被告株式会社 bは, 雑誌及び書籍の発行及び販売を目的とする会社であり, 月刊誌 cを発行している 被告 aは, 精神科医, ノンフィクション作家であり, 本件記事を執筆した者である (2) 被告 aは,c の編集者であるdから, 本件雑誌において原告に関する特集記事の掲載を企画しているとして, 原

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被告は,A 大学 C 学部英語専攻の学生である (2) 本件投稿等被告は, 大学 2 年生として受講していた平成 26 年 4 月 14 日の 言語学の基礎 の初回講義 ( 以下 本件講義 という ) において, 原告が 阪神タイガースがリーグ優勝した場合は, 恩赦を発令する また日本シリーズを制覇

最高裁○○第000100号

平成 29 年 2 月 20 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 28 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 29 年 2 月 7 日 判 決 原 告 マイクロソフトコーポレーション 同訴訟代理人弁護士 村 本 武 志 同 櫛 田 博 之 被 告 P1 主 文

情報の開示を求める事案である 1 前提となる事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) 当事者 ア原告は, 国内及び海外向けのモバイルゲームサービスの提供等を業とす る株式会社である ( 甲 1の2) イ被告は, 電気通信事業を営む株式会社である

平成 28 年 4 月 28 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 27 年 ( ワ ) 第 号損害賠償等請求事件 口頭弁論終結日平成 28 年 3 月 22 日 判 決 原 告 A 同訴訟代理人弁護士 松 村 光 晃 中 村 秀 一 屋 宮 昇 太 被告株式会社朝日新聞社 同訴訟代

被告に対し, 著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として損害額の内金 800 万円及びこれに対する不法行為の後の日又は不法行為の日である平成 26 年 1 月 日から支払済みまで年 % の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である 1 判断の基礎となる事実 ( 当事者間に争いのない事実又は後掲の各

平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

最高裁○○第000100号

た損害賠償金 2 0 万円及びこれに対する遅延損害金 6 3 万 9 円の合計 3 3 万 9 6 円 ( 以下 本件損害賠償金 J という ) を支払 った エなお, 明和地所は, 平成 2 0 年 5 月 1 6 日, 国立市に対し, 本件損害賠償 金と同額の 3 3 万 9 6 円の寄附 (

控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

平成 30 年 10 月 26 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 9 月 28 日 判 決 5 原告 X 同訴訟代理人弁護士 上 岡 弘 明 被 告 G M O ペパボ株式会社 同訴訟代理人弁護士

( 以下 プロバイダ責任制限法 という )4 条 1 項に基づき, 被告が保有する発信者情報の開示を求める事案である 1 前提事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) (1) 当事者 原告は, 肩書地に居住する者である ( 甲 1) 被告は,

( 事案の全体像は複数当事者による複数事件で ついての慰謝料 30 万円 あり非常に複雑であるため 仮差押えに関する部 3 本件損害賠償請求訴訟の弁護士報酬 分を抜粋した なお 仮差押えの被保全債権の額 70 万円 は 1 億円程度と思われるが 担保の額は不明であ を認容した る ) なお 仮差押え

事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

11総法不審第120号

最高裁○○第000100号

11総法不審第120号

達したときに消滅する旨を定めている ( 附則 10 条 ) (3) ア法 43 条 1 項は, 老齢厚生年金の額は, 被保険者であった全期間の平均標準報酬額の所定の割合に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて算出された額とする旨を定めているところ, 男子であって昭和 16 年 4 月 2 日から同

第 2 事案の概要本件は, 原告が, 被告に対し, 氏名不詳者が被告の提供するインターネット接続サービスを利用して, インターネット上の動画共有サイトに原告が著作権を有する動画のデータをアップロードした行為により原告の公衆送信権 ( 著作権法 23 条 1 項 ) が侵害されたと主張して, 特定電気

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日から支払済みまで年 分の割合による金員を支払え 第 2 事案の概要本件は, 歯科医師らによる自主学習グループであり, WDSC の表示を使用して歯科治療技術の勉強会を主催する活動等を行っている法人格なき社団であ る原告が, 被告株式会社シーエム ( 以下 被告シーエム という ) が企画, 編集

最高裁○○第000100号

平成 28 年 4 月 21 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 27 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 28 年 2 月 25 日 判 決 原告株式会社 C A 同訴訟代理人弁護士 竹 村 公 利 佐 藤 裕 紀 岡 本 順 一 石 塚 司 塚 松 卓

とは, 原告に対する名誉毀損に該当するものであると主張して, 不法行為に基づき400 万円の損害賠償及びこれに対する不法行為日以降の日である平成 24 年 9 月 29 日から支払済みまで民法所定の年 5 分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である 1 前提事実 ( 当事者間に争いがないか,

平成 27 年 2 月までに, 第 1 審原告に対し, 労働者災害補償保険法 ( 以下 労災保険法 という ) に基づく給付 ( 以下 労災保険給付 という ) として, 療養補償給付, 休業補償給付及び障害補償給付を行った このことから, 本件事故に係る第 1 審原告の第 1 審被告に対する自賠法

平成 31 年 1 月 29 日判決言渡平成 30 年 ( ネ ) 第 号商標権侵害行為差止等請求控訴事件 ( 原審東京地方裁判所平成 29 年 ( ワ ) 第 号 ) 口頭弁論終結日平成 30 年 12 月 5 日 判 決 控訴人 ジー エス エフ ケー シ ー ピー株式会

応して 本件著作物 1 などといい, 併せて 本件各著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 後述する本件各動画の番号に対応して, 本件投稿者 1 などといい, 併せて 本件各投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェ

求めるなどしている事案である 2 原審の確定した事実関係の概要等は, 次のとおりである (1) 上告人は, 不動産賃貸業等を目的とする株式会社であり, 被上告会社は, 総合コンサルティング業等を目的とする会社である 被上告人 Y 3 は, 平成 19 年当時, パソコンの解体業務の受託等を目的とする

(1) 本件は, 歯科医師らによる自主学習グループであり, WDSC の表示を使用して歯科治療技術の勉強会を主催する活動等を行っている法人格なき社団である控訴人が, 被控訴人が企画, 編集した本件雑誌中に掲載された本件各記事において WDSC の表示を一審被告 A( 以下, 一審被告 A という )

インターネット上の誹謗中傷対応の基礎(Web公開用)

