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Transcription:

E* フォトクロミック化合物 1 目的 フォトクロミック化合物とは光を照射されることで変色する物質の事であり 商業的に注目されている フォトクロミック化合物の応用の一例として 色の変化によって情報を記録する光記録材料がある 光記録材料は固体である事が望ましいが 固体でフォトクロミズムを示す物質はどれも高価である そこで比較的安価なフォトクロミック化合物である スピロピラン類 を使用したいのだが スピロピラン類は基本的には何らかの溶媒に溶けてフォトクロミズムを示す物質なので 固体そのものではフォトクロミズムを起こさない 前に述べたが 光記録材料として使用するには固体である事が望ましい そこで本実験班の活動では スピロピラン溶液の固体化と固体時の変色の理由の考察を目的とする また 今回はスピロピラン以外のフォトクロミック化合物として 元の固体状態のままでもフォトクロミズムを示すことができるジアリールエテンを用いて その変色 退色の様子についても考察をする は A よりも持つエネルギーが大きく不安定なため A の状態に戻ろうとする このとき 着色体である B が無色体 A に戻るには A が B へ変化したときと同じように 光からエネルギーを吸収し励起状態 B になり無色体 A へ戻るルート (2) と B の状態から周囲の熱エネルギーを吸収し A へ戻るルート (3) の 2 種類がある この時 Ea の値が小さいほど 熱的退色にかかる時間が短い また 無色体よりも着色体のほうが安定になり 通常時は着色しているが光 又は熱を与えることによって無色体へと変色する場合があり この現象を逆フォトクロミズムという 下にフォトクロミズムの反応経路の図を示す B E A 2 原理 (1) 光エネル 2-1 フォトクロミズムの概要フォトクロミズムとは ある単一の化学種が 二つの安定な状態の間を吸収スペクトルの大きな変化を伴って可逆的に変形し また少なくともその変換の片方が光を受けることによって行われる現象 として定義されている あるフォトクロミック化合物の分子 A が紫外光を受けることにより 光からエネルギーを吸収して励起状態 A になり (1) 着色体である B へと分子構造が変化する 分子 B ギー吸収 (3) (2) A( 無色体 ) 図 1 フォトクロミック化合物の励起と構造変化 Ea B( 着色体 )

2-2 スピロピランが示すフォトクロミズム スピロピランは 分子が紫外線を受けることによってスピロ炭素が光開環反応を起こ す 分子の吸収波長が長波長側にシフトされる それにより 補色が変わることによっ てフォトクロミズムを確認することが出来るようになる 今回用いたニトロスピロベンゾピランは 下の図のような光開環反応を起こす C C C C N O NO 2 N + C hv', heat CH3 無色体 h hv 図 2 スピロピランの分子内構造変化 着色体 O NO 2 環構造である ジアリールエテンは 熱的な退色を起こさないという性質がある つまり 熱によっ て自然に退色してしまうスピロピラン類とは異なり 特定の可視波長の光を当てる事に よってのみ退色するとうことである 今回用いた 1,2- ビス (2,4- ジメチル -5- フェニル -3- チエニル )-3,3,4,4,5,5- ヘキサフルオ ロ -1- シクロペンテン という物質は 固体状態において通常は白色だが これに紫外線 を当てる事によって分子内で閉環反応が起こり青く着色する また この着色体に可視 光を当てる事によって 分子内では逆に開環反応が起こり白色へと戻る C C S hv C C C C C S hv' S C S 2-3 ソルバトクロミズムスピロピラン類は 溶媒に溶かした状態においては 媒体の影響によって吸収スペクトルが変化するソルバトクロミズムを示す性質も持ち合わせている ソルバトクロミズムは 基底状態と励起状態の溶媒和エネルギーの差に相当するため それぞれの双極子能率に依存する 溶媒の極性や分散力の増加に伴って分子の吸収波長が長波長側にシフトする場合を 正のソルバトクロミズム 短波長側にシフトする場合を 負のソルバトクロミズムと言う 今回用いたスピロピランは 去年までの実験の結果から負のソルバトクロミズムを示すものと考えられる 2-4 ジアリールエテンの変色 退色反応ジアリールエテンも スピロピラン類のように光開環 閉環反応によって変色を示すタイプのフォトクロミック化合物である スピロピラン類が無色体が閉環構造で着色体が開環構造であるのに対して ジアリールエテンは無色体が開環構造であり 着色体が閉 無色体着色体図 3 ジアリールエテンの分子内構造変化 3 これまでのまとめ これまでの実験で見られた特徴 結果を以下に記す スピロピラン類は 固体そのままの状態では変色せず 溶媒に溶かして始めて変色するようになる ニトロスピロベンゾピランのトルエン溶液は青色 アセトン溶液は赤紫色に変色する 溶液の状態で 有機溶媒で溶ける高分子内に取り込ませ再固体化することによって 高分子を媒体として固体状態での変色も可能になる 高分子の変色は 用いた高分子の種類によって異なる 着色した高分子は 時間経過によって自然に退色する また 加熱する事により

