原告は, 昭和 33 年 12 月 6 日生まれ ( 本件手術当時 24 歳 ) の男性である 被告 B 市は, 被告病院を開設し, これを運営している ア原告は, 被告病院を受診して十二指腸潰瘍との診断を受け, 昭和 58 年 9 月 2 9 日, 被告病院において, 本件手術を受けた ( 甲 A

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事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

最高裁○○第000100号

最高裁○○第000100号

平成 29 年 2 月 20 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 28 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 29 年 2 月 7 日 判 決 原 告 マイクロソフトコーポレーション 同訴訟代理人弁護士 村 本 武 志 同 櫛 田 博 之 被 告 P1 主 文

平成 27 年 2 月までに, 第 1 審原告に対し, 労働者災害補償保険法 ( 以下 労災保険法 という ) に基づく給付 ( 以下 労災保険給付 という ) として, 療養補償給付, 休業補償給付及び障害補償給付を行った このことから, 本件事故に係る第 1 審原告の第 1 審被告に対する自賠法

平成 28 年 4 月 21 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 27 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 28 年 2 月 25 日 判 決 原告株式会社 C A 同訴訟代理人弁護士 竹 村 公 利 佐 藤 裕 紀 岡 本 順 一 石 塚 司 塚 松 卓

求めるなどしている事案である 2 原審の確定した事実関係の概要等は, 次のとおりである (1) 上告人は, 不動産賃貸業等を目的とする株式会社であり, 被上告会社は, 総合コンサルティング業等を目的とする会社である 被上告人 Y 3 は, 平成 19 年当時, パソコンの解体業務の受託等を目的とする

控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

被告に対し, 著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として損害額の内金 800 万円及びこれに対する不法行為の後の日又は不法行為の日である平成 26 年 1 月 日から支払済みまで年 % の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である 1 判断の基礎となる事実 ( 当事者間に争いのない事実又は後掲の各

平成  年(オ)第  号

平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

情報の開示を求める事案である 1 前提となる事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) 当事者 ア原告は, 国内及び海外向けのモバイルゲームサービスの提供等を業とす る株式会社である ( 甲 1の2) イ被告は, 電気通信事業を営む株式会社である

上陸不許可処分取消し請求事件 平成21年7月24日 事件番号:平成21(行ウ)123 東京地方裁判所 民事第38部

並びにそのコンサルタント業務等を営む株式会社である ⑵ 株式会社 CAは, 別紙著作物目録記載 1ないし3の映像作品 ( 以下 本件著作物 1 などといい, 併せて 本件各著作物 という ) の製作に発意と責任を有する映画製作者 ( 著作権法 2 条 1 項 号 ) であるところ, 本件各著作物の著

平成 30 年 10 月 26 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 9 月 28 日 判 決 5 原告 X 同訴訟代理人弁護士 上 岡 弘 明 被 告 G M O ペパボ株式会社 同訴訟代理人弁護士

平成 30 年 ( 受 ) 第 269 号損害賠償請求事件 平成 31 年 3 月 12 日第三小法廷判決 主 文 原判決中, 上告人敗訴部分を破棄する 前項の部分につき, 被上告人らの控訴を棄却する 控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする 理 由 上告代理人成田茂ほかの上告受理申立て理由第

た損害賠償金 2 0 万円及びこれに対する遅延損害金 6 3 万 9 円の合計 3 3 万 9 6 円 ( 以下 本件損害賠償金 J という ) を支払 った エなお, 明和地所は, 平成 2 0 年 5 月 1 6 日, 国立市に対し, 本件損害賠償 金と同額の 3 3 万 9 6 円の寄附 (

1 前提となる事実等 ( 証拠の摘示のない事実は, 争いのない事実又は弁論の全趣旨から容易に認められる事実である ) (1) 当事者原告は, X1 の名称を使用してウエブサイトの制作請負を行っている者であり, 被告は, 不動産業を主な業務としている特例有限会社である (2) 原告によるプログラムの制

ものであった また, 本件規則には, 貸付けの要件として, 当該資金の借入れにつき漁業協同組合の理事会において議決されていることが定められていた (3) 東洋町公告式条例 ( 昭和 34 年東洋町条例第 1 号 )3 条,2 条 2 項には, 規則の公布は, 同条例の定める7か所の掲示場に掲示して行

(1) 本件は, 歯科医師らによる自主学習グループであり, WDSC の表示を使用して歯科治療技術の勉強会を主催する活動等を行っている法人格なき社団である控訴人が, 被控訴人が企画, 編集した本件雑誌中に掲載された本件各記事において WDSC の表示を一審被告 A( 以下, 一審被告 A という )

年 10 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 3 被控訴人 Y1 は, 控訴人に対し,100 万円及びこれに対する平成 24 年 1 0 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 4 被控訴人有限会社シーエムシー リサーチ ( 以下 被控訴人リサーチ

1 本件は, 別紙 2 著作物目録記載の映画の著作物 ( 以下 本件著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 以下 本件投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェブサイト FC2 動画 ( 以下 本件サイト という )

達したときに消滅する旨を定めている ( 附則 10 条 ) (3) ア法 43 条 1 項は, 老齢厚生年金の額は, 被保険者であった全期間の平均標準報酬額の所定の割合に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて算出された額とする旨を定めているところ, 男子であって昭和 16 年 4 月 2 日から同

従業員 Aは, 平成 21 年から平成 22 年にかけて, 発注会社の課長の職にあり, 上記事業場内にある発注会社の事務所等で就労していた (2) 上告人は, 自社とその子会社である発注会社及び勤務先会社等とでグループ会社 ( 以下 本件グループ会社 という ) を構成する株式会社であり, 法令等の

