経済価値ベースのリスク管理. 有限責任監査法人トーマツパートナー田邉政之 Ⅰ. ソルベンシー Ⅱ の概要 2 Risk Japan 2011 1
ソルベンシー Ⅱ の概要 ソルベンシー Ⅱ とは EU 内の保険会社 ( 再保険会社 ) に対する統一された監督規制の枠組み (Framework) を目指したもの 特に次の 4 つの特徴を持つ 1. リスクベースの計算 ( 保険会社の保有するリスクに基づく ) 2. グループのソルベンシー評価にも焦点をあてる 3. 市場整合的 (Market Consistent) な資産 負債の評価 4. 内部モデル使用の承認 2013 年 1 月から適用開始予定 3 Risk Japan 2011 ソルベンシー Ⅱ の概要 ソルベンシー Ⅱ のリスクの概念 変動 ( 資産のリスク ) 経済価値ベース資産 経済価値ベース負債 変動 ( 負債のリスク ) 経済価値ベース純資産 会社全体の変動 = リスク 市場整合的に経済価値ベースで資産と負債を評価し その差額である経済価値ベースの純資産の変動をリスクと考える ( 必ずしも会計上の純資産の変動とは一致しない ) 4 Risk Japan 2011 2
3 SCR のモジュラー構造 (QIS5) ソルベンシーソルベンシーソルベンシーソルベンシー Ⅱ の概要の概要の概要の概要 5 Risk Japan 2011 将来の利益配分による将来の利益配分による将来の利益配分による将来の利益配分によるリスク軽減効果の調整リスク軽減効果の調整リスク軽減効果の調整リスク軽減効果の調整 QIS4 QIS4 QIS4 QIS4 からの変更点からの変更点からの変更点からの変更点市場リスク市場リスク市場リスク市場リスク株式リスク株式リスク株式リスク株式リスク不動産リスク不動産リスク不動産リスク不動産リスクスプレッドスプレッドスプレッドスプレッドリスクリスクリスクリスク為替リスク為替リスク為替リスク為替リスク集中リスク集中リスク集中リスク集中リスク流動性リスク流動性リスク流動性リスク流動性リスク金利リスク金利リスク金利リスク金利リスク債務不履行債務不履行債務不履行債務不履行リスクリスクリスクリスク無形固定資産リ無形固定資産リ無形固定資産リ無形固定資産リスクスクスクスク生命保険リスク生命保険リスク生命保険リスク生命保険リスク生存リスク生存リスク生存リスク生存リスク障害 疾病障害 疾病障害 疾病障害 疾病リスクリスクリスクリスク解約リスク解約リスク解約リスク解約リスク事業費リスク事業費リスク事業費リスク事業費リスク条件変更条件変更条件変更条件変更リスクリスクリスクリスク巨大災害巨大災害巨大災害巨大災害リスクリスクリスクリスク死亡リスク死亡リスク死亡リスク死亡リスク損害保険リスク損害保険リスク損害保険リスク損害保険リスク解約リスク解約リスク解約リスク解約リスク巨大災害巨大災害巨大災害巨大災害リスクリスクリスクリスク保険料 支払保険料 支払保険料 支払保険料 支払備金リスク備金リスク備金リスク備金リスク健康保険リスク健康保険リスク健康保険リスク健康保険リスク巨大災害巨大災害巨大災害巨大災害リスクリスクリスクリスク損保健康保険損保健康保険損保健康保険損保健康保険リスクリスクリスクリスク解約リスク解約リスク解約リスク解約リスク保険料準備金保険料準備金保険料準備金保険料準備金リスクリスクリスクリスク生保健康保険生保健康保険生保健康保険生保健康保険リスクリスクリスクリスク生存リスク生存リスク生存リスク生存リスク障害リスク障害リスク障害リスク障害リスク解約リスク解約リスク解約リスク解約リスク事業費リスク事業費リスク事業費リスク事業費リスク条件変更条件変更条件変更条件変更リスクリスクリスクリスク死亡リスク死亡リスク死亡リスク死亡リスクリスク調整リスク調整リスク調整リスク調整基本基本基本基本 SCR オペレーショナルオペレーショナルオペレーショナルオペレーショナルリスクリスクリスクリスク SCR ソルベンシーソルベンシーソルベンシーソルベンシー Ⅱ の概要の概要の概要の概要 6 Risk Japan 2011 内部モデルの利用 SCR 計算の一部を内部モデルに置きかえることができる PIM:Partial Internal Model( 部分内部モデル ) FIM:Full Internal Model( 全部内部モデル ) < 部分内部モデルの例 > 市場市場市場市場リスクリスクリスクリスク株式株式株式株式リスクリスクリスクリスク不動産不動産不動産不動産リスクリスクリスクリスクスプレッドスプレッドスプレッドスプレッドリスクリスクリスクリスク為替為替為替為替リスクリスクリスクリスク集中集中集中集中リスクリスクリスクリスク流動性流動性流動性流動性リスクリスクリスクリスク金利リスク金利リスク金利リスク金利リスク債務不履行債務不履行債務不履行債務不履行リスクリスクリスクリスク無形固定資産リ無形固定資産リ無形固定資産リ無形固定資産リスクスクスクスク生命保険リスク生命保険リスク生命保険リスク生命保険リスク生存生存生存生存リスクリスクリスクリスク障害 