生活年齢段階と家庭家庭のニーズニーズに応じたじた家庭生活支援家庭生活支援の在り方の検討 - 自閉症児が自律的自律的に家庭生活や地域生活地域生活を過ごすためのごすための効果的効果的な家庭生活支援家庭生活支援の取組 - 1 テーマ設定設定の理由 (1) 自閉症児に対する家族支援や家庭支援家庭支援の必要性近年, 自閉症を含む発達障害における早期発見が可能となり, それに伴い, 早期の治療教育の必要性が指摘されている ( 杉山,1996) また, 同時に発達障害のある本人だけではなく, 本人を含む家族全体を支援対象とすることの重要性が指摘さている ( 例えば井上,2007; 藤原, 2008など ) このように家族支援や家庭支援が求められる背景として, 自閉症児の行動上の特性による育てにくさの問題, 自閉症の診断と障害受容過程に関連した保護者の心理的ストレスや育児不安への対応の必要性が指摘されている ( 中田,2007) そうした中, 家族支援, 家庭生活支援の実際的な取組として, 親が子育てにおいて必要となる知識や技能を獲得することを目指したペアレント トレーニングや学習会, 教育相談の実施などが行われるようになってきている ( 高山,2007) また, 家庭場面における行動上の課題を取り上げ, 家族と専門家の協働的なアプローチにより, その課題の解決を図る取組や望ましい行動の形成を促す取組がなされるようになってきている ( 下山 園山,2005) これらの取組に共通する特徴としては, 自閉症のある本人に対するアプローチのみならず, 本人を含む家族全体を包括的に支援することを目指していること, 家庭環境や家族の状況 ( ライフスタイル ) といった家庭生活の文脈への適合性を重視した支援であることが指摘できる しかしながら, 学校が組織的に家族支援や家庭支援に取り組んだ先行実践や研究事例は少ない 学校と家庭が協働しながら自閉症児の社会参加と自立を促すという観点からも, 今後の研究の進展と知見の蓄積が望まれていると言えよう (2) 本年度の家庭生活支援に取り組むに当たって本年度, 本校においては, 研究開発課題である 自閉症児のための教育課程の研究開発 Ⅲ 学校における指導の成果を, 家庭生活や地域生活に広げるための幼稚部, 小学部一貫した教育課程の編成 実施の在り方に関する研究 - を受け, 幼稚部, 小学部一貫した教育課程を編成するために めざす子ども像 ( 注 : めざす子ども像 については,P10,11を参照) が作成された この めざす子ども像 は, 本校に在籍する幼児児童をどのような子どもに育てたいのかを明確にするものであり, 個々の幼児児童の発達段階, 自閉症の程度や特性に応じた支援を行うという視点に加え, 生活年齢段階という視点に立った家庭生活支援の在り方を考える契機となるものであった さらに, 生活年齢段階という視点から家庭生活支援を考えたとき, 各家庭におけるニーズについても, 生活年齢段階ごとにニーズが異なることが予見された そこで, 本年度の研究においては, 幼稚部と小学部低学年 (1 年生 ~3 年生 ), 小学部高学年 (4 年生 ~6 年生 ) の三つのグループに分け, 生活年齢段階と家庭のニーズに応じる という視点から, 学校におけ -1-
る指導の成果を家庭生活や地域生活に広げるための家庭生活支援の在り方 について研究を進めることとした なお, 本年度の研究では, 昨年度までの家庭生活支援の取組の課題から, 学校として共通して取り組む必要性の高い 家庭への訪問指導 と 保護者学習会 の二つを研究の対象とした 2 研究目的 幼児児童が, 学校で身に付けた知識, 技能, 態度を家庭生活や地域生活に広げる際に, 生活年齢段階 や 家庭のニーズ に応じるという視点から 家庭への訪問指導 や 保護者学習会 を実施し, その成果と課題を整理し, 一人一人の自閉症児が自律的に家庭生活や地域生活を過ごすための家庭生活支援の在り方について検討する 観点 1: めざす子ども像 を基に生活年齢段階に応じた家庭生活支援の在り方について検討する 観点 2: 個別の教育支援計画や個別指導計画と関連を図りながら, 各家庭のニーズに応じた家庭生活支援を行うことの有効性を検討する 3 研究方法及び内容 本研究は, 三つの研究から構成した 研究 1 では, 個別指導計画に記載された保 護者の願いと担任教師が設定した長期目標を 比較検討することにより, 本校に在籍する幼 児児童の家庭のニーズ傾向を把握し, 幼稚部, 小学部低学年, 小学部高学年の各生活年齢段 階において, 実際にニーズに違いがみられる のかどうかを検証した 研究 2 では, 本年度の 家庭への訪問指導 の取組から教師が何をねらって指導を行い, その結果, 幼児児童やその保護者がどのよう に変容したのかを教師と保護者に対する質問 紙調査と各生活年齢段階の事例研究より明ら かにした これらにより生活年齢段階と家庭 のニーズに応じた 家庭への訪問指導 の有 効性を検討した 研究 3 では, 保護者学習会 の取組から, 生活年齢段階に応じた内容設定と幼稚部から 小学部高学年までの保護者同士が学び合う機 会を学校が意図的に提供することの有効性を 検討した 家庭生活支援を考える上での視点 検証 今年度の取組 家庭のニーズに応じるというボトムアップ的な視点 生活年齢段階を考慮して必要な時期に必要な支援を行うというトップダウン的な視点 研究 1 生活年齢段階ごとの家庭のニーズを調査 + めざす子ども像 ( 生活年齢段階 ) 研究 2 研究 3 家庭への訪問指導 本研究の構成について図 1 に示し, 以下, 研究 1 から研究 3 について述べる 図 1 保護者学習会 本研究の構成について -2-
