平 成 28 年 5 月 30 日 国 土 交 通 省 国 土 技 術 政 策 総 合 研 究 所 国 立 研 究 開 発 法 人 建 築 研 究 所 平 成 28 年 (2016 年 ) 熊 本 地 震 による 建 築 物 等 被 害 第 五 次 調 査 報 告 ( 速 報 ) ( 火 災 被 害 ならびに 建 築 設 備 被 害 に 関 する 調 査 ) 1.はじめに 本 報 告 は, 平 成 28 年 (2016 年 ) 熊 本 地 震 ( 前 震 は 4 月 14 日 21 時 26 分 に 発 生, 本 震 は 4 月 16 日 1 時 25 分 に 発 生 )による 火 災 被 害 ならびに 建 築 設 備 被 害 について 4 月 26 日 から 28 日 にかけて 実 施 した 調 査 の 速 報 である. 火 災 被 害 については,これまでに 16 件 の 地 震 に 起 因 する 火 災 ( 以 下, 地 震 火 災 )の 発 生 が 報 告 されている 1. 本 調 査 では,それらの 概 要 ( 出 火 地 点 や 発 生 日 時, 被 害 程 度 など)に ついて 各 消 防 本 部 への 問 い 合 わせを 行 った 上 で, 熊 本 市 消 防 局 管 内 で 発 生 している 9 件 の 火 災 について,より 詳 細 な 情 報 を 得 るためヒアリング 調 査 ( 対 象 は 熊 本 市 消 防 局 と 火 災 現 場 周 辺 住 民 )と 現 地 調 査 を 行 った. 建 築 設 備 被 害 については, 給 湯 設 備 や 防 災 設 備 の 破 損 による 漏 水 等 の 被 害 情 報 があった 建 築 物 のうち,6 棟 の 建 築 物 の 被 害 発 生 状 況 の 現 地 調 査 を 行 うと 同 時 に, 機 能 継 続 上 の 問 題 について 建 物 管 理 者 を 対 象 とした 聞 き 取 りを 行 った. 以 上 により, 火 災 被 害 ならびに 建 築 設 備 被 害 の 発 生 状 況 を 把 握 し, 今 後 の 詳 細 な 調 査 の 必 要 性 を 検 討 するための 情 報 収 集 を 行 った. 2. 調 査 概 要 本 調 査 は 以 下 の 3 名 で 実 施 した.また, 調 査 概 要 を 表 2-1 に 示 す. 一 部 の 調 査 対 象 施 設 は, 第 二 次 調 査 2 ならびに 第 三 次 調 査 3 でも 調 査 対 象 となっている. 国 土 交 通 省 国 土 技 術 政 策 総 合 研 究 所 建 築 研 究 部 防 火 基 準 研 究 室 主 任 研 究 官 国 立 研 究 開 発 法 人 建 築 研 究 所 住 宅 都 市 研 究 グループ 主 任 研 究 員 防 火 研 究 グループ 主 任 研 究 員 樋 本 圭 佑 岩 見 達 也 西 野 智 研 1
表 2-1 調 査 概 要 調 査 日 調 査 対 象 調 査 分 類 空 港 旅 客 ターミナル( 益 城 町 ) (3) 設 備 被 害 平 成 28 年 4 月 26 日 ( 火 ) 火 災 現 場 ( 益 城 町 ) 火 災 被 害 共 同 住 宅 ( 熊 本 市 中 央 区 ) (2) 設 備 被 害 平 成 28 年 4 月 27 日 ( 水 ) 熊 本 市 消 防 局 ( 熊 本 市 中 央 区 ) 火 災 被 害 病 院 ( 大 津 町 ) 病 院 ( 熊 本 市 東 区 ) (2) 平 成 28 年 4 月 28 日 ( 木 ) 行 政 庁 舎 ( 御 船 町 ) 設 備 被 害 学 校 ( 熊 本 市 中 央 区 ) (2) (2): 第 二 次 調 査 の 調 査 対 象,(3): 第 三 次 調 査 の 調 査 対 象 3. 火 災 被 害 消 防 庁 報 告 1 にある 火 災 の 発 生 状 況 は 表 3-1 に 示 す 通 りである(ただし, 管 轄 内 で 火 災 の 発 生 した 消 防 本 部 についてのみ 示 してある). 各 消 防 本 部 への 事 前 の 問 い 合 わせにより 明 ら かになった 出 火 地 点 を 図 3-1 に 示 す.ここでは,このうち 熊 本 市 消 防 局 管 内 で 発 生 した 火 災 について,ヒアリング 調 査 を 行 った 結 果 と,1 件 の 火 災 について 現 地 調 査 を 行 った 結 果 を 整 理 する.なお, 各 消 防 本 部 による 調 査 は 現 在 も 継 続 中 であり, 本 章 の 内 容 は 今 後 変 更 される 可 能 性 がある. 表 3-1 火 災 の 発 生 状 況 消 防 本 部 管 轄 自 治 体 火 災 件 数 上 益 城 消 防 組 合 消 防 本 部 嘉 島 町, 甲 佐 町, 御 船 町, 山 都 町 1 熊 本 市 消 防 局 熊 本 市, 西 原 村, 益 城 町 9 八 代 広 域 行 政 事 務 組 合 消 防 本 部 氷 川 町, 八 代 市 2 阿 蘇 広 域 行 政 事 務 組 合 消 防 本 部 阿 蘇 市, 南 小 国 町, 小 国 町, 産 山 村, 高 森 町, 南 阿 蘇 村 1 宇 城 広 域 連 合 消 防 本 部 宇 土 市, 宇 城 市, 美 里 町 1 菊 池 広 域 連 合 消 防 本 部 菊 池 市, 大 津 町, 合 志 市, 菊 陽 2 火 災 件 数 ( 計 ) 16 2
図 3-1 出 火 地 点 ( 背 景 地 図 : 国 土 地 理 院 標 準 地 図 ) 3.1 火 災 の 特 徴 地 震 の 発 生 日 時 と 火 災 の 出 火 推 定 日 時 の 関 係 を 図 3-2 に 示 す. 前 震 に 起 因 する 火 災 は 5 件 発 生 しているが,その 内 訳 は, 前 震 直 後 に 発 生 した 火 災 が 2 件,その 後 時 間 をおいて 本 震 ま でに 発 生 した 火 災 が 3 件 となっている. 本 震 に 起 因 する 火 災 は 11 件 発 生 しているが,その 内 訳 は, 本 震 直 後 に 発 生 した 火 災 が 6 件,その 後 時 間 をおいて 発 生 した 火 災 が 5 件 となっ ている. PGV(Peak Ground Velocity: 最 大 地 動 速 度 )の 面 的 推 定 値 4 の 大 きさをもとに 九 州 地 方 の 市 町 村 を 分 類 (0~10,10~20,20~30,30~40,40~80,80~150cm/s の 6 区 分 )し, 平 成 22 年 国 勢 調 査 の 結 果 5 を 利 用 して 世 帯 あたり 出 火 確 率 を 算 出 した 結 果 を 図 3-3 に 示 す. 