次のように補正するほかは, 原判決の事実及び理由中の第 2に記載のとおりであるから, これを引用する 1 原判決 3 頁 20 行目の次に行を改めて次のように加える 原審は, 控訴人の請求をいずれも理由がないとして棄却した これに対し, 控訴人が控訴をした 2 原判決 11 頁 5 行目から6 行目

上陸不許可処分取消し請求事件 平成21年7月24日 事件番号:平成21(行ウ)123 東京地方裁判所 民事第38部

11総法不審第120号

2 当事者の主張 (1) 申立人の主張の要旨 申立人は 請求を基礎づける理由として 以下のとおり主張した 1 処分の根拠等申立人は次のとおりお願い書ないし提案書を提出し 又は口頭での告発を行った ア.2018 年 3 月 23 日に被申立人資格審査担当副会長及び資格審査委員長あてに 会長の経歴詐称等

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1 本件は, 別紙 2 著作物目録記載の映画の著作物 ( 以下 本件著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 以下 本件投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェブサイト FC2 動画 ( 以下 本件サイト という )

法第 20 条は, 有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合, その相違は, 職務の内容 ( 労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう 以下同じ ), 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して, 有期契約労働者にとって不合

政令で定める障害の程度に該当するものであるときは, その者の請求に基づき, 公害健康被害認定審査会の意見を聴いて, その障害の程度に応じた支給をする旨を定めている (2) 公健法 13 条 1 項は, 補償給付を受けることができる者に対し, 同一の事由について, 損害の塡補がされた場合 ( 同法 1

並びにそのコンサルタント業務等を営む株式会社である ⑵ 株式会社 CAは, 別紙著作物目録記載 1ないし3の映像作品 ( 以下 本件著作物 1 などといい, 併せて 本件各著作物 という ) の製作に発意と責任を有する映画製作者 ( 著作権法 2 条 1 項 号 ) であるところ, 本件各著作物の著

☆ソフトウェア特許判例紹介☆ -第31号-

平成  年(オ)第  号

丙は 平成 12 年 7 月 27 日に死亡し 同人の相続が開始した ( 以下 この相続を 本件相続 という ) 本件相続に係る共同相続人は 原告ら及び丁の3 名である (3) 相続税の申告原告らは 法定の申告期限内に 武蔵府中税務署長に対し 相続税法 ( 平成 15 年法律第 8 号による改正前の

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平成 30 年 3 月 29 日判決言渡同日原本受領裁判所書記官 平成 28 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 3 月 9 日 判 決 5 原告株式会社フィールドアロー 同訴訟代理人弁護士 青 山 友 和 被 告 ソ メ ヤ 株 式 会 社 同訴訟代理

非常に長い期間, 苦痛に耐え続けた親族にとって, 納得のできる対応を日本政府にしてもらえるよう関係者には協力賜りたい ( その他は, 上記 (2) と同旨であるため省略する ) (4) 意見書 3 特定個人 Aの身元を明らかにすること及び親子関係の証明に当たっては財務省 総務省において, 生年月日の

ものであった また, 本件規則には, 貸付けの要件として, 当該資金の借入れにつき漁業協同組合の理事会において議決されていることが定められていた (3) 東洋町公告式条例 ( 昭和 34 年東洋町条例第 1 号 )3 条,2 条 2 項には, 規則の公布は, 同条例の定める7か所の掲示場に掲示して行

(イ係)

平成 27 年度 特定行政書士法定研修 考査問題 解答と解説 本解答と解説は 正式に公表されたものではなく 作成者が独自に作成したものであり 内容の信頼性については保証しない 以下の事項に全て該当 遵守する場合にのみ 利用を許可する 東京都行政書士会葛飾支部会員であること 営利目的でないこと 内容を

に表現したものということはできない イ原告キャッチフレーズ1は, 音楽を聞くように英語を聞き流すだけ/ 英語がどんどん好きになる というものであり,17 文字の第 1 文と12 文字の第 2 文からなるものであるが, いずれもありふれた言葉の組合せであり, それぞれの文章を単独で見ても,2 文の組合

1 前提となる事実等 ( 証拠の摘示のない事実は, 争いのない事実又は弁論の全趣旨から容易に認められる事実である ) (1) 当事者原告は, X1 の名称を使用してウエブサイトの制作請負を行っている者であり, 被告は, 不動産業を主な業務としている特例有限会社である (2) 原告によるプログラムの制

原告が著作権を有し又はその肖像が写った写真を複製するなどして不特定多数に送信したものであるから, 同行為により原告の著作権 ( 複製権及び公衆送信権 ) 及び肖像権が侵害されたことは明らかであると主張して, 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 ( 以下 プ ロ

審決取消判決の拘束力

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市町村合併の推進状況について

1 A 所有の土地について A が B に B が C に売り渡し A から B へ B から C へそれぞれ所有権移転登記がなされた C が移転登記を受ける際に AB 間の売買契約が B の詐欺に基づくものであることを知らなかった場合で 当該登記の後に A により AB 間の売買契約が取り消された

7 という ) が定める場合に該当しないとして却下処分 ( 以下 本件処分 という ) を受けたため, 被控訴人に対し, 厚年法施行令 3 条の12の7が上記改定請求の期間を第 1 号改定者及び第 2 号改定者の一方が死亡した日から起算して1 月以内に限定しているのは, 厚年法 78 条の12による

指定商品とする書換登録がされたものである ( 甲 15,17) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 21 年 4 月 21 日, 本件商標がその指定商品について, 継続して3 年以上日本国内において商標権者, 専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないことをもって, 不使用に

の補正書 において, 審査請求の趣旨を この開示請求は本人の給与のみずましにかかわる書面である為 としているが, 原処分を取り消し, 本件対象保有個人情報の開示を求めている審査請求として, 以下, 原処分の妥当性について検討する 2 原処分の妥当性について (1) 給与所得の源泉徴収票について給与所

平成22年5月12日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成 30 年 6 月 15 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 5939 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 5 月 9 日 判 決 5 当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり 主 文 1 被告は, 別紙対象目録の 原告 欄記載の各原告に対し,

なお, 基本事件被告に対し, 訴状や上記移送決定の送達はされていない 2 関係法令の定め (1) 道路法ア道路管理者は, 他の工事又は他の行為により必要を生じた道路に関する工事又は道路の維持の費用については, その必要を生じた限度において, 他の工事又は他の行為につき費用を負担する者にその全部又は一

