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Transcription:

News Letter No.28 19 年 7 月 30 日 ( 月 ) 発信 農業が環境を破壊するとき - ユーラシア農耕史と環境 - 里 プロジェクト お問い合わせ総合地球環境学研究所佐藤研究室 ( 大島 ) 603-8037 北区上賀茂本山 457-4 TEL:075-707-2384 FAX:075-707-2508 祇園祭の鉾や山のミニチュア 海をこえたウコン (Curcuma domestica Val.) 印東道子 ( 国立民族学博物館 )

海をこえたウコン (Curcuma domestica Val.) 印東道子 ( 国立民族学博物館 ) オセアニアでは 根栽類が生業植物の重要な構成要素を担ってきたが その他にも文化的に重要な役割を担ってきた植物がいくつかある 樹皮布 ( タパ ) を作るカジノキ (Broussonetia papyrifera) や 釣り糸にするオオハマボウ (Hibiscus tiliaceus) などは その繊維質の樹皮が利用されることで知られる そのほか 染料になるウコン (Curcuma sp.) も見落とせない ウコンはインド原産のショウガ科多年草で インドから東南アジアを中心として熱帯や亜熱帯で広く栽培されている ( 堀田他 2002) 日本では生薬としての利用が最近さかんに宣伝されているが 根茎に含まれるクルクミンは黄色い染料の原料としても広く用いられてきた 赤ん坊の産着を染めたり 茶道具を包む布を染めたりするのはその一例である もちろんカレーが黄色いのもウコン ( ターメリック ) を入れるからである 写真 1 クック諸島マンガイア島のウコン 植物分類の歴史において ウコンはしばしば Curcuma longa と呼ばれてきた しかし C. longa Linnaeus は異なる植物を対象に記載されており C. longa Koenig が正しい しかし これでは紛らわしいため 1918 に Valeton が C. domestica Valeton と呼ぶことを提唱した (Purseglove 1987: 534) 写真 2 土管の中で栽培されたウコン ( ミクロネシア ファイス島 )

ウコンは種子を結ばないにもかかわらず 東ポリネシアにまで分布している (Whistler 1991) 狭いカヌーに入れて人間が持ち運んだ結果であり 文化的価値のある植物だったことを示している 事実 オセアニアの伝統社会において ウコンは非常に貴重な存在であった もっとも広く見られるウコンの用途は染料である 布や樹皮布の色つけにも使われるが 特に儀礼時における身体彩色用として重要であった ココナツオイルとともに手になすりつけたウコンは 生まれたばかりの乳児や産婦 初潮を迎えた少女 儀礼時の踊り手 死者などの身体にすり込まれるように塗布される これらは人生儀礼をはじめとする重要な儀礼にかかわるものばかりである (Intoh 2005) これほど文化的価値の高いウコンであるが オセアニアに多く散在するサンゴ島では 土壌が貧弱でウコンはよく育たない そのため 近隣の火山島と行う交易の中でウコンを入手する もちろん植物としてではなく 染料に加工されたウコンが交易用に用いられる 一本のウコンからはごく少量の染料しかできないため 火山島でもウコンの価値は高い それを入手するためには 多くの交換財が必要とされるが それをもいとわないくらいウコンの価値は高かった (Alkire 1978; 石森 1985) ミクロネシアのヤップ島では ウコンの根茎をすり下ろして水と混ぜ 漉して沈殿させる それをタケやココナツの殻製の型押し容器に入れ 火の上につるして乾燥させてウコン染料 (ren) をつくる 乾燥させる容器の大きさによってその価値が決まる 長さ 60 センチほどのタケ筒入りウコンは 直径 50 センチぐらいの石貨と同じくらいの価値を持つし 特大の球状のココナツ殻で作ったものは (ren bulak) 小型のブタ2 頭と等価値を持っていた (Damm 1938; 染木 1945) 他方 チュークで作られるウコン染料は teik と呼ばれ ヤップ産のウコンよりも高く評価されていた (Alkire 1978) また teik にも様々なグレードがあり 新鮮さやサイズ そしてどんな型で固められたか ( 楕円形 円錐形 球形 ) が その判断基準となった (Krämer 1932: 120-1) このようなウコンの利用はどれくらい古くさかのぼるのだろうか 多くの島で重要な人生儀礼に際して利用されていた事実を考えると オセアニアへの拡散初期にはすでにウコンを利用していたと推察できる ウコンのオセアニアにおける古さは 言語研究からも指摘され オセアニアへ拡散した初期オーストロネシア語集団が話した言葉 オセアニア祖語に含まれていたことが明らかに