丙は 平成 12 年 7 月 27 日に死亡し 同人の相続が開始した ( 以下 この相続を 本件相続 という ) 本件相続に係る共同相続人は 原告ら及び丁の3 名である (3) 相続税の申告原告らは 法定の申告期限内に 武蔵府中税務署長に対し 相続税法 ( 平成 15 年法律第 8 号による改正前の

平成 30 年 3 月 29 日判決言渡同日原本受領裁判所書記官 平成 28 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 3 月 9 日 判 決 5 原告株式会社フィールドアロー 同訴訟代理人弁護士 青 山 友 和 被 告 ソ メ ヤ 株 式 会 社 同訴訟代理

被告は,A 大学 C 学部英語専攻の学生である (2) 本件投稿等被告は, 大学 2 年生として受講していた平成 26 年 4 月 14 日の 言語学の基礎 の初回講義 ( 以下 本件講義 という ) において, 原告が 阪神タイガースがリーグ優勝した場合は, 恩赦を発令する また日本シリーズを制覇

応して 本件著作物 1 などといい, 併せて 本件各著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 後述する本件各動画の番号に対応して, 本件投稿者 1 などといい, 併せて 本件各投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェ

日から支払済みまで年 分の割合による金員を支払え 第 2 事案の概要本件は, 歯科医師らによる自主学習グループであり, WDSC の表示を使用して歯科治療技術の勉強会を主催する活動等を行っている法人格なき社団であ る原告が, 被告株式会社シーエム ( 以下 被告シーエム という ) が企画, 編集

( 事案の全体像は複数当事者による複数事件で ついての慰謝料 30 万円 あり非常に複雑であるため 仮差押えに関する部 3 本件損害賠償請求訴訟の弁護士報酬 分を抜粋した なお 仮差押えの被保全債権の額 70 万円 は 1 億円程度と思われるが 担保の額は不明であ を認容した る ) なお 仮差押え

次のように補正するほかは, 原判決の事実及び理由中の第 2に記載のとおりであるから, これを引用する 1 原判決 3 頁 20 行目の次に行を改めて次のように加える 原審は, 控訴人の請求をいずれも理由がないとして棄却した これに対し, 控訴人が控訴をした 2 原判決 11 頁 5 行目から6 行目

併等の前後を通じて 上告人ら という 同様に, 上告人 X1 銀行についても, 合併等の前後を通じて 上告人 X1 銀行 という ) との間で, 上告人らを債券の管理会社として, また, 本件第 5 回債券から本件第 7 回債券までにつき上告人 X1 銀行との間で, 同上告人を債券の管理会社として,

平成 28 年 4 月 28 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 27 年 ( ワ ) 第 号損害賠償等請求事件 口頭弁論終結日平成 28 年 3 月 22 日 判 決 原 告 A 同訴訟代理人弁護士 松 村 光 晃 中 村 秀 一 屋 宮 昇 太 被告株式会社朝日新聞社 同訴訟代

平成  年(オ)第  号

民事訴訟法

7 という ) が定める場合に該当しないとして却下処分 ( 以下 本件処分 という ) を受けたため, 被控訴人に対し, 厚年法施行令 3 条の12の7が上記改定請求の期間を第 1 号改定者及び第 2 号改定者の一方が死亡した日から起算して1 月以内に限定しているのは, 厚年法 78 条の12による

13 条,14 条 1 項に違反するものとはいえない このように解すべきことは, 当裁判所の判例 ( 最高裁昭和 28 年 ( オ ) 第 389 号同 30 年 7 月 20 日大法廷判決 民集 9 巻 9 号 1122 頁, 最高裁昭和 37 年 ( オ ) 第 1472 号同 39 年 5 月

同目録記載の番号により 本件著作物 1, 本件著作物 2 といい, 本件著作物 1 及び本件著作物 2を併せて 本件各著作物 という ) の著作権を有する株式会社 CAを吸収合併し, 同社の権利義務を承継したところ, 被告が本件各著作物のデータを動画共有サイトのサーバー上にアップロードした行為が公衆

(2) 訴訟費用は 被告らの負担とする 2 被告国 (1) 本案前の答弁ア原告の被告国に対する訴えを却下する イ上記訴えに係る訴訟費用は 原告の負担とする (2) 被告国は 本案について 原告の被告国に対する請求を棄却する旨の裁判を求めるものと解する 3 被告 Y1 市 (1) 本案前の答弁ア原告の

最高裁○○第000100号

に表現したものということはできない イ原告キャッチフレーズ1は, 音楽を聞くように英語を聞き流すだけ/ 英語がどんどん好きになる というものであり,17 文字の第 1 文と12 文字の第 2 文からなるものであるが, いずれもありふれた言葉の組合せであり, それぞれの文章を単独で見ても,2 文の組合

1 項で, 道府県知事は, 固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については, 当該価格により当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとする旨を定め, 同条 2 項で, 道府県知事は, 固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産又は当該固定資産

により容易に認められる事実 ) (1) 当事者等ア原告は,Aの子である イ Aは, 大正 年 月 日生まれの男性であり, 厚生年金保険の被保険者であったが, 平成 年 月 日, 死亡した ( 甲 1) (2) 老齢通算年金の受給 Aは, 昭和 年 月に60 歳に達し, 国民年金の納付済期間である18

政令で定める障害の程度に該当するものであるときは, その者の請求に基づき, 公害健康被害認定審査会の意見を聴いて, その障害の程度に応じた支給をする旨を定めている (2) 公健法 13 条 1 項は, 補償給付を受けることができる者に対し, 同一の事由について, 損害の塡補がされた場合 ( 同法 1

0A8D6C A49256C A0

原告は, 被告に対し, 万円及びこれに対する平成 29 年 3 月 1 日から支払済みまで年 分の割合による金員を支払え 第 2 事案の概要本件は,1 原告が, 自らの作成に係る別紙 1( 甲 12の1 以下 本件本体部 分 という ) 及び別紙 2( 甲 12 の 2 以下 本件ライブラリ部分 と

