15-9-22 OverMillionChallenge 妊娠適齢期 国立成育医療研究センター周産期 母性医療診療センター齊藤英和
当科における平均治療年齢の年次推移 42 41 40 39 38 37 36 35 34 33 41.3 40 40.1 40.2 39.7 39 38.7 38.7 37.9 36.3 初診年齢新鮮胚治療年齢 09 10 11 12 13 西暦 1
妊孕性 ( 妊娠しやすさ ) の知識 ( 国 男女別 ) 日本はトルコの次に知識レベルが低い 設問例 : 加齢による妊孕力の低下 体重増加による妊孕力の低下 タバコ 性感染症など 13の設問 2 Human Reproduction,28:385-397, 2013
平均出生子ども数 2.5 2 1.5 1 0.5 0 妻の結婚年齢別にみた 結婚持続期間別平均出生子ども数どの年代も希望は2.4 人 1.88 2.09 2.08 1.92 1.87 1.62 1.5 1.5 結婚年齢 0.97 1.31 1.16 20-24 0.69 0.66 0.77 25-29 0.38 30-34 35-39 0-4 5-9 10-14 15-19 結婚持続期間 国立社会保障 人口研究所第 14 回出生動向基本調査 3
過去の妊孕性知識と第一子を持った年齢 子供のいる女性 (n = 157) の重回帰分析の結果 過去の知識 なしあり 年齢 1 歳増加ごと パートナーの年齢 1 歳増加ごと 学歴 高卒以下 短大 専門学校 4 年制大学 世帯収入 400 万円未満 400-600 万円 600 万円以上 (2.3 歳若い ) 係数 (95% 信頼区間 ) -2.27 (-3.96, -0.57) 0.86 (0.46, 1.26) -0.26 (-0.42, -0.10) 1.56 (-0.04, 3.16) 1.75 (-0.03, 3.53) 1.12 (-0.54, 2.77) 0.84 (-0.97, 2.64) -4.0 0 4.0 ( 前田恵理 第 59 回日本生殖医学会 ) 4
妊娠出産に適した時期 1. 女性の加齢と妊娠する能力の変化 2. 母体の加齢と妊娠後の合併症 3. 男性の加齢と妊娠する能力の変化 5
(%) 70 60 50 40 30 20 10 0 女性の結婚年齢と生涯不妊率の関係 結婚年齢が高くなると児を持てる確率が減少する 5 9 15 30 64 20-24 25-29 30-34 35-39 40-44 結婚年齢 Menken J et al:science233(4771): 1389-94, 1986 6
女性の妊孕力 ( 妊娠しやすさ ) の年齢による変化 (22 歳を 1 とする ) 年齢 (O Connor et al. Maturitas 30; 127-136,1998) 7
...... (%) 50 40 年齢別にみる排卵と妊娠率の関係 女性年齢 19 26 歳 女性年齢 27 34 歳 女性年齢 35 39 歳 男性と女性が同年齢 男性が女性より 5 歳上 妊娠率 30 20 10 0..... -8-6 -4-2 0 2............. -8-6 -4-2 0 2-8 -6-4 -2 0 2 性交のタイミング性交のタイミング性交のタイミング 女性は 20 代後半よりタイミング (sex) による妊娠率が下がる 男性は 40 歳から 0= 排卵日 (Human Reproduction Vol.17, No.5 pp. 1399-1403, 2002) 8
卵子の数の変化 卵子は排卵しなくてもどんどん減少する 700 胎生期 思春期性成熟期更年期 卵子の数 ( 万 ) 600 500 400 300 卵の数は胎生 20 週まで急増約 700 万個 出生 初経 出生時には約 200 万個まで減少 閉経時には数はゼロに近づく 閉経 200 100 60 30 思春期には 20 万から 30 万個に減少 3 6 9 5 10 20 30 40 胎児 ( ヵ月 ) 年齢 ( 歳 ) 50 Baker TG: Am Jobstet Gynecol; 110: 746, 1971 9
AMH 数 (ng/ml) 年齢と AMH 値 抗ミュラー管ホルモン (AMH) は卵巣内の卵子数を反映する 卵子の数は 個人差が大きい 年齢 症例数 平均値 中央値 20 歳代後半から 厳しい人がいる 年齢 ( Siefer DB, et al Fertil Steril. 2011 Feb;95(2):747-50) 10
子宮内膜症 ( 不妊原因の一つ ) 妊娠出産は月経回数を減らすとともに 妊娠時のホルモン変化は すでに発生していた子宮内膜症を治療する 年齢とともに増加する (Houston DE, et al:clin Obstet Gynecol 1988;31:787-800) 11
