したがって 体内で増えるけれども症状が出ない 無症候性の病原体保有者というケー スもあります 図 2 2 麻しん 風疹 水痘 流行性耳下腺炎について (1) 麻しん麻しんは 麻しんウイルスというウイルスによってひき起こされる感染症です 麻しんは 前述した空気感染 飛沫感染 接触感染とさまざまな感染経路を示し その感染力はきわめて強いのが特徴です 比較するのは難しいですが 麻しんの感染力は あらゆる感染症の中で一番強いといえるかもしれません まったく免疫のない集団の中に一人発病者がでた場合 その人が何人に感染させる可能性があるかという計算があります ( 感染効率といいます ) 麻しんは約 15 20 人に感染させるといわれています 毎年流行するインフルエンザでも 感染効率は 実はせいぜい 1 人か2 人です それに比べると麻しんの感染効率は非常に高いことがわかります 麻しんのウイルスに免疫を持たない人が このウイルスに曝露感染した場合 すぐに発病はせず 10 日間前後の潜伏期間を経て発病します これがインフルエンザやノロウイルスとの大きな違いです 例えば 保育所で1 人だけ患者が出た時 スタッフは不安を感じながらも 翌日もその翌日も患者が出ないために安心してしまいます しかし 10 日ほどが過ぎて忘れた頃に5 6 人まとめて患者が出る つまり忘れたころに他の人が発病するというのが麻しんの特徴です 麻しんの合併症には肺炎 脳炎 中耳炎 グループ症候群 SSPEなどがあります 2000 年に大阪で麻しんの調査を行ったところ 大阪では推定で9,000 人 子どもたちを中心に麻しんの患者さんが出ました 合併症発症率は32.6% で つまり10 人中 3 人が何らか
の合併症を起こしたことが分かりました そのなかで一番多かったのは肺炎です 合併症を起こした子どもの約半数が肺炎になりました また 発病者の40% 以上が入院し 9 人の子ども達が脳炎になり いまだに後遺症で苦しんでいる子どももいます 2007 年度の麻しん流行においては 子どもたちよりも10 代 20 代の人の脳炎が多く報告されました 先進国では致死率は低下していますが 合併症発症率 入院率は高く 日本においても同様であり いまなお重篤な病気であることに変わりはありません また よく受ける質問に 麻しんは子どものうちにかかったほうが軽くすむのですか? 大人になってからの麻しんは重症化するのですか? というものがあります 私は 子どもであろうと大人であろうと 重症化します とお答えしています 年齢による違いはありません 確かに大人が麻しんにかかった場合に入院する率は高いのですが 1998 年に沖縄で麻しんの流行があった際には 子どもばかりが約 10 人 麻しんにかかり結果的には亡くなりました 0 歳 2 歳の子どもが中心でしたが 肺炎で亡くなった子どもが一番多く 次に多かったのが脳炎でした 麻しんでは やはり大人よりも子どもが多く亡くなっています なお 当然のことながら 大人であっても症状は軽くはありません 特に妊娠している女性がかかると まずお母さんの命に危険が及びます また 流産 死産 早産の危険性が高くなります 一方 風疹の場合は 先天性風疹症候群と呼ばれる奇形を持った子どもが産まれる可能性がありますが 麻しんにおいては そういった可能性は低いです 図 3 麻しんには 麻しんワクチンが非常に高い効果があり その有効性は95% 以上です これ以上効果の高いワクチンは他のワクチンでもあまりありません 10 代 20 代で発病する人の中に ワクチンを1 回接種したにもかかわらず免疫がつかなかった方が多く見られます さまざまな集団感染の調査結果を見る機会がありましたが 1 回のワクチン接種でも90% 前後の人には免疫が持続しています しかし やはり10% 前後の人については 免疫が落ちてきており そういった方の発病も確認されています
現在は 日本でも2006 年から接種回数が2 回になりました 韓国に遅れること10 年 アメリカに遅れること20 年です 麻疹のワクチンの副反応というのは 多くは発熱です しかし これは弱毒化された麻疹のウイルスが体に入ったために起こる反応なので ワクチン反応と呼んでもいいかもしれません このように軽く麻しんにかかることによって免疫がつくのです 20 30% の方が発熱し 約 10% の人に発疹が出ます 副反応における脳炎発症というのは100 150 万接種に1 例といわれていますが 実際はもっと低いと考えられます 実際に麻しんにかかると500 1,000に1 人が脳炎になります 麻しんの感染時の合併症は先進国でも約 