労災保険制度における積立金について 1 労災年金の概要 労災保険には 労災事故に遭われた方やそのご遺族に対して 年金を支給する制度があります 平成 21 年度には 約 23 万 3 千の受給者の方々に 総額約 4,500 億円 1 当たり平均で年額約 200 万円の年金を支給しました 労災保険では 将来にわたって確実に年金を支給するため 事業主の方々に納めていただく保険料から必要額を積み立て 年金の原資として保有しています ( これを 責任準備金 といいます ) 2 労災保険の積立金の考え方 (1) 労災保険の年金は 労働災害により障害が残った方 亡くなった方等のご遺族の生活を支えるため 将来にわたって年金を確実に支給する必要があり その費用は 積立金 ( 責任準備金 ) で賄っています (2) 労働災害に伴う補償の責任は 事故が発生した業種の事業主集団が負うべきであるという考え方から 年金を支給するための費用は 事故が発生した時点において 将来の支給に必要な分も含めて全額徴収し これを積立金 ( 責任準備金 ) として積み立てています (3) 業種別の労災保険率については 年金の支給実績と (2) の考え方に基づき 過不足が生じないように設定しており 原則として 3 年ごとに改定しています ( 直近の改定は平成 21 年度 ) (4) 年金を支給するために積立金 ( 責任準備金 ) を保有するには 次の利点があります 災害と関係のない業種 世代の事業主集団に負担をしわ寄せせずに済むことにより 業種間及び世代間の保険料負担の公平が図られます 労働災害の減少が保険料負担の減少につながり 事業主の災害防止努力を促します 3 必要な積立金の算定方法 将来にわたって年金を支給するために必要な積立金の額は 次のように算定します 1 (1) 年度末の年金受給者数と残存表を基に 次年度以降の各年度について年金受給者数を推計 (2) 1 当たりの年間の年金支給額に賃金上昇率を掛けることにより 次年度以降の各年度について1 当たりの 年金額を推計 賃金上昇率 : 年 1% と仮定 (3) (1) の数と (2) の金額を掛けることにより 次年度以降の各年度について年金支給額を算定 (4) (3) で算定した各年度の支給額を運用利回りで割り引いて合計 運用利回り : 年 2% と仮定 (5) 7 つの区分 2 ごとに (1)~(4) の計算を行い 合計した金額が 必要な積立金 1 残存表年金の受給を開始した々が 経過年数ごとにどのように推移するかをモデル化した表 詳しくは 残存表の見方と年金受給者数の将来推計 (297KB) をご参照ください 2 算定上の年金の区分 [1] 傷病 ( 補償 ) 年金 じん肺 [2] 傷病 ( 補償 ) 年金 せき損 [3] 傷病 ( 補償 ) 年金 その他 [4] 障害 ( 補償 ) 年金 (1~3 級 ) [5] 障害 ( 補償 ) 年金 (4~7 級 ) [6] 遺族 ( 補償 ) 年金 [7] 特別遺族年金 この方法で平成 21 年度末における必要な積立金を算定すると 8 兆 1,249 億円になります 詳しくは 労災保険における必要な積立金の算定方法 (343KB) をご参照ください 責任準備金については 貸借対照表の責任準備金欄 (87KB) をご参照ください 照会先 : 厚生労働省労働基準局労災補償部労災管理課労災保険財政数理室電話 03-5253-1111( 内線 5454 5455)
労災保険における必要な積立金の算定方法 1 必要な積立金とは (1) 年金は 一般的に支給が長期間にわたるため 将来の支払いを保証する仕組みが必要です (2) 労災保険では 労働災害に伴う補償責任は 事故が発生した業種の事業主集団が負うべきであるとの考え方をとっています (3) この考え方に基づき それぞれの年度において その年度の新たな年金受給者に対して年金を支給するのに必要な原資を 将来分も含めて (2) の事業主集団から全額徴収して積み立てられるように労災保険率を設定しています (4) 労災保険では 現在の年金受給者全員が将来にわたり確実に受給できるよう 必要な原資を毎年度算定し ( これを 必要な積立金 ( 責任準備金 ) と呼んでいます ) 実際の積立金が 必要な積立金 ( 責任準備金 ) に過不足のない額であるように管理しています 2 おおまかな算定の流れ (1) 算定の前提必要な積立金は 表 1 のとおり 年金を 7 つに分けて算定しています なお 傷病 ( 補償 ) 年金や障害 ( 補償 ) 年金は 傷病の種類や障害の程度により細分して算定しています 