疾病障害 疾病障害 疾病障害 疾病リスクリスクリスクリスク解約リスク解約リスク解約リスク解約リスク事業費事業費事業費事業費リスクリスクリスクリスク条件条件条件条件変更変更変更変更リスクリスクリスクリスク巨大災害巨大災害巨大災害巨大災害リスクリスクリスクリスク死亡死亡死亡死亡リスクリスクリスクリスク損害保険リスク損害保険リスク損害保険リスク損害保険リスク解約解約解約解約リスクリスクリスクリスク巨大災害巨大災害巨大災害巨大災害リスクリスクリスクリスク保険料 支払保険料 支払保険料 支払保険料 支払備金リスク備金リスク備金リスク備金リスク健康保険健康保険健康保険健康保険リスクリスクリスクリスク巨大災害巨大災害巨大災害巨大災害リスクリスクリスクリスク損保健康保険損保健康保険損保健康保険損保健康保険リスクリスクリスクリスク解約解約解約解約リスクリスクリスクリスク保険料準備金保険料準備金保険料準備金保険料準備金リスクリスクリスクリスク生保健康保険生保健康保険生保健康保険生保健康保険リスクリスクリスクリスク生存生存生存生存リスクリスクリスクリスク障害障害障害障害リスクリスクリスクリスク解約リスク解約リスク解約リスク解約リスク事業費事業費事業費事業費リスクリスクリスクリスク条件条件条件条件変更変更変更変更リスクリスクリスクリスク死亡死亡死亡死亡リスクリスクリスクリスクリスク調整リスク調整リスク調整リスク調整基本基本基本基本 SCR オペレーショナルオペレーショナルオペレーショナルオペレーショナルリスクリスクリスクリスク SCR 市場市場市場市場リスクリスクリスクリスク株式株式株式株式リスクリスクリスクリスク不動産不動産不動産不動産リスクリスクリスクリスクスプレッドスプレッドスプレッドスプレッドリスクリスクリスクリスク為替為替為替為替リスクリスクリスクリスク集中集中集中集中リスクリスクリスクリスク流動性流動性流動性流動性リスクリスクリスクリスク金利リスク金利リスク金利リスク金利リスク債務不履行債務不履行債務不履行債務不履行リスクリスクリスクリスク無形固定資産リ無形固定資産リ無形固定資産リ無形固定資産リスクスクスクスク生命保険リスク生命保険リスク生命保険リスク生命保険リスク生存生存生存生存リスクリスクリスクリスク障害 疾病障害 疾病障害 疾病障害 疾病リスクリスクリスクリスク解約リスク解約リスク解約リスク解約リスク事業費事業費事業費事業費リスクリスクリスクリスク条件条件条件条件変更変更変更変更リスクリスクリスクリスク巨大災害巨大災害巨大災害巨大災害リスクリスクリスクリスク死亡死亡死亡死亡リスクリスクリスクリスク損害保険リスク損害保険リスク損害保険リスク損害保険リスク解約解約解約解約リスクリスクリスクリスク巨大災害巨大災害巨大災害巨大災害リスクリスクリスクリスク保険料 支払保険料 支払保険料 支払保険料 支払備金リスク備金リスク備金リスク備金リスク健康保険健康保険健康保険健康保険リスクリスクリスクリスク巨大災害巨大災害巨大災害巨大災害リスクリスクリスクリスク損保健康保険損保健康保険損保健康保険損保健康保険リスクリスクリスクリスク解約解約解約解約リスクリスクリスクリスク保険料準備金保険料準備金保険料準備金保険料準備金リスクリスクリスクリスク生保健康保険生保健康保険生保健康保険生保健康保険リスクリスクリスクリスク生存生存生存生存リスクリスクリスクリスク障害障害障害障害リスクリスクリスクリスク解約リスク解約リスク解約リスク解約リスク事業費事業費事業費事業費リスクリスクリスクリスク条件条件条件条件変更変更変更変更リスクリスクリスクリスク死亡死亡死亡死亡リスクリスクリスクリスクリスク調整リスク調整リスク調整リスク調整基本基本基本基本 SCR オペレーショナルオペレーショナルオペレーショナルオペレーショナルリスクリスクリスクリスク SCR
ソルベンシー Ⅱ の概要 内部モデルの要件 SCR の計算に内部モデルを使用するには 事前に監督当局の認可が必要 認可基準として 枠組指令書 (Article118-124) では 以下の 7 項目が規定されている Use test( ユーステスト ) [Art 118] Statistical quality standards( 統計品質基準 ) [Art 119] Calibration standards( キャリブレーション基準 ) [Art 120] Profit and loss attribution( 損益属性 ) [Art 121] Validation standards( 検証基準 ) [Art 122] Documentation standards( 