Ⅱ. 不妊症治療の現状と課題 ART の抱える倫理的問題 く東邦大学医療センター大橋病院産婦人科教授久 ぐ具 こう宏 じ司 キーワード AID 卵子提供 代理懐胎 出自を知る権利 着床前診断 はじめに体外受精の成功により 多くの不妊に悩むカップルに福音がもたらされただけでなく 当該カップル以外の卵子または子宮を使って妊娠して子をもつことや 受精した胚を用いて着床前診断を行うという診断や研究への応用が可能となった 卵子や胚の提供による妊娠や代理懐胎という生殖医療に関する新規技術の導入は 従来の規範や秩序に予定されていなかったさまざまな不都合を生じさせる懸念が指摘されている また 着床前診断によって 診断しうる正常からの偏移をすべて明らかににしたうえで妊娠するのがよいのか 答えを導き出すのは容易でない 一方 第三者から精子提供を受けての人工授精による妊娠 出産 (artificial insemination with donor sperm:aid) は 日本でも第二次世界大戦後間もない 1949 年に 1 例目の実施が報告され 少数の施設において長年にわたり実施されてきた 長い間その実態は明らかになってはいなかったが 日本産科婦人科学会 ( 日産婦 ) が AID に関する見解を発表した 1997 年以降は 日産婦において実施状況を把握することになった しかし今度はそれまで声を上げることのなかった AID により生まれた子からの 遺伝的につながりのある父親を知りたいとの訴えが聞かれるようになった 可能な技術をどこまで医療行為として実践してよいのか また実践に際してどのようなルールを設定し 受け皿を準備すればよいのか あらゆる 視点から多面的に議論することが必要であろう 1. 生殖医療に関わる倫理的問題の類型生殖医療に関する問題点は大きく次の 5 つに分類され それらは倫理的に考慮すべき論点を含んでいるとともに 法的 または制度として解決していくことが期待されている またこれら 5 つの類型すべてについて 解決の手段方法が 民族 地域 国 宗教によって異なることがある 解答が普遍的でない点は自然科学と大きく異なる その 5 つの類型とは ⑴ 卵子の由来する女性と懐胎する女性が異なる体外受精により生じる問題点 ⑵ 死後生殖に関する問題点 ⑶ 遺伝的親を知る権利に関する問題点 ⑷ 着床前診断に関する問題点 ⑸ 性同一性障害 同性愛など 既存の価値観に縛られずに家族をもつことに伴う問題点 この 5 つの類型のうち 1 4 5 の 3 つは いずれも体外受精の技術が現実のものとなったことによって発生したものであり 体外受精の影響力の大きさをうかがい知ることができる そこには 上にあげた問題点の根本として体外受精そのものが倫理的に許されるものであるのか という命題が存在し 1978 年のイギリスでの初めての体外受精の成功に際して大きな議論となったものである ここでは この根本的な問題に敢えて踏み込むことはせずに 体外受精が既存の技術であるという前提で そこから発生したいわば枝葉に相当する上記の類型にしたがって考察する 49
2. 体外受精による生殖で生じる問題点体外受精が行われることの最大の特徴は 卵子を女性の体から取り出し体外で受精 培養の後 再び体内に戻すことが可能 ということである それまでは不可能であった 卵子の由来する女性と受精卵の着床する女性が別人であることが可能となった その結果 不妊症として治療を受ける夫婦を中心として 表に示すように精子 卵子 子宮のいずれも本人のものと他人のもののどちらも使用できることになり 多くの組み合わせが可能になった 代理懐胎では 母親をどのように決定するかという法的な問題点も生じる 海外では これらの技術の導入を可とする国 否とする国さまざまであるが 卵子提供のほうがより多くの国で実施されている 1) 卵子提供 代理懐胎における医学的リスク卵子提供による妊娠における医学的リスクについては 1990 年代から臨床研究が散見される 多くの卵子提供妊娠に関する報告を総括して 2001 年には 妊娠前期および中期の異常出血の出現 妊娠性高血圧の出現 妊娠高血圧症候群の発症 胎児発育不全の増加が卵子提供妊娠において認められるとのレヴューが発表された 1) このレヴューでは これらの妊娠中の異常が発生する 要因として 卵子提供妊娠における懐胎女性の性機能の低下と免疫学的に懐胎女性と胎児の間に共通点のないことをあげ そのほかに 卵子提供妊娠で初産妊婦 多胎妊娠 高年齢妊婦が多いことを指摘している その後も同様の報告が続く 多くの報告を総括した最新のレヴューでは やはり卵子提供妊娠においては 妊娠高血圧症候群 帝王切開率 