諮問庁 : 国立大学法人長岡技術科学大学諮問日 : 平成 30 年 10 月 29 日 ( 平成 30 年 ( 独情 ) 諮問第 62 号 ) 答申日 : 平成 31 年 1 月 28 日 ( 平成 30 年度 ( 独情 ) 答申第 61 号 ) 事件名 : 特定期間に開催された特定学部教授会の音声

第 2 事案の概要本件は, レコード製作会社である原告らが, 自らの製作に係るレコードについて送信可能化権を有するところ, 氏名不詳者において, 当該レコードに収録された楽曲を無断で複製してコンピュータ内の記録媒体に記録 蔵置し, イン ターネット接続プロバイダ事業を行っている被告の提供するインター

する 理 由 第 1 事案の概要 1 本件は, 平成 21 年 ( 受 ) 第 602 号被上告人 同第 603 号上告人 ( 以下 1 審原告 X1 という ) 及び平成 21 年 ( 受 ) 第 603 号上告人 ( 以下 1 審原告 X 2 といい,1 審原告 X 1と1 審原告 X 2を併せ

平成20年7月11日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官

判決【】

第 4 審理員意見書の結論 本件各審査請求は理由がないから 行政不服審査法 4 5 条 2 項に より いずれも棄却すべきである 第 5 調査審議の経過審査会は 本件諮問について 以下のように審議した 年月日審議経過 平成 30 年 3 月 6 日 諮問 平成 30 年 4 月 26 日審議 ( 第

平成19年(ネ受)第435号上告受理申立理由要旨抜粋

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指針に関する Q&A 1 指針の内容について 2 その他 1( 特許を受ける権利の帰属について ) 3 その他 2( 相当の利益を受ける権利について ) <1 指針の内容について> ( 主体 ) Q1 公的研究機関や病院については 指針のどの項目を参照すればよいですか A1 公的研究機関や病院に限ら

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事案である 3 仲裁合意本件では 申立人の申立書において仲裁合意の内容の記載があり 被申立人は答弁書においてこれを争わなかったので 本件についての書面による仲裁合意が存在する なお 被申立人は審問期日においても本仲裁に応じる旨の答弁をした 4 当事者の主張 (1) 申立人の主張申立人は 請求を基礎づ

メ 札幌市オンブズマン条例 平成 12 年 12 月 12 日条例第 53 号 改正 札幌市オンブズマン条例 平成 15 年 10 月 7 日条例第 33 号 平成 20 年 11 月 7 日条例第 36 号 目次第 1 章総則 ( 第 1 条 第 4 条 ) 第 2 章責務 ( 第 5 条 第 7

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ジュリスト No 頁 ) しかし 民事執行法の中に 上記の思想を盛り込まないままで それは 153 条でまかなっていただこう というのは 無理がある 例えば10 万円の給与のうち2 万 5000 円を差し押さえられた債務者が153 条の申立をし 他に収入はないこと ( 複数給与の不存在

( 一 ) 被告は 建築土木の設計施工管理及び請負並びに資材販売業 及び 不動産の売買業 等を目的とする会社であり 原告らは 同社から昭和六三年一月頃別紙物件目録記載の分譲マンション ( 以下 本件マンション という ) を約二〇〇〇万円にてそれぞれ購入し 同年八月頃それぞれ引渡しを受けた ( 二

* 1.請求の要旨

在したことを立証しなければならない しかるに被告は これまでの書面においても また証人二人の証言においても ともに何らの挙証もしていないのである 本件記事は 前野直道証人が だれからも取材しておりません ( 証人前野直道の証言調書 28 頁 ) と述べているように 原告の著述したものからのみ入手した

〔問 1〕 抵当権に関する次の記述のうち,民法の規定によれば,誤っているものはどれか

年管管発 0928 第 6 号平成 27 年 9 月 28 日 日本年金機構年金給付業務部門担当理事殿 厚生労働省年金局事業管理課長 ( 公印省略 ) 障害年金の初診日を明らかにすることができる書類を添えることができない場合の取扱いについて 厚生年金保険法施行規則等の一部を改正する省令 ( 平成 2

130306異議申立て対応のHP上の分かりやすいQA (いったん掲載後「早く申請してください」を削除)

原判決は, 控訴人ら及び C の請求をいずれも棄却したので, 控訴人らがこれを不服として控訴した 2 本件における前提事実, 関係法令の定め, 争点及びこれに対する当事者の主張は, 後記 3 のとおり, 原判決を補正し, 後記 4 のとおり, 当審における当事者の主張 を付加するほかは, 原判決 事

本条は 購入者等が訪問販売に係る売買契約等についての勧誘を受けるか否かという意思の自由を担保することを目的とするものであり まず法第 3 条の2 第 1 項においては 訪問販売における事業者の強引な勧誘により 購入者等が望まない契約を締結させられることを防止するため 事業者が勧誘行為を始める前に 相

民事訴訟法

控訴審準備書面(5)被控訴人病院答弁書に対する認否及び反論

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O-27567

ア原告は, B 工務店 の屋号で建築工事の請負を業 ( 大工業 ) としていた者である イ株式会社 C( 以下 本件会社 という ) は, 不動産の仲介及び売買等を目的とする株式会社である 本件会社は, 原告に対し, 平成 19 年 9 月から平 成 23 年 2 月まで, 賃金を支払い, 社会保険

事実及び理由 第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人は, 原判決別紙被告方法目録記載のサービスを実施してはならない 3 被控訴人は, 前項のサービスのために用いる電話番号使用状況調査用コンピュータ及び電話番号使用状況履歴データが記録された記録媒体 ( マスター記録媒体及びマスター記録

 

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Unit1 権利能力等, 制限行為能力者 ( 未成年 ) 1 未成年者が婚姻をしたときは, その未成年者は, 婚姻後にした法律行為を未成年であることを理由として取り消すことはできない (H エ ) 2 未成年者が法定代理人の同意を得ないで贈与を受けた場合において, その贈与契約が負担付の

Ⅱ. 法第 3 条の 2 等の適用についての考え方 1. 法第 3 条の2 第 1 項の考え方について本条は 購入者等が訪問販売に係る売買契約等についての勧誘を受けるか否かという意思の自由を担保することを目的とするものであり まず法第 3 条の 2 第 1 項においては 訪問販売における事業者の強引