本 地 震 に おける 16 件 という 出 火 件 数 は, 兵 庫 県 南 部 地 震 (1995)の 293 件 6 や 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 (2011)の 330 件 ( 津 波 浸 水 区 域 内 の 出 火 を 含 む) 7 に 比 べて 少 ない.しかし, 出 火 確 率 は, PGV の 大 きな 領 域 でこそ 兵 庫 県 南 部 地 震 の 記 録 より 小 さいものの, 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 の 記 録 から 大 きく 隔 たりがあるわけではない. 図 3-4 は, 上 記 の PGV 区 分 に 市 町 村 を 分 類 し, 各 区 分 に 含 まれる 世 帯 数 を, 本 地 震 と 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 で 比 較 したものである.こ れによると, 本 地 震 において 強 い 揺 れ(10cm/s 以 上 とする)を 記 録 した 地 域 の 世 帯 数 は, 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 に 比 べて 大 幅 に 少 ない. 出 火 件 数 は, 地 震 の 規 模 や, 出 火 原 因 の 季 節 的 時 間 的 変 動 によって 左 右 されるが, 出 火 確 率 が 大 きくは 変 わらないことを 考 慮 すれば, 3
16 14 12 前 震 本 震 累 積 火 災 件 数 10 8 6 4 累 積 火 災 件 数 最 大 震 度 7の 揺 れを 伴 う 地 震 の 発 生 日 時 2 最 大 震 度 6 強 の 揺 れを 伴 う 地 震 の 発 生 日 時 0 4/14 4/15 4/16 4/17 4/18 4/19 4/20 4/21 図 3-2 地 震 の 発 生 日 時 と 火 災 の 出 火 推 定 日 時 の 関 係 0.001 世 帯 あたり 出 火 確 率 p 0.0001 1x10-5 熊 本 (2016) 東 北 (2011) 神 戸 (1995) 1x10-6 1 10 100 1000 PGV (cm/s) 図 3-3 世 帯 あたり 出 火 確 率 ( 文 献 8 に 追 記, 図 中 の 直 線 は 回 帰 式 を 示 す * ) 80-150 40-80 東 北 (2011) 熊 本 (2016) PGV (cm/s) 30-40 20-30 10-20 0-10 0 2x10 6 4x10 6 6x10 6 8x10 6 1x10 7 世 帯 数 図 3-4 PGV 区 分 ごとの 世 帯 数 の 比 較 * 1995 年 兵 庫 県 南 部 地 震,2011 年 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震,2016 年 熊 本 地 震 では,PGV の 推 定 方 法 が 異 なっている. 4
強 い 揺 れを 記 録 した 地 域 の 世 帯 数,すなわち 出 火 の 可 能 性 が 高 くなる 世 帯 数 の 少 なさが, 本 地 震 における 相 対 的 な 出 火 件 数 の 少 なさの 原 因 の 一 つであったと 言 える. 本 地 震 に 起 因 する 16 件 の 火 災 は,いずれも 建 物 火 災 であった. 出 火 建 物 の 用 途 の 内 訳 を 図 3-5 に 示 す.これによると, 住 宅 用 途 の 建 物 ( 戸 建 住 宅, 共 同 住 宅, 店 舗 兼 住 宅 )からの 出 火 が 最 も 多 く,10 件 ( 約 6 割 )となっている. 出 火 原 因 の 内 訳 を 図 3-6 に 示 す.これによると, 推 定 や 疑 いを 含 め, 出 火 原 因 が 分 かって いる 13 件 の 火 災 のうち, 電 気 関 連 ( 屋 内 配 線 コンセント, 電 気 設 備, 観 賞 魚 用 ヒーター) の 出 火 が 8 件 ( 約 6 割 )となっている. 火 災 による 焼 損 規 模 の 内 訳 を 図 3-7 に 示 す.これによると, 焼 損 規 模 が 分 かっている 15 件 の 火 災 のうち,6 件 がぼやに 留 まっている. 火 災 発 生 件 数 の 多 かった 熊 本 市 では, 揺 れに よる 建 物 被 害 が 比 較 的 小 さかったが,このことは 火 災 発 生 の 早 期 発 見 や, 居 住 者 自 身 による 初 期 消 火 活 動 の 実 施 にもつながっていたものと 考 えられる.なお, 出 火 建 物 から 隣 接 する 建 物 への 延 焼 ( 出 火 建 物 は 全 焼 )は 3 件 発 生 しているが,いずれも 隣 接 する 1 棟 もしくは 2 棟 の 建 物 への 延 焼 に 留 まっている. 工 場, 3 戸 建 住 宅, 5 ホテル, 1 事 務 所, 2 店 舗 兼 住 宅, 1 共 同 住 宅, 4 図 3-5 出 火 建 物 の 用 途 の 内 訳 未 確 認, 3 屋 内 配 線, 5 隣 接 建 物 へ の 延 焼 あり, 3 未 確 認, 1 ぼや, 6 不 明, 1 全 焼, 2 天 ぷら 油, 3 電 気 設 備, 2 溶 融 金 属, 1 観 賞 魚 用 ヒーター, 1 部 分 焼, 4 図 3-6 出 火 原 因 の 内 訳 ( 推 定 疑 い 含 む) 図 3-7 焼 損 規 模 の 内 訳 5