産後出血 妊娠初期の異常出血が増加または上昇すると結論づけている 2) 代理懐胎は 依頼者夫婦が自分たちの配偶子を体外受精させ生じた受精卵を第三者に託して妊娠を維持させるわけであり 依頼者が他者から提供を受けて自ら妊娠する胚提供による妊娠と 生物学的には同様である したがって 女性にとって精子は常に他者である男性からのものであることを考えると 代理懐胎においても卵子提供と同様のリスクが生じうることが推測される 卵子提供で妊娠する女性は早発卵巣不全などの性機能の低下を伴っていることが多いと考えられ 医学的リスク発生の要因となっているが 代理懐胎では懐胎者として通常は健康な女性が選ばれるであろうから 卵子提供に比して医学的リスクは小さいかもしれない 代理懐胎においては 特殊な妊娠であることにより生じるリスクを論じることと並んで 妊娠自 表. さまざまな態様の生殖補助医療 精子 卵子 子宮 人工授精体外受精養親との遺伝的相同性名称日本での許容名称日本での許容父と母と 夫 妻 妻 AIH IVF ICSI 提供者 妻 妻 AID IVF ICSI ( 規定なし ) 夫 提供者 妻 卵子提供 ( 規定なし ) 提供者 提供者 妻 胚提供 夫 妻 第三者 提供者 妻 第三者 代理懐胎 A ( ホストマザー 夫 提供者 第三者 IVF サロガシー Full サロガシー ) 提供者 提供者 第三者 夫 第三者 = 第三者 代理懐胎 B 代理懐胎 B 提供者 第三者 = 第三者 ( サロゲートマザー Partial サロガシー ) 50
体に内在するリスクを依頼者からみた第三者が全面的に負うことについての議論が必要であろう わが国における妊産婦死亡率は 出産 10 万に対して 4.1(2010 年 ) であり 3) 世界的にみるとトップレベルの良好な成績である しかしながら 現在 なお適切な医療介入がなければ死亡する可能性のあった妊産婦が出産 10 万に対して約 450 の比率で存在するという調査報告がある 4) この研究報告は 全国の周産期医療施設 333 施設を対象としてそれらの施設で一年間に取り扱った全分娩 124,595 例を詳細に分析し その結果を元に全国の全分娩例におけるリスクを検討したものである このように結果として生じた死亡以外にも範囲を広げると 分娩に伴う危険性の評価は容易ではない また 生命を脅かすような事態でなくても 出産した女性のその後の生活に少なからぬ影響を及ぼすような後遺症の生じる可能性も考えられる 厚生科学審議会生殖補助医療部会や日産婦が代理懐胎を容認しない理由として触れている身体的危険性 安全性とは このようにリスクの内在する妊娠 分娩を第三者が全面的に請け負うことである また妊娠した母体が 妊娠中に出産後の授乳への準備状態となり 母性の目覚めが起こるなど 生殖行動が出産で終了するのでなく育児につながる生物学的行動であることを考慮すると そのうちの妊娠 分娩の部分だけを経験し その後出生児から引き離される 懐胎女性の身体的 精神的ストレスへの配慮も必要となろう 2) 卵子提供 代理懐胎を依頼しうる対象者いわゆる医学的適応の範囲をどのように設定するか という問題であるが これは その技術を用いなければ子をもつことのできない女性 と容易に回答しうる 男女の性を変えれば 精子提供 AID の適応も同様である しかし その技術を用いなければ子をもつことのできない ことの評価は容易ではない 卵子の受精能力は卵巣予備能という名称で表現される 卵巣予備能は これから排卵する可能性のある原始卵胞が卵巣にどのくらい存在している かを示す指標ともいえる 卵子の受精能力がないと考えられる疾患 状態には 早発卵巣不全 小児期の癌治療既往 卵巣囊胞摘出など卵巣に対する手術の既往などが考えられており さまざまな評価法を用いて卵巣予備能の検討がなされる 従来最も広く使用される指標が血中卵胞刺激ホルモン (FSH) 値 今後その意義が高まると期待されているのが 血中抗ミュラー管ホルモン (AMH) 値である 他にも血中インヒビン B 値や超音波検査による胞状卵胞数 (AFC) などの指標があるが どの指標を用いても妊孕性の有無が明確に判断しうるわけではない つまり その女性の卵子に受精能力がなく卵子提供の適応であると判断するのは容易でなく その場における医師の判断に負うところが大きい ということになる また 加齢により妊孕性の低下した例を卵子提供の適応をみなしうるか否かという問題もある 代理懐胎の適応は 先天的または後天的な理由で子宮の存在しない女性 ( 絶対的適応 ) と考えられるが 子宮が存在していても実質的に妊娠しえない