企業不祥事が生じた場合の適時開示について 太陽コスモ法律事務所弁護士村上康聡 はじめに適時開示とは 公正な株価等の有価証券の投資判断に重要な影響を与える会社の業務 運営 業績等に関する情報を適時にかつ適切に投資者に開示することです これは 有価証券の公正な価格形成および投資者保護を目的として 金融証

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企業不祥事が生じた場合の適時開示について 太陽コスモ法律事務所弁護士村上康聡 はじめに適時開示とは 公正な株価等の有価証券の投資判断に重要な影響を与える会社の業務 運営 業績等に関する情報を適時にかつ適切に投資者に開示することです これは 有価証券の公正な価格形成および投資者保護を目的として 金融証券取引所の規則により上場した会社に義務付けられています 上場有価証券の発行者は 投資者への適時 適切な会社情報の開示が健全な金融商品市場の根幹をなすものであることを十分に認識し 常に投資者の視点に立った迅速 正確かつ公平な会社情報の開示を徹底するなど 誠実な業務執行に努めなければならないとされています ところが 近年 企業不祥事事件の処分に関する発生事実について適時開示が行われているのか疑問と思われる事例が散見されます 適時開示が不十分であったり 全く行わない場合には 会社としてこれに伴う二次的なリスクを負わなければならなくなります 本稿では 具体的な開示例を見ながら 検討してみたいと思います 1 適時開示が求められる会社情報 金融商品取引法では 有価証券報告書 四半期報告書 臨時報告書等の提出が上場会社等に義務付けられており これを法定開示といいます これに対し 日々変化する経済情勢の下では 投資者の投資判断の材料となるのがこの法定開示される情報だけでは不十分であり この齟齬を埋めるものとして適時開示が求められています 適時開示が求められる会社情報は 1 上場会社に関する情報 2 子会社に関する情報 3 非上場の親会社に関する情報の 各決定事実 発生事実 決算情報です これらの情報を 適時に 開示するとは 会社が当該事実を認識した時点で 直ちに 開示することです また 適切に 開示するとは 1 開示する情報の内容が虚偽でないこと 2 開示する情報に投資判断上重要と認められる情報が欠けていないこと 3 開示する情報が投資判断上誤解を生ぜしめるものでないこと 4 開示の適正性に欠けていないことです 適時開示に関しては 東京証券取引所に上場している会 http://www.jpx.co.jp/equities/listing/disclosure/02.html PwC s View Vol. 04. September 2016 45

社の場合には 同取引所の定める 上場有価証券の発行者の会社情報の適時開示等に関する規則 ( 以下 規則 ) に従って行われなければなりません このうち 適時開示が求められる 発生事実 の主なものは 1 災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害 ( 規則 2 条 1 項 (2)a) 2 財産権上の請求に係る訴えが提起されたこと又は当該訴えについて判決があったこと若しくは当該訴えに係る訴訟の全部若しくは一部が裁判によらずに完結したこと ( 同 d) 3 免許の取消し 事業の停止その他これらに準ずる行政庁による法令に基づく処分又は行政庁による法令違反に係る告発 ( 同 f) 4 当該上場会社の運営 業務若しくは財産又は当該上場有価証券に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの ( 同 x) です 子会社に関することについても同様の規定があります ( 同条 2 項 (2)a,b,d,m) もっとも 投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なものと認められるものについては 開示は不要とされています この軽微基準については 東京証券取引所では2010 年東証上場第 157 号別添 5の 適時開示の軽微基準等の見直しに係る実務上の留意事項について に詳細が整理されています しかし 当該上場会社の運営 業務若しくは財産又は当該上場有価証券に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすものについては 軽微基準はありません いわゆる企業不祥事が生じた場合には この 発生事実 に該当するものとして適時開示の対象となり得ることを社内で検討しなければなりません この場合に開示すべき内容は 発生事実が発生した経緯 発生事実の概要 発生事実に関する今後の見通しなどです 会社によっては 規則で開示が義務付けられていない情報についても 積極的に 迅速 正確かつ公平に開示していく姿勢をウェブサイトで示しているところもあります 2 適時開示の方法 適時開示情報の開示方法は 