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ものであった また, 本件規則には, 貸付けの要件として, 当該資金の借入れにつき漁業協同組合の理事会において議決されていることが定められていた (3) 東洋町公告式条例 ( 昭和 34 年東洋町条例第 1 号 )3 条,2 条 2 項には, 規則の公布は, 同条例の定める7か所の掲示場に掲示して行

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平成 29 年 2 月 20 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 28 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 29 年 2 月 7 日 判 決 原 告 マイクロソフトコーポレーション 同訴訟代理人弁護士 村 本 武 志 同 櫛 田 博 之 被 告 P1 主 文

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問 2 戦略的な知的財産管理を適切に行っていくためには, 組織体制と同様に知的財産関連予算の取扱も重要である その負担部署としては知的財産部門と事業部門に分けることができる この予算負担部署について述べた (1)~(3) について,( イ ) 内在する課題 ( 問題点 ) があるかないか,( ロ )

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とを条件とし かつ本事業譲渡の対価全額の支払と引き換えに 譲渡人の費用負担の下に 譲渡資産を譲受人に引き渡すものとする 2. 前項に基づく譲渡資産の引渡により 当該引渡の時点で 譲渡資産に係る譲渡人の全ての権利 権限 及び地位が譲受人に譲渡され 移転するものとする 第 5 条 ( 譲渡人の善管注意義

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第 4 回 (2013) 事例演習問題コンテスト講評 Ⅰ 評価対象項目及び配点 1 出題趣旨の明確性 :20 点 2 論点の的確性 :20 点 3 論点の難易度 :10 点 4 論点のバランス :10 点 5 事例における情報の正確性と十分性 :20 点 6 事例内容と出題趣旨との整合性 :20 点合計 100 点 ( 入賞作品のみ, 点数公表 ) Ⅱ 憲法部門講評 作品 1 1 出題趣旨の明確性設問で出題者が意図した マスメディアの取材の自由と地方自治体首長の取材拒否行為 という論点自体は まだ基本書等でも十分には言及していないし 適切な裁判例も殆ど無い 興味深いものである 採点者としては 出題者が日頃からよく学習していることと 日頃日常で生起している時事問題にも注意を払っていることを高く評価しておきたい 出題者は 問題文にわざわざ下線部を付して その下線部に含まれている 憲法上の問題点を論ぜよ と問いかけているので 出題意図については大まかには把握できるであろう ただし 下線部を付さなくとも出題意図が伝わるように 問題文を工夫して欲しい 実際の司法試験では 下線などを付してはいないと思う また そのような 問題文 が必要であるということから言えば 今回の事例の問題文はあまりにも短かすぎるし 構成にも十分に注意が払われていない さらに設問についても 法科大学院生が解答することを前提とするならば せめて司法試験論文式試験の形式のような この事例においてY( なお些末ながら 憲法の事例問題においては 原告になり得る= 違憲を主張する者をXとする方がよいように思われる ) が裁判を提起した場合を想定した具体的な設問文が必要であろう 要するに 受験者にしっかりと解答してもらうために十分な量の情報と問いが問題文に盛り込まれていないと思われる 2 論点の的確性上述のように 従来とは異なる観点から取材の自由を憲法論としてきちんと考察してみようとする出題意図の下で当該論点自体は取り上げる価値のあるものである 3 論点の難易度日頃見慣れない問題ではあるが 取材拒否行為を類型化し 取材の自由のどのような側面が問題になっているのか考えていけばよいので 相応の難易度である 1 / 6

