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1 05 2 3 05 05 05 06 08 4 17 17 17 18 5 18 19 19 19 18 6 20 04
1 統計の基礎データについて 適格消費者団体による差止請求成果事例 は 消費者庁が適格消費者団体に対して実施したアンケートにて 適格認定後に行った差止請求によって当該事業者による対応が図られたもののうち 改定後の契約条項等を把握しているとの回答がなされた事案及び訴訟が終了している事案を基礎としています ( 平成 25 年 7 月 5 日時点 ) ここでは 111 件 (113 事業者 ) を対象に差止請求が行われています 差止めの対象となった勧誘行為 契約条項は 全部で 244 ありますが 1つの条項等に対して 複数の条文を根拠に申入れた事例もあるため 差止めの根拠となった条文は 301 となります 2 差止請求の根拠法令 はじめに のとおり 法改正により 適格消費者団体に差止請求権 が認められたわけですが 消費者契約法が定める不当勧誘行為や不当条 項に対して差止請求を行えるようになったのは平成 19 年 6 月 7 日以降 景品表示法が定める不当表示に対して差止請求を行えるようになったのは平成 21 年 4 月 1 日以降 特定商取引法が定める不当勧誘行為や不当 条項 不当広告に対して差止請求を行えるようになったのは平成 21 年 12 月 1 日以降です ( いずれも 改正法施行日 ) なお 平成 25 年の法 改正により 差止請求の対象が食品表示法にも拡大されます ( 未施行 ) 適格消費者団体が いずれの法令を根拠に差止めを求めているかについてみると 右図のとおり 圧倒的に 消費者契約法に基づく差止請求 が多いことがみてとれます なお その他に 強行規定に反することを 是正根拠とした差止めの申入れ事例があります (20 頁 6. その他の法 令に基づく申入れ活動 ) 3 消費者契約法に基づく差止請求 (1) 根拠条文次に 消費者契約法の中で どの条文を根拠に差止めを求めているかについてみると 以下のとおりになりました 不当勧誘行為 不当条項 不当勧誘行為が 12 不当条項が 252 と 圧倒的に 不当条項に対する差止めが多いことがみてとれます 不当条項の中でも 8 条によるものが 39 9 条によるものが 77 10 条によるものが 136 と 一般条項の 10 条が最も活用されており 次に 9 条が多く利用されていることがうかがえます 05
(2) 不当勧誘行為 ア不実告知 ( 消費者契約法 4 条 1 項 1 号 ) 成果事例一覧 1-1 13-2 15-1 18-1 30-2 不実告知とは 事業者が重要事項について事実と異なることを告げて 契約の勧誘をすることで 不特定多数の消費者に対して 勧誘の際に不実告知を行い又は行うおそれがある場合 差止請求の対象となります 適格消費者団体が 消費者契約法 4 条 1 項 1 号の不実告知を根拠として差止めた行為は 5 事例あります 事業者の事業内容は コンピュータプログラム販売業 自動車販売 買取業 投資組合 銀行業 語学教室と 一定の業種に偏りがあるというわけではなく 様々な業種にわたっていることがみてとれます 具体的には 1コンピュータプログラム販売業が実際には有料であるのに ウェブページ上の確認画面等に無料であるかのような表示がされていた事例 (No.13-2) 2 銀行が既存の借入について利息制限法を超えた利息の支払い義務があるかのように誤認させて おまとめ融資を勧誘する広告等に関する事例 (No.15-1) 3 投資組合が株式公開の具体的予定がないのに株式公開される予定であるなどとパンフレットに記載するなどして消費者に告げていた事例 (No.18-1) 4 語学教室が実際には異なるにもかかわらず いつでも好きなときに受講できる としていた事例 (No.1-1) などです ( なお No.30-2 は 8 条が主な根拠で 不実告知は付随的な根拠のようです ) このうち 4 件は それぞれウェブ画面 広告 パンフレット 契約書などの勧誘手段によるもので No.1-1 の事例のみが対面での勧誘となっています 勧誘内容を立証しなければならないことと 差止請求の対象が 不特定かつ多数の消費者に対して不実告知が行われ あるいはそのおそれがある場合であることが要件とされているため 不特定かつ多数を対象とした勧誘手段が用いられている事例が多いものと考えられます イ断定的判断の提供 ( 消費者契約法 4 条 1 項 2 号 ) 成果事例一覧 18-1 断定的判断の提供とは 契約の目的となるものについて 価格や消費者が受け取れる金額など将来の変動が不確実な事項について 事業者が断定的な判断を提供して勧誘することです 不特定多数の消費者に対して 勧誘の際に断定的判断の提供を行い又は行うおそれがある場合 差止請求の対象となります 適格消費者団体が 消費者契約法 4 条 1 項 2 号の断定的判断の提供を根拠として差止めた行為が 1 事例あります (No.18-1) 事業者の事業内容は投資組合で 前述の不実告知で差止めを求めたのと同じ事案です この事例では 投資組合が 株式公開の具体的予定のない未公開株の販売勧誘に際して 株価が確実に上昇する との断定的判断を提供した として差止めを求めたものです ウ不利益事実の不告知 ( 消費者契約法 4 条 2 項 ) 成果事例一覧 1-1 3-1 11-3 15-1 18-1 不利益事実の不告知とは 商品やサービスなどの内容や質 取引の条件などの重要事項について 消費者に利益となることを説明しながら 他方でその重要事項に関し消費者に不利益になることを故意に説明しないで勧誘すること 06
です 不特定多数の消費者に対して 勧誘の際に不利益事実の不告知を行い又は行うおそれがある場合 差止請求の対象となります 適格消費者団体が 消費者契約法 4 条 2 項の不利益事実の不告知を根拠として差止めを求めた行為は 5 事例あります 事業者の事業内容は 海外留学あっせん業 無線通信業 投資組合 銀行業 語学教室と 一定の業種に偏りがあるというわけではなく 様々な業種にわたっていることがみてとれます 具体的には 1 海外留学あっせん業者が 看護師コース に進学できる留学であるように説明しながら そのコースに入学するための語学レベルは非常に高いため 留学してもそのレベルに達しない可能性があるという不利益事実を故意に告げていないと差止めを求めた事例 (No.3-1) 2 無線通信業者がセット販売契約の広告 店頭での勧誘において パソコンを格安あるいは無料で購入できるとしながら 他方で当該事業者の通信プランを契約期間の途中で解約した場合には解約料が発生する旨の不利益事実を故意に告げていないと差止めを求めた事例 (No.11-3) 3 投資組合が 未公開株を入手させることができると告げながら 実際には事業者は未公開株を適法 適正に取引する資格 能力がないという不利益な事実を故意に告げていないと差止めを求めた事例 (No.18-1) 4 銀行が 既存の借入を一本化する おまとめローン