高齢者に役立つ漢方 証クリニック吉祥寺 神田 檜山幸孝
高齢者の漢方治療 なぜ漢方医学が必要か 老人の特徴 1. 暦年齢と老化の程度にばらつきがある 2. 自然治癒力の低下 3. 慢性疾患に複数罹患 4. 西洋医学では対応できない症状 病態が明らかに存在する 個々の病態に応じた治療の必要 治療の選択 : 漢方医学 > 西洋医学 注意 1. 老化は老人になる前から始まる 2. 養生しないと老化は早い 3. 老化は避け得ないもの 4. 年齢相応に生活できること ( 中庸 ) を治療の目標とする 1. 西洋医学では不十分な治療体系 2. 漢方医学には備わる治療体系生活 食事などにわたる養生法さらに副作用に留意した方剤の使用 1. 必要最小限の西洋医学的治療 2. 漢方方剤は病態をよく見極めて中核に対応するものを選択
漢方診療の実際 : 方剤選択の過程 75 才女性 現病歴 身長 146cm 体重 39kg 平成 X 年 7 月頃から肩こり 頭痛を訴え 受診 筋弛緩剤 非ステロイド系消炎鎮痛剤にて加療 胃腸障害を時々訴えるため漢方治療に変更した 頭痛は拍動性で こめかみあたりがズキンズキンとなる この頭痛が生じるときは頬が赤みを帯び 四肢とくに下肢の著明な冷えを認める 頬を水で濡らした手ぬぐいで冷やすと頭痛が軽減される 毎日がうっとうしくなる 空腹時に 主治医に処方された方剤を服用すると しばらくして頭痛がおさまる KEY WORD 老人肩こり 頭痛胃腸障害 症状からは気逆 気虚 気鬱が 五臓では脾の気虚が考えられる
漢方診療の実際 : 方剤選択の過程 既往歴 骨粗鬆症 慢性胃炎 胃腸障害 高血圧症にて以下の処方を服用中 1) ディオバン 40mg 2) ワンアルファ 3) ムコスタ錠 100 セレキノン 4) ペリアクチン 1Tab. 2Tab. 3Tab 3Tab. 1Tab. 参考 高血圧症を有する脳動脈硬化症では まず釣藤散次いで七物降下湯があげられる しかし 胃腸障害が無いことが前提である
漢方診療の実際 : 方剤選択の過程 症状 下肢 四肢の冷え口渇 1 疲れやすい頭重 頭冒感 発作性の頭痛 2 季肋部のつかえ感 3 気力がない 1 気虚スコアー 疲れやすい 10 気力がない 10 2 気鬱スコアー 抑鬱傾向 18 頭重 頭冒感 8 3 気逆スコアー 発作性の頭痛 8 下肢 四肢の冷え 4 季肋部のつかえ感 8 合計 34
徴候 脈候 : 沈 弱舌候 : 舌質 ; 淡白 4 舌苔 ; 白苔 4 腹候 : 腹力軟弱 4 気虚 水滞の存在を示唆する 567 気虚 水滞 脾虚の存在を示唆する 6 水滞スコアー 78 気虚スコアー v v 心下痞 5 v v 臍上悸 6 振水音 7 小腹不仁 8 拍動性の頭痛 4 頭重 頭冒感 3 胃部振水音 15 臍上悸 5 眼光 音声に力がない 6 舌が淡白 腫大 4 脈が弱い 8 腹力が軟弱 8 合計 27 小腹不仁 6 気鬱 気虚 水滞 34 点 >30 点 52 点 >30 点 27 点 >13 点 6 気逆スコアー 臍上悸 14 合計 52 合計 26
内寒
内寒とは 陽気の低下により生ずる 腎陽虚が主なもの これに心の機能低下が加味されることが常態であり ( 心陽虚 ) 慢性化すると脾気虚を伴うようになる 血寒 : 寒邪や寒の内生が血に入り内寒の状態を生じ血流低下から血虚さらに津液過剰 浮腫や筋痙攣を招く
西洋医学からみた内寒 症状 まずは冷えが さらには循環障害が顕著になる すなわち 皮膚の栄養障害から皮膚枯燥し 皮下には浮腫が進行する 筋痙攣も頻回にみられ 温熱により寛解する 疾患では甲状腺機能低下症 心不全が相当する 五臓における機能失調 1 腎陽虚 : 冷え 浮腫 皮膚の栄養障害 2 心陽虚 : 循環障害 低血圧 徐脈 めまい