30% また日本における脳炎あるいは死亡する確率は1,000 人に1 2 人です 有効な治療法はなく 唯一の医学的対抗手段はワクチン接種です 図 4 上記の図は臨床経過を示している図ですが 麻しんは 潜伏期 カタル期 発疹期 回復期の4つに病期が分かれます 潜伏期は感染してから発病するまでの期間を指します 問題となるのは 次のカタル期です 発疹はカタル期には ほとんど出ませんが コプリック斑とよばれるものが口内にできます 大臼歯の反対側 頬の内側に赤いプツプツができるのですが それをコプリック斑といいます 小児科の先生は そのコプリック斑を見て麻しんであることの診断をしますが コプリック斑を見たことがない先生であれば見落としてしまいます したがって カタル期における平均 3 日間は麻しんだと気づかれずに過ごしてしまうことが多いのです この他には 目やに 鼻水 くしゃみ の症状が出ますが これは麻しんの特徴的な症状とはいいがたいものです しかし ウイルス排出のグラフが示しているとおり ウイルスが最も排出されるのはカタル期の末期です つまり 非常に感染しやすい時期というこ
とです カタル期の次の段階である発疹期に入り 発疹を見て麻しんだと気がついたときは 既にある程度の日数が経っていることになります 熱が出始めるカタル期の1 日前 ( 潜伏期末期 ) から感染性はあるといわれています 例えば 保育所で あの子が麻しんだ と分かるまでに5 日くらいかかるのです そしてその子どもが毎日通園するとして 仮に火曜日に熱が出たとすると その1 日前の月曜日から木曜日までの4 日間が感染可能期間となります 金曜日に発疹が出て 病院に連れていき麻しんだと診断された場合 保育所に連絡があるのがおそらく土曜日となります そうすると月曜日から金曜日まで5 日もたっていることになります 麻しんは 感染後 72 時間以内にワクチンを打てば発病を防ぐことができる可能性があるとされていますが 5 日たつとワクチンを接種しても間に合いません 麻しんの特徴であるコプリック斑をより早く見つければ良いですが なかなかそういうわけにいきません コプリック斑に気づかない場合 カタル期に麻しんと診断することは困難なため 周囲に感染拡大させてしまう場合が多くあります 特に10 代 20 代の人が麻しんに感染した場合 少々熱があっても仕事に行く 遊びに行く あるいは旅行に行くため 広範囲に感染を広げてしまう可能性が高くなります もし 保育士が麻しんだった場合 たくさんの人 子どもたちに麻しんのウイルスを感染させてしまうことにつながりますので 慎重に対応していただきたいと思います 特に周囲で流行している場合や 保育所内で麻しんの患者さんが出た場合は 十分に注意をしてください 感染症情報センターのホームページ (http://idsc.nih.go.jp/index-j.html) には その場合の対応についても載っていますので ご覧下さい 麻しん 感染症発生動向調査 2007 年の麻しんの発生動向調査について説明をします 全国 3000カ所の小児科医院からの報告です 基本的に届出の対象は14 歳以下の子どもたちです 図 5は 1997 2007 年までのグラフを重ねていて 横軸が1 年間を週割りしたものです 第 1 週 53 週 それから縦軸が1 件のお医者さんに 全国平均で1 週間に何人の患者さんが来たかをあらわしています 2007 年の麻しんはグラフにもあるとおり 過去の2001 年の流行や 例えば1997 年 2000 年 2002 年の流行などに比べて 非常に少ないですが 2004 年 2005 年 2006 年の過去 3 年に比べると多くなっています 2001 年の大流行のあとで全国に 1 歳の子どもたちに麻しんのワクチンをプレゼントしよう というキャンペーンが始まり 急速に流行が治まってきましたが 2007 年は過去 3 年に比べるとずっと多い発病者数になっています 10
図 5 図 6 図 6は年齢別グラフです 0 歳の子どもたちの割合はあまり変わっていません 0 歳児の大半はワクチンを接種していません 感染機会が増えて その分だけ患者発生数も増えています 違うのは1 5 歳児の割合が 例年に比べると非常に少ないことです 例年であれば5 歳以下の子どもたちというのが60 70% を占めていたのですが 平成 19 年には 40% を切っています これは明らかにワクチン接種率が上がっている効果です 1 歳でのワクチン接種率が上がっているので1 歳から5 歳まではワクチンによって守られているということ 11
