1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013 論 説 混 迷 する 中 東 の 行 方 を 探 る: 難 民 問 題 解 決 のカギは? 滝 澤 三 郎 東 洋 英 和 女 学 院 大 学 大 学 院 客 員 教 授 国 連 UNHCR 協 会 理 事 長 1 始 めに 2015 年 の 難 民 と 難 民 申 請 者 無 国 籍 者 などの 総 数 は 約 6500 万 人 に 増 え 難 民 の 数 は 約 2000 万 人 である シリア 内 戦 は 5 年 目 人 口 2200 万 人 のうち 40 万 人 が 死 亡 し 800 万 人 が 国 内 で 避 難 し 480 万 人 が 難 民 となった うち 270 万 人 はトルコに 逃 れ 人 口 400 万 人 のレバノンには 110 万 人 が 逃 れている 地 中 海 では 欧 州 を 目 指 す 密 航 船 が 沈 没 し 昨 年 だけで 3000 千 人 が 亡 くなるという 人 道 危 機 が 続 く 他 方 で 移 民 難 民 の 大 量 で 急 激 な 流 入 に 面 して EU 諸 国 の 出 入 国 管 理 は 統 一 性 を 欠 い て 混 乱 し 移 動 の 自 由 を 支 えてきた シェンゲン 協 定 は 事 実 上 停 止 した 去 る 3 月 の EU トルコ 合 意 は トルコからギリシャに 不 法 入 国 した 移 民 難 民 の 強 制 送 還 を 合 意 し 強 制 送 還 の 禁 止 を 核 とする 難 民 の 国 際 保 護 体 制 に 亀 裂 をもたらした 他 方 で 大 量 の 移 民 難 民 の EU への 流 入 を 一 つのきっかけとして 英 国 は EU 離 脱 を 決 めた 中 東 の 動 乱 の 結 果 として 発 生 した 移 民 難 民 は EU 始 まって 以 来 の 政 治 危 機 も 引 き 起 こし たが それはさらに 難 民 に 対 する 国 際 社 会 の 姿 勢 に 影 響 するだろう この 深 刻 な 難 民 問 題 をどのように 捉 えるべきだろうか? 2 難 民 問 題 の 原 因 第 二 次 大 戦 後 国 連 に 加 盟 する 主 権 国 家 の 数 は 増 え 続 け 今 日 では 193 に 達 する が 多 くの 国 ではガバナンス( 統 治 )が 脆 弱 であるか 崩 壊 している 冷 戦 の 終 結 後 ソマリア アフガニスタン イラ ク シリアなどで 民 族 紛 争 が 多 発 し こ れらの 国 は 脆 弱 国 家 崩 壊 国 家 と なり 多 数 の 人 々が 移 動 を 強 いられた シリアのように 政 府 が 国 民 を 守 る 責 任 を 果 たさないか 果 たせない または 国 民 自 体 がいくつにも 分 裂 して 争 うとい う ガバナンスの 崩 壊 状 態 から 多 くの 難 民 が 生 じている 70 60 50 40 30 20 10 0 TOTAL IDPS TOTAL REFUGEES ウエストファリア 体 制 と 呼 ばれる 現 在 の 国 際 社 会 は 領 土 国 民 統 治 権 力 が 三 位 一 体 となった 理 念 型 としての 国 民 国 家 から 成 り 立 っている しかし 全 て の 国 民 国 家 がそのような 理 念 型 を 保 つことは 不 可 能 である 人 種 宗 教 政 治 的 意 見 1