原告が著作権を有し又はその肖像が写った写真を複製するなどして不特定多数に送信したものであるから, 同行為により原告の著作権 ( 複製権及び公衆送信権 ) 及び肖像権が侵害されたことは明らかであると主張して, 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 ( 以下 プ ロ

第 2 事案の概要本件は, 原告が, 被告に対し, 氏名不詳者が被告の提供するインターネット接続サービスを利用して, インターネット上の動画共有サイトに原告が著作権を有する動画のデータをアップロードした行為により原告の公衆送信権 ( 著作権法 23 条 1 項 ) が侵害されたと主張して, 特定電気

指定商品とする書換登録がされたものである ( 甲 15,17) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 21 年 4 月 21 日, 本件商標がその指定商品について, 継続して3 年以上日本国内において商標権者, 専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないことをもって, 不使用に

なお, 基本事件被告に対し, 訴状や上記移送決定の送達はされていない 2 関係法令の定め (1) 道路法ア道路管理者は, 他の工事又は他の行為により必要を生じた道路に関する工事又は道路の維持の費用については, その必要を生じた限度において, 他の工事又は他の行為につき費用を負担する者にその全部又は一

定している (2) 通達等の定めア 生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について ( 昭和 29 年社発第 382 号厚生省社会局長通知 以下 昭和 29 年通知 という 乙 1) は, 一項本文において, 生活保護法第 1 条により, 外国人は法の適用対象とならないのであるが, 当分の間,

平成 31 年 1 月 29 日判決言渡平成 30 年 ( ネ ) 第 号商標権侵害行為差止等請求控訴事件 ( 原審東京地方裁判所平成 29 年 ( ワ ) 第 号 ) 口頭弁論終結日平成 30 年 12 月 5 日 判 決 控訴人 ジー エス エフ ケー シ ー ピー株式会

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平成年月日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

民法 ( 債権関係 ) の改正における経過措置に関して 現段階で検討中の基本的な方針 及び経過措置案の骨子は 概ね以下のとおりである ( 定型約款に関するものを除く ) 第 1 民法総則 ( 時効を除く ) の規定の改正に関する経過措置 民法総則 ( 時効を除く ) における改正後の規定 ( 部会資

判決【】

権 ) を侵害するとともに, 原告をプロデューサーとして表示しない点及び劇場用映画として制作された本件映画をインターネットで公表する点において, 本件映画につき原告が有する著作者人格権 ( 氏名表示権及び公表権 ) を侵害する行為であり, 被告が今後本件映画を上映, 複製, 公衆送信若しくは送信可能

職選挙法等の改正により一部改められたものの,1 人別枠方式は維持されたまま, 衆議院が解散され, 選挙区割りの未了を理由に, 従前の選挙区割りに基づいて本件選挙を施行するものとされたことにより, 投票価値の平等が害されたまま投票を行わざるを得ないという重大な損害を被ることとなったのであり, 憲法違反

<4D F736F F D2094DB944690BF8B818C8892E BC96BC8F88979D8DCF82DD816A2E646F63>

平成20年7月11日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官

き本件営業秘密の使用又は開示の差止め及び物件の廃棄を求めるとともに ( 以下, これらの請求を併せて 差止請求等 という ),(2) 被告が本件営業秘密を持ち出した行為は原告と被告の間の秘密保持契約にも違反し, これにより原告は損害を被ったと主張して, 同法 4 条又は債務不履行に基づき 1136

( 一 ) 被告は 建築土木の設計施工管理及び請負並びに資材販売業 及び 不動産の売買業 等を目的とする会社であり 原告らは 同社から昭和六三年一月頃別紙物件目録記載の分譲マンション ( 以下 本件マンション という ) を約二〇〇〇万円にてそれぞれ購入し 同年八月頃それぞれ引渡しを受けた ( 二

ア原告は, 平成 26 年 12 月 26 日に設立された, 電気機械器具の研究及び開発等を目的とする株式会社である イ合併前会社ワイラン インクは, 平成 4 年 (1992 年 ) に設立された, カナダ法人である 同社は, 平成 29 年 (2017 年 )6 月 1 日付けで, 他のカナダ法

第 2 事案の概要本件は, レコード製作会社である原告らが, 自らの製作に係るレコードについて送信可能化権を有するところ, 氏名不詳者において, 当該レコードに収録された楽曲を無断で複製してコンピュータ内の記録媒体に記録 蔵置し, イン ターネット接続プロバイダ事業を行っている被告の提供するインター

平成 30 年 6 月 15 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 5939 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 5 月 9 日 判 決 5 当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり 主 文 1 被告は, 別紙対象目録の 原告 欄記載の各原告に対し,

597389E0D83E1B B C5

(1) 原判決中, 被控訴人敗訴部分を取り消す (2) 上記取消しにかかる控訴人の請求を棄却する (3) 本件控訴を棄却する (4) 訴訟費用は第 1,2 審とも控訴人の負担とする 第 2 事案の概要 1 本件は, 被控訴人が所有し, 一審相被告 A( 以下 A という ) が運転する普通貨物自動車

( 以下 プロバイダ責任制限法 という )4 条 1 項に基づき, 被告が保有する発信者情報の開示を求める事案である 1 前提事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) (1) 当事者 原告は, 肩書地に居住する者である ( 甲 1) 被告は,

主 文 1 本件控訴をいずれも棄却する 2 控訴費用は, 控訴人らの負担とする 事実及び理由 第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人 P3 及び被控訴人会社は, 大阪府内, 兵庫県内, 京都府内, 滋賀県内及び和歌山県内において, 千鳥屋という名称を使用して菓子類を販売してはならない

平成22年5月12日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成23年12月17日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

