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ドイツの特許制度とそれを取り巻く環境 特許審査第一部ナノ物理 多田達也 抄録 この記事では 知財に関するドイツの状況 ミュンヘンの知財関連機関 ドイツ国内の特許審査手続きや訴訟制度 EPO とドイツの特許商標庁 裁判所の違い ドイツの権利保護の戦略などについて説明しています 1. はじめに筆者は現在 ドイツのミュンヘンにあるミュンヘン知財ローセンター (MIPLC) に留学しています この度 編集委員の方から ドイツの特許制度やそれを取り巻く環境と ミュンヘンの知財関連機関や欧州特許庁 (EPO) とドイツ特許商標庁 (DPMA) の違いなどに関する記事の執筆依頼をいただきました ドイツの特許制度や環境について 過去の参考になる文献も参照しつつ 最近のトピックもご紹介できればと思います なお この記事の見解に相当する部分は筆者の個人的なものであり いかなる機関等の公式見解を示すものでもありません 特に 実務上の EPOとドイツの特許商標庁や裁判所との違いは ドイツの実務者の一般的な意見や判例などの解釈を極力紹介しているつもりですが 案件によってはあてはまらない状況となる場合も当然あり得ますし 常に以下に述べるような違いを生ずる訳ではありませんので ご注意ください 2. ドイツ ミュンヘン 1) ドイツは 地理的な位置ばかりでなく 国の規模や国力の面でも欧州の中心的な存在です 製造業も盛んであり 特許出願や特許訴訟も他の欧州の国に比べて多く 税関なども模倣品などの取り締まりにアクティブであることで知られています ドイツ国内では 侵害訴訟のうちの約 40% はデュッセルドルフ裁判所で行われ 次いで マンハイム ミュンヘンで多く扱われます 2) なお 連邦最高裁判所は カールスルーエにあります ミュンヘンは 侵害訴訟の件数は比較的少ないのですが 特許庁や特許裁判所があるため 特許事務所も多く存在しています 下記にミュンヘンの主要な知財関連機関を紹介します ミュンヘンの知財関連機関 (1) 欧州特許庁 (EPO) ミュンヘンには皆さまご存知の EPO の本部 審査部 審判部などがあり 複数のビルに分かれています 欧州特許条約 (EPC) では 交配などの植物の 生産の本質的に生物的な方法 には特許を与えない 3) ことになっており これに関してトマトとブロッコリーのケース 4) と呼ばれる事件が拡大審判部に付託されていました これらは基本的には交配による方法なのですが 交配後の選択などに技術的ステップが加えられているという発明です このような方法が 生産の本質的に生物的な方法 に含まれるかどうかが争いになっていました 2010 年の 7 月に口頭 1) 伊藤宏幸 ミュンヘン ドイツ そしてヨーロッパ 特技懇 No.254, 75 ページ (2009) 北村弘樹 遅々として進む欧州 を振り返って 特技懇 No.256, 86 ページ (2010) などにもヨーロッパやドイツの文化や環境についての説明があります 2)Michael Elmer and Stacy Lewis, Where to win: patent-friendly courts revealed, Managing IP Magazine, Sep. 2010, p.34 (2010) 片山英二他 日本企業が取るべき欧州における特許訴訟戦略について 知財管理 Vol.58 No.3, 315 ページ (2008) など参照 3)EPC Art. 53(b) 参照 4) 事件番号は G1/08, G2/07 です 2010 年 12 月 9 日に拡大審判部はこれらの方法は特許性を満たさないとの判断を下しています 30