腎虚
腎虚とは 生命力生殖力 腎 成長 発育 老化 腎虚 漢方では 生命エネルギーの根源をなすものを二つに大別して先天の気を腎気といいます これに対して後天の気は肺気 ( 宗気 ) と脾気 ( 穀気 ) があります 腎気が低下した状態を腎虚といいます 腎虚の症状には疲れやすい 頻尿 排尿困難 性欲低下 視力低下 難聴 冷え しびれ 物忘れなどがあります こうした腎虚病態の改善に牛車腎気丸等の補腎剤が使われます
腎虚の種類 腎陽虚 冷えるタイプ 腎陰虚 のぼせる ほてるタイプ
腎陽虚 冷えがある 陰陽のバランスが崩れて陽が虚 ( 相対的に陰が実 ) した場合 陽は火であり陽が不足 ( 虚 ) すると 機能低下から 冷えと水滞 無力感が招来される 症状 顔色白 頻尿 尿量減少 浮腫 めまい 耳鳴 舌淡白苔 脈沈遅又は脈無力などの症状が出現 八味地黄丸 牛車腎気丸 がよく適応する
腎陰虚 冷えがない 陰陽のバランスが崩れて陰が虚 ( 相対的に陽が実 ) した場合 陰は体液や栄養物質 = 陰が不足 ( 虚 ) すると火旺 身体がほてり 熱が出る : 陰虚火旺 症状 頭昏 かすみ目 耳鳴 不眠 健忘 盗汗 遺精 無苔 脈細などの症状が出現 六味丸 がよく適応する
腎は全身の水分代謝をコントロールする中心的臓器 腎陽 ( 気 ) により機能を制御するため 腎陽が不足すると水分代謝機能が衰え 頻尿 尿勢の低下 残尿感などの症状が出る 八味地黄丸の適応 尿量減少 尿の出が悪く 残尿感があって どうもスッキリしない 頻尿 寒くなるとトイレの近くなる お年寄りが増える
出典 : 本間之夫ほか : 日本排尿機能学会誌 :14:266-277, 2003
過活動膀胱 (Overactive Bladder) の概念 症状症候群であり 通常 頻尿および夜間頻尿を伴う尿意切迫感を有する状態を意味し 切迫性尿失禁の有無は問わない 2002 年国際尿禁制学会 頻尿 切迫性尿失禁 尿意切迫感 自覚症状に基づく診断 膀胱内圧測定で膀胱不随意収縮を証明する必要はない 明らかな尿路感染 炎症 心因性障害 新生物を除外 頻尿 : 昼間 8 回以上 夜間 3 回以上排尿する 尿意切迫感 : 突然強い尿意が起こり尿がもれそうになる 切迫性尿失禁 : 突然強い尿意が起こり 我慢できずに尿が漏れる
過活動膀胱 (OAB) の原因 神経因性膀胱排尿筋過活動 神経疾患 ( 脳 脊髄 ) 脳血管障害 多発性硬化症 ハ ーキンソン病 脊髄損傷など 蓄尿時の膀胱不随意収縮 過活動膀胱 (Overactive Bladder) 特発性膀胱排尿筋過活動 加齢 下部尿路閉塞 ( 前立腺肥大症など )
腎虚に対する重要方剤
腎虚に使用される補腎薬の配合生薬一覧
八味地黄丸 ( 腎気丸 ) とは 出典 処方構成 適応病名 症状 金匱要略 地黄 6.0 山茱萸 3.0 山薬 3.0 茯苓 3.0 桂皮 1.0 牡丹皮 2.5 ~3.0 沢瀉 3.0 附子 1.0 再構成したものを示す 総合 : 疲労 倦怠感著しく 尿利減少 ( 残尿感あり ) または頻数 尿量が増大する場合があり ( 低張尿 ) 口渇し 手足に交互に冷感と熱感のあるもの ( 四肢は冷えやすいのに ときにほてることもある= 虚熱 ) 泌尿器系 :( 慢性 ) 腎炎ネフローゼ萎縮腎陰萎 膀胱カタル前立腺肥大浮腫神経系 : 坐骨神経痛腰痛循環器系 : 高血圧動脈硬化低血圧症産後の脚気代謝系 : 糖尿病血糖増加による口渇婦人科系 : 更年期障害皮膚科 : 老人性の湿疹