3.2 住 宅 火 災 の 例 益 城 町 内 の 住 宅 街 で, 前 震 後 まもなく 発 生 した 火 災 では, 出 火 した 2 階 建 て 木 造 住 宅 を 全 焼 している. 出 火 建 物 は, 三 方 を 住 宅 で 囲 まれており, 周 辺 に 燃 え 広 がる 可 能 性 があった 火 災 であるが, 延 焼 を 免 れていることから,その 背 景 を 調 べるために 現 地 調 査 を 行 った. 出 火 は 建 物 の 2 階 東 側 と 見 られているが,その 原 因 は 明 らかになっていない. 火 災 発 生 後, 直 ちに 消 防 に 通 報 され,ポンプ 車 が 駆 けつけている. 火 災 現 場 までの 途 上, 道 路 の 陥 没 や, 地 震 後 の 避 難 に 伴 うと 見 られる 交 通 混 雑 があったものの, 駆 け 付 け 時 間 の 遅 れにはつな がらない 程 度 であったようである.ただし, 地 震 の 影 響 で 最 寄 りの 消 火 栓 が 使 えなかったた め, 防 火 水 槽 から 取 水 して 放 水 が 行 われている.なお, 益 城 町 に 設 置 されたアメダス 観 測 所 の 記 録 によると, 火 災 発 生 当 時 の 風 向 風 速 は, 北 東 の 風 1.8m/s であった. 空 中 写 真 ( 国 土 地 理 院 )をもとに 作 成 した 出 火 建 物 周 辺 の 状 況 を 図 3-8 に 示 す. 南 側 の 住 宅 は 2 階 建 て( 構 造 不 明 )で, 出 火 建 物 と 最 も 近 接 している 場 所 で 0.8m ほどし か 離 れていなかった. 出 火 建 物 に 面 する 北 側 の 外 壁 は 変 色 しており, 強 い 加 熱 を 受 けていた ものと 見 られるが, 開 口 部 が 設 けられていなかったことに 加 え, 窯 業 系 サイディングが 使 用 されていたことで 延 焼 が 阻 止 されたものと 考 えられる. 東 側 の 住 宅 は 2 階 建 て( 構 造 不 明 )で, 出 火 建 物 と 最 も 近 接 している 場 所 で 3.3m ほど 離 れている. 出 火 建 物 との 間 にあった 植 栽 は 焼 け 焦 げ,2 階 開 口 部 の 樹 脂 製 サッシには 溶 融 痕 N 7.9m 6.3m 出 火 建 物 3.3m 6.4m 0.8m 図 3-8 住 宅 火 災 現 場 の 状 況 6
があったものの, 外 壁 や 開 口 部 にこの 他 の 目 立 った 被 害 は 確 認 できなかった. 北 側 の 住 宅 は 2 階 建 て( 構 造 不 明 )で, 出 火 建 物 と 最 も 近 接 している 場 所 で 6.3m ほど 離 れているが, 北 側 の 敷 地 は, 出 火 建 物 の 敷 地 に 比 べて 2m ほど 高 くなっており, 実 際 の 離 隔 距 離 はさらに 大 きい.ただし, 北 側 の 敷 地 の 植 栽 は 焼 け 焦 げたものも 少 なくない.2 階 の 南 側 屋 根 の 樹 脂 製 雨 樋 は 2~3m ほどの 幅 で 溶 融 していたが, 外 壁 や 開 口 部 にこの 他 の 目 立 った 被 害 は 確 認 できなかった. 西 側 の 住 宅 は 木 造 2 階 建 て, 金 属 系 サイディング 張 りである. 前 震, 本 震 のいずれによる ものなのかは 確 認 できていないが, 揺 れにより 建 物 は 傾 斜 し, 屋 根 や 外 壁 の 木 製 下 地 が 露 出 した 状 態 になっていた. 出 火 建 物 とは, 最 も 近 接 している 場 所 で 6.4m ほど 離 れている. 外 構 の 植 栽 は 茶 色 く 変 色 しているが,その 程 度 は 東 側 や 北 側 の 敷 地 の 植 栽 に 比 べると 軽 い. 通 りに 面 して 設 けられた 樹 脂 製 の 雨 よけ 庇 は 黒 く 変 色 し, 溶 融 していたが, 外 壁 や 開 口 部 にこ の 他 の 目 立 った 被 害 は 確 認 できなかった. 4. 建 築 設 備 被 害 調 査 対 象 となった 6 棟 の 建 物 の 立 地 を 図 4-1 に 示 す.ここでは,これらの 建 物 の 設 備 被 害 発 生 状 況 に 関 する 現 地 調 査 と, 建 物 の 機 能 継 続 上 の 課 題 について 管 理 者 等 に 聞 き 取 りを 行 った 結 果 を 整 理 する. 病 院 ( 大 津 町 ) 空 港 旅 客 ターミナル( 益 城 町 ) 共 同 住 宅 ( 熊 本 市 中 央 区 ) 病 院 ( 熊 本 市 東 区 ) 学 校 ( 熊 本 市 中 央 区 ) 行 政 庁 舎 ( 御 船 町 ) 図 4-1 調 査 対 象 施 設 ( 背 景 地 図 : 国 土 地 理 院 標 準 地 図 ) 7
4.1 空 港 旅 客 ターミナル( 益 城 町 ) 本 施 設 は,3 つの 空 港 旅 客 ターミナルからなっている.1971 年 の 竣 工 から 2012 年 までに 5 次 にわたる 増 改 築 改 修 工 事 を 経 ており, 鉄 筋 コンクリート 造 と 鉄 骨 造 が 混 在 している. 前 震 の 際 に 特 段 大 きな 被 害 はなく, 施 設 内 の 点 検 の 後, 翌 日 の 夕 方 には 営 業 を 再 開 していた. しかし, 本 震 により, 建 物 の 壁 にはクラックが 発 生 し,コンクリートブロック 造 の 界 壁 は 脱 落, 落 下 物 も 多 数 発 生 している. 停 電 は 一 時 的 であったが,ガス, 水 道 は 使 用 不 能 となり, 当 日 朝 からの 営 業 は 停 止 している.その 後, 施 設 の 点 検 補 修 を 経 て,4/19 より 段 階 的 に 営 業 を 再 開 している.ここでは,3 つあるターミナルのうち, 最 も 利 用 客 数 の 多 い 1 つのター ミナルを 調 査 対 象 とした. 空 調 設 備 については,アネモ 型 の 天 井 吹 き 出 し 口 の 脱 落 が 多 数 発 生 している( 写 真 4-1). ただし, 実 用 上 の 大 きな 支 障 にはならないことから, 当 面,そのまま 使 用 されている(4/26 時 点 ). 給 排 水 設 備 については, 本 震 により, 屋 外 にあるガラス 繊 維 強 化 プラスチック( 以 下,FRP) 製 受 水 槽 の 天 板 が 脱 落 している( 写 真 4-2). 施 設 管 理 者 によると, 受 水 槽 の 貯 水 機 能 自 体 は 維 持 されているが, 雨 水 が 流 入 するなどしているため,4/19 の 敷 地 への 上 水 供 給 開 始 後 も 飲 料 水 としては 使 用 できず,トイレ 洗 浄 水 としてのみ 使 用 されているとのことであった(4/26 時 点 ).