の広告において 返済月額が大幅に軽減されるという利益となる事項を告げながら 他方で 利息制限法による救済機会が失われるという不利益事実を故意に告げていない として差止めを求めた事例 (No.15-1) 5 語学教室が いつでも自由に受講日や受講時間を決められるわけではないという不利益事実を告げないまま 受講期間内の受講回数は無制限 他の教室と比べて受講料が安い などと利益となる事項のみを告げている として差止めを求めた事例 (No.1-1) があります エ不退去 ( 消費者契約法 4 条 3 項 1 号 ) 不退去とは 事業者が消費者から自宅または勤務先から退去してほしいとの意思を示されたにもかかわらず 事業者が退去せず勧誘をすることです 不特定多数の消費者に対して 勧誘の際に不退去に該当する行為を行い又は行うおそれがある場合 差止請求の対象となります 適格消費者団体が 消費者契約法 4 条 3 項 1 号の不退去を根拠として差止めを求めた事例は いまのところ みあたりません オ退去妨害 ( 消費者契約法 4 条 3 項 2 号 ) 成果事例一覧 1-1 退去妨害とは 契約の勧誘がなされている場所から消費者が退去したいとの意思を示しているにもかかわらず 退去させないで勧誘することです 不特定多数の消費者に対して 退去妨害に該当する行為を行い又は行うおそれがある場合 差止請求の対象となります 適格消費者団体が 消費者契約法 4 条 3 項 2 号の退去妨害を根拠として差止めを求めた行為が 1 事例あります (No.1-1) 事業者の事業内容は語学教室で 前述の不実告知及び不利益事実の不告知で差止めを求めたものと同じ事案です 具体的には 語学教室に対して 消費者が 一度家に帰ってから考えたい と述べるなどして勧誘をしている場所から退去する意思を表明しているにもかかわらず その場所から退去させないで勧誘を続ける行為の差止めを求めたものです 07
(3) 不当条項 ア免責条項 債務不履行責任の全部免除 ( 消費者契約法 8 条 1 項 1 号 ) 成果事例一覧 2-2 14-1 14-2 21-1 23-3 23-4 23-8 23-10 28-2 30-7 32-1 33-1 34-1 8 条 1 項 1 号は 事業者に債務不履行責任がある場合でも 一切損害賠償責任を負わないとの条項は無効とするもので これに該当する契約条項が差止請求の対象となります 適格消費者団体が 消費者契約法 8 条 1 項 1 号の債務不履行責任の全部免除を内容とする免責条項を根拠として差止めを求めた条項は 14 あります 事業者数としては 13 事業者で 事業内容は 不動産賃貸業 予備校 ネイル まつげエクステンションサロン経営 通信販売業 プロ野球興行業 スポーツクラブ 法律事務所 自動車販売 買取業 ペット販売業と多岐にわたっています うち不動産賃貸業が 4 事業者 通信販売業が 2 事業者という状況です 実際に対象となっている条項としては 以下のとおり事業者に帰責事由があるか否かを問わず 消費者は一切請求できない あるいは 事業者は一切責任を負わない という趣旨のものがほとんどです この場合には事業者に債務不履行による責任がある場合を当然含みますから 同条が適用になると考えられます 具体的には 1 建物賃貸借契約に関し 1) 明渡しの際 賃借人が損害賠償請求をできないとする条項 (No.23-3) 2) 賃貸物件に設定されている抵当権が実行されて賃借人が新所有者に対抗できない場合でも 事業者は賃借人に対して損害賠償責任を負わないことを確認する条項 (No.23-4) 3) 契約が解除されて賃借人が明渡しを怠った場合に 賃貸人が直ちに明渡しを執行するものとし その際賃借人は損害賠償その他の名目を問わず一切請求しない旨の条項 (No.23-10) 2 予備校受講契約において 教室内における負傷 盗難等に 事業者が原則責任を負わないとする条項 (No.2-2) 3ネイル等サロンにおける依頼の際の誓約書に 万一身体症状に異常が発生しても 事業者が一切責任を負わないことを了承し 一切の請求権を放棄する 旨を定める条項 (No.21-1) 4 通信販売において 1) ユーザーの書き込みに関する事業者の法的責任を全部免責する条項 (No.14-1) 2) 商品を配送業者に引き渡した時点で紛失に関して事業者は免責されるとの条項 (No.14-2) 5プロ野球の試合観戦契約において 主催者またはその職員等の故意又は重過失に起因することなく発生した損害については責任を負わないとする条項 (No.33-1) 6スポーツクラブ利用契約において 施設の増改築 修繕または点検により施設の全部または一部を閉鎖 もしくは休業した場合であっても 利用会員の会費支払義務が減免されることはない旨の条項 (No.32-1) 7 駐車場利用契約において 1) 事業者は駐車場内での事故 盗難 物損 除雪 落書等に関して一切責任を負わないとの条項 (No.23-8) 2) 事業者は利用者の車両の移動あるいは駐車位置の変更を行うことができますが これについての利用者の損害に関して一切責任を負わないとする条項 (No.23-8) 8 弁護士に対する委任契約において 委任者は弁護士の行う債務整理の内容 和解金額 支払い回数 和解の内容について 一切異議を述べないとする条項 (No.28-2) 9 自動車販売の注文書において 事業者が注文に応じられない場合に 注文者は一切異議を述べないとする条項 (No.30-7) 10ペット販売において 販売した犬 猫を原因とする事故 伝染病 所有物の汚染等に関しては一切責任を負わないとする条項 (No.34-1) があります イ免責条項 債務不履行責任の一部免除 ( 消費者契約法 8 条 1 項 2 号 ) 成果事例一覧 2-2 6-2 6-4 26-1 31-3 33-1 34-2 8 条 1 項 2 号は 事業者の故意又は重過失による債務不履行の場合 その損害賠償責任を たとえ一部であっても 08
免責する条項は無効 とするもので これに該当する契約条項が差止請求の対象となります 適格消費者団体が 事業者の債務不履行責任の一部免除を内容とする契約条項に対して 8 条 1 項 2 号を根拠として差止めを求めた事例は 8 つあります 事業者数としては 7 事業者で 事業内容は 有料老人ホーム 結婚式場運営業 トランクルーム貸業 ペット販売業 予備校 プロ野球興行業と多岐にわたっており うち結婚式場運営業が 2 事業者という状況です 実際に対象となった事案では 事業者に故意あるいは重過失があるか否かを問わず損害賠償責任を一部に限定するものが殆どです このような条項では故意または重過失がある場合にも 損害賠償責任が限定される結果となるため 同条に該当することになると考えられます 具体的には 1 有料老人ホームの入所契約において 介護中の事業者の責任による怪我等の損害賠償は ホーム加入の損害賠償保険の範囲内にて行う旨の条項 (No.31-3) 2 結婚式場運営業者が 1) 結婚式において写真 ビデオ 演出等で機械の故障や不慮の事故等で 撮影並びにご注文品ができなかった場合にはその料金内で補償充当するとの条項 (No.6-2) 2) 挙式 披露宴の際に演出ができなかった場合 又は何らかの不備が生じた場合は当該商品の料金の返済をもって容赦願う旨の条項 (No.6-4) 3トランクルームの賃貸借において 事業者に故意又は重大な過失がある場合でも直接損害に限り責任を負う旨の条項 (No.26-1) 4ペットの販売において 事業者の定める保証の対象外でない場合であって かつその保証期間内に死亡 飼育上重大な支障を来す先天的障害があった場合に 1 回だけ事業者が選択する同等価格の生体と交換することとし それ以外一切責任を負わないとする条項 (No.34-2) が差止請求の対象となっています なお 予備校が用いていた 教室内における負傷 盗難等は原則として責任を負いません という条項について 文言上は例外的に責任を負う場合があることを想定しているとしても 故意又は重過失の場合に責任を限定しているものと考えて 本条項に該当するとして差止め根拠としたものがあります (No.2-2) ウ免責条項 不法行為責任の全部免除 ( 消費者契約法 8 条 1 項 3 号 ) 成果事例一覧 2-2 13-1 14-1 21-1 23-3 23-8 23-10 25-1 34-1 8 条 1 項 3 号は 事業者の不法行為による損害賠償義務を全部免除する条項を無効とするもので これに該当する契約条項が差止請求の対象となります 適格消費者団体が 事業者の不法行為責任の全部免除を内容とする契約条項を 8 条 1 項 3 号を根拠として差止めを求めた事例は 10 あります 事業者数としては 9 事業者で 事業内容は 不動産賃貸業 ゲームサイト運営業 予備校 通信販売業 ネイル まつげエクステンションサロン経営 賃貸住宅保証業 ペット販売業ですが うち不動産賃貸業が 3 事業者という状況です 実際の契約条項では 債務不履行と不法行為を区別することなく 損害賠償責任を免除しているものが殆どであるため 8 条 1 項 1 号で説明した事案と重なるものが多く 8 条 1 項 3 号だけを根拠としているものは 2 事例だけです この 2 事例を具体的にみますと 1 建物賃貸借契約において 賃貸借終了後 7 日が経過しても明渡しが完了しない場合あるいは鍵が返還された後に建物内に動産類が残置されている場合には 賃借人はその所有権を放棄することを承諾し 賃貸人が任意に搬出 保管 処分しても異議 損害の請求を申立てないとする条項 (No.25-1) 2インターネットを利用したゲームに関して サービスを利用できなかったこと 不正アクセスや不正改変がなされたこと 本サービス中の他のユーザーによる発信 送信行為 その他本サービスに関連する事項に起因または関連して生じた一切の損害について事業者は責任を負わないとする条項 (No.13-1) が対象とされています 09
エ免責条項 不法行為責任の一部免除 ( 消費者契約法 8 条 1 項 4 号 ) 成果事例一覧 2-2 6-4 26-1 31-3 34-2 8 条 1 項 4 号は 事業者の故意又は重過失による不法行為の場合 その損害賠償責任をたとえ一部であっても免責する条項は無効とするもので これに該当する契約条項が差止請求の対象となります 適格消費者団体が 事業者の不法行為責任の一部免除を内容とする契約条項を 8 条 1 項 4 号を根拠として差止めを求めた事例は 5 つあります 事業者数も 5 事業者で 事業内容は 予備校 結婚式場運営業 トランクルーム貸業 有料老人ホーム ペット販売業と多岐にわたっています ただし 実際の契約条項では 債務不履行と不法行為を区別せずに一部免責を定めているため 全ての事例が 8 条 1 項 2 号で説明している事例と同一のものです オ免責条項 - 瑕疵担保責任の全部免除 ( 消費者契約法 8 条 1 項 5 号 ) 成果事例一覧 30-2 34-2 8 条 1 項 5 号は 商品に瑕疵 ( 欠陥 ) があったことにより消費者に損害が生じた場合に 事業者の損害賠償義務を全部免除する条項は無効とするもので これに該当する契約条項が差止請求の対象となります 適格消費者団体が 事業者の瑕疵担保責任の全部免除を内容とする契約条項を 8 条 1 項 5 号を根拠として差止めを求めた事例は 3 つあります 事業者数としては 2 事業者で 事業内容は 自動車販売 買取業 ペット販売業です 具体的には 1 中古車販売において 1) 走行不明と記載された車両に関し 私は納車後にいかなる事情が発生したり 計器及びメーターの改ざん もしくは計器の交換 及び流通履歴が立証されても 貴社には一切責任を追及したり 異議申立などをいたしません 民事責任 も免責といたします との条項 (No.30-2) 2) 改造車 社外品の装着車に関しては一切クレームは受付けず 修理費などの請求はできない また 事故車 災害車に関しては見解違いによるクレーム又は修復履歴提示車については 修復の大小及び別箇所に関するクレームは一切応じかねるとの条項 (No.30-2) 2ペット販売において 事業者の定める保証の対象外でない場合であって かつその保証期間内に死亡 飼育上重大な支障を来す先天的障害があった場合に 1 回だけ事業者が選択する同等価格の生体と交換することとし それ以外一切責任を負わないとする条項 (No.34-2) が 8 条 1 項 5 号に関して差止請求の対象となっています 2の事例では 適格消費者団体は ペットの場合には代替の犬 猫は当該消費者を満足させる代物給付になり得ないから このような条項は 瑕疵担保責任の全部を免責するのに等しい として 8 条 1 項 5 号に該当する条項であるとしています カ解除に伴う損害賠償額の予定条項 ( 消費者契約法 9 条 1 号 ) (a) 解除に伴う損害賠償額の予定条項についての概要 9 条 1 号は 契約解除の際に消費者が支払うべき損害賠償の予定や違約金 ( 以下 違約金等 という ) を定める場合に それが解除の時期などに応じて 同種の契約の解除の場合に事業者に生じる平均的な損害額を超える金額の場合には その超える部分を無効としています これに該当する契約条項が差止請求の対象となります 適格消費者団体が 消費者契約法 9 条 1 号に基づき 事業者が定める解除に伴う違約金等の条項が平均的損害を超える として差止めを求めた条項は 72 あります 事業者数としては 50 事業者で 事業内容は 予備校 専門学校 海外留学あっせん業 通信制講座運営業 貸衣装業 結婚式場運営業 冠婚葬祭運営業 納骨堂経営 結婚相手紹介サービス業 探偵業 住宅関連金融業 歯科医院 エステスクール 建築請負業 不動産賃貸業 法律事務所 司法書士事務所 自動車販売 買取業 有料老人ホーム スポーツクラブと 極めて多岐にわたっています このことから 事業者が 9 条 1 号を認識せずに 割合不用意に使用しているケースは多いように思われます 10
