核融合発電 実現に向けて 所属 : 工学系 2 年 8 組 25 番橋詰遼太 第 1 章はじめに 第 1 節主題設定の理由地球温暖化が問題視される中 原子力発電は火力発電に代わる主力エネルギー源として期待されていた しかし福島第一原子力発電所の事故の影響で風向きが大きく変わり 新たな発電方法が必要とされている 知名度は低いが その候補の一つとして核融合発電が挙げられる 核融合発電は 二酸化炭素を排出せず大規模な発電が可能なエネルギー源である 太陽光発電や風力発電といった他のクリーンエネルギーは一部実用化されているが 核融合発電は研究段階である 核融合発電がエネルギー問題の解決策となるのか知りたいと思い このテーマを設定した 第 2 節研究のねらい 現在 様々な化石燃料代替エネルギーが研究されている 核融合発電は次世代のエネ ルギーとしてふさわしいのかを検証する 第 3 節研究の見通し 現在の日本のエネルギー事情について調べ 核融合発電の長所 短所を明らかにして 実用化について考察する 第 4 節研究の内容と方法 1 研究の内容核融合発電の利点 問題点 実現までの課題 2 研究の方法書籍 インターネット 第 2 章研究の展開 第 1 節現在のエネルギー事情震災以前は火力発電が約 6 割 原子力発電が約 3 割であった 2012 年は原発停止の影響で 火力発電が 8 割を超えている ( 図 1) クリーンエネルギーはまだあまり普及していない 2013 年 11 月の統計によると 石油 石炭 液化天然ガスの輸入額は 2010 年 11 月と比べて 63% 増となっている 火力発電用の燃料の増加に加え円安も加担している 燃料価格は大きく変位するため 状況によっては火力発電の発電コストは高くなる 燃料を輸入に依存している日本にとって火力発電が高い割合を占めている現状は危険である 1
100% 8.8 9.4 9.7 10.4 10.0 80% 60% 40% 65.2 61.3 61.7 78.9 88.3 その他 火力発電 原子力発電 20% 0% 26.0 29.3 28.6 10.7 1.7 2008 2009 2010 2011 2012 図 1: 電源別発電量構成比 第 2 節核融合発電の特徴 1. 仕組み核融合発電で用いる核融合反応は 重水素 2 H とトリチウム ( 三重水素 ) 3 H によるものである 重水素の原子核とトリチウムの原子核は互いに +の電気を持っているため 秒速 1000km まで加速させて 原子核の反発力が働く前に衝突させる この衝突でヘリウム原子核と中性子が生じる ( 図 2) 反応の際には非常に大きなエネルギーが発生する 核融合発電ではこの反応を核融合炉内で起こしてエネルギーを取り出す 反応を維持するために投入されたエネルギーより生成されたエネルギーが上回れば 発電が可能になる 核融合炉には様々な種類があるが ここでは現在最も研究が進んでいると言われている トカマク型 について説明したい まず炉内で重水素とトリチウムを加熱して プラズマ にする必要がある プラズマ とは原子が原子核と電子に分離し 超高温ガスとして混在している状態である プラズマ の粒子の密度は大気の 10 万分の1しかないので 炉内の プラズマ の質量は 1g 程度である さらにこの プラズマ を 1 億 以上の超高温にすることで前述の核融合反応が起こる 1 億 に耐えられる材料は存在しないため プラズマ を磁力で容器内に浮かせる 反応で生じたエネルギーの 80% は中性子の運動エネルギーであり ブランケット とよばれる炉を囲む厚い壁で中性子の運動エネルギーを熱エネルギーに変換する ブランケット 内には高圧冷却水が流れていて 熱を奪い取る 高圧冷却水は蒸気になり タービンを用いて発電機を回す 熱を蒸気にしてタービンを回す過程は 原子力発電と共通である ブランケット にはリチウムが含まれていて 中性子との反応でトリチウム( 三重水素 ) が生成される 生成されたトリチウムは燃料として使われる 2