になります 逆に ワクチンを接種してから長い年月がたっている 10 14 歳が 例年に比べると ずっと多いことが分かります 成人麻しん の感染症発生動向調査次に 保育士に非常に深く関係がある成人麻しんのことにふれます 成人麻しんは1999 年の4 月から調査が開始されましたが 下記グラフが示すとおり患者発生数が過去最高を更新中です (2007 年 6 月時点 ) 図 7 しかし 先程の小児科医療機関の3000 ヶ所という定点数に比べると 成人麻しんの基幹定点は450 ヶ所しかなく 非常に少ない数であるため 推計値を出すことは困難です 例えば450 ヶ所から何人の患者さんが出ているので 推計で全国で何人の発病者がいる ということはいえません しかし 例年と比べた場合 非常に多いことは事実です 2001 年の流行の時の数字も超えています 過去の麻しんの流行における成人麻しんの発病者数は 子どもの麻しんの10 分の1 程度であるといわれています したがって 流行規模そのものは 約 30 万人が発病したといわれている2001 年の大流行のほうがはるかに大きいといえます 2007 年において このようになっているのは 2001 年の流行時の10 分の1にあたる 2 3 万人が大人の麻しん患者であるという理由からです これは調査開始以来 最大値を更新しています 12
図 8 次は年齢別グラフです 2007 年 6 月現在 麻しんの患者さんは20 代前半が最も多く 次が20 代後半です では その理由は何でしょうか 実は 1978 年に麻しんのワクチンは定期予防接種として公費負担化されことがあります そのときの1 歳児が現在の30 歳です したがって 今の30 歳以下の人は大半がワクチンを1 回受けていることになります しかも その世代においては 麻しんが大きく流行することはなくなっていました 一方 現在の30 代前半の年齢の人は 麻しんにかかるのが普通でした あるいは ワクチンを接種している人と そうでない人が混ざっているという状況です それは 麻しんのワクチンが定期予防接種化されたとき 今の30 代前半は当時 2 歳 5 歳だったためです 30 歳以下の人については 同世代の人が全員 普通にワクチンを受けている世代で 大半がワクチン1 回接種の人です こうした30 歳以下のワクチン1 回接種の人が麻しんの自然感染を受ける機会もないまま ワクチン接種から長い年月がたってしまったことが 現在 20 歳前半を中心に発病者が出ている理由です 20 代の患者さんの報告数が全体の約半数以上を占め 15 歳から20 代後半までで全数報告の約 8 割 30 代前半までを入れると9 割を超えます 麻しん流行のニュースが流れた際 50 歳以上 特に70 歳 80 歳の人から 不安です との声が寄せられますが 60 歳以上の人はだれも発病したという報告はないから安心です とお伝えしました その世代の人が子どものときにはワクチンなどなかったため ほとんどの人は麻しんにかかっているはずだからです 基幹定点からの成人麻しんの報告では 報告地域及び南関東地域を含めた報告数はともに増加傾向が続いています 第 21 週の報告数は 1999 年の調査開始以降では最高値となりました この関東地域における麻しんの流行の特徴は 10 代 20 代での患者発生数が増加 13
していることによるものです 麻しんは春から夏にかけて流行する感染症であり その流行のピークは日本では5 月中となることが多いのですが 2007 年の流行では5 月下旬になってもまだ報告数の減少が見られませんでした ワクチン接種の奨め 2007 年の麻しんの流行の理由には 先程もお話しました1978 年の麻しんワクチンの定期予防接種化以降に幼児期を迎え 麻しんワクチンを1 回接種している10 代 20 代における麻しん発生数の増加が大きく関与しているものと考えられます したがって 10 代 20 代の保育士で いまだに麻しんにかかったことがなくて ワクチンも接種したことがない人がいたら早期にワクチンを接種してください また ワクチンを既に接種した人のごく一部 (20 人に1 人程度 ) が免疫未獲得者といわれています むかしは こういう人は麻しんの流行時に麻しんにかかっていましたが 最近の免疫未獲得者には流行がほとんどなかったために 麻しんにかからず過ごしてきているという状況があります 加えて ワクチンを1 回接種して免疫も獲得できた人でも 麻しんのウイルスの曝露感染機会 ( 発病にいたらないまでにも感染する機会 ) が激減していることにより 感染によって免疫力を維持する機会がないのです この状況は 