Microsoft Word - 07河内.doc

Similar documents
表紙.indd

DSM A A A 1 1 A A p A A A A A 15 64

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

熊大教育実践研究 第 28 号,57 63,2011 菊池哲平 教育学部学生における発達障害のイメージ 接触経験 知識との関連 菊池哲平 Image of Undergraduate Students would-be Educator toward Children with Developmen

論文題目 大学生のお金に対する信念が家計管理と社会参加に果たす役割 氏名 渡辺伸子 論文概要本論文では, お金に対する態度の中でも認知的な面での個人差を お金に対する信念 と呼び, お金に対する信念が家計管理および社会参加の領域でどのような役割を果たしているか明らかにすることを目指した つまり, お

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

問題 近年, アスペルガー障害を含む自閉症スペク トラムとアレキシサイミアとの間には概念的な オーバーラップがあることが議論されている Fitzgerld & Bellgrove (2006) 福島 高須 (20) 2

な 危険 などのネガティブなイメージを持つ人ほど社会的距離も大きいことなどが明らかになっている 距離が大きければ 例えば友好的行動をとりたくないことが示され 患者との隔たりが大きく 彼らを理解しケアをする上で影響を及ぼすと考えられる 看護教育課程において 精神科勤務経験のある学生とない学生が混在して

回数テーマ学習内容学びのポイント 2 過去に行われた自閉症児の教育 2 感覚統合法によるアプローチ 認知発達を重視したアプローチ 感覚統合法における指導段階について学ぶ 自閉症児に対する感覚統合法の実際を学ぶ 感覚統合法の問題点について学ぶ 言語 認知障害説について学ぶ 自閉症児における認知障害につ

Microsoft Word - 209J4009.doc

Microsoft Word - 210J4061.docx

様式 3 論文内容の要旨 氏名 ( 神﨑光子 ) 論文題名 周産期における家族機能が母親の抑うつ 育児自己効力感 育児関連のストレス反応に及ぼす影響 論文内容の要旨 緒言 女性にとって周産期は 妊娠 分娩 産褥各期の身体的変化だけでなく 心理的 社会的にも変化が著しいため うつ病を中心とした気分障害

Microsoft Word 今村三千代(論文要旨).docx

BA081: 教養 B( 放送大学 心理学概論 ) 科目番号 科目名 BA081 教養 B 放送大学 心理学概論 (Liberal Arts B) 科目区分 必修 選択 授業の方法 単位数 教養教育系科目 選択 講義 2 単位 履修年次 実施学期 曜時限 使用教室 1 年次 2 学期 月曜 1 限

( 続紙 1) 京都大学博士 ( 教育学 ) 氏名田村綾菜 論文題目 児童の謝罪と罪悪感の認知に関する発達的研究 ( 論文内容の要旨 ) 本論文は 児童 ( 小学生 ) の対人葛藤場面における謝罪の認知について 罪悪感との関連を中心に 加害者と被害者という2つの立場から発達的変化を検討した 本論文は

3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

PowerPoint プレゼンテーション

DV問題と向き合う被害女性の心理:彼女たちはなぜ暴力的環境に留まってしまうのか

Exploring the Art of Vocabulary Learning Strategies: A Closer Look at Japanese EFL University Students A Dissertation Submitted t

Microsoft Word - 9概要(多保田春美).docx

フトを用いて 質問項目間の相関関係に着目し 分析することにした 2 研究目的 全国学力 学習状況調査結果の分析を通して 本県の児童生徒の国語及び算数 数学の学習 に対する関心 意欲の傾向を考察する 3 研究方法平成 25 年度全国学力 学習状況調査の児童生徒質問紙のうち 国語及び算数 数学の学習に対

”ƒ.pdf

Microsoft Word -

4 身体活動量カロリズム内に記憶されているデータを表計算ソフトに入力し, 身体活動量の分析を行った 身体活動量の測定結果から, 連続した 7 日間の平均, 学校に通っている平日平均, 学校が休みである土日平均について, 総エネルギー消費量, 活動エネルギー量, 歩数, エクササイズ量から分析を行った

( 続紙 1) 京都大学博士 ( 教育学 ) 氏名小山内秀和 論文題目 物語世界への没入体験 - 測定ツールの開発と読解における役割 - ( 論文内容の要旨 ) 本論文は, 読者が物語世界に没入する体験を明らかにする測定ツールを開発し, 読解における役割を実証的に解明した認知心理学的研究である 8

