地方創生くまとりアトムシンポジウム BNCT と熊取町のさらなる発展のために 講演 京都大学原子炉実験所における BNCT 研究について ( 概要 ) 平成 28 年 3 月 19 日 ( 熊取町町民会館ホール ) 京都大学原子炉実験所副所長高橋千太郎氏 皆さん こんにちは お忙しいところおいでいただき ありがとうございます 私 先日讀賣テレビに呼ばれて そこまで言って委員会 に出演しました そのキャスターの辛抱治郎さんが 僕のことを 三木のり平さんみたい と言われました 似てますかね ( 会場笑い ) 僕なんか 子どもの頃から 磯じまん ( のりのつくだに ) は大好きでしたから そちらの奥さん 笑わない方がいいですよ 笑うとしわが増えますよ 学生にこの話をしても きょとんとしているんですね おもしろくないの? 誰ですか それ? という感じで さすが平成生まれ ( の学生たち ) 三木のり平さんでは 笑ってもらえないようで このギャグは学生には使わないようにしていたのですが 今日おいでいただいている若い奥様方には使わせていただきました ( 会場笑い ) さて 本日は 京都大学原子炉実験所で 小野教授はじめ多くの研究者が長年培ってこられた BNCT の研究について 僭越ながら 私が現在 BNCT 研究推進室の室長という立場にありますので ご紹介させていただきたいと思います まず 私達の実験所につきまして 本日おいでいただいた方には かなりご視察いただいているかと思うのですが 昭和 38 年 原子炉による実験及びこれに関連する研究を実施するため 全国大学の共同利用の研究所として創設されまして 平成 22 年からは 全国共同利用 共同研究拠点として活動しております 実験所には 2 つの原子炉があります ひとつは BNCT 研究のために使用されている出力 5,000 キロワットのもの もうひとつは 学生の実験のために使用されている出力 100 ワットのもの 臨界集合体実験装置と言われており ミニチュアの原子炉とお考えいただいたら結構です これらを中心に 各種の大型施設や機器を活用して 複合原子力科学を推進してまいりました 見学に来られた方にご説明すると 原子力発電の研究は されていないのですか とよく言われます もちろん 原子力発電は原子力利用の柱ではありますが 経済規模から言えば 原子力発電よりは他の原子力の利用の方が大きいのです 医療 その他に幅広く原子力は利用されており 実験所では原子力発電の基礎的な研究は実施しておりますが おもに 原子力 - 1 -
の利用 原子力の安全な利用に関する研究を行っているところです さて 本日の本題 中性子を使ってホウ素を取り込んだ細胞を照射するというのが 本日のテーマである BNCT ホウ素中性子捕捉療法の原理でございます 中性子は 1932 年 ケンブリッジ大学のチャドウィック教授によって発見されました エックス線の発見が 1895 年 ラジウムの抽出ができたのが 1898 年です それに比べると 約 40 年遅れて中性子という放射線が発見されているのですね これはなぜかというと 中性子はその名のとおり 電気的にプラスでもマイナスでもないのです だから 物質と相互作用しないのです これが あとで登場するホウ素中性子捕捉療法で ホウ素の原子核に中性子がボンとあたるという仕組みと関係していて 電気的に中性なので 直接ホウ素にあたりやすくて 核反応を起こしやすいのです 中性の粒子が飛んでおりますので 比較的測定が難しく 発見が遅れて 1932 年になっております それから 4 年後には 中性子を使うと BNCT のような治療ができるのではないか というような提案がされたとお聞きしております その後 基礎的な動物実験を重ねて 1951 年に米国のブルックヘブン国立研究所ではじめて人を対象とした治療が行われ その後 マサチューセッツ工科大学と アメリカのグループが基礎的な研究と臨床研究を進めたと聞いております 話が横道に逸れますが 私は 8 年前に 千葉の放射線医学総合研究所からこちらの実験所に異動してきました 私は泉佐野の生まれですので ふるさとに帰ってきたのですが 千葉の放射線医学総合研究所でも BNCT の基礎研究をやるということで 1960 年代に東海村の近くに土地を買ったといういきさつがあります 結局 その計画は立ち消えになり 10 年前に私が理事の時に売りましたけど そのようないきさつがあったのですが 京都大学では 地道にきちっと基礎研究をやってこられました だから 現在の成果に結びつくこととなったのです 一方 アメリカの方は その当時 良いホウ素薬剤がなかったとか 使っている中性子の性質があまりよくなかったなどということで あまりよい成果が上がらずに 10 年ほどでやめてしまって 中断したり 再開したりしたのですが あまりよい成果上がりませんでした その後 原理的に素晴らしいから何とか実用化しようということで いろいろな国で研究が行われてきて フィンランドやスウェーデンといった国で症例数が多い状況になっております 日本での状況はどうかというと 1959 年から原子力研究所 ( 現在の原子力研究開発機構 ) や日立製作所の原子炉を使った動物実験が行われて 武蔵工業大学などで悪性脳腫瘍について 人を対象とした治療が行われたと聞いております この時に よい成績が得られたのが使用された BSH という新しいホウ素化合物でした それから 原子力研究所や私どもの実験所の原子炉を使って基礎的な研究 臨床的な研究が行われてきたところであります - 2 -
