知の広場 214 年 8 月 21 日 ドルコスト平均法の真実 これだけは押さえておきたい資産形成のポイント第 2 回 ( 全 4 回 ) 後藤順一郎アライアンス バーンスタイン株式会社プロダクト マネジメント部ディレクター DC 推進室長兼アライアンス バーンスタイン未来総研ディレクター 1. 積立投資の王道 : ドルコスト平均法 ドルコスト平均法は日本においても積立投資の王道としての地位を確立した感があり フィナンシャル プランナーを中心に多くの人がこの手法を個人投資家に勧めている 実際 大半の金融機関が同手法による積立投資を提供しており 個人投資家にとって身近な存在となってきた 私もその有効性は評価しているが 第 1 回で論じた時間分散効果と同様 ドルコスト平均法についても一般通念を鵜呑みにするのは問題があると考えている そこで第 2 回では ドルコスト平均法を様々な視点から検証し その真実を明らかにしたい まず 1 投資の効率性 2 リターンの予測可能性 3 タイミングの分散効果といった観点から有効性を検証し そして行動ファイナンスの観点から投資家の心理や行動への影響を考察する 2. ドルコスト平均法と一括投資の比較 1 投資の効率性 ( リスク当たりリターン ) まず 投資効率を検証するため 1 年から 3 年の各投資期間についてドルコスト平均法と一括投資による最終資産額のブレ幅を比較した ( 図表 1) 各期間におけるドルコスト平均法の結果を実線で表示し 各期間の総投資額を期初に一括して投資し それを維持した場合の結果を点線で示した ここでは第 1 回と同様 株式を想定して 年率リターンの分布が平均 5% リスク ( 標準偏差 )2% の正規分布に従い 前期のリターンと今期のリターンは独立しているとした また 複利の効果も考慮した このグラフでは ドルコスト平均法と一括投資のそれぞれについて最良の場合 ( 上位 5%) 平均 最悪の場合 ( 下位 5%) の結果を示した 結局 (1) 上位 5% のケースでは一括投資が圧倒的に優勢で (2) それぞれの平均 図表 1 ドルコスト平均法と一括投資の最終資産額のブレ幅 ( 期初 =1) 倍 5 4 3 2 1 上位 5% 平均下位 5% ドルコスト 一括 1 3 5 7 9 1 11 13 15 17 19 2 21 23 25 27 29 3 当資料は 214 年 7 月 31 日現在の情報を基にアライアンス バーンスタイン株式会社が作成した資料であり いかなる場合も当資料に記載されている情報は 投資助言としてみなされません 当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが その正確性 完全性を保証するものではありません また当資料の記載内容 データ等は今後予告なしに変更することがあります 上記の個別の銘柄 企業については あくまで説明のための例示であり いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません アライアンス バーンスタインはアライアンス バーンスタイン エル ピーとその傘下の関連会社を含みます
ケースも一括投資に軍配が上がり (3) 下位 5% のケースでも最終的には一括投資が勝っている つまり 一括投資の方が断然良いリスク リターン特性を有するということである これは意外な結果に思えるかもしれないが 期待リターン 5% のリスク資産に最初から全額投資する場合のリターン面の有利さを考えると 当然の結果である そこで 平均ケースにおけるドルコスト平均法と一括投資のリスク資産への配分を等しくするため 両者の最終資産額が平均で見て等しくなるように調整し その場合の最終資産額のブレ幅を改めて比較した ( 図表 2) この場合 平均ケースにおける軌道は当然一致するが (1) 上位 5% のケースでは一貫してドルコスト平均法の資産額が一括投資を上回る一方 (2) 下位 5% のケースでは逆にドルコスト平均法の資産額が一括投資を下回った つまり ドルコスト平均法の方がアップサイド リスク ダウンサイド リスクともに大きく リスク当たりリターンで見た投資効率の観点からは不利ということである これはドルコスト平均法の一般的なイメージに反するのではないだろうか 2 リターンの予測可能性 