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

Microsoft Word - 12_田中知恵.doc

<4D F736F F D208BC690D181698D4B93638ED196ED89D8816A>

神経発達障害診療ノート

Microsoft Word - 概要3.doc

untitled

表紙

(Microsoft Word

因子分析



148 國田祥子 う しかし, 携帯電話の表示領域は一般的に紙媒体で読まれる文章の表示領域よりも明らかに小さい また, 國田 中條 (2010) は紙媒体としてA4に印刷したものを用いている これは, 一般的な書籍と比較すると明らかに大きい こうした表示領域の違いが, 文章の読みやすさや印象に影響を

た 観衆効果は技能レベルによって作用が異なっ 計測をした た 平均レベル以下の選手は観衆がいると成績が 下がったが, 平均以上の選手は観衆に見られると成績が上がった 興味深いことに, 観衆効果は観衆の数に比例してその効果を増すようである ネビルとキャン (Nevill and Cann, 1998)

切片 ( 定数項 ) ダミー 以下の単回帰モデルを考えよう これは賃金と就業年数の関係を分析している : ( 賃金関数 ) ここで Y i = α + β X i + u i, i =1,, n, u i ~ i.i.d. N(0, σ 2 ) Y i : 賃金の対数値, X i : 就業年数. (

Excelによる統計分析検定_知識編_小塚明_5_9章.indd

課題研究の進め方 これは,10 年経験者研修講座の各教科の課題研究の研修で使っている資料をまとめたものです 課題研究の進め方 と 課題研究報告書の書き方 について, 教科を限定せずに一般的に紹介してありますので, 校内研修などにご活用ください

過去の習慣が現在の習慣に与える影響 インターネットの利用習慣の持ち越し 松岡大暉 ( 東北大学教育学部 ) 1 問題関心本研究の目的は, インターネットの利用の習慣について, 過去のインターネットの利用習慣が現在のインターネットの利用の習慣に影響を与えるかを検証することである. まず, 本研究の中心

Taro 情緒障害のある児童生徒の理解

JICA 事業評価ガイドライン ( 第 2 版 ) 独立行政法人国際協力機構 評価部 2014 年 5 月 1

4.2 リスクリテラシーの修得 と受容との関 ( ) リスクリテラシーと 当該の科学技術に対する基礎知識と共に 科学技術のリスクやベネフィット あるいは受容の判断を適切に行う上で基本的に必要な思考方法を獲得している程度のこと GMOのリスクリテラシーは GMOの技術に関する基礎知識およびGMOのリス

助成研究演題 - 平成 23 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 重症心不全の集学的治療確立のための QOL 研究 東京大学医学系研究科重症心不全治療開発講座客員研究員 ( 助成時 : 東京大学医学部附属病院循環器内科日本学術振興会特別研究員 PD) 加藤尚子 私は 重症心不全の集学的治療確立のた

資料 3 全国精神保健福祉センター長会による自殺予防総合対策センターの業務のあり方に関するアンケート調査の結果全国精神保健福祉センター長会会長田邊等 全国精神保健福祉センター長会は 自殺予防総合対策センターの業務の在り方に関する検討チームにて 参考資料として使用されることを目的として 研修 講演 講

Microsoft Word _前立腺がん統計解析資料.docx

資料5 親の会が主体となって構築した発達障害児のための教材・教具データベース

様式 3 論文内容の要旨 氏名 ( 内田遼介 ) 論文題名 スポーツ集団内における集合的効力感の評価形成過程に関する研究 論文内容の要旨 第 1 章研究の理論的背景集団として 自信 に満ちた状態で目前の競技場面に臨むことができれば, 成功への可能性が一段と高まる これは, 競技スポーツを経験してきた

Microsoft Word - manuscript_kiire_summary.docx

Microsoft Word - 209j4003.doc

QOL) を向上させる支援に目を向けることが必要になると考えられる それには統合失調症患者の生活の質に対する思いや考えを理解し, その意向を汲みながら, 具体的な支援を考えなければならない また, そのような背景のもと, 精神医療や精神保健福祉の領域において統合失調症患者の QOL 向上を目的とした

発達研究第 25 巻 問題と目的 一般に, 授業の中でよく手を挙げるなどの授業に積極的に参加している児童は授業への動機づけが高いと考えられている ( 江村 大久保,2011) したがって, 教師は授業に積極的に参加している児童の行動を児童の関心 意欲の現われと考えるのである 授業場面における児童の積

