3 子どもに多くみられる感染症 子どもは様々な感染症にかかる可能性があります 職員が病気についての正しい知識をもつことは 感染症予防対策 拡大防止策を検討するために必要です 病気の基礎知識を整理する 特徴的な症状を確認し 早期発見に努める 感染症が発生したとき 感染性のあるもの として特に注意しなければいけないものは何か? 遮断する感染経路は何か? どれ位の間 感染力を持っているのか? 感染症を発症した人としたとき 感染したかどうか 早期発見のために どういう症状を観察したらよいか? など 子どもに多くみられる感染症を一覧表 (p16 参照 ) にまとめました この一覧表を理解するにあたり必要な項目について解説を加えます 用語 潜伏期 感染性のあるもの感染性のある期間 感染経路 意味 解釈体内に侵入した病原体が一定量に達して発症するまでの期間患者にした場合 潜伏期を超えて症状が出現しなければ 病気をもらわなかった と考えられる 病原体が含まれている患者の血液 体液等の種類 患者の血液 体液等に病原体がいる= 感染力がある期間症状の有無とは必ずしも一致しない一つの病気に複数の感染経路がある場合もあるここでは代表的なものを挙げた -15 -
子どもに多くみられる感染症 疾患名特徴潜伏期病原体主な症状 インフルエンザ 通常 冬に流行し 発生のピークは 1 月下旬から 2 月の初め学童期が最もかかりやすい 18 ~72 時間 インフルエンザウイルス 突然の発熱で始まり 38 を超える高熱となる 発熱は 3 日間程度続き その間 頭痛 筋肉痛 腰痛等を伴う解熱後も咳が続く 麻疹 ( はしか ) 予防接種の導入により 好発年齢は 2 歳以下のワクチン未接種者最近はほとんど流行がなく 散発例が多い 10~11 日 麻疹ウイルス 発熱と咳 鼻水などのかぜ症状で始まり 2~3 日続いた後 発疹が耳の後部や首のあたりから始まり全身に広がる発疹がでると 4~5 日で熱が下がる発疹が終わりに近づくと咳がひどくなる 第二種伝染病 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 風疹 ( 三日ばしか ) 冬から春にかけて流行し 4~5 歳に多く見られる感受性のある人への感染は 80~90% である 春 ~ 初夏に多くみられ 学童 ~ 思春期に多い数年ごとに流行 予防接種の普及により 患者数は少ない 14~21 日 14~21 日 ムンプスウイルス 風疹ウイルス 発熱 だるさ 頭痛 耳下腺の腫れが生じ ものをたべるときにあごに痛みがあると訴えることが多い 発疹 ( 顔 体 全身 ) 頚部 耳介後部リンパ節の腫脹発疹は 3 日ほどで消失する 水痘 ( みずぼうそう ) 冬 ~ 春に多い 8 歳以下の発生が多い 10~21 日 水痘ー帯状疱疹ウイルス 全身に発疹 ( 毛髪部 口腔内にも ) を生じ 発熱も伴う発疹は水疱となり 痂皮化する ( かさぶたのようになる ) 咽頭結膜熱 ( プール熱 ) 夏に多く 8 月がピーク 小児 特に 5 歳以下に多い学校 ( 特にプール ) などで ときに集団感染が見られる 3~5 日 アデノウイルス 39 前後の発熱 のどの痛み 結膜炎 腸管出血性大腸菌感染症 (O-157 など ) 6~10 月の高温期に多くみられる集団発生と散発の発生がある 2~9 日 ( 多くは 2~5 日 ) 腸管出血性大腸菌 下痢 ( 血便に移行することもある ) 腹痛 吐き気 嘔吐もみ見られる合併症 : 溶血性尿毒症症候群 ( 患者の 2~15%) 症状は尿量の減少や血尿 貧血など 流行性角結膜炎 病原体の種類が何種類かあり ほとんどが夏にピークを示すが 秋 ~ 冬にみられれる場合もある全年齢層で発症する 5~12 日 アデノウイルス 流涙 目の充血 目やにが主症状 耳前リンパ節腫脹と圧痛を認める片眼に発症して 2,3 日後に両眼に発症 A 群溶血性連鎖球菌咽頭炎 幼児 学童期に好発する 1 年中発生が見られる 1~7 日 A 群溶血性レンサ球菌 高熱 のどの痛み 小児はおう吐, 腹痛など 第三種伝染病 