ドルコスト平均法はリターン予測の点でも一括投資よりも分が悪い というのも 一括投資の場合は期初の価格 と最終価格からのみリターンが算出されるため 当該期間のリターン予測が比較的シンプルであるのに対し ドルコスト平均法の場合は最終価格のみならず そこに至るまでの価格推移の影響も受けるため どのようなリターンを得られるのか予測するのは極めて難しい この価格推移が最終資産額に及ぼす影響を説明するため 図表 3 では 最終価格は同じだが価格推移が正反対の 2 つの極端なケースを示した (1 万円を 1 年間にわたり毎年 1 万円ずつ投資 ) 一括投資ではどちらの場合もリターンは等しくなるが ドルコスト平均法ではリターンに雲泥の差が出る ドルコスト平均法を実践する投資家にとって最も望ましいのは 価格が投資開始後に大きく下落し 投資期間の大半を通じ低位 (1, 円 ) で推移した後 期末に期初の水準に戻るパターンである この場合 期初と期末の価格が同じにもかかわらず 投資元本の 1 万円は期末で 82 万円となる 一方 ドルコスト平均法の投資家にとって最悪なのは 価格が投資開始後に急上昇し 投資期間の大半を通じ高位 (2, 円 ) で推移した後 期末に期初の水準に戻るパターンである この場合 投資元本 1 万円が 6 万円と逆にマイナスの実績となってしまう ここでは比較のため期初と期末の価格を同じと仮定したが 最終価格が期初より低くてもプラスのリターンとなることがある反面 最終価格が期初より高くてもマイナスのリターンとなる可能性もあり 実際のリターン予測はさらに難しい 図表 2 ドルコスト平均法と一括投資の最終資産額のブレ幅 ( 調整後 期初 =1) 4 3 上位 5% 平均下位 5% ドルコスト 一括 倍 2 1 1 3 5 7 9 1 11 13 15 17 19 2 21 23 25 27 29 3 図表 3 ドルコスト平均法の累積リターンと価格推移のイメージ 価格 ( 円 ) 25, 2, 15, 1, 5, 悪い場合 良い場合 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1
3 タイミングの分散効果 最後に 過去のドルコスト平均法のリターンを 投資タイミング ( キャッシュフロー ) の影響の有無に着目した 2 つの手法で再計算し タイミングの分散効果を検証した つまり キャッシュフローの影響も考慮できるリターン ( 金額加重収益率 ) が キャッシュフローの影響を受けないリターン ( 時間加重収益率 ) を上回れば分散効果があることになる 図表 4 では 1971 年 ~21 年の 4 年間に及ぶ TOPIX のデータを使い 毎年 1 回拠出するドルコスト平均法で 1 年間投資した場合の両リターンの差 ( 金額加重収益率 - 時間加重収益率 ) を比較した 結局 ドルコスト平均法によるタイミングの分散効果は期間によってまちまちであり コンスタントな分散効果 は確認できなかった ここでは記載していないが S&P 5 指数でも同様の結果となった つまり ここでもドルコスト平均法を支持する結果とはならなかった 以上 ドルコスト平均法の有効性を投資効率 リターンの予測可能性 タイミングの分散効果の 3 点から検証したが いずれもドルコスト平均法を強くサポートする結果ではなかった したがって 一括投資できる資金が手元にあれば 敢えてドルコスト平均法のように分割して投資する合理的な理由はないと言える 一方 手元に十分な資金がないことが多い若年層とっては まとまった資金が貯まるまでキャッシュで保有するのはやはり非効率であり 積立投資がベストな投資方法だと言える 図表 4 ドルコスト平均法によるタイミングの分散効果 : TOPIX 8. タイミング分散効果ありタイ 4. ミング. の分 -4. 散効タイミング分散効果無し果 -8. 71 76 81 86 91 96 1 投資開始年 ( 年 ) 3. 