このほかにも, 給 水 管 等 の 損 傷 によると 思 われる 漏 水 が 屋 内 各 部 で 発 生 していると のことであった. 電 気 設 備 については, 電 気 室 内 に 複 数 設 置 されていた 変 圧 器 のうち 1 基 が 転 倒 している. 転 倒 した 変 圧 器 では,あと 施 工 のメネジアンカーが 使 用 されていた.なお, 施 設 管 理 者 によ ると, 本 震 の 際 には, 短 時 間 の 停 電 が 発 生 したものの, 非 常 用 電 源 は 問 題 なく 作 動 したとの ことであった. 防 災 設 備 については, 搭 乗 待 ち 合 いスペースで 天 井 板 の 落 下 があった.また, 同 スペース では,スプリンクラー 設 備 が 誤 作 動 し, 水 損 が 発 生 している. 施 設 管 理 者 によると,スプリ ンクラー 配 管 には 変 位 吸 収 型 の 継 手 が 使 用 されていなかったとのことであった. 防 火 戸 に ついては, 扉 がヒンジから 外 れて 脱 落 したものや, 扉 や 戸 枠 の 歪 み, 床 の 盛 り 上 がりによる 開 閉 障 害 が 複 数 確 認 されている( 写 真 4-3, 写 真 4-4).このほか, 天 井 裏 界 壁 のコンクリー トブロック 壁 が 崩 れる 被 害 も 確 認 されている( 写 真 4-5). 昇 降 機 設 備 については, 接 続 部 が 破 損 したために 使 用 を 停 止 しているエスカレーターが 複 数 ある( 写 真 4-6).また,エレベーターシャフトと 建 物 とをつなぐエキスパンションジョ イント 部 分 で 段 差 が 生 じているために, 使 用 を 停 止 しているエレベーターがある(4/26 時 点 ). 8
写 真 4-1 天 井 吹 き 出 し 口 の 被 害 写 真 4-2 屋 外 受 水 槽 天 板 の 被 害 写 真 4-3 ヒンジから 脱 落 した 防 火 戸 写 真 4-4 開 放 できなくなった 防 火 戸 写 真 4-5 ブロック 壁 ( 天 井 裏 界 壁 )の 被 害 写 真 4-6 エスカレーター 接 続 部 の 被 害 4.2 共 同 住 宅 ( 熊 本 市 中 央 区 ) 本 施 設 は,11 階 建 ての 鉄 筋 コンクリート 造 であり,1978 年 (S53 年 )に 建 設 されている. 住 戸 は 共 用 の 外 廊 下 に 沿 って 並 んでおり, 住 戸 数 は 1 階 に 5 戸,2 階 以 上 は 10 戸 の 全 105 戸 である. 前 震 翌 日 の 段 階 で, 構 造 的 な 安 全 性 は 建 物 管 理 者 により 確 認 されていたが, 本 震 9
写 真 4-7 開 閉 障 害 が 発 生 した 玄 関 扉 写 真 4-8 方 立 て 壁 のせん 断 被 害 ( 等 級 Ⅳ) 階 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 北 側 階 段 1 2 3 4 5 住 戸 Ⅱ Ⅰ Ⅲ Ⅳ Ⅱ Ⅰ Ⅱ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅳ Ⅳ Ⅱ 中 Ⅱ Ⅱ Ⅱ 央 Ⅲ Ⅲ Ⅳ Ⅳ Ⅱ 階 Ⅲ Ⅲ Ⅲ Ⅰ 段 Ⅲ Ⅳ Ⅳ Ⅳ Ⅲ Ⅰ Ⅲ Ⅳ Ⅱ Ⅰ レ Ⅳ Ⅲ Ⅳ Ⅳ Ⅲ ベ Ⅱ Ⅲ Ⅲ Ⅳ Ⅱ ー Ⅳ Ⅳ Ⅳ Ⅳ Ⅳ タ ー Ⅱ Ⅳ Ⅳ Ⅳ Ⅱ Ⅳ Ⅳ Ⅳ Ⅳ Ⅳ Ⅲ Ⅲ Ⅳ Ⅳ Ⅲ Ⅳ Ⅳ Ⅳ Ⅳ Ⅳ Ⅱ Ⅱ Ⅲ Ⅲ Ⅱ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅳ Ⅱ Ⅰ Ⅰ Ⅱ Ⅱ Ⅱ + エ 6 7 8 9 10 南 側 階 段 壁 面 のせん 断 破 壊 等 級 の 定 義 ( 文 献 9 を 参 考 にした) Ⅰ: 近 寄 らないと 見 えにくい 程 度 のひび 割 れが 発 生 Ⅱ: 肉 眼 ではっきり 見 える 斜 め 方 向 のひび 割 れが 発 生 Ⅲ:せん 断 ひび 割 れの 幅 が 比 較 的 大 きく, 複 数 発 生 するも,かぶりコ ンクリートの 剥 落 はごくわずか Ⅳ:せん 断 ひび 割 れの 幅 が 拡 大 し, 多 数 発 生.かぶりコンクリート 剥 落 や 圧 縮 破 壊 が 著 しく, 鉄 筋 が 露 出 していることも Ⅴ: 鉄 筋 が 曲 がり, 内 部 のコンクリートも 崩 れ 落 ちるなど, 部 材 耐 力 がほとんど 残 っていない 状 態 玄 関 扉 の 開 閉 障 害 : 開 閉 障 害 なし : 開 閉 障 害 の 疑 いがある : 開 閉 障 害 あり 図 4-1 廊 下 側 方 立 て 壁 のせん 断 破 壊 と 玄 関 扉 の 開 閉 障 害 の 状 況 10
1 0.8 相 対 度 数 (-) 0.6 0.4 0.2 0 被 害 なし (n=20) Ⅰ (n=7) Ⅱ (n=22) Ⅲ (n=20) Ⅳ (n=36) 開 閉 障 害 あり 開 閉 障 害 の 疑 いあり 開 閉 障 害 なし 図 4-2 玄 関 扉 の 開 閉 障 害 の 発 生 率 が 発 生 した 後 にも 再 度 安 全 性 を 確 認 した 上 で 継 続 使 用 されている. 本 施 設 については, 共 用 廊 下 に 面 した 方 立 て 壁 の 被 害 について 既 に 報 告 されているが 2, 方 立 て 壁 にせん 断 破 壊 が 生 じている 場 合, 住 戸 の 鋼 製 玄 関 扉 にも 開 閉 障 害 が 発 生 している 例 が 多 く 見 られた( 写 真 4-7). 施 設 管 理 者 ならびに 居 住 者 によると,バールで 外 側 から 玄 関 扉 をこじ 開 けたり, 玄 関 扉 を 内 側 から 蹴 破 ったり,ベランダから 隣 接 住 戸 に 避 難 したりした 人 もあったとのことである. 玄 関 扉 に 開 閉 障 害 が 発 生 している 場 合 には, 火 災 時 などにおけ る 避 難 上 の 支 障 となる 可 能 性 があることから, 本 調 査 では, 各 住 戸 の 玄 関 扉 の 被 害 について 重 点 的 に 調 査 を 行 った. 具 体 的 には, 共 用 部 からの 目 視 調 査 を 行 い, 方 立 て 壁 のせん 断 破 壊 の 程 度 9 と 鋼 製 玄 関 扉 の 開 閉 障 害 との 関 係 を 調 べた.