図 2: 核融合反応 図 3: トカマク型核融合炉 (ITER) の内部構造 出典 Newton 別冊アインシュタインの世界一有名な式 E=mc 2 P. 64 65 2. 利点 発電量実用炉では 100kW 級の出力が見込まれている 火力発電 1 基の出力は 100~150 万 kw 程度なので 十分代替となりうる 核融合反応が発するエネルギーは莫大であり 200kg の燃料で出力 100 万 kw の発電所を 1 年間運転できる 二酸化炭素排出ゼロ核融合発電は火力発電のように燃料を燃焼させないため二酸化炭素を排出しない 火力発電を核融合発電に置き換えられれば 地球温暖化対策として有効である 無限の燃料最大のメリットは燃料となる資源が無尽蔵に存在し 化石燃料のような枯渇の心配がないことである トリチウムは自然界では非常に希少な物質であるが 前述の通り ブランケット で生成することができる よって核融合発電の運転で必要な燃料は重水素とリチウムである 重水素とリチウムはともに海水中に豊富に存在しているため 抽出が可能になれば地上での採掘に依存する必要がなくなる 安全性原子力発電のような暴走が起こらない 核融合反応は連鎖反応の核分裂反応と異なり 1 億 という厳しい条件下でないと反応を維持することができない 異物が燃料に混入するなどの異常が起きたとしても 一気に温度が下がり反応が止まってしまう 原子力発電は一定量の燃料を容器の中に閉じ込めて反応を起こすのに対して 核融合発電では常に燃料を炉に供給して反応させている 異常を察知した瞬間に燃料の供給を止めて反応を停止させることができる 3
3. 問題点 電磁波プラズマを制御するコイルの電磁波が強力である 特殊な材料を使って 磁力の耐えられる構造にする必要がある 電磁波は距離の 2 乗に反比例して減衰することや 運転の時は炉の周辺が無人化するため 人に大きな影響は与えることはないと考えられている 放射性廃棄物放射性廃棄物が生じてしまうことは大きな課題である 中性子は炉の壁や鋼材などを放射化する特性がある 定期的に交換する必要がある機器の中には 高レベル放射性廃棄物となるものも出てくる 放射性の減衰時間が短い低放射化材料が開発されれば 放射性廃棄物を減らすことができる また 原子力発電よりも放射性廃棄物は少なくできると予測されている 第 3 節核融合発電実用化に向けて 1. 技術的課題 超伝導コイル プラズマ を浮かせるためには超伝導コイルが必要とされている 従来の実験炉で使用されてきた銅のコイルでは強力な磁場を発生することができないため 持続運転が困難だった 超伝導コイルは低温にすると抵抗がゼロになり 超強力な磁力を発生させる 通常のコイルでは 強い磁場を発生させるために大きな電流を流す必要があるが 超伝導コイルでは冷却装置の電気だけで済む 強い磁場を発生できる超伝導コイルの開発が必要である 中性粒子ビーム プラズマ の加熱装置の研究が必要である 加熱装置として用いられるのは 中性粒子ビーム である 炉の強い磁場によって反発されないように 中性化した負イオンを加速させてプラズマに到達させる 長時間の照射が課題であり プラズマ の保持時間は中性粒子ビームの連続照射時間にかかっている 材料安全性を確保するためには材料の開発も欠かせない 前述の通り できるだけ部材を放射化させないために低放射化材料が必要である 炉壁は特に放射化されやすいため材料の選定がされている 現在 青森県に材料開発ための研究施設が建設されている また中性子は建屋まで到達するため 低放射化コンクリートも必要である 低放射化コンクリートは原子力発電所でも使われているため応用できる ロボット工学中性子にさらされ続ける ブランケット は数年おきに交換が必要である 炉の中心部は放射線量が非常に高いためロボットによる交換作業になる 1 個 4 トンの ブランケット を遠隔操作で取り付け 取り外しをしなければならないので 高度な技術が要求される 4
燃料比較的少量の燃料で運転できるため 重水素 リチウムの確保は難しくないと考えられている 重水素は水素から生成することができる しかし地下資源のリチウムは いつかは枯渇してしまう そこで海水から重水素とリチウムを生成する方法が研究されている 海水中には重水素 リチウムともに豊富に含まれているため この技術が確立すれば無限に燃料を確保できる イーター 2. 国際熱核融合実験炉 ITER ITER は核融合エネルギーの研究のための実験施設である フランスのカダラ ッシュに建設中で 2018 年に完成予定である 日本 EU ロシア アメリカ 中国 韓国 インドが協力する国際事業である 中でも日本は早くから核融合の研究を進 めているため技術力があり ITER 計画では主導的地位にある プラズマ の閉じ込め方式は トカマク型 である 図 3 の人との比較で分か る通り 実験施設としては非常に巨大で 直径は 26m である 出力は 50~70 万 kw を目指している 反応を起こすために投入するエネルギーの 10 倍のエネルギーを発 生させることを目標としている 中性子や磁力による炉や ブランケット への影 響や損傷具合のデータを取ることも目的である 今までの実験炉では発電を目的と したものではなかったが ITER では初めて発電に向けた実験を行う ブランケッ ト の熱を取り出す技術の向上が必要である また ITER