研究 1: 本校幼児児童に見られるられる 家庭家庭のニーズニーズ 1 研究背景一般に家庭生活支援を行う上では, 幼児児童の思いや保護者の願いから各家庭がどのようなニーズをもち, どういった支援を望んでいるのかを明らかにし, そのニーズに応じた支援を行うことが望まれる 本研究において各家庭のニーズに応じた家庭生活支援を考える際, 幼児児童の生活年齢段階によって, そのニーズに違いがあることが想定された また, 学校における指導の成果を家庭生活や地域生活に広げるという視点から家庭生活支援を考えたとき, 単に保護者の願いを幼児児童の教育的ニーズとしてとらえるだけでは不十分である そこに障害の状態や発達年齢 生活年齢の視点を加え, 幼児児童本人の願い, 保護者の願い, 教師の願いの三者をすり合わせ, 教育的意義を見いだすことにより, 幼児児童一人一人の教育的ニーズを明らかにすることが必要である そこで, 本研究においては, 個別指導計画に記載された保護者の願いを保護者のニーズ, 担任教師が設定した長期目標を幼児児童に対する教育的ニーズとし, それらのニーズの調査を通じ, 生活年齢段階によってニーズに違いがあるのかを検討した 2 研究の目的目的と方法 研究の目的 本校に在籍する幼児児童の家庭のニーズの傾向を把握し, 幼稚部, 小学部低学年, 小学部高学年の各生活年齢段階において, そのニーズに違いがあるのかを検証する 対象 本校に在籍する幼児 15 名 児童 36 名の計 51 名 研究手続き 1 在籍幼児児童の個別指導計画 (2010 年 4 月作成 ) に記載された保護者の願いと長期目標について1 文を1 命題として抜粋し, 分析データとする 2 高橋 (2007) を参考に質的コード化の手法 (Coffey & Atkinson,1996) を用いて抜粋された命題をその内容の特徴に沿って区分する そこに適宜, ラベル付けを行い, コード化したものを整理, 統合し, カテゴリーを生成する 3 生成されたカテゴリーに含まれる命題数を算出する さらに, 必要に応じて同一カテゴリーに属する命題の記述内容の質的な違いを検討する 分析の方法 幼稚部, 小学部低学年, 小学部高学年の各生活年齢段階における命題数を比較検討し, その傾向を分析する 3 結果と考察 (1) カテゴリーの設定について保護者の願い, 長期目標を研究手続きに従って分類した結果,10 のカテゴリーが生成された 生成されたカテゴリーとそのカテゴリーに含まれる主な項目は, 表 1に示すとおりであった -3-
表 1 家庭のニーズの分類カテゴリーについて カテゴリー カテゴリーに含まれる主な項目 1 生活活動 身辺自立 着替え 排泄 食事 身の回りの整理整とんなど 2 コミュニケーション 指示の理解 意思の表示 円滑なやりとり 感情表現など 3 ルール マナー 約束 適切な行動 気持ちの切替え きまりを守ること 4 スキル 読み書き計算等に関連するスキル 道具の操作など 5 余暇 家族との過ごし方 時間の使い方 好きなことなど 6 自分から行動すること スケジュールや手順書の活用 学習態勢 意欲や自信など 7 状況理解 場に応じた行動 役割の交代など 8 気持ちの安定 スケジュールの変更に伴う行動の調整など 9 人間関係 友達とのかかわり 友達と一緒の取組など 10 集団での活動 集団意識 授業や遊びへの参加など 11 その他 上記に分類されないと判断されたもの (2) 各生活年齢段階におけるニーズの比較表 1に示す各カテゴリーごとに分類された命題数を幼稚部, 小学部低学年, 小学部高学年の各生活年齢段階ごとに総命題数に占める割合 (%) として算出したものを図 2~ 図 4に示す 学校全体としては, 各生活年齢によって割合の差はあるものの保護者の願い, 長期目標ともに 生活活動 身辺自立, コミュニケーション に対する割合が高い傾向にあった しかし, 身辺自立 については, その意味する範囲は広く, 個別指導計画に記載された内容を見ると 援助を受けながらの自立 から 援助なしで一人でできる まで, いくつかの段階が想定されていた さらに 生活活動 身辺自立 は, 着替え, 排泄, 食事など, その内容が多岐にわたることから, 具体的な指導場面では, 一層詳細な分析が必要であると考えられた また, コミュニケーション に関しては, 特別支援学校では障害種を問わず, そのニーズが高いことが考えられるが, 本校の場合は, 自閉症児の障害特性からもそのニーズが更に高くなっていることが考えられた 以下, 幼稚部, 小学部低学年, 小学部高学年ごとの傾向を記す 幼稚部 図 2に示されているように, 保護者の願いとしては, 身辺自立 生活活動 に関するニーズが最も高く, 全体の4 割を超えている これは, 発達年齢的な面からも, 排泄, 着替えといった身の回りのことが生活の中で課題になっているためであると考えらた 幼稚部で特徴的であったことは, コミュニケーションの項目である 保護者が願いとして挙げている割合が低いのに対し, 教師は, 最も多く目標を設定していた このことから, 幼稚部段階では, 保護者は, まず目の前にある身辺自立などの生活上の課題を優先して考えやすいという傾向が示唆された 小学部低学年 図 3に示されているように, 保護者の願い, 長期目標とも コミュニケーション の項目が非常に高くなっており, その点において幼稚部との違いが見られる 個別指導計画に記載された内容を見ると, 幼稚部段階に比べて, 小学部低学年段階では, 学年進行とともに援助を受けながらではあるが身辺面の自立が図られ, 保護者 教師共に, 他者とのやりとり, 自分の気持ちを他者に適切に伝えることなど, コミュニケーション に関する事柄に主眼を置くようになったためではないかと推測される また, 自分から行動すること, 人間関係 など, 幼稚部段階では見られなかった項目にも, 少数ではあるが見られるようになってきている このことから, 幼稚部段階に比べ, そのニーズが多様化している傾向が伺えた -4-