ただし, 実 際 に 玄 関 扉 の 開 閉 を 行 って 障 害 の 有 無 を 確 認 することはできなかったため, 開 放 されたままで 閉 鎖 ができない 状 態 に なっているものを 閉 鎖 障 害 あり, 閉 鎖 はされているものの,ドアノブ 周 辺 で 扉 と 枠 の 間 のクリアランスがなく, 開 閉 に 支 障 をきたしていると 見 られるものを 開 閉 障 害 の 疑 いあり とした.また, 参 照 したせん 断 破 壊 等 級 9 は, 鉄 筋 コンクリート 造 の 耐 力 壁 の 損 傷 程 度 とし て 定 義 されたものであるが,ここで 対 象 とした 方 立 て 壁 は 非 耐 力 壁 である. 方 立 て 壁 の 被 害 と 玄 関 扉 の 開 閉 障 害 の 有 無 の 関 係 を 整 理 した 結 果 を 図 4-1,4-2 に 示 す.これによると, 方 立 て 壁, 玄 関 扉 とも, 中 央 階 段 より 南 側 に 被 害 が 集 中 している. 破 壊 等 級 がⅣの 住 戸 では, 36 戸 中 に 27 戸 で 玄 関 扉 の 開 閉 障 害 が 発 生 しているなど,せん 断 破 壊 の 程 度 が 大 きいほど, より 多 くの 開 閉 障 害 が 発 生 していることが 確 認 できる. 4.3 病 院 ( 大 津 町 ) 本 施 設 は, 竣 工 時 期 の 異 なる 4 棟 ( 東 館, 西 館, 中 棟, 北 館 )からなる 病 院 で, 二 次 救 急 医 療 施 設 に 指 定 されている. 竣 工 年 は 東 館 が 1981 年 (S56 年 ), 西 館 が 1988 年 (S63 年 ), 11
中 棟 と 北 館 が 2004 年 (H16 年 )となっている. 構 造 は, 東 館 と 西 館 が RC 造 で, 中 棟 と 北 館 は S 造 である.ただし, 東 館 の 4 階 部 分 は,もともと 3 階 だった 棟 に, 中 棟 と 北 館 の 増 築 時 に 建 て 増 しされた S 造 である. 大 きな 被 害 が 出 たのは 本 震 の 際 で, 壁 には 広 い 範 囲 で 亀 裂 が 発 生, 隣 接 する 棟 をつなぐエキスパンションジョイントが 破 損 した 上, 西 館 では 揺 れに よる 給 湯 設 備 の 破 損 で 大 規 模 な 漏 水 が 発 生 している. 本 震 直 後 は 安 全 性 の 確 認 を 行 えず, 入 院 患 者 の 館 外 への 避 難 と 他 院 への 搬 送 を 行 っている.その 後, 構 造 上 の 安 全 性 の 確 認 がなさ れ, 外 来 診 療 の 受 け 付 けは 行 っているものの, 医 療 機 器 にも 上 記 の 漏 水 による 被 害 が 出 てお り, 病 院 としての 診 療 機 能 は 制 限 された 状 態 が 続 いている(4/27 時 点 ). 空 調 設 備 については, 西 棟 4 階 でファンコイルユニットの 冷 温 水 配 管 が 数 か 所 で 破 損 し, 水 漏 れが 発 生 している. 給 湯 設 備 については, 前 震 により, 北 館 屋 上 の 電 気 温 水 器 のアンカーが 外 れたことで 給 水 配 管 も 外 れ, 漏 水 が 発 生 している.また, 本 震 により, 北 館 屋 上 の 貯 湯 槽 のアンカー 接 合 部 分 が 損 傷 したほか( 写 真 4-9), 北 館 3 階 の 浴 室 天 井 でも 給 水 配 管 の 破 損 による 漏 水 が 発 生 している. 西 館 の 7 階 にある 機 械 室 では, 貯 湯 槽 2 基 の 基 礎 が 崩 れ, 給 湯 配 管 が 外 れたこと で 漏 水 が 発 生 している( 写 真 4-10, 写 真 4-11).これらの 被 害 のうち, 機 械 室 の 貯 湯 槽 によ る 漏 水 被 害 は 特 に 大 きく, 下 層 階 に 大 量 のお 湯 が 流 れ 出 して 居 室 が 使 用 不 能 な 状 態 となっ ている(4/27 時 点 ). 電 気 設 備 については, 西 館 の 上 層 階 で 水 損 が 発 生 し, 電 気 系 統 の 使 用 ができなくなってい る(4/27 時 点 ). 施 設 管 理 者 によると, 非 常 用 電 源 は 本 震 後 も 問 題 なく 作 動 していたとのこ とであった. 防 災 設 備 については, 北 館 3 階 のエレベーター 前 に 設 置 された 折 り 畳 み 式 防 火 戸 が, 揺 れ の 影 響 で 戸 先 が 垂 れ 下 がり, 開 閉 ができない 状 態 になっている.また,エレベーターシャフ トと 室 内 空 間 を 隔 てていた 防 火 戸 の 枠 板 も 脱 落 したため, 現 在 は 仮 留 めをした 上 でエレベ ーターの 使 用 が 停 止 されている( 写 真 4-12)( 4/27 時 点 ).また, 東 館 4 階 では, 線 入 りガラ ス 製 の 防 煙 垂 れ 壁 が 落 下 し, 割 れたガラスが 周 囲 に 散 乱 した( 写 真 4-13).このほか, 天 井 に 設 置 されたスプリンクラーヘッドの 抜 けや 煙 感 知 器 の 歪 みが 各 所 で 散 見 された. 破 損 の 有 無 については 定 かではないが, 再 使 用 にあたっては 作 動 確 認 が 必 要 な 状 態 となっている ( 写 真 4-14, 写 真 4-15).なお, 防 災 設 備 には 分 類 されないが, 防 火 区 画 を 形 成 すると 見 ら れる 北 館 階 段 室 内 の 壁 では,2 枚 重 ね 合 わせたせっこうボードのうち 室 内 側 の 1 枚 が 脱 落 し ている( 写 真 4-16).また, 北 館 屋 上 では, 電 気 温 水 器 用 貯 湯 槽 の 配 管 が 揺 れにより 鉄 骨 梁 に 接 触 し, 吹 き 付 けられた 耐 火 被 覆 が 剥 落 している( 写 真 4-17). 昇 降 機 設 備 については, 西 館 のエレベーターが 漏 水 により 使 用 不 能 となっているほか, 先 述 したように, 北 館 のエレベーターも 防 火 戸 が 破 損 したために 使 用 不 能 となっている(4/27 時 点 ). 12