世界の知的財産制度とそれを取り巻く環境 EPO 前での抗議行動の様子 後ろに見える建物が EPO です From Quer TV show, Germany, date of broadcasting: 22.07.2010. 審理が EPO でありましたが そのときにグリーンピース などの団体が EPO の前で植物に対する特許反対の抗議行 動を行っています キリスト教などの宗教の影響もあると 思うのですが 日本に比べてバイオテクノロジーに対する 特許への反対は強いようです また最近 EPO は 審査官を特許事務所にインターンと して派遣して 最近の規則改正の趣旨などを説明させ そ の問題点を調査するなどして 出願人とのコミュニケー ションを図っているようです (2) ドイツ特許商標庁 (DPMA) DPMA は 連邦司法省 (Bundesministerium der Justiz) の下にあり ドイツ国内の特許 実用新案 商標及び意匠 の審査 登録や 従業者発明の報償の調停なども行ってい ます ドイツ特許商標庁は 1877 年に帝国特許庁としてベルリンに設立され 第二次世界大戦後 (1949 年 10 月 ) ドイツ特許庁としてミュンヘンに移設されました 当初は ドイツ博物館の図書館で業務を開始したそうですが 1950 年代に現在の建物に移りました 1990 年には東ドイツの特許庁と統合され 1998 年に現在の名称に変わりました 2009 年の出願件数は 特許約 6 万件 商標約 7.5 万件 意匠約 4.5 万件 実用新案 2 万件弱です 5) なおドイツの出願人でも 直接 EPO や欧州共同体意匠商標庁 (OHIM) に出願する特許 意匠 商標などがあるので 比較の際には注意が必要です 最近 EPOが分割可能期間を制限するなど規則を変更したため EPO ではなく国内特許庁への出願を選択する企業もあると聞きました (3) 連邦特許裁判所 (BPatG) 連邦特許裁判所は DPMA の処分に対する上訴と特許の無効訴訟を専属管轄しています 下記の特許訴訟に関する章も参照してください 最近のトピックとしては IPCOM とノキアなどの通信機器メーカーとの特許訴訟がヨーロッパで注目されています IPCOM は ボッシュの特許を買い取り その中に含まれていた情報通信の技術標準に関する技術の特許を用いて訴訟を起こしています IPCOM は自社では製造を行っておらず 特許不実施主体 (NPE) とのことです ドイツだけにとどまらず イギリスなどでも訴訟を行っています ノキアなどはこれらの特許を無効とするため この特許裁判所に無効の訴えを起こしています ドイツ特許商標庁内のエレベーターの写真です このエレベーターには扉がなく 常に動き続けています 一方の側は常に上りで 他方が下りです 乗る時にも動き続けているので 急いで飛び乗る必要があります 5)DPMA, Annual report 2009 (2010) 参照, http://www.dpma.de/docs/service/veroeffentlichungen/jahresberichte_en/jb2009_engl.pdf より入手可 31

(4) マックス プランク知的財産 競争法研究所 (MPI) 6) マックス プランク研究所とは 自然科学 ライフサイエンス 社会科学と人文科学を研究する研究所の総称であり 特にドイツの大学が対応できない研究領域に対応することを目的としています マックス プランク知的財産 競争法研究所 はその内の一つの研究所で 世界的な知財の研究機関であり EUの立法などにも研究所として意見を提出しています 7) 研究所の研究内容は この研究所に所属する個々の研究者がテーマを決めるので簡単に説明するのは難しいのですが ホームページには主要な研究テーマが列挙されており また 年報にも主な研究成果が記載されています 8) それらを見ると 純粋に特許に関連する研究は バイオテクノロジーなど特定の技術分野の問題が主のようですが 特許の乱用や競争法との関係などは盛んに研究されているようです また さまざまな発展段階における特許などの重要性が 経済的な観点から研究されています 属地主義と国際的な経済活動やインターネットに関連して 知財訴訟における国際私法の問題や TRIPSプラスとFTAなどの問題も主要なテーマとして挙げられています 財専門の学校で 筆者の留学先です MIPLC やその LLM プログラムは LLM プログラムでクラスメイトであった 押鴨弁理士が雑誌 パテント に記事を連載されています ので そちらをご参照ください 9) MIPLC は 普通のビルの中に入っています マックス プランク知的財産 