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F D FCD81408FEE95F197CC88E682C68FEE95F18CB92E646F63>

<4D F736F F F696E74202D AAE90AC94C5817A835F C581698FE39E8A90E690B6816A2E >

介護における尊厳の保持 自立支援 9 時間 介護職が 利用者の尊厳のある暮らしを支える専門職であることを自覚し 自立支援 介 護予防という介護 福祉サービスを提供するにあたっての基本的視点及びやってはいけ ない行動例を理解している 1 人権と尊厳を支える介護 人権と尊厳の保持 ICF QOL ノーマ

<4D F736F F F696E74202D C83728E8B92AE8AC28BAB82C68E8B92AE91D C98AD682B782E9837D815B F B835E C837294D E89E695D2816A2E707074>

子どもの保健 Ⅰ・Ⅱ .indd

平成23年度全国学力・学習状況調査問題を活用した結果の分析   資料

研究成果報告書

件法 (1: 中学卒業 ~5: 大学院卒業 ) で 収入については 父親 母親それぞれについて 12 件法 (0: わからない 収入なし~ 11:1200 万以上 ) でたずねた 本稿では 3 時点目の両親の収入を分析に用いた 表出語彙種類数幼児期の言語的発達の状態を測定するために 3 時点目でマッ

24 京都教育大学教育実践研究紀要 第17号 内容 発達段階に応じてどのように充実を図るかが重要であるとされ CAN-DOの形で指標形式が示されてい る そこでは ヨーロッパ言語共通参照枠 CEFR の日本版であるCEFR-Jを参考に 系統だった指導と学習 評価 筆記テストのみならず スピーチ イン

<4D F736F F D20906C8AD489C88A778CA48B8689C881408BB38A77979D944F82C6906C8DDE88E790AC96DA95572E646F6378>

森内 看護教育の影響を推察できるが, 精神発達遅滞 については影響はなかったと報告している このように, 人々が自閉症に対してどのようなイメージを抱いているか, また講義などの教育メディアによって自閉症に対するイメージがどのように変化するか等についての研究はほとんどないのが現状である 本研究では,

Microsoft Word - 全国調査分析(H30算数)

Microsoft PowerPoint - 04_01_text_UML_03-Sequence-Com.ppt

研究を受けて, 他者に ~,]; した臼己と現実の白己像とを照 合し矛盾を必知した結果, 自身が行った自 いる この尺度は, 自己嫌悪 演じた r~ 分に対する桁絶感 宇さ 苦しさ の 3 因子構造であり, 46

研究計画書

甲37号

61.8%

職業訓練実践マニュアル 発達障害者編Ⅰ

Microsoft PowerPoint - sc7.ppt [互換モード]

厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)

早稲田大学大学院日本語教育研究科 修士論文概要書 論文題目 ネパール人日本語学習者による日本語のリズム生成 大熊伊宗 2018 年 3 月

表 1 全国調査の標準版性別尺度平均と標準偏差 (SD) 男性 女性 合計 標準版の尺度 人数平均 SD 人数平均 SD 人数平均 SD t 検定 仕事の負担 仕事の量的負担 *** 仕事の質的負担

( 別刷 ) 中年期女性のジェネラティヴィティと達成動機 相良順子伊藤裕子 生涯学習研究 聖徳大学生涯学習研究所紀要 第 16 号別冊 2018 年 3 月

子どもの心を診るための発達検査

(Microsoft Word \227F\210\344\226\203\227R\216q\227v\216|9\214\216\221\262.doc)

社会福祉学部 臨床心理学科 占部 友衣さん 社会福祉学部 臨床心理学科 3年 大阪府 桃山学院高等学校 出身 大学入学後 心理学には 社会心理学 や 犯 罪心理学 など 多彩な分野があることを知り 驚きました 私は2年次に犯罪心理学の授業で 非行少年の家族や親子関係に関心をもち 研 究を進めています

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

学生による授業評価のCS分析

こうすればうまくいく! 薬剤師による処方提案

横浜市立大学論叢人文科学系列 2018 年度 :Vol.70 No.1 幼児における罪悪感表出の理解の発達 謝罪の種類は排除判断に影響するのか? 長谷川真里 問題と目的罪悪感や誇りなどの道徳感情 (moral emotion) は 人々が道徳的に行動し 道徳的逸脱行動を避けるよう動機づけるものである

news a

統合失調症の病名変更が新聞報道に与えた影響過去約 30 年の網羅的な調査 1. 発表者 : 小池進介 ( 東京大学学生相談ネットワーク本部 / 保健 健康推進本部講師 ) 2. 発表のポイント : 過去約 30 年間の新聞記事 2,200 万件の調査から 病名を 精神分裂病 から 統合失調症 に変更