平成年月日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

同訴訟代理人弁護士同同同同同同同同同同同 三好徹石田央子津田直和井川真由美鶴﨑有一石井修平山崎哲内田尚成前田香織本田雄巳黒木義隆籔之内千賀子 主文 1 控訴人の本件控訴を棄却する 2(1) 被控訴人の附帯控訴に基づき 原判決主文 1 2 項を次のとおり変更する (2) 控訴人は 被控訴人に対し 78

文書管理番号

添付資料 (2) 美容医療広告について 医療広告ガイドラインに照らして 問題と考えられる点 平成 27 年 3 月 3 日 特定非営利活動法人消費者機構日本 医療法又は 医業 歯科医業若しくは助産師の業務又は病院 診療所若しくは助産所に関して広告することができる事項 ( 平成 19 年厚生労働省告示

Transcription:

主 文 1 被告らは, 原告に対し, 連帯して110 万円及びこれに対する平成 23 年 10 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する 3 訴訟費用は, これを10 分し, その1を被告らの負担とし, その余は原告の負担とする 4 この判決は 第 1 項に限り, 仮に執行することができる 事実及び理由第 1 請求被告らは, 原告に対し, 連帯して1100 万円及びこれに対する平成 23 年 10 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 第 2 事案の概要等 1 事案の概要本件は, 大阪府知事であった原告が, 精神科医である被告 aが執筆し, 被告株式会社 bが発行した月刊誌 c 平成 23 年 11 月号 ( 以下 本件雑誌 という ) に掲載された 大阪府知事は 病気 である と題する別紙記事 ( 以下 本件記事 という ) によって名誉を毀損されたと主張して, 被告らに対し, 不法行為に基づき, 連帯して, 損害賠償 1100 万円及びこれに対する不法行為日 ( 本件雑誌の発売日 ) である平成 23 年 10 月 18 日から支払済みまで民法所定の年 5 分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である 2 前提事実以下の事実は, 当事者間に争いがないか, 後掲証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる (1) 原告は, 被告らが本件雑誌を発売した平成 23 年 10 月 18 日当時, 大阪府知事の職にあった者であり, 次期大阪市長選挙に立候補する意向を表明していた 1

被告株式会社 bは, 雑誌及び書籍の発行及び販売を目的とする会社であり, 月刊誌 cを発行している 被告 aは, 精神科医, ノンフィクション作家であり, 本件記事を執筆した者である (2) 被告 aは,c の編集者であるdから, 本件雑誌において原告に関する特集記事の掲載を企画しているとして, 原告の人間性を分析する記事の執筆依頼を受けた (3) 被告 aは, 大阪府知事は 病気 である という大見出し ( 以下 本件大見出し という ) の下に, 本件雑誌の42 頁から47 頁にわたって掲載された本件記事を執筆した ( なお, 本件大見出し及び本文中の4つの小見出しは, 被告 aに報告した上で本件雑誌の編集部が付したものである ) (4) 被告株式会社 bは, 本件記事を掲載した本件雑誌を発行し, 平成 23 年 10 月 18 日, これを発売した (5) 本件記事の内容は, 概略以下のとおりである ア本件記事は, 最も危険な政治家 e( 原告のことをいう ) 研究 と題した特集記事の一つであり, 大阪府知事は 病気 である との本件大見出しのすぐ下に a 精神科医, ノンフィクション作家 と記載されている また, 本件大見出しの左隣の行には, 挑発的発言, 扇情的な振る舞い, 不安定な感情 それらから導き出せるのはある精神疾患である との記載がある イ本件記事の本文は, 大きく4つの項目に分かれており, それぞれ いじめ 育ちの空気読み, すり替えと弱者攻撃, 掃除をしない高校生, 知事の 病名 の小見出しが付けられている ウ ( ア ) いじめ 育ちの空気読み の項目 ( 以下 項目 A という ) には, 原告が,1 大阪府知事選に立候補することは2 万パーセントないと言っていたにもかかわらず,f 党の推薦の確約をとると一変して立候補を 2

表明したこと,2 g 弁護士会から懲戒処分を下された際, 道頓堀で尻を出すより下品だ と批判するなど, 他人を攻撃する際に幼児反応にこだわった発言をしていること,3 世間の空気を読めるのが政治家であり, 府民に選ばれた自分に従えと威圧していること,4 g 弁護士会から懲戒処分を受けた際の報告集会で, いったん謝罪の辞を述べたが, 会場からヤジが飛ぶと豹変し, 弁護士会に対する罵倒を続けたことなどが記載され ( 以下, この記載を 本件記載部分 A という ), さらに, 原告の過ごした少年期に照らして考えられる原告なりの 空気を読む ということが, 自分の考えや感情を相手に伝え, 相手の考えや感情を受け止め, 理解を共にしていこうとするコミュニケーションではなく, ある小集団の中の強者 弱者, あるいは多数派 少数派の関係を察知することであるなどと記載されている ( イ ) すり替えと弱者攻撃 の項目( 以下 項目 B という ) には, 原告が大阪府知事になった際,1 年で1100 億円の収支改善を図るなどと主張し, 府職員の給与の削減, 福祉, 教育, 文化施設の切捨てなどを行ったが, 実績としては府債残高が急増したことが記載され ( 以下, この記載を 本件記載部分 B という ), 選挙の際に主張したことのない政策を強引に主張し, 無知が露呈すると別のことを言って恥じない, 弱者を徹底して攻撃する, 文化 芸術を嫌悪するなどの原告の人間性を分析する必要があるなどと記載されている ( ウ ) 掃除をしない高校生 の項目( 以下 項目 C という ) には, 原告の高校時代をよく知る教諭の言として, 片付けや掃除をせず, 汚れ仕事のときは逃げ, 地味なことはせず, 感情交流ができず, コミュニケーションにならず, 嘘を平気で言い, ばれても恥じない, 約束を果たせない, 人望は全く無い, 相手が傷つくことを平気で言い続ける, スタンドプレーをよくする, 文化, 知性に対し拒絶感があるようだった, 原告を 3