同訴訟代理人弁護士同同同同同同同同同同同 三好徹石田央子津田直和井川真由美鶴﨑有一石井修平山崎哲内田尚成前田香織本田雄巳黒木義隆籔之内千賀子 主文 1 控訴人の本件控訴を棄却する 2(1) 被控訴人の附帯控訴に基づき 原判決主文 1 2 項を次のとおり変更する (2) 控訴人は 被控訴人に対し 78

とは, 原告に対する名誉毀損に該当するものであると主張して, 不法行為に基づき400 万円の損害賠償及びこれに対する不法行為日以降の日である平成 24 年 9 月 29 日から支払済みまで民法所定の年 5 分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である 1 前提事実 ( 当事者間に争いがないか,

〔問 1〕 Aは自己所有の建物をBに賃貸した

平成  年(あ)第  号

に憲法 14 条及び84 条に反する重大かつ明白な違法があり, 同処分は無効であるから, 納税は法律上の原因がないとして, 民法 703 条に基づいて, 納税額合計 147 万 2600 円及びこれに対する訴状送達の日の翌日 ( 平成 23 年 2 月 10 日 ) から支払済みまで上記割合による遅

11総法不審第120号

C22F0BA51DCC54F549256FCC002CACF

4 年 7 月 31 日に登録出願され, 第 42 類 電子計算機のプログラムの設計 作成 又は保守 ( 以下 本件役務 という ) を含む商標登録原簿に記載の役務を指定役 務として, 平成 9 年 5 月 9 日に設定登録されたものである ( 甲 1,2) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平

97ECE912DA2761F849256B5A000E7AE

期分本税 831 万 1900 円の合計 以下 本件租税債権 という ) (3) 東京国税局国税徴収官 B( 以下 B 徴収官 という ) は 同局特別国税徴収官 C( 以下 C 特官 という ) の決定に基づき 平成 20 年 3 月 6 日 原告がA 証券に対して有していた本件証拠金の返還請求権

して, 損害賠償金 330 万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成 28 年 月 21 日 ( 原告が被告に本件請求の通知を送付した日の翌日 ) から支払済みまで民法所定の年 分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である 1 前提事実 ( 当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨により容

7265BB4891EFF48E A000659A

法第 20 条は, 有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合, その相違は, 職務の内容 ( 労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう 以下同じ ), 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して, 有期契約労働者にとって不合

平成 23 年 10 月 20 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 23 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 23 年 9 月 29 日 判 決 原 告 X 同訴訟代理人弁護士 佐 藤 興 治 郎 金 成 有 祐 被 告 Y 同訴訟代理人弁理士 須 田 篤

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裁判年月日 平成 20 年 11 月 27 日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決 事件番号 平 20( ワ )9871 号 事件名 管理費等請求事件 裁判結果 認容 文献番号 2008WLJPCA 東京都足立区 以下省略 原告上記代表者理事長上記訴訟代理人弁護士同同東京都世田谷区

する 理 由 第 1 事案の概要 1 本件は, 平成 21 年 ( 受 ) 第 602 号被上告人 同第 603 号上告人 ( 以下 1 審原告 X1 という ) 及び平成 21 年 ( 受 ) 第 603 号上告人 ( 以下 1 審原告 X 2 といい,1 審原告 X 1と1 審原告 X 2を併せ

平成 25 年 3 月 25 日判決言渡 平成 24 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 2 月 25 日 判 決 原 告 株式会社ノバレーゼ 訴訟代理人弁理士 橘 和 之 被 告 常磐興産株式会社 訴訟代理人弁護士 工 藤 舜 達 同 前 川 紀 光

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という ) 開始に係る各相続税 ( 以下 本件各相続税 という ) の申告をしたところ, 処分行政庁から本件各相続税の各更正及びこれらに係る重加算税の各賦課決定を受け, 裁決行政庁からこれらに係る原告らの審査請求を却下する旨の各裁決を受けたのに対し, 上記各更正のうち原告らが主張する納付すべき税額を

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1を原告 Aの負担とし, 原告 A 以外の原告らに生じた各費用の5 分の4と被告に生じた費用の3 分の2を被告の負担とし, その余を原告 A 以外の原告らの負担とする 4 この判決は, 第 1 項 ~に限り, 仮に執行することができる 事実及び理由 第 1 請求 被告は, 原告 A に対し,158

2006 年度 民事執行 保全法講義 第 4 回 関西大学法学部教授栗田隆

2 被控訴人らは, 控訴人に対し, 連帯して,1000 万円及びこれに対する平成 27 年 9 月 12 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 第 2 事案の概要 ( 以下, 略称及び略称の意味は, 特に断らない限り, 原判決に従う ) 1 本件は, 本件意匠の意匠権者である控訴人が

事実及び理由 第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人は, 原判決別紙被告方法目録記載のサービスを実施してはならない 3 被控訴人は, 前項のサービスのために用いる電話番号使用状況調査用コンピュータ及び電話番号使用状況履歴データが記録された記録媒体 ( マスター記録媒体及びマスター記録

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の上記アの期間に係る標準報酬月額を44 万円に訂正する必要がある旨のあっせんをした ( 甲 1の18ないし21 頁, 丙 4) (2) Aの標準報酬月額の決定等ア厚生年金保険法 ( 平成 24 年法律第 62 号による改正前のもの 以下 厚年法 という )100 条の4 第 1 項 3 号及び4 号

 

Unit1 権利能力等, 制限行為能力者 ( 未成年 ) 1 未成年者が婚姻をしたときは, その未成年者は, 婚姻後にした法律行為を未成年であることを理由として取り消すことはできない (H エ ) 2 未成年者が法定代理人の同意を得ないで贈与を受けた場合において, その贈与契約が負担付の