行動ファイナンスとドルコスト平均法 これまでの観点からはドルコスト平均法の有効性を確認できなかったものの 冒頭で述べたように 私はドルコスト平均法が個人投資家にとっては適切な手法だと考えているが その理由は投資家の心理や行動に及ぼす影響にある ドルコスト平均法を行動ファイナンスのフレームワークで整理すると 1 近視眼的傾向からの脱却 2 自信過剰の回避 3 人生をコントロールしている実感 4 後悔リスクの最小化という点からその有効性を訴求できる このため ドルコスト平均法は 投資を 図表 5 プロスペクト理論 喜び 継続させ 適切な資産形成を促す有効なツールだと認識している 以下にこの 4 つの特徴について説明する 1 近視眼的傾向からの脱却 人間の性質上 投資家は利益が出ている時はリスク回避的となる一方 損失が生じている局面ではリスク追求的となりがちである また 同額の利益と損失から生じる喜びと苦しみは同じでなく 人間は損失からより大きな苦しみを感じる傾向がある これはプロスペクト理論と呼ばれ 22 年にノーベル経済学賞を受賞したカーネマン教授らによって定式化された ( 図表 5) こうした 損失 小さな喜び 利益 大きな苦しみ 苦しみ 出所 : Amos Tversky と Daniel Kahneman 共著 Advances in Prospect Theory: Cumulative Representation of Uncertainty Journal of Risk and Uncertainty (1992 年 )
図表 6 日本の機関投資家の株式相場への自信度と実際のリターン 1% 1% 45% 5% 5% -39% 1989 年の自信度 19 年の株式市場のリターン 24 年の自信度 25 年の株式市場のリターン 過去の実績は将来の運用成果等を保証するものではありません 株式市場のリターンは TOPIX( 配当込み 円ベース ) * インベスター コンフィデンス インデックスに基づく 当インデックスはイェール大学のスクール オブ マネジメントによって日本の機関投資家の自信度を測定するために開発された指数 出所 : 東京証券取引所 性質ゆえに投資家は 利益確定を急いだり 目先の損失に目をつぶり一発逆転の発想でリスクを高めるなどの損失回避行動を取ることが多い これに対し ドルコスト平均法はルール ベースの投資手法であるため そうした人間の感情が入り込む余地がなく 近視眼的な損失回避行動を避けることができる 2 自信過剰の回避 人間は 自分の信念や判断に対して客観的な論拠が示す以上に自信を抱く傾向がある 特に 市場タイミングによってリターンを狙う株式や FX のデイトレーダーは 自信過剰に陥りやすい エール大学のロバート シラー教授は 1989 年と 24 年に日本の機関投資家を対象として株式市場に対する自信度とその後のリターンを測定した ( 図表 6) バブル絶頂期だった 1989 年には投資家の自信度が一番高かったが 皮肉にも 199 年の日本株のリターンはそれとは正反対の結果となった また 24 年は多くの投資家が市場の先行きを悲観していたが 25 年の株式市場は大幅な上昇となった やはり 投資のプロでも冷静かつ客観的な判断を下すことは難しいのである 翻ってルール ベースの投資手法であるドルコスト平均法には自信が反映される余地がなく 自信過剰の罠に陥るのを回避する有効な手段と言える 3 人生をコントロールしている実感 公的年金や企業年金の不確実性が高まる中 消費など現時点での満足を我慢して退職後の生活資金を準備する必要があることは 多くの人に認識されつつある しかしながら 若年層にとっては遠い先の将来のことであるため 頭では理解していてもなかなか実行に移せない人が多いのではないだろうか ドルコスト平均法であれば 最初こそエネルギーが必要かもしれないが 一度始めてしまえば あとは半ば強制的に老後の生活資金形成が行われるため 結果的に短期的な衝動の影響を受けずに 適切に老後資金を準備できると いうメリットがある これは 自分の人生をコントロールできているという満足感にもつながり 結果として投資を継続することができる 4 後悔リスクの最小化 後悔は失敗したことに関与してしまったという責任が加わった感情であり 単なる損失よりも精神的ダメージは大きい 投資の経験がある人であれば 何らかの理由で損失が発生した場合 自分自身で意思決定した責任から損失以上の精神的ダメージを感じたことがあるのではないだろうか この後悔から解放されるには やはりルール ベースのドルコスト平均法が適している なぜならば たとえ投資後にリターンが下がったとしても 