家政_08紀要48号_人文&社会 横組

発達教育10_087_古池.indd

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

(4) 在日米国人心理学者による逆翻訳 (5) 在米米国人心理学者による内容の検査と確認 (6) 予備調査 本調査の対象東京都 千葉県の小児科クリニック 市役所 子育て支援事業に来所した 12~35 か月 30 日齢の健康な乳幼児とその養育者 537 組を対象とした 本調査の内容本調査の質問紙には

<91E632308D D8689A191672D8F4390B E736D64>

自己愛人格目録は 以下 7 因子が抽出された 誇大感 (α=.877) 自己愛憤怒 (α=.867) 他者支配欲求 (α=.768) 賞賛欲求 (α=.702) 他者回避 (α=.789) 他者評価への恐れ (α=.843) 対人過敏 (α=.782) 情動的共感性は 以下 5 因子が抽出された 感

Taro-自立活動とは

特別な支援を必要とする 子どもの受け入れと対応


電通ソーシャルメディアラボがソーシャルメディアの企業ブランド・消費に与える影響を調査

Microsoft PowerPoint - R-stat-intro_12.ppt [互換モード]

2 教科に関する調査の結果 ( 各教科での % ) (1) 小学校 国語 4 年生 5 年生 6 年生 狭山市埼玉県狭山市埼玉県狭山市埼玉県 平領均域正等答別率 話すこと 聞くこと 書くこと

Transcription:

北海道言語文化研究 No. 7, 63-70, 2009. 北海道言語研究会 大学生における自閉症のイメージに関する研究 A Study of Images of Autism in University Students Tetsuya KOCHI, Keiichi SAITO, Nagisa KOCHI, Jun-ichi ITO 要旨 : 本研究では, 大学生における自閉症のイメージの構造について調査した 調査は, 大学生を対象者として,SD 法による質問紙によって実施された 調査の結果, 以下の点が明らかになった 1) 自閉症のイメージは, 全体的にポジティブに捉えられており, また自閉症児者と共生するべきであるという判断であった 前者は, 発達障害に関する情報を得る機会の多さが要因としてあげられ, 後者は福祉の充実が要因として考えられた 2) 自閉症に対するイメージは, 個人的な主観による判断と社会的な関係性による判断の 2 要因による構造であると予測された 個人的な主観による判断では, 自閉症に関する記述的情報に基づいた解釈であり, 社会的な関係性による判断では, 自閉症児者の振る舞いにおける個人への影響に基づいた解釈であるとされた キーワード : 自閉症イメージ SD 法因子分析 1. はじめに自閉症は, 社会的相互作用における質的障害, コミュニケーションにおける質的な障害, 行動, 興味および活動の限定された反復的で常同的な様式の 3 つの症状からなる発達障害であり (American Psychiatric Association,1994), 先天的な脳の機能障害が原因であるとされる 特に, 自閉症は, 社会生活を営む上で重要とされる社会的相互作用と意思伝達に質的な障害があることから, 言語と非言語のコミュニケーション障害が基本的症状とされる これらの症状は, 自閉症が先天的な脳の機能障害であることを考えると, 発達の進んだ段階においても, 他者と社会的接触を求めても, 他者と相互的に反応することや, 他者に共感する能力の障害は持続するといえる こうした特徴をもつ自閉症児者は, コミュニケーションの円滑さを必要とする社会生活において, その営みがしばしば制限されると考えられる コミュニケーションは人と人との相互的交流であることを考えると, 自閉症児者が社会生活を円滑に営むためには, 自閉症児者へのコミュニケーション支援 ( 高橋,1997; 大井,2004) はもとより, 地域社会を取り巻く人々の自閉症に対する理解と認識の向上が必要不可欠であるといえよう しかしながら, 自閉症は誤った認識や理解をされることがしばしばみられる 自閉症