されている (Kikusawa and Reid 2007) 3300 年前ごろにオセアニアへ拡散してきたラピタ土器を作る集団も ウコンを携えてきたのだろう (Intoh 2005) 日本で赤ん坊に着せる産着にウコン色のものを使う風習は 日本の産育習俗を集めた 日本産育習俗集成 ( 恩賜財団母子愛育会 1975) に散見される ウコンが防虫殺菌効果をもつためとも考えられるが 私は 赤ん坊の肌にウコンをすり込む習俗がウコンで染めた産着を着せる習俗に転化した名残ではないか とひそかに思っている ちなみに 国立民族学博物館所蔵の資料にはチュークの teik がある ( 標本番号 K878) これは高さ8.3cm 底部径 5.3cmの円錐形で 周囲はハイビスカスの繊維で丁寧に覆われ 頂点で縛られた部分をもって持ち上げることができる 大正 4 年にチューク Tol 島で森小辨が入手し 東大人類学教室に献じたものである 写真 3 チューク産の teik( ウコン染料 ) ( 国立民族学博物館蔵 ) 実物は 7 月 26 日から来年 3 月 4 日まで開催される予定の国立民族学博物館企画展 世界を集める 研究者の選んだみんぱくコレクション のオセアニアコーナーに展示されるので この貴重な一点をお見逃しなく! Alkire, W.H. 1978 Coral Islanders. Illinois: AHM Publishing. Dumm, H. 1938 Zentralkarolinen. Ergebnisse der Südsee-Expedition 1908-1910, II: B-10,2. Hamburg: Friederichsen, de Gruyter & Co. 堀田満他 ( 編 ) 2002 世界有用植物事典( オンデマンド版 ) 東京: 平凡社

Intoh, M. 2005 Cultural significance of turmeric (Curcuma domestica Val.) in the traditional society of 石森秀三 Micronesia. Paper presented at the Oceanic Explorations Conference, Nukualofa, Tonga (August 1-7, 2005). 1985 危機のコスモロジー : ミクロネシアの神々と人間 東京 : 福武書店 Kikusawa, R. and L.A. Reid 2007 Proto who utilised turmeric, and how? In, Siegel, J., J. Lynch and D. Eades (eds.), Language Description, History and Development: Linguistic Indulgence in Memory of Terry Crowley, Creole Language Library, 30, Amsterdam and Philadelphia: John Benjamins. pp. 341-354. Krämer, A. 1932 Truk. Ergebnisse der Südsee-Expeditions 1900-1910, II B, 5. Hamburg: Friederichsen, de Gruyter & Co. 恩賜財団母子愛育会 ( 編 ) 1975 日本産育習俗資料集成 東京 : 第一法規出版 Purseglove, J.W., Et Al. 1987 Spices. Tropical Agriculture Series, Essex, England: Longman Scientific and Technical. 染木煦 1945 ミクロネジアの風土と民具 東京 : 彰考書院 Whistler, W.A. 1991 Polynesian plant introductions. In, Cox, P.A. and S.A. Banack (eds.), Islands, Plants, and Polynesians: an Introduction to Polynesian ethnobotany, pp. 41-66. Oregon: Dioscorides Press.