文書化基準 ) [Art 123] External models and data( 外部モデルとデータ ) [Art 124] 7 Risk Japan 2011 ソルベンシー Ⅱ の概要 サープラス サープラスとは 経済価値 ( 時価 ) ベースの資本のことである 会計上の資本運用資産保険負債 サープラス運用資産保険負債 資産 負債とも時価評価 時価評価または簿価評価 簿価評価 時価評価 時価評価 資本 資本 サープラス ALM サープラスをコントロールするリスク管理のことである すなわち サープラスの変動 ( リスク ) をコントロールしながら サープラスの極大化を図る手法ということができる 8 Risk Japan 2011 4
ソルベンシー Ⅱ vs バーゼル Ⅱ( ( バーゼル Ⅲ) 3 つの柱アプローチ (three pillar approach) を採用している点では同じであるが 特に第 1 の柱の所要資本については 両者には大きな相違がみられる ALM リスク 信用リスク 相関考慮 バーゼル Ⅱ の内部モデル法 そもそもALMリスクは所要自己資本賦課の対象外 認めない ( 一部のパラメータのみ銀行の推計値使用が認められる ) 市場 信用 オペリスク間の相関考慮を認めない ( 単純合算のみ ) ソルベンシー Ⅱ の内部モデル法認める認める認める バーゼル Ⅱ では リスク内での相関考慮は認められている ( 金利 株 為替間の相関を考慮した市場 VaR は認められている ) 9 Risk Japan 2011 ソルベンシー Ⅱ vs バーゼル Ⅱ( ( バーゼル Ⅲ) バーゼル Ⅲ では 銀行監督当局の内部モデルへの不信が読み取れる 変更点証券化商品の取扱変更ストレスVaRの導入 CVAリスク賦課の導入 IRCの導入レバレッジ比率の導入 内容 証券化商品のリスク量については 内部モデル法を認めず 標準法 ( 掛け目方式 ) のみとする 通常の VaR のほかに ストレス期間を観測期間とした VaR についても所要自己資本を賦課 相手方信用リスク変動による CVA 変動についても資本賦課 ( 従来はデフォルトリスクのみ考慮 ) 市場リスクの個別リスクに内部モデル法を採用している場合 格付遷移リスク等にも資本賦課 ( 従来はデフォルトリスクのみ ) リスク量ベースの規制を補完するために導入 証券化商品の取扱変更やストレス VaR の導入は VaR の信頼性を疑問視したもの CVA リスク賦課や IRC は 格付推移リスク等 従来の規制に含まれていなかったリスクを捕捉するため レバレッジ比率導入は リスクベースの資本規制の限界を踏まえたもの 10 Risk Japan 2011 5
ソルベンシー Ⅱ vs バーゼル Ⅱ( ( バーゼル Ⅲ) 銀行監督当局は トレーディング勘定のリスク捕捉について 抜本的な見直しに着手しているようである 債券相当アドオン方式に替わるより先進的な手法は トレーディング勘定の抜本的見直しの一部として検討される (2010/7 中央銀行総裁 銀行監督当局長官グループによるプレスリリースカウンターパーティリスクの捕捉の箇所で言及 日本銀行仮訳 ) 現在 バーゼル委はトレーディング勘定に関する抜本的な見直しを実施している このトレーディング勘定に関する抜本的な見直し作業は 2011 年末の完了が目指されている (2011/1 BaselⅢ: A global regulatory framework for more resilient banks and banking systems 全銀協仮訳 ) 11 Risk Japan 2011 ソルベンシー Ⅱ vs バーゼル Ⅱ( ( バーゼル Ⅲ) 銀行監督当局は リスク間の相関効果について疑問を持っている可能性がある バーゼル銀行監督委員会は 2009 年 5 月に Findings on the interaction of market and credit risk を公表し 市場リスクと信用リスクの単純合算であっても必ずしも保守的ではないことを明らかにし 銀行が 単純な相関に基づく分散効果勘案手法を採用している場合は 監督当局が留意すべきであることを示している 市場リスクと信用リスクを統合することによる分散化の便益は大きいという業界の主張に反して IMCR 部会の結論はむしろ慎重論 ( cautionary tale ) である 監督当局が銀行の合算手法 ( 例えば経済資本の計算 ) を取り扱う場合 分散効果による便益は決して既定の結論ではないという事実に注意を払うべきである とりわけ 単純な相関を前提としたトッとりわけ 単純な相関を前提としたトップ ダウン手法により分散効果を推計している場合 監督当局がこれを注意深く検証することは極めて妥当である 実際 市場からの情報によれば 