大学生における自閉症のイメージに関する研究 協会 (2004) の調査では, 自閉症の原因について正しく理解していたのは全体の 6 割に過ぎず, 心の病 (23%), 遺伝 (5%), 親の育て方 (3%) と, 誤った認識が全体の 3 割を占めた 特に, 誤った認識は 20 歳代に多くみられた また,60 歳代以上では, 乳幼児期の不適切な教育が原因と考えている人が多かった さらに, 近年, 障害と犯罪を関連づけた報道は, 自閉症に対する誤ったイメージを拡大させる原因となっている このように, 自閉症に対する誤った認識や理解が地域社会に存在することは, 社会的相互作用やコミュニケーションに関して質的な障害を持つ自閉症児者が社会生活を営む上で, 大きな障害となりうることは容易に想像し得ることである さて, 自閉症に対する認識や理解に関しては, 様々な研究がなされている 田実 (2007) によると, 大学生の自閉症に対するイメージは, 無理解に基づく偏見, 積極的な関与, 表面的な理解による誤解, の 3 つの構造からなるとしている 自閉症以外にも, 知的障害者に限定した態度研究も数多い たとえば, 生川 (1998) によると, 知的障害者へのイメージは, 自分との直接的な関わりがなく, 理念的な概念に関しては好意的となり, 一方で自分と直接的な関わりがある現実的な概念に関しては好意的ではないとしている つまり, 障害に関するイメージは, 個人の直接的関与の有無に影響を受け, また誤った認識や理解から形成される これらのことは, 障害の一つである自閉症に関しても同様であると推測される 本研究では, 大学生に対して質問紙を用いて, 自閉症のイメージに関する調査を実施し, 自閉症は, どのようなイメージとして理解されているのか, またそれらはどのような構造であるかについて分析を行う また, 分析結果から, 今後の自閉症の理解に関するあり方について検討する 本研究は, 自閉症児者の地域生活や社会参加の円滑化を図る上で, また自閉症の理解と認識を良い意味で深めていくための方略を探るために, 大きな意義のある研究であろう 2. 方法 2.1. 調査対象者と手続き対象者は臨床心理学を専攻する大学生 58 名であった 調査は, 大学の講義前に実施された 質問紙は講義前に対象者へ配布され, 対象者は質問紙の内容を熟読した後, 質問紙の記入, 提出が求められた 2.2. 自閉症イメージの測定自閉症に対するイメージは, SD 法による質問紙によって測定された 質問項目は, 松村 横川 (2002) を参考に, 自閉症を刺激概念とした 20 の感情を表す形容詞対から成り立っていた それぞれの項目は,5 件法によって評価された 評価値は, ネガティブな側面からポジティブな側面へと 1 点から 5 点まで配点し,3 点が中点とされた たとえば, 明るい- 暗い の項目では, 自閉症のイメージが 非常 に明るいと感じれば, 対象者は 5 に丸をつけることとなる

きれいな優秀な手際よいかわいらしい共生すべき個性あふれる近づきたい身近な共感できる役に立つ迷惑でない関わりたい明るいおだやかな陽気な安全な怖くない気の毒でない正常なせな北海道言語文化研究 No. 7, 63-70, 2009. 北海道言語研究会 3. 結果と考察 3.1. SD 法による自閉症に対するイメージの測定 SD 法による自閉症のイメージの結果について, 形容詞対ごとに, 最も良いイメージを 5 点, 最も悪いイメージを 1 点として平均値を求めた (Figure 1,Table 1) 各項目の平均値を見ていると, 中点 (3 点 ) を上回ったのが 15 項目で, 下回ったのが 5 項目であった 平均値の高いものとしては, 共生すべき が 4.16 点 (SD=0.83) で最も高く, 次いで 個性あふれる の 4.03 点 (SD=0.90), 怖くない の 3.50 点 (SD=1.05), 優秀な の 3.43 点 (SD=0.73) の順に高い得点を示した また, 平均値の低いものとしては, 手際よい が 2.55 点 (SD=0.78) が最も低く, 次いで 陽気な の 2.81 点 (SD=0.80), おだやかな の 2.90 点 (SD=0.89), 明るい 2.91 点 (SD=0.88) の順に低い得点を示した 各項目の得点が中点の値である 3 よりも有意に高いか, あるいは低いかをみるために, 項目ごとに平均値が 3 であるという仮説に基づいた t 検定 ( 片側検定 ) を行った その結果, 共生すべき 個性あふれる 怖くない 優秀な 気の毒でない かわいらしい 役に立つ 安全な きれいな, および 関わりたい の 10 項目で中点 (3) よりも有意に高くなっていた ( 順に,t(57)=10.55,t(57)=8.78,t(57)=3.64,t(57)=4.51,t(57)=2.30, t(57)=2.96,t(57)=3.13,t(57)=2.17,t(57)=2.43 および t(57)=1.94 で, それぞれ p<.01) また 手際よい 陽気な の, 2 項目で中点 (3) よりも有意に低くなっていた ( 順に t(57)=-4.40, t(57)=-1.79 で, それぞれ p<.01) それ以外の 8 項目については中点の値とは有意な差が見られなかった このように, 全 20 項目のうち, 中点の値 (3) よりも有意に低い得点を示したのが 2 項目のみであり, それ以外の項目については中点の値とは差がない (8 項目 ) か, むしろ有意に高い得点であった (10 項目 ) ことから, 調査対象となった大学生には自閉症が 4 3 5 2 幸1 Figure 1. 自閉症イメージに関する項目ごとの平均値

