物質科学的研究・観測的研究で探る惑星系の誕生と進化

Similar documents
高軌道傾斜角を持つメインベルト 小惑星の可視光分光観測

陦ィ邏・3

Microsoft PowerPoint - 科学ワインバー#2

銀河風の定常解

FdText理科1年

太陽系における地球型惑星の水の起源ーー惑星形成の大域シミュレーションーー 小南淳子 ( 東京工業大学地球生命研究所 ) 台坂博 ( 一橋 ) 似鳥啓吾 ( 理研 ) 牧野淳一郎 ( 東工大 )

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

スライド 1

論文の内容の要旨

ブラックホールを コンピュータ上で 創る 柴田大 ( 京都大学基礎物理学研究所 )

Slide 1

A4パンフ

week1_all

< F30355F95AA90CD89BB8A7789EF93A2985F89EF95CA8DFB5F944F8D5A2E706466>

Gifu University Faculty of Engineering

スーパー地球の熱進化と 磁場の寿命 立浪千尋 千秋博紀 井田茂 衛星系形成小研究会 2012 小樽

WTENK5-6_26265.pdf

Akita University 氏名 ( 本籍 ) 若林 誉 ( 三重県 ) 専攻分野の名称 博士 ( 工学 ) 学位記番号 工博甲第 209 号 学位授与の日付 平成 26 年 3 月 22 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 研究科 専攻 工学資源学研究科 ( 機能物質工学

PowerPoint プレゼンテーション

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

H20マナビスト自主企画講座「市民のための科学せミナー」

基礎化学 Ⅰ 第 5 講原子量とモル数 第 5 講原子量とモル数 1 原子量 (1) 相対質量 まず, 大きさの復習から 原子 ピンポン玉 原子の直径は, 約 1 億分の 1cm ( 第 1 講 ) 原子とピンポン玉の関係は, ピンポン玉と地球の関係と同じくらいの大きさです 地球 では, 原子 1

早稲田大学大学院日本語教育研究科 修士論文概要書 論文題目 ネパール人日本語学習者による日本語のリズム生成 大熊伊宗 2018 年 3 月

Xamテスト作成用テンプレート

Microsoft PowerPoint - システム創成学基礎2.ppt [互換モード]

2014 年度大学入試センター試験解説 化学 Ⅰ 第 1 問物質の構成 1 問 1 a 1 g に含まれる分子 ( 分子量 M) の数は, アボガドロ定数を N A /mol とすると M N A 個 と表すことができる よって, 分子量 M が最も小さい分子の分子数が最も多い 分 子量は, 1 H

理 Ⅲ-13_ 力の法則 2 力と同じはたらきをする1つの力を求めること 2 力を合成した力 1つの力を, これと同じはたらきをする2 力に分けること 1つの力を分解して求めた2つの力のそれぞれ 角度をもってはたらく2 力の合力は,2 力を2 辺とする平行四辺形の対角線で表されること 2

NRO談話会 key

論文題目 大学生のお金に対する信念が家計管理と社会参加に果たす役割 氏名 渡辺伸子 論文概要本論文では, お金に対する態度の中でも認知的な面での個人差を お金に対する信念 と呼び, お金に対する信念が家計管理および社会参加の領域でどのような役割を果たしているか明らかにすることを目指した つまり, お

Microsoft PowerPoint _HiZ-GUNDAM答申文書案説明および議論_v02.pptx

化学結合が推定できる表面分析 X線光電子分光法

Microsoft PowerPoint - 電装研_2波長赤外線センサを用いた2波長融合処理について

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

Microsoft PowerPoint - komaba ppt [互換モード]

<4D F736F F F696E74202D A E90B6979D89C8816B91E63195AA96EC816C82DC82C682DF8D758DC03189BB8A7795CF89BB82C68CB48E AA8E E9197BF2E >

Microsoft PowerPoint - 熱力学Ⅱ2FreeEnergy2012HP.ppt [互換モード]