競争法研究所からすぐ近くにあります 3. ドイツ特許商標庁 (DPMA) における特許審 査手続き (5) ミュンヘン知的財産ローセンター (MIPLC) 上記のマックス プランク知的財産 競争法研究所と 3 つの大学がパートナーとなって 2003 年に立ち上げた知 ドイツの特許法は 概ね EPC と調和されています 出願人が特許を得るためには 出願日から 7 年以内に 所定の手数料を納付し 出願審査請求 をする必要があります 単に 審査請求をした場合にはサーチレポートは作成されず 審査手続きの流れは日本と近いです DPMAを第 1 庁とする出願で 早期に審査請求をすると 優先的に審査を受けられる仕組みがあります 10) 出願から 12ヶ月以内に結果が得られると 出願人はそれを参考にして国際的な出願を考えることができます ただし これは規則によるものではなく あくまで庁のサービスのようで 必ず12ヶ月以内に結果が得られるとは限らないようです また まずサーチレポートだけ請求をして それを基に審査請求をするか検討することもできます サーチレポートだけの請求は 審査請求より安いというメリットがあります なお ドイツ出願の引用文献番号は DPINFO 11) から参照 6) もともとは税法の研究も含めて マックス プランク知的財産 競争 税法研究所 という 一つの研究所でしたが 2011 年 1 月より 税法は分かれて別の研究所となりました 7)MPI のウェブサイト Opinions, http://www.ip.mpg.de/ww/en/pub/research/stellungnahmen_des_instituts.cfm 参照 8) 年報や主要な研究テーマは MPI のウェブサイト http://www.ip.mpg.de/ww/en/pub/research.cfm から参照できます 9) 押鴨涼子 ミュンヘン的ロースクール日記 パテント Vol.63 No.10, 86 ページ (2010)( 第 1 回目の記事 ) 参照 10) 国際活動センター欧州部 2005 年日独弁理士交流会報告 パテント Vol.59 No. 3, 36 ページ, 40-41 ページ (2006) 参照 11)DPINFO のウェブサイト https://dpinfo.dpma.de/index_e.html 32

世界の知的財産制度とそれを取り巻く環境 することができます また DPMAと日本特許庁との特許審査ハイウェイも開始されています 特許公報の発行から 3 月以内には DPMAに対して異議を申し立てることができますが それ以降は 連邦特許裁判所に無効を申し立てる必要があります また ドイツでは ライセンスの意図を示すことによって特許維持料が減額されます 12) 4. ドイツの実用新案制度 案出願することができる制度をいいます ドイツ領域内で有効な特許出願であれば分岐可能ですので ドイツを指定したEP 出願やPCT 出願からでも可能です 実用新案権の存続期間は 最長で10 年であり 10 年を過ぎた特許出願に基づく分岐は出来ません ( パリ優先のように 1 年という期限はありません ) なお 実用新案から特許への変更は不可能です そのため EP 出願を一度実用新案にして ドイツ特許に変更するなどということもできません 実用新案出願は 方式審査のみで 新規性などの実体審査は行われず 方法やプロセスは対象外で 保護期間は 10 年であるなど 日本の制度に近いものです しかし 特許と比べて新規性などの特許要件に違いがあり 分岐出願が可能という特徴があります 特許要件との要件の違い (1) 新規性について 13) 1. 口頭での発表は新規性を阻害しない 2. 外国でなされた公然実施は 新規性を阻害しない 3. 