退色を早める事ができる 作成直後はスピロピラン担持高分子は透明であるが 時間の経過によりスピロピ ランの構造が壊れ黄色く変色してくる また これまでの実験でわかったスピロピランのアセトン トルエン溶液で高分子を 再固体化したときの結果も以下に記す 表 1 溶媒の違いによる固体時の特徴( ポリスチレン ) 溶媒 観察色 備考 アセトン 青 固体時の色は白色固体化する時点でアセトンが揮発するため 皮膜内部に空洞が出来やすい トルエン 青 固体時は透明 4 実験 実験 1 スピロピラン溶液で再固体化した際の高分子内に残存する溶液の量と 変色時の固体の色との関係を調べた 使用試薬 アセトントルエンポリスチレン ABS 樹脂ニトロスピロベンゾピラン 操作 1 シャーレの重量を測定した 2 ポリスチレンと ABS 樹脂をそれぞれ 5.00g ずつ採取し シャーレに移した 3 それぞれのシャーレに アセトン溶液 トルエン溶液を 5ml ずつ加えた 4 高分子を溶解させた 5 しばらく放置し 自然乾燥させた 6 乾燥後シャーレの重量を量り 高分子中に残った溶液の量を測定した 7 紫外線を当て変色させ 色の比較を行った 表 2 溶媒の違いによる固体時の特徴 (ABS 樹脂 ) 溶媒観察色備考 アセトン 紫 溶けた状態では白色だが 乾燥し固体化すると透明固体化する時点でアセトンが揮発するため 皮膜内部に空洞が出来やすい トルエン 青紫 固体時は透明 これらの事を踏まえて今回の実験を行った 実験 2 ポリスチレン ABS 樹脂では形成が難しいため これら以外の高分子材料として 有機ガラスとして用いられるメタクリル酸メチルを用いて スピロピランを担持させたポリマーの作成を試みた 使用試薬 アセトントルエンジクロロメタンメタクリル酸メチル 操作 1 メタクリル酸メチルを 5g 採取し シャーレに薄く展開させた

2 このシャーレにアセトン トルエン ジクロロメタン溶液をそれぞれ注ぎ 高分子を溶解させた 3 しばらく放置し 自然乾燥させた 4, 乾燥後 紫外線を当てて変色の様子を確認した スピロピラン以外のフォトクロミック化合物として ジアリールエテン類を用いてのフォトクロミズムの様子について観察した 操作 1 試験管に以下の溶液を取った アセトン溶液トルエン溶液 DMSO 溶液 ( 各 5ml) アセトン溶液 5ml+イオン交換水 3ml 2 ジアリールエテンを微量採取し それぞれの試験管に移した 3 紫外光をあて変色させた 4 着色の様子を観察した 実験 3 固体状態において 実際に紫外線 可視光によって変色するのかを確認した 使用試薬 ジアリールエテン 操作 1 サンプル管にジアリールエテンを少量取り 紫外線の光を当てた 2 紫外線を遮りながら太陽からの可視波長の光を当て 退色の様子を観察した 実験 4 溶媒に溶かした状態での変色を観察するために アセトン トルエン DMSO にそれぞれジアリールエテンを溶かし その変色の様子を観察した 使用試薬 アセトントルエン DMSO ジアリールエテン 5 実験結果 実験 1 それぞれの組み合わせでの高分子を乾燥させたあとの 高分子内の溶液残存量と 高 分子の変色後の色を以下の表に記す 表 3 高分子内に残った有機溶媒の量と変色の関係 溶液残留量 観察色 ポリスチレン+アセトン 0.93g 青紫 ポリスチレン+トルエン 1.27g 青 ABS 樹脂 +アセトン 1.38g 紫 ABS 樹脂 +トルエン 1.43g 青紫 いずれの組み合わせでも 1g ほどの溶媒が分子内に残った いずれの高分子も 表面は乾燥していたが内部に溶液が残っているようで 指で押し たらへこむ程度の弾力があった