差止めた条項 72 のうち 結婚式場運営業のものが 12 自動車販売 買取業のものが 10 貸衣装業のものが 9 不動産賃貸業のものが 6 という状況です 9 条 1 号に違反するとして差止めを求めた条項の業種別内訳 (b) 差止めを求めた条項の具体的内容また 差止めを求めた条項の具体的な内容を分類すると 解除 中途解約時の違約金 に関するものが 43 費用不返還 に関するものが 19 明渡遅滞時の違約金 に関するものが 3 解約等制限 に関するものが 2 事情変更時の違約金 に関するものが 1 償却条項 に関するものが 1 賃貸人からの解除事由 に関するものが 1 人数の確定 に関するものが 1 みなし成功報酬特約 に関するものが 1 であり そのうち 解除 中途解約時の違約金 と 費用不返還 に関する条項に集中していることがみてとれます 差止内容 解除 中途解約時の違約金等 該当する成果事例一覧 2-4 3-1 5-1 5-2 5-3 5-4 5-5 6-2 6-3 6-4 6-5 6-6 7-1 7-2 7-3 7-4 10-1 10-2 16-3 19-3 22-1 22-2 22-3 23-5 23-9 28-2 30-2 30-3 30-4 30-5 30-6 30-7 費用不返還 2-9 2-10 2-12 2-14 2-15 3-1 6-1 6-3 8-1 9-1 19-1 19-2 22-3 28-1 31-1 31-3 32-1 明渡遅滞時の違約金 23-4 23-6 23-10 解約等制限 5-4 5-5 事情変更時の違約金 償却条項 7-14 31-1 賃貸人からの解除事由 人数の確定 みなし成功報酬特約 23-8 6-4 28-2 (c) 解除 中途解約時の違約金 に関する条項差止めの対象となった 43 の 解除 中途解約時の違約金 に関する条項についてみますと 事業者数としては 32 事業者で 事業内容は 予備校 海外留学あっせん業 貸衣装業 結婚式場運営業 冠婚葬祭運営業 探偵業 住宅関連金融業 歯科医院 建築請負業 不動産賃貸業 司法書士事務所 自動車販売 買取業という状況です 1 業種としてもっとも多かったのは 自動車販売 買取業に関するもので 10 事例ありました そのうち 7 事例は事業者が中古車の買取りをする場合の契約書中の不当条項です 売主である消費者が契約を解除する場合に 事業者はそれまでに要した費用の他に 違約金等として 代金の 5%~30% の違約金を取得できるとする条項がそれぞれ差止請求の対象となっています また契約車両に事故歴などがあることが判明した場合は売主は買主に対して 代金の 10% あるいは 30% の違約金を支払う条項がそれぞれ差止請求の対象となっています また事業者が中古車を販売する場合にも 買主である消費者から契約解除する場合には 代金額の 20% あるいは 30% の違約金を支払うとする条項が差止請求の対象となっています ( 詳しくは 76 頁 項目 30 をご覧ください ) 11
9 条 1 号が 解除に伴って当該事業者に生じる平均的な損害の額を超える違約金等の定めについて その超える部分を無効としていることから 費用以外に多額の違約金等の定めをしている場合や 通常損害発生の可能性が少ないと考えられる 契約成立から間もない時期でも多額の違約金等を取得できると解釈できる条項は無効なものとして 差止請求がなされているように思われます 2 つぎに結婚式場に関するものが 8 事例あります 差止請求の対象は 消費者から解除した場合のキャンセル料に関する定めですが 各事業者によって 解除の時期の区分 それに対応するキャンセル料の額の定め方がかなり異なります 結婚式や披露宴の場合 申込時期がかなり以前であることが多く 挙式などから数ヶ月前のキャンセルであれば 他の申込みでカバーされる可能性が高く また 近い時期の解約の場合でも食材など他への転用が可能なものがあること等から考えると 挙式等のかなり以前から違約金等の負担を求める あるいは挙式に近い時期といえども代金の 100% に相当する違約金等の負担を求める事業者のキャンセル条項は 9 条 1 号の事業者に生ずべき平均的損害を超えて違約金等を徴求する規定になっているものと考えられます ( 詳しくは 34 頁 項目 06 をご覧ください) 3 貸衣装業に関するものが 7 事例あります 貸衣装業における差止請求の対象は 消費者から解除した場合のキャンセル料に関する定めに集中しています 結婚式場と同様に各事業者によって 解除の時期の区分 それに対応するキャンセル料の額の定め方がかなり異なっています いずれの条項でも 事業者に損害が発生する可能性がない時期において 高額の違約金等を設定している点が 事業者に生じている平均的な損害を超えるものであると考えられます ( 詳しくは 32 頁 項目 05 をご覧ください) 4 建築請負業に関するものが 3 事例あります 差止請求の対象となっている条項は いずれも建築着工前における発注者である消費者からの解除に伴う違約金等の定めです いずれも請負代金の 10% あるいは 20% という高額の違約金等を定めていますが 着工前では解除により事業者にそれほどの損害が生じているとは考えられませんから このような違約金等の条項は 事業者に生じている平均的損害を超えるものであると考えられます ( 詳しくは 57 頁 項目 22 をご覧ください) 5 その他 海外留学あっせん業に関しては 29 頁 項目 04 を 探偵業に関しては 40 頁 項目 10 を 冠婚葬祭運営業に関しては 36 頁 項目 07 を 歯科医院に関しては 52 頁 項目 19 を 司法書士事務所に関しては 72 頁 項目 28 を 予備校 学習塾に関しては 24 頁 項目 02 をそれぞれごください (d) 費用不返還 に関する条項次に 差止めの対象となった 19 の 費用不返還 に関する条項についてみますと 事業者数としては 17 事業者で 事業内容は 建築請負業 予備校 海外留学あっせん業 専門学校 エステスクール 通信制講座運営業 結婚式場運営業 納骨堂経営 結婚相手紹介サービス業 歯科医院 司法書士事務所 有料老人ホーム スポーツクラブという状況です 不返還とされる費用の性質としては 1) 契約の申込金 ( 有料老人ホーム 結婚式場運営業 建築請負業 ) と 2) サービスの対価の前払分 ( その他の業種 ) に分けることができます 差止請求の対象となった条項は いずれも契約が解除された場合には支払済みの申込金 サービスの対価の前払金は返還しないという約定です 契約が解除された場合に申込金を返還しないという条項は 実質的に 9 条 1 号でいう解除に伴う違約金等を定めるものといえます またサービスの対価の前払いと考えられる金員も 履行済みのサービスの対価を超える部分を返還しないということであれば やはり実質的には 9 条 1 号の解除に伴う違約金等を定める条項ということができます 9 条 1 号の適用がある場合 当該事業者に生じる平均的損害を超える違約金等を定めている場合には差止請求の対象となります 前記したような費用不返還条項では まだ事業者に損害が生じていないであろうと思われる時期 ( 例えば契約して間もない時期 ) であっても一律に申込金等を返還しないと規定しているので 9 条 1 号に該当する場合が多いと考えられます 12