写 真 4-9 温 水 器 用 貯 湯 タンクのアンカー 接 合 部 分 の 被 害 写 真 4-10 ボイラー 貯 湯 槽 基 礎 の 被 害 写 真 4-11 ボイラー 貯 湯 槽 の 配 管 の 被 害 写 真 4-12 開 閉 障 害 の 発 生 した 防 火 戸 写 真 4-13 防 煙 垂 れ 壁 の 脱 落 あと( 赤 線 部 ) 13
写 真 4-14 スプリンクラーヘッドの 抜 け 写 真 4-15 煙 感 知 器 の 歪 み 写 真 4-16 階 段 室 内 の 壁 の 被 害 写 真 4-17 耐 火 被 覆 が 剥 落 した 鉄 骨 梁 4.4 病 院 ( 熊 本 市 東 区 ) 本 施 設 は, 竣 工 時 期 の 異 なる 3 棟 ( 南 館, 北 館, 新 館 )からなる 病 院 で, 熊 本 市 内 にある 24 の 二 次 救 急 医 療 機 関 の 1 つに 指 定 されている. 竣 工 年 は, 南 館 が 1979 年 (S54 年 ), 北 館 が 1984 年 (S59 年 ), 新 館 が 2001 年 (H13 年 )であるが,いずれも SRC 造 となっている. 14
前 震 による 大 きな 被 害 はなかったものの, 本 震 時 には, 非 構 造 部 材 に 損 傷 が 生 じたほか, 外 壁 の 脱 落 や 窓 ガラスの 破 損 落 下 が 発 生 している.4/19 に 実 施 された 応 急 危 険 度 判 定 では 構 造 上 の 問 題 は 指 摘 されていないが, 本 震 直 後 は 安 全 性 の 確 認 を 行 えず, 入 院 患 者 の 館 外 への 避 難 と 他 院 への 搬 送 を 行 っている.その 後, 建 物 や 設 備 の 補 修 を 経 て,4/28 には 部 分 的 に 外 来 診 療 を 再 開 している. 空 調 設 備 については, 屋 上 に 設 置 してある FRP 製 冷 却 塔 で, 冷 却 水 配 管 との 接 合 部 が 破 断 して, 空 調 設 備 が 使 用 できない 状 態 となっている( 写 真 4-18)(4/28 時 点 ).これは, 配 管 の 置 き 基 礎 が 移 動 したことと( 写 真 4-19), 冷 却 塔 の 下 部 支 持 材 が 一 部 破 断 してアンカーが 抜 けたことにより( 写 真 4-20), 冷 却 塔 本 体 と 配 管 に 変 位 差 が 生 じ, 破 断 部 に 力 が 加 わった ためと 考 えられる. 給 排 水 設 備 については,FRP 製 受 水 槽 の 天 板 が 破 損 したが, 貯 水 機 能 自 体 は 維 持 されてい る( 写 真 4-21).また, 屋 上 に 4 基 ある 高 架 水 槽 のうち 3 基 のオーバーフロー 管 ( 水 槽 内 部 ) が 破 損 している( 写 真 4-22). 施 設 管 理 者 によると, 地 震 後, 上 水 の 供 給 が 停 止 していたが, 井 戸 水 を 取 り 込 めるようになっていたため,トイレ 洗 浄 水 は 確 保 できているとのことであ った.このほか, 屋 内 の 給 水 配 管 が 数 か 所 で 破 損 して 漏 水 が 発 生 したものの, 漏 水 量 は 多 く なかったため, 居 室 の 使 用 に 影 響 は 出 ていないとのことであった. 電 気 設 備 については, 大 きな 問 題 は 発 生 していない. 施 設 管 理 者 によると, 本 震 の 際 に 1 時 間 程 度 の 停 電 があったものの, 非 常 用 電 源 が 起 動 し, 非 常 灯 などは 点 灯 したとのことであ った. 防 災 設 備 については, 北 館 と 南 館 の 間 のエキスパンションジョイント 近 くに 設 置 された 防 火 戸 が, 枠 の 変 形 のために 完 全 には 閉 鎖 しない 状 態 となっているほか,2,3 か 所 で 閉 鎖 障 害 が 発 生 している( 写 真 4-23).また,スプリンクラーヘッドが 天 井 板 から 抜 け 出 した 状 態 になっているものがあるが, 漏 水 被 害 は 発 生 していない( 写 真 4-24).このほか, 支 持 部 が 破 損 した 避 雷 針 が 転 倒 するなどしている( 写 真 4-25). 昇 降 機 設 備 については,5 基 のエレベーターで 被 害 が 発 生 し, 使 用 できない 状 態 となって いる. 建 物 管 理 者 によると, 被 害 の 内 訳 は,つり 合 いおもりの 脱 落 が 2 基, 綱 車 のワイヤー の 外 れが 1 基, 機 械 室 内 の 巻 き 上 げ 機 の 破 損 が 2 基 とのことであった. 15
写 真 4-18 冷 却 塔 配 管 と 冷 却 水 配 管 接 合 部 の 被 害 写 真 4-19 配 管 置 き 基 礎 の 移 動 写 真 4-20 冷 却 塔 支 持 材 の 被 害 破 損 部 写 真 4-21 受 水 槽 天 板 の 被 害 写 真 4-22 高 架 水 槽 オーバーフロー 管 の 被 害 16
隙 間 残 留 部 写 真 4-23 完 全 には 閉 鎖 しなくなった 防 火 戸 写 真 4-24 スプリンクラーヘッドの 抜 け 写 真 4-25 支 持 部 の 破 損 により 転 倒 した 避 雷 針 4.5 行 政 庁 舎 ( 御 船 町 ) 本 施 設 は, 地 上 3 階, 地 下 1 階 の RC 造 の 行 政 庁 舎 で,1974 年 (S49 年 )に 竣 工,2010 年 (H22 年 )に 耐 震 補 強 を 行 っている. 前 震 による 大 きな 被 害 はなかったものの, 本 震 により 一 部 構 造 でコンクリートの 剥 落 や 鉄 筋 の 露 出, 窓 ガラスの 破 損 脱 落 が 発 生 する 被 害 を 受 け ている. 設 計 者 による 調 査 で 構 造 上 の 安 全 性 に 関 する 問 題 は 指 摘 されていないが, 天 井 材 が 広 範 囲 に 落 下 し, 窓 ガラスの 破 損 脱 落 がある 居 室 もあることから, 一 部 機 能 を 隣 の 庁 舎 に 移 して 業 務 を 継 続 している. 空 調 設 備 については, 屋 上 の 冷 却 塔 が 基 礎 の 根 元 の 部 分 から 傾 斜 したほか, 冷 却 塔 と 冷 却 水 配 管 の 接 合 部 が 破 断 して 水 漏 れが 発 生 している( 写 真 4-26,4-27).これも, 前 述 の 病 院 の 被 害 と 同 様, 冷 却 塔 本 体 と 配 管 の 変 位 差 により, 破 断 部 に 力 が 加 わったことが 原 因 になっ たものと 考 えられる. 屋 内 では, 天 井 材 のほか, 空 調 ダクトや 空 調 吹 き 出 し 部, 照 明 設 備 の 脱 落 も 多 数 発 生 している( 写 真 4-28,4-29). 給 排 水 設 備 については, 受 水 槽 や 高 架 水 槽 に 被 害 はなかったものの, 上 水 の 供 給 が 前 震 後 に 停 止 している. 施 設 管 理 者 によると,トイレ 洗 浄 水 に 近 くの 川 の 水 を 使 用 するなどして 節 水 を 行 ったとのことであった. 水 道 水 の 供 給 は 4/21 になって 復 旧 しているが, 飲 料 水 とし 17