出願人の創作活動に基づく出願から 6 月前までの開示は新規性を阻害しないという点が 特許法と異なります もともとドイツ特許法もこのような新規性の要件でしたが EPCとの調和のために変更されたそうです (2) 先願について 14) 先願の特許または実用新案のすでに保護されている範囲 ( クレームの範囲 ) には 権利が認められませんが 先願の明細書などにのみに記載されている場合には 比較の対象となりません 16) 5. ドイツにおける特許訴訟特許権者は 侵害行為が起こった国で 特許訴訟を起こすことができます 特許が複数の国で権利化され 侵害が疑われる製品が複数の国で販売される場合 特許権者は提訴国を選択できます このような状況はヨーロッパでは起こりやすく 裁判所の特許訴訟の経験や 費用 判決までの期間などで裁判所が選択されますが 前述のように多くの権利者がドイツの裁判所を選択します 侵害が生じたすべての国で訴訟を起こすのは大変なので ドイツでの結果に基づいて 他国での侵害を和解する場合もあります ドイツで特許侵害を訴える場合には 特許侵害裁判所に提起する必要があります 12ヶ所の地方裁判所が 特許侵害裁判所として指定されています ドイツはダブルトラックシステムになっています 17) 特 分岐出願制度 15) 分岐出願制度とは 既に出願された特許出願と同一の考 案について 特許出願の出願日 優先日を主張して実用新 ドイツにおける裁判の仕組み 12)Dr. Klaus Hinkelmann 日本企業がヨーロッパで特許出願をする際に検討すべき事項 パテント Vol.57 No.1, 12 ページ (2004) 参照 13) ドイツ実用新案法 3 条 1 項参照 14) ドイツ実用新案法 15 条 1 項 2 号参照 15) ドイツ実用新案法 5 条 1 項参照 16) 菊池浩明 欧州知的財産訴訟の最新事情 ドイツ特許法改正とクロスボーダー訴訟の現在 判例タイムズ Vol. 1310, 1311 (2010) 参照 この記事の引用文献や脚注 2 の文献なども参照 17) なお オランザピン事件のような例外的な場合もあります 新妻洋 Dr. Marita Wasner オランザピン事件 パテント Vol.62 No.11, 19 ページ (2009) トーステン バウシュ ドイツにおけるオランザピン判決 知財管理 Vol.60 No.1, 43 ページ (2010) など参照 33

許無効の抗弁は 侵害訴訟の中ではできません EPOまたは DPMA に異議申立を行うか その期間が過ぎたのちには 無効手続を連邦特許裁判所で開始する必要があります その判決は 連邦最高裁に上訴することができます 当該特許による無効裁判と侵害裁判が並行している場合で 特許が無効になる可能性が高いと思われる場合には 侵害裁判所は侵害訴訟を止めることもありますが 通常 ダブルトラックは並走して進みます なお 実用新案については DPMAによって審査されていないため 侵害裁判所で無効を主張することができます 6. EPOとドイツの特許商標庁 裁判所の違い 18) ドイツの裁判所は 他の国の裁判所に比較すると 基本的にEPOの審判部の判決に沿った判決をする傾向があるそうです 19) しかし 細かいところでは違いがあります 下記にEPOとドイツの特許商標庁や裁判所 ( この章では ドイツ と総称) の違いを見てみたいと思います 20) (1) 進歩性 新規事項追加 EPC もドイツ特許法も 進歩性や補正の際の新規事項の追加の禁止について同様の文言で記載していますが 両者の実務上の判断には多少違いがあります EPOでは厳格にプロブレムソリューションアプローチに沿って進歩性を判断する必要がほとんどの場合ありますが ドイツではプロブレムソリューションアプローチに沿う必要は必ずしもありません そのため 論理づけには比較的自由度が認められています 一般的に見て EPO の当業者に比べドイツの当業者はレベルが高く 進歩性はEPOよりも厳しく判断されますが 一方で 補正の際に文字通り明細書に書いていない事項を追加する場合には ドイツの方がEPOよりも自明 である範囲が広い傾向があります 判断の中で 当業者がどのような者であるかを定義する場合があるのも ドイツの特徴です 例えば 基本的に同じ文献を用いて EPO の異議とドイツの無効を同じ当事者で争ったケースで EPO では特許が補正なしで維持されたが ドイツの裁判所では取り消されたケースがあります 21) EPO で特許が維持されない限り 同じ特許の有効性がドイツの裁判所で争われることがないので これだけを見て一概にドイツの方が進歩性のハードルが高いというのは誤りかもしれませんが