銀行の間ではトップ ダウン手法が主流となっている模様である 監督当局は リスク全体の中で市場リスク要素と信用リスク要素の相互作用から生じる分散効果について 銀行のリスク管理責任者から説明を受け その正当性を示すことを求める必要がある こうした相互作用は常に線形という訳ではなく かつ ( 線形 ) 相関指標によって容易には捉えられない 市場リスク要素と信用リスク要素の間に特に有害な非線形の相互作用が存在する特定のポジション及びポートフォリオについては 監督当局からリスク管理責任者に対し なぜ複合効果がないのか説明を求めることがあってもよい ( 日本銀行仮訳より 太字 下線は講演者 ) 12 Risk Japan 2011 6
ソルベンシー Ⅱ vs バーゼル Ⅱ( ( バーゼル Ⅲ) < 補足 > 単純合算は なぜ保守的とは限らないのか 直感的理解直感的理解 同じキャッシュフローを持つ元本 100 円 満期 1 年の固定金利の調達と融資を考える ( 融資のデフォルト時回収率は0とする ) 市場リスク量と信用リスク量を別々に算出している場合のリスク量 キャッシュフローはマッチングしているので 信頼区間 100% の市場リスク量は0である 一方 信頼区間 100% の信用リスク量は100 円である これらを単純合算したリスク量は100 円である 実際の損失可能性 金利が下がり 負債価値が大きくなったとき ( 例えば110 円になったとき ) に融資先がデフォルトした場合 損失は100 円を超えることがある ( 例えの場合 110 円の損失 ) したがって 単純合算したリスク量は保守的になっていない 数学的理解数学的理解 ポートフォリオ価値 P(M, C) は 市場リスクファクター Mと信用リスクファクター Cの関数 価値変動はP(M+ M, C+ C)-P(M, C) で表され 本来はこのリスクを考えるべき しかし 市場リスクと信用リスクを別々に算出している場合 それぞれの立場では 価格変動を P(M+ M, C)-P(M, C) P(M, C+ C)-P(M, C) としてリスク量を計測 この両者は必ずしも一致 ( 近似 ) しない この影響は複雑であり そのため 単純合算のリスク量は過大評価にも過小評価にもなり得る 特に過小評価の場合が問題 13 Risk Japan 2011 Ⅱ. 経済価値ベースのリスク管理 14 Risk Japan 2011 7
経済価値ベースのリスク管理 なぜ 経済価値ベースなのか IFRS4 が経済価値ベースだから? ソルベンシー Ⅱ が経済価値ベースだから? 資産 負債を経済価値に基づき評価することや 各リスクを計量化すること自体があたかも目的となっている リスク管理に関わるのが実質的に特定部門のみとなっている等 統合的リスク管理の目的 本質を捉えない形式的な取組みとなっていないかとの観点から検証を行う必要があることに留意する ( 保険検査マニュアル統合的リスク管理態勢の確認検査用チェックリスト Ⅰ. 経営陣による統合的リスク管理態勢の整備 確立状況 前文 ) 経済価値ベースの利点 運用資産評価が経済価値であるので ALM 上整合的になる 逆ザヤなど 期間損益では現れないが実質的にリスクが顕在した部分が明らかになる デリバティブによるヘッジの効果を計測 モニタリングしやすい 15 Risk Japan 2011 経済価値ベースのリスク管理 サープラス ALM リスク 完全にマッチングしている ALM であれば サープラス ALM リスクはない 金利下降 完全マッチング状態 金利上昇 運用資産 保険負債 運用資産 保険負債 運用資産 保険負債 時価評価 時価評価 時価評価 時価評価 時価評価 時価評価 資本 資本 資本 金利が上昇しても下落しても サープラスは一定水準を維持 16 Risk Japan 2011 8
経済価値ベースのリスク管理 サープラス VaR の計測 サープラス ALM リスク すなわち マッチング状況を表すリスク量である ポートフォリオのポジション グリッド GPS 1y -110,111 2y -123,000 3y -232,589 10y 535,235 15y 322,535 20y 123,553 金利変動性を考慮 1 分散共分散法金利変動に多変量正規分布を仮定 2 ヒストリカル法金利変動に特定の分布を仮定しないノンパラメトリック手法 3 モンテカルロ法金利変動に統計モデルや確率過程モデルを仮定 サープラス VaR 完全にマッチングしているポートフォリオであれば サープラス ALM リスクはなく サープラス VaR も 0 となる マッチング状況が悪ければ サープラス VaR は大きなリスク量となる 17 Risk Japan 2011 デュレーションか GPSか デュレーション 時点 T に発生するキャッシュフロー