八味地黄丸構成生薬からみた漢方医学的適応病態 地黄 3.0: 山茱萸 3.0: 山薬 3.0: 茯苓 3.0 : 沢瀉 3.0: 牡丹皮 3.0: 桂皮 1.0 : 附子 1.0: 滋陰補腎温肝収斂下焦補脾瀉虚熱固腎利水 消腫健脾和胃逐水 ( 特に下焦 ) 涼血清虚熱通陽補命門相火回陽救逆補陽散寒
八味地黄丸原典 傷寒論 金匱要略 : 血痺虚労病篇第 6 に 八味腎気丸 の名で 疲飲款漱病篇第 12 消渇小便利淋病篇第 13 婦人雑病篇第 22 に 腎気丸 の名で記載されている 崔氏八味丸, 脚気上って少腹に入り, 不仁するを治す 虚労の腰痛, 少腹拘急し, 小便利せざる者, 八味丸之を主る
太陰病
太陰病とは 体力 病毒 腹満而吐食不下 ( お腹が張って吐く 食べ物がつかえる おりない ) 特徴 腹満感沈脈胃の冷え筋肉のひきつり 治療原則 温散 ( 軽く温める ) 主となる生薬 人参当帰芍薬膠飴
太陰病とは 体力 病毒 闘病反応が弱く 動員可能な気血が不十分 冷えがみられるようになる 補法 ( 温補 )
2 次元座標における方剤の位置 陰陽 虚実の
太陰病治療方剤
太陰病治療方剤の構成 建中湯類 小建中湯 当帰建中湯 桂枝加芍薬湯など 人参湯類 人参湯 呉茱萸湯 大建中湯など
桂枝加芍薬湯の展開
大建中湯構成生薬からみた漢方医学的適応病態 蜀椒 ( 山椒 )2.0 : 乾姜 5.0: 人参 3.0: 膠飴 20.0: 温熱去寒湿止痛去胃冷消痰止嘔補気化痰和脾人参と協調して補脾 単なる甘味剤 矯味剤ではない 総合 : 温中散寒補虚
大建中湯原典 金匱要略腹満寒疝宿食病篇 心胸中大寒痛, 嘔して飲食すること能はず, 腹中寒え, 上衝して皮に起り出で見れ, 頭足上下に有り, 痛んで触れ近くべからざるは, 大建中湯之を主る
人参湯とは 出典 傷寒論 処方構成 人参 3.0 白朮 3.0 甘草 3.0 乾姜 3.0 注 ) 四君子湯 : 人参 4.0 白朮 4.0 茯苓 4.0 甘草 1.0 生姜 1.0 大棗 1.0 適応病名 症状 再構成したものを示す 総合 : 体質虚弱の人 虚弱により体力低下した人 貧血 冷え症で胃部圧重感 胃痛があり 軟便または下痢の傾向があるもの ときに頭重や嘔吐を伴うもの消化器系 : 急性 慢性胃腸カタル 胃アトニー症 胃拡張 悪阻 慢性下痢 胃炎 虚弱児の自家中毒 小児の食欲不振 造血系 : 貧血 ( 症 ) 泌尿器系 : 萎縮腎
人参湯構成生薬からみた漢方医学的適応病態 人参 3.0 白朮 3.0: 白朮 3.0: 人参 3.0 甘草 3.0: 乾姜 3.0: 補気健脾補気健脾燥湿利水補気健脾補陽 散寒 止痛 去胃冷消痰止嘔
人参湯原典 傷寒論 金匱要略 霍乱, 頭痛, 発熱, 身疼痛し, 寒多くして水を飲むを欲せず 大病差えて後, 喜ば唾し, 久しく了了たらざる者, 胃上に寒有り 当に丸薬を以て之を温むべし, 理中丸に宜し ( 傷寒論霍乱病篇 ) 胸痺, 心中痞し, 留気結ぼれて胸に在り, 胸満し, 脇下より心に逆槍す ( 金匱要略胸痺心痛短気病篇 )
人参湯の類方
人参湯の展開
呉茱萸湯 (31) 症例 75 才女性 現病歴 身長 158cm 体重 42kg 平成 X 年 7 月頃から肩こり 頭痛を訴え 某内科にてミオナール ロキソニンによる加療を受けたが 十分な効果が得られず もともとあった胃腸障害が悪化したため漢方治療を希望され受診 頭痛は拍動性で こめかみあたりがズキズキする 疲れた時や 冷たい物を食した時に頭痛が出やすい 既往歴 慢性胃炎 胃腸障害にて以下の処方を服用中 Rp. マーズレン s 3.0g セルベックス 1.5g
呉茱萸湯 (31) 症例 : 方剤選択の過程 症例 75 歳女性 症状 下肢 四肢の冷え疲れやすい1 頭重 頭冒感発作性の頭痛 2 季肋部のつかえ感 3 気力がない 1 気鬱スコアー 抑鬱傾向 18 頭重 頭冒感 8 季肋部のつかえ感 8 3 気逆スコアー 発作性の頭痛 8 2 気虚スコアー 疲れやすい 10 気力がない 10 下肢 四肢の冷え 4