小学部高学年 図 4に示されているように, 小学部高学年では, 再び 生活活動 身辺自立 に関する項目が高い割合を示している この背景には, 本校に在籍する幼児児童の発達年齢による実態差も影響しているものと考えられる しかしながら, 個別指導計画に記載された保護者の願いや長期目標を見ると, 小学部高学年になると 自分で, 一人で といったことをより重視していることが分かり, その点において, 幼稚部や小学校低学年の段階で保護者が考えている身辺自立とは, 求めるものが質的に異なっていると言えます このことは, 自分からの行動すること の割合が高くなっていることからも考えられ, 小学部高学年では, 自立 に対する意識が保護者, 教師とも強くなっていると言える また, その他の割合も高いことから, 自立 に向け, 個々の児童の課題が小学部低学年より更に細分化する傾向にあると言える 0% 10% 20% 30% 40% 50% 生活活動 身辺自立コミュニケーションルール マナー 約束集団での活動スキル余暇自分から行動すること状況理解気持ちの安定人間関係その他 保護者の願い 長期目標 図 2 幼稚部 保護者の願いと長期目標 0% 10% 20% 30% 40% 50% 生活活動 身辺自立コミュニケーションルール マナー 約束集団での活動スキル余暇自分から行動すること状況理解気持ちの安定人間関係その他 保護者の願い 長期目標 図 3 小学部低学年 保護者の願いと長期目標 0% 10% 20% 30% 40% 生活活動 身辺自立コミュニケーションルール マナー 約束集団での活動スキル余暇自分から行動すること状況理解気持ちの安定人間関係その他 保護者の願い 長期目標 図 4 小学部高学年 保護者の願いと長期目標 -5-
4 家庭家庭のニーズニーズ に関するまとめ本研究から, 幼稚部, 小学部低学年, 小学部高学年の各生活年齢段階において, 家庭のニーズには共通する部分と異なる部分があることが明らかになった 共通する特徴として挙げられたものは, 生活活動 身辺自立 と コミュニケーション に対するニーズであった しかし, 生活活動 身辺自立 については, その求めている質的な内容は異なるものであった さらに幼稚部, 小学部低学年, 小学部高学年における本校の幼児児童の障害の状態や程度を見たとき, その集団によって発達年齢が一様ではないことからも, 本研究の結果がそのまま一般的な傾向とはならないことを考慮する必要があると考えられた 一方, コミュニケーション については, 自閉症の障害特性との関連性が高いことからも, 生活年齢段階だけではなく幼児児童一人一人の実態との関連から, 検討する必要があると考えられた しかしながら, 本分析の結果からは, 生活年齢段階が上がるにつれて分類カテゴリーの数が多くなるとともに, 幼稚部, 小学部低学年, 小学部高学年の各生活年齢段階において一定の傾向が見られたことから, 家庭のニーズという視点から見ても, 生活年齢段階を考慮した家庭生活支援の取組が必要であることが示唆された 研究 2: 本年度の 家庭家庭へのへの訪問指導訪問指導 の取組 1 研究背景本校が 家庭への訪問指導 に取り組むに至った背景は, 以下のような理由による 1 自閉症児は, その障害の特性に起因し, 般化が難しいといった面が見られ, 学校での指導の成果がなかなか家庭生活や地域生活に広がりにくいこと 2 学校での指導と家庭での支援に一貫性をもたせることで, 自閉症児本人とその家族の生活の質を向上させることが期待できること 3 自閉症児の保護者や家族に目を向けたとき, 自閉症児の対人関係や行動面の特徴などと関連し, 保護者やその家族が適切なかかわり方が分からず, 子育てに悩んでいたり, 育てにくさをを感じていたりしている場合があること 4 指導者側の利点として, 実際の家庭場面で, 保護者や家族と協働しながら, 子どもの行動をとらえることが学校での指導を展開する上で, 有益な情報となること 以上のような背景から, 本校では, 学校が組織全体として 家庭への訪問指導 に取り組むことが必要であると考えている しかしながら, 学校が 家庭への訪問指導 を進めるに当たっては, 学校として実施可能な支援方法の検討, 支援体制の整備やシステムの構築, そして, その体制やシステムが効果を発揮するための要件が明らかにされなければ, 家庭に対する継続的かつ効果的な支援を行うことは難しいと考えられる さらに, 昨年度までの本校における 家庭への訪問指導 の指導内容内訳を生活年齢段階ごとにみると, 選定された指導内容には, 生活年齢段階によって違いが見られた ( 筑波大学附属久里浜特別支援学校,2010) しかしながら, 同じ家事, 買物, 調理などであっても, 生活年齢段階によっては, 教師が考える指導のねらいが異なることも考えられた -6-
そこで, 本年度, 本校では, 学校での指導の成果を家庭生活や地域生活に広げるための 家 庭への訪問指導 をより効果的に行うための要件の一つとして 生活年齢段階 や 家庭のニ ーズに応じる という視点を設け, 家庭への訪問指導 に取り組むこととした 2 研究の目的目的と方法 研究の目的 本年度, 本校が作成した めざす子ども像 ( 生活年齢段階 ) や家庭のニーズを考慮した効果的な 家庭への訪問指導 の在り方を検討する 研究手続き 本校に在籍する幼児児童の 家庭への訪問指導 において, 個別の教育支援計画や個別指導計画を基に, 各家庭のニーズを把握した上で, 生活年齢段階を考慮しながら指導目標や指導内容を設定し, 訪問指導を実施する ( 年間 4 回 ) その取組について質問紙を用いて集約し, 幼稚部, 小学部低学年, 小学部高学年の各生活年齢段階ごとに教師が設定した指導目標と