CF の現在価値 PV は 時点 T までのゼロレート r を用いて 次のように書ける PV=CF exp(-r T) この現在価値の金利に対する 1 次感応度は 微分により 以下のように表される PV =-T CF exp(-r T)=-T PV このように 期間は 現在価値の金利に対する ( 負の ) 変化率として見ることができる そして 複数のキャッシュフローの現在価値は キャッシュフローの現在価値の和であるから ポートフォリオの金利感応度は 各キャッシュフローの現在価値で重みづけした平均残存期間として計算できる GPS( グリッドポイントセンシティビティ ) 各グリッドの金利に対する 1 次感応度である 例えば グリッドが 1 年から 10 年まで 1 年ごとに 10 個設定されている場合 GPS も 10 個計測されることになる デュレーションと同様に微分によって計測する方法と 各グリッドを 1bp シフトしたときの現在価値を再計算したうえでその変化で計測する方法がある GPS i =P(r 1,, r i +1bp,, r n )-P(r 1,, r i,, r n ) 18 Risk Japan 2011 9
デュレーションか GPSか デュレーションとGPSの有効性 1 キャッシュフローとそれに対応する期間のゼロレートが次のとおりであったとする 年 T キャッシュフロー CF ゼロレート r ディスカウントファクター DF=exp(-r T) 現在価値 CF DF 1 10,000 0.35% 0.996506 9,965 2 20,000 0.49% 0.990248 19,805 3 30,000 0.53% 0.984226 29,527 4 40,000 0.60% 0.976286 39,051 5 30,000 0.69% 0.966088 28,983 6 25,000 0.81% 0.952562 23,814 7 20,000 0.94% 0.936318 18,726 8 15,000 1.08% 0.917227 13,758 9 10,000 1.23% 0.895207 8,952 10 5,000 1.37% 0.871970 4,360 合計 ( 運用ポートフォリオの現在価値 ) 196,942 19 Risk Japan 2011 デュレーションか GPSか デュレーションと GPS の有効性 2 このとき デュレーションと GPS は次のように計算できる 年 現在価値 現在価値 年 1 9,965 9,965 2 19,805 39,610 3 29,527 88,580 4 39,051 156,206 5 28,983 144,913 6 23,814 142,884 7 18,726 131,085 8 13,758 110,067 9 8,952 80,569 10 4,360 43,599 合計 196,942 947,478 デュレーション 947478 196942=4.81 年 GPS グリッド GPS 1 9,965 2 39,610 3 88,580 4 156,206 5 144,913 6 142,884 7 131,085 8 110,067 9 80,569 10 43,599 各数値を 10000 分の 1 した数値である 1bp (0.01%) 単位の変化 もよく利用される 20 Risk Japan 2011 10
デュレーションか GPSか デュレーションと GPS の有効性 3 金利平行移動 1.50% 10bps 平行移動 1.20% 0.90% 0.60% 0.30% 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 金利非平行移動 1.50% 金利変化幅 (bps) 1.20% 1 2 3 5 6 8 9 10 10 12 0.90% 0.60% 0.30% 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 ポートフォリオの価値変化 : -945 デュレーションによる分析 : -947 196942 4.81 0.1%=-947 GPS による分析 : -947 ΣGPS i r i =-947 ポートフォリオの価値変化 : -674 デュレーションによる分析 :? 196942 4.81?=? GPS による分析 : -676 ΣGPS i r i =-676 21 Risk Japan 2011 リスク計測モデルに求められる役割 リスク計測モデルは 精緻なリスク量が計測できれば それだけで十分か それでは 確度の高い 占い師 に過ぎないのではないか リスク計測モデルは 経営の参考となるさまざまな情報を提供できるツールであるべきではないのか この新規取引によって どの程度リスク量が増えるのか このヘッジ取引によって どの程度リスク量が減らせられるのか このようなポートフォリオの変化によって どの程度リスクが変化するか このような金利変化がおきると どの程度経済価値ベースの損益が変化するか 市場変動が大きくなると リスク量がどの程度増えるのか 運用方針 ALM 方針 リスク管理方針等によるが 上記のような情報は 高頻度かつ短時間で提供できる必要がある 22 Risk Japan 2011 11