妊娠出産に適した時期 1. 女性の加齢と妊娠する能力の変化 2. 母体の加齢と妊娠後の合併症 3. 男性の加齢と妊娠する能力の変化 12
母の年齢と自然流産率 年齢区分妊娠例数流産例数流産率 (%) 24 歳以下 90 15 16.7 25~29 歳 673 74 11.0 妊娠適齢期 30~34 歳 651 65 10.0 35~39 歳 261 54 20.7* 40 歳以上 92 38 41.3* 合計 1,767 246 13.9 * 25~29 30~34 歳の群と比較して有意差あり (p<0.01) 資料 : 虎ノ門病院産婦人科 1989.1.~1991.7. データ母体年齢と流産周産期医学 vol. 21 no. 12, 1991-12 13
単位件数 / 出産千対 年齢別にみた周産期死亡率 ( 出産千対 ) ( 平成 19-23 年の平均値 ) 妊娠適齢期 注 :1) 周産期死亡率は 一年間の周産期死亡数 ( 妊娠満 22 週以後の死産数 + 早期新生児死亡数 ( 生後 1 週間未満の死亡数 )) を一年間の出産数 ( 出生数 + 妊娠満 22 週以後の死産数 ) で割ったもの ( 出産千対 ) である ( 厚生労働省人口動態統計の特別集計を元に母子保健課にて作成 ) 14
単位件 / 出産十万対 年齢別にみた妊産婦死亡率 ( 出産十万対 ) ( 平成 14-23 年の 10 年間の累計 ) 妊娠適齢期 注 :1) 妊産婦死亡は 妊娠中又は妊娠終了後満 42 日未満の死亡で 妊娠の期間及び部位には関係しないが 妊娠もしくはその管理に関連した又はそれらによって悪化したすべての原因によるものをいう ただし 不慮又は偶発の原因によるものを除く 2) 妊産婦死亡率は 年間妊産婦死亡数の累計 ( 平成 14~23 年 ) を年間出産数 ( 出生数 + 妊娠満 12 週以後の死産数 ) の累計 ( 平成 14~23 年 ) で割ったもの ( 出産十万対 ) である ( 厚生労働省人口動態統計の特別集計を元に母子保健課にて作成 ) 15
(%) 16 年齢別にみた妊娠高血圧症候群の発症頻度 (n=21,262) 14 12 10 8 妊娠適齢期 6 4 2 0 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50 妊娠高血圧症候群は加齢に伴い増加し 特に 40 歳を超えると急激に増加する傾向にある 不妊治療に悩む方への特定治療支援事業等のあり方に関する検討会第 3 回苛原参考人提出資料 16
年齢別にみた前置胎盤の発症頻度 (n=8,876) (%) 7 6 5 4 3 妊娠適齢期 2 1 0 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50 前置胎盤は加齢に伴い増加する傾向にある 不妊治療に悩む方への特定治療支援事業等のあり方に関する検討会第 3 回苛原参考人提出資料 17
母の年齢 女性の年齢と子どもの染色体異常のリスク ダウン症の子が生まれる頻度 出生千対 20 1/1667 0.6 1/526 1.9 25 1/1250 0.8 1/476 2.1 妊娠適齢期 何らかの染色体異常をもつ子が生まれる頻度 出生千対 30 1/952 1.1 1/384 2.6 31 1/909 1.1 1/384 2.6 32 1/769 1.3 1/323 3.1 33 1/625 1.6 1/286 3.5 34 1/500 2.0 1/238 4.2 35 1/385 2.6 1/192 5.2 36 1/294 3.4 1/156 6.4 37 1/227 4.4 1/127 7.9 38 1/175 5.7 1/102 9.8 39 1/137 7.3 1/83 12.0 40 1/106 9.4 1/66 15.2 41 1/82 12.2 1/53 18.9 42 1/64 15.6 1/42 23.8 43 1/50 20.0 1/33 30.3 44 1/38 26.3 1/26 38.5 45 1/30 33.3 1/21 47.6 46 1/23 43.5 1/16 62.5 47 1/18 55.6 1/13 76.9 48 1/14 71.4 1/10 100.0 49 1/11 90.9 1/8 125.0 資料 :Hook EB(Obstetrics and Gynecology 58:282-285, 1981) Hook EB, Cross PK, Schreinemachers DM(Journal of the American Medical Association 249(15):2034-2038, 1983) を元に母子保健課にて作成 18