評価する先生はまずいない, などの人物評が記載され ( 以下, この記載を 本件記載部分 C という ), さらに, 原告が荒れた小学校, 中学校に在籍していた頃, 強い子を見つけてパシリをして勢力下に入り, 他の子に目を付けられないという処世術を学んだが, いじめや暴力のない高校時代には 空気を読む 能力が発揮できずに屈折した感情を抱いていったのかもしれないなどと記載されている ( エ ) 知事の 病名 の項目( 以下 項目 D という ) には, これ以上私たちは, 自己顕示欲型精神病質者の空虚な言動に振り回されてはならない WHOの分類 (ICD10) を使えば, 演技性人格障害と言ってもいい と記載があり, それに続いて, 演技性人格障害は,1 自己の劇化, 演技的傾向, 感情の誇張された表出,2 他人に容易に影響を受ける被暗示性,3 浅薄で不安定な感情性,4 興奮, 他人の評価, および自分が注目の的になるような行動を持続的に追い求めること,5 不適当に扇情的な外見や行動を取ること,6 身体的魅力に必要以上に熱中すること, で特徴づけられる とした上で, 本件記事でこれまで記載のあった各項目の事実を踏まえると, 原告は2 以外の5 項目が当てはまるほか, 関連病像とされる自分の欲求達成のために他人をたえず操作する行動, 自己中心性も顕著であるなどと記載されている ( 以下, この記載を 本件記載 D という ) 3 争点及び当事者の主張 (1) 争点 1( 事実の摘示か, 意見又は論評の表明か ) ( 原告の主張 ) 本件大見出しは, そのすぐ下の a 精神科医ノンフィクション作家 との記載と, 左隣の行にある 挑発的な発言, 扇情的な振る舞い, 不安定な感情 それから導き出されるのはある精神疾患である との記載があること, 知事の 病名 の項目に, 自己顕示欲型精神病質者あるいは演技性人格障 4

害という具体的病名が記載されていることなどを踏まえると, 原告は精神疾患 ( 自己顕示欲型精神病質者あるいは演技性人格障害 ) という病気に罹患しているということがその内容であると読み取れる このように, 本件記事は, 本件大見出しの 大阪府知事は 病気 である との記述により, 大阪府知事たる原告が精神疾患 ( 自己顕示欲型精神病質者あるいは演技性人格障害 ) を患っているという事実を摘示するものである ( 被告らの主張 ) 本件記事は, 原告が精神疾患にかかっている との事実を摘示したものではなく, 精神科医である被告 aが原告の政治家としての言動やその人物評を材料として, 精神医学の知見に基づいて原告の人間性を分析評価することにより, 原告が政治家として信用, 信頼に値しない人物であるとの意見ないし論評を表明したものである 被告 aが, 原告自身の言動や原告を知る人物の証言から原告の人間性の分析を試みた結果が本件記事であることは, 本件記事を一読すれば明らかである 客観的な診断が可能な身体的疾患と異なり, 人格障害の分類, 判断は当該個人の言動を評価して該当性を評価するものであって, 自己顕示欲型精神病質者 や 演技性人格障害 という分類名が本文に記載されていても, 原告が病気 ( 精神疾患 ) であるという事実を摘示したことにはならない (2) 争点 2( 名誉毀損該当性 ) ( 原告の主張 ) 本件記事のうち, 本件大見出しは事実の摘示にあたり, それに基づく 政治家として信用 信頼に値しない人物である との趣旨の部分は意見 論評に該当する 本件記事は, 原告が精神疾患 ( 自己顕示欲型精神病質者あるいは演技性人格障害 ) であるとの事実を摘示することで, 原告が精神に異常をきたしているとの印象を一般読者に与えるものであり, それに伴って原告の社会 5

的評価が低下することは明らかである ( 被告らの主張 ) 本件記事は, 原告が精神疾患にかかっている との事実を摘示したものではなく, 精神科医である被告 aによる原告の人間性の分析を基に, 原告が政治家として信用, 信頼に値しない人物であるとの意見ないし論評を表明したものである 本件記事には被告 aの原告に対する意見または論評として否定的見解が示されてはいるが, これを読んだ一般読者が被告 aの見解を支持し, 原告において否定的評価を下すものとは限らないから, 本件記事は原告の社会的評価を低下させるものではない (3) 争点 3( 公共性及び公益目的の有無 ) ( 被告らの主張 ) 本件記事は, 国民, 府民の強い関心を集める著名な政治家である原告の性格 人間性を精神分析の手法を用いて評価, 論評したものであり, 公共の利害に関するものである 原告は, 当時大阪府知事として在職し, 大阪市長選への立候補も表明していた著名かつ有力な政治家であったことから, その人格や人間性は有権者に知らせる必要のある事項である また, 本件記事は, 原告の政治家としての資質, 適性に関する判断材料を国民 府民に提示することを目的として執筆 掲載されたものであり, 専ら公益を図る目的に出たものであることは明らかである ( 原告の主張 ) 本件のように個人の精神分析に関する表現については, 当該分析の内容が不正確なものであれば国民, 府民は不正確な判断材料を基に誤った判断を下すことにつながるのであるから, 結果的に公益が害されることになる 被告らの原告に対する精神分析の過程がおよそ結果としての正確性を追求していると認められないような場合には, 公益を図る目的があったとはいえない 6

本件では, 被告 aは, 申し込んでも会ってもらえないと判断したこと, 直接面談しても嘘をつかれるだろうと思ったこと, 原告がお金も時間も労力もかけるに値しない人物だと判断したことなどを理由に, 原告に面談を申し込むことすらせずに本件記事を執筆しており, 正確性を追求しているとは到底いえないから, 本件記事の執筆, 発行に公益を図る目的があったとはいえない (4) 争点 4( 真実性及び真実であると信じたことについての相当な理由 以下 真実相当性 といい, これと真実性を併せて 真実性等 という の有無 ) ( 被告らの主張 ) ア被告 aが意見又は論評の前提として摘示した各事実は, 以下のとおり, その主要部分においていずれも真実であるから, 被告らの行為は違法性を欠く ( ア ) 本件記載部分 Aで前提としている事実は,1 当初は立候補しないといっていた大阪府知事選に,f 党の推薦が得られるや立候補を表明したこと,2 g 弁護士会について 道頓堀で尻を出すより下品だ と批判したこと,3 府民に選ばれた知事に従うよう府職員らに指示していたこと,4 g 弁護士会から懲戒処分を受けた際の報告集会で, いったん謝罪の辞を述べたが, 会場からヤジが飛ぶと豹変し, 弁護士会に対する罵倒を続けたことであるが, これらは, いずれも真実である ( イ ) 本件記載部分 Bで前提としている事実は,1 原告が大阪府知事としてコストカットを行うに当たり, 福祉 教育 文化施設を切り捨てたこと,2 財政再建を主張していた原告が知事に就任してから, かえって府債残高が増加したこと,3 原告は文楽を評価せず,h 氏を高く評価するなど, 文化 芸術に対して嫌悪感があることであるが, これらは, いずれも真実である 7