大学生における自閉症のイメージに関する研究 Table 1 大学生における自閉症イメージの因子分析の結果 項目 平均値 (SD) 第 1 因子 第 2 因子 第 1 因子 : 個人的な主観による判断 近づきたい 3.16 ( 0.91 ) 0.82 0.11 関わりたい 3.22 ( 0.88 ) 0.79 0.14 明るい 2.91 ( 0.88 ) 0.73-0.24 陽気な 2.81 ( 0.80 ) 0.70-0.12 かわいらしい 3.31 ( 0.80 ) 0.70-0.06 個性あふれる 4.03 ( 0.90 ) 0.64-0.14 共生すべき 4.16 ( 0.83 ) 0.61-0.03 共感できる 3.02 ( 0.96 ) 0.60 0.06 幸せな 3.10 ( 0.64 ) 0.48 0.32 気の毒でない 3.33 ( 1.08 ) 0.41 0.27 優秀な 3.43 ( 0.73 ) 0.38 0.30 身近な 2.97 ( 0.95 ) 0.36 0.22 第 2 因子 : 社会的な関係性による判断 安全な 3.26 ( 0.91 ) -0.36 1.06 怖くない 3.50 ( 1.05 ) 0.13 0.73 きれいな 3.22 ( 0.70 ) 0.05 0.65 迷惑でない 3.19 ( 0.87 ) 0.16 0.63 役に立つ 3.31 ( 0.75 ) 0.09 0.61 正常な 3.03 ( 0.94 ) 0.23 0.58 おだやかな 2.90 ( 0.89 ) -0.17 0.43 手際よい 2.55 ( 0.78 ) 0.23 0.30 ポジティブに認識されていたと考えられる これは, ほぼ同じ形容詞対を用いて行われた障害者のイメージに関する研究 ( 松村 横川,2002) の結果とは異なるものであった この研究では, 臨床心理学や発達障害を専門とはしていない一般の大学生の持つ障害者イメージが否定的なものであったことが指摘されている この二つの研究において認識の違いをもたらした要因の一つは, 手続き等が同等ではないので完全な比較はできないが, それぞれの対象者に与えられてきた情報の質的 量的な差によるものではないだろうか 本研究の対象者は臨床心理学および関連領域に関する情報に対して頻繁に接する環境にある一方, 松村 横川 (2002) の対象者ではそうではなかった 近年, 心理臨床領域にて発達障害に関連した話題が増加していることをうけ, 大学の専門教育でも発達障害に関する講義の比重が高まっていることは容易に想像できる このことから, 発達障害の情報にふれる機会の多いことが, 対象者の持つ自閉症に関するイメージをポジティブなものにしている大きな要因であると推測される 各項目の平均値から, 大学生は自閉症児者と社会生活の中で 共生すべき であると認識していることが明らかになった これは, 松村 横川 (2002) と合致する結果であった この結果は, 近年の日本社会において, 福祉が充実し始めてきている背景を考えると, 大学生の 共生すべき と考える認識の高まりは容易に想像できる