妊娠出産に適した時期 1. 女性の加齢と妊娠する能力の変化 2. 母体の加齢と妊娠後の合併症 3. 男性の加齢と妊娠する能力の変化 19
妊娠に至るに要する期間 ( 月 ) 男性が若いと相手が早く妊娠する 20 歳代約 6 カ月 30 歳代約 10 カ月 挙児を希望した時点での男性の年齢 Hum Reprod Update 16: 65-79, 2010 20
流産リスク 男性の年齢が高齢化すると相手の流産の確率が上昇する Hum Reprod Update 16: 65-79, 2010 21
男性の加齢と先天異常 男性の年齢が高齢化すると出産した児の先天異常率が上昇する Hum Reprod Update 16: 65-79, 2010 22
男性の加齢と精子の質の劣化 40 歳未満 40 歳以上両群の差 患者数 107 41 精子濃度 ( 106/mL) 95±6 99±58 無し 精子運動率(%) 61±14 58±17 無し 正常精子率 8±2 7±4 無し 精子遺伝子の断片化 (% ) 12±8 17±13 有り J Assist Reprod Genet, On line 01 June, 2013 精子の遺伝子の突然変異は 1 歳加齢するごとに 2 個増える Curr Opin Obstet Gynecol 2013; 25 :181-3 高齢な父親の子は精神疾患が増加する Am J Psychiatry 2013; 170: 599-608 23
Take-home message1 妊娠 出産 育児に 適した時期は 20 代 ヒトは男女とも加齢に伴い妊娠する能力が減弱し また 妊娠中や分娩時のリスクや出生児のリスクが増加します 24
体外受精などの不妊治療 の現状は? 25
年別治療周期数 ( 治療数 ) 症例数 350,000 300,000 250,000 200,000 150,000 FET 周期 ICSI 周期 IVF 周期 日本は不妊大国 : 治療件数が急増している 人口約 2 倍の米国が治療数 17 万件 人口比で米国の約 4 倍治療している 出生児数 :37,953 人 (27 人に 1 人 8 から 9 回の治療に 1 回 児が生まれる ) 32 万 6,426 件 100,000 50,000 0 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 西暦 日本産科婦人科学会 2012 http://plaza.umin.ac.jp/~jsog-art/2012data.pdf 26
生殖補助医療治療数 総治療数 07 年 161164 08 年 190613 09 年 213800 10 年 242161 11 年 269659 12 年 326426 40 歳以上率 07 年 31.2% 08 年 32.1% 09 年 33.4% 10 年 35.7% 11 年 37.9% 12 年 39.7% 患者の高齢化が著しい ( 日本産科婦人科学会データより自作 ) 27
年次別治療開始周期あたりの生産率 高齢では成功率が低い 30 歳で 20%(5 回に 1 回 ) 40 歳で 7~8%( 約 13 回に 1 回 ) 45 歳で 1% 以下 ( 約 100 回に 1 回 ) ( 日本産科婦人科学会データより自作 ) 28
ART1 児出生にかかる費用 (2011) ( 万円 ) 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 1 治療 30 万円として 高齢では 1 児が出生するためにかかる費用が高額になっている 40 歳で 370 万円 45 歳で 3780 万円 47 歳で 2 億 3 千万円 20 25 30 35 40 45 年齢 ( 日本産科婦人科学会データより自作 ) 29
Vitrification(EG+DMSO)( 室温 ) 平衡液 ガラス化液 PBS(-), 5%SSS 2 分 洗浄液 7.5%EG+7.5%DMSO in PBS(-),5%SSS 8-15 分ぐらい 希釈液 15%EG+15%DMSO 0.5M ショ糖 in PBS(-),5%SSS 30-50 秒 融解液 保存 培養 PBS(-) 2 分 0.125M Sucrose in PBS(-), 5%SSS, 2 分 0.25M Sucrose in PBS(-), 5%SSS, 2 分 0.5M Sucrose in PBS(-), 5%SSS, 2 分 1M Sucrose in PBS(-), 5%SSS 2 分 液体窒素 30