リスク計測モデルに求められる役割 どのような取引を行えば リスクを効果的に削減できるか ヘッジ前ポートフォリオ グリッド GPS 1y -110,111 2y -123,000 3y -232,589 10y 535,235 15y 322,535 20y 123,553 ヘッジオペレーション 債券売買 入替 デリバティブ取引 ヘッジ後ポートフォリオ グリッド GPS 1y -27,345 2y -85,239 3y -158,532 10y 453,323 15y 234,582 20y 93,553 リスク量を削減するために 債券を入れ替えたり デリバティブを取り引きしたりすると 通常ヘッジコストがかかる そのため どのような取引がリスク量削減効果が高いかの情報が必要である この取引はヘッジコストが 1000 万円かかるが リスク量削減によって 資本コストが 4000 万円削減できる などの情報を適時かつ的確に把握できることが必要 23 Risk Japan 2011 リスク計測モデルに求められる役割 内部モデルの利用状況 保険会社の事例 ( 金融庁によるフィールドテストの結果から ) 計測対象 銀行の事例 ( 各社のディスクロージャー誌から ) 24 Risk Japan 2011 生命保険 資産サイドのみの金利リスク計測と純資産ベースでの計測が半々程度 損害保険 資産サイドのみを対象としている社が多い 使用状況ほとんどの社 6 割強 リスク量 VaR が大半 ( 一部に T-VaR を併用するグループあり ) 計測手法 分散共分散法と確率論的シミュレーション法が多い 信頼水準 99% や 99.5% が多い 99.5% や 99.95% が多い 三菱 UFJ フィナンシャル みずほフィナンシャル 三井住友フィナンシャル リスク量 VaR VaR VaR 計測手法ヒストリカル法分散共分散法 * ヒストリカル法 信頼水準 99% 99% 99% 保有期間 10 日 1 日 1 日 * 非線形リスクはモンテカルロ法 12
Ⅲ. 解決していくべき課題 25 Risk Japan 2011 超長期保険の経済価値評価 保険契約には 超長期のキャッシュフローをもつものが少なくない ( 問 ) そのような契約の経済価値はどのように求めるのか ( 答 ) 超長期のイールドカーブを引けば 経済価値が求められる ( 問 ) どうやってイールドカーブを引くのか? ( 答 ) 例えば線形補外等で50 年後 100 年後のイールドカーブを推定すればいい ( 問 ) そのイールドカーブによる評価値は本当に経済価値といえるのか? 市場金利から推定できる部分 補外等によって推定する部分 4.00% 3.00% 2.00% 1.00% 0.00% 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100 26 Risk Japan 2011 13
超長期保険の経済価値評価 現在の金融工学は 無裁定理論に基づいて経済価値評価が行われている 1 ヶ月後の先物為替は 80 円 市場が ( あるいは市場参加者が ) 1 ヶ月後の為替レートが 80 円になると予測している その先物レート以外では裁定機会が生じてしまう この株式オプションンの価値が 35 円 オプション行使の確率に基づくペイオフの期待値が 35 円である そのオプション価格以外では裁定機会が生じてしまう 無裁定理論は 同じ経済効果を持つ複製ポートフォリオが作成できることが前提になっている 先物為替レートは 当該 2 国の金利を利用して 先物為替と同じ経済効果の複製ポートフォリオを作成できる 株式オプションは 原資産の株式と無リスク資金の貸借によって 複製ポートフォリオを作成できる 金融商品が複製ポートフォリオの価値以外で取引されていれば 当該金融商品の買い ( 売り ) と複製ポートフォリオの売り ( 買い ) によって 無リスクで利益が得られることになる ( 裁定機会の存在 ) 27 Risk Japan 2011 超長期保険の経済価値評価 確かに イールドカーブを補外すれば 超長期のキャッシュフローについても 現在価値を計算できる しかし ヘッジできる資産がないのであれば無裁定理論は適用できないので その数値は 無裁定理論に基づく現在価値 ではない