( ウ ) 本件記載部分 Cで前提としている事実は,1 原告の高校生時代の言動, エピソード ( 大掃除の時, 汚れ仕事から逃げていく 帰ってしまう 地味なことはしない 話していても, 壁に向かって話しているような思いにこちらがなる 感情交流ができず共感がない 伝達, 伝言のようでコミュニケーションにならない 目と目を合わせることができず, 視線を動かし続ける 嘘を平気で言う ばれても恥じない 信用できない 約束を果たせない 自分の利害にかかわることには理屈を考え出す, バレーボールで失敗した生徒を罵倒 相手が傷つくことを平気で言い続ける, 文化, 知性に対して拒絶感があるようで, 楽しめない 馬鹿にされていると敏感に感じるのか, 見返そうとしているようだった ),2 小学校, 中学校時代に強い子を見つけて勢力下に入る処世術を身に付けたことであるが, これらは, いずれも真実である イなお, 仮に本件大見出しの記載が事実の摘示に当たるとしても, ここでいう 病気 は, 原告が自己顕示欲型精神病質者あるいは演技性人格障害という偏りのある人格の持ち主であるという事実であるところ, 精神科医としての専門知識と経験を有する被告 aが, 本件記事に記載された原告の言動や関係者の証言に基づいて原告の分析を行った結果, 原告は自己顕示欲型精神病質者あるいは演技性人格障害に該当し, 偏りのある人格の持ち主であるという結論に至ったのであるから, かかる事実は真実である ウ仮に前記ア記載の各事実が真実でなかったとしても, 被告らは, 原告の言動を報じた新聞報道, 原告の自著を含む出版物の記載, 原告が高校在籍中, 原告を指導していた教諭への取材等から, これらの事実を真実と信じたものであって, そのように信じたことには相当な理由があるから, 被告らには故意又は過失がない ( 原告の主張 ) ア本件記事は, 大阪府知事たる原告が精神疾患 ( 自己顕示欲型精神病質者 8

あるいは演技性人格障害 ) であるという事実を摘示するものであるが, 原告が精神疾患, すなわち精神に異常をきたしている事実はなく, これは虚偽である 被告 aは, あらかじめ決めた結論に沿うような証拠資料を収集する作業をしたに過ぎず, 精神分析の結果が真実であることを立証する資料は示されていない 仮に本件記事が意見又は論評にあたるとしても, その前提としている事実はいずれも真実ではない イまた, 被告 aは, 原告がお金も時間も労力もかけるに値しない人物だと判断して, 原告に対する面談を申し込まなかったというように, 被告 aが原告の精神分析に真摯に向き合う姿勢を有していないことから, 被告らにおいて, 原告が精神に異常をきたしていることを真実であると信じるについて相当な理由はない (5) 争点 5( 意見ないし論評としての域を逸脱するか否か ) ( 原告の主張 ) 本件記事は, 原告が精神異常者であると読み手に印象づけて原告自身の社会的信用性を攻撃するという目的で, 被告 aが精神科医であることを利用し, 大阪府知事は病気である等と揶揄して自分の論評の正確性を担保させている 被告 aは実際に原告を診察したわけでもないのに, 被告 aの意見であるなどの注記も一切ないまま大阪府知事は病気である等と断定的発言を用いており, 本件記事は被告 aの考える結論に都合のいい資料だけを集め挙げ, 専門医の観点から分析しているように見せかけているだけに過ぎない 演技性人格障害などという病名につきその要件は挙げられているものの, 記述されている事実との関連性については何ら論じられておらず, 医学的見地からの論評としての体を一切なしていない 以上より, 本件記事が正当な論評の域を超えた人身攻撃に当たることは明らかである 9

( 被告らの主張 ) 精神医学の知見に基づいて政治家の人格や人間性の分析を行うことは多くの実例があり, 政治家の資質を世に問う方法として広く行われている正当な手法である 政治家に対する精神学的見地からの分析を試みる場合, 分析対象である政治家本人に対する問診が行われたことはなく, 新聞, テレビ等で報道され, 書籍としても出版されるなど分析資料となる過去の言動やエピソードには事欠かないことから, 被告 aが直接の問診を行わずに本件記事を執筆したとしても, 正当な論評の域を超えた人身攻撃に当たるということにはならない (6) 争点 6( 原告に生じた損害 ) ( 原告の主張 ) 本件記事の掲載及び本件雑誌の販売により, 原告は名誉を毀損されたものであるが, 本件記事の記載は誰の目にも行きすぎた表現が用いられており, どのような言い訳を試みても表現の自由によって保障された言論の範囲を逸脱していることが明らかである それにもかかわらず, 被告らは, 原告に対して反省し謝罪するどころか, 原告が病気であることは真実である旨の侮辱的な主張を続け, また被告 aは原告代理人に対し, eを連れてこい と語気鋭く迫ってきた 被告らのこうした訴訟態度により, 本件記事の掲載及び本件雑誌の販売による原告の精神的損害はより一層拡大した これらの事情に照らせば, 原告が被った精神的苦痛を慰謝するのに必要な慰謝料は1000 万円を下らない また, 被告らの名誉毀損行為によって, 原告は, 本件訴訟の提起, 追行のために弁護士に委任せざるを得なくなったところ, その弁護士費用として100 万円が損害と認められる ( 被告らの主張 ) 否認ないし争う 10