凍結保護剤中の胚 31
ガラス化した卵巣組織 : 半透明 冷却速度 17,000 /min, 加温速度 32,000 /min Cryotissue ( 組織用の凍結保存容器 ) 32
卵子 卵巣保存の問題点 1. 医学面 : 母体の生理的老化 病気 2. 経済面 : 初期採卵 凍結 100 万円 年間管理料卵一個 1 万円 妊娠に必要な個数 :20 歳代で凍結 : 約 20 個 40 歳で凍結 : 約 100 個 45 歳で凍結 : 約 500~1000 個 3. 管理システム面 : 長期間管理の安全性 33
Take-home message2 1 体外受精などの不妊治療は 万能ではありません 2 男女とも 妊娠に不安が 少しでもある方は ( 目安 :20 代 1 年 30 代 6 カ月 40 代 3 カ月 ) 一日でも早く専門の医療機関に 相談してください 34
結婚 妊娠 出産を取り巻く 日本の現状は? 35
33.0 32.0 31.0 30.0 29.0 28.0 27.0 26.0 25.0 平均初婚年齢 母親 父親の第一子出生時の平均年齢推移 27.8 29.2 29.9 30.2 26.4 25.2 28.4 27.0 25.9 28.8 28.0 27.0 30.9 32.5 30.4 29.3 24.0 23.0 22.0 21.0 1980 年 1990 年 2000 年 2013 年 夫の平均初婚年齢 妻の平均初婚年齢 第 1 子出生時の母の平均年齢 第 1 子出生時の父の平均年齢 厚生労働省平成 25 年人口動態調査 36
OECD 加盟国の第 1 子出生平均年齢 (2008 年発表 ) 31 30 29 28 27 26 25 24 23 22 日本は OECD 加盟国の中でも 遅く子供を産む国である 29.1 歳 21 Mexico Latvia Bulgaria Romania Lithuania United States Estonia Poland Iceland Slovak Republic Israel (3) Hungary Czech Republic Norway Austria Canada Cyprus (1,2) Finland Belgium OECD average New Zealand Portugal Australia Slovenia Ireland Sweden Denmark France Greece Netherlands Japan Korea Luxembourg メラブルリアエポアスイハキトルートメスーイロスンシビガマアリトラスバラガコアリニニカニアアアアンラキエリドンアルード共和国 チノオカキフベ加ニポオスアスデフギオ日ェルーナプィル盟ュールーロイウンラリラ本コウスダロンギ国トスベ共ルェマンェスラージトガトニシン和ーン平ーアラーースャダリ均ルランデク国アドラリドンンドア 韓ルススイド国クイペタイセスイリツンンアブルグ イ Switzerland Spain Italy Germany United Kingdom ( 備考 : カナダ イタリアは 2007 年 メキシコ アメリカ フランス イギリスは 2006 年 オーストラリア デンマーク 日本 韓国 ニュージーランドは 2005 年の平均年齢を使用 ) ギリス 37
平均出生子ども数 2.5 2 1.5 1 0.5 0 0.97 0.69 0.66 0.38 妻の結婚年齢別にみた 結婚持続期間別平均出生子ども数 1.88 1.62 1.31 0.77 2.09 2.08 1.87 1.5 1.16 現状でも若く結婚すれば 2.08 人 1.92 1.5 0-4 5-9 10-14 15-19 結婚年齢 20-24 25-29 30-34 35-39 結婚持続期間 国立社会保障 人口研究所第 14 回出生動向基本調査 38
40 35 30 25 20 15 10 出会いのきっかけ 他力本願制度は減少 職場や仕事で 友人 兄弟姉妹を通じて学校で 街中や旅先で サークル クラブ習い事でアルバイトで 5 0 82 87 92 97 02 05 10 調査年次 幼なじみ 隣人見合い結婚 国立社会保障 人口研究所第 8~14 回出生動向基本調査 39
Take-home message2 妊娠 出産適齢期と日本の現状は かけ離れています また 結婚には自ら努力する必要があります 40
まとめ 1 不妊治療等の医学の発展があるから いつでも妊娠できると考えないでください 2 男女とも 若い時期に また 1 日でも早い時期に 妊娠 出産等に関する正しい医学的な知識 またいろいろな制度を知って 自らのライフプランを設計できるようにしてください 46