めざす子ども像 との関連, 家庭への訪問指導 実施の効果 ( 保護者からの評価 ) を分析し, 本年度の取組の成果と課題を明らかにする また, 幼稚部, 小学部低学年, 小学部高学年の各生活年齢段階において事例研究を行い, 学校での指導の成果を家庭生活や地域生活に広げるための要件を生活年齢段階や家庭のニーズと関連させて検討する 分析の方法 1 訪問指導に携わった教師に対し, 設定した指導目標と めざす子ども像 の項目の関連性について質問し, 各生活年齢段階における取組の傾向を分析する 2 保護者への質問紙調査の結果から, 年間 4 回の 家庭への訪問指導 を通して保護者が感じた幼児児童の行動等の変容と保護者自身の子どもに対する働き掛けや心理面の変容について, 各生活年齢段階における傾向を分析する なお, 幼児児童の行動等の変容については, めざす子ども像 の各生活年齢段階における項目から, 幼児児童が生活の中で見せる具体的な姿を話し合い, 想定される行動に置き換え, 保護者に質問した また, 保護者自身の子どもに対する働き掛けや心理面の変容については, 期待される 家庭への訪問指導 実施後の保護者像を想定し, 保護者に質問した 3 幼稚部, 小学部低学年, 小学部高学年ごとの各実践事例から生活年齢段階や家庭のニーズに応じた 家庭への訪問指導 を効果的に行うための要件を抽出し, 整理する 3 本年度の 家庭家庭へのへの訪問指導訪問指導 の概要 (1) 日程本年度は, 年間 4 回の訪問指導を実施した 実施日は, 6 月 14 日 ( 月 ), 7 月 27 日 ( 火 ), 9 月 13 日 ( 月 ),11 月 22 日 ( 月 ) であった なお,2 回目は, 夏季休業中の実施であった (2) 家庭への訪問指導訪問指導 のねらい 家庭への訪問指導 のねらいは, 昨年度同様, 幼児児童の行動上の問題や一般化の対応 -7-
だけではなく, 幼稚部, 小学部の早期の段階から, 称賛の仕方や見通しのもたせ方などの行動 を支える要素を家庭 ( 保護者 ) に広げたり, 深めたりする こととした (3) 指導内容を設定設定するにするに当たって本年度, 本校では, 家庭への訪問指導 の指導内容を設定するに当たり, 個別の教育支援計画や個別指導計画との関連性を図るために, 次に示す観点から指導内容を考えた 1 幼児児童にとって, 今, 家庭や地域生活において身に付けておくことが必要であると考えられること 2 家庭が学校との連携の必要性を強く感じていること 3 将来を見通したときに各生活年齢段階で必要と思われること = めざす子ども像 を参考に (4) 指導の手続き 家庭への訪問指導 の年間の指導の流れは, 図 5に示すとおりである 家庭への訪問指導 を行うに当たっての事前の取組 評価のための個別セッション 授業場面の行動観察 家庭訪問や個別指導計画説明週間を利用した聞き取り 家庭家庭のニーズニーズの把握把握 立案シート作成各実施日間は家庭が取り組む家庭への訪問指導 (2 回目 3 回目 ) PDCAサイクル総括的評価の実施 (4 回目 ) 家庭への訪問指導 (1 回目 ) 家庭環境のアセスメントアセスメントの実施 ( 物理的な環境 必要性 好み ツール ) アセスメントを受けて 実態実態の見直見直しやしや指導目標指導目標の修正各学級単位での検討必要に応じて教育支援コーディネーターが参画する 注 : 本校では 評価のための個別セッション を個別指導計画作成に向けた情報の共有する場と位置付け, 幼児児童 保護者 学級担任が一堂に会してのアセスメントを行っている 図 5 家庭への訪問指導 の取組の流れ 4 結果と考察 (1) 実施後の質問紙調査の分析 1 本年度の取組の実際 ~ 各生活年齢段階における教師教師の視点 ~ 本年度, 本校で取り組んだ 家庭への訪問指導 が, 何をねらって実施されたのかということについて, 設定された指導目標と めざす子ども像 の各項目との関連から, 幼稚部, 小学 部低学年, 小学部高学年ごとに分析した結果を図 6~ 図 8に示す 幼稚部 図 6に示されているように, 幼稚部段階では, 家族との過ごし方や関係性をどのように培って いくかということに主眼を置きつつ, 家庭における手掛かりの活用やコミュニケーションの意欲を育てることをねらって指導していることが読み取れた -8- 人とのかかわりの基礎手掛かりなどをもとに活動するための基礎集団活動への参加の基礎活動への意欲と関心コミュニケーションの意欲と態度自己選択しようとすることへの意欲と態度活動を支える学習や経験の基礎基礎的な体力 身体の動きに関することの基礎 基本的生活習慣に関することの基礎 家族と過ごす内容 方法の基礎 家族の中で認められているという意識 家族相互の関係性に関することの基礎 0 2 4 6 8 10 12 14 ( 人 ) 図 6 幼稚部における取組の傾向
小学部低学年 図 7 に示されているように, 小学部低学年段階では, 簡単な手伝いなどをとおして, 家庭における役割意識を育てるとともに, 生活場面において実際に支援ツールを使いながら, 主体的に行動できるようにすることや称賛を受けながら自信をもって行動できる力を育てることをねらっていることが読み取れた 小学部高学年 小学部高学年段階では, 学校場面など, 環境 コミュニケーション手段の確立身の回りの情報を理解し, 適切に行動できる事象や状況の変化を受け入れ 行動できる集団活動を通しての学習の深まりや経験の拡大称賛を受けながら自信をもって行動できる自己選択 自己決定するための基礎主体的に行動するためのツールの理解活動を続けようとする意欲と身体の基礎身辺処理に関わる基本的スキルの確立道具 ( 箸や掃除器具等 ) の扱い方や操作性の向上家庭での役割意識や家事従事に関する基礎生活場面におけるツール ( 