ドイツの進歩性のハードルが高いという印象を持っているドイツの実務家は多いですし 少なくともアプローチに違いがあることは間違いありません 補正の許容範囲も 同様に 多くの実務家が EPO の新規事項の判断が比較的厳しいと感じています 22) (2) ビジネスモデル コンピュータ関連発明ビジネスモデル コンピュータ関連発明の特許適格性 進歩性についての判断でも ドイツと EPO とでは多少の違いがあるようです EPO では 単にコンピュータなどを明示的に請求項が含んでいれば特許適格性を有するものとし 進歩性の判断のところで技術的特徴と非技術的特徴を分離して 非技術的特徴は評価しないという手法をシステマティックに行っています それに比べると ドイツでは 多少の柔軟性が認められているように見受けられます つまり 単にコンピュータ上で動作するものでありさえすれば特許対象になるというものでもないようですし 23) 進歩性の判断も 原則としてクレームは非技術的特徴も含め全体を検討するようです 24) EPO の実務と比較すれば 多少ではありますがドイツの実務のほうが日本の実務に近い印象を受けます ただし 最近の連邦最高裁の判決により 特許適格性な 18) 脚注 12 の 日本企業がヨーロッパで特許出願をする際に検討すべき事項 13-17 ページ参照 19) 例えば 化学式の置換基などに関する開示について 昔はドイツでは先行技術から広く開示を認めて 後の選択発明を新規性なしとするケースが多かったそうですが 今では EPO の実務に近づいているそうです 脚注 12 17 の文献などを参照 20) 社団法人日本国際知的財産保護協会 (AIPPI JAPAN) 進歩性等に関する各国運用等の調査研究報告書 (2007) 参照 http://www.aippi.or.jp/ report/h18-3-2.pdf より入手可 特に 85,86 ページに 欧州ヒアリングの結果が記載されています また Heinz Goddar, Christian W. Appelt ヨーロッパ特許弁理士インタビュー 特技懇 No.245, 119 ページ, 121-123 ページ (2007) なども参照 21) 例えば EP 0711887 B2 に基づく特許の事例 22) 社団法人日本国際知的財産保護協会 (AIPPI JAPAN) コンピュータ ソフトウェア関連およびビジネス分野等における保護の在り方に関する調査研究報告書 (2010)http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/toushin/chousa/zaisanken_kouhyou.htm より入手可 谷口信行 コンピュータ ソフトウエア関連発明の保護適格性に関する付託 G3/08 に対する EPO 拡大審判部の意見について AIPPI Vol.55 No.9, 21 ページ (2010) Michele Baccelli 他 ドイツにおけるコンピュータ実施発明及び欧州特許庁との比較検討 AIPPI Vol.55 No.12, 12 ページ (2010) など参照 23) ドイツにおいては EPO のように単に技術的手段を明示すればよいのではなく なお発明が技術的な課題を解決する必要があるようです 24) つまり EPO で行われているように初めにクレームの技術的特徴と非技術的特徴を分けるということは原則としては行われません ただし ドイツの審査ガイドラインでは 非技術的な内容がクレームの主題の技術的特徴に間接的にも寄与していない場合 その内容は進歩性の判断において検討されないとも記載されており ビジネスモデル発明などでは最終的な特許の許否は EPO と同じとなる場合が多いと思われます 34