で培われた技術による波及効果もある 例えばプラズマの加熱に使 われる 中性粒子ビーム はハードディスク製造用機械に応用されている 超伝導 コイルは医療用の MRI の高性能化に寄与する 3. これからの見通し実用化までに 実験炉 発電実証炉 実用炉という手順を踏まなければならない ITER は実験炉に当たるのでまだ先は長い 2027 年に ITER で重水素とトリチウムを使った運転が開始される見込みである 実用炉の商業運転開始は 2050 年以降とみられている それまでに前述の特殊な材料を開発しなければならない また 実用炉として発電するためには エネルギー増倍率 を Q=20 まで引き上げる必要がある つまり プラズマ の加熱のために投入されるエネルギーの 20 倍のエネルギーが出力されるということである ITER の目標値は Q=10 であり Q=20 まで引き上げるためには 炉の耐久性を向上させる工学とプラズマ物理の発展が欠かせない 第 3 章まとめ 調査をする前までは核融合発電というと原子力発電が頭に浮かんで どこかしら危険な面があるだろうと思っていた 調査を進めていくと原理的に原子力発電のような爆発事故は暴走が起こらないことが分かり 原子力発電並みの出力があることや二酸化炭素も排出しないことから これこそ将来のエネルギーとしてふさわしいのではないかと思うように 5
なった しかしまだ問題も多い 放射性廃棄物が出ることには違いなく 決して完璧な発電方法とはいえない 放射性廃棄物の処理能力を向上できればより主力エネルギー源としての可能性が高くなると思う 核融合発電は新材料の開発が成功することが前提のため これからますます材料の研究が重要になると思う 長期にわたる計画であり 先を見越した研究が必要である 実用化されるのは最短でも 2050 年なので ちょうど自分たちの代がつくり上げていくプロジェクトだと思う 調べていた中で疑問に思ったのは 核融合反応で作られた熱エネルギーを 従来の発電方法のように蒸気タービンを使って発電していることである 炉などの中心部は相当高度な技術でありながら 熱エネルギーの変換方法が変わっていないのは不釣り合いに感じた 現在の技術では蒸気タービンが最も効率よく変換できるらしいが 他の方法も研究の余地があると思う 本論では書かなかったが 技術的な問題以外では研究費が重要である ITER 計画では 1.6 兆円かかると言われている 費用に関しては政治的なことも大きくかかわってくる 数十年先の計画のために莫大な研究費を投じるのはリスクが高いように感じられるが 環境問題とエネルギー問題は早急に取り組む必要があると思う また 世界の技術を結集させる必要があり 国際間の連携が非常に重要である 海水から燃料の重水素とリチウムの抽出ができれば 資源乏しい日本でもエネルギーの自給が可能になる また 資源をめぐる争いがなくなり 核融合発電はエネルギー問題の解決の一助となるだろう 核融合発電が実用化されるのは 40 年以上先であり それまでは既存の発電方法と太陽光発電などのクリーンエネルギーを併用することになると思う 現在の快適な生活がエネルギーによって成り立っていることを実感し 個人個人が将来の日本のエネルギーを考えることが大切である < 参考文献 > 狐崎昌雄 吉川庄一 新核融合への挑戦いよいよ核融合炉へ 講談社 Newton 別冊アインシュタインの世界一有名な式 E=mc 2 ニュートンプレス < 参考 Web ページ> http://www.fepc.or.jp/about_us/pr/sonota/ icsfiles/afieldfile/2013/05/17/ kouseihi_2012.pdf( 電気事業連合会 ) http://www.nikkei.com/article/dgxnasfs18026_y3a211c1000000/( 日本経済新聞 ) http://www.naka.jaea.go.jp/iter/( 国際熱核融合実験炉 ITER) http://www.nikkan.co.jp/news/nkx1520130403afaf.html( 日刊工業新聞 ) http://ja.wikipedia.org/wiki/%e6%a0%b8%e8%9e%8d%e5%90%88%e7%82%89 (Wikipedia 核融合炉 ) 6
http://ja.wikipedia.org/wiki/%e3%83%96%e3%83%a9%e3%83%b3%e3%82%b1%e3%83%83%e3 %83%88(Wikipedia ブランケット ) http://ja.wikipedia.org/wiki/iter(wikipedia ITER) 7