または合併症のため妊娠がきわめて危険であるような相対的適応の女性をどのように考えるか という問題が存在する 5, 6) 詰まるところ 合理的な理由により適応を決めることが可能か という点に帰着する このように 合理性をもって適応の範囲を定めるのは容易なことではない 通常の体外受精であっても 本来その技術でなければ妊娠しえない夫婦に対して行われることになっているのに 実際には 体外受精以外の方法で妊娠できないか否か十分に追求されているとは限らない 医療現場において 同様の判断により安易に卵子提供 代理懐胎へと進むことが危惧される 3) 卵子提供者 代理懐胎者の選び方精子の場合と異なり 卵子の採取には薬剤による卵巣刺激にともなうリスクや卵巣穿刺の際の出血 感染などのリスクが存在し 匿名の第三者に無償で依頼するのは困難である そのため 血縁者や知人への依頼や 有償の依頼となりがちである 代理懐胎の場合も前項で述べた妊娠 分娩に 51
ともなうリスクの存在から 有償となる傾向があり 無償の場合は血縁者 それも依頼女性の母親となることがある 卵子を有償で提供することになる場合 卵子は売買されることと同等であり 卵子に価値の高低がつけられることにつながる また 有償で代理懐胎を行うことが女性の搾取につながらないかとの批判も聞かれる 一方 血縁者 姉妹を対象とする場合 提供者となることを強制されるような圧力が加わることも予測される 4) 医療遂行上の問題点代理懐胎が導入された場合に多くの問題点が考えられる 代理懐胎で妊娠が成立した場合 生まれた子の遺伝子上の母親でありその子を将来育てることになる依頼女性と懐胎女性とが異なるということはさまざまなトラブルの原因となりかねない 依頼女性の望む行為を懐胎女性が受けたがらない場合として たまたま検査で胎児の致死的異常が判明し依頼女性が妊娠中絶を希望しても懐胎女性がそれを受けたがらない例が想定される 逆に懐胎女性にとって必要な医療行為を施すことを依頼女性が望まない場合として 妊娠中に異常が発生し 懐胎女性の救命のために妊娠中絶ないしきわめて早期に胎児を娩出させ妊娠を終息させなければならない時に 依頼女性がそれを望まない例などが想定される 配偶子提供でも 代理懐胎でも 分娩の経過や出生児が依頼者の期待したものと相違する場合に その責任を追及する行為や 出生児に対するネグレクトの行為の起こる可能性も指摘されている 代理懐胎における出生児の引き取り拒否の事例は海外からいくつも報告されている 代理懐胎が導入されることにより子宮の疾患に対する治療において子宮を摘出することのハードルが下がる可能性も考えられる 子宮筋腫に対する治療のうち治療後の妊孕性を確実に温存する目的で行われるのは 子宮筋腫核出術である しかしながら 核出する筋腫の大きさや数によっては 術後に妊娠の可能性は残っても 妊娠した場合に子宮破裂の危険など リスクの高い妊娠となるこ とが予想される場合もある このような場合に 代理懐胎の選択肢があるならば 子宮全摘術を選択する傾向になることも予想される 子宮頸癌や子宮体癌などの悪性腫瘍に対しても子宮体部を温存して妊孕性を保つ治療法が開発されてきているが 代理懐胎の選択肢の下には その必要性も低下する このように現在の婦人科医療全体に及ぼす影響も考えられる 3. 死後生殖に関する問題点 2001 年 5 月に ある女性が出産した その女性は 凍結保存されていた夫の精子を用いた体外受精により妊娠したのだが その夫は 1999 年 9 月に病死していた 女性は夫を父親とする出生届けを提出したが受理されず 死後の認知を求めた子からの提訴がなされた 最終的に最高裁は 2006 年 9 月に 父子関係を否定する決定をした 日産婦は 2007 年 4 月に見解を発表し 凍結精子は 本人が死亡したときには廃棄される として死後生殖を認めないことを明確にした 凍結精子が本人の死後も生殖の手段に利用されうることは想像に難くないが 裁判となるような事案が発生し 父子関係を認めないとの判決が下ったことによって初めて日産婦の見解が定められた 判決の理由として 懐胎時に死者であった者を子の父と呼ぶことが社会通念上認められないことと並んで 監護 養育 扶養を受けることが初めから無理であることがわかっている者との間に父子関係を結ぶことが 子の福祉にかなうと言えないということがあげられた この観点から 日産婦の見解は 父子関係の存在の有無以前に 死後生殖自体を禁止することが妥当と考えられたものであろう 一方 凍結受精卵については 凍結技術の実用化とともに凍結保存期間を依頼者夫婦の婚姻継続期間とすること および女性の生殖年齢を超えないこととする見解が発表され 間接的な表現ながら死後の使用は実質的に禁止されている また 未受精卵の凍結保存技術が可能になってきた時点で 未受精の卵子についても同様の見解が盛り込 52