キ金銭支払義務の不履行に対する損害賠償額の予定条項 ( 消費者契約法 9 条 2 号 ) 成果事例一覧 23-3 23-4 23-7 26-1 35-1 9 条 2 号は 消費者が支払うべき金銭の一部または全部を支払い期日までに支払わない場合の損害賠償額の予定 または違約金について 支払い期日の翌日から支払いをするまでの期間の日数に応じて年 14.6% を超える割合の定めをした場合には その超える部分は無効としています これに該当する契約条項は差止請求の対象となります 適格消費者団体が 消費者契約法 9 条 2 号に基づき 金銭支払義務の不履行に対する損害賠償額の予定の制限に反するとして差止めを求めた条項は 5 つあります 事業者数としては 5 事業者で 事業内容は 不動産賃貸業 トランクルーム貸業 電力会社ですが うち不動産賃貸業が 3 事業者という状況です 不動産賃貸業者が用いていた 3 事例 (No.23-3 23-4 23-7) は いずれも賃借人が賃料等の支払いを怠った場合に督促手数料その他の名目で一律に 3,000 円を徴収する条項です トランクルーム貸業 (No.26-1) の契約条項は 同様に遅延管理料として 2,100 円を徴収する条項でした また電力会社 (No.35-1) が使用していた契約条項は 料金支払義務の発生から 21 日目以降の支払いについては 一律に料金の 3% を上乗せする内容でした これら契約条項はいずれも消費者が金銭の支払いを遅滞した場合に一律に一定金額の遅延損害金を上乗せするものですが とりわけ支払いを怠ってから早い時期などでは 契約条項による遅延損害金額が年 14.6% を上回る場合が通常と考えられますので 差止請求の対象になると考えられます ク消費者の利益を一方的に害する条項 ( 消費者契約法 10 条 ) (a) 消費者の利益を一方的に害する条項についての概要 10 条は 民商法その他の法律の任意規定 ( 当事者の合意で排除できる規定 ) による場合に比べて 消費者の権利を制限し または義務を加重する条項であって 民法 1 条 2 項 ( 信義誠実の原則 ) に反し 消費者の利益を一方的に害する契約条項は無効としています これに該当する契約条項が差止請求の対象となります 適格消費者団体が 消費者契約法 10 条に反するとして差止めを求めた条項は 136 あります 事業者数としては 57 事業者で 事業内容は 予備校 通信制講座運営業 貸衣装業 結婚式場運営業 冠婚葬祭運営業 納骨堂経営 探偵業 通信販売業 携帯電話販売及び通信業 銀行業 貸金業 賃貸住宅保証業 割賦購入あっせん業 歯科医院 美容外科 建築請負業 不動産賃貸業 法律事務所 司法書士事務所 自動車販売 買取業 有料老人ホーム スポーツクラブ ペット販売業と 多種の業界一般に認められる状況であることがうかがえます なかでも 差止請求の対象となった条項 136 のうち 不動産賃貸業のものが 62 と半数近くを占め その他では 予備校が 10 自動車販売 買取業が 7 結婚式場運営業が 6 と これらの業種が 比較的多くみられる状況となっています (b) 差止めを求めた条項の具体的内容また 差止めを求めた条項の具体的な内容を分類しますと 賃借人の原状回復義務 に関するものが 17 解除 中途解約時の違約金 に関するものが 15 解約等制限 に関するものが 15 費用不返還 に関するものが 11 事業者への権利付与 に関するものが 9 自力救済 に関するものが 8 賃借人の修繕義務 に関するものが 6 賃貸人からの解除事由 に関するものが 6 無催告解除 に関するものが 6 瑕疵担保責任の軽減 に関するものが 4 更新 に関するものが 3 権利の放棄 に関するものが 3 敷金 に関するものが 4 事業者の義務の免除 軽減 に関するものが 3 明渡遅滞時の違約金 に関するものが 3 損害賠償責任の加重 に関するものが 3 免責条項 に関するものが 10 などであり そのなかでも 賃借人の原状回復義務 解除 中途解約時の違約金 解約等制限 費用不返還 に関する条項が多いことがみてとれます 13
差止内容 該当する成果事例一覧 明渡遅滞時の違約金 23-4 23-6 23-9 預かり金の返金時期 28-2 解決内容を事業者に一任する条項 28-2 解除 中途解約時の違約金 5-4 5-5 6-2 6-3 6-4 7-2 7-3 7-4 10-1 21-2 23-5 23-9 23-13 28-2 30-7 解約等制限 2-2 2-3 2-4 2-5 2-6 2-8 2-10 5-4 5-5 12-1 14-1 14-2 17-1 17-2 19-3 瑕疵担保責任の軽減 22-2 34-1 34-2 更新 23-3 23-10 23-13 権利の放棄 23-4 23-10 25-1 敷金 23-8 23-10 23-12 事業者の義務の免除 軽減 10-2 23-8 30-1 事業者への権利付与 2-2 16-2 23-5 23-8 25-1 30-2 30-3 31-3 事情変更時の違約金 7-14 支払義務の加重 32-1 償却条項 31-1 31-2 自力救済 23-3 23-4 23-5 23-7 23-8 23-10 25-1 専属的合意管轄 14-2 28-2 早期償還違約金 16-1 早期利用費用 7-14 損害賠償責任の加重 6-3 6-4 23-8 賃借人の原状回復義務 23-1 23-2 23-3 23-4 23-5 23-6 23-10 23-11 賃借人の修繕義務 23-2 23-9 23-10 23-13 賃貸人からの解除事由 23-1 23-2 23-3 23-8 23-10 23-13 人数の確定 6-4 費用不返還 2-7 2-9 2-10 2-15 6-2 6-3 8-1 21-2 28-1 32-1 34-1 返金方法 14-2 みなし成功報酬 28-2 無催告解除 23-3 23-4 23-5 23-6 23-13 免責条項 14-1 23-3 30-2 履行遅滞時の損害賠償 22-2 30-5 連帯保証人への権限委託 22-2 30-5 以下事例の多い項目を取り上げて説明します (c) 建物賃貸借契約に関する条項上記のうち 賃借人の原状回復義務 自力救済 賃借人の修繕義務 賃貸人からの解除事由 は それぞれ事例数は多いですが いずれも不動産賃貸業による建物賃貸借契約に関するものです 賃借人の原状回復義務 に関して差止請求の対象となっているのは 賃借人に故意 過失がないにもかかわらず 退去時に自然損耗等による汚損も含めて賃借人にその原状回復に要する費用の負担を求める条項です また 賃借人の修繕義務 も同様に 賃借人に責任がないのに賃貸借期間中に生じた不具合 汚損に対して 賃借人に修繕義務あるいはそれに要する費用の負担を求める条項が差止請求の対象となっています 14