絵カード等 ) の活用公共機関や商業施設を利用する経験の拡大 図 7 0 2 4 6 8 10 12 14 小学部低学年における取組の傾向 ( 人 ) が整った条件の中で使われていた支援ツール を家庭や地域などでも同様に使いこなせるようになることにより, 参加の拡大を図る段階にあると教師はとらえていることが伺えた その際に, 家庭内においては, 一人で ということや家族の一員としての役割を担うことが期待されるようになってきている また, 他者との適切なかかわり や ルールやマ 他者との適切なかかわり社会におけるルールやマナーの理解と自己調整自ら状況を判断し, 行動できる力ツールを活用し, 生活に生かす ( 広げる ) 力社会参加につながる学習機会の拡大活動を維持するための意欲と体力身辺処理などの自立 ( 一人でできる ) 家族の一員としての役割の円滑な遂行と拡大職業生活に関することの基礎自分に与えられた役割の自覚責任をもって取り組むことへの意識公共の施設を利用しながら楽しむ経験余暇のレパートリーの拡大 ナーの理解 など, 社会性に関連する要素も 重視されるようになる段階であるとらえてい ることが読み取れた 図 8 0 2 4 6 8 10 12 小学部高学年におけるの取組の傾向 ( 人 ) 2 本年度の取組の実施効果 ~ 各生活年齢段階における保護者保護者の視点から ~ 以下, 本校の保護者を対象に実施した質問紙調査の結果から, 生活年齢段階や家庭のニーズを考慮し, 家庭への訪問指導 を実施したことによる効果を分析した 幼稚部 図 9 に示されているように, 幼稚部では, 自分でできることが増えた, 身近な人とのかかわりが増えた, 自分の思いを相手に伝えようとするようになった, 自分で決めたり, 選んだりすることが増えた など, 子どもの主体的な行動の増加や人とのかかわりの変容を評価したものが多かった こ 身近な人とのかかわりが増えた困ったときなどに, 自分で解決しようとする場面が増えたいつも一緒に学習している友達が分かり, 安心して集団活動に参加している 新しいことにも挑戦できるようになってきた 自分の思いを相手に伝えようとすることが増えた自分で決めたり, 選んだりすることが増えた自分でできることが増えた 活動するために必要な体力がついた身の回りのことが, 以前より自立してきた 家族と過ごす時間が増えた家族に褒められることを期待して, がんばることが増えた 子供自身の思いと, 家族の子供に対する思いの一致度が高まった 0 2 4 6 8 10 12 14 れらの変容は, 家族との過ごし方や関 係性ということに重点を置いた指導が行 図 9 幼稚部における子どもの変容 ( 人 ) われた結果であり, 保護者自身のかかわり方にも変容があったのではないかと考えられた 小学部低学年 図 10 に示されているように, 小学部低学年段階では, 自分から選択したり, 決定したりすることが増えてきた, 主体的に行動するためのツールを理解できるようになってきた, 身の回りの情報を理解し, 適切に行動できるようになってきた など, 絵カードやスケジュ -9-
ールなどの支援ツールと行動の変容を関連させて評価をしているものが多かった これらの変容は, 生活場面において実際に支援ツールを使いながら, 主体的に行動できるようになることに重点を置いた指導が行われた結果を反映したものであったと考えれる また, 小学部低学年においては, 教師が直接ねらいとはしていなかった項目の評価も高く, 支援ツ 他者とのコミュニケーション手段が確立してきた身の回りの情報を理解し, 適切に行動できるようになってきた状況の変化を受け入れて, 行動できるようになってきた家族と一緒に行動できるようになってきた称賛を受けながら自信をもって行動できるようになってきた自分から選択したり, 決定したりすることが増えてきた主体的に行動するためのツールを理解できるようになってきた活動への集中力や意欲が増し, 一つの活動に専心して取り組めるようになって 身辺処理にかかわる基本的なスキルが身に付いてきた身近な道具の扱い方や操作性が向上してきた家庭内での役割意識が高まったり, 家事を手伝ったりする機会が増えた生活場面において絵カードやスケジュール等の活用が見られるようになってきた公共機関や公共施設を利用する機会が増えてきた 図 10 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 小学部低学年における子どもの変容 ( 人 ) ールの活用や称賛の理解ができるようになったことにより, 主体的な行動が増えたことの波及 効果が確認された 小学部高学年 図 11 に示されているように, 小学部高学年段階では, ツールを活用することで, 実生活を豊かにすることができた, 将来的な社会参加につながる活動に取り組むことができた, 余暇活動のレパートリーを拡大することができた, 他者との適切なかかわりができるようになってきた の項目を評価しているものが 他者との適切なかかわりができるようになってきた社会におけるルールやマナーを理解し, 守れるようになってきた自ら状況を判断し, 行動できるようになってきたツールを活用することで, 実生活を豊かにすることができた将来的な社会参加につながる活動に取り組むことができた活動に最後まで粘り強く取り組み, やり遂げようとするようになってきた一人で身辺処理ができるなど, 自立してきた家族の一員として, 自分の役割を円滑にこなすことができるようになってきた将来的な就労に結び付くことができる活動に取り組むことができた自分に与えられた役割に対し, 自覚できるようになってきた物事に対し, 責任をもって取り組むことができるようになってきた公共施設を実際に利用し, そこで楽しむ経験をすることができた余暇活動のレパートリーを拡大することができた 図 11 