手足口病 夏に多く 7 月がピーク 乳幼児期 (4 歳以下 ) に好発する 2~7 日 ( 平均 3 日 ) コクサッキーウイルスエンテロウイルス 頬の粘膜 手の平 足の裏などに小水疱を形成小水疱は痂皮 ( かさぶた ) を形成しないで治る 伝染性紅斑 ( りんご病 ) 小学校で流行することが多い数年に一度 大流行する 17~18 日 ヒトパルボウイルス 左右の頬のびまん性紅斑 ( りんごほっぺ病 ) 四肢の網目状の紅斑 ヘルパンギーナ 7 月をピークとし 夏に多い乳幼児期 (4 歳以下 ) に好発する 2~7 日 ( 平均 3 日 ) コクサッキーウイルス 突然の発熱 咽頭痛 口蓋垂付近の小水疱疹 ウイルス性胃腸炎 冬季に好発し 時として食中毒的な集団発生をおこす腸管アデノウイルスによるものは 年間通し散発的 1~3 日にみられるロタ 腸管アデノウイルスは乳幼児に好発する ノロウイルスロタウイルスアデノウイルスなど おう吐 下痢が主症状 発熱を伴うことがあるノロウイルスでは 1~2 日 ロタウイルスでは 5~6 日 アデノウイルスでは 9~12 日程度症状が続く その他 伝染性軟属腫 ( 水いぼ ) アタマジラミ 夏に多い 学校 保育施設などで集団発生が見られる 参考文献 : 東京都感染症マニュアル 感染症予防必携 2~6 週 伝染性軟属腫ウイルス 中心にくぼみをもつ半球状の皮疹 痒み 痛みはない いじると広がる 卵は1 週間でふ化して幼虫ヒトジラミヒトジラミが頭髪 とくに耳後部 後頭部に寄生し吸血したになり 1~2 ( 体長 2~4mm) 部位にかゆみを生じる週間程度で成虫になる -16 -
治療 感染性があるもの 主な感染経路 予防接種と拡大しないための予防策 感染性のある期間等 抗インフルエンザ薬の投与 (48 時間以内 ) 咳 くしゃみ飛沫鼻咽頭分泌物 予防接種 ( 任意 ) 効果 : 接種後 2 週間で効果が現れ 接種後 5 ヶ月間 発症予防効果がある 流行期に高熱がでたら 早めの受診 外出時のマスク着用 うがい 手洗いの励行 室内の適度な湿度を保つ 発症後 2~5 日間 空気 予防接種 ( 定期 ) 予防接種を受けていない場合 後 3 日以内にワクチンを接種すれば発症予防効果がある 発症後 1~2 日 ~ 発疹後 4~5 日まで 唾液 予防接種 ( 任意 ) 後にワクチン接種しても発症予防効果はない ウイルス排泄期間は 発症数日前から症状出現後 9 日まで主な感染期間は発症 2 日前 ~ 症状出現後 5 日後まで 予防接種 ( 定期 ) 発疹出現 7 日前から出現後 5 日間 水疱内容物 空気 予防接種 ( 任意 ) 後 3 日以内にワクチンを接種すれば 発症予防ないしは軽症化できる 発疹出現 1 日前から発疹が痂皮化するまで 抗菌薬点眼 抗菌薬の投与 便 経口 タオルは共用しない うがい 手洗いを徹底する 患児が触れた物はアルコール等の消毒液で拭く プールの前後はシャワーをあびるでた後は目をしっかりと洗い うがいをする 食品を十分に加熱 (75 で1 分以上 ) する 調理器具の清潔 トイレの後 食事 調理前の手洗いの励行 患者の便で汚染された衣類などの消毒手の触れたドアノブなどの消毒 結膜炎治まった後も ウイルスは咽頭から発症後 7~14 日 便から約 1 ヶ月間程度排泄する 排菌期間は 発症から 1 週間過ぎると明らかに減少 抗菌薬点眼低濃度あるいは目の分泌物非ステロイド点眼 手洗いの徹底 タオルは共用しない 患者に使用した器具類等や患者の触れたものの消毒 結膜炎症状のある間 ( 発症後約 2 週間 ) 抗生剤の投与 咽頭分泌物便 経口飛沫 外出後のうがいの実施 潜伏期と症状消失までを含め約 10 日間前後 適正な抗生剤を早期使用で 1~2 日以内に感染性消失 鼻咽頭分泌物便 経口飛沫 主に急性期ウイルスは数週間 便中に存在 通常 特別な治療を必要としない 咽頭分泌物尿便 飛沫 発疹がでてきた時期は感染力がないので感染予防は特にない 発疹が出現する頃にはウイルスの排泄は終わっている 鼻咽頭分泌物便 飛沫 主に急性期ウイルスは数週間 