第 3 争点に対する判断 1 争点 1( 事実の摘示か, 意見ないし論評の表明か ) について (1) 本件記事は, 大阪府知事は 病気 である との本件大見出しの下, その左隣に 挑発的発言, 扇情的な振る舞い, 不安定な感情 そこから導き出せるのはある精神疾患である と記載し, さらに, 本文中の項目 A~Cにおいて原告の過去の言動や学校時代のエピソード等を批判的に紹介した後, 項目 Dの 知事の 病名 の中で, これ以上私たちは, 自己顕示欲型精神病質者の空虚な言動に振り回されてはならない WHOの分類 (ICD10) を使えば, 演技性人格障害と言ってもいい と記載し, これに続けて, 演技性人格障害は,1 自己の劇化, 演劇的傾向, 感情の誇張された表出,2 他人に容易に影響を受ける被暗示性,3 浅薄で不安定な感情性,4 興奮, 他人の評価, および自分が注目の的になるような行動を持続的に追い求めること, 5 不適当に扇情的な外見や行動を取ること,6 身体的魅力に必要以上に熱中すること, で特徴づけられる とした上で, 原告について 2 項をのぞいて, 5 項目が当てはまる それ以外に, 関連病像とされる自分の欲求達成のために他人をたえず操作する行動, 自己中心性も顕著である などと記載するもの ( 本件記載部分 D) である 上記のような本件記事の内容に加えて, 被告 aが 精神科医, ノンフィクション作家 との肩書きで本件記事を執筆していることをも踏まえれば, 本件記事のうち 大阪府知事は 病気 である との本件大見出しは, 本件記載部分 Dの記述と相まって, マスコミ報道やテレビ番組又は自著等における原告の発言や態度, 高校時代のエピソード等, 本件記載部分 A~Cの事実を前提として, 被告 aが精神科医としての立場で原告の言動を分析すると, 原告は自己顕示欲型精神病質者 ( シュナイダーの10 分類のひとつ ) あるいは演技性人格障害 (WHOの分類) の特徴に当てはまると評価できるとの意見ないし論評を表明したものと解するのが相当である 11

(2) これに対し, 原告は, 本件記事は, 大阪府知事は 病気 である との本件大見出しの記述により, 原告が精神疾患 ( 自己顕示欲型精神病質者又は演技性人格障害 ) を患っているとの事実を摘示するものであると主張する しかしながら, 本件記事は, 医師が患者としての原告を診察, 検査するなどの医療行為を経て診断を確定した上でこれを医学的事実として記載したという内容のものではなく, 上記のとおり, 被告 aが, マスコミ報道やテレビ番組又は自著等における原告の過去の言動や原告に関する事実関係 ( エピソード ) を独自に収集した上, それらを精神医学上の分類に当てはめて分析するという体裁のものであって, 本件記載部分 Dは, 上記のような分析の結果, 原告は自己顕示欲型精神病質者ないし演技性人格障害の特徴に当てはまるとの被告 aの意見ないし評価を述べたものに過ぎず, このことは, 本件記事の体裁, 内容からして, 一般の読者にとっても明らかであるというべきである そして, 本件大見出しの 大阪府知事は 病気 である との記述も, 本件記事全体の内容を踏まえてみれば, 被告 aによる上記のような分析結果をとらえて 病気である と表現したものに過ぎないことが容易に読み取れる したがって, 本件大見出し及び本件記載部分 Dは, 本件記載部分 A~Cに挙げられた原告の過去の言動等を精神医学的に分析すると, 自己顕示欲型精神病質者あるいは演技性人格障害の特徴が見られるとの被告 aの評価を記述するものであって, このような評価の正当性自体は, 証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項ということはできないから, 本件記事のうち本件大見出し及び本件記載部分 Dは, 本件記載部分 A~Cに記載の事実を前提とした意見ないし論評の表明であると解するのが相当である 2 争点 2( 名誉毀損該当性 ) について (1) 上記 1で判示したとおり, 本件記事は, 本件大見出しと本件記載部分 Dとが相まって, 精神科医である被告 aが原告の過去の言動等を分析した結果, 12

原告は自己顕示欲型精神病質者あるいは演技性人格障害と評価できるとの意見を表明するものと解されるところ, 専門家によるこのような意見が政治家としての原告の社会的評価を低下させ, 原告の名誉を毀損することは明らかというべきである これに対し, 被告は, 本件記事の読者が被告 aの見解を支持し, 原告に対して否定的評価を下すとは限らないと主張する しかし, 本件記事は, 精神科医である被告 aが専門家の立場で原告の言動等を分析したものであり, その旨が本件記事に明記されていることを踏まえれば, 本件記事の読者においては, 原告の人格に精神医学的観点から何らかの問題があるとの印象を受けるのが通常であると考えられるから, 被告の上記主張は, 採用することができない (3) よって, 本件記事は, 原告の社会的評価を低下させ, その名誉を毀損するものというべきである 3 争点 3( 公共性及び公益目的の有無 ) について (1) 原告は, 本件記事が掲載された本件雑誌が発売された当時, 大阪府知事の職にあり, 次期大阪市長選挙に立候補する意向を表明していたものである 本件記事は, 公の要職にありその政治手法や言動について社会的関心を集めていた原告について, 精神科医である被告 aが, 精神医学的な知見に基づいてその言動等を分析し, 原告の人格を批判的に論評する内容のものであって, その見解の正当性や表現の適切性について議論の余地はあるとしても, 本件記事の記述内容が上記の主題を離れてこれと無関係な人身攻撃や誹謗中傷にわたるものとまでは認められない したがって, 本件記事は, 公共の利害に関する事実に係り, かつ, その目的が専ら公益を図ることにあったと認められる (2) この点に関し, 原告は, 被告 aが原告本人に対する取材を行っておらず, 本件記事の内容について正確性を追求する姿勢が窺われないから, 公益を図 13

る目的があったとはいえないと主張するが, 原告主張の事実を踏まえても, 上記判断を覆すには至らない 4 争点 4( 前提事実の真実性等 ) について (1) 前記 1のとおり, 本件大見出し及び本件記載部分 Dは, 本件記載部分 A ~Cに記載した事実に係る原告の言動等を前提として, これらを精神医学的に分析すると, 原告は自己顕示欲型精神病質者又は演技性人格障害と評価できるとの意見ないし論評を表明することにより, 原告の社会的評価を低下させるものである したがって, 本件記事の執筆及び掲載による名誉毀損が違法性を阻却するか否か等を判断するに当たり, 上記意見, 論評の前提となった事実 ( 本件記載部分 A~Cに記載された事実 ) が重要な部分について真実であったか否かが問題となるので, 以下, この点について検討する ア本件記載部分 Aについて本件記載部分 Aのうち,1 大阪府知事選に出ることは 2 万パーセントない と発言していた原告が,i f 党選挙対策委員長と会談して態度を翻し,f 党推薦の知事候補として立候補を表明することとなったなどの経緯を記載した部分については, 証拠 ( 乙 2) によれば, 大筋において真実であると認められる また, 原告が,2 g 弁護士会から懲戒処分を受けた際, 処分内容が発表直前に知られていたことについて 道頓堀で尻を出すより下品だ などと発言したこと,3 府民に選ばれた知事に従うよう府職員らに指示していたこと,4 g 弁護士会から懲戒処分を受けた際の報告集会で, いったん謝罪の辞を述べたが, 会場からヤジが飛んだ後, g 弁護士会を罵倒したことなど, 本件記載部分 Aで挙げられた原告の発言内容は, いずれも, マスコミ等で報道されるか, 原告自身のブログ又は著書から引用されたものであり ( 乙 3,9,10, 弁論の全趣旨 ), 重要な部分について真実であると認められる 14