表紙.indd

観測的宇宙論

Microsoft PowerPoint 第8回ライトカーブ研究会_並木則行.ppt

Microsoft Word - t30_西_修正__ doc

官能基の酸化レベルと官能基相互変換 還元 酸化 炭化水素 アルコール アルデヒド, ケトン カルボン酸 炭酸 H R R' H H R' R OH H R' R OR'' H R' R Br H R' R NH 2 H R' R SR' R" O R R' RO OR R R' アセタール RS S

木村の理論化学小ネタ 熱化学方程式と反応熱の分類発熱反応と吸熱反応化学反応は, 反応の前後の物質のエネルギーが異なるため, エネルギーの出入りを伴い, それが, 熱 光 電気などのエネルギーの形で現れる とくに, 化学変化と熱エネルギーの関

PowerPoint プレゼンテーション

宇宙のロマン   火星はどんなとこ?   ハヤブサが行く小惑星リューグウとは?

NASAの惑星データベース(PDS)

() 実験 Ⅱ. 太陽の寿命を計算する 秒あたりに太陽が放出している全エネルギー量を計測データをもとに求める 太陽の放出エネルギーの起源は, 水素の原子核 4 個が核融合しヘリウムになるときのエネルギーと仮定し, 質量とエネルギーの等価性から 回の核融合で放出される全放射エネルギーを求める 3.から

地学A 2004年4月9日 小出良幸

化学 1( 応用生物 生命健康科 現代教育学部 ) ( 解答番号 1 ~ 29 ) Ⅰ 化学結合に関する ⑴~⑶ の文章を読み, 下の問い ( 問 1~5) に答えよ ⑴ 塩化ナトリウム中では, ナトリウムイオン Na + と塩化物イオン Cl - が静電気的な引力で結び ついている このような陽イ

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

( 続紙 1) 京都大学博士 ( 教育学 ) 氏名小山内秀和 論文題目 物語世界への没入体験 - 測定ツールの開発と読解における役割 - ( 論文内容の要旨 ) 本論文は, 読者が物語世界に没入する体験を明らかにする測定ツールを開発し, 読解における役割を実証的に解明した認知心理学的研究である 8

たんぽぽ計画の運用・試料分析についてverL

スライド 1

Microsoft Word - note02.doc

QOBU1011_40.pdf


Transcription:

94 日本惑星科学会誌 Vol.16.No.2,2007 特集 物質科学的研究 観測的研究で探る惑星系の誕生と進化 物質科学的研究 観測的研究で探る惑星系 の誕生と進化 橘 省吾 1 要旨 特集 物質科学的研究 観測的研究で探る惑星系の誕生と進化 では 原始惑星系円盤での惑星材料物質 の進化に関わる室内実験 太陽系の誕生や進化を解明することを目指す太陽系物質の分析 星 惑星系形成領域 や系外原始惑星系円盤内の固体物質に関する最新の観測結果を紹介する 本稿では 特集記事を概観しつつ 物 質科学的研究 観測的研究の融合により 惑星系の誕生や進化に関する問題を物質科学的に一般化し その中に 太陽系の誕生 進化を位置づけるための展望を述べる 太陽系はいかにして多彩な惑星たちを持つに至った った低温物質の化学状態の違いが重要となる[3] こ のだろうか その誕生や進化の過程は他の惑星系と似 のような惑星に見られる化学的多様性の多くは 惑星 たようなものだったのだろうか それとも特殊なもの 誕生から初期進化までのプロセスによって決まり 初 だったのだろうか 期太陽系円盤において惑星の材料となった物質の空間 多彩 と表現したように 太陽系の惑星はカラフ 的 時間的多様性がいかにしてつくられたか 微惑星 ルで個性的である 青白く輝く pale blue dot [1] 地 原始惑星の形成および原始惑星の衝突やマグマオーシ 球 戦火や血を連想させる赤さゆえ軍神マルスの名が ャンの形成といった惑星形成 初期進化過程で初期の 付けられた火星 濃硫酸や硫黄のエアロゾルによって 化学的多様性がどのように伝播され また変化したか 薄黄色に明るく輝く金星 分厚い大気中の有機化合物 という問題として捉えることができる のもやのためにオレンジ色や青色に見える木星型惑星 太陽系において惑星の多様性がいかにして生まれた これら多彩な惑星を生み出した原因は惑星上に存在す かという問題は 相次ぐ系外惑星の発見によって 宇 る元素の種類や量 化学状態の違いに他ならない 宙における惑星系の多様性の問題へと変化を遂げた 惑星表層や大気の化学状態の違いによる見た目の多 太陽系に限った惑星形成論から脱却した惑星形成の標 彩さだけが 惑星の化学的多様性ではない 地球型惑 準シナリオ構築に向けた精力的な取り組みがおこなわ 星においては 主要固体形成元素 Mg, Fe, Si, O, S れていることについては 読者諸氏はよくご存知であ の惑星全体での存在度やマントルの酸化還元状態 金 ろう しかし 系外惑星の化学的多様性を論じられる 属コアの化学組成もおそらく異なっている[2] 惑星全 ほどの観測はまだおこなわれてない その一方で 惑 体や内部の化学状態の違いは 内部ダイナミクスや表 星形成以前の系外原始惑星系円盤内での惑星材料物 層物質と内部物質との物質交換の程度を変化させ 惑 質 ダスト の赤外分光観測は進んでおり 惑星材料 星表層環境の初期進化やその後の進化 安定性を支配 物質の性質が中心星サイズや進化段階によって系統的 する要因ともなりうる 木星型惑星や氷衛星 彗星な に違うか否かを論じられるようになってきた[4] すな ど外太陽系天体の多様性に関しては 氷や有機物とい わち 観測からの情報を制約に 原始惑星系円盤での 1. 東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 固体物質の形成 変成 成長 移動といった惑星材料