便中に存在 便吐物 経口飛沫 トイレ後 食事や調理前の石けん 流水による手洗い 排泄物 吐物の処理と処理後の消毒 ドアノブなど手の触れる部分の消毒 ロタウイルス : 発症後 1 週間有症状時 3~4 日が最大に排泄ノロウイルス : 感染後 1 週間程度便に排出アデノウイルス :10~14 日便に排泄する急性期には大量のウイルス排泄 ピンセットでつまんで 内容の圧出 皮疹 タオルは共用しない 手洗いを徹底する プールの前後はシャワー等で体を洗う 皮疹の見られる間 治療薬 ( パウダーかシャンプー ) の外用 頭髪 頭髪の観察 早期発見と駆除 帽子 ブラシ クシ タオル等の共用をさける 感染者の衣服 タオルなどの熱処理 ( 熱湯につける アイロンをかけるなど ) 卵から成虫まで いずれも感染する -17 -
4 感染症発生時の対応 感染症が発生した時に備えて 子どもの名簿 職員の連絡簿 嘱託医の連絡先等を整備 し いつでも連絡できる体制をつくっておきましょう また 感染症発生時のフローチャ ートを作成するなど 職員一人ひとりが いつでも対応できるようにしておきましょう (1) 感染症かな? と思ったら ( フローチャート図 ) 例 ) 同じ症状でお休みしている子が多い 気づき! 登園している子どもの中に体調の悪い子が多い 体調不良の子どもの具体的な状況を調査する誰から :1 保護者 : 欠席の電話連絡時などに状態を把握する 2 他の職員 : 他に体調不良の子どもや職員がいないか確認する何を :1いつから? どんな症状? 何人? 例 : 便の様子 ( 硬さ 回数 色 臭い 消化など ) は? 発熱は何度? 嘔吐は何回? 咳の有無その他の症状 2 受診結果など 症状が重い人で受診していない場合は受診をすすめる 管理者へ報告する 嘱託医に相談する 市町村の担当課や保健所に報告 相談 施設内での対策の検討 発生状況等の情報を職員間で共有をする 感染拡大予防策をたてる 手洗いの徹底など具体的に考える 保護者への周知を検討する : 発生状況を説明し 感染予防についての協力依頼をする 子どもの健康観察を継続するための体制づくりを検討する必要により行事の延期や変更などを検討する -18 -
(2) 保健所への報告 相談施設内で感染症が発生した場合 保健所は 感染症発生の原因や感染経路 感染症予防対策について施設の協力を得ながら一緒に考えて対応します 厚生労働省通知 ( 平成 17 年 2 月 22 日付 )(p54 参照 ) 社会福祉施設等の施設長は 次のア イ又はウの場合は 市町村等の社会福祉施設等主管部局に迅速に 感染症又は食中毒が疑われる物等の人数 症状 対応状況等を報告するとともに 併せて保健所に報告し 指示を求めるなどの措置を講ずること ア同一の感染症もしくは食中毒による又はそれらによると思われる死亡者又は重篤患者が1 週間内に2 名以上発生した場合イ同一の感染症もしくは食中毒の患者又はそれらが疑われるものが 10 名以上又は全利用者の半数以上発生した場合ウア及びイに該当しない場合であっても 通常の発生動向を上回る感染症等の発生が疑われ 特に施設長が報告を必要と認めた場合報告基準に満たない場合でも ご相談に応じています (3) 保健所の対応施設からの報告を受け 集団発生が疑われる場合 訪問調査を行います 発生状況などを把握し 感染源や感染経路の推定を行い 感染拡大を防止するための感染予防対策の相談や助言を行ないます 1 調査の項目 施設の概要についてクラスごとの子どもの数 職員数 施設の図面 行事など 発生状況 発生した階 クラスごとにまとめる発症日時 症状 発症者数 発症場所 受診状況とその結果 発症前 1 週間のクラス別の出欠状況と欠席者の症状 登園者の有症状の状況 職員の健康状態 2 原因の調査調査に基づいて必要な場合 ふん便検査 ふき取り検査等の協力依頼 3 感染拡大予防の助言感染症の知識などの情報提供手洗い 消毒方法 場所などの具体的な予防方法 4 保護者等への周知についての情報提供 5 健康観察の継続についての協力依頼 -19 -