イ本件記載部分 Bについて本件記載部分 Bのうち,1 原告は, 知事に就任後, 一年で1100 億円の収支改善を図る, 次年度には黒字化すると主張して, 府職員の給与を削減するとともに, 私学助成の削減, 府立高校に勤務する非正規事務補助員等の解雇, 国際児童文学館の閉館など, 福祉, 教育, 文化施設に関わる予算を削減したこと,2 それにもかかわらず, 原告が知事になってから府債残高が急増したこと,3 原告が 文楽では視聴率はとれない,h でないと駄目 といった発言をしたことなどについては, いずれも, 証拠 ( 乙 5,9~14) 及び弁論の全趣旨によれば, その重要部分について真実であると認められる ウ本件記載部分 Cについて ( ア ) 本件記載部分 Cには, 原告が高校生の頃をよく知る教諭から聞いたエピソードとして, 高校生時代の原告は, 大掃除の時, 汚れ仕事から逃げていく 帰ってしまう 地味なことはしない 話していても, 壁に向かって話しているような思いにこちらがなる 感情交流ができず共感がない 伝達, 伝言のようでコミュニケーションにならない 目と目を合わせることができず, 視線を動かし続ける 嘘を平気で言う ばれても恥じない 信用できない 約束を果たせない 自分の利害にかかわることには理屈を考え出す, バレーボールで失敗した生徒を罵倒 相手が傷つくことを平気で言い続ける, 文化, 知性に対して拒絶感があるようで, 楽しめない 馬鹿にされていると敏感に感じるのか, 見返そうとしているようだった などの事実が記載されている 同記載のうち, 嘘を言う, ばれても恥じない, 信用できない という部分は, 本件記載部分 Dでも改めて引用されており, その余の部分も含め, 上記のエピソードの存在は, 原告を自己顕示欲型精神病質者ないし演技性人格障害と分析するに当たって前提とされた重要な事実である 15

と認められる ( イ ) しかしながら, 上記の内容については, 被告 aが原告の高校時代の教諭から聴取した内容に基づくものであるというのみで, 当該聴取内容が真実であることについての客観的な証拠がなく, 上記事実 ( 高校時代のエピソードの存在 ) を真実であると認めることはできない ( ウ ) また, 真実相当性について検討するに, そもそも, 被告 a 本人の供述及び陳述書 ( 乙 21) 並びにj 氏の陳述書 ( 乙 22) 以外には, 当該教諭が上記のような内容を語ったこと自体を裏付ける証拠がなく, 当該教諭について, その氏名はもとより, どのような立場で原告に接したかについても明らかでない その他, 被告 aが当該教諭から聴取したとする上記事実について裏付け取材をするなどして確認したことを認めるに足りる証拠もないから, 被告らにおいて, 仮に上記事実について真実であると信じたとしても, そう信じるについて相当の理由があったとは認められないというべきである (2) まとめ以上のとおり, 本件記事による意見ないし論評の前提とされた事実のうち, 本件記載部分 A 及びBに記載された各事実は, その重要部分について真実であることの証明があったと認められるが, 本件記載部分 Cに記載された事実については, 重要な部分について真実であることの証明がなく, 被告らにおいてこれを真実と信ずるについて相当の理由があったとも認められない したがって, 本件記事の執筆等による名誉毀損につき, 違法性が欠け, 又は故意若しくは過失が否定されるとの被告らの主張は, 理由がない 5 小括以上によれば, 被告 aが本件記事を執筆し, 被告株式会社 bが本件記事を掲載した本件雑誌を発売した行為は, 原告の社会的評価を低下させる行為であり, 名誉毀損として共同不法行為を構成し, 被告らは, これにより原告が被った損 16

害 ( 精神的苦痛 ) を連帯して賠償すべき責任を負う 6 争点 6( 原告に生じた損害 ) について (1) 慰謝料本件記事は, 全国的に販売される月刊誌に掲載されたものであり, それによる影響は大きいというべきである また, 本件記事の内容は, 精神科医が専門的知見に基づいて原告を自己顕示欲型精神病質者あるいは演技性人格障害と分析したというものであるから, 原告の政治家としての資質, 能力に対する社会的評価を低下させる程度は小さいとはいえない 他方で, 原告は, 当時大阪府知事の公職にあり, 選挙によって選出される地方公共団体の首長 ( 政治家 ) として, その資質, 能力に関わる言動が社会の批判にさらされることもある程度容認すべき地位にあったこと, その他, 本件に顕れた一切の事情を総合して勘案すると, 被告らが本件記事を執筆又は本件雑誌を販売して原告の名誉を毀損したことにより原告が被った精神的苦痛を慰謝するための金額としては,100 万円をもって相当と認める (2) 弁護士費用原告は, 本件訴訟を追行するために弁護士に委任しているところ, 弁護士費用のうち被告らによる上記不法行為と相当因果関係を有する損害は,10 万円と認めるのが相当である 7 まとめ以上によれば, 原告の被告らに対する請求は, 不法行為に基づく損害賠償 ( 慰謝料 ) として110 万円及びこれに対する不法行為の日である平成 23 年 10 月 18 日から支払済みまで民法所定の年 5 分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があり, その余の請求は, いずれも理由がない 第 4 結論以上の次第で, 原告の被告らに対する請求は, 上記の限度で理由があるから, その限度でこれを認容し, その余の請求は理由がないから, これをいずれも棄 17

却することとして, 主文のとおり判決する 大阪地方裁判所第 24 民事部 裁判長裁判官増森珠美 裁判官松阿彌隆 裁判官秋田康博 18