス 1.7%に 対 し プラス 0.2%と 1 期 目 に 雇 用 削 減 幅 が 大 きくなって いる 給 与 については 全 体 が 1 期 目 ではマイナス 2.8% に 対 しマイナス 5.9% 2 期 目 ではマイナス 9.4%に 対 し マイナス 9.8%となった 下 位 25%の 企 業 群 については 赤 字 期 間 について 配 当 の 削 減 幅 が 表 1で 示 した 全 体 の 傾 向 よりも 大 きいことから この 意 味 では 従 業 員 の 利 益 を 優 先 する 経 営 であるとい えるかもしれない また 赤 字 2 期 目 には 配 当 を 大 きく 削 減 し さらに 給 与 の 削 減 が 行 われているが 雇 用 削 減 が 行 われていないことから 損 失 の 共 有 の 可 能 性 を 示 す ものとなった しかし 下 位 25%の 企 業 群 では 外 国 人 持 ち 株 比 率 は 平 均 して 3%であるため 外 国 人 投 資 家 の 増 加 の 影 響 は 小 さく 損 失 は 事 業 会 社 との 共 有 と 考 えられる さらに 下 位 25%の 企 業 群 について 株 主 と 従 業 員 が 損 失 を 共 有 しているかを 検 証 した 損 失 の 共 有 の 定 義 は 賃 金 と 雇 用 との 負 の 相 関 配 当 と 賃 金 および 雇 用 との 正 の 相 関 であることから 11) 下 位 25%の 企 業 群 について 変 数 間 の 相 関 を 調 べると 従 業 員 数 変 化 率 と 給 与 変 化 率 に 正 の 強 い 相 関 がみられた(0.76) 定 義 上 はこれらの 相 関 は 負 の 相 関 となるため 株 主 と 従 業 員 とは 損 失 を 共 有 しているといえない また 2 期 連 続 赤 字 のあと( 表 2 では t+2 期 目 )に 下 位 25% 企 業 群 では 従 業 員 数 変 化 率 が マイナス 6.5 となっている これは 雇 用 調 整 にタイムラ グが 存 在 することと 整 合 的 である 1-5-5
下 位 25%の 企 業 群 では 外 国 人 持 ち 株 比 率 の 低 さ 従 業 員 数 変 化 率 と 給 与 変 化 率 との 正 の 相 関 2 期 目 の 赤 字 の 後 の 従 業 員 数 の 減 少 を 考 えると 株 主 の 利 益 重 視 従 業 員 の 利 益 重 視 の 経 営 というよりも 市 場 原 理 に 従 順 な 経 営 を 行 っているといえるだろう 4.おわりに サンプル 企 業 全 体 を 変 化 率 の 平 均 で 見 た 場 合 損 失 を 共 有 しているかに 見 えたが 外 国 人 株 主 の 比 率 が 高 い 企 業 ではこの 関 係 は 崩 れる したがって 外 国 人 株 主 の 比 率 の 高 い 企 業 では 外 国 人 株 主 の 増 大 とともに 株 主 重 視 の 経 営 になっており 外 国 人 株 主 が 低 い 企 業 では 従 業 員 が 重 視 される 傾 向 はみられるものの どちらかといえば 景 気 の 変 動 に 合 わせて 配 当 や 雇 用 を 柔 軟 に 変 えていくこ とが 明 らかとなった この 結 果 は 既 存 研 究 と 同 様 外 国 人 株 主 が 増 加 すると 経 営 は 株 主 の 利 益 を 重 視 するように なるという 主 張 と 整 合 的 である また 佐 々 木 花 枝 (2012) が 主 張 する 損 失 の 共 有 について 経 常 赤 字 2 期 連 続 で 続 いた 企 業 のケースを 見 た 場 合 配 当 および 給 与 を 削 減 し 雇 用 を 守 るという 企 業 は 存 在 した しかし 賃 金 と 雇 用 の 相 関 をみたところ 正 のやや 強 い 相 関 がみられた 損 失 の 共 有 の 定 義 は 賃 金 と 雇 用 との 負 の 相 関 である ことから この 結 果 は 損 失 の 共 有 ではなく 景 気 の 変 動 に 合 わせて 配 当 だけでなく 雇 用 も 柔 軟 に 調 整 し ていることを 意 味 している ただ 個 別 企 業 のケースか らは 損 失 の 共 有 が 見 てとれることもあり 外 国 人 投 資 家 比 率 で 企 業 分 類 するのではなく このような 企 業 を 選 択 し 分 析 していけば 損 失 の 共 有 を 図 る 企 業 の 特 性 ひいては 日 本 的 雇 用 の 新 しい 特 徴 が 見 つかる 可 能 性 があ ることも 示 唆 された これらの 