0 1 2 3 4 5 6 7 小学部高学年における子どもの変容 ( 人 ) 多かった このように, 小学部高学年段階では, 実生活の中でツールの活用を図ることで, 将来的な社会参加につながる活動への取組や余暇活動の拡大を評価したものが多く挙げられた また, その中で他者との適切なかかわりについても変容が見られた このことからも, 小学部高学年においては, やはり地域や社会への参加を念頭に, そこで必要となる社会性やコミュニケーション能力を高める指導が必要になると言える そのため, 保護者が地域や社会に目を向けることができるように支援することが望まれていると言えよう 保護者のかかわりや心理的変化についてこれまで見てきたように, 本年度, 生活年齢段階と家庭のニーズを考慮した 家庭への訪問指導 を行ったことにより, 各生活年齢段階において指導のねらいが異なり, その指導のねらいに応じて幼児児童に変容がみられることが確認できた しかしながら, 幼児児童の行動の変容をもたらした背景には, 幼児児童自身の要因ばかりではなく, 保護者やその家族の要因も強く影響すると考えられた そこで, 家庭への訪問指導 を通して, 保護者自身が, どのように変容したと実感しているのかを質問紙調査によって明らかにした その結果を図 12 に示す 全体的な傾向としては, 幼稚部 小学部低学年ほど, 自身の変容を実感している姿を見ることができた このことから, 早期から保護者が子育てにおいて子どものよさを見つけ, 家庭内において できる という経験を重ねることができるように支援することが重要であると言える また, 併せて家庭や地域において支援ツールを効果的に活用する指導を進めることの必要性が示唆された -10-
子供とのかかわりがうまくいくようになってきた 子供とのかかわりに自信が持てるようになってきた 子供をほめる機会が増えた 子供の行動の理由が分かるようになってきた子供と外出する機会を多くもつようになった子供の新たな良さを見つけることができた絵カードやスケジュール等の支援ツールを家庭で使うようになった 幼稚部 小低 小高 その他 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 ( 人 ) 図 12 保護者自身の変容 ( 心理的変化 ) (2) 実践事例から本校における 家庭への訪問指導 は, 幼児児童の行動上の問題や一般化の対応だけではなく, 幼稚部, 小学部の早期の段階から, 称賛の仕方や見通しのもたせ方などの行動を支える要素を家庭 ( 保護者 ) に広げたり, 深めたりする ことをねらいとしている このねらいに示された 家庭 ( 保護者 ) に広げたり, 深めたりする ということを考えたとき, その課題は, 学校場面の指導の成果をそのまま家庭場面に般化することは難しく, その成果を家族による支援を前提にいかに円滑に家庭生活や地域生活に移行できるかにある そこで, 本研究では, 幼稚部, 小学部低学年, 小学部高学年ごとに実践事例を取り上げ, 学校での指導の成果を 家庭への訪問指導 やそのフォローアップを通して, 家庭生活や地域生活に広げるためのプロセスに着目し, その要点を整理することで, 家族による支援の実行とそれが効果を生み出すための条件を検討することにした 各実践事例から, 家庭への訪問指導 を 計画 - 実行 - 評価 に区分し, 支援の際に指導者が, どのような点に配慮したのかをまとめたものが図 13である 図 13のように支援のポイントを整理すると, 家庭への訪問指導 においては,1 計画の立案段階から, 家族が無理なく取り組めるような家庭環境や家族の状況 ( ライフスタイル ) に適合した支援を考えること,2 定期的かつ継続的な協議を重ねながら, 課題意識を共有する過程を大切にすること,3 課題解決に向けた協働的なアプローチを試みること ( 一方的な支援にならないことへの留意 ),4 保護者の心情を理解した対応を行うことが重要であったと言える その上で, 幼児児童の望ましい行動やその生活年齢段階に必要であると考えられる力の獲得を目指し, 段階的なアプローチを試みることが必要である なお, 図 16に示したポイントについては, 各事例ごとに違いがあまり見られなかったことから, 学校での指導の成果を家庭や地域に広げるためには, 各家庭のニーズや保護者の心情を理解した対応を行うことが生活年齢段階よりも重要視される必要があると考えられる そのため, 教師が個々の家庭のニーズや保護者の心情に合わせて, 指導展開や支援方法を工夫する必要がある -11-
計 画 内容の選定 実施前 学校と家庭が協働できる内容 家庭 ( 保護者 ) が取り組みやすい内容 いくつかの内容や方法から保護者自身が選択する 実 行 実施日 ( 当日 ) 家庭環境のアセスメント( 物理的な環境, 家庭生活上の必要性, 家族や本人の好み, 支援ツール ) 保護者の心情を理解した対応一方的な提案にな 保護者との協議や面談ならないような配 課題意識の共有慮が必要 評 価 実施後 ~ 次の指導日 必要に応じて指導目標や計画を修正する 日常的な情報交換継続的なフォーロ 家庭での取組に対する適切なーアップが重要フィードバックが必要 具体的な方向性の提示 ( 次の 家庭への訪問指導 までの改善策や見通し ) 図 13 学校での指導の成果を家庭生活や地域生活に広げるためのポイント 5 本年度の 家庭家庭へのへの訪問指導訪問指導 のまとめ以下, 指導実施後の質問紙調査の結果と事例研究を踏まえ, 本研究における成果と課題をまとめる (1) 成果本年度の 家庭への訪問指導 では, 指導内容を考える際に幼児児童一人一人の発達段階, 自閉症の程度や特性だけではなく, 生活年齢段階という視点から家庭のニーズに適合した支援を行うことを目指した 