物質科学的研究 観測的研究で探る惑星系の誕生と進化 / 橘 95 物質の空間的 時間的多様性の問題の汎化に取り組める段階になりつつあると言える. 太陽系に再び目を向けると,Stardust 探査機によって採取された Wild-2 彗星の塵に結晶質ケイ酸塩が多く含まれていたことから, 初期太陽系円盤においては固体物質が高温の内側から低温の外側へと輸送されていた可能性が議論されている [5]. このような物質の輸送過程は他の原始惑星系円盤でも一般的に起こるのだろうか. また, 最終的に惑星の化学的多様性にどのような影響を与えるのだろうか. これらの問いは非常に興味深く, 観測的研究においても, 太陽系物質科学においても, 今まさに取り組むべき課題なのではないかと考える. ここまで惑星形成までの物質進化の場として原始惑星系円盤を考えてきたが, 原始惑星系円盤を取り巻く外的環境によって, 円盤の状態が変化することもあるだろう. 近年, 太陽系物質の同位体分析 ( 例えば [6.7.8]) によって, 太陽系が誘発的星形成領域内の大質量星近傍で誕生した可能性が指摘されている [9]. 太陽程度の質量の恒星の多くは大質量星を含む誘発的星形成領域で誕生するため [10], 太陽系誕生の場も宇宙で一般的な星形成環境であったと考えることができる. 太陽系誕生の場が見えてきたかもしれないということだけでも充分面白いと考えるが, 周囲に大質量星が存在するような場での恒星風や恒星からの紫外線, 宇宙線などによる分子雲や原始惑星系円盤の物理状態 化学状態の変化が惑星材料物質の進化および惑星の多様性に与えうる影響を見積もることも重要である. 例えば, 紫外線や宇宙線によって引き起こされる分子雲での化学反応が水素, 酸素などの元素の同位体分別を引き起こしたり [11], 円盤形成後も外部からの紫外線による光蒸発が円盤外側のガス散逸を促したり [12] といったことが起こりうる. 本特集で紹介されているように, 恒星遭遇によって円盤外縁部の構造が変化する可能性もある [13]. これらのプロセスは具体的には惑星物質の元素 同位体組成や円盤内の物質の移動効率, 惑星系のサイズ, 巨大ガス惑星形成のタイミングなどに影響を与えることも考えられるため, 惑星系が誕生 する場の理解は重要であると言える. 筆者は, 今後系統的な観測が進むであろう星 惑星系形成領域や原始惑星系円盤の固体物質の観測とリンクして, 惑星をつくる材料固体物質の原始惑星系円盤での進化に関する標準モデルをつくりたいと常々考えている. 上述した惑星の化学的多様性問題に対しては, 惑星形成の初期条件とも言える惑星材料物質の空間的 時間的多様性形成の部分を一般化したいということになる. このような問題意識の下, 本特集 物質科学的研究 観測的研究で探る惑星系の誕生と進化 では, 惑星系の誕生の場およびその後の惑星材料物質の進化に関して, 観測的手法 物質科学的手法で研究されている方々に論文を執筆していただいた. 以下に各論文を紹介しながら 惑星系の誕生と進化 を観測的手法, 物質科学的手法で研究することの意義, さらに両者を融合することの意義や展望について簡単に述べたい. 恒星誕生の場や原始惑星系円盤の構造, 円盤内の物質の状態を系統的に観測することによって, 惑星系の形成進化プロセスの内, 普遍的な要素や偶然性に支配される要素を切り分けることができるようになるだろう. 丹羽隆裕氏による論文 [14] では, 野辺山電波望遠鏡を用いた観測によって, 大質量星の周囲に前主系列星や原始星が数多く存在する誘発的星形成領域の姿が見事に描き出されている. 太陽系ももしかするとこのような場で誕生したのかもしれないと思いつつ読んでいただくと面白さが増すであろう. 工藤智幸氏の論文 [13] では, すばる望遠鏡および近赤外線コロナグラフカメラ (CIAO) を用いた原始惑星系円盤の撮像観測に関して, 最近の結果がレビューされている. 太陽程度の質量の星だけでなく, 中程度質量星, 大質量星周囲の構造にまで話は及び, 原始惑星系円盤の形態の多様性がよくわかる. 中心星の進化段階と円盤の性質に関する統計的考察が進められる予定とのことで, 今後の展開が楽しみである. 藤原英明氏による原始惑星系円盤内の固体微粒子の赤外分光観測に関する論文 [4] では, すばる望遠鏡赤外線観測装置 COMICSを使った著者自身の観測に加え,Spitzer 宇宙望遠鏡, 赤外線宇