実は日本だけではなく過去にアメリカや韓国でも見られ 特異的な現象ではありません 1 回接種の人が非常に増え しかも麻しんそのものの流行が非常に減った場合には起こる現象です 2007 年の傾向は少し違いますが 2001 年の大流行も あるいはそれ以外の過去の大流行も やはり流行の中心は1 歳児でした したがって 過去にわが国において見られたような麻しんの大流行を防ぐためには 1 歳早期における麻しんワクチン接種率を高く維持しなければなりません 1 歳の子ども達における麻しんワクチンの接種率が下がると 麻しんが大流行します ワクチンを接種していない1 歳児は麻しんに一番かかりやすいので 1 歳になったらすぐにワクチンを接種するように勧奨してください なお なぜ0 歳児で接種しないのかと思われるかもしれません これは難しい話ですが 産まれてきた赤ちゃんには お母さんからもらった抗体があります これを移行抗体といいますが この移行抗体の中には 麻しんの抗体も含まれています ( お母さんが麻しんの抗体を持っていない場合と一部の例外を除く ) この抗体によって産まれてすぐの赤ちゃんは麻しんにかかりません そのため 0 歳児に麻しんのワクチンを接種しても お母さんからもらった抗体が邪魔をして麻しんのワクチン由来のウイルスが体の中で増えないため 免疫はつきません お母さんからもらった抗体が100% 完全になくなるのが1 歳であるという理由から 1 歳でワクチンを接種するように指導されています しかし 大半の子どもたちは生後 9か月で抗体がなくなってしまいます また 最近では多くの子どもたちが6か月ぐらいでなくなるという事実も報告されています まさに この6 11か月までの子どもたちが麻しんにかかっています 何とかしなければなりませんが 見境なくワクチンを接種するのは大変に効率が悪く 非常に難しい問題です ただ言えることは 1 歳 14
児には絶対に免疫が無いので 1 歳になったらすぐにワクチンを打つことが必要だということです 麻しんワクチン既接種者の多くが1 回接種である現状が続くかぎり 今回の流行が治まったとしても今後再び同じようなことが繰り返されるだろうと思われます この1 回接種の人についても対策が必要です それには1 回接種の人達が全員 2 度目のワクチンを接種することが最も効果的な方法ですが それを推奨したことにより1 歳児用のワクチンが足らない事態にでもなったら それはそれで大変なことです 別の方法としては ワクチンを接種したことがない人 麻しんにかかったことがない人を最優先にワクチンを接種するという方法です つまり 最優先されるべきは 麻しんのウイルス感染によって重篤化が容易に想定される未接種 未罹患者 次いで第 1 期の定期接種を受けた後で長い年月が経過した人であると考えられます 当然のことですが 保育所に通っている2 歳 5 歳の子どもで まだワクチンを接種したこともなく 麻しんにかかったこともないという子どもは 早急にワクチンを接種するよう勧奨してください なお 保育所で麻しんが流行り始めた場合 その施設にいる0 歳児の子どもに接種するかしないかというのは医師の判断になりますので 相談が必要です 場合によっては緊急接種が必要です 図 9 保育所で平時からしておくことでは 麻しんのワクチン未接種 麻しんにかかったことのない子どもたちを まず把握することが必要です 入園前 転入前などには 健康状況調査において ワクチンの接種歴と麻しんの既往歴については把握されているところが大半だと思いますが 未接種 未罹患者にはワクチン接種を勧奨してください 特に麻しんのワクチン接種は大切です 入園後には接種状況を確認してください そして 状況把握をする際に よく抜けているのが職員のみなさんの状況です 病院な 15
どでは既に常識になっていますが 勤務開始前の健康状況調査において 保育士のみなさんが麻しんのワクチンを接種したか 接種していないか 麻しんにかかったことがあるかどうか確認することが必要です 特に20 代の人というのは こうしたことをおろそかにしがちです いまの大学生にも共通していることですが 麻しんワクチンの接種が済んでいるか否か あるいは麻しんにかかったことがあるかないかを聞いても 不明 である場合が圧倒的に多いですが こうしたことは母子手帳などで確認できます 未接種 未罹患者にはワクチン接種を勧奨してください 図 10 ( たった1 人でも ) 麻しんの患者さんが出たら何をすべきか まず他の欠席者の欠席理由を把握してください 場合によっては 1 人出たときには既に複数名の感染者が出ていることが非常に多くあります 