民法では 建物賃貸借契約において必要な修繕をする義務は賃貸人が負っています ( 民法 606 条 1 項 ) また賃借人の通常の使用や経年変化による天井 壁のクロス 床の汚損の補修費は通常家賃に含まれていると考えるのが判例 ( 最高判平成 17 年 12 月 16 日判例時報 1921 号 61 頁 ) ですので これを賃借人に負担させることは賃借人に二重の金銭負担を強いることになります よってこれらの条項は民法の規定よりも賃借人の義務を加重し その程度も信義則に反するものとして 10 条に該当すると考えられます ( 詳しくは 60 頁 項目 23 をご覧ください) 次に 自力救済 に関するものですが 差止請求の対象となっているのは 賃料の未払い等があった場合に賃貸人が鍵の交換や 室内の物品の処分を任意に行えるとする条項等です 民法の解釈では建物賃貸借契約に関して賃料の未払い等で直ちに契約を解除できるものではなく また法律の手続きによらない自力救済は民事法の一般原則に反するものであるなどの理由から 10 条に該当すると考えられます ( 詳しくは 63 頁 項目 24 をご覧ください) また 賃貸人からの解除事由 に関して差止請求の対象となっているのは 後見 保佐 補助開始の審判を受けたとき あるいは破産 個人再生手続の開始決定があったとき等を解除事由とする条項等です これらの事由が生じても当然に債務不履行が発生するわけではありませんし 民法が定める以外に賃借人に不利な解除事由を設けていることになりますから 民法の任意規定に比較して賃借人の義務を加重するものといえます しかも実質的に賃借人の住居を奪うという重大な不利益を生じさせるおそれがありますから 10 条に該当すると考えられます ( 詳しくは 63 頁 項目 24 をご覧ください) (d) 解除 中途解約時の違約金 に関する条項差止めの対象となった 15 の 解除 中途解約時の違約金 に関する条項についてみてみますと その事業内容は 貸衣装業 結婚式場運営業 冠婚葬祭運営業 探偵業 美容外科 不動産賃貸業 法律事務所 自動車販売 買取業という状況です 解除 中途解約時の違約金 に関する条項は 9 条 1 号の適用対象でもありますので 9 条 1 号と併せて差止請求がなされている事例が多く 10 条単独で主張されているのは No.23-13( 不動産賃貸業 ) No.21-2( 美容外科 ) No.10-1( 探偵業 ) の 3 事例です 9 条 1 号の他に 10 条も主張されているのは 10 条が 9 条 1 号を含む包括的な一般的規定であること 契約条項が定める違約金等が民法の規定に基づく損害賠償額と比較して高額で消費者の義務を加重しているとみられること 高額な違約金等によって委任契約等において民法で認められている解除権を奪う結果となっていること などが理由となっているようです 以下では 10 条が単独で主張されている事例を紹介します No.23-13 の事例は 建物賃貸借契約で この契約が月の途中で締結されたときは 締結月の賃料 共益費 管理費 その他必要費は日割り計算とし この契約が月の中途で終了したときは日割り計算をせず 終了月分全額を支払う という条項が差止請求の対象となりました 月の途中で終了した場合に日割り計算をしないのは 何ら合理的理由なく使用収益しない日数分まで金銭的な負担をさせられることに他ならず 民法 703 条及び 704 条 ( 不当利得に関する規定 ) に比べて 消費者の利益を一方的に害する条項であり 消費者契約法 10 条に該当することを理由としています No.21-2( 美容外科 ) で差止請求の対象となったのは 連絡なくキャンセルの場合はいかなる場合でもキャンセル料が発生する との条項です その理由としては 美容整形手術は民法上の準委任契約であるので 本来いつでも消費者から解除できるものであるのに 高額なキャンセル料によって心理的に制約することは 民法の任意規定が適用される場合にくらべ消費者の権利を制限するもので 本来消費者の自由な判断でなされるべき美容整形手術を それを強制する方向で作用する本契約条項は 10 条に該当する というものです 次に No.10-1( 探偵業 ) で差止請求の対象となった条項は 事業者の責に帰さない事由によって調査業務が不能となった場合 消費者は調査費用全額を違約金として支払う という内容のものです 民法上は消費者に責任がない事由によって 事業者が債務の履行ができなくなったときは 双方反対給付を請求できないことが原則であることから 消費者の義務を加重していると考えられ 10 条に該当するものと考えられます 15
(e) 解約等制限 に関する条項次に 差止めの対象となった 15 の 解約等制限 に関する条項についてみてみますと その事業内容は 予備校 貸衣装業 携帯電話販売及び通信業 通信販売業 銀行業 歯科医院という状況であり なかでも予備校が 7 事業者を占めています 予備校 7 社に関して 差止請求の対象となった契約条項は いずれも受講生からの受講契約の解除を全く認めないわけではないが 解除できる場合を本人の死亡 病気などの事由がある場合に限定している あるいは解除の可否を事業者の裁量に委ねている内容のものです 予備校等の受講契約は 準委任契約と考えられ 民法上受講生は本来いつでも契約の解除を行える性格のものです 上記のような受講生からの解除権の行使を大きく制約する条項は 民法の任意規定の適用の場合に比べ 消費者の権利を制約するもので 10 条に該当するものと考えられます 貸衣装業 2 社の 解除等制限 が差止請求の対象となったのは いずれもオーダーレンタルの場合には 契約の解除には応じられないとする条項です この場合も本来民法では請負契約の注文者は契約解除権を有するもので それにもかかわらずオーダー商品の仕立てに着手したか否か また着手したとしてその程度にかかわらず 一律に解除を認めず代金を請求するという内容の条項は 10 条に該当すると考えられます 同様に 携帯電話販売 通信業の ご契約後のキャンセル 返品 返金 交換は一切できません という条項 歯科医院の 医療機関との治療契約における中途解約は ( クーリング オフを含め ) 法律上認められておりません という条項も 10 条に該当するものと考えられます 通信販売業の 7 日内に限って 注文と異なる商品 配送中破損した商品 瑕疵のあった商品の返品を受け付ける という条項 商品到着後 30 日以内に返品 交換の手続きをしないと 手続きができなくなる という条項が差止請求の対象となっています これらの規定は民商法に定める債務不履行や瑕疵担保責任による解除権の行使期間に比して著しく短く制約するもので とくに事業者に期間短縮に正当な理由があると考えられない場合をも含んでいると考えられますので 10 条に該当すると考えられます また銀行 2 行が 預金口座振替依頼契約の解約手続きを 振替先の収納事業者を経由して行わなければならないとする条項に関して 本来振替依頼は準委任契約であり 制限なく解除できるはずであるのに これを制限する条項であり かつこの条項がなくても銀行には何らの不利益のないことから 10 条に該当するとして差止請求の対象とされたものがあります ( f ) 費用不返還 に関する条項また 差止めの対象となった 11 の 費用不返還 に関する条項についてみると その事業内容は スポーツクラブ 司法書士事務所 予備校 通信制講座運営業 ペット販売業 美容外科 結婚式場運営業 納骨堂経営 