規則に従って 東京証券取引所に上場している場合には同取引所が提供している 適時開示情報伝達システム (TDnet) によって公開することとなっています そして 会社がTDnetで公開した情報は 会社のウェブサイトにも速やかに掲載するのが一般的です れを会社のウェブサイトに掲載して公表しておくことが大切です さらに 開示手順管理規程の類いを定め 開示に向けた社内の体制を定めておくことが必要です すなわち 適時開示情報に該当すると想定される重要な事実が発生した場合には 情報を入手した事業所長や各部門責任者は直ちに情報管理責任者に報告することが求められます この情報管理責任者は 広報宣伝担当の取締役になると思われます その上で 適時開示の要否 開示時期 開示内容などに関することを開示検証委員会が協議を行い 管理情報責任者が判断し 必要に応じて取締役会に報告して承認をもらうこととなるのが一般的と思われます そして 情報管理の事務局を通じて開示に至るという流れになると思われます 開示をした場合でもそうでない場合でも 発生事実に関する対外的な応答要領を起案し 対外的なコメントにも十分に留意する必要があります 4 事例検討 それでは 具体的な事例を見て検討してみたいと思います 昨年実際に起こった事件の開示を題材とした二つの架空の事象を見ながら その問題点について検討したいと思います ( 事例 1) 東証 1 部に上場している建設業 A 社は世界的規模で事業展開をしていますが A 社のナイジェリア法人はナイジェリア連邦共和国の与党のフロント企業と合弁で現地子会社を設立しました A 社は 政府系企業の発注する大規模なインフラ工事を受注し その後 このフロント企業に 配当 として 500 万ドル 成功報酬 として 100 万ドルを支払いました このうち 成功報酬分は経理上 コンサルタント手数料 として処理しました しかし この支出について 支出のあった翌年にこの支出は実質的に外国政党の支払いに該当するのではないかと問題となり 米国証券取引委員会 (SEC) との間で 海外汚職行為防止法 (FCPA) の会計処理条項違反により多額である 50 億円相当の民事制裁金を支払うことを合意しました SECはこの事実および処分の内容をウェブサイト上で公開しました その数カ月後 上記事件に関し 過去 3 年間にわたりコンプライアンスに関する調査を行ってきたアフリカ開発銀行グループ (AfBA) との間で 条件付きの 12カ月間の debarmentの制裁 (sanction) を受けることについて合意しました 翌月に AfBAはウェブサイトでこの事実を公表しました 3 開示に向けた社内体制 会社では 情報開示に関する基本原則について定め こ (A 社の開示上の対応 ) 一つ目のSECからの処分に関して SECは自らのウェブサイトでこの事実を公表しました これを受け 翌日 日本でも新聞報道がなされましたが A 社自身はこのことに関する 46 PwC s View Vol. 04. September 2016

TDNetによる適時開示は行いませんでした 新聞報道に対しては コメントを差し控える 旨の回答にとどまっています 続けて 二つ目の事象である AfBAとの間で合意した制裁の事実についても A 社は適時開示を行いませんでした 同社のウェブサイトでは和解した事実を公表するにとどまっています (A 社の対応についての評価 ) 一つ目の事案はFCPA 違反という法令違反の容疑に関してSECに極めて多額の民事制裁金を支払うことになったものであり 二つ目の事案は AfBAからコンプライアンスに関し調査を受けてきたことについて制裁合意に至ったという事実に関するものです いずれも A 社の 運営 業務もしくは財産又は当該上場有価証券に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの ( 規則 2 条 (2) x) に該当するものと考えられます そして 投資者にとっては いずれも この発生事実だけではなく 合意に至った理由 極めて多額の民事制裁金の支払いやAfBAからの制裁が今後のA 社の業績に与える影響 役員の社内処分の有無 再発防止策についても投資判断に著しい影響を及ぼすものと考えられます しかし A 社は 一つ目の SECによる制裁の事案も 二つ目のAfBAによる制裁の事案についても いずれも適時開示の対象とはしませんでした このような A 社の対応は 規則 2 条の3で求められている 開示する情報に投資判断上重要と認められる情報が欠けていないこと ( 規則 2 条の3(2)) 開示の適正性に欠けていないこと ( 同 (4)) の遵守事項に抵触している恐れがあると考えられ 大きな疑問が残ります ( 事例 2) 日本国内および北米地区を中心に製造業を営む B 社は 取引の一部に関して米国反トラスト法違反などがあったとして 米国司法省との間で罰金 5,000 万ドルを支払うことを内容とする司法取引に合意しました 