などを 理 由 に 国 民 の 一 部 が 統 治 権 力 から 排 除 迫 害 されて 難 民 となることは 常 に あった ましてや 193 もの 国 民 国 家 が 並 立 する 今 日 において 理 念 型 から 外 れる 国 がいくつも 出 てくるのは 避 けられない( 大 学 の 講 義 でも 200 人 の 学 生 がいれば 20 30 人 は 内 職 をしている) むしろそのような 少 数 の 難 民 ( 彼 ら)の 存 在 が 出 身 国 であれ 庇 護 国 であれ 大 多 数 の 国 民 ( 我 々)の 結 束 を 固 め 国 民 国 家 体 制 を 強 化 する 機 能 を 果 たして 来 た シリア 難 民 の 流 入 を 機 に 燃 え 上 がったヨーロッパのナショ ナリズムはその 例 である その 意 味 で 現 行 の 国 民 国 家 体 制 が 続 く 限 り 難 民 の 発 生 は 不 可 避 であると 言 えよう であれば 難 民 問 題 は 今 後 も 発 生 するだろう このように 難 民 問 題 の 根 本 原 因 は 難 民 発 生 国 の 統 治 の 失 敗 であるが その 結 果 は 外 部 周 辺 国 への 難 民 の 流 入 である 周 辺 国 は 流 入 した 難 民 による 混 乱 と 保 護 に 対 応 せ ざるを 得 ない 現 時 点 で 2000 万 人 に 上 る 世 界 の 難 民 保 護 のコストは 経 済 的 社 会 的 政 治 的 に 膨 大 であるが そのコストは 周 辺 国 を 含 む 国 際 社 会 が 負 担 している こ の 意 味 で 難 民 問 題 は 統 治 の 失 敗 によって 引 き 起 こされる 負 の 外 部 性 である 同 様 にアフリカ 諸 国 を 中 心 にした 経 済 の 失 敗 は 極 度 の 貧 困 を 招 き その 負 の 外 部 性 として 大 量 の 経 済 移 民 (その 多 くは 生 き 残 るために 国 外 に 脱 出 する 生 存 移 民 である)の 国 境 を 越 えた 移 動 を 引 き 起 こしている したがってこれらの 問 題 の 根 本 的 解 決 も 究 極 的 には 国 内 的 な 統 治 の 再 建 と 経 済 の 再 建 しかないのだが そのためには 国 際 協 力 が 不 可 欠 である 3 国 際 社 会 の 対 応 : 国 際 公 共 財 としての 難 民 の 保 護 制 度 負 の 外 部 性 としての 大 規 模 な 難 民 状 況 を 放 置 する 訳 にはいかない 放 置 すれば 玉 突 き 的 に 負 の 外 部 性 が 拡 大 する シリア 難 民 がトルコやレバノン ヨルダンに 流 入 し 始 めたとき UNHCR など 国 際 機 関 は 国 際 支 援 を 呼 びかけたが ヨーロッパ 諸 国 はそ れに 応 じず 結 果 的 にしびれを 切 らした 難 民 が 地 中 海 を 渡 ってヨーロッパを 目 指 し 始 めた 大 量 難 民 の 発 生 はそれ 自 体 が 人 道 危 機 であり 人 間 の 安 全 保 障 を 脅 かすが 同 時 に 受 入 れ 国 に 経 済 的 政 治 的 社 会 的 緊 張 を 生 み 国 家 の 安 全 保 障 をも 脅 かす このため 国 際 社 会 は 国 際 協 力 を 通 して 難 民 の 国 際 的 保 護 体 制 の 構 築 を 図 った その 狙 いは 各 国 の 庇 護 責 任 の 明 確 化 と 国 際 的 な 負 担 分 担 を 確 保 することにより 難 民 発 生 に 伴 う 負 の 外 部 性 を 緩 和 することにあった 難 民 の 国 際 的 保 護 の 方 法 には2つがある 一 つはたどり 着 いた 人 々を 難 民 条 約 に 基 づ いて 審 査 し 難 民 と 認 定 した 場 合 に 国 内 で 保 護 する 庇 護 制 度 であり これは 難 民 条 約 に 加 入 している 国 にとっては 義 務 的 責 任 である もう 一 つは 紛 争 国 の 近 隣 諸 国 な どに 多 数 の 難 民 が 流 入 して 滞 留 し 経 済 的 社 会 的 政 治 的 に 過 分 な 負 担 を 負 わない ようにする 自 発 的 な 負 担 分 担 であり 流 入 した 難 民 の 一 部 をさらに 先 進 国 が 引 き 受 ける 第 三 国 定 住 と 受 入 国 の 財 政 的 負 担 を 軽 減 するための 資 金 協 力 とに 分 か れる 後 者 はさらに UNHCR など 国 際 機 関 へ 拠 出 と 受 入 国 政 府 への 資 金 協 力 に 分 かれ る 2