ヘッジできなければ 当然リスクを負うことになる 本来はリスクプレミアムが必要になるはずである ヘッジできる資産があるのにヘッジせず あえてリスクをとっていること と ヘッジできないので リスクを取らざるをえないこと は 意味が完全に異なる IFRS4 やソルベンシー Ⅱ におけるリスク調整 ( リスクマージン ) が必要であることと同じ意味 この議論は ALM においても問題になろう すなわち 金融商品でヘッジできない ( あるいは難しい ) キャッシュフローの扱いをどうするかである ヘッジが困難なキャッシュフローについては 以下のような運用が考えられる 危険資産 ( 株式 不動産 ) 等で運用する 期間がミスマッチするものの 安全資産 ( 国債 社債 ) で運用する 上記の組み合わせて運用する いずれの方法にしても それなりのリスクをとって運用せざるをえないのであり このような運用方針の場合 金融資産でヘッジできる部分のポートフォリオとそうでないポートフォリオを分離してリスクとリターンを管理していく方法も考えられる 28 Risk Japan 2011 14
契約者行動モデル 保険契約には ( 明示的 暗黙的に関わらず ) オプション性が存在するものがある 明示的なオプション性 : 更新 払済保険 暗黙的なオプション性 : 解約 特に 解約等のオプション性は 保険引受リスクと金利リスクの双方に影響するものである リスク特性 市場リスク (ALM ( リスク ) 長期かつ予定利回り固定の商品については 大きな金利リスク 解約リスク 低廉な解約控除による期限前解約が可能な商品性 保険引受リスク 将来の危険率を保険料率に反映させる必要あり 複合効果 リスク管理 解約によってキャッシュフローが変動するため 必要ヘッジ取引量の算定が困難 長期商品のため ヘッジするための商品が少ない 健康状態がよい契約者ほど乗り換えされやすく 保険引受リスクが濃縮される可能性 発生要因が多岐にわたる 契約者行動が必ずしも合理的ではない 将来の危険率を見積もることは難しい 29 Risk Japan 2011 契約者行動モデル 解約リスク管理の難しさの原因 1 複数の解約発生要因があり 要因によって各リスクへの影響が異なると考えられること 解約要因 契約乗換 資金化 環境変化 解約原因 予定利回りが高くなると保険料が下がるため 予定利回りに敏感な契約者は 保険契約の乗り換えを検討する可能性がある 景気が悪化する等の経済環境下では 返戻金目的で解約したり 保険料未納のまま失効する可能性がある 扶養家族の変化等によって 必要保障額が変更になり 過剰あるいは不必要な保険が解約される可能性がある ALM の観点では 解約要因に関わらずキャッシュフローが変動するため いずれの解約でも影響は避けられないと考えられる 保険引受リスクの観点では 契約乗換は 健康状態のよい契約者が可能な行動であるため 影響があると考えられる 資金化や環境変化は 保険引受リスクに影響があるとは限らない可能性がある 2 解約動向は 必ずしも経済合理的に行われるとは限らないこと さらにいえば 保険商品の種類によってもその特性が異なると考えられる たとえば 貯蓄性の高い保険商品かどうか ( 定期保険 終身保険 養老保険 ) どのようなチャネルで契約されたか ( 外交員 インターネット ) 30 Risk Japan 2011 15
契約者行動モデル 契約者行動のモデル化 一般的には 決定論的モデル ( スタティックモデル ) が利用されていると思われる なお 銀行では 期限前償還リスクがある商品について 確率論的モデル ( ダイナミックモデル ) が利用されている事例もある 保険の解約リスク等にも応用可能性があると考えられる モデル決定論的モデル スタティックモデル確率論的モデル ダイナミックモデル ( ロジット モデル 比例ハザード モデル等 ) スタティックモデルスタティックモデル 特徴 理解が容易 モデル構築が容易 モデルパラメータは経過期間 統計学の知識が求められる モデル構築には統計ソフトが必要 モデルパラメータは経過期間 その他 ダイナミックモデルダイナミックモデル 31 Risk Japan 2011 契約者行動モデル 契約者行動モデル構築後のリスクコントロール 契約者行動をモデル化できれば 契約者行動を踏まえたリスク量の計測が行えるようになるが そのリスクをコントロールすることは非常に難しい ( 一般には オプション取引等によってコントロールしなければならないので オペレーションが複雑になる ) 解約リスク等の方針の再検討 このリスクに対する方針には以下のようなものがある 対応策 内容 考慮点 受容 そのリスクをとるが 何も対策をとらない 顕在化したときの損失に備える十 分な資本の確保 回避 高い解約控除や変動予定利回り等によって 解約リスクのない商品設計をする 他社との競合において不利になる可能性 移転 再保険等を利用して第三者へ転嫁する リスクを引き受ける保険会社の有 無とそのコスト 制御 デリバティブ等によってリスクをコントロールする フロント ミドル バック等の運営態勢の確立 32 Risk Japan 2011 16