北海道言語文化研究 No. 7, 63-70, 2009. 北海道言語研究会 3.2. 自閉症のイメージの構造大学生の自閉症に対するイメージの構造を明らかにするために,SD 法による 20 の尺度について, 最尤法, プロマックス回転による因子分析を行った 最尤法を用いて得られた各因子の固有値の結果から 2 因子構造が妥当であると考えられた プロマックス回転後の因子分析結果を Table 1 に示した なお, 優秀な 身近な, および 手際よい の各項目は因子負荷量が 0.4 未満であり, いずれも抽出された因子への関与の程度が低いと考え, 考察の対象から除いた 第 1 因子は, 明るい 陽気な かわいらしい 等の項目, ならびに 近づきたい 関わりたい 等の項目から成り立っていた 前者は自閉症および自閉症児者そのものに対して調査対象者が抱くイメージに関係する項目群, 後者は自閉症と関与 接近したいという意志を反映する項目群であるといえる ただし,Table 1 にあるように, この因子では前者の項目群との関連がより強いと考えられるので, 以降は第 1 因子を 個人的な主観による判断 と呼ぶことにする 第 2 因子は, 怖くない きれいな 迷惑でない 役に立つ 等の項目から成り立っていた これらの項目は, 社会生活等の公的な事象における自閉症および自閉症児者に対する認識のあるべき姿を表しているといえるであろう これは, 第 1 因子を構成する主項目群において, 対象者が抱く私的なイメージを反映したものであったことと好対照をなしている 以降, 第 2 因子を 社会的な関係性による判断 と呼ぶことにする 2 因子構造を想定した因子分析の結果に対するこのような解釈は, 参加者が少なく, それゆえ予備的 限定的であるものの, おおむね妥当であると考えられる なぜなら, 既に述べたように, 自閉症および自閉症児者に対するイメージや認識に関連して, 一方の因子は私的な側面を, 他方の因子は公的な側面を反映するものとなっているからである 日常生活における事象のほとんどは, それらの見方や捉え方, 認識の仕方において私的な側面と公的な側面が存在する 自閉症を含めた障害および障害者に対する認識も, また, 同様であろう 上述の因子分析の結果は, まさにこのような性質を反映した結果であり, それゆえ, 抽出された因子構造および各因子が持つ意味は安定的かつ一般的なものといえるのではないだろうか 以上の結果に基づき, 以下では, 自閉症の理解と認識を良い意味で深めていくためにはどのようなことが必要であるかを, 因子ごとに検討する 3.2.1. 個人的な主観による判断 ( 第 1 因子 ) 第 1 因子における項目の平均値をみると, 陽気な 明るい は中点を下回っており, 一方で, 共生すべき 個性あふれる は中点を大きく上回っている 前者はネガティブに判断されているといえ, 後者はポジティブに判断されているといえる 自閉症および自閉症児者の症状や特徴は, 奇妙な行動や会話が成立しづらい, こだわりが強い, 習慣や環境が変わるのが苦手, 表情や態度等の非言語的な相互的情緒交流の困難さがある等の記述で説明されることが多い さらに, 自閉症の症状と並列させて, 日常生活における接し方の留意点や自閉症児者が地域生活にて過ごすべきであるという事実が記載さ

大学生における自閉症のイメージに関する研究 れていることが多い これらの情報で自閉症が判断されると仮定すると, 明るい 陽気 というイメージはポジティブよりは, むしろ, ネガティブな判断へ向かうと予測される また, 共生すべき 個性あふれる というイメージは, むしろ, ポジティブな判断に向かうと予測される このように, 個人的な主観による側面からみると, 自閉症および自閉症児者の理解や認識は, 自閉症の各種記述情報によって判断されうると示唆できる このことは, 自閉症のイメージが, 自閉症の各種情報における記述方法の善し悪しによって大きな影響を受けることを示しているといえる また, 自閉症に対する正しい理解や認識を生む方法の一つであると同時に, 誤った理解や認識を生む要因でもあるといえよう 3.2.2. 社会的な関係性による判断 ( 第 2 因子 ) 第 2 因子は, 安全 怖い きたない 異常 などのイメージで構成されており, これらは社会生活にて自閉症と関係を構築する上で, 自身に直接的な影響を受けうるであろう感情であると解釈できる 言い換えれば, 社会生活などの公的な事象において自閉症児者に関与した場合の判断指標であるといえるであろう これらは, 自閉症のイメージが, 単に自閉症の症状や特徴に関する記述情報のみで判断されるのではなく, それら情報をふまえて, 自閉症児者の生活様式や対人交流等, 社会的関係性の構築についても関連づけて判断されていることを示している 以上のことから, 次のようなことが推察される 社会的な関係性の側面からみると, 自閉症および自閉症児者の理解や認識は, 自閉症児者が社会生活を営む上で, 自分自身にとって, どのような存在で, またどのような影響を及ぼすのかの判断に左右されうると示唆できる たとえば, 自閉症児者が町中で 突然, 大きな奇声をあげている ところを目撃すれば, 怖い や 異常 という自閉症イメージは高まると予測され, 逆に作業や課題をしている時に もくもくと真剣に取り組む 姿勢を目撃すれば 安全 という自閉症イメージは高まるであろう このように, 自閉症イメージは, 自閉症児者の社会生活における振る舞いの善し悪しやその状況を受け取る個人の解釈の仕方によって容易に変化するものであろう 上記のことから, 自閉症児者と実際の交流経験を通して, 自分自身に対する負の影響はあまり無いという理解や認識を得ることができるのであれば, 自閉症のイメージは良い方向へ変化していくと考えられる 発達障害領域における熟達化の研究の中で, 発達障害児者の理解は, 発達障害者との交流経験が多いほど, 発達障害児者の理解が高まる ( 河内 斎藤,2007) とされている これらの研究結果もふまえると, 自閉症のイメージは, 自閉症児者との交流経験の違いによって変化するといえよう 4. まとめ本研究の目的は, 大学生における自閉症のイメージに関する調査を実施し, 自閉症は, どのようなイメージとして理解され, どのような構造であるのかを予測することであった