京都大学では 500 例を超える治療実績があります 治療数からみますと フィンランドの FiR-1 という研究炉が 300 例以上 日本原子力研究開発機構の研究炉が 100 例 撤退しましたが米国のブルックヘブン医学研究炉の 99 例などが続きます 新興では台湾やイタリアでも研究が進められております ご覧のスライドは フィンランドの FiR-1 の研究炉の様子です 実験所の照射室をご覧になった方から見ると さすがヨーロッパ 洗練されてきれいな施設で 見習わないといけないなと思うのですが これに比べるとイタリアの炉は 私どもの炉と似ておりまして ミスター BNCT と呼ばれる小野先生が 内部の写真を撮っておられます いずれにしろ 世界各国で BNCT が注目されて研究が行われているところです さて 私ども実験所でどのように研究が行われてきたのかというところですが 1974 年にはじめて人を対象とした臨床研究が実施されました その当時 脳腫瘍を対象とした研究が行われておりましたが 中性子のエネルギーといって 中性子はつぶつぶの粒子ですので そのスピードをあげれば体の奥深くに入るのですね スピードをどんどんあげればよいのではと思うのですが そうなるとぶつからなくなって ホウ素薬剤との反応が減ってしまう なので ある程度のスピードであって ある程度体の中に入るというところがひじょうに難しいのです 当初使ったホウ素薬剤が スピードが遅くてホウ素との反応を重視してつくられたものですから 脳腫瘍の病巣が見える状態にして照射しなければならない 頭蓋骨をはずす開頭手術というのですが それしなければならなかったので なかなか困難な治療であったとお聞きしております そういうことで 後ほどご紹介しますが 中性子のエネルギーを変える装置に改造しまして 現在は開頭手術なしに 脳腫瘍の治療ができるようになっているところです それから BPA というホウ素化合物 これが現在の BNCT の主力になっているホウ素化合物です フェニルアラニンというアミノ酸は 悪性黒色腫といって ほくろが悪性化してどんどん大きくなってくるやっかいな皮膚がんなのですが これに非常に集積して効果があるとされている状況で この BPA が開発されて 1987 年から本実験所で研究が開始されました 悪性黒色腫以外のがんにも集積がよいということで 現在 主力のホウ素薬剤として使われております 次のスライドですが 1974 年に一例目となる臨床研究を実施しました 先ほども申し上げましたが 脳腫瘍の BNCT には開頭手術が必要とのことで そのための施設改造工事を行い 1997 年に重水施設を改造して 中性子のエネルギー つまり 速さを自由に変えられるように 行く深さを調節できるようにしました それから BPA が頭頸部がんにも効くということがわかったので これを使った研究が - 3 -
推進され 2003 年から症例数が増加したのですが 残念ながら 研究用原子炉が 4 年間動かない状況がありました それまで高濃縮のウランを使用しておりましたが 核セキュリティー上低濃縮にする必要があるということで 低濃縮ウランを使用するようにしました この切り替えの関係で 研究用原子炉が動かせなかったのです 私が実験所にやってきたのがこの頃ですが 当時のスタッフの皆さんがご尽力されていたことを覚えております 現在 実験所の研究用原子炉は 原子力規制委員会の新規制基準適応のため止まっております 若干長引きましたが 私どもとしては 今年の秋くらいには 何とか BNCT 研究が再開できるよう 努力しているところでございます このように BNCT の症例数や適応疾患が多様になって 症例を重ねてきて 先ほどの世界で一番の症例数を誇る実験所ということで 世界のトップを走る研究所になったわけです 研究の世界は 運不運もありますし いろいろな要素が関係します 私どもがこうやって世界のトップを走らせていただいているのは ひとえに小野先生はじめ 担当された先生のご尽力もありますが それを非常に温かい目で守って応援してくださった熊取町の皆さんのおかげだと感じております この写真は 実験所の重水中性子照射設備ですが 中性子のエネルギーを変えることができて 