( ) 難 民 の 国 際 的 保 護 は 出 身 国 の 保 護 を 受 けられない 難 民 の 命 を 救 うという 人 道 的 価 値 と 難 民 流 入 による 混 乱 を 防 止 す る 政 治 的 価 値 がある それは 地 球 上 の 全 ての 人 々と 国 家 にとって 望 ましい 国 際 公 共 財 である ところで 国 際 公 共 財 はどの 国 ( 何 人 )でも 利 用 でき( 非 排 除 性 ) 多 くの 国 ( 者 )が 利 用 しても 減 ら ない( 非 競 合 性 )という 性 質 を 持 つ 難 民 条 約 のもと 個 人 のレベルでは ある 難 民 ( 申 請 者 )が 受 け 入 れられたからといって 他 の 難 民 ( 申 請 者 )が 拒 否 されることはな い 国 家 レベルでも ある 国 が 加 入 ( 便 益 を 享 受 )したからといって 他 の 国 の 便 益 が 減 るわけではない このため 国 際 公 共 財 としての 難 民 保 護 体 制 には ただ 乗 り の 可 能 性 が 常 に 内 在 している 個 人 レベルでは 多 数 の 経 済 移 民 が 難 民 制 度 に ただ 乗 り して 入 国 を 図 り 難 民 申 請 をすると 認 定 手 続 きが 滞 り 本 来 認 定 を 受 けるべき 難 民 が 排 除 される 可 能 性 が 出 る 国 家 レベルでも 難 民 保 護 を 他 の 国 に 押 し 付 ける た だ 乗 り が 発 生 し 易 い 2 1 難 民 資 第 負 庇 金 三 担 護 国 協 国 分 際 力 定 難 担 的 住 民 保 認 護 定 体 移 制 住 難 民 の 国 際 的 保 護 のしくみ シリア 国 内 避 難 民 支 援 庇 護 自 主 的 な 帰 国 UNHCR 難 民 支 援 トルコ 資 金 援 助 資 金 援 助 第 三 国 定 住 EU 6 4 難 民 の 変 質 1951 年 難 民 条 約 と 1967 年 の 議 定 書 ( 以 下 難 民 条 約 )は 難 民 の 定 義 と 権 利 が 中 心 であ って 各 国 の 保 護 責 任 と 負 担 分 担 の 方 法 については 触 れておらず ただ 乗 り 問 題 の 可 能 性 が 最 初 から 存 在 した しかし 当 時 はアメリカとソ 連 の 2 大 国 が 対 峙 する 東 西 冷 戦 の 初 期 であり 難 民 条 約 が 想 定 していた 難 民 は ソ 連 が 率 いる 共 産 主 義 諸 国 から 西 側 に 逃 げてくる 比 較 的 少 数 の 政 治 亡 命 者 であった 彼 らは 西 側 諸 国 の 優 位 性 を 足 で 投 票 する 者 として 歓 迎 されるなど 当 時 の 難 民 には 高 い 政 治 的 価 値 があった のである その 中 でアメリカは 共 産 圏 からの 政 治 難 民 を 第 三 国 定 住 で 積 極 的 に 受 け 入 れ そのための 費 用 の 大 半 も 負 担 していた 難 民 保 護 という 国 際 公 共 財 は 事 実 上 アメリカが 単 独 で 供 給 していたため ただ 乗 り は 実 際 上 は 問 題 にならなかった 当 時 のアメリカは 難 民 保 護 に 限 らず 安 全 保 障 や 開 発 援 助 などの 面 でも 国 際 公 共 財 の さいだいの 供 給 国 であった しかしそのような 時 代 は 長 続 きしなかった 1960 年 代 のアジア アフリカにおける 脱 植 民 地 化 の 中 で 多 くの 旧 植 民 地 国 が 独 立 したが その 多 くが 政 治 的 にも 経 済 的 にも 不 安 定 で 内 戦 が 発 生 した その 中 で 紛 争 難 民 が 数 百 万 人 規 模 で 発 生 し 周 辺 の 貧 し い 諸 国 に 流 入 し 滞 留 した これらの 難 民 は 北 側 の 欧 州 やアメリカに 逃 れることはなか ったから 責 任 分 担 と 費 用 分 担 を 巡 る( 北 側 諸 国 の) ただ 乗 り 問 題 が 顕 在 化 してき た 例 外 的 に 1975 年 のサイゴン 陥 落 引 き 続 くインドシナ 戦 争 の 結 果 発 生 した 140 万 人 のインドシナ 難 民 のうち 80 万 人 以 上 をアメリカが 受 け 入 れたが それはインドシ ナ 戦 争 が 東 西 冷 戦 下 の 代 理 戦 争 として 戦 われたため アメリカはインドシナ 難 民 を 東 から 西 への 政 治 難 民 の 一 種 として 受 け 入 れたからである 3