ての 使 用 は 再 開 されていない(4/28 時 点 ). 電 気 設 備 については, 施 設 管 理 者 によると, 本 震 後 に 漏 電 のためにブレーカーが 作 動 し, 4/27 の 応 急 復 旧 工 事 までの 間, 館 内 の 一 部 で 電 気 が 使 用 できなくなったとのことであった. なお, 非 常 用 電 源 については, 本 震 後 の 停 電 中 も 問 題 なく 作 動 していたとのことであった. 防 災 設 備 については, 施 設 管 理 者 によると, 防 火 シャッターが 自 動 閉 鎖 したものの, 付 属 するモーターの 電 源 が 起 動 せず, 開 放 することができなくなったとのことであった.ただし, 防 火 シャッターが 閉 鎖 したままでは 避 難 安 全 上 の 支 障 があることから, 専 門 業 者 の 作 業 に より 開 放 されたとのことである( 写 真 4-30).また, 空 調 ダクト 内 の 防 火 ダンパーが 自 動 閉 鎖 したため, 後 日, 手 動 で 開 放 されたとのことであった. 写 真 4-26 基 礎 部 分 から 傾 斜 した 冷 却 塔 写 真 4-27 冷 却 塔 と 冷 却 水 配 管 接 続 部 の 被 害 写 真 4-28 天 井 材 の 被 害 写 真 4-29 空 調 ダクトの 被 害 18
写 真 4-30 自 動 閉 鎖 したのち 開 放 できなくなっていた 防 火 シャッター 4.6 学 校 ( 熊 本 市 中 央 区 ) 本 施 設 は, 複 数 の 鉄 筋 コンクリート 造 の 棟 からなる 学 校 で, 竣 工 年 は 1979 年 (S54 年 ) である. 地 震 の 影 響 により, 敷 地 内 の 広 い 範 囲 で 地 盤 沈 下 が 起 こり, 建 物 との 間 には 段 差, 隙 間 が 生 じている( 写 真 4-31). 複 数 棟 ある 中 の 一 棟 では, 室 内 に 傾 斜 が 生 じており, 立 ち 入 りが 禁 止 されている.このほかに 構 造 体 の 目 立 った 被 害 は 見 られない(4/28 時 点 ). 給 排 水 設 備 については, 地 下 に 埋 設 された 給 水 管 の 破 損 漏 水 が 5 か 所 あった.いずれも 各 棟 への 地 下 導 入 部 においてであり, 地 盤 変 状 の 影 響 が 考 えられる( 写 真 4-32).ただし, 屋 内 の 漏 水 は 発 生 しておらず, 教 室 使 用 に 影 響 は 出 ていない.このほか, 受 水 槽 から 高 架 水 槽 への 送 水 を 行 う 揚 水 ポンプが 故 障 する 被 害 が 発 生 している. 写 真 4-31 建 物 と 地 盤 面 の 段 差 写 真 4-32 地 下 埋 設 給 水 配 管 の 破 損 箇 所 付 近 5.まとめ 火 災 被 害 については, 出 火 確 率 を 過 去 の 記 録 をしたところ,PGV の 大 きな 領 域 でこそ 兵 庫 県 南 部 地 震 の 記 録 より 小 さいものの, 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 の 記 録 からの 隔 たりは 大 き くなかった. 19
建 築 設 備 被 害 については, 当 面 の 建 物 使 用 上 の 影 響 はない 軽 微 な 被 害 が 多 く 見 られたが, 施 設 の 機 能 継 続 に 影 響 を 及 ぼしていると 見 られる 例 も 見 られた. 機 能 継 続 に 関 連 すると 考 えられる 項 目 を 整 理 した 結 果 を 表 5-1 に 示 す.ここから, 以 下 のような 点 を 指 摘 することが できる. 構 造 上 の 安 全 性 を 速 やかに 判 断 することが, 施 設 を 機 能 継 続 させる 上 で 重 要 である. ガス 供 給 が 停 止 している 施 設 であっても, 電 気 とトイレ 洗 浄 水 が 使 用 できることで, 施 設 の 機 能 継 続 再 開 がなされている 例 がある.トイレ 洗 浄 水 の 確 保 には, 上 水 の 供 給 再 開 を 待 たず, 井 戸 水, 河 川 水 を 使 用 している 例 がある. 空 調 設 備 の 被 害 が, 施 設 の 機 能 継 続 再 開 の 要 件 となっている 例 はなかったが, 異 なる 季 節, 異 なる 地 域 で 地 震 が 起 こっていれば, 状 況 が 異 なっていた 可 能 性 がある. 20