米国司法省がウェブサイト上で公表した内容によれば B 社は 反トラスト法違反の他 司法省の捜査を妨害したとして司法妨害罪にも抵触していたとのことです 具体的には B 社の役員および従業員らが記録 書類等を破棄 隠匿したこと FBIによる捜索を知った後に電子書類を削除し 書類のファイルを破棄したことなどが確認されています (B 社の開示上の対応 ) B 社は この事象を発生事実として TDNetによる適時開示を行い そのなかには 業績に与える影響 役員報酬の返上 再発防止策についても含まれていました しかし この適時開示情報では 反トラスト法違反の事実についての記載にとどまり 司法妨害罪については など としか記載がなく その罪名も内容も全く記載がありませんでした (B 社の対応についての評価 ) 司法妨害罪に関する法人の罰金の最高額は訴因ごとに最大 50 万米ドルと高額です そして 同罪は捜査を妨害するという性質のものであることにも照らすと 司法妨害罪は極めて重大な犯罪であり 同罪に問われたということはそれだけで投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす恐れのあるものと考えられます その点で B 社が適時開示した会社情報の内容は 規則 2 条の3で求められている 開示する情報に投資判断上重要と認められる情報が欠けていないこと ( 規則 2 条の3(2)) 開示する情報が投資判断上誤解を生じせしめるものでないこと ( 同 (3)) 開示の適正性に欠けていないこと ( 同 (4)) の遵守事項に抵触しているおそれがあると考えられます 従って B 社の開示内容は不十分であり 同社の開示に向けた姿勢にも大いに疑問が残るところです 5 おわりに 企業不祥事が発生した場合には 直ちに適時開示するとともに ウェブサイトでも公表して謝罪し プレス対応にも誠実に応じる必要があります これを怠ると 会社のコンプライアンス意識と体制が不十分であるとして厳しい非難を受け そのことによって投資者にさらなるマイナスの評価を与えることになってしまいます 会社では 会社の信頼性を高め 資本市場において自社の適正な企業価値評価を受けるためにも 会社情報の適時開示については十分に意を払っていただきたいと思います 村上康聡 ( むらかみやすとし ) 太陽コスモ法律事務所弁護士 1985 年検事任官 1992 年 10 月 ~1993 年 3 月米国証券取引委員会 (SEC) 法執行局 米国司法省 (DOJ) 刑事局 Fraud Sectionで株価操縦事犯の調査研究 1994~1997 年外務省総合外交政策局 1997 年東京地方検察庁 2001~2004 年内閣官房内閣参事官 ( 内閣官房副長官補付 ) 2005 年東京地方検察庁刑事部副部長 2006 年福岡地方検察庁刑事部長を歴任 2007 年に弁護士登録し 松田綜合法律事務所を経て 2014 年 9 月から太陽コスモ法律事務所に所属 2009~2014 年株式会社グローバルダイニング監査役 2014 年から日本弁護士連合会国際刑事立法対策委員会副委員長 著書として 海外の具体的事例から学ぶ腐敗防止対策のプラクティス ( 日本加除出版株式会社 ) メールアドレス :murakami@taiyocosmo-law.jp PwC s View Vol. 04. September 2016 47

PwCあらた有限責任監査法人 104-0061 東京都中央区銀座 8-21-1 住友不動産汐留浜離宮ビル Tel:03-3546-8450 Fax:03-3546-8451 PwC Japan グループは 日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社 (PwCあらた有限責任監査法人 京都監査法人 PwCコンサルティング合同会社 PwCアドバイザリー合同会社 PwC 税理士法人 PwC 弁護士法人を含む ) の総称です 各法人は独立して事業を行い 相互に連携をとりながら 監査およびアシュアランス コンサルティング ディールアドバイザリー 税務 法務のサービスをクライアントに提供しています 2016 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC. All rights reserved. PwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC, PricewaterhouseCoopers Kyoto, PwC Consulting LLC, PwC Advisory LLC, PwC Tax Japan, PwC Legal Japan). Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance, consulting, deal advisory, tax and legal services.