感染者と濃厚接触をしていた人に対して適切に対応しなければなりません 保育所で考えられる濃厚接触者とは 特に同じクラスの子どもたちです 接触者の範囲を明らかにする必要があります ただ 保育所などの施設内にいる子どもたちに関しては 同じフロアの子どもたちを中心に ほとんど接触していると考えるべきです 感染者に対する発病予防については 医師と相談となりますが 接触してから3 日以内であればワクチン接種によって感染発病を予防できる可能性があります これは健康保険が適用となります さらに6 日以内であれば ガンマグロブリンを注射することによって発病を抑えることができる可能性がありますが これは血液製剤なので ガンマグロブリンを接種するべきかどうかについては 保護者と医師の相談により決定することになります 血液製剤は 私は個人的にはあまり推奨しませんが 入院するよりは良いという理由で投与される場合もあります 16
図 11 次に 感染拡大防止策についてです まずは 麻しん発生状況を保育所を利用する家庭に知らせてください パニックや風評被害を防ぐ正しい方法とは 正確な情報を正確に流すことだと考えます 保育所や学校などで麻しんの患者さんが出た場合 通園 登校前に 自宅にて検温を実施し 37.5 以上あった場合は休むことを指導していただきたいです 図 12 次は よくある麻しんアウトブレーク ( 病気の感染が爆発的に広がること ) の際の誤った対応です これはいまだにあることですが 施設内に第一例が出た場合に すぐ対応すれば間に合うにもかかわらず たかが麻しん と軽く見て何も対応をしないことです 10 日以上が過ぎ 数名の発病者が出て いわゆる第二波が認められても 最初の先入観が邪魔をするのか やはり適切な対応がされないのです そして さらに10 日が経過し より多くの発病者が出てくることになります 発病者が次々に現れ 慌てて未発病者にワ 17
クチン接種を行うことがありますが 結局は多大な労力と費用を要します しかも この 時点ですでに手遅れで 麻しんが地域レベルで流行し広がっているということが多く見ら れます 図 13 上記はワクチンの接種のスケジュールですが こちらは2006 年から変わりました 麻しん 風疹の混合ワクチンになり 第 1 期 第 2 期となっています もし保育所内に1 歳以上の子どもでワクチンを接種していない子どもを発見された場合は ぜひワクチン接種を勧奨してください (2) 風疹風疹もワクチン接種率が上がったことにより 流行の規模は 過去に比べ 非常に小さくなりました 風疹は麻しんほど重症化しませんし 入院率も高くありません 放っておいたとしても 水痘やおたふくかぜに比べ 症状は軽いと思います では なぜ風疹が麻しんと同じように定期予防接種化されているかです 風疹の症状は発熱 発疹 リンパ節腫脹の3つがありますが 症状持続期間がいずれも短く 発熱も 麻しんでは免疫未獲得者であれば全員が発症しますが 風疹は患者数の約半数程度の割合です 重篤な合併症として血小板が減る あるいは脳炎になることはありますが 脳炎の確率も麻しんより低く また血小板減少性紫斑病は3000 人に1 人であり これもしばらくしたら治る場合が大半です しかし 障害や合併症を持った子どもたちはできる限り罹患しないほうが良いのは当然です ただ 風疹には先天性風疹症候群と呼ばれるものがあります 18
図 14 これは 抵抗力のない妊婦さんが妊娠初期に風疹に感染した場合をいいます 妊婦さんが発症しなくても 風疹ウイルスが胎盤を通じて胎児に感染します その結果 出生児が先天性風疹症候群となることがあります その主な症状には聴力障害 視力障害 心奇形 知的障害 糖尿病などがありますが 特に聴力障害はよく知られています 保育所で風疹が流行ると 保育所に来ている子どもたちの母親のなかには 妊娠しているケースも多く こうした危険にさらされています ちなみに2004 年は 先天性風疹症候群の子どもの出生報告が前年よりも増加しています なお 風疹が定期予防接種化されていることにはもう一つ理由があります 風疹が流行すると 妊娠初期に風疹にかかり 先天性風疹症候群で産まれる子どもたちよりも多くの人工妊娠中絶の数が増えます 風疹に感染したことが理由による中絶は 統計が取りにくい状況であり 風疹の隠れた負の側面です (3) 水痘水痘は例年冬から春にかけて流行し 夏休み期間中に一気に収まり 冬に再び復活するという流行形態をとっています 水痘とおたふくかぜに関しては 日本ではいまだにワクチンが定期予防接種化されていません 特に水痘は保育所では毎年のように集団感染が起こっていると考えられます この状況は あまりよいことではありません 水痘は水痘になるだけではなく 水痘 帯状疱疹ウイルスの初感染によって発生し このウイルスはそのまま人の神経細胞に一生住み続けます そして 体力が低下したときに帯状疱疹が出る原因となるのです 通常は 2 週間前後の潜伏期間を経て発病し 発疹 倦怠感 発熱を主症状として発症します 感染経路については 麻しんと同じ空気感染ですので非常に感染力が強いということがあります 19