徴候 脈候 : 沈 弱 舌候 : 舌質 ; 淡白 4 舌苔 ; 白苔 5 腹候 : 腹力軟弱 気虚 v v v v 52 点 >30 点 心下痞 6 臍上悸 7 振水音 8 小腹不仁 9 4 気虚 水滞の存在を示唆する 56 気虚 水滞 脾虚の存在を示唆する 7 水逆スコアー 臍上悸 14 合計 26 89 気虚スコアー 眼光 音声に力がない 6 舌が淡白紅 腫大 4 脈が弱い 8 腹力が軟弱 8 小腹不仁 6 合計 52
少陰病
少陰病とは 体力 < 病毒 脈微細但欲寝 ( 脈が弱くて細くて ただただ横になろうとする ) 特徴 脈微弱倦怠感身体の冷え悪寒治療原則 熱補 ( 強力に温める ) 主となる生薬 乾姜附子細辛
少陰病期の処方
少陰病とは 体力 < 病毒 闘病反応は弱々しく 新陳代謝が低下 著しい ADL 障害 補法 ( 熱補 )
少陰病の症例 1 77 才女性 主訴 全身倦怠感悪寒 現病歴 H1X 年 3 月ごろより感冒をきっかけにして頭痛 背部悪寒 倦怠感が出現 感冒が改善した後も倦怠感 背悪寒 ふわふわする感じが続くため 精査加療目的にて4 月 27 日入院となった 現症 身長 148cm 体重 59kg BP120/90 HR60/min 整体温 36.5 < 頭頚部 >リンパ節腫大なし 甲状腺腫大なし < 胸部 > 心音は整 雑音なし呼吸音正常 < 腹部 > 異常なし < 四肢 > 下腿浮腫なし 検査結果 血算 生化学 甲状腺機能異常なし心電図 胸部単純レントゲン 胸部 CT 腹部超音波 大腸内視鏡異常所見無し上部消化管内視鏡 慢性胃炎 自覚症状 倦怠感悪寒悪風 ( 背部 ) 体動揺感 ( ふわふわ感 ) 自汗あり尿自利便通正常口渇
少陰病の症例 1 和漢診療学所見 色白で小太り体型 舌候 脈候 腹候 浮数実大緊滑 沈遅虚小緩渋
少陰病の症例 1 診断 少陰病 < 処方 > 真武湯 (30)7.5g 修治ブシ末 1.5g 分 3 食間 経過 背部の寒気は次第に改善し 倦怠感も徐々に改善した 入院時(4 月末 ) は布団を2 枚首までかぶって寝たきりであったが 隣室者と廊下で雑談できるようになった 2 週間後に退院し 外来通院 現在も良好に経過している
真武湯とは 出典 処方構成 適応病名 症状 傷寒論 茯苓 5.0 白朮 ( 蒼朮 )3.0 芍薬 3.0 生姜 1.5 附子 0.5~1.0 注 ) 附子 : 最低量しか入っていないので加える必要がある 再構成したものを示す 消化器系 : 胃腸疾患胃下垂症腹膜炎慢性下痢泌尿器系 : ネフローゼ慢性腎炎循環器系 : 高血圧症低血圧症心臓弁膜症総合 : 新陳代謝の沈衰しているもの 冷え 倦怠感が強くめまいや動悸があって尿量減少し 下痢しやすいもの
真武湯構成生薬からみた漢方医学的適応病態 茯苓 5.0 白朮 ( 蒼朮 )3.0: 芍薬 3.0 : 生姜 1.5: 附子 0.5~1.0: 健脾利水益脾陰気収斂和営止腹痛温経逐寒補腎陽去寒邪
真武湯原典 傷寒論 金匱要略 霍乱, 頭痛, 発熱, 身疼痛し, 寒多くして水を飲むを欲せず 大病差えて後, 喜ば唾し, 久しく了了たらざる者, 胃上に寒有り 当に丸薬を以て之を温むべし, 理中丸に宜し ( 傷寒論霍乱病篇 ) 胸痺, 心中痞し, 留気結ぼれて胸に在り, 胸満し, 脇下より心に逆槍す ( 金匱要略胸痺心痛短気病篇 )
基礎方剤とその応用 これだけは知っておきたい
基礎方剤とその応用 これだけは知っておきたい
2 次元座標における方剤の位置 陰陽 虚実の 便秘