教師への質問紙調査をもとに本年度の取組を めざす子ども像 に照らし分析を行った結果, 幼稚部, 小学部低学年, 小学部高学年では, 教師が何をねらって指導内容を選定したのかということについて, 各生活年齢段階ごとに一定の傾向を見いだすことができた また, 家庭への訪問指導 実施後の保護者評価においても, 指導のねらいの違いが幼児児童の家庭における行動の変容に反映される結果となった これらの結果から, 生活年齢段階という視点から 家庭への訪問指導 を行うことの必要性と妥当性を検証, 確認することができた さらに 家庭への訪問指導 を教育課程上に位置付け, 継続的に行う際には, 本年度, 本校で取り組んだ めざす子ども像 のように, 教師集団が各生活年齢段階でどのような子どもを育てたいのかを明確にしたり, 共有したりできる指標を作成する必要があると考えた また, 家庭生活支援を行う上では, 本人を含む家族全体を包括的に支援することが望まれる -12-
本研究では, 保護者への質問紙調査から 家庭への訪問指導 を通して幼稚部 小学部低学年の保護者ほど, 自身の子どもに対する見方やかかわり方の変容を実感している実態を明らかにすることができた このことから, 早期から保護者の子育てに対する支援を学校が行うことの意義や必要性を見出すことができる 一方で, 学校での指導の成果を家庭や地域に広げるという観点から幼稚部, 小学部低学年, 小学部高学年の実践事例を見た時, そのプロセスは, 生活年齢段階の違いよりも, 家族が無理なく取り組めるように家庭環境や家族の状況 ( ライフスタイル ) に適合した支援を行うことや保護者の心情を理解した対応が重要であると考えた そして, 家庭への訪問指導 のみを指導の機会ととらえるのではなく, 日常的に家庭とやりとりを行う中で情報を共有し, 家庭での保護者による取組に対するフォーローアップを行うことが指導の成果を家庭に広げる上での成否に影響を与えると推測された (2) 課題本研究では, 本年度の 家庭への訪問指導 の取組を通して, 生活年齢段階や家庭のニーズに応じることの必要性について実証的に検証してきた しかしながら, 本校での 家庭への訪問指導 も始まってから 3 年目と日が浅く, 次年度に向けて以下のような課題が残されている 1 家庭への訪問指導 の実施時期や回数について 2 日々の授業と 家庭への訪問指導 の指導内容の連動について 3より長期的な視野からの 家庭への訪問指導 の指導内容の選定上記 1については, 各家庭のニーズに応じるという点から言えば, 家庭で必要な時に実施する等, 弾力的運用が望まれるところである しかし, 本校では, 家庭への訪問日 を授業日として位置付け, 学校全体の取組としていることから, すべての家庭のニーズに対応することが難しく, 個々の幼児児童に応じた支援をどのように行うのかということについて課題が残されている また, 上記 2 3については, 本年度, 取り組まれた めざす子ども像 を活用しながら教育活動を展開することで, 本年度の取組を更に充実させたものにできると考える 次年度においても, めざす子ども像 と家庭のニーズのバランスを考慮しつつ, より長期的な視野からアプローチを行うために学校としての方策や仕組みを整える必要がある 研究 3: 本年度の 保護者学習会保護者学習会 の取組 1 研究背景本年度は, 昨年度の課題を踏まえ, 本校に在籍する幼児児童 (3 歳児から12 歳児まで ) の生活年齢段階や家庭のニーズを考慮したプログラム内容を設定することで, 幼稚部, 小学部の保護者が求める学習の機会を保証したいと考え, 学習会の企画 運営の仕方を工夫することとした なお, 企画 運営にあたっては, 学部主事 ( 教育支援コーディネーター ) などの学校運営に携わる立場の教職員も参画し, 学校組織全体での取組として進めるようにした -13-
2 研究の目的目的 方法 研究の目的 生活年齢段階や家庭のニーズの違いに応じた 保護者学習会 の在り方や保護者同士が 学び合い を実感できる学習会の在り方を検討する 研究手続き 昨年度までの取組の成果と課題を踏まえ, 学校と家庭が協働するための取組として 保護者学習会 を企画, 運営する その際, 幼稚部, 小学部低学年, 小学部高学年の各生活年齢段階や家庭のニーズ, 幼稚部で行っている 親子教室 を考慮したプログラム内容にするために めざす子ども像 や家庭のニーズの調査 ( 研究 1) を活用し, 内容及び年間予定を検討する 毎回の 保護者学習会 における保護者の感想を質問紙にて集約し, 本年度の 保護者学習会 の成果と課題を明らかにする 分析の方法 保護者向けに質問紙を作成し, 各回における保護者の感想等を集約し, 分析する 自由記述の感想を合わせ, その成果と課題を明らかにする 3 保護者学習会保護者学習会 の内容内容を設定設定するにするに当たって幼稚部 小学部低学年 小学部高学年ごとに, 個別指導計画, 個別の教育支援計画等から, 家庭 ( 保護者 ) のニーズを整理し, 生活年齢段階 (= めざす子ども像 を含む) と照らし合わせ, 学習内容について協議した その結果, 幼稚部は日常生活面や行動面全般にわたる内容, 小学部低学年は, コミュニケーションや行動面の課題を中心とした内容, 小学部高学年は, 進路を見据えた内容にニーズがあると考え, 全 10 回の内容を表 2のように構成した 表 2 本年度の保護者学習会の主な内容 回学習概要主な対象プログラム名数前半後半グループ 1 オリエンテー オリエンテーション グループ協議 発表全グループ ション 自己紹介 PATHモデルを使って, 各自 学習会の目的, 今後の学習内容 で将来の生活を考え, 発表し, を説明する 交流する 2 行動の理解 行動の理解 褒め方 しかり方 グループ協議 発表幼稚部 