という状況です 費用不返還 を規定する契約条項は 9 条 1 号の対象ともなる場合が多いため 10 条は 9 条 1 号と併せて根拠とされているものが多く 10 条単独で主張されているのは No.34-1( ペット販売業 ) No.21-2( 美容外科 ) No.2-7( 予備校 ) の 3 事例です 9 条 1 号の他に 10 条も主張されている事例では スポーツクラブの前払い諸費用を返還しないことは 契約解除により生じる消費者の民法上の不当利得返還請求権を著しく制約するものであること (No.32-1) 司法書士への委任契約の場合 民法では解約によって報酬は委任事務の割合に応じて請求できるにすぎないのに 解約時期にかかわらず一律に着手金相当額を取得できるとしていること (No.28-1) 予備校の受講契約では 既払い金の不返還条項によって 民法上受講者に認められている解除権の行使が制約されていること (No.2-10 No.2-15 No.8-1) などを理由としてこれらの条項が 消費者に民法が認めている権利を制限し 消費者の利益を一方的に害しているとして 10 条に該当するとしています 10 条が単独で主張された事例のうち 予備校の事例は 主として受講契約の解除を認めない約定に重きが置かれていますので 実質は前項の 解除等制限 を根拠とするものに近いといえます ペット販売業で どんな理由があっても 犬 猫の購入代金は返金 16
しない という条項に関しては 民法その他の法律による取消し 無効 解除などにより発生する不当利得などの請求権を排除するものとして 10 条に該当するものとしています (No.34-1) 美容外科の 手術申込金は手術事前準備に充てさせていただきますので返金できませんので予めご了承ください との条項に関して 申込金は手術の対価の一部であり キャンセルされたのであれば原則返還すべきであること 本来本人の意思が尊重される美容整形手術において キャンセルした場合に申込金を没収することは手術を強制する要素を持つことを理由に 10 条に該当するとしたものがあります (No.21-2) 4 景品表示法に基づく差止請求 (1) 根拠条文景品表示法を根拠に 適格消費者団体が差止請求することができるのは 優良誤認表示 ( 景品表示法 10 条 1 号 ) と有利誤認表示 ( 景品表示法 10 条 2 号 ) の 2 つですが 右図のとおり 優良誤認表示を根拠とする差止請求が多い状況です なお 優良誤認表示とは 商品又はサービスの品質その他の内容について 消費者に実際よりも著しく優良であると示し あるいは他の競争事業者よりも著しく優良であると誤認させるような表示です これに対して有利誤認表示とは 商品又はサービスの価格その他の取引条件につき 実際又は他の競争事業者と比較して著しく有利な条件と誤認させるような表示をいいます 有利誤認表示 (10 条 2 号 ) 優良誤認表示 (10 条 1 号 ) (2) 優良誤認表示 (10 条 1 号 ) 成果事例一覧 2-11 18-2~16 20-1 適格消費者団体が 景品表示法 10 条 1 号の優良誤認表示を根拠に差止めを求めた表示は 20 あります 事業者数としては 17 事業者で 事業内容は 投資信託運用業 予備校 美容外科ですが 通貨選択型投資信託運用会社 15 社に対して一斉申入れを行ったことから うち投資信託運用業が 15 事業者という状況です 投資信託運用業に対して差止請求がなされた事例は 消費者に交付する通貨選択型投資信託の目論見書において 対象金融商品の内容に関して 為替ヘッジ 為替ヘッジ取引 為替ヘッジプレミアム 為替ヘッジコスト という言葉を用いて 実際には 円に対する外国通貨の為替リスクがあるか 高いにもかかわらず あたかも為替リスクがないか 低いような印象を与え 消費者が より為替リスクが低い商品 と誤認するおそれがあることから 優良誤認表示に該当すると申入れしたものです (No.18-2~18-16 詳しくは 51 頁 項目 18 をご覧ください) 予備校に関しては 科目別能力別クラス ( 少人数制 ) との表示がありながら 実際には 1 クラスが 50 人だったり 科目によっては 1 クラスのみの設定であることが 優良誤認表示であるとする申入れがなされました (No.2-11) 美容外科では 施術により確実に若返り効果が出ると誤認を招く表示 あるいは 糸を通すだけの簡単な治療で顔全体を若々しく! 腫れも殆どなく 翌日から洗顔 メイクが可能です 所要時間はわずか 10 分程度と非常に簡単で 手術というよりメイク感覚でできます 手術後すぐに外出しても人に気づかれません などの表示が 実際とは異なりフェザーリフト手術や二重まぶた手術が簡単で安全であるとの誤認を招く表示であるなどとして 差止請求がなされています (No.20-1 詳しくは 54 頁 項目 20 をご覧ください) 17
(3) 有利誤認表示 (10 条 2 号 ) 成果事例一覧 11-1 11-2 13-1 29-1 適格消費者団体が 景品表示法 10 条 2 号の有利誤認表示を根拠に差止めを求めた表示は 4 あります 事業者数としては 4 事業者で 事業内容は 家電製品小売業 法律事務所 ゲームサイト運営業です 家電製品小売業に関するものは いずれも宣伝広告でインターネット接続サービスとパソコンのセット販売について パソコンを機種によっては 100 円 あるいは 1 円 と格安で購入できるとの利益のみを表示し 実際には購入者が加入しなければならないインターネット接続サービスの月額料金や 中途解約した場合に支払う契約解約料等 購入者が負担しなければならない金額が表示されていないことが有利誤認表示に該当するとして差止請求がなされています (No.11-1 11-2 詳しくは 42 頁 項目 11 をご覧ください) 法律事務所に関して ホームページ広告で 安すぎて不安? 価格の秘密はこちらをクリック 当事務所も多分 格安 な事務所の 1 つでしょうから 等 弁護士費用があたかも標準的な弁護士費用と比較して著しく低廉であるかのような表示がなされていることに対して差止請求がなされています (No.29-1 詳しくは 75 頁 項目 29 をご覧ください) ゲームサイト運営業のモバイルゲームのテレビコマーシャルに関して 無料 との音声を用いているにもかかわらず 実際に無料であるのはゲームの一部であることから有利誤認表示に該当するとして差止請求がなされています (No.13-1 詳しくは 44 頁 項目 13 をご覧ください) 5 特定商取引法に基づく差止請求 (1) 根拠条文特定商取引法を根拠に 適格消費者団体が差止請求することができるのは 各行為類型 ( 訪問販売 電話勧誘販売 通信販売 連鎖販売取引 特定継続的役務提供 業務提供誘引販売取引 訪問購入 ) ごとに定められた行為 条項 広告等ですが 整理すると 以下のとおりです 特定商取引に関する法律 ( 特商法 58 条の 18 24) 訪問販売電話勧誘販売通信販売連鎖販売取引 特定継続的役務提供 業務提供誘引販売取引 訪問購入 不実告知 故意の事実不告知 威迫困惑 断定的判断の提供 著しく事実に相違する表示 不当条項 ( クーリング オフ妨害となる特約 解約等に伴う損害賠償の額の上限を超える特約等 ) 18