責任部署を明確にしたリスク管理 収益管理 リスク責任部署を明確にした運営 銀行では 市場リスク 信用リスクなどは それぞれ別の部署でモニタリング コントロールされる流れになりつつある これは 収益部門におけるリスクと運用成果を正確に把握することによって 効率的な運用を目指すためである ( いわゆる どんぶり勘定 からの脱却 ) そのため 金利は積み上げ方式によって 決定される方向性にある 貸出金利 貸出金利の構成利鞘資本コスト事務コスト信用コスト資金コスト 内容営業店の収益リスク管理上必要な資本コスト事務コスト平均的貸倒コスト市場から調達するのに必要なコスト 33 Risk Japan 2011 責任部署を明確にしたリスク管理 収益管理 リスク責任部署を明確にした運営 < 銀行における組織体制の事例 > 銀行 本店 事務コスト 事務統括部門 与信先 貸出金利 営業部門 信用コスト資金コスト CPM 部署 ALM 部署 営業部門 ( 営業店 営業推進部門等 ) は 金利リスク 信用リスク等の各リスクをヘッジする手段を持たない 各リスクは ヘッジ可能な部門へ移転させる 営業部門は 各リスクの状況に依らず 一定の利鞘を収益として計上する ALM(Asset Liability Management) 部署は 金利リスクをコントロールして資金収支を安定化させる CPM(Credit Portfolio Management) 部署は 適正な信用リスクプライシングを行い 必要に応じてクレジットデリバティブ等を利用して信用リスクをコントロールする 34 Risk Japan 2011 17
責任部署を明確にしたリスク管理 収益管理 リスク責任部署を明確にした運営 < 銀行の組織体制を保険会社に応用した場合 > 保険会社 本社 経費率 事務統括部門 契約者 保険料 営業部門 危険率予定利率 保険引受部門 ALM 部署 信用リスクをテイクする場合は 銀行と同様に CPM 部署を設置させることも考えられる 35 Risk Japan 2011 責任部署を明確にしたリスク管理 収益管理 資本配賦への応用 前ページのような組織運営をとる場合 資本配賦は リスクコントロールの単位で行うことも検討すべきであろう 余裕枠 各所管部署が配賦資本内で収益極大化を図る 保険引受 保険引受部門 資本 配賦可能資本 市場 ALM 政策投資不動産 信用 ALM 部署 オペ 事務統括部門 必要に応じて細分化 ( 各リスクも同様 ) 牽制 リスク管理部門 36 Risk Japan 2011 18
トーマツグループは日本におけるデロイトトウシュトーマツリミテッド ( 英国の法令に基づく保証有限責任会社 ) のメンバーファーム各社 ( 有限責任監査法人トーマツおよび税理士法人トーマツ ならびにそれぞれの関係会社 ) の総称です トーマツグループは日本で最大級のビジネスプロフェッショナルグループのひとつであり 各社がそれぞれの適用法令に従い 監査 税務 コンサルティング ファイナンシャルアドバイザリーサービス等を提供しております また 国内約 40 都市に約 7,000 名の専門家 ( 公認会計士 税理士 コンサルタントなど ) を擁し 多国籍企業や主要な日本企業をクライアントとしています 詳細はトーマツグループ Webサイト (www.tohmatsu.com) をご覧ください Deloitte( デロイト ) は監査 税務 コンサルティングおよびファイナンシャルアドバイザリーサービスをさまざまな業種の上場 非上場クライアントに提供しています 全世界 150ヵ国を超えるメンバーファームのネットワークで ワールドクラスの品質と地域に対する深い専門知識により いかなる場所でもクライアントの発展を支援しています デロイトの約 170,000 人におよぶ人材は standard of excellence となることを目指しています Deloitte( デロイト ) とは デロイトトウシュトーマツリミテッド ( 英国の法令に基づく保証有限責任会社 ) およびそのネットワーク組織を構成するメンバーファームのひとつあるいは複数を指します デロイトトウシュトーマツリミテッドおよび各メンバーファームはそれぞれ法的に独立した別個の組織体です その法的な構成についての詳細は www.tohmatsu.com/deloitte/ をご覧ください Member of Deloitte Touche Tohmatsu Limited 19