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平成 24 年 5 月 9 日判決言渡 平成 22 年 ( ワ ) 第 18806 号損害賠償請求事件 判 主 決 文 1 被告は, 原告に対し,1102 万 5186 円及びこれに対する平成 22 年 6 月 3 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 2 原告のその余の請求を棄却する 3 訴訟費用は, これを10 分し, その9を原告の負担とし, その余は被告の負担とする 4 この判決は, 第 1 項に限り, 仮に執行することができる 事実及び理由第 1 請求被告は, 原告に対し,1 億 2379 万 5923 円及びこれに対する昭和 58 年 9 月 2 9 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 第 2 事案の概要本件は, 被告の開設するA 病院 ( 以下 被告病院 という ) において十二指腸潰瘍の治療のため胃を切除する手術 ( 胃切除 BillrothI 法 以下 本件手術 という ) を受けた原告が, 被告病院の医師らが本件手術の際に腹腔内にタオルを残置したこと ( 以下, これを 本件事故 という ) により上記タオル摘出までの約 25 年間下痢等の症状に悩まされ続けたなどと主張して, 被告に対し, 不法行為又は診療契約上の債務不履行に基づき診療費, 逸失利益, 慰謝料, 弁護士費用等合計 1 億 2379 万 5923 円及びこれに対する本件手術の日である昭和 58 年 9 月 29 日 ( 予備的に訴状送達の日である平成 22 年 6 月 2 日 ) から支払済みまで民法所定の年 5 分の割合による遅延損害金の支払を求める事案 ( 一部請求 ) である 1 前提事実 ( 争いのない事実並びに証拠 [] 内は当該証拠の関係頁である 及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実 ) 1

原告は, 昭和 33 年 12 月 6 日生まれ ( 本件手術当時 24 歳 ) の男性である 被告 B 市は, 被告病院を開設し, これを運営している ア原告は, 被告病院を受診して十二指腸潰瘍との診断を受け, 昭和 58 年 9 月 2 9 日, 被告病院において, 本件手術を受けた ( 甲 A1) イ原告は, 平成 20 年 3 月 5 日, 血便の症状を訴えて,C 医院を受診した また, 原告は, 血尿の症状を訴えて, 同年 4 月 7 日,Dクリニックを, 同月 12 日, 同クリニックの紹介でE 病院 ( 泌尿器科, 外科 ) をそれぞれ受診して, 各病院等の医師の診察を受けた ( 甲 A6から8まで ) E 病院の医師は, 腹部 CT 検査の結果に基づき, 脾臓外側に長径約 8cm大の腫瘤が存在すると判断し, 原告に対し, その旨を告げたが, その後, 原告は, 同病院への通院を中止した ( 甲 A8[4], 甲 A9[2]) ウ原告は, 平成 20 年 5 月 8 日,F 病院を受診し, 左横隔膜下に脾臓に接する長径約 8cm大の腫瘤が存在するとの診断を受け, 同月 9 日, 同病院に入院し, 同月 26 日, 上記腫瘤及び脾臓を摘出する手術を受けた F 病院の医師は, 上記手術において, 脾臓の背側にタオル ( 約 36cm 25cm 以下 本件タオル という ) が存在すること, そして, これが脾臓と高度に癒着し, 横隔膜 ( 食道裂孔部 ) 及び胃とも癒着していることを確認し, 本件タオルを摘出するとともに, 脾臓を摘出した ( 以下, これを 本件摘出手術 という ) 原告は, 同年 6 月 21 日,F 病院を退院した ( 甲 A3,4, 甲 A5[13,19], 甲 A11) エ原告は, 本件手術当時,G 株式会社 (H 製鉄所 ) で, 軽量 H 形鋼の製造ラインのオペレーターとして稼働していたが, 昭和 62 年 12 月, 退社した また, 原告は,1 平成 2 年 12 月,I 株式会社に入社し長距離トラックの運転手として稼働していたが, 平成 3 年 12 月, 退社し,2 平成 4 年 1 月, 株式会社 Jに入社しトラックの運転手として稼働していたが, 同年 7 月, 退社し,3 平成 6 年 2 月, 有限会社 Kに入社しクレーンのオペレーターとして稼働していたが, 同年 10 月, 退社し, 2

4 平成 19 年 9 月, 株式会社 Lに入社しトレーラーの運転手として稼働していたが, 同年 10 月, 退社し,5 同年 11 月, 人材派遣会社である株式会社 Mに入社しN 株式会社 (O 工場 ) に派遣されて稼働していたが, 平成 20 年 10 月 10 日 ( 本件摘出手術後 ), 解雇された オ原告は, 平成 22 年 5 月 21 日, 本件訴訟を提起した 2 当事者の主張 責任原因について ( 原告の主張 ) 被告病院の医師らは, 本件手術の際, 原告の腹腔内に手術器具等を残置することのないよう, 術前, 術後に上記器具等の種類及び数量を確認する義務を負うにもかかわらず, これを怠り, 原告の腹腔内に本件タオルを残置した 被告は, 不法行為に基づく損害賠償義務を負うとともに, 診療契約上の債務不履行に基づく損害賠償義務を負う ( 被告の主張 ) 争う 損害について ( 原告の主張 ) ア原告は, 本件事故により, 次のとおりの損害を被った 診療費等 ⅰ Dクリニック ⅱ E 病院 ( 薬剤費を含む ) ⅲ F 病院 ⅳ 呼吸訓練器購入費用 逸失利益 ⅰ 本件摘出手術前 3 万 8890 円 1200 円 1 万 0940 円 2 万 3600 円 3150 円 9250 万 2859 円 7554 万 3596 円 原告は, 本件事故により, 日常的に下痢の症状が出現するようになって就労が困難と 3