まれた 配偶子を 死後生殖に利用することになると 優秀と考えられるような配偶子に対する付加価値が発生するなど 優生上の懸念が生じるおそれがある この点では 後段で述べる AID における精子の取扱いも同様である 海外では 死後生殖を禁止する国以外に容認する国もあるが 容認する国でも 夫の生前の同意が明らかである場合や死後年数や月数に制限を設けている場合が多い 4. 遺伝上の親を知る権利に関する問題点最近社会問題として取り上げられることが多くなっているのが AID で出生した子が その遺伝上の父を知りたい という事例である 日本でも 60 年以上にわたって続けられてきた AID は 精子提供者が匿名であることが前提であり 依頼者夫婦も提供者を知ることなく また生まれた子に精子提供者について知らせることもなかった しかし最近 正確な遺伝子診断での親子の鑑定が可能となり 養ってくれていた父親が実は遺伝上のつながりがないことを知る子が出てきた その事実を知った子の受ける精神的ダメージはアイデンティティクライシスと表現されることがあるが 本人以外は理解しにくいものであろう この論点について スウェーデンではもっとも早く検討が進み 1985 年 世界に先駆けて AID で生まれた子の遺伝的親の情報を知る権利を認める条文が制定された その後も提供者の情報開示を認める国が続いているが ベルギーやフランスのように 提供者のプライバシー保護の観点から提供者の情報開示を一切認めていない国もある 日本では従来 提供者のプライバシー保護および提供者の数の確保の観点から提供者の情報開示には否定的であったが 2003 年の厚生労働省生殖補助医療部会報告書では 子どものアイデンティティ確立のために提供者の情報の子への開示を認めるのが妥当であるとの報告がなされている しかし 子への情報開示が認められても 子自身が AID 児であることを知らなければ 開示の請求 がなされることはありえない 依頼者夫婦の多くが AID を受けたことを子どもに知らせない という調査結果もあり 7) まず親から子への告知が円滑になされることが必要である 開示される提供者の情報には 遺伝病の有無や結婚予定の相手との血縁の有無の問い合わせなど 提供者個人が特定できない情報から 個人が特定できる情報まで さまざまな段階のものが考えられる アイデンティティ確立という子どもの視点に立てば 個人が特定できる情報が必要と言えるのではないか 子への情報開示と AID 実施段階での提供者の匿名とは一見相反するようにみえるが 十分に両立しうるものである AID 実施段階では提供者の匿名性は確保されるべきであり 子への情報開示は子が一定の年齢になってから 子本人へなされるべきものと考えられる このように子への情報開示を行うには 子に対してどの年齢でどの情報まで開示するのか 開示すべき情報をどこでどのようにして保管するのか そもそも子本人に対してどのようにして告知するのか また提供者はどのような男性から選ぶべきなのか 提供者に対してどのような説明をして同意を得るべきなのか など制度を確立するうえで考慮すべき事項は多い 卵子提供 胚提供についても 同様の考察が必要であろう 5. 着床前診断に関する問題点着床前診断 (PGD) とは 体外受精によって発生した初期胚から一部の割球を取り出し 目的とする染色体や遺伝子の遺伝情報を調べる方法である 妊娠成立の前に診断して妊娠成立そのものを制御することができることから 生命の選択につながる可能性があるとして 日本では日産婦が示す見解に従って行われることとなっている 現在 その対象とされているのは 重篤な遺伝性疾患児を出産する可能性のある 遺伝子変異ならびに染色体異常を保因する場合 および均衡型染色体構造異常に起因すると考えられる習慣流産と反 53