非常に汎用的に治療ができるようになってきたところです さて なぜ実験所における研究が世界で一番の症例数を誇るところまで伸びてきたのでしょうか もちろん 研究用原子炉などの大型設備は ヒト モノ カネなんですね 装置が設置されている これは 熊取町が受け入れてくださったから設置されたわけですが こういうモノがある それにヒトが集まってくる ほんとはここにカネとなるのですが これが少なくて苦労しているのですが 少なくても ヒトとモノはあるということですね さらに 共同利用研究所ということで 新しい複合分野が生まれつつあるということや 関西には大阪大学 大阪府立大学といった BNCT 関係機関が集まっていて そのネットワークが使えるということで 関西でますます発展していくだろうと思いますし 熊取町などの行政側のご支援も力となっているところです よく言われるのが BNCT は効くかもしれないけれど 病院に原子炉作るわけにはいかないですよね 遠くまで治療に行かないといけないじゃないですか と これも 関係の研究者の努力によって ほぼ原子炉に近い中性子 それより進んだ中性子ビームを 加速器という装置を使って作ることに成功しまして 2012 年から治験といって 実際の医療に使う前段階の試験 国が定める試験を行って 順調に進んでいるところです これが サイクロトロンという加速器を使った治療装置で 高さが 2 メートル弱 横が 3 メートル弱 奥行きも 3 メートルほどですので 大きな拠点病院であれば 十分設置できる機械であるということで 今後ますます展開が進むであろうと思っております - 4 -
これが BNCT の今後の推進体制です 実験所では原子炉を使った医療のための診療所 加速器を使った診療所を持っております ここで 人を対象とした臨床研究ができる状況になっております さらに BNCT の医療拠点ということで 高槻に関西 BNCT 医療センターができて ここでは 医療として確立した BNCT の治療を行っていく 相互に協力して進めていこうということになっておりますし 関連の病院 共同研究としておいでになるさまざまな大学の先生方 大阪府 熊取町はじめ行政機関の方々 国際的な連携等を入れて 研究拠点と医療拠点 両並びでさらに BNCT が発展してくれればと思っています 最後に BNCT はどうやって受けられるのか ちょっと聞いてみたい という方がおられると思います 一番多いパターンが BNCT をやっておられる大学病院 岸和田市民病院のような地域のがん拠点病院にご相談に行かれるというルートがあると思います 私どもでは BNCT をやっておられる先生とは共同研究でお付き合いがありますので 紹介されて 当実験所で臨床試験として治療を受けられる方もおられますでしょうし これは関西 BNCT 医療センターで十分できる治療ですので そちらでどうぞ というお話になることもあると思います 大学病院でなく気軽に相談してみたい ということで 熊取町の BNCT 相談室や直接当実験所にお電話いただいてご相談していただくこともありますが それは 私達のところでご相談させていただいて そして 必要に応じて地域の拠点病院とか 大学病院とかと連携して治療にあたらせていただくことになるかと思います もちろん 患者さんがゆくゆくは直接医療拠点の方でも直接相談していただけるような仕組みが構築できるように 何よりも このような機関が連携して 患者さんの紹介をしたり 治療に対するアドバイスをしたり そういうことができるように 運営委員会 専門委員会 共同利用研究 BNCT 推進連絡協議会など さまざまな手段を使って 連携をとって治療にあたる体制を組むということで努力しているところです 中性子の発見から 80 年 実験所における BNCT 研究開始から 40 年 BNCT は医療として利用が進み始めています 研究はいつ花が咲くかわかりません 地道にきちんと基礎研究を進めて 全体的な環境が整ったところで うまく BNCT が花を開いた それもこの熊取の地で花が開いた 泉州で生まれた私にとってもうれしい限りです もちろん この研究にあたられた小野先生はじめ多くの研究者の方の努力には大いに敬意を表するものでありますし また 実験所の設置以来 地元の熊取町の皆さんのご理解 ご協力あってのことと思います 私は 昨年まで 安全管理本部長ということで 安全管理を担当しておりました その時も ひじょうに好意的に原子炉の運転等について いろいろなご協力をいただくし ご助言をいただいたということは いかに この実験所が 地元に根を張って研究をしているのかということの表れではないかと思います 4 月 2 日には 恒例の一般公開が行われます よろしければお越しください 私どもの実験所のBNCTの取り組みについて 世界の取り組みも含めつつご紹介させていただきました ご清聴ありがとうございました 以上 - 5 -