なり, 更に, 昭和 59 年頃からは血便及び血尿の症状が, 平成元年頃からは嘔吐の症状が出現するようになった 上記の症状は, 後遺障害別等級表の第 7 級 5 号 ( 胸腹部臓器の機能に障害を残し, 軽易な労役以外の労役に服することができないもの ) に準ずるもので, その労働能力喪失率は56%, 労働能力喪失期間は25 年 ( 昭和 58 年から平成 20 年まで ) であるし, 原告の本件手術当時の年収は370 万円であり, 各年 3% の割合で増加する予定であったから, 上記期間における逸失利益は7554 万 3596 円となる ⅱ 本件摘出手術後 1695 万 9263 円 原告は, 本件摘出手術により脾臓を摘出されたほか ( 後遺障害別等級表の第 8 級 ), 本件事故を知って衝撃を受け, 全身に倦怠感が出現した 原告の労働能力喪失率は20%, 労働能力喪失期間は17 年であるから, その逸失利益は1695 万 9263 円 (752 万 1338 円 原告の年収が各年 3% の割合で増加した場合の金額 11.2741 17 年に対応するライプニッツ係数 0.20 労働能力喪失率 ) となる 慰謝料 ⅰ 本件摘出手術前 3000 万円 1500 万円 原告は, 被告病院の医師らの初歩的な過誤により, 腹腔内に本件タオルを残置され, 25 年もの間, 下痢等の症状に悩まされ続けたのであって, その慰謝料は 1500 万円 を下らない ⅱ 本件摘出手術及び同手術後 1500 万円 原告は, 本件事故により, 腹腔内に長径約 8cm大の腫瘤があると診断され, 死も覚悟せざるを得ない状況にまで追い詰められた上, 本来必要のない開腹手術 ( 本件摘出手術 ) を受けて脾臓を摘出され, 術後, 全身に倦怠感が出現し, 日常生活, 就労等にも制約が生じているのであって, その慰謝料は1500 万円を下らない 弁護士費用 1225 万 4174 円 イ被告は,1 原告が下痢及び嘔吐の症状を訴えて医療機関を受診していないこと, 4

その体重が減少していないこと, そして, 残置された本件タオルの位置や癒着状況に照らすと, 原告に下痢, 嘔吐, 血便及び血尿の症状が出現したとはいえない,2 仮に出現していたとしても, これは本件事故によるものではない旨の主張をする しかしながら, 原告は, 被告病院の医師らから術後に下痢の症状が出現する旨の説明を受けていたことから, 上記症状は本件手術によるものと考えて医療機関を受診しなかったのであるし, 体重の増減には種々の要因が関係するのであって, その推移から下痢等の症状の出現を否定することはできない また,1 本件タオルは, 脾臓の背側に位置し, 脾臓のみならず, 横隔膜 ( 食道穿孔部 ), 大網, 腹膜, 腎臓上極等とも癒着していたこと,2 本件タオルにより, 脾臓と接する消化管が腹腔中心側 ( 脊椎側 ) に圧排されていたこと,3 本件タオルにより, 間接的に空腸も圧迫されていたこと,4 本件摘出手術後, 原告に下痢, 嘔吐, 血便及び血尿の症状は出現していないことからすると, これらは, 本件タオルによる刺激や異物反応, 本件タオルと臓器等との高度の癒着による器質化又は瘢痕形成によるものというべきである ( 被告の主張 ) ア 1 原告の本件手術当時の体重は60kgであり, 本件摘出手術前のそれは 65kgであること,2 F 病院において, 原告に下痢及び嘔吐の症状は確認されていないこと,3 原告が,C 医院,Dクリニック,E 病院及びF 病院 ( 以下, 併せて C 医院等 という ) において, 下痢及び嘔吐の症状を訴えていないこと,4 原告が,C 医院等以外の医療機関を受診したことがないこと,5 原告が大量の飲酒をし, 喫煙をしていたことなどからすると, 本件手術後, 原告に下痢等の症状が出現していたとはいえない また,1 本件タオルによる消化管の圧迫はなく, 本件タオルと大網, 大腸, 空腸, 結腸等との癒着もないこと,2 本件タオルは腎臓 ( 左腎臓 ) に接していないこと,3 胃との癒着部分に瘢痕化は生じていないこと,4 F 病院での大腸内視鏡検査において, 大腸粘膜の異常は確認されていないこと,5 本件タオルは, 本来, 術中における臓器 5

の緊張を緩和しその損傷を回避するためのもので, 消化管を圧迫するものではないことからすると, 血便及び血尿の症状が出現していたとはいえない 仮に上記の症状が出現していたとしても, これは胃切除 ( 本件手術 ) 後の腸管運動機能の異常亢進, 大量の飲酒, 喫煙等によるもので, 本件事故との間に相当因果関係はない イ脾臓を摘出したからといって, 労働能力に何らかの影響が生ずるわけではない また, 本件摘出手術後, 原告の全身に倦怠感が出現したともいえない 過失相殺について ( 被告の主張 ) 仮に下痢等の症状が出現していたとしても, 原告が医療機関を受診していれば, 本件タオルは容易に発見されていたといえる 医療機関を受診しなかった原告の落ち度は極めて大きく,8 割以上の過失相殺をすべきである ( 原告の主張 ) 争う 除斥期間, 時効について ( 被告の主張 ) 不法行為に基づく損害賠償請求権については, 除斥期間が経過している また, 債務不履行に基づく損害賠償請求権は, 本件手術時から10 年を経過することにより時効消滅した 被告は, この消滅時効を援用する旨の意思表示をする ( 原告の主張 ) 除斥期間の起算点は, 損害が発生した時 ( 原告が腹腔内に腫瘤が存在する旨の診断を受けた平成 20 年 4 月又は本件摘出手術を受けた同年 5 月 26 日以降 ) である 仮にそうでないとしても, 被告病院の医師らは, 本件タオルを残置したままこれを摘出しなかったのであって, 本件摘出手術時までその加害行為は継続していたというべきであり, その起算点は, これが摘出された日 ( 本件摘出手術の日 ) の翌日 ( 同月 27 日 ) である また, 債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点は, 損害が発生した時 6