4 論点のバランスそもそも出題者の解説からは 事例解決につながる主要な争点として 一定の法的な制度整備を前提とした 積極的権利 ( 請求権 ) の側面 ( 取材に応ずる法的義務の有無 ) についてしか意識していないように読める 出題者自身が意識している論点が一つと解される以上 論点のバランスなどおよそ問題とならないように見えるかもしれない ただし これ以外の憲法解釈を構成することも可能であると思われる (7 も参照 ) 囲み取材 という公共機関 ( 本問では 市長 ) が非公式に設定し 思うがままに運営しているような 情報提供 の特殊性をきちんと理解していれば 本問では むしろ 政府言論( ガバメント スピーチ ) という憲法上の論点に思いが至って当然である 政府言論による思いのままの 国民の意見形成への操作 問題こそ重要だと言えよう そうすると 複数の論点や解釈構成があり得ることに留意した出題趣旨ならば より適切であった 5 事例における情報の正確性と十分性情報が少ないとともに 先行する判例及び学説並びに事件に関する十分な調査と正確な理解を踏まえたとは必ずしも言えない 事例が 誰でもわかる橋下大阪市長の慰安婦発言に端を発する一連の 紛争 に素材を求めるのであれば 事例の問題文において新聞社 Yが Xの一連の発言を一部抜粋 変更し Xの真意を汲まずに一面に掲載した としているのは一方的かつ不正確である 実際の記事 ( X 市長は従軍慰安婦が必要であると発言した のみでは不十分 ) Y 側の編集方針及び認識などを含めた事実関係を正確に把握して 事案をより詳細に提示して欲しい また 問題文では なぜ X 大阪市長が自分のツイッターで 新聞社 Yからの取材を今後一切拒否する と表明したのかなど Xが取材拒否に至った事情も判らない 出題趣旨からは 取材拒否ができるかについての判断基準の定立が求められるようである しかし その手かがりとなる情報が含まれていない さらに 今後一切拒否するとしながら なぜ 定例の囲い込み取材 だけの拒否に留まっているのか ( 通常 記者会見と囲み取材は区別されている また Y 社の市庁舎へ出入りは禁止されているかなど拒否の形態を詳細に述べないと 解答しにくいように思う ) 等々疑問が尽きない 6 事例内容と出題趣旨の整合性出題趣旨を真に生かすのであれば 橋下市長の事例でも構わないから 細部の提示に注意しながら 事案設定すべきである 提示した参考判例も事案とは全く異なると言って過言でないものである おそらく出題者も学習して判っているであろうが 判決に至らなかったものとはいえ 日刊新愛媛 事件をよく研究して作題して欲しかった また 取材の自由の請求権的側面の有無を論じさせるのであるならば 特定の取材者に対する拒否という事実行為よりも適切な事例があるように思われる 7 問題点本問は 敢えて 取材の自由 の 積極的権利 ( 請求権 ) に関わる問題と構成しなくて済む問題である 公共機関 特に今回の事案のように まさに 主権者たる国民に向けての必要な情報提供の場 における 政府の全面的な 特定のメディアを対象とした狙い撃ち的な取材拒否 は 自由に情報の流れるべき場面での取材の自由に対する妨害 であるのだから 消極的権利たる自由権に対する 妨害排除請求権 として十分に構成できる場面である また メ 2 / 6