1973 年 の 第 1 次 石 油 ショック 以 来 それまで 労 働 移 民 を 受 け 入 れてきた 欧 州 諸 国 が 受 け 入 れを 停 止 し 合 法 的 な 入 国 ルートがなくなったため 多 くの 経 済 移 民 が 難 民 制 度 を 利 用 しての 入 国 を 図 った つまり 彼 らが 個 人 レベルで 難 民 保 護 制 度 に ただ 乗 り するようになり 難 民 保 護 体 制 は 新 たな 圧 力 にさらされるようになった 1990 年 代 以 降 の ポスト 冷 戦 期 には 東 欧 諸 国 からの 政 治 難 民 は 激 減 したが 同 時 に 疲 弊 した 経 済 を 逃 れた 経 済 移 民 が 西 欧 諸 国 に 押 し 寄 せるようになった 加 えて 旧 ユーゴスラビアでは 冷 戦 のもとで 押 さえ 込 まれていた 民 族 的 宗 教 的 対 立 が 爆 発 して 内 戦 が 勃 発 し 数 十 万 人 の 紛 争 難 民 が 西 欧 諸 国 に 向 かった アフリカ 中 東 の 破 綻 国 家 から 多 数 で 逃 れてくる 紛 争 難 民 や 自 らを 難 民 であると 訴 える 経 済 移 民 も 一 向 に 減 らない これら 1951 年 の 難 民 条 約 が 想 定 しなかった 人 々の 流 入 の 中 で EU は 2000 年 年 代 始 めから 共 通 庇 護 システム を 構 築 し 人 間 の 安 全 保 障 と 国 家 の 安 全 保 障 を 両 立 させる 努 力 を 行 って 来 た しかし シリア 内 戦 をきっ かけに 中 東 諸 国 からの 百 万 人 単 位 の 移 民 難 民 が 流 入 する 中 で 難 民 受 入 に 前 向 きな ドイツに 他 の 国 が ただ 乗 り するなど EU の 協 調 は 失 敗 した そのため EU は 移 民 難 民 の 閉 め 出 し に 転 じ 多 くの 移 民 難 民 が 行 き 場 を 失 っている 5 超 大 国 アメリカの 役 割 の 変 化 第 二 次 大 戦 後 難 民 を 一 手 に 引 き 受 けて 来 たかの 感 があるアメリカは 今 どうしている のか もともとアメリカにおいては 難 民 政 策 は 移 民 政 策 の 一 部 となっており どの 国 からどのような 難 民 を 何 人 受 け 入 れるかは 時 々の 政 治 的 流 れに 左 右 されてきた アメリカの 難 民 政 策 の 特 徴 は 政 治 的 なコントロールを 容 易 にするために 計 画 性 と 難 民 の 背 景 チェックができる 第 三 国 定 住 と 資 金 協 力 を 重 視 することである 再 定 住 によって 年 間 で 約 7 万 人 の 難 民 を 世 界 各 地 から 受 け 入 れるほか 資 金 協 力 では UNHCR の 予 算 の 3 分 の1 以 上 を 拠 出 してきた 2015 年 には 約 1600 億 円 予 算 の 40% を 拠 出 している( 日 本 は 約 200 億 円 で 4 位 である) しかし 今 日 シリア 難 民 受 入 れ についてアメリカの 姿 勢 はごく 消 極 的 である そもそもシリア 難 民 危 機 の 遠 因 の 一 つ は イラク 戦 争 などアメリカの 中 東 での 軍 事 行 動 であるが オバマ 大 統 領 はシリア 難 民 1 万 人 の 受 け 入 れを 約 束 したものの 