そのうち 適格消費者団体が差止めを行った行為類型は 7 類型のうち 訪問販売 電話勧誘販売 特定継続的役務提供の 3 つの類型であり なかでも 特定継続的役務提供に集中していることがうかがえます 訪問販売 特定継続的役務提供 電話勧誘販売 販売 販売取引 務提供誘引販売取引 訪問 (2) 訪問販売に係る差止請求 ( 特定商取引法 58 条の 18) 成果事例一覧 27-1 27-2 適格消費者団体が 特定商取引法の訪問販売の類型について 差止めを求めた事例は 2 あります 事業者数としては 2 事業者で 事業内容は いずれもホームセキュリティーサービス業です 差止めの対象としたのは サービス契約が解除された場合の違約金等の限度を定めた特定商取引法 10 条 1 項 3 号の規定に反する特約 ( 特定商取引法 58 条の 18 第 2 項 2 号 ) です 2 社のホームセキュリティーサービス業者は いずれもホームセキュリティー契約が期間満了前に解約されたときは 一定の月額料金に残存月数を掛け それに係数 ( 例えば 5 分の 1 など ) を乗じて算出された解約料を徴収する契約条項を使用していました しかし契約が訪問販売でなされた場合には 特定商取引法 10 条 1 項 3 号で提供済みサービスの対価とそれに対する法定利率による遅延損害金しか請求できないとされていますので このような契約条項は差止請求の対象になると考えられます (No.27-1 27-2 詳しくは 71 頁 項目 27 をご覧ください) (3) 電話勧誘販売に係る差止請求 ( 特定商取引法 58 条の 20) 適格消費者団体が 特定商取引法の電話勧誘販売の類型について 差止めを求めた事例は 2 あります 事業者数としては 2 事業者で 事業内容は いずれもホームセキュリティーサービス業であり 前項の訪問販売に係る差止請求と同じ事業者に対するものです 電話勧誘販売の場合にも 訪問販売と同内容の中途解除の場合の違約金等の限度を定めた特定商取引法 25 条 1 項 3 号が存在し 前項でのべた 2 社の中途解約の場合の解約料特約はこれに反するので 差止請求の対象となると考えられます (No.27-1 27-2 詳しくは 71 頁 項目 27 をご覧ください) (4) 特定継続的役務提供に係る差止請求 ( 特定商取引法 58 条の 22) 成果事例一覧 2-1 2-13 9-1 9-2 適格消費者団体が 特定商取引法の特定継続的役務提供の類型について 差止めを求めた事例は 9 あります 事業者数としては 4 事業者で 事業内容は 特定商取引法で指定役務とされている語学教室 学習塾 結婚相手紹介サービス業であり うち結婚相手紹介サービス業が 2 事業者という状況です 差止めの対象となったのは 特定商取引法 44 条 1 項 6 号についての不実告知 ( 特定商取引法 58 条の 22 第 1 項 2 19
号ハ ) が 2 同法 48 条 8 項に規定する特約 ( 特定商取引法 58 条の 22 第 2 項 1 号 ) が 3 同法 49 条 7 項に規定する特約 ( 特定商取引法 58 条の 22 第 2 項 2 号 ) が 4 です ア 不実告知が差止請求の対象となった 2 事例は いずれも同一の語学教室におけるもので 支払方法を月謝制にしている契約でも 受講期間が 2 ヶ月を超えると予め期間を定めて契約しているような場合には特定商取引法の特定継続的役務提供の規定の適用があり クーリング オフの適用を認めない との記載は不実告知に該当するとした事例 申込書に 2 ヶ月を超えない受講期間が記載されていても 1 年分の教材等を販売したり 1 年分の諸経費を徴収している場合には実質的に 2 ヶ月を超える契約と考えられ 特定継続的役務提供に該当し クーリング オフの適用を認めない との記載は不実告知に該当するとした事例です ( いずれも No.2-1) イ 48 条 8 項に規定する特約とは クーリング オフに反する特約のことです 前アで述べた 2 事例はこれにも当てはまると考えられますが その他に学習塾がクーリング オフを記載した書面を交付していない事例 (No.2-13) があります ウ 49 条 7 項に規定する特約とは 特定商取引法が定める中途解約の場合の違約金等の制限に反する特約のことです 結婚相手紹介サービス 2 社が差止請求の相手方事業者となっています このうち 1 社は 1 中途解約の場合 契約から 3 ヶ月を経過しているときは既払金を一切返金しない 2 郵送会員に関しては書面による会員データの提供後は既払金を一切返金しない 3 除名の場合は既払金は一切返還しない という 3 件の契約条項が 本条に反する特約に該当するとして差止請求の対象とされています (No.9-1) もう 1 社の結婚相手紹介サービス業者も 役務提供開始と同時に役務の 60% が提供済みとなる契約条項になっており やはり本条の中途解約の場合の違約金等の限度に反する特約に該当するとして差止請求の対象となっています (No.9-2) 6 その他の法令に基づく申入れ活動 成果事例一覧 23-2 23-3 23-8 前述のとおり 現在 適格消費者団体に差止請求権が与えられているのは 消費者契約法 景品表示法 特定商取引法の 3 法に基づく差止請求のみですが 申入れの段階では 上記 3 法に限らず 民法や借地借家法の強行規定を根拠に改善を申入れ 事業者が応じたケースもあります 具体的には 後掲の成果事例一覧の 根拠条文 欄で その他 とされている事案で 民法 90 条を根拠とするものが 3 借地借家法 40 条を根拠とするものが 1 破産法 53 条を根拠とするものが 1 あり 事業内容は すべて 不動産賃貸業となっています 民法 90 条 ( 公序良俗違反 ) を根拠に改善を申入れた条項は 3 つともに 本来 許されない 賃貸人による自力救済を定めた内容の規定であり いずれの事業者も 申入れにしたがって 当該規定を削除しました (No.23-3 23-8) また 借地借家法 40 条を根拠に改善を申入れた条項は 借地借家法で賃借人が保護を受けられないこととなる 短期一時使用 の賃貸借契約とする内容の規定であり 当該事業者は 申入れを受けて当該規定を削除し 定期建物賃貸借契約の形態に改定しました (No.23-3) さらに 破産法 53 条を根拠に改善を申入れた条項は 賃借人が破産した場合 賃貸人は直ちに契約を解除できるという内容の規定ですが 民法旧 621 条が削除されたことにより 賃借人が破産した場合 賃貸人は 破産管財人に対し 契約を解除するか 賃料を支払うか 確答するよう催告を行い 破産管財人が一定期間内に確答しない場合に限り 解除できることとされたことから 削除を申入れたところ 当該事業者より 賃借人が成年被後見人 被保佐人 被補助人の審判を受けたこと 賃借人に破産の申立て 再生手続きの開始の申立てがあったことを契約解除事由とする意思表示は行わない との回答が得られました (No.23-2) 20