実験 2 表 4 有機溶媒ごとのメタクリル酸メチルの固体時の特徴 溶媒 状態 観察色 アセトン あまり溶けないざらざらした表面白く不透明粉っぽさが残る 赤 実験 4 表 5 数奇溶媒の違いによるジアリールエテンの変色 溶媒 溶液の色 観察色 アセトン 透明 紫 トルエン 透明 紫 DMSO 透明 紫 アセトン + 水 透明 薄紫 トルエン あまり溶けないざらざらした表面白く不透明粉っぽさが残る 紫 いずれの溶媒を用いたときも おなじ色に変色した また アセトンに水を加えたものは 他のものよりも多少色が薄くなっていた アセトンに水を加えたものは 着色部にムラがあった メガネのレンズ越しに太陽光に晒したところ 透明に戻った ジクロロメタン半透明な皮膜を形成赤紫つるつるした表面丈夫メタクリル酸メチルにアセトン溶液を加えた場合には メタクリル酸メチルがあまり溶けずに元の粉末に近いザラザラした状態のまま固まってしまった また トルエン溶液を加えた場合でも同じように粉末に近い状態で固まってしまった ジクロロメタン溶液を用いた場合には メタクリル酸メチルが上手くジクロロメタンに溶けてシャーレの表面に広がった 実験 3 紫外線を当てたところ 白色だったジアリールエテンが青く変色した 退色させるために必要な可視光の波長が分からなかったため これに UV カットのメガネのレンズ越しに太陽光を当てたところ 白色へと戻った 6 考察 実験 1 表面にドライヤーの熱風を当てても重量が変わらなかった 試しにアセトン+ポリスチレンで作った皮膜に切れ込みを入れてドライヤーで加熱乾燥したところ 内部に残っていたと思われる溶媒が揮発して残存溶媒量が 0.23g にまで減少し 青色に変色するようになった 同様にして アセトン+ABS 樹脂で作った皮膜に切れ込みを入れ 同様にして乾燥させたところ 青紫色に変色するようになった これらのことから 生乾き状態では それぞれの高分子独自の色 + 溶液の色 が混ざったような色に変色するものであると考えられる また 溶媒に溶かし再固体化したものでは表面が先に乾燥する事によってコーティングされる形になり 内部から溶媒が揮発する事ができない状態になっているものであると考えられる 実験 2 メタクリル酸メチルの再固体化によって得られた高分子フィルムはそれなりに強度が

あり ある程度の厚みを持たせれば丈夫な素材になる しかし メタクリル酸メチルも他の高分子と同じように 熱を加える事によって縮んだり変形してしまう事があるため 素材として使用するうえでの制限になってしまうものと考えられる しかし 逆に考えれば熱を加える事によって形をある程度形成する事ができるので 使いどころによっては便利な素材になるかもしれない 今回までに用いた高分子はいずれも熱を加えることによって変形してしまうものであったが 熱硬化性を持つ樹脂に担持させることができれば 温度の制限に縛られず幅広い状況で利用する事ができる固体フォトクロミズム高分子を作り出す事ができるのではないだろうか への変化が平衡状態に達したものだと思われる 7 参考文献 機能性色素大河原信松岡賢平嶋恒亮北尾悌次郎共著講談社機能性色素の応用入江正浩監修 CMC 出版新規クロミック材料の設計 機能 応用関隆広監修 CMC 出版エレクトロニクス有機材料 - 基礎と応用弘岡正明斉藤省吾編著共立出版感光材料本多健一中村賢市郎共著共立出版 実験 3 固体状態でのジアリールエテンは 紫外線を当てる事によって青く変色したが 溶媒に溶かした際には溶液が紫に変色するようになった 分子が単に溶媒中に溶けただけならば 溶液も青く変色するものと思ったが 実際には異なる色に変色した このことから溶媒との間に何らかの相互作用が働いているのではないかと考えられる 実験 4 スピロピラン類が着色体時に分子内に極性を持つのに対して ジアリールエテンは基底状態でも励起状態でも電荷の偏りがない為 やはり溶媒の極性と何の溶媒和も示さずにソルバトクロミズムを示さないものであると考えられる アセトンに水を加えた溶液で 濃かったり薄かったりと着色にムラがあった点については 撹拌したら色が均一になった事から部分的にアセトンの濃度が高かったのではないだろうかと思う また DMSO 溶媒に溶かし 冷蔵庫で凍らせたものに紫外線を当ててみたところ しっかりと着色した スピロピランは開環反応による構造変化の際に体積的余裕を必要とするが ジアリールエテンではそれほど大きな構造変化をしないため 体積的余裕が少なくても変色しやすいものなのではないかと考えられる 着色した溶液を直射日光に晒したところ ある程度色が薄まったが退色する事はなか った 太陽から発せられる紫外線による着色体への構造変化と 可視波長による無色体