表 1 必要な積立金の算定上の年金区分 年金の区分 1 労災保険 2 船員保険 1 傷病 ( 補償 ) 年金 じん肺 2 傷病 ( 補償 ) 年金 せき損 3 傷病 ( 補償 ) 年金 その他 4 障害 ( 補償 ) 年金 (1~3 級 ) 5 障害 ( 補償 ) 年金 (4~7 級 ) 6 遺族 ( 補償 ) 年金 7 特別遺族年金 3 1 労災保険では 業務災害に対して支給する年金と 通勤災害に対して支給する年金とを区別し 前者には 傷病補償年金 のように名称に 補償 を入れ 後者には 傷病年金 のように補償を入れていません 必要な積立金の算定時には この両者を区別せずに合わせているため 傷病 ( 補償 ) 年金 と表示しています 2 船員保険の職務上年金部門は 平成 22 年 1 月 1 日に労災保険に統合されましたが それ以前から船員保険の職務上年金を受給している方々の分については 区分して算定しています 3 船員保険の職務上年金部門には 7( 特別遺族年金 ) の欄の該当はありません 使用する数値は次のとおりです ア年金受給者数 ( 各年度末時点で集計 ) 1 イ残存表 ( 年金受給開始時からの経過年数ごとに年金受給者数の平均的な推移をまとめた表 ) 1,3 ウ 1 当たりの年金額 ( 年額 )( 毎年度集計 ) 1 エ賃金上昇率 ( 年率 1% と仮定 ) 2 オ運用利回り ( 年率 2% と仮定 ) 2 1 アイウは 必要な積立金の算定上の区分ごとに作成します 2 エオの数値は 経済状況などにより見直します 3 残存表の見方と利用法については 残存表の見方と年金受給者数の将来推計 をご参照ください 1
(2) 算定の手順必要な積立金の算定上の区分ごとに 1~6 の計算を行い 合計額が必要な積立金となります 1 各年度の平均受給数の算定 1-1 年金受給者数 ( ア ) を 各が年金の受給を開始した年度ごとに分ける 1-2 年度ごとに分けた年金受給者数を基に残存表 ( イ ) を用いて 将来の各年度末の年金受給者数を推計する (0 になる年度まで推計する ) 1-3 将来の各年度について 当年度末と前年度末の年金受給者数を平均し その年度の平均受給数を算定する 2 1 当たりの年金額 ( ウ ) に賃金上昇率 ( 毎年度年率 1%) を掛け 将来の各年度について 1 当たり年金額を推計する 3 対応する年度ごとに 1-3 で算定した年度平均の年金受給者数に 2 で推計した各年度 1 当たりの年金額を掛け 将来の各年度に必要な支給合計額を算定する 4 3 で算定した各年度の支給合計額を 必要な積立金を算定する年度における現在価値にするため 運用利回り ( 年率 2%) で割り引きする 5 4 で算定した将来の各年度の支給額 ( 現在価値 ) を合計すると その区分の年金受給者への支給に必要な積立金 ( 支給合計額 ) となる 6 表 1 にある 7 つの年金の区分について 1 から 5 の計算を行い 算定した金額を合計したものが 必要な積立金である 2
3 具体的な算定例 平成 21 年度末時点の障害 ( 補償 ) 年金 4~7 級のデータを使って必要な積立金の算定を説明します なお 1~6 の番号は 2 の (2) で示した手順番号に対応しています 1 各年度の平均受給数の算定 1-1 年金受給者を年金の受給を開始した年度 ( 裁定を受けた年度 ) ごとに分ける 表 2 のように 77,795 の年金受給者を年金の受給を開始した年度ごとに分けます ( 平成 18 年度以前は省略しています ) 表 2 年金受給開始年度ごとの年金受給者数 ( 平成 21 年度末 ) 合計 ( 単位 : ) 受給開始年度 ( 裁定年度 ) 平成 21 年度平成 20 年度平成 19 年度 77,795 1,642 1,543 1,689 1-2 残存表を使い 平成 22 年度以降の年金受給者数を推計する 表 3 の残存表によると 経過年数 1 年に 99,487 いた年金受給者は 経過年数 2 年には 98,459 となるので 平成 21 年度末の年金受給者のうち 平成 21 年度に年金の受給を開始したが その 1 年後 ( 平成 22 年度末 ) に年金受給者として残存する確率は となります 残存表の見方と利用方法については 残存表の見方と年金受給者数の将来推計 をご参照ください 平成 21 年度末の年金受給者のうち 平成 21 年度に年金の受給を開始したは 1,642 なので この確率を使って 平成 22 年度末に引き続き年金を受給しているは となります 同様に 平成 20 年度に年金の受給を開始したは 1,543 なので 平成 22 年度末に引き続き年金を受給しているは となります 3