表 5-1 建 築 物 被 害 と 機 能 継 続 の 関 係 4.1 節 4.2 節 4.3 節 4.4 節 4.5 節 4.6 節 立 地 益 城 町 熊 本 市 中 央 区 大 津 町 熊 本 市 東 区 御 船 町 熊 本 市 中 央 区 最 大 震 度 前 震 7 5 強 5 強 6 弱 5 強 5 強 本 震 7 6 強 6 強 6 強 6 弱 6 強 用 途 空 港 旅 客 ターミナル 共 同 住 宅 病 院 病 院 行 政 庁 舎 学 校 構 造 RC 造,S 造 RC 造 RC 造,S 造 SRC 造 RC 造 RC 造 竣 工 構 造 等 建 築 設 備 都 市 設 備 空 調 設 備 給 排 水 設 備 電 気 設 備 防 災 設 備 昇 降 機 設 備 1971 年 以 降,5 次 にわたり 増 改 築 - EJ 破 損,ずれ - 非 構 造 部 材 損 傷 - ブロック 壁 脱 落 ( 天 井 裏 ) - 落 下 物 多 数 1978 年 - EJ 破 損 - 非 構 造 部 材 損 傷 - 玄 関 扉 の 開 閉 障 害 - 吹 き 出 し 口 脱 落 - 被 害 なし - 受 水 槽 天 板 破 損 - 給 水 配 管 破 損 ( 屋 内 ) - 被 害 なし 東 館 :1981 年 西 館 :1988 年 中 棟, 北 館 :2004 年 - 非 構 造 部 材 損 傷 - EJ 破 損 - FCU 冷 温 水 配 管 破 損 ( 屋 内 ) - 貯 湯 槽 破 損 ( 屋 上, 機 械 室 ) - 給 水 配 管 破 損 ( 屋 内 ) 南 館 :1979 年 北 館 :1984 年 新 館 :2001 年 - EJ 破 損 - 非 構 造 部 材 損 傷 - 外 壁 脱 落 - 窓 ガラス 破 損 落 下 - 冷 却 塔 破 損 ( 屋 上 ) - 受 水 槽 天 板 破 損 - 高 架 水 槽 破 損 ( 屋 上 ) - 給 水 配 管 破 損 ( 屋 内 ) 1974 年 (2010 年 補 強 ) - EJ 破 損 - 非 構 造 部 材 損 傷 - 天 井 材 落 下 - 窓 ガラス 破 損 落 下 - 冷 却 塔 破 損 ( 屋 上 ) - 空 調 ダクト 脱 落 ( 屋 内 ) - 被 害 なし 1979 年 - 地 盤 沈 下 - 建 物 床 傾 斜 - EJ 破 損 - 被 害 なし - 揚 水 ポンプ 故 障 - 給 水 配 管 破 損 ( 地 下 ) - 変 圧 器 転 倒 ( 電 気 室 ) - 被 害 なし - 被 害 なし - 被 害 なし - 漏 電 ( 屋 内 ) - 照 明 器 具 落 下 ( 屋 内 ) - SP 誤 作 動 - 防 火 戸 脱 落 - ESL 接 続 部 被 害 - EV 使 用 停 止 (4/26 時 点 ) - 被 害 なし - 防 火 戸 脱 落 - 防 煙 垂 れ 壁 脱 落 - SP ヘッド 等 破 損 - 防 火 区 画 破 損 ( 階 段 室 ) - 耐 火 被 覆 剥 落 - 防 火 戸 閉 鎖 障 害 - SP ヘッド 等 破 損 - 避 雷 針 脱 落 ( 屋 上 ) - 防 火 シャッター 破 損 - ダンパー 閉 鎖 - 被 害 なし - 被 害 なし - EV 被 害 - EV 被 害 - 被 害 なし - EV 被 害 その 他 - 医 療 機 器 水 損 - 医 療 機 器 使 用 停 止 水 道 - 断 水 (4/16~4/18) - 断 水 (~4/25) - 給 水 再 開 (4/22) - 井 戸 水 利 用 - 井 戸 水 利 用 - 断 水 (4/14~4/21) - 断 水 (4/16~4/19) 電 力 - 短 時 間 停 電 (4/16) - 停 電 なし - 短 時 間 停 電 (4/16) - 短 時 間 停 電 (4/16) - 半 日 停 電 (4/16) - 短 時 間 停 電 (4/16) ガス - 使 用 停 止 (4/26 時 点 ) - 開 栓 作 業 中 (4/27) - LPG 使 用 再 開 (4/17) - 使 用 停 止 - 開 栓 作 業 中 (4/28) 機 能 継 続 再 開 - 一 部 営 業 再 開 (~4/19) - 機 能 停 止 なし - 入 院 患 者 転 院 - 診 療 制 限 (4/16~) - 入 院 患 者 転 院 - 一 部 診 療 再 開 (4/28~) - 一 部 機 能 移 転 - 機 能 停 止 なし EJ:エキスパンションジョイント,EV:エレベーター,ESL:エスカレーター,SP:スプリンクラー 設 備,FCU:ファンコイルユニット,LPG:プロパンガス(ガスボンベ) - 休 校 中 (4/28 時 点 ) 21
謝 辞 本 調 査 を 実 施 するにあたり, 熊 本 市 消 防 局 には 火 災 情 報 の 収 集 にご 協 力 をいただきまし た.また, 個 別 にお 名 前 を 挙 げることはできませんが, 火 災 現 場 調 査 ならびに 建 築 物 被 害 調 査 にご 協 力 をいただきました 皆 様 にはお 見 舞 いとお 礼 を 申 し 上 げます. 1 消 防 庁 : 熊 本 県 熊 本 地 方 を 震 源 とする 地 震 ( 第 49 報 ), 2016 年 5 月 9 日 2 国 土 技 術 政 策 総 合 研 究 所 建 築 研 究 所 : 平 成 28 年 (2016 年 ) 熊 本 地 震 による 建 築 物 等 被 第 二 次 調 査 報 告 ( 速 報 )-( 木 造 住 宅 及 び 鉄 筋 コンクリート 造 等 建 築 物 を 中 心 とした 調 査 ), 2016 年 5 月 2 日 3 国 土 技 術 政 策 総 合 研 究 所 建 築 研 究 所 : 平 成 28 年 (2016 年 ) 熊 本 地 震 による 建 築 物 等 被 第 三 次 調 査 報 告 ( 速 報 )-( 鉄 骨 造 建 築 物 非 構 造 部 材 設 備 を 中 心 とした 調 査 ), 2016 年 5 月 13 日 4 産 業 技 術 総 合 研 究 所 : 地 震 動 マップ 即 時 推 定 システム(https://gbank.gsj.jp/QuiQuake/) 5 総 務 省 統 計 局 : 平 成 22 年 国 勢 調 査 (http://www.e-stat.go.jp/) 6 総 務 省 消 防 庁 : 阪 神 淡 路 大 震 災 について( 確 定 報 )(2006) 7 総 務 省 消 防 庁 : 平 成 23 年 (2011 年 ) 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 ( 東 日 本 大 震 災 )につい て, 第 153 報 (2016) 8 樋 本 圭 佑 山 田 真 澄 西 野 智 研 :2011 年 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 における 津 波 浸 水 区 域 外 の 出 火 傾 向 の 分 析, 日 本 建 築 学 会 環 境 系 論 文 集,Vol.79,No.697,pp.219-226(2014) 9 日 本 建 築 防 災 協 会 : 震 災 建 築 物 等 の 被 災 度 判 定 基 準 および 復 旧 技 術 指 針 ( 鉄 筋 コンクリ ート 造 編 ),1991 22