ディアの政府情報へのアクセスに関する平等な取扱い原則違反を問うこともできる 出題者の学習の深化を求めたい 8 評価できる点作題自体を厳密に評価すれば厳しいものにならざるを得ないが 出題者が未修コースの 1 年生である点 そして 冒頭でも触れたように 基本書などでも あまり言及されることのない 重要な論点 に気づき 作題してみようと試みたチャレンジ精神は 高く評価されてよいものである このように 日々生起するトピックから憲法問題を選びとることを大切にしながら 必要な学習を進めていってくれるならば きっと目標に到達できるものと期待したいと思う Ⅲ 民法部門講評 作品 1 (71 点 )(3 等入選 ) 1 出題趣旨の明確性 (15 点 ) 問 1 は, 契約の一方当事者が他方当事者に対して負う説明義務違反に起因する事実をもとに契約の錯誤無効ないし詐欺取消を主張し, 当該契約に基づく請求に対して反論する, あるいは, 当該契約において被った損害について説明義務違反に基づき債務不履行責任ないし不法行為責任を問う問題である 本問において,X 社の従業員 A による顧客 Y に対する説明につき説明義務違反を問いうる事実は十分ではないものの示されているといえる したがって, 本事例において X 社の Y に対する説明義務違反を問うことは可能であると言える しかし 問 1 は X 社の Y に対する契約に基づく請求 に対して Y がいかなる主張をなしうるか という出題形式になっており, この出題形式から説明義務違反を根拠とする損害賠償請求について検討することを求めていると読み取ることは難しい したがって, この点については問い方の工夫が必要であると思われる また説明義務違反に起因して生じた事実をもとに契約の錯誤無効ないし詐欺取消を主張する部分については, 問 1 の出題形式と整合しているものの, 本事例においては主に説明義務違反に該当しうる事実が示されているのみであり, 錯誤無効ないし詐欺取消を主張するための事実が十分には示されていない 問 2 は, 消滅時効の中断事由 特に催告と 153 条にいう裁判上の請求について問う趣旨で作成された問題である 問 2 については, 出題趣旨を明確にするのに十分な事実が示されていると言える 以上の点を考慮し, 出題趣旨の明確性については 15 点と評価した 2 論点の的確性 (15 点 ) いずれの論点も判例もあり, 取り上げる価値のある論点である ただし 1 出題趣旨の明確性 で述べたとおり, 事例における事実の提示との関係で錯誤無効ないし詐欺取消の主張の部分につき事例との関係で論点の的確性が不十分であると考え, この点については 15 点と評価した 3 論点の難易度 (10 点 ) 3 / 6

問 1 の論点は裁判例も多いものであり, かつ基本書レベルでも論じられているものであり的確である また 問 2 については出題者が参考判例としている判例もあり, かつこの判例を知らなくとも解答しうる問題である したがって難易度としては適切であると考え, 論点の難易度 については 10 点と評価した 4 論点のバランス (8 点 ) 全体として概ねバランスがとれているといえる したがって 論点のバランス については 8 点と評価した 5 事例における情報の正確性と十分性 (15 点 ) 情報の正確性については十分であるといえるが, 問 1 について説明義務違反に該当すると言える事実が不足しており, また Y が本件契約の締結に際し錯誤陥っているといえると判断できるような事実が不足している ただし, この点については出題者が事例において一方当事者のみが有利とならないように配慮した結果と捉えられる部分もある したがって, 事例における情報の正確性と十分性 については 15 点と評価した 6 事例内容と出題趣旨の整合性 (8 点 ) 契約の錯誤無効 詐欺取消の部分について若干事例内容と出題趣旨との間に整合性がとれていない部分があるという理由で, この部分については 8 点と評価した 7 結果採点の結果は 71 点となったが, 事例が判例の事案に類似し, オリジナリティに欠けるため 3 等とした Ⅳ 刑法部門講評 作品 1 1 出題趣旨の明確性 ⑴ 全体的に曖昧である 問題となりうる項目が羅列してあるだけで, 当該項目のどのような問題点を考察させる趣旨なのかが曖昧である ⑵ まず, 詐欺罪に関する重要論点が少なくない中で, いかなる問題点を考察させる趣旨か不明であり, しかも, たとえば詐欺行為 ( 取引上重要な事実に関する錯誤を生じさせるに足るもの ) に関する情報等, 詐欺罪の成否を検討する基本的な事実が不足しており, 詐欺罪を構成することは間違いないはずである とは一概に言えない ⑶ 次いで, 権利行使と恐喝罪の成否は確かに重要な問題点の一つである しかし, この問題を解答させる場合の事実関係に工夫も見られないことから, 解答にあたり検討ないし考察を要するような内容となっていない 関連判例の事実関係を参考にして, 検討 考察を踏まえて解答を行うのに必要かつ十分な情報を提示するといいだろう また, 正当防衛の成否と結びつけたいという意識が強すぎるあまり,Aの脅迫行為の程度に十分な配慮が欠けており, 恐喝罪の範囲内にとどまる問題なのか ( 強盗罪との区別に配慮 4 / 6