復流産とされている ここでいう重篤という基準としては 成人に達する以前に著しい生活の制限がみられるものとされ この点は日産婦により症例ごとに厳格に審査されている 一方 着床前スクリーニング (PGS) は 特定の疾患をターゲットとせず 染色体の数的異常や性別を検索するものであり 重篤性とは無関係に生命を選別することにつながるとして 日産婦では認めていない また 最近のメタアナリシスでは PGS を行っても妊娠率や生児を得られる率の向上には寄与しない可能性が示されている 8) この領域は 児が障害をもって生まれてくる可能性を生まれる前にどこまで診断してよいのか その障害の重篤性はどの程度勘案されてよいのか そしてそれらを生まれる前に排除することが許されるのか など多くの倫理的課題を含んでおり 妊娠成立後に実施されるさまざまな出生前診断の手技とあわせて広い視点で議論されることが望まれる 6. 既存の価値観に縛られない家族をもつことに伴う問題点性同一性障害の女性が特例法の適用を受け戸籍上男性となり 他の女性と婚姻した後に精子提供を受けて AID により子をもうけた事案が発生した この子が戸籍上の性別変更を受けた者の嫡出子とは認められないとするのが法務省の見解である 9) この点は 現行民法上の嫡出子が実子であることを前提とする以上 元々女性であったことが戸籍上明らかな者が女性との間に実の子が生まれることはありえないので やむをえない判断であろう この場合にこの子を当事者夫婦の間に特別養子制度による縁組を行うことは可能である このほか海外では 同性愛カップル間で配偶子提供を受けての生殖医療により子をもうける例 独身女性が精子提供で子をもうける例がみられる 同性愛者同士の婚姻が制度として認められている地域もある 2008 年に日本人男性がインドで卵子提供を受けさらに代理懐胎により子をもうけ 日本人妻との離婚により出生子が一時インド から出国できなくなった事案は 独身男性がシングルファザーを目指した例と解することができる このように既存の価値観や法体系に予定されていなかった生殖行動が 現在の生殖医療を行うことによって可能となっている このような場合に医師は技術者として依頼者の要求に応じるだけでよいのか 答えは簡単に導き出せない おわりに 生殖医療は 妊娠して次の世代を誕生させることが目標であるが 従来医師を訪れる不妊患者の要望のみに基づいて医療が遂行されがちで 新しく生まれる世代が意思を有する一つの人格として重んじられることはなかった 依頼者男女にとっては自分たちの子どもであっても その子どもは世代の差を有するだけの対等な一つの人格である 生殖医療の場においては 子どもを欲する男女 新たに生まれてくる一人の人間 さらに関与する第三者がある場合はその第三者 これらのいずれもが尊重されるしくみが求められており 中でも新たに生まれる 子ども の福祉にかなうことが最も重要であろう 文献 1.Söderström-Anttila V, Pregnancy and child outcome after oocyte donation, Hum Reprod Update, 7(1):28-32, 2001 2.van der Hoorn MLP, Lashley EELO, Bianchi DW, Claas FHJ, Schonkeren CMC, Scherjon SA, Clinical and immunologic aspects of egg donation pregnancies: a systematic review, Hum Reprod Update, 16(6):704-712, 2010 3. 国立社会保障 人口問題研究所 人口統計資料集 2012 年版 表 5-28 2012 4. 久保隆彦 妊産婦死亡を含めた重症管理妊産婦調査 厚生労働科学研究費補助金医療技術評価総合研究事業 産科領域における医療事故の解析と予防対策 平成 18 年度総括 分担研究報告書 ( 主任研究者 : 中林正雄 ) 26-40 2007 5. 久具宏司 ART と倫理 産科と婦人科 75 (10):1273-1283 2008 6.Shenfield F, Pennings G, Cohen J, Devroey P, de Wert G, Tarlatzis B, ESHRE Task Force on Ethics and Law, ESHRE Task Force on Ethics 54
and Law 10: surrogacy, Hum Reprod, 20 (10):2705-2707, 2005 7. 久慈直昭 水澤友利 吉田宏之 吉村泰典 非配偶者間人工授精による不妊治療と家族 産科と婦人科 72(10):1241-1249 2005 8.Mastenbroek S, Twisk M, van der Veen F, Repping S, Preimplantation genetic screening: a systematic review and meta-analysis of RCTs, Hum Reprod Update, 17(4):454-466, 2011 9. 久具宏司 性同一性障害と生殖医療 :AID 問題を考える 日本産科婦人科学会雑誌 64(9):N234-237 2012 * * * 55