図 15 現在 わが国における水痘は 発症者の多くが学童期前であり 遅い場合でも小学校低学年ごろまでに大半の小児が罹患します 最も多いのは保育所や幼稚園の子どもたちです 健康な小児においては 水痘は罹患者 ( 発病者 ) の大半が順調に経過し その予後は良好です ただし 免疫力が低下している子ども ネフローゼでステロイドを飲んでいる子ども 小児癌になっている子ども あるいは成人が発症した場合は重症化します 特に免疫が低下している子どもたちは命にかかわることもあり 場合によっては死亡することもあります (4) おたふくかぜ 図 16 20
おたふくかぜは2005 年の夏まで流行していましたが その後 秋ぐらいから流行が収まり 今年 2007 年における流行は小さいものとなっています 通常は4 年 5 年に1 度の割合で大きな流行になります おたふくかぜもワクチン接種が唯一の予防方法であり ワクチン接種には90% 以上の効果があるといわれています おたふくかぜのワクチンが原因で無菌性髄膜炎になることがあり 日本では現在 MMRワクチン ( 麻疹 おたふくかぜ 風疹の三種混合ワクチン ) は使用してはいけないことになっていますが 世界の他の国では現在でもMMRワクチンが使われています 患者との接触時における予防策については 接触当日のワクチン接種には症状を軽くする効果はありますが 発症予防は困難であると考えます なお 先ほどの麻しんや水痘の場合は 接触後 3 日以内にワクチンを打てば 高い確率で発病を防ぐことが可能であるといわれています 図 17 おたふくかぜは 麻しんや水痘の患者さんに比べると もう少し年齢が高い3 6 歳の子どもが中心になります 通常は1 2 週間で軽快する予後良好の病気ですが 10 人に1 人が髄膜炎になるといわれています また 500 1000 人に1 人が難聴になることが最近分かってきました これは片方の耳が聞こえなくなり 回復の余地がないことを意味しています 聞こえないのが片方だけの耳であるため 保護者や保育士たちも気がつかないことが多く 小学校入学時の聴力検査で初めて分かる場合もあります あるいは 電話を取るときに決まって片方でしか聞かないなどから分かることもあります これまでは 20,000 30,000 人に1 人といわれていましたが 最近では もっと多いということが分かってきています ほかにも おたふくかぜが 睾丸炎 卵巣炎 膵炎等の合併症を起こす場合があります ウイルスに免疫を持たない乳幼児が集団で生活している保育所等の施設では 集団発生を起こす場合もしばしばあります 21
保育所に通っている子どものワクチン接種率は 通っていない子どもよりも低いことが 実際に調べた結果で明らかとなっています 水痘のワクチン接種率も同様に低い結果となりました 施設内の集団感染を防御するには ワクチン接種を勧奨し 免疫を持っている子どもの割合を増やすしかありません 2005 2006 年 堺市と吹田市 愛媛県松山市の保育施設の人にご協力をお願いし 水痘とおたふくかぜのワクチン接種率を調べてたところ 結果は通常 30% 前後であるものが 20% 以下の接種率でした 保育所に通っている子どもたちの接種率が低いということは そのぶん集団感染も起こりやすいと考えられます (5) まとめ 図 18 これまで挙げた疾患というのはワクチン予防可能疾患といいます 有効な治療法はなく 感染力が強いためにワクチン以外に確実に予防する手段はありません 当然のことですが 子どもにワクチンを接種することは 子ども個人を将来にわたって守ることででもあり その子が守られることによって施設内の周りの子どもたちも守られます また 保育所は先に述べた4つの病気に関しては高いリスクのある職場であるので 保育士は子どもたちのみならず その家族のため そして自身のためにも 特に麻しん 風疹 ついで水痘 おたふくかぜに免疫があるかを調べておくことをお奨めします 子どもたちにうつされたとしても 発病して保育士から別の子どもたちにうつしてしまうと それはもう言い訳できないことであると考えてください 22