分 析 は 今 後 の 課 題 とした い < 注 > 1) 金 融 保 険 業 を 含 む 全 産 業 が 対 象 2) 壷 内 (2014)を 参 照 3)コーポレート ガバナンスの 包 括 的 な 研 究 として 小 佐 野 (2001) 伊 丹 (2005) 宮 島 (2011)がある 4) 従 業 員 利 益 重 視 株 主 利 益 重 視 以 外 にも 会 社 は 社 会 の 公 器 であるためステイク ホルダーすべての 利 益 を 重 視 すべきといった 考 え 方 もあるが 本 稿 では 扱 わな い 5) 例 えば 富 山 (2001) 野 田 (2008)は 金 融 機 関 の 持 ち 株 比 率 が 低 下 外 国 人 株 主 の 持 ち 株 比 率 が 上 昇 する と 雇 用 調 整 速 度 が 高 まることを 実 証 している また 久 保 (2011)は 配 当 と 雇 用 調 整 の 関 係 から 同 様 の 結 論 を 示 している 6) 宮 島 のクラスター 分 析 による 分 類 では 市 場 ベース( 企 業 金 融 と 所 有 構 造 )と 関 係 ベース( 情 報 シェアリング) の 指 標 から 日 本 の 企 業 経 営 の 進 化 形 をタイプⅠ 市 場 志 向 的 な 金 融 所 有 構 造 と 関 係 志 向 的 な 内 部 組 織 が 結 合 したハイブリッド とタイプⅡ 従 業 員 の 高 度 な 熟 練 に 依 存 するところが 弱 いか 高 度 であるが 汎 用 性 の 高 い スキルに 依 存 に 分 ける 詳 しくは 宮 島 (2009)を 参 照 のこと 7) 佐 々 木 花 枝 (2012)を 参 照 8) 清 家 篤 (2002)では 生 産 変 動 と 雇 用 調 整 とのタイムラ グについて 理 論 的 な 説 明 がなされている 9) 佐 々 木 花 枝 (2012)で 扱 っている 操 作 を 踏 襲 した 10) 内 部 留 保 ( 利 益 剰 余 金 )を 配 当 原 資 としているため 経 常 赤 字 であっても 配 当 していると 考 えられる 11) 佐 々 木 花 枝 (2012)を 参 照 < 参 考 文 献 > 小 佐 野 広 (2001) コーポレート ガバナンスの 経 済 学 日 本 経 済 新 聞 社 小 佐 野 広 (2005) コーポレート ガバナンスと 人 的 資 本 日 本 経 済 新 聞 社 久 保 克 行 (2011) 配 当 政 策 と 雇 用 調 整 - 日 本 企 業 は 株 主 重 視 になってきたのか- 宮 島 英 昭 編 著 日 本 の 企 業 統 治 東 洋 経 済 新 報 社 409-438 ページ 佐 々 木 寿 記 花 枝 英 樹 (2012) 人 的 資 本 と 雇 用 政 策 - 賃 金 雇 用 調 整 が 配 当 政 策 に 与 える 影 響 - 日 本 経 営 財 務 研 究 学 会 第 36 回 全 国 大 会 報 告 論 文 清 家 篤 (2002) 労 働 経 済 東 洋 経 済 新 報 社 壷 内 慎 二 (2014) コーポレート ガバナンスの 変 化 と 雇 用 調 整 金 融 構 造 研 究 金 融 構 造 研 究 会 第 36 号 22-33 ページ 富 山 雅 代 (2001) メインバンク 制 と 企 業 の 雇 用 調 整 日 本 労 働 研 究 雑 誌 488 号 40-51 ページ 野 田 知 彦 (2008) メインバンクはリストラを 促 進 するの か 経 済 分 析 180 号 36-62 ページ 宮 島 英 昭 (2009) 日 本 型 企 業 システムの 多 元 的 進 化 :ハ イブリッドモデルの 可 能 性 RIETI Discussion Paper Series 09-J-017 独 立 行 政 法 人 経 済 産 業 研 究 所 宮 島 英 昭 (2011) 日 本 企 業 統 治 の 進 化 をいかにとらえる 1-5-6
か 危 機 後 の 再 設 計 に 向 けて 宮 島 英 昭 編 著 日 本 の 企 業 統 治 東 洋 経 済 新 報 社 1-70 ページ Aoki, M.(1994) Monitoring Characteristics of the Main Bank Systems," in Aoki, M and H. Patrick eds. The Japanese main bank system: its relevance for developing and transforming, Oxford University Press, Chap. 4, 1994. 1-5-7