世界の知的財産制度とそれを取り巻く環境 どの判断基準はEPOのプラクティスにかなり近づいたという意見も聞きますし さらにEPOのG3/08 に対する拡大審判部による判断が ドイツのこの分野の実務にどのような影響を与えるかは 注視していく必要があると思います (3) 逃れられないワナ (Inescapable trap) EPC でも 当然補正による新規事項の追加は認められておらず 25) 特許が認められたのちには 特許された請求項の範囲を広げることは出来ません 26) このため 審査官が見逃すか または新規事項と思わなかったため 新規事項を含んだまま特許された請求項については 後にその構成が新規事項と認められた場合 その構成の削除が請求項の範囲を広げる場合には 単に削除することは許されません その構成を削除する代わりに言い換えることによって 新規事項を解消し かつ請求項を広げることを避けられればよいのですが そのような補正ができない場合には 削除も許されず補正できないため その特許は取り消されるしかなくなります このような状況は 逃れられないワナと呼ばれます ドイツでも同様の法律がありますが このような逃げられないワナは回避可能です ドイツでは あるクレームの構成が新規事項であると特許後に認められた場合 その構成からは何の権利も発生させないということを認めたうえで その特許を維持する場合があります 27) つまり 無効などにおける新規性や進歩性の議論では その構成を無視して検討し 侵害の議論ではその構成を考慮して侵害品との比較をします 28) 特許権者にとっては 特許の防御にはその構成は使えず 攻撃の際にはその構成は考慮されるので 当然不利な状況ですが 特許が完全に取り消されるよりはましということになります なお このような解決法は EPOの異議手続きでは認められていません 29) 出願人が特許後にこのような状況に気付いた場合には EPOでの異議期間が無事すぎるのを祈るということになります 私の知る限り 日本でも新規事項を含んだまま特許になると 同じような問題が生じ得 ド イツのような解決は許されていないと思います 進歩性や新規事項 コンピュータ関連発明の実務を見ていると EPO の判断は非常に形式的で 客観的であるように感じられます EPO の審査官は様々な国籍や母国語を有しているため その集団の中でばらつきが出ないように 形式的 客観的な基準を用いているようです このため 比較的結果の見通しを立てやすく 法的安定性が高いといえます 一方で非常に硬直的であり 補正の際には文字通り明細書にもともと書いていないと認められにくいということになります ドイツは比較的柔軟な基準で実務を行っており ケースの状況に応じた対応ができます その一方でばらつきが多い 見通しが立てにくいという批判もあるようです 特に 補正のワナに関しては 権利者にとっては非常にありがたい解決方法を採用していますが 第三者にとってはどのような権利なのか詳細に履歴を検討しないとわからない という状況になる恐れがあると思います ドイツの裁判所には EPO の実務に沿った判決をする傾向があるので 今後はこのような差異もどんどん小さくなっていくのかもしれません (4) 遺伝子特許遺伝子特許については EPC とドイツの特許法では 法律から異なっています 発明の遺伝子の構造がヒトの遺伝子の配列の構造と同一である場合,EPCでは その配列の産業上の利用性を明細書に開示しなければなりません 30) が ドイツの特許法では さらに特許クレームの中にその効用を含めなければなりません 31) 一方 EPOでは明細書には記載の必要がありますが クレームに書く必要まではありません もちろんドイツは加盟しているEPCを守る必要がありますが EPCの要件に加えて さらに法律で要件を課していることになります この追加の要件も ドイツ国内での遺伝子特許反対の活動家の圧力のようです 25)EPC Art. 123(2) 参照 26)EPC Art. 123(3) 参照 27) かつては 脚注による解決 (footnote solution) などという方法で 注釈を入れることにより特許を維持する実務もあったようですが 下記の最近の判決によると 必ずしもそのような注釈はいらないようです また このような特許が維持されるには所定の条件を満たす必要があります BGH, Xa ZB 14/09, Winkelmesseinrichtung(2010 年 10 月 ) 参照 28)Axel Pfeiffer, On EPC Article 123 sections 2 and 3 (2003) http://www.beetz.com/fileadmin/editordata/pdfs/123-2-3_en.pdf より入手可 など参照 29)T 335/03 など参照 30)EPC 規則 Rule 29(3) 参照 31) ドイツ特許法 1a 条 4 項参照 35

