第 4 章 2 項体で感じて楽しむ ( 活動プログラム ) 1 富士山における新たな登山 散策の方向性 山本清龍 *1 櫻井倫 *1 *1 藤原章雄 *1 東京大学大学院農学生命科学研究科助教 キーワード : 富士登山 森林散策 期待 満足 カロリー消費 POMS 環境配慮意識 背景富士登山では登頂や御来光など目的となる行為が頂上付目的近に集中しているため 自然環境への負荷だけでなく混雑などの問題が生じており その問題解決と良好な登山体験の提供が求められている そこで本研究では 1 富士山における登山者の期待と満足 2 富士山における登山や散策の心理的 生理的効果の二点を明らかにし 結果を踏まえて提供すべき登山 散策プログラムの方向性について提案した 表 -1 登山者の期待 研究 1 潜在的な登山者の期待成果 2009 年 1 月の週末 3 日間 静岡県の富士山麓の4つの道の駅において郵送回収式のアンケート調査を実施し 潜在的富士登山者の属性 富士登山に対する期待や登山意向 利用してみたい登山口など意識の把握を行った 結果 734 人から回答を得て 自由記述の解析を通して富士登山に対する期待を5つに分類した ( 表 -1) また 登山口選択と期待の分析結果から 御殿場口を利用したい人では相対的に公園資源の享受に対する期待が多いなど 登山口ごとに期待の内容が異なることが明らかとなった さらに 野趣性 独居性の保持の期待が阻害されると否定的な登山意向につながっており こうした期待を充足させる方策について検討する必要があると考えられた 2 実際の登山者の満足多くの登山者が訪れる 2009 年 8 月の6 日間 主要な4つの登山口において 実際の登山者の属性 満足を把握することを目的とする郵送回収式のアンケート調査を実施した 満足の把握にあたっては 潜在的な登山者の期待から 23 の指標を作成し 満足を各指標の充足度として把握した その結果 富士宮口における景観 風景の期待の充足度が吉田口よりも低いこと 富士宮口と御殿場口では野 図 -1 登山者の期待の充足度 15
趣性 独居性の保持の期待の充足度が須走口 吉田口よりも高いことなどが明らかとなり 登山口ごとに体験の質に差があることが明らかとなった ( 図 -1) また 潜在的登山者と実際の登山者の意識から 混雑を回避しようとする登山者やゆっくり登ることを重視する登山者は 登山道から外れない 植物を傷つけないなどの環境配慮への意識を多く持つことが明らかとなった 3 遊歩道の散策による運動効果図 -2 カロリー消費マップ富士山では五合目周辺の日帰り観光客や登山者など多くの来訪者があるものの 登山口よりも標高の低い場所についてはあまり利用されていないのが現状である たとえば 富士山南麓の自然休養林の中には 12 の散策コースが整備されており 健康志向に応えつつ十分に活用していくことが望まれる そこで 被験者 3 名がコースを歩いたときの心拍の測定等から消費エネルギーを求め 勾配や運動強度 土壌と砂礫のような足元の条件についても検討を加えた 結果から 散策希望者が歩行経路を検討するためのカロリー消費マップを作成した ( 図 -2) 4 森林散策の心理的効果富士山南麓の自然休養林の魅力の一つに針葉樹を主体とする森林がある そこで POMS(Profile of Mood States) を用いて 頭上が樹冠でおおわれていない砂礫地帯を歩くコースと森林地帯を通り抜けるコースの両者の散策の心理的効果について把握を行った その結果 森林のある遊歩道を歩いた場合では 緊張 - 不安 (T-A) と抑うつ- 落ち込み (D) の心理指標が有意に低下した ( 図 -3 4) 提言 1 富士山において良質な自然体験を提供す提案るためには 頂上に集中している来訪者の意識 行動をいかに山麓へ向けてもらうかが重要である 2 潜在的登山者の意識調査から 2 野趣性 独居性の保持の期待が阻害されると否定的な登山意向につな ( 上 ) 図 -3 森林のない遊歩道での散策の効果がることが明らかになっており 利用の集中を避け分 ( 御殿場口新五合目 双子山下 ) 散化することが重要である ( 下 ) 図 -4 森林のある遊歩道での散策の効果 ( 水ヶ塚公園駐車場 御殿庭下 ) 3 頂上を目指さない登山や標高の低い山麓での散策注 )T-A: 緊張 - 不安 D: 抑うつ- 落ち込み A-H: の推進には コースの特性とその魅力を紹介するとと怒り- 敵意 V: 活気 F: 疲労 C: 混乱 T 得点はもに 消費カロリーマップなどの健康志向に合わせた標準化された得点であり 各指標の得点が高いほど指標の状態が強いことを表す 情報の提供が有効である 4 登山者の環境配慮意識から 富士山の環境保全のためには頂上に登るまであるいは登った後の時間の過ごし方が重要であり 目的達成型の登山 散策から時間消費型への転換が重要である 16