がみられない ) 疑わしい内容となっている なお, 権利行使と恐喝罪の成否という問題に対する基本的な誤解があるように思われる この問題の本質は, 財産犯 ( 恐喝罪 ) が成立するのか, それとも脅迫罪等の身体犯が成立するのかということにあり, 行為者の行為の違法性が否定されるわけではないのであり, 違法性の存否が論点となるわけではないことも指摘しておく ⑷ 次いで, 出題趣旨では, 甲の行為につき正当防衛の成否を検討させることを意図しているが, 不正の侵害 の有無を検討させるということにとらわれすぎて, 正当防衛の成立要件のうち, 最も重要な要件である 急迫性 の存否を検討させる情報が不十分 不正確なものとなってしまっている その他の要件に関する情報についても同様である また, やむを得ずにした行為 ( さらには 自招防衛 ) の意味とその判断基準 ( たとえば, 武器対等の原則 ) に関して, 理解が不十分であるように思われる なお, 応募者は, 量的過剰の問題を検討させることを意図しているようであるが, この論点にかかわる情報量が不足しているだけでなく, 情報が不正確であることから, 解答しがたい内容となっている ⑸ 最後に, 出題の趣旨では, 事実 1の詐欺と事実 4で未遂となった詐欺の客体が同じ 10 万円である との前提から, 罪数が問題となるとしているが, 事実 1 の客体は 10 万円という財物であり, 事実 4 の客体は財産上の利益であるから, 前提自体に基本的な誤りがある また, 本問の場合,1 項詐欺が 7 月 24 日,2 項詐欺未遂が 9 月 18 日と離れているので, 罪数が 論点 となる理由を見出しがたい 罪数を問題にしたいのであれば, むしろ, 財物を保護客体とする 1 項犯罪 と財産上の利益を保護客体とする 2 項犯罪 との関係 ( あるいは 2 項犯罪 間の関係 ) を問うべきであろう すなわち, 行為者により他人の財物の奪取が行われて当該行為に財産犯 ( 1 項犯罪 ) が成立した後, 引き続き当該財物に関する同一被害者の権利が同一行為者の新たな暴行等の行為により侵害された場合, 被害者の財産上の利益が侵害されたとして別個に財産犯 ( 2 項犯罪 ) が成立するかという問題を論じるべきであろう ( 町野朔 犯罪各論の現在 (1996 年 )137 頁以下を参照 ) 2 論点の的確性上記のように, 出題趣旨によれば, 総論上の主要論点としては, 正当防衛論と罪数論, 各論上の主要論点としては, 詐欺罪の成否および ( 権利行使と ) 恐喝罪の成否である しかし, とりわけ詐欺罪の論点は皆無に等しいことは別としても, 上記論点を論点としてなりたたせるのにふさわしい情報が適切に提示されたものとはいえず, 出題趣旨が事例内容に適切に反映されていない 3 論点の難易度上記 2で述べたように, 論点自体が事例内容に適切に反映されていないことから評価は困難であるが, 出題趣旨で意図した論点が成立すると仮定しても, それ自体は容易なものとなっており, 適切な難易度とはいえない 4 論点のバランス総論と各論の分野からの出題を意図しており, 概ねバランスが保たれている 5 事例における情報の正確性と十分性上記のように, 事例における情報は不正確かつ不十分である 問題文の情報は, 論点を発見し解決するのに正確でしかも必要十分なものでなければならない 5 / 6

6 事例内容と出題趣旨との整合性 上記のように, 出題趣旨が曖昧であることに加えて, 出題趣旨と事例内容との間に十分な整 合性がみられないことから, 上記各論点が論点として成立しないものとなっている 6 / 6