よりよい行動を導くための,A 各家庭で 効果的だった褒め方 小学部低学年 BC 分析の仕方, 褒め方, 話し やどんなときに上手くしかれ 掛け方を紹介する ないか についてワークシート を使って整理, 発表し, 共通点 を考える 3 コミュニケー 伝え合うコミュニケーション グループ協議 発表小学部低学年 ション 発信者, 受信者として, 伝え合 各家庭で 子どもに伝える, 要 う力を高めるために必要なこと 求を促すための工夫 について, ( 伝える手段, 相手に注意を向 ワークシートを使って整理, 発 けるなど ) を具体例を交えて, 表し, 共通点を考える 紹介する 4 日常生活 日常生活上の課題幼稚部 乳児期から成人期までの日常生活上の課題を ( 性教育も含む ) 各 生活年齢段階での具体例を交え, 紹介する 5 支援ツール1 支援ツールの概論 グループ協議 発表幼稚部 支援ツールの基本的な考え方や ワークシートを使って, それぞ小学部低学年 支援ツールの種類, 活用につい れの子どもに必要な支援を考え て紹介する る また, 具体的な支援ツール -14-
家庭での活用例について, 保護 の作成図を考える ( 随時, グ 者から紹介してもらう ループで話し合う ) 6 支援ツール2 支援ツールの作成幼稚部 前回に考えた作成図に沿って, 各保護者で支援ツールを作成し, 小学部低学年 紹介し合う 7 授業紹介 幼稚部, 小学部低学年, 小学部高学年のグループ授業の様子をV 全グループ TRで紹介する 8 先輩保護者の講師 : 角田 みすず 氏 小学部高学年 方からのお話 JC-NETジョブコーチネットワーク事務局 臨床心理士 表題 : 社会参加と自立をめざした子育て 9 企業の方から講師 : 湯田 正樹 氏 小学部高学年 のお話 株式会社キューピーあい 代表取締役社長 表題 : 障害者雇用の現状と家庭教育について ~ 企業の視点から~ 10 学習会のまと 学習会のまとめ グループ協議 発表全グループ め これまでの学習会で行ってきた PATHモデルを使って, 各自 ことを振り返る で将来の生活を考え, 発表し, 交流する さらに, 本年度は, これまでの学習会の目的であった 子どもの行動を理解したり, 適切なかかわりを学んだりすること に加え, 共に保護者同士が学び合える場 となるよう,1 時間の後半をグループで協議する時間とし, 各回のテーマに沿った話合いができるよう学習会の展開の仕方を工夫した 4 結果と考察 (1) 参加加者の推移推移とそのとその傾向第 5 回まで実施した 保護者学習会 の幼稚部 小学部低学年 小学部高学年ごとの在籍数に対しての参加保護者の割合を示したものである 図 14に示されているように, 幼稚部, 小学部低学年の保護者に対して, 小学部高学年の保護者の参加割合が低いことが分かった また, 第 4 回目の参加者が少なかった その理由としては, テーマの曖昧さや既に身辺自立が図られている保護者の興味をひかなかったことなどが考えた (2) 協議の場の設定設定の有効性図 15 に示されているように, グループでの協議の機会を設けなかった第 4 回を除く, 他の回では,9 割の保護者が 大いに得られた, 少しだが期待以上 と答えている このことから, 保護者学習会 を学び合える場としてとらえるには, 協議することが, とても重要であることが示唆された (%) 図 14 在籍幼児児童数に対する参加保護者の割合図 15 情報交換に関する保護者の感想 -15-
5 本年度の 保護者学習会保護者学習会 のまとめ以上の結果から本年度の 保護者学習会 について,1 生活年齢段階や家庭のニーズを考慮した内容の設定,2 学習会の運営面に関する工夫 ( 保護者同士の協議の場の設定 ) について, その成果と課題をまとめる (1) 生活年齢段階や家庭家庭のニーズニーズを考慮した内容内容の設定 保護者学習会 への参加者の割合や感想から, 本年度の 保護者学習会 における内容設定は, おおむね妥当であったと判断できる 第 5 回まで小学部高学年の保護者の参加がやや低調であったが, これは内容設定が幼稚部や小学部低学年の保護者をその対象として想定したことによることも影響していると考えられる 課題としては, 本年度の 保護者学習会 の案内は, 事前に内容に関するテーマのみを知らせるにとどまっていたことから, 保護者学習会 で扱う内容に関する具体的な説明や対象として想定する参加者を明示することも必要であると考えられる その上で, 本校で実施する 保護者学習会 の内容について, 長期的な視野から保護者が必要な内容を選択できるようにシラバスのようなものを作成するなど, 情報提示の仕方や内容選択の面において, 更なる工夫が必要であったと考える (2) 学習会の運営面に関する工夫本年度の 保護者学習会 では, 運営面の工夫として 共に学び合える場 を提供することを目的に協議する機会を多く設けた これにより, 同じような課題に直面する保護者が, 互いに情報を提供し合ったり, 家庭での療育について一緒に考えたりすることで, 互いに心理的な支えとなり, 交友関係が深まったと言える 互いに学び合い, 支え合うような保護者間のネットワークは, 教師からの情報や支援よりも効果が高いこともあると考えられる 本年度の本校の取組から, 保護者同士が 共に学びあえる場 を意図的に提供することの重要性を指摘できる その際に, 学習会をより有意義なものにするためには, 高学年の保護者には, これまでの子育てや学習会等から得た豊富な経験や知識を生かして, 幼稚部や小学部低学年の保護者に先輩保護者としてアドバイスしてもらえるような役割を担っていただくことも重要である そのためには, 学校におけるそのための仕組み作りと小学部高学年の保護者の積極的な参画を促すための方策を考える必要がある -16-