32) 7. ドイツにおける権利保護戦略上述の通り ドイツでは 特許と実用新案で権利保護することが可能であり 両者には保護要件から違いがあります また 特許も EPO 経由での保護とドイツ特許商標庁 (DPMA) 経由での保護が可能であり 両者には実務上の差異があります こうした差異を把握したうえで どのように権利保護をするかが重要であり 場合によっては重複して権利を保護することも考えられます (1)DPMAとEPOに同じ発明を出願重要な特許は DPMAと EPOの両方に対して出願することが可能です DPMAでは 審査請求期間が 7 年と長いことから とりあえず出願だけして EPOの審査の様子を見ることも可能です 例えば 分割の期間制限など手続き的なところや補正の制限などでEPOで所望の権利範囲を取れなかったとしても DPMAにおいてセカンドチャンスがあります EPO では規則改正後に分割期間が制限されていますが DPMA では 案件が継続している間は分割出願が可能です この場合 ドイツ特許は ドイツ国内に移行した欧州特 33) 許と重ならない部分のみ権利行使可能です 例えば結果として どちらでも特許を取ることができて 全く同じ請求項となった場合には ドイツ特許は権利行使不可能になります 両者が異なる範囲となった場合にも 欧州特許と重複する部分は ドイツ特許は権利行使不能です 実際には 重複して権利を取ると 重複して年金を払う必要があるので DPMAへの出願は あくまで万が一の 保険 として出しておくようです 34) (3) 実用新案のみの保護実用新案のみを出願して 直後に第三者がたまたま同じ出願を特許出願した場合には ちょっとおもしろい状況が生じます ドイツ特許法では その特許出願の出願 ( 優先 ) 日に公開されていない先の実用新案出願は先行技術にはなりません 後の特許出願も同じ権利範囲で特許を取得できますが 実用新案権者の同意を得なければ, 実施できません 35) なお 実用新案権が先に切れても 実用新案の権利期間中にその考案を実施していれば その実用新案の権利者は使用を継続できます 現実には実用新案はすぐに登録されるため たまたまこのような状況が起こる可能性は非常に少ないです EPC やドイツ特許法では ダブルパテントに関する規定がなく 異なる出願人がたまたま同日に同じ出願をしたら どちらも権利を取得できます 日本とは 基本的な考え方が異なるのかもしれません 8. おわりに特許を取得するにしても EPO 経由と DPMA 経由の二つの道があり さらに実用新案という選択肢もあり 権利保護の戦略を複雑にしています さらに EPO 経由でもドイツ国内で有効な権利がとれるのに EPO とドイツ国内の実務に多少なりとも差があることも興味深いところです また 日本とは異なる文化や考え方が 特許制度にも影響しているのではないかと思います この記事が ドイツの特許制度や EPO と DPMA などの実務上の差違などの理解に役立てば幸いです (2) 特許と実用新案による保護前述の分岐などを用いて 実用新案と特許を同じ発明について権利化することも可能です 実用新案のクレームの範囲は 特許 (EPO で特許されたものも DPMAで特許されたものも ) のクレームの範囲に影響を受けません 特許と実用新案で全く同じクレームであったとしても 分岐したもの 同日に出願されたものであれば 相互に影響を受けることはありません profile 多田達也 ( ただたつや ) 平成 12 年 4 月特許庁入庁平成 16 年 4 月審査官昇任調整課を経て 現職平成 21 年 6 月よりミュンヘン知財ローセンターに留学中 32) 脚注 12の 日本企業がヨーロッパで特許出願をする際に検討すべき事項 参照 33)IntPatÜG( ドイツ国際特許条約に関する法律 )Art. II 8 参照 34)Rudolf Busse, Patentgesetz, 1583-1585 ページ (2003) 参照 35) ドイツ実用新案法 14 条参照 36