背 景 チェックを 厳 しく 行 うせいもあり 今 ま で 受 け 入 れたのは 5 千 人 だけである カナダが2 万 5 千 人 のシリア 難 民 をすでに 受 け 入 れているのに 比 べても 消 極 性 が 目 立 つ この 消 極 性 の 主 たる 理 由 は トランプ 現 象 に 示 されるイスラム 教 徒 排 斥 の 世 論 であ るが アメリカは 世 界 の 警 察 官 ではない というオバマ 発 言 にも 現 れるように 難 民 保 護 に 限 らず 国 際 公 共 財 の 供 給 を 単 独 で 引 き 受 けてきた 超 大 国 の 地 位 からアメリカ が 降 りようとしていることが 背 景 にある シリア 難 民 への 姿 勢 も 政 治 的 経 済 的 社 会 的 コストの 高 い 受 入 れ から 比 較 的 容 易 な 資 金 供 与 へと 変 わっている 欧 州 が 難 民 移 民 の 閉 め 出 しをする 中 で このアメリカの 消 極 的 対 応 は 難 民 の 国 際 保 護 体 制 への 深 刻 な 打 撃 となる 今 回 の 中 東 難 民 危 機 においては 焦 点 が EU 諸 国 に 集 まって いるが 隠 れた 主 役 はアメリカである 4
6 今 後 の 難 民 保 護 の 方 向 性 数 百 万 の 難 民 が 寄 る 辺 無 き 人 々 となる 人 道 危 機 は 続 き それはさらに 政 治 危 機 を 引 き 起 こしかねない 難 民 と 国 内 避 難 民 は 今 後 も 高 止 まりすると 思 われる 状 況 の 中 で 短 期 的 な 解 決 へのカギは 見 出 せないが あえて 今 後 の 方 向 性 を 考 えてみよう その 際 難 民 問 題 は 人 道 問 題 と 政 治 問 題 の 絡 んだ 複 合 問 題 だということを 念 頭 に 置 いて 難 民 の 利 益 と 国 家 の 利 益 の 両 立 を 図 ることが 重 要 である その 点 で 再 定 住 と 資 金 協 力 を 核 とするアメリカの 難 民 政 策 が 今 後 の 方 向 性 を 示 唆 する この 方 向 性 は 自 力 で 逃 れてきた 難 民 の 庇 護 から 周 辺 国 に 滞 留 する 難 民 さらに 自 国 を 脱 出 すること も 出 来 ない 4000 万 人 の 国 内 避 難 民 の 保 護 へという 流 れの 延 長 線 上 にある 国 際 社 会 の 視 線 は 周 辺 国 から 難 民 発 生 国 の 内 部 へと 移 りつつある 再 定 住 の 利 点 は 女 性 や 孤 児 病 人 など 脆 弱 で 最 も 保 護 を 必 要 とする 難 民 を 優 先 的 に 移 住 させるという 人 道 性 である 再 定 住 はまた 治 安 上 の 懸 念 や 計 画 性 と 予 見 性 の 確 保 公 平 な 責 任 分 担 と 負 担 分 担 など 受 入 れ 国 の 利 害 を 考 慮 する 点 で 政 治 的 妥 当 性 を 持 つ 資 金 協 力 の 良 い 点 は 難 民 発 生 国 から 離 れた 国 や 個 人 でも 出 来 ることのほか 国 際 公 共 財 の 供 給 における 全 体 的 な 効 率 性 にある 先 進 国 での 難 民 支 援 コストは1 人 平 均 で 年 間 2 万 ドル 以 上 であるのに 対 し(DAC 加 盟 国 の 難 民 受 入 れの 初 年 度 費 用 は ODA の5%から 15% 総 額 では 2 兆 円 ) 周 辺 国 の 難 民 キャンプなどでの 支 援 コストは 年 間 1000 ドルで 先 進 国 の 20 分 の 1 である 生 活 水 準 の 違 いがこの 差 を 引 き 起 こす 難 民 発 生 の 周 辺 国 であれば 同 じ 資 金 量 で 20 倍 の 人 数 の 難 民 の 支 援 をするか 一 人 当 たりの 難 民 への 支 援 量 を 20 倍 に 増 やすことができる 計 算 だ 難 民 は 文 化 的 にも 近 い 周 