表 3 障害 ( 補償 ) 年金 (4~7 級 ) の残存表の一部 経過年数定常残存数 0 1 99,487 2 98,459 3 97,455 4 96,499 : : 残存表の見方と利用方法については 残存表の見方と年金受給者数の将来推計 をご参照ください 他の年度についても同様に計算し 平成 22 年度末における年金受給者数を合計すると 75,482 となり これが平成 22 年度末の推計年金受給者数となります 平成 23 年度以降においても同様の計算を行います 表 4 は 平成 22 年度以降の推計年金受給者数をまとめたものです 表 4 平成 22 年度以降の推計年金受給者数 年金の受給開始年度 ( 裁定年度 ) 年金の受給開始年度 ( 裁定年度 ) 合計年度末平成 21 年度平成 20 年度平成 19 年度昭和 43 年度昭和 42 年度昭和 41 年度 ( 単位 : ) ( 推計 ) 22 年度 1,625 1,527 1,672 1,559 1,512 1,327 75,482 23 年度 1,608 1,512 1,656 1,469 1,422 1,246 73,171 24 年度 1,592 1,497 1,639 1,382 1,335 1,167 70,863 25 年度 1,577 1,482 1,622 1,297 1,251 1,092 68,561 26 年度 1,561 1,466 1,604 1,216 1,170 1,019 66,266 27 年度 1,544 1,450 1,585 1,137 1,092 949 63,981 28 年度 1,527 1,433 1,564 1,061 1,017 881 61,708 29 年度 1,509 1,414 1,542 988 945 817 59,449 51 年度 875 797 844 60 49 35 18,633 52 年度 839 763 807 47 38 27 17,369 53 年度 804 730 771 37 29 20 16,164 71 年度 283 249 255 0 0 0 3,219 72 年度 262 230 234 0 0 0 2,871 73 年度 242 212 215 0 0 0 2,551 1-3 年度平均年金受給者数を算定する 各年度について その年度と前年度の各年度末時点の年金受給者数を平均し その年度の平均受給者数を算定します ( 表 5 の A) 2 平成 22 年度以降の 1 当たりの年金額を推計する 平成 21 年度の障害 ( 補償 ) 年金 (4~7 級 ) 支給額 ( 支給実績 ) を平成 21 年度の年度平均年金受給者数で割って 平成 21 年度の 1 当たりの年金額を算定します (1,509,057 円 ) そして 平成 22 年度以降は毎年度 賃金上昇率 ( 年率 1%) だけ 1 当たりの年金額が増加するものとして 前年度の 1 当たりの年金額を 1.01 倍します ( 表 5 の B) 4
3 各年度に必要な支給合計額を算定する ( 表 5 の A B) 4 平成 21 年度末における 3 の現在価値を算定する ( 表 5 の A B C) 上記 1-3~5 の計算を表の形にすると表 5 のようになります この計算の結果 平成 21 年度末における障害 ( 補償 ) 年金 (4~7 級 ) の支給に必要な積立金は 2 兆 927 億 5,200 万円と算定されます ( 表 5 の右下 ) 年度 表 5 平成 21 年度末に必要な障害 ( 補償 ) 年金 (4~7 級 ) の積立金の算定 年度末年金受給者数 年度平均年金受給者数 年金単価 ( 平成 21 年度 ) 賃金上昇率の累積 1/ 運用利回りの累積 支給費用 (21 年度末の現在価値 ) A B C (A B C) ( 実績 ) 円百万円 平成 21 年度 77,795-1,509,057 - - - - ( 推計 ) 22 年度 75,482 76,638 1,509,057 1.010000 (1.0%) 1.000000 116,809 23 年度 73,171 74,327 1,509,057 1.020100 (1.0%) 0.980392 112,175 24 年度 70,863 72,017 1,509,057 1.030301 (1.0%) 0.961169 107,624 : : : : : : : 51 年度 18,633 19,296 