96 日本惑星科学会誌 Vol.16.No.2,2007 宙天文台 ISOを用いた観測例も含めて, 原始惑星系円盤に存在する固体微粒子の性質と中心星の質量や進化段階との間に見えてきた相関が紹介されている. これら3 編の論文からは, 今後観測事例が増えることによって, 恒星や原始惑星系円盤の誕生から円盤内での物質の状態の進化までの情報が統計的に処理され, 普遍的 偶然的進化過程が明瞭に見えてくることが大いに期待できる. ただ, 観測で得られる情報 ( 特に物質に関連した情報 ) は多くの場合, 解釈を与える必要がある. そのための有効な手段は, 固体物質が経験すると予想されるプロセスを理論的, 実験的に解明し, 観測情報と結びつけることであり, 物質科学的研究の出番である. 村田敬介氏らによる論文 [15] では, 星間空間では非晶質として存在するケイ酸塩ダストが原始惑星系円盤においては一部結晶化しているという事実に着目し, 非晶質ケイ酸塩の結晶化実験をおこない, 結晶化の進行度合いが時間, 温度, 前駆体の非晶質ケイ酸塩の状態に対してどのような依存性を持つかについて調べ, 結晶化のメカニズムまで議論が展開されている. 瀧川晶氏らによる論文 [16] では, ケイ酸塩粒子が高温を経験し蒸発する際に, 蒸発の異方性によって粒子形状が変化し, それが赤外スペクトルに大きな影響を与えうるということが示されている. これら二論文では, 原始惑星系円盤内で固体微粒子が経験しうる過程を再現するだけではなく, 温度, 圧力といった物理条件依存性まで調べ, 観測情報と融合させることで, 観測データから物質の情報だけではなく粒子の経験した物理条件の履歴情報までも抽出することが最終目標として掲げられている. このように観測的研究と原始惑星系円盤条件を再現した室内実験の融合により, 原始惑星系円盤での惑星物質進化プロセスを一般化して理解することが期待されるが, 太陽系進化の道筋を観測で明らかにされる惑星系の形成進化過程に位置づけるためには, 太陽系物質から太陽系の歴史を抽出する必要がある. 三木順哉氏らによる論文 [17] では, 隕石の同位体分析から推定 されている初期太陽系の短寿命放射性核種 ( 消滅核種 ) の存在度に着目し. それらの核種が恒星内元素合成起源である可能性を踏まえ, 単一の大質量星の超新星爆発で太陽系に供給された可能性があるという提案がなされている. また, 大質量星からの供給量に基づいて, 太陽系材料物質と大質量星との位置関係を検討し, 太陽系が大質量星を含む誘発的星形成領域で誕生したのではないかと結論づけている. 今後, 誘発的星形成領域の観測データとの照らし合わせを進め, 推定された太陽系誕生環境がどのような規模の誘発的星形成領域に対応するのかなど見えてくることを楽しみにしたい. 短寿命放射性核種は, 恒星内部だけでなく原始惑星系円盤で高エネルギー粒子と円盤物質との相互作用によってもつくられる. 初期太陽系にも存在した 10 Be などはこのプロセスに起源を持つ. 高エネルギー粒子線照射でつくられた核種の存在度や太陽系での存在度の均一性に関しての情報からは, それらの核種を含む物質が形成された場所の推定や, 原始太陽の活動度や原始惑星系円盤内部の状態の推定に役立つ可能性がある. 中嶋大輔氏による論文 [18] では, 最近その存在が確認された短寿命放射性核種で, 恒星内部でも高エネルギー粒子線照射でもつくることができる 36 Clの太陽系存在度推定に関する分析的研究の進展状況が紹介されている. 現状では 36 Clが主としてどちらの起源を持つか明瞭な結論は出ていないが, 重要な問題であり, 今後の研究が待たれる. 本特集の最後に, 惑星の多様性形成の初期条件として重要であるにも関わらず, いまだはっきりとしない微惑星の形成 進化の問題を, 国広卓也氏に物質科学的側面から議論していただいた [19]. 論文では, 短寿命放射性核種の太陽系イベントの年代を測る時計としての役割を紹介しつつ, 微惑星の熱進化に短寿命放射性核種 ( 消滅核種 ) の壊変が熱源となりうるかどうかという問題が論じられている. 微惑星形成 進化に関しても, 今後, 原始惑星系円盤やより進化の進んだベガ型星 ( 年齢約 10 7 年 ) の星周デブリ円盤の観測