辺 国 で 本 国 帰 還 を 待 つことができ 命 がけで 数 千 キロ 離 れた 国 に 行 く 必 要 性 は 減 る 昨 年 にトルコからギリシャ 経 由 でドイツなどに 数 十 万 人 の 難 民 が 向 かった 理 由 の 一 つ は トルコ 政 府 が 資 金 不 足 から 難 民 支 援 が 殆 ど 出 来 なかったことである 難 民 法 の 国 際 的 権 威 であるジェームス ハサウエイは 再 定 住 と 資 金 協 力 によ る 責 任 と 負 担 の 分 担 を 拡 大 した 難 民 の 国 際 的 保 護 体 制 の 再 構 築 を 提 案 している 提 案 の 第 1は 難 民 が 最 初 にたどり 着 いた 国 が 必 ず 庇 護 するのでなく 他 の 国 に 再 定 住 さ せられる 可 能 性 もあることについて 合 意 すべきだということである 難 民 は どこか の 国 から は 必 ず 保 護 を 受 けることができるが どの 国 から を 自 らは 選 べない そ うすることで 経 済 移 民 がドイツなど 一 部 の 国 に 向 かうインセンティブを 減 らすこ とができる 再 定 住 は 事 前 に 決 められた 受 入 れ 枠 ( 比 率 )によって 行 われるが 親 族 関 係 など 難 民 側 の 事 情 も 考 慮 されるだろう これは 管 理 された 移 動 の 導 入 である が EU 諸 国 が 費 やしている 国 内 での 巨 額 の 難 民 支 援 資 金 を 周 辺 国 に 移 転 し 文 化 的 言 語 的 にも 近 い 地 域 で 難 民 の 自 立 支 援 と 帰 国 準 備 を 促 進 する 可 能 性 を 持 つ 提 案 の 第 2は 資 金 拠 出 について 国 連 の 分 担 金 制 度 に 似 たしくみを 導 入 して あ らかじめ 各 国 の 負 担 割 合 を 決 めておき 難 民 の 発 生 に 備 えることである 今 の 支 援 体 制 では 難 民 危 機 が 発 生 してから 事 後 的 に 資 金 集 めが 始 まり 緊 急 事 態 には 間 に 合 わな いだけでなく 必 要 額 が 集 まらず 危 機 が 深 刻 化 し 易 い 経 済 力 人 口 今 までの 拠 出 5
実 績 などを 考 慮 に 入 れた 義 務 的 な 分 担 金 制 度 こそが 公 平 で 効 果 的 な 負 担 の 分 担 を 可 能 にするとハサウエイは 考 える 義 務 的 な 第 三 国 再 定 住 による 受 入 れと 財 政 的 貢 献 の 組 み 合 わせ 型 は それぞれの 国 の 地 理 的 条 件 経 済 力 人 口 歴 史 的 繋 がり 社 会 的 条 件 などによって 異 なるだろう ハサウエイはこれを 共 通 だが 差 違 ある 責 任 という 考 えで 正 当 化 する 7 終 わりに: 規 律 ある 人 道 主 義 を 目 指 して 難 民 の 保 護 を 個 々の 国 に 任 せるのでなく 国 際 的 に 定 められた 責 任 と 負 担 の 分 担 のも とで 行 うという 彼 の 提 言 は 難 民 保 護 という 国 際 公 共 財 の 供 給 における 個 人 のレベル と 国 のレベルでの ただ 乗 り を 封 じようとするものである 難 民 制 度 の 濫 用 の 自 由 と 各 国 の 責 任 負 担 分 担 を 逃 れる 自 由 を 認 めない 彼 の 提 案 は 強 い 抵 抗 に 会 うことも 予 想 される しかし 難 民 移 民 の 急 増 難 民 保 護 体 制 からのアメリカの 後 退 により 難 民 保 護 体 制 が 崩 壊 したとも 言 える 今 日 規 律 ある 人 道 主 義 のあり 方 を 示 したものと 言 えるハサウエイの 提 言 は 真 剣 に 考 慮 されるべきであろう 彼 の 提 言 は 今 年 9 月 の 国 連 難 民 特 別 総 会 に 提 出 されるが それを 巡 る 国 際 社 会 の 議 論 が 注 目 される 6