( 平成 20 年 4 月又は同年 5 月 26 日以降 ) である 第 3 当裁判所の判断 1 責任原因について原告の脾臓の背側に本件タオルが存在し, これが脾臓と高度に癒着し, 横隔膜 ( 食道裂孔部 ) 及び胃とも癒着していたことは, 前記前提事実のとおりである そして, 証拠 ( 甲 A12, 原告本人 ) 及び弁論の全趣旨によれば, 原告は, 本件摘出手術前, 本件手術以外に開腹手術を受けたことがないことが認められ, 本件タオルは, 本件手術の際, 原告の腹腔内に残置されたものと推認される 開腹手術を実施する医師は, 当該手術に使用する器具等の種類及び数量を術前, 術後に確認するなどして, これらを患者の腹腔内に残置しないようにする注意義務を負うところ, 被告病院の医師らが, 本件手術の際, 原告の腹腔内に本件タオルを残置したことは上記のとおりであって, 上記医師らには注意義務違反があったといわざるを得ない 2 損害について 診療費等証拠 ( 甲 A3[54], 甲 C2から4まで ) 及び弁論の全趣旨によれば,1 原告は, E 病院 ( 外科 ) を受診して, 腹部 CT 検査を受け, その検査料等として3410 円の支払をしたこと,2 原告は, 平成 20 年 5 月 8 日以降,F 病院に入通院し, 診療費等として合計 2 万 3600 円の支払をし, また, 術前, 術後に使用する呼吸訓練器 ( インスピレックス ) を代金 3150 円で購入したことが認められる ( 以上合計 3 万 0160 円 ) なお, 証拠 ( 甲 C1,2,5) によれば, 原告は,Dクリニック及びE 病院 ( 泌尿器科 ) を受診し, 血尿に係る診療費等 ( 薬剤費を含む ) として合計 8730 円の支払をしたことも認められるが, 後述のとおり, 血尿の症状が本件事故によるものとは認め難く, 上記診療費等を本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない 逸失利益ア本件摘出手術前 7

原告は, 本件事故により, 日常的に下痢の症状が出現するようになって就労が困難になった, また, 昭和 59 年頃からは血便及び血尿の症状が, 平成元年頃からは嘔吐の症状が出現するようになった旨の主張をし,1 被告病院を退院した後, 日常的に下痢の症状が出現するようになり, 平成 19 年 9 月頃以降は1 日に10 回程度下痢の症状が出現したこともあった,2 昭和 59 年頃からは1 年に1,2 回の割合で血便及び血尿の症状が出現するようになり, 平成元年頃からは嘔吐の症状も出現するようになったなどと, これに沿う陳述及び供述をする しかしながら, 掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,1 原告の本件手術当時 ( 被告病院入院時 ) の体重は60kg( 乙 A2[2]), 本件摘出手術前のそれは65kg ( 甲 A3[44]) であり, 本件手術後, 下痢等の症状の出現に伴いその体重が減少した様子は何らうかがわれないこと,2 原告は,C 医院等において, 下痢及び嘔吐の症状を訴えていないこと ( かえって, 原告は, 平成 20 年 3 月 5 日, 血便の症状を訴えてC 医院を受診した際, 同医院の医師に対し, 排便は1 日に1 回である旨の回答をしている 甲 A6 また, 原告は, 腹腔内に腫瘤が存在する旨の診断を受けた後も下痢の症状を訴えていない上, 嘔吐の症状はない旨の回答もしている 甲 A3[2 0,34,49,53,54,93], 甲 A5[8] ),3 原告は, 本件手術から本件摘出手術までの間,C 医院等以外の医療機関を受診していないこと,4 本件タオルは, 脾臓と高度に癒着していたほか, 横隔膜 ( 食道裂孔部 ) 及び胃とも癒着していたものの, 脾臓以外の臓器, 組織等との癒着は, その剥離に特に困難を伴うものではなかったこと, また, 本件タオルと大網, 大腸, 空腸, 結腸等との癒着はなく, 腎臓にも接していなかったこと ( 甲 A4, 乙 B2[9,10]),5 F 病院での大腸内視鏡検査 ( 平成 20 年 5 月 19 日実施 ) において, 大腸粘膜の異常は確認されていないこと ( 甲 A5[24,25]),6 原告は, 胃を切除する手術 ( 本件手術 ) を受けたにもかかわらず, 長年, 暴食, 暴飲を繰り返していたこと ( 甲 A3[50], 甲 A7[1], 乙 A2[12], 原告本人 ) が認められる かかる事情に照らすと,1 平成 20 年 4 月 22 日の腹部 CT 検査の結果において, 8