自分自身の判断ではなく ルールに則って投資しただけ とある意味でルールに責任転嫁ができるからである 一般的に 投資が長く続かない人には 損失から受けた後悔から投資をやめてしまう場合が多いが ドルコスト平均法であれば後悔しなくてすむため 継続して実施できるといったメリットがある 以上 行動ファイナンスの観点からドルコスト平均法について述べてきたように 人間固有の一連のバイアスから投資家を守るという点では ドルコスト平均法は極めて有効と考えられる また 結果としてドルコスト平均法によって 長期投資を続けやすくなるため 老後資金のように投資期間が長い資金の準備には最適な方法と言える 結局 ドルコスト平均法は投資効率などの観点からはベストな方法ではないかもしれないが 一般的な投資家 特に投資経験が浅く十分な分析を行う時間やノウハウがない投資家にとっては 感情に左右されずに投資を続けることができ 実行も極めて簡単なことからコアな投資手法になり得るだろう ( 第 3 回に続く ) 出所 : 投資信託事情 211 年 4 月号 ( イボットソン アソシエイツ ジャパン株式会社 )
アライアンス バーンスタイン株式会社 金融商品取引業者関東財務局長 ( 金商 ) 第 33 号 加入協会 一般社団法人投資信託協会 / 一般社団法人日本投資顧問業協会 http://www.alliancebernstein.co.jp 当資料についての重要情報 当資料は 投資判断のご参考となる情報提供を目的としており勧誘を目的としたものではありません 特定投資信託の取得をご希望の場合には 販売会社において投資信託説明書 ( 交付目論見書 ) をお渡ししますので 必ず詳細をご確認のうえ 投資に関する最終決定はご自身で判断なさるようお願いします 以下の内容は 投資信託をお申込みされる際に 投資家の皆様に ご確認いただきたい事項としてお知らせするものです 投資信託のリスクについてアライアンス バーンスタイン株式会社の設定 運用する投資信託は 株式 債券等の値動きのある金融商品等に投資します ( 外貨建資産には為替変動リスクもあります ) ので 基準価額は変動し 投資元本を割り込むことがあります したがって 元金が保証されているものではありません 投資信託の運用による損益は 全て投資者の皆様に帰属します 投資信託は預貯金と異なります リスクの要因については 各投資信託が投資する金融商品等により異なりますので お申込みにあたっては 各投資信託の投資信託説明書 ( 交付目論見書 ) 契約締結前交付書面等をご覧ください お客様にご負担いただく費用 : 投資信託のご購入時や運用期間中には以下の費用がかかります 申込時に直接ご負担いただく費用 申込手数料上限 3.24%( 税抜 3.%) です 換金時に直接ご負担いただく費用 信託財産留保金上限.5% です 保有期間に間接的にご負担いただく費用 信託報酬上限 2.34%( 税抜 1.88%) です その他費用 上記以外に保有期間に応じてご負担いただく費用があります 投資信託説明書 ( 交付目論見書 ) 契約締結前交付書面等でご確認ください 上記に記載しているリスクや費用項目につきましては 一般的な投資信託を想定しております 費用の料率につきましては アライアンス バーンスタイン株式会社が運用する全ての投資信託のうち 徴収するそれぞれの費用における最高の料率を記載しております ご注意 アライアンス バーンスタイン株式会社の運用戦略や商品は 値動きのある金融商品等を投資対象として運用を行いますので 運用ポートフォリオの運用実績は 組入れられた金融商品等の値動きの変化による影響を受けます また 金融商品取引業者等と取引を行うため その業務または財産の状況の変化による影響も受けます デリバティブ取引を行う場合は これらの影響により保証金を超過する損失が発生する可能性があります 資産の価値の減少を含むリスクはお客様に帰属します したがって 元金および利回りのいずれも保証されているものではありません 運用戦略や商品によって投資対象資産の種類や投資制限 取引市場 投資対象国等が異なることから リスクの内容や性質が異なります また ご投資に伴う運用報酬や保有期間中に間接的にご負担いただく費用 その他費用等及びその合計額も異なりますので その金額をあらかじめ表示することができません