北海道言語文化研究 No. 7, 63-70, 2009. 北海道言語研究会 大学生における自閉症のイメージは, 個人的な主観と社会的な関係性の 2 側面による構造を持つことが予測された 個人的な主観とは, 自閉症および自閉症児者に関する各種記述情報に基づく解釈と考えられ, 社会的な関係性とは, 実際に自閉症児者が地域社会生活の中でどのような振る舞いをして, その振る舞いは自分に対してどのような影響をおよぼすのかに基づいた解釈と考えられた これらから, 大学生の自閉症への認識や理解は, 自閉症に関する情報と, 自閉症が社会的にどのような存在であるかの2つが相互的に作用していると予測された 自閉症のイメージは個人の知識に依存する傾向にあり, 発達障害に関する情報にふれる機会が多ければ, 自閉症のイメージはポジティブな方向へ進むことが示唆された この結果は, 知的障害者や自閉症のイメージに関する研究の中で, 障害者と接近する回数が多いほど, イメージがポジティブな方向へ変化する ( 生川,1995; 田実,2007) という結果と同様であった 本研究においては, 大学生における自閉症のイメージ形成について一定の結果が得られたが, これらはあくまでも暫定的な予測にすぎない 今後, イメージを形成する要因について, さらなる詳細な調査と分析が必要であろう 引用文献 1)American Psychiatric Association 1994 Diagnostic criteria from DSM-Ⅳ. 高橋三郎 大野裕 染矢俊幸訳. DSM -Ⅳ 精神疾患の分類と診断の手引き. 医学書院. 2) 生川善雄 1995 精神遅滞児 ( 者 ) に対する健常者の態度に関する多次元的研究特殊教育学研究 32(4), 14. 3) 河内哲也 斎藤恵一 2007 子どもの行動の特異性に対する視点の違い- 発達領域における熟達化との関連 - 北海道心理学会第 54 回大会発表論文集. 4) 松村孝雄 横川剛毅 2002 知的障害者のイメージとその規定要因東海大学文学部紀要,77,103. 5) 日本自閉症協会 2007 一般社会の人たちに対する 3000 人アンケート調査自閉症に対する地域社会の人たちの心のバリアフリー推進事業, 独立行政法人福祉医療機構. 6) 大井学 2004 高機能広汎性発達障害をもつ人のコミュニケーション支援 - 語用障害とその補償 - 障害者問題研究,32(2),22. 7) 田実潔 2007 購読演習 による自閉症イメージ形成の可能性について- 教授法 (FD) の観点から- 北星学園大学社会福祉学部北星論集,44,109. 8) 高橋和子 1997 高機能自閉症児の会話能力を育てる試み- 応答能力から調整能力をめざして- 特殊教育研究,34(5),99-108. 執筆者紹介河内哲也所属 : 北海道社会福祉事業団太陽の園 Email:tetsuya0311@smile.odn.ne.jp

大学生における自閉症のイメージに関する研究 専門分野 : 認知心理学, 臨床心理学, 発達障害学 齊藤恵一所属 : 北海道医療大学心理科学部 Email:ksaito@hoku-iryo-u.ac.jp 専門分野 : 言語心理学 河内なぎさ所属 : 情緒障害児短期治療施設バウムハウス Email:nagisa_komitsu@pop16.odn.ne.jp 専門分野 : 臨床心理学, 児童虐待, 情緒障害学 伊藤淳一所属 : 北海道社会福祉事業団太陽の園 Email:zyunichi.itou@dofukuji.or.jp 専門分野 : 小児神経学, 臨床発達心理学