胃が内側に圧排されていることが確認されたこと ( 甲 A8[4]),2 F 病院の看護記録の生活習慣欄に 便 3 回 / 日下痢 との記載があり, 平成 20 年 5 月 12 日欄に 家では下痢だけどここでは硬め との記載もあること ( 甲 A3[50,54]),3 P 教授 ( 以下 P 教授 という ) 作成の平成 23 年 4 月 22 日付け 私的鑑定書 において, 残置された本件タオルによる消化管への刺激, 周辺組織への炎症の波及, あるいは腎臓への刺激, 炎症の波及により, 下痢等の症状や, 血尿の症状が出現したと考えられるとされていること ( 甲 B3[2]) などを考慮しても, 原告の供述するように20 年以上も前から就労に支障を来すほどの下痢, 嘔吐, 血便及び血尿の症状が出現していたと認めるのは困難であるし, 仮に出現していたとしても, これらの症状を本件事故によるものとまでいうのは困難である (P 教授作成の同年 9 月 21 日付け 私的意見書 においても, 下痢等の症状に原告の食生活やアルコール摂取が複合的な要因の一つとして一定程度関与していた可能性があることは否定されていない 甲 B6[5] ) 以上によれば, 本件摘出手術前につき, 原告が本件事故によりその労働能力の一部を喪失したとまで認めることはできない イ本件摘出手術後原告が本件摘出手術により脾臓を摘出されたことは, 前記前提事実のとおりである そして, 脾臓の摘出により, 小児ほどではないにせよ, 易感染性, 易疲労性が亢進する可能性があることを考慮すると ( 甲 B3[4]), その労働能力喪失率は腹部臓器の機能に障害を残すもの ( 後遺障害別等級表の第 13 級 11 号 ) として9%, 労働能力喪失期間は17 年とするのが相当である なお, 原告は,G 勤務当時の年収が各年 3% の割合で増加した場合の金額である752 万 1338 円を基礎収入額とすべき旨の主張をするが, 原告の当時の年収額やこれが上記の割合で増加することを認めるに足りる証拠はないことから, 賃金センサス平成 20 年男性学歴計 (45 歳から49 歳まで ) 平均賃金である689 万 3900 円を基礎収入額とするのが相当である 以上によれば, 原告の逸失利益は699 万 5026 円 (689 万 3900 円 基礎収入額 11.2741 ライプニッツ係数 0.09 労働能力喪失率 ) となる 9

原告は, 本件摘出手術後, 本件事故による衝撃により, 全身に倦怠感が出現し, 就労が困難になった旨の主張もするが,1 本件摘出手術後の経過は良好であること ( 甲 A 3),2 原告は, 解雇後, 株式会社 Qに入社しコイルの製造ラインのオペレーターとして稼働していること, また, 原告自身, 本件事故による衝撃から立ち直り, 全身の倦怠感も多少改善した旨の陳述をしていること ( 甲 A12),3 原告は, 本件摘出手術前から頚部痛等の神経症状があった旨述べていること ( 甲 A3[55,56]) などからすると, 脾臓の摘出による易疲労性を超えて, 原告の全身に倦怠感が出現したとは認められない 慰謝料前記のとおり,1 被告病院の医師らの過失により, 原告の腹腔内に本件タオルが約 25 年間にわたり残置されたこと ( 本件事故 ),2 原告は, 本件事故により, 平成 2 0 年 5 月 9 日から同年 6 月 21 日まで,F 病院に入院したこと, また, 原告は, 本件事故により, 本来必要ではない本件摘出手術を受け, その際, 脾臓が摘出されるに至ったことが認められる かかる事情に加え, 原告は, 本件摘出手術を受ける際,F 病院の医師から, 腹腔内に巨大な腫瘤がある旨の説明を受け, それ自体により相当の衝撃を受けたと推認されることなど一切の事情をも考慮すると, 原告の本件事故に係る慰謝料は3 00 万円とするのが相当である 弁護士費用本件事案の難易, 審理経過, 請求額及び認容額等を考慮すると, 弁護士費用としては, 100 万円を本件と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である 3 過失相殺について被告は, 本件において過失相殺をすべきである旨の主張をするが, 全証拠によるも過失相殺を相当とする事情はうかがわれず, 被告の上記主張は採用することができない 4 除斥期間, 時効について 民法 724 条後段所定の除斥期間の起算点は, 不法行為の時 と規定されてお 10

り, 加害行為が行われた時に損害が発生する不法行為の場合, 加害行為の時がその起算点となると解するのが相当である ( 最高裁平成 18 年 6 月 16 日第二小法廷判決 民集 60 巻 5 号 1997 頁参照 ) そして, 本件については, 本件事故の日から本件訴訟の提起まで25 年以上が経過しているのであって, 不法行為に基づく損害賠償請求権については除斥期間が経過したというべきである なお, 原告は, 除斥期間の起算点は, 腹腔内に腫瘤が存在する旨の診断を受けた日である平成 20 年 4 月又は同年 5 月 26 日以降, 若しくは加害行為が終了した日 ( 本件摘出手術の日 ) の翌日である同月 27 日である旨の主張をするが, 被告病院の医師らが原告の腹腔内に本件タオルを残置することにより加害行為は終了し直ちに損害が発生することに照らすと, 原告が腹腔内に腫瘤が存在する旨の診断を受けた日や, 本件摘出手術の日が除斥期間の起算点となるとは考えられない 原告の上記主張は, 採用することができない 被告は, 原告の債務不履行に基づく損害賠償請求権につき, 時効により消滅した旨の主張をする しかしながら, 債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効は権利を行使することができる時から進行するところ ( 民法 166 条 1 項 ), ここにいう 権利を行使することができる時 とは, 単にその権利の行使につき法律上の障害がないというだけでなく, 権利の性質上, その権利行使が現実に期待し得ることをも必要と解するのが相当である ( 最高裁昭和 45 年 7 月 15 日大法廷判決 民集 24 巻 7 号 771 頁参照 ) そして, 原告は, 本件摘出手術の実施によって初めて本件タオルの残置を知り, その権利行使を現実に期待し得るようになったのであって, 平成 20 年 5 月 26 日以降において債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効が進行するものと解されるから, 原告が本件訴訟を提起した平成 22 年 5 月 21 日までに消滅時効の期間が経過していないことは明らかである 被告の上記主張は, 採用することができない 5 結論以上によれば, 原告の請求は,1102 万 5186 円及びこれに対する訴状送達の日 11

の翌日である平成 22 年 6 月 3 日から支払済みまで民法所定の年 5 分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるというべきである なお, 仮執行免脱宣言の申立てについては, 相当でないから, これを却下する よって, 主文のとおり判決する 東京地方裁判所民事第 34 部 裁判長裁判官森冨義明 裁判官大澤知子 裁判官西澤健太郎 12