1,509,057 1.347849 (1.0%) 0.563112 22,102 52 年度 17,369 18,001 1,509,057 1.361327 (1.0%) 0.552071 20,416 53 年度 16,164 16,766 1,509,057 1.374941 (1.0%) 0.541246 18,830 71 年度 3,219 3,407 1,509,057 1.644632 (1.0%) 0.378958 3,205 72 年度 2,871 3,045 1,509,057 1.661078 (1.0%) 0.371528 2,836 73 年度 2,551 2,711 1,509,057 1.677689 (1.0%) 0.364243 2,500 平成 21 年度末に必要な障害 ( 補償 ) 年金 (4~7 級 ) の積立金 計 2,092,752 支給費用欄は 百万円未満を四捨五入しています 5 4 で算定した各年度の支給合計額 ( 現在価値 ) を合計し 平成 21 年度末における障害 ( 補償 ) 年金 4~7 級に必要な積立金を算定する 6 7 つの年金区分のそれぞれについて 1 から 5 の手順で算定し 結果を合計する 表 1 で示した他の年金の区分についても 1 から 5 の計算を行い これら全ての合計が 労災保険における年金支給に必要な積立金となります 5
4 必要な積立金の算定結果 3 により算定した結果が 表 6 の 必要な積立金額 ( 右端 ) です 必要な積立金算定上の区分 表 6 平成 21 年度末における年金受給者数と必要な積立金額 年金受給者数 ( ) 必要な積立金額 ( 億円 ) 1 労災保険船員保険労災保険船員保険 1 傷病 ( 補償 ) 年金 じん肺 5,426 0 2,139 0 2 傷病 ( 補償 ) 年金 せき損 2,176 1 1,382 1 3 傷病 ( 補償 ) 年金 その他 1,740 4 1,082 2 4 障害 ( 補償 ) 年金 (1~3 級 ) 18,144 225 8,821 80 5 障害 ( 補償 ) 年金 (4~7 級 ) 77,795 1,388 20,928 248 6 遺族 ( 補償 ) 年金 117,719 8,331 44,121 1,988 2 7 特別遺族年金 972 458 合計 223,972 9,949 78,930 2,319 1 必要な積立金額欄は億円未満を四捨五入しているため 端数は必ずしも一致しません 2 特別遺族年金は 石綿による健康被害の救済に関する法律 に基づくものであり その必要な積立金は 遺族 ( 補償 ) 年金の残存表を用いて算定しています 必要な積立金は 毎年度末に数理計算に基づき算定し 労働保険特別会計財務書類の責任準備金の科目に記載し 公表しています 現在の算定方法は 平成元年に学識経験者による 労災保険財政研究会 が示した基本方針に従い導入したものです 6
労災勘定 ( 単位 : 百万円 ) 前会計年度 本会計年度 前会計年度 本会計年度 ( 平成 21 年 ( 平成 22 年 ( 平成 21 年 ( 平成 22 年 3 月 31 日 ) 3 月 31 日 ) 3 月 31 日 ) 3 月 31 日 ) < 資産の部 > < 負債の部 > 現金 預金 8,305,321 8,352,993 未払金 29 27 未収金 49,148 50,367 支払備金 184,822 180,576 未収収益 33,408 33,134 未経過保険料 20,361 15,960 前払金 17,553 6,246 他会計繰入未済金 - 1,845 前払費用 10 8 賞与引当金 1,612 1,584 貸倒引当金 24,501 24,928 責任準備金 7,977,520 8,124,915 有形固定資産 89,916 85,374 退職給付引当金 41,374 40,759 国有財産 ( 公共用財産を除く ) 86,213 82,159 土地 28,967 28,642 立木竹 317 317 建物 41,608 39,756 工作物 15,116 13,254 建設仮勘定 203 188 物品 3,703 3,215 無形固定資産 6,084 8,155 出資金 169,447 170,209 貸借対照表 負債合計 8,225,721 8,365,669 < 資産 負債差額の部 > 資産 負債差額 420,668 315,893 資産合計 8,646,389 8,681,562 負債及び資産 負債差額合計 8,646,389 8,681,562