物質科学的研究 観測的研究で探る惑星系の誕生と進化 / 橘 97 の進展から, 新たな情報が得られることを期待したい. ここまで述べてきたように, 観測的研究と物質科学的研究が互いの研究成果を消化しあうことが, 惑星系の化学的多様性を生み出す一要因である材料物質の進化の問題を一般化し, また, その中に太陽系の存在を位置づけることにつながっていく. そのための分野間の相互理解や交流を促進し, 両分野の融合を目指して企画したのが本特集である. しかし, 紙面の都合上, 相互理解が必要ないくつかの重要な話題が抜け落ちていることをお詫びしたい. 例として, 観測分野においては, 惑星の存在も示唆されるようなベガ型星星周円盤や系外惑星系の観測, 円盤の物理条件や円盤ガスの性質を明らかにすることが期待されるALMAに関する話題などを組み込むことが残念ながらできなかった. 惑星物質科学分野においては, 固体微粒子の形成 変質や成長 破壊過程およびそれらが赤外分光観測に与える影響に関する理論的考察, 円盤でのガス成分の化学進化, 太陽系誕生以前の記憶を残すプレソーラー粒子, 太陽系物質に見られる安定同位体異常, STARDUST 探査機の採取した彗星塵, 外惑星領域で特に重要な氷や有機物に関する話題なども組み込みたかった. ただし, これらの研究の多くは, これまでも遊星人誌上で特集が組まれたり, 個別に論文が報告されたりしているので, それらを参照いただきたい ( 特集の例として 氷物性と新しい惑星物質科学 (2007), 水素 酸素同位体分別の起源(2005), 比較惑星系形成論 (1999), 初期太陽系の物質科学 (1999), 地球外物質の分析 (1998) ). また, 標準シナリオがつくられようとしている惑星形成系形成理論や太陽系の惑星 衛星 小天体の探査とのリンクも重要であることも, 蛇足であろうが, 書き加えておく. 最後にもう一言. 惑星系の誕生と進化に関する理解を進め, 多彩 な太陽系の謎の解明に近づくためには, 本特集に含むことができなかったテーマを含めて, 観測 物質科学両分野の相互理解が進み, 観測もしくは物質科学どちらかに軸足を置きつつも, 両分野に精通し, 全体をバランスよく眺めることができる惑星科学 者が多く誕生する ( 誕生させる ) ことが重要であろう. そのためにも, 本特集に掲載された論文の大半を分野の将来を担うことを期待したい大学院生の方々に書いていただき, 他の論文も若手研究者の方々に執筆をお願いした. 観測的研究や物質科学的研究の成果を互いに取り込んでいくことで, 以降の研究の更なる発展が期待できる論文が集まったのではないかと思っているが, いかがだろうか. また, 本特集を通じ, 観測分野, 物質科学分野に興味を持たれ, これらの分野に一歩踏み出してみようと思う方や新たな共同研究を始めてみようかと思う方がいらっしゃれば, 望外の喜びである. 参考文献 [1] Sagan, C. and Druyan, A., 1997, Pale Blue Dot: A Vision of the Human Future in Space (Ballantine Books). [2] 例えばLodders, K. and Fegley, B., Jr., 1998, The Planetary Scientist s Companion(New York; Oxford Univ. Press). [3] 特集 氷物性と新しい惑星物質科学, 2007, 遊星人 16. [4] 藤原英明, 2007, 遊星人本号. [5] Brownlee, D. et al., 2007, Science, 314, 1711. [6] Tachibana, S. and Huss, G. R., 2003, ApJ 588, L41. [7] Mostefaoui, S. et al., 2005, ApJ 625, 271. [8] Tachibana, S. et al., 2006, ApJ 639, L87. [9] Hester, J. J. and Desch, S. J., 2005, in Chondrites and the Protoplanetary Disk, 107. [10] Lada, C. L. and Lada, E. A., 2003, ARA & A 41, 57. [11] 特集 水素 酸素同位体分別の起源, 2005, 遊星人 14. [12] 例えばJohnstone, D. et al., 1998, ApJ, 499, 758. [13] 工藤智幸, 2007, 遊星人本号. [14] 丹羽隆裕, 2007, 遊星人本号.

98 日本惑星科学会誌 Vol.16.No.2,2007 [15] 村田敬介ほか, 2007, 遊星人本号. [16] 瀧川晶ほか, 2007, 遊星人本号. [17] 三木順哉ほか, 2007, 